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(平6.11.7、裁決事例集No.48 295頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 本件審査請求に至る経緯は、次のとおりである。

(1) 審査請求人(以下「請求人」という。)は、林業及び不動産業を営む法人であるが、平成3年5月27日に建設省P地方建設局のAダム建設事業に係る収用に伴い、請求人所有のR県S郡T町A587番地ほかに所在する次表の資産(以下「本件譲渡資産」という。)を譲渡し、対価補償金1,081,877,794円を受領した。

表

 その後、請求人は、平成3年7月にU市V町1丁目3番3号に所在する「Bビル」(以下「本件取得資産」という。)を1,460,509,500円で取得して事業の用に供した。

(2) 請求人は、上記対価補償金1,081,877,794円について租税特別措置法(以下「措置法」という。)第64条((収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例))第1項、同法施行令(以下「措置法施行令」という。)第39条((収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例))第4項を適用し、本件取得資産を1個の代替資産として、圧縮限度額1,069,868,950円の範囲内で損金経理により価額を1,069,823,208円減額し、平成3年2月21日から平成4年2月20日までの事業年度(以下「当期」という。)の法人税及び法人臨時特別税の青色の確定申告書に、次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに提出した。

 原処分庁は、これに対し平成4年10月30日付で次表の「更正等(1)」欄に記載のとおり、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。この後、原処分庁は、平成5年2月17日付で次表の「更正等(2)」欄に記載のとおり同処分を取り消し、改めて平成5年2月18日付で次表の「更正等(3)」欄に記載のとおり、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「原処分」という。)をした。

(単位:円)
区分 確定申告 更正等(1) 更正等(2) 更正等(3)
法人税 所得金額 365,624,783 616,517,271 更正等(1)の全部を取り消す 611,380,503
納付すべき税額 120,203,000 214,287,900 212,361,500
過少申告加算税 - 9,408,000 9,215,000
法人臨時特別税 基準法人税額 133,349,000 227,433,000 225,507,000
納付すべき税額 3,333,700 5,685,800 5,637,600
過少申告加算税 - 235,000 230,000

 請求人は、原処分を不服として異議申立てを経ないで平成5年4月13日に本件審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 法人税の更正処分について
 原処分庁は、請求人が14個の代替資産を取得したと主張するが、本件取得資産は本体とその附属設備が一体となって初めて正常に機能する分離不可能な1個の事業用資産であり、1個の代替資産である。
 原処分庁は措置法第64条第1項が複数の代替資産が存在することを当然に予定している旨主張しているが、これは所在地や用途、機能が異なる別棟の建物を取得した場合を想定しているものである。
 また、減価償却に関する規定で定められた資産区分は減価償却費算定上のものであって、収用に伴い代替取得する資産の区分に該当するものとは考えられない。
ロ 法人税の過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、法人税の更正処分は違法であるから、過少申告加算税の賦課決定処分も違法である。
ハ 法人臨時特別税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分について
 前記イのとおり、法人税の更正処分は違法であるから、法人臨時特別税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分も違法である。

(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由によりいずれも適法である。
イ 法人税の更正処分について
(イ) 請求人は、本件取得資産について建設仮勘定から建物勘定へ振替処理を行う際その細目として、建物及び建物附属設備等合計15の資産に区分しており、また、本件取得資産の工事に係る請負契約書等においても、減価償却資産の耐用年数等に関する省令に基づき、資産区分をしている。
 さらに、請求人は、上記15個に区分された資産のうち消化器一式を除く14個の建物及び建物附属設備の取得価額1,460,509,500円につき、個々の資産ごとに圧縮記帳を行い、1,069,823,208円を損金経理するとともに、その後の減価償却費の算定に当たっても、個々に区分された取得価額から圧縮記帳による減額分を控除した金額を基礎として計算している。
 以上のことから、請求人は本件取得資産を14個の減価償却資産と自認していると認められる。
(ロ) ところで、措置法第64条第1項は、収用等に伴い複数の代替資産を取得することを当然に予定しているものであり、上記(イ)のとおり請求人が14個の減価償却資産と自認していることによればそれぞれ個々の代替資産ごとに圧縮限度額を計算すべきであり、それが措置法第64条の趣旨に合致する。
(ハ) 本件取得資産は、措置法施行令第39条に規定する減価償却資産であるところ、減価償却資産については、措置法第2条((用語の定義))第2項第9号に「法人税法第2条第24号に規定する減価償却資産をいう。」と定められ、この法人税法上の減価償却資産の範囲については、法人税法施行令第13条((減価償却資産の範囲))第1号に「建物及びその附属設備(暖冷房設備、照明設備、通風設備、昇降機その他建物に附属する設備をいう。)」と定められている。
 さらに、減価償却資産の耐用年数等に関する省令第1条((一般の減価償却資産の耐用年数))第1号では法人税法施行令第13条第1号に掲げる資産は別表第1に定める区分に応じて減価償却額の計算を行うこととしており、同表においては種類、構造、用途、細目ごとに明確に区分されている。
 以上のことから、本件取得資産の区分はこれらの法令に従い、建物及び建物附属設備について、それぞれ個々の資産とみるべきである。
(ニ) 以上により、対価補償金が代替資産の耐用年数の長いものから順次充てられたものとして、本件取得資産の圧縮限度額を計算すると、圧縮限度額は、別表1の「原処分庁主張額」の「圧縮限度額」欄のとおり、建物(躯体工事)から建物附属設備(空調設備)部分までの代替資産で対価補償金1,081,877,794円に達することになり、請求人が損金経理した固定資産圧縮損1,069,823,208円のうち、同表の「原処分庁主張額」の「圧縮限度超過額」欄に記載の273,160,057円については、圧縮限度超過額として、当期の損金の額に算入できない。
ロ 法人税の過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、法人税の更正処分は適法であるから、過少申告加算税の賦課決定処分も適法である。
ハ 法人臨時特別税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分について
 前記イのとおり、法人税の更正処分は適法であるから、これに伴う法人臨時特別税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分もいずれも適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、請求人が取得したBビル(別表1の「取得資産名欄」に記載されている建物本体及び13個の建物附属設備から成る。)が1個の代替資産であるか14個の代替資産であるかにあるので、以下審理する。

(1) 法人税の更正処分について

イ 減価償却費の計算に当たっては、法定耐用年数の区分に応じて、建物本体と個々の附属設備をそれぞれ区分しなければならないことは原処分庁主張のとおりであり、また、請求人が本件の損金経理に当たり、代替資産として「減価償却資産」を挙げている措置法施行令第39条第4項を適用したことも事実である。
 しかしながら、このことから直ちに、代替資産である減価償却資産の区分を耐用年数の区分と同様に行わなければならないと解するのは相当でない。
 代替資産の範囲に関する措置法施行令第39条第4項は、その文言から同条第2項の特例規定と認められるところ、原則規定である同条第2項は、代替資産として「建物(その附属設備を含む。)又は建物に附属する大蔵省令で定める構築物」と規定しているから、代替資産の区分としては附属設備(減価償却資産の耐用年数等に関する省令別表第1の「建物附属設備」に掲げるもの)はすべて「建物」に含まれる資産と解していることが明らかであり、第4項の減価償却資産たる建物及びその附属設備についても同様の解釈をすべきである。
ロ また、請求人が経理処理の各段階で本件取得資産を14ないし15個の資産に区分していることは原処分庁主張のとおりであるが、これは、減価償却費の額の計算のため区分したにすぎず、代替資産として区分することを自認したなどということはできない。
ハ さらに、措置法第64条第1項には「既に代替資産の取得に充てられた額があるときは」との文言があり、複数の代替資産が存在することがありうることは原処分庁の主張のとおりであるが、この規定上の文言を根拠に、代替資産が複数であるとするのは論理の逆転というほかなく、この主張が採用できないことは明らかである。
ニ 以上のように、代替資産が14個であるとする原処分庁の主張はいずれも採用できず、一方、賃貸用ビル等の建物は、建物本体と電気、給排水、昇降機等の各設備が一体となってその効用を有する不可分一体のものとみるべきであり、これを1個の代替資産とみるのが相当である。
ホ そこで、本件取得資産について、1個の代替資産として計算した圧縮限度額は、別表2の「審判所認定額」の「圧縮限度額」欄のとおり1,069,868,950円となり、請求人が当期の所得金額の計算上、損金経理により、1,069,823,208円を減額したことは相当である。
 以上により計算した当期の所得金額は、本件更正処分に係る所得金額611,380,503円から圧縮限度超過額273,160,057円を減算し、圧縮限度超過額273,160,057円に係る減価償却費12,353,513円を加算した350,573,959円となる。
 その結果、当期の所得金額は、請求人が申告した所得金額365,624,783円を下回ることになるので、本件更正処分の全部を取り消す。

(2) 法人税の過少申告加算税の賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、法人税の更正処分は違法であるから、過少申告加算税の賦課決定処分も、その全部を取り消す。

(3) 法人臨時特別税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分について

 前記(1)のとおり、法人税の更正処分は違法であるから、法人臨時特別税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分も、その全部を取り消す。

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