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(平6.12.14、裁決事例集No.48 236頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、昭和○○年○月○○日にP地方裁判所により破産宣告を受けたA株式会社(以下「本件破産法人」という。)の破産管財人であるが、本件破産法人の昭和63年10月1日から平成元年9月30日までの清算中の事業年度(以下「本件事業年度」という。)の予納申告に係る法人税(以下「予納法人税」という。)について、青色の確定申告書に所得金額を零円、納付すべき税額を零円と記載して、法定申告期限を経過した平成2年11月30日に提出した。
 これに対し、R税務署長は、S国税局の職員の調査に基づき、平成3年6月26日付で所得金額を1,963,436,419円、納付すべき税額を797,511,400円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び無申告加算税の額を119,626,500円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をし、更正通知書及び賦課決定通知書は、平成3年7月1日に請求人に送達された。
 請求人は、これらの処分を不服として平成3年8月28日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ) 法人税法第102条((清算中の所得に係る予納申告))及び第105条((清算中の所得に係る予納申告による納付))の各規定は、破産宣告を受け、破産手続中の法人(以下「破産法人」という。)には適用がない。
 最高裁判所昭和59年(行ツ)第333号財団債務不存在確認請求事件に対する昭和62年4月21日の判決(以下「昭和62年最高裁判決」という。)によると、予納法人税は、破産債権者において共益的な支出として共同負担すべき破産財団管理上の経費とはいえず、財団債権には当たらないことは明らかである。
 このように財団債権に当たらない租税債権の処理が問題となるが、名古屋高等裁判所平成元年(ラ)第87号異議申立却下に対する即時申立事件に対する平成元年8月30日の判決(以下「平成元年名古屋高裁判決」という。)は、これを破産債権にも当たらないと解しており、破産手続からの弁済はあり得ないことになる。
 これら債権は、破産法第46条((劣後的破産債権))第4号に規定する罰金等に準じて、劣後的破産債権として取り扱うべきである。
(ロ) 本件更正処分の対象となった譲渡益は、土地に係るもの(土地重課分ではない一般部分)であるが、譲渡金額4,264,593,365円(簿価1,329,814,538円)のうち、別除権者に対して、3,958,333,397円を弁済しており、破産財団にはほとんど利益はないばかりか、仮に本件更正処分どおりの譲渡益が破産財団に発生したとしても、これに対する予納法人税及び無申告加算税は、劣後的破産債権にすぎない。
 しかるに、本件更正処分によれば、原処分庁は、請求人が残余財産がないことが確定した日において、清算確定申告をなし、還付を請求できるところの利子に対して所得税法第174条((内国法人に係る所得税の課税標準))の規定により課される所得税(以下「源泉所得税」という。)の額27,131,718円を予納法人税の額から控除し、予納法人税という国税債権を財団債権と同様に取り扱っている。
 以上の取扱いは、昭和62年最高裁判決に明らかに相反する違法なものであり、取り消されるべきである。
(ハ) 仮に、法人税法第2編第3章第1節((解散の場合の清算所得に対する法人税))の各規定が破産法人に適用されるとしても、利子に対する源泉所得税の額を本件更正処分に係る予納法人税の額から控除することは、法的には相殺となり、相殺禁止を規定する破産法第104条((相殺禁止))に抵触し、当該相殺は無効である。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分の全部を取り消すべきであるから、これに伴い本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 本件更正処分について
(イ) 法人税法は、その第4条((納税義務者))第1項において内国法人に対して法人税を納める義務があることを規定し、また、第5条((内国法人の課税所得の範囲))及び第6条((内国普通法人等の清算中の所得の非課税))において、内国法人に対して各事業年度の所得について各事業年度の所得に対する法人税が課され、清算所得について清算所得に対する法人税が課されるが、内国法人である普通法人又は協同組合等(以下「内国普通法人等」という。)の清算中に生じた各事業年度の所得については、これらの法人が継続し、又は合併により消滅した場合を除き、各事業年度の所得に対する法人税を課さないことと規定している。
 そして、清算事務が長引くことによって清算所得に対する課税が著しく遅れることに対処するとともに、他方、解散した法人が再び継続した場合等に、清算中の各事業年度について課税に空白が生じないようにするために、法人税法第102条及び第105条の各規定が設けられ、内国普通法人等の清算中の各事業年度の所得を、その内国普通法人等が解散していないものとした場合の各事業年度の所得とみなして計算した法人税の額を申告して、これを納付するよう義務付けている。
(ロ) ところで、解散の場合の清算所得に対する法人税について規定した法人税法第2編第3章第1節において、同法第92条((解散の場合の清算所得に対する法人税の課税標準))は、解散事由のうちから「(合併による解散を除く。以下この章において同じ。)」と規定し、合併については、同法第2編第3章第2節((合併の場合の清算所得に対する法人税))において規定している。
 したがって、法人税法第2編第3章第1節における他の条文においても解散事由のうちから破産を特に除外する規定が設けられることなく、解散をした場合の清算所得というように一般的に規定されていることからすると、同節の各規定は、解散事由から破産を除外するものではなく、破産法人にも適用されるものと解すべきである。
(ハ) 請求人の引用する昭和62年最高裁判決は、予納法人税の租税債権について、その財団債権性ないし優先債権性こそ否定しているものの、その課税の合理性自体まで否定しているものではない。
 したがって、破産法人に対しても法人税法第102条及び第105条の各規定の適用があり、これらの規定に基づいてした本件更正処分は適法である。
(ニ) 法人税法では、清算中の事業年度において支払を受けるべき利子に対する源泉所得税の額について、清算中の事業年度の予納申告の計算上、算出された法人税の額から控除することとされ(法人税法第102条第1項)、控除しきれなかった源泉所得税の額は、清算確定申告において控除され(法人税法第104条((清算確定申告))第1項)、なお、控除しきれなかった源泉所得税の額は還付されることとされている(法人税法第109条((清算中の所得税額の還付))第1項に規定する還付)。
 そして、この法人税法第2編第3章第1節の各規定は、前記(ロ)に記載のとおり、破産法人にも適用される。
 また、法人が支払を受ける利子に対する源泉所得税の額は、法人税の前払と解されており、本件更正処分において、予納法人税の額から利子に対する源泉所得税の額を控除したことは、破産法第104条第1号から第4号までに掲げる事実のいずれにも該当するものではない。
 したがって、本件更正処分において、予納法人税の額から利子に対する源泉所得税の額を控除したことに誤りはない。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、かつ、請求人には、国税通則法第66条((無申告加算税))第1項ただし書に規定する期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があるとは認められないから、本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、1本件破産法人の清算中の所得に係る法人税の予納申告の義務及びその申告に係る納付の義務があるか否か、2利子に対する源泉所得税の額を本件更正処分に係る法人税の額から控除することができるか否か及び3無申告加算税の賦課の適否にあるので、以下審理する。

(1) 本件更正処分について

イ 本件破産法人の清算中の所得に係る法人税の予納申告の義務及びその申告に係る納付の義務があるか否かについて
(イ) 本件破産法人は、昭和○○年○月○○日にP地方裁判所において破産宣告を受けて解散し、その解散の日の属する事業年度を含む昭和60年10月1日から平成2年9月30日までの連続する5事業年度の確定申告書を平成2年11月30日に提出しているところ、その後の事業年度の申告は無申告であること並びに請求人の本件事業年度の確定申告において、繰越欠損金の控除額及び都民税(利子割)の損金算入額の計算が誤っていることについては、請求人は争わず、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(ロ) 法人税法は、第4条第1項において内国法人の納税義務を規定し、また、第5条において、内国法人に対して、各事業年度の所得について各事業年度の所得に対する法人税を、清算所得について清算所得に対する法人税を課すると規定している。
 しかし、法人税法第6条では、内国普通法人等の清算中に生じた各事業年度の所得については、同法第5条の規定にかかわらず、各事業年度の所得に対する法人税を課さないこととし、また、これらの法人で清算中のものが継続し、又は合併により消滅した場合におけるその清算中に生じた各事業年度の所得については法人税を課することとしている。
 そして、法人税法第102条は、内国普通法人等について、その清算中の各事業年度の所得を解散をしていない内国普通法人等の各事業年度の所得とみなして、同条第1項第1号から第6号までに掲げる事項を記載した申告書を提出しなければならないと規定し、同法第105条は、その清算中の各事業年度の所得金額に対する法人税について納付義務を規定している。この予納申告により納付される法人税は、清算所得がある場合には、清算所得に対する法人税として納付したものとして取り扱われ、清算所得が生じなければ還付され、また、当該内国普通法人等が継続した場合には、清算中の各事業年度の所得に対する法人税とされる。
 法人税法がこのような段階的課税方式をとっている理由は、いったん解散した法人が再び継続するに至った場合等に、継続が確定した時点で遡って各事業年度の所得に対する課税を行うことによって課税の空白が生じることを防止するとともに、解散した法人の清算事務が相当長期間に及ぶことによって清算所得に対する課税が著しく遅延することによる課税の不均衡及びし意的な納税の遅延に対処することにあるものと解される。
(ハ) 法人税法第2編第3章第1節(第92条ないし第110条)の解散の場合の清算所得に対する法人税に関する各規定が破産法人に適用されるか否かについて検討するに、同法第92条が内国普通法人等について、その解散事由のうちから特に「合併による場合を除く」としているのみで、その余の解散事由については特に除外することなく、一般的にその清算所得に対する法人税の課税標準を定めており、合併については、同法第2編第3章第2節(第111条ないし第117条)において別途規定を定めており、破産については、特段の規定を定めていないことから判断すると、同法第2編第3章第1節の各規定は、解散事由から破産を除外するものではなく、破産法人にも適用があると解するのが相当である。
 したがって、本件破産法人には法人税法第102条及び第105条の各規定が適用され、本件破産法人の清算中の所得に係る法人税の予納申告の義務及びその申告に係る納付の義務があると認められることから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ニ) また、請求人は、昭和62年最高裁判決及び平成元年名古屋高裁判決(以下、これらを併せて「昭和62年最高裁判決等」という。)によると、予納法人税の清算所得に対する部分は財団債権に当たらず、罰金等に準じて劣後的破産債権として取り扱うべきであるにもかかわらず、本件更正処分の内容は財団債権であると同様の取扱いをしている旨主張する。
 しかし、昭和62年最高裁判決等は、租税債権のうち一般部分は財団債権に当たらないと判示したものであって、破産法人の清算中の所得に係る法人税の予納申告の義務及びその申告に係る納付の義務までを否定するものではなく、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 利子に対する源泉所得税の額を法人税の額から控除することについて
(イ) 請求人は、利子に対する源泉所得税の額を本件更正処分に係る法人税の額から控除することは、法的には相殺となり、相殺禁止を規定する破産法第104条に抵触し、当該相殺は無効である旨主張する。
(ロ) 本件更正処分においては、本件破産法人の法人税の額について、所得に対する法人税額824,643,120円から利子に対する源泉所得税の額27,131,718円を控除した金額797,511,400円を納付すべき税額として算定している。
(ハ) ところで、本件破産法人には、前記イのとおり、法人税法第102条の規定が適用されることになるが、清算中の事業年度の予納申告の税額の計算については、同条第1項第2号の規定により、法人税額から利子に対する源泉所得税の額を控除して納付すべき税額が算定されることとされている。
(ニ) 他方、相殺とは、当事者双方が互いに同種の債務を有する場合において、一方の当事者の意思表示によって対当額につき双方の債務を消滅させるものであるところ、本件の納付すべき税額については、法人税法に基づく適正な計算に従って租税債権・債務が成立するものであって、上記(ハ)の計算において利子に対する源泉所得税の額を控除することは、上記の租税債権・債務が成立する以前の論理的な計算過程の一環としてされているのにすぎないのであるから、上記(ハ)の法人税額及び利子に対する源泉所得税の額については、いまだ債権・債務が成立していず、上記(ハ)の計算をもって法的な相殺ということはできない。
 なお、仮に、確定申告書に利子に対する源泉所得税の額に相当する還付金額があると記載して申告し、その後に至り本件更正処分があったことをもって、相殺と主張すると解したとしても、納付すべき税額は、本来、事業年度終了時点において、確定申告等一定の要件を満たすことを条件として客観的に成立しているのであるから、誤った確定申告書の提出により還付金相当額の請求権が発生したということはできない。
 したがって、破産法第104条に抵触する旨の請求人の主張は、その前提を欠くものである。
ハ 以上のとおり、本件破産法人の清算中の所得には法人税法第102条及び第105条の各規定が適用され、請求人には当該所得に係る法人税の予納申告の義務及びその申告に係る納付の義務があり、また、利子に対する源泉所得税の額を本件更正処分に係る法人税の額から控除することは法人税法の規定に従ったものであることから、原処分庁が本件破産法人に対して法人税法第102条の規定を適用して行った本件更正処分は、適法である。

(2) 本件賦課決定処分について

 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、また、請求人が本件事業年度の予納申告書を提出しなかったことについて、国税通則法第66条第1項ただし書に規定する期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてした本件賦課決定処分は適法である。

(3) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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