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(平6.10.4、裁決事例集No.48 357頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 共同審査請求人A(以下「請求人」という。)、B(以下「B」という。)及びC(以下「C」といい、これら3名を併せて以下「請求人ら」という。)は、平成元年6月3日に死亡したD(以下「被相続人」という。)の共同相続人であるが、この相続開始(以下「本件相続」という。)に係る相続税の申告書に、次表のとおり記載して法定申告期限までに申告した。

(単位:円)
請求人ら
区分
A B C
取得財産の価額 1,448,476,074 1,448,476,066 1,448,476,066
課税価格 1,341,081,000 1,326,941,000 1,341,081,000
納付すべき税額 847,725,800 844,325,600 847,725,800

 その後、請求人らは、次表のとおり相続税の修正申告書を平成3年6月12日に提出したところ、原処分庁は、同月24日付で次表の「過少申告加算税の額」欄のとおり過少申告加算税の賦課決定処分をした。

(単位:円)
請求人ら
区分
A B C
取得財産の価額 1,457,643,574 1,457,643,564 1,457,643,564
課税価格 1,350,248,000 1,336,108,000 1,350,248,000
納付すべき税額 854,144,800 850,738,400 854,144,800
過少申告加算税の額 641,000 641,000 641,000

 原処分庁は、さらに、平成3年6月29日付で、次表のとおり更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をした。

(単位:円)
請求人ら
区分
A B C
取得財産の価額 1,496,195,350 1,496,195,349 1,496,195,349
課税価格 1,388,800,000 1,374,660,000 1,388,800,000
納付すべき税額 881,139,500 877,708,200 881,139,500
過少申告加算税の額 2,699,000 2,696,000 2,699,000

 請求人らは、本件更正処分等を不服として平成3年8月22日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月19日付でいずれも棄却の異議決定をした。 
 請求人らは、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成3年12月19日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、平成4年5月18日に請求人を共同審査請求人の総代に選任し、同月22日に当審判所に対してその旨を届け出た。

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2 主張

(1) 請求人らの主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
 原処分庁は、別表2の1のイに掲げる有価証券の合計14,946,686円及び同表のハに掲げる債券の合計44,567,415円(有価証券と債券を併せて、以下「本件有価証券」という。)、同表のロに掲げる定額郵便貯金の合計29,833,644円(以下「本件郵便貯金」という。)並びに同表のニに掲げる金員26,295,245円及びホに掲げる金員12,356円(以下「本件その他の財産」といい、本件有価証券、本件郵便貯金及び本件その他の財産を併せて「本件財産」という。)の合計115,655,346円を本件相続開始に係る相続財産(以下「本件相続財産」という。)に加算しているが、本件財産は、次のとおり、E銀行○○支店(以下「E銀行」という。)の被相続人名義の普通預金口座(以下「E銀行の預金口座」という。)から別表1のNo.1ないし3(1)及びNo.4ないし9のとおり、現金を引き出した時点並びにF證券××支店(以下「F證券」という。)の被相続人名義の口座で別表1のNo.3(2)のとおり、各株式の売却日において被相続人から請求人に対して贈与(以下「本件贈与」という。)された現金を、請求人が自己の判断と決定に基づいて資金運用した結果による請求人自身の固有財産であるから、本件相続財産を構成しない。
 したがって、原処分は、請求人が被相続人から生前贈与された現金を資金運用して他の財産を取得したという基本的事実の認識を誤っているから違法である。
(イ) 本件収支明細簿について
 請求人及び同人の妻G(以下「G」という。)、長女H(以下「H」という。)、二女I(以下「I」という。)及び長男J(以下「J」といい、これら4名を併せて「請求人の家族」という。)名義の証券及び預金等の収支に関して記録した収支明細簿(以下「本件収支明細簿」という。)は、請求人が同人及び請求人の家族の固有財産の管理及び運用状況を記録したものである。
 原処分庁は、本件収支明細簿について、被相続人の所有する有価証券及び預金等を管理するためにその収支を記録したものであり、当該資産の管理及び運用は、請求人が被相続人の指示に基づいて行ったものである旨認定しているが、当該認定は、本件収支明細簿が被相続人の財産事務管理用の記録とは区分されていた事実を見過ごしており、また、現実の管理状況及び運用実態に照らして事実に合致しないというべきである。
(ロ) 本件相続開始前の贈与について
A E銀行の預金口座からの贈与
 E銀行の預金口座からの贈与は、別表1のNo.1ないし3(1)及びNo.4ないし9のとおり、現金を引き出した時点において被相続人から請求人に対し、現金の贈与がなされたものである。
 したがって、本件財産は、次のとおり贈与された現金を請求人が自己の判断と決定に基づき運用したものであるから、本件相続財産を構成しない。
(A) 贈与に至った経緯等は、次のとおりである。
a 被相続人は、昭和51年1月に突然脳梗塞で倒れ、以降、K病院への入院、L病院でのリハビリテーション及び自宅療養の治療を繰り返していたことから、これを契機に自己の財産の管理及び承継を具体的に始めたものである。
b 贈与の形態は、贈与される数日前に被相続人から「金○○円あげるから下ろしておいで」との指示により、請求人が通帳と印鑑を預かり、E銀行の預金口座から現金を引き出して贈与されたものである。
(B) 請求人は、贈与された現金を自己の判断と決定に基づいて安全で有利な商品へ転換を図り、管理運用したものである。
 したがって、請求人は、E銀行の預金口座から現金で引き出した後の残高については被相続人に報告しているが、当該現金で購入した商品の内容については報告をしておらず、また、その運用状況についても被相続人から問われたことがない。
(C) E銀行の預金口座から引き出した資金の使途が全く請求人の自由であったことは、その受贈した現金によって購入した割引東京銀行債券(以下「ワリトー」という。)を、直ちに、同人の取引証券会社であるM證券△△支店(以下「M證券」という。)、N證券□□支店(以下「N證券」という。)及びP證券◎◎支店(以下「P證券」という。)の保護預かり口座に預けていることからも明らかである。
(D) E銀行の預金口座の取引の割合は、被相続人の財産全体に占める割合等を考慮すると、その比率はあまりに小さいから、別表1のNo.1ないし3(1)及びNo.4ないし9の現金の引き出しをもって請求人が被相続人の財産事務管理者だと考えるのは誤りである。
(E) 請求人が被相続人の財産事務管理者として行動したといえるのは、被相続人所有の株式をM證券及びF證券に被相続人名義の保護預かり口座を開設して預け、その売買及び運用を被相続人名義のR銀行○×支店(以下「R銀行」という。)の普通預金口座及びM證券の被相続人名義の口座において行った点であり、これらの預かり証及び通帳を請求人が管理していたことはある。
(F) E銀行の預金口座に係る通帳、届け出印鑑及び実印の保管は、被相続人がS病院に入院期間中は請求人が行い、それ以外は被相続人自身が自宅で同人のベッドサイドに常時保管していたものである。
(G) E銀行の預金口座は、被相続人が代表取締役会長をしていたT株式会社(以下「T社」という。)からの被相続人に係る役員報酬や利益配当の指定振込口座として利用していたものであり、資金運用に使用した口座は他行にあったものである。
 したがって、E銀行の預金口座を基礎として被相続人の資産運用が行われていたとみるのは誤りである。
(H) 請求人は、別表1のNo.6、No.8及びNo.9に記載のワリトーを購入した際に被相続人に釣銭に見合う現金を手渡しているが、これは、たまたま被相続人の指示で他の預金を引き出した時に、一緒に手渡した封筒の中に小口の釣銭が入っていたものである。
(I) 別表1のNo.6のワリコー493号の売買代金の一部1,999,081円をCが海外から帰国する際にトラベラーズチェックの購入資金に充てたのは、請求人の自発的意思によりCに対して贈与したものである。
(J) 別表1のNo.7のワリトー127回の売買代金の一部から被相続人の地方税の支払に充てた金員は、たまたま被相続人の地方税の振替口座に預金がなく、また、同人の手持ち現金もなかったので、請求人が立替払をしたものである。
(K) 本件は、ワリトーや国債等の購入以前における請求人の資力が問題なのではなく、それらの財産の購入財源について生前贈与されたかどうかという法律行為(民法第549条の贈与)の存否が本質的な問題である。
(L) 贈与された現金のその後の運用は、請求人が贈与された金員に自己資金を加えるなどして、次のとおり資金運用した結果によるものであり、本件財産は請求人の財産であることは明らかである。
a 別表1のNo.1ないし3(1)について
 別表1のNo.1ないし3(1)の金員でワリトー93回、ワリトー98回及びワリトー103回を購入し、その後、これらのワリトーは昭和55年6月4日に換金した。
 換金した22,475,784円は、利付国債第28回の購入に11,806,500円、定額郵便貯金に6,450,000円及びU銀行×○支店(以下「U銀行」という。)の請求人名義の普通預金口座に4,219,284円を入金した。
 そして、U銀行の請求人名義の普通預金口座に預け入れた4,219,284円は、F證券の被相続人名義の口座で別表1のNo.3(2)のとおり売却した株式売却代金とともに、V社及びW社の株式、定額郵便貯金及び利付国債等の購入資金として運用した。
b 別表1のNo.4ないし9について
(a) No.4の金員でワリトー110回を購入し、これに昭和55年7月18日に自己資金991,164円を加え、割引国債第18回を購入し、さらに、これを割引興業債券(以下「ワリコー」という。)565号に乗り換えている。
(b) No.5の金員でワリトー115回を購入し、その後換金した3,022,703円をR銀行の請求人名義の普通預金口座に預け入れ、残金をワリコー474号に乗り換えている。
 ワリコー474号は中途換金し、X社の株式2,000株、Y社の株式3,000株及びZ社の株式2,000株を購入、残金はR銀行の請求人名義の普通預金口座に入金した。
(c) No.6の金員でワリトー122回を購入し、その後換金した4,598,302円をR銀行の請求人名義の普通預金口座に預け入れ、残金はワリコー481号に乗り換え、さらに、No.8の金員で購入したワリトー134回と合算してワリコー493号を購入した。
(d) No.7の金員でワリトー127回を購入し、その後乗り換えたり換金化したものである。
(e) No.8の金員でワリトー134回を購入し、その後ワリコー481号と合算してワリコー493号に乗り換えたり換金化したものである。
(f) No.9の金員でワリトー147回を購入し、乗り換えたり換金化したものである。
B F證券の株式売却代金からの贈与について
 F證券の被相続人名義の口座で売却した別表1のNo.3(2)の株式売却代金は、当該株式の売却時に被相続人から請求人に対して現金で贈与されたものである。
 なお、当該株式売却代金は、いずれもU銀行の請求人名義の普通預金口座に入金され、当該預金口座から請求人が自己の判断と決定に基づいて資金運用したものであり、その運用状況は別表1のNo.3(3)ないし(8)のとおりである。
ロ 本件賦課決定処分について
 前記イのとおり、本件更正処分は違法であるから、本件賦課決定処分についてもその全部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 本件更正処分について
(イ) 異議審理庁の異議審理担当職員(以下「異議審理担当職員」という。)が本件収支明細簿を調査したところ、次の事実が認められる。
A 本件収支明細簿には、次のとおり記載されている。
(A) 昭和55年6月17日、預金払出し、請求人、U(銀行)、500,000円父の指示により引き出す。現金は父に手渡す。
(B) 昭和55年7月5日、証券類買い、ワリトー122、3,994,848円、P(證券)(◎◎)預け(口座開設)原資E銀、現金3,994,848円、釣銭5,152円は父に手渡す。
(C) 昭和55年7月5日、預金払出し、請求人、U(銀行)、129,404円、Q社株式売却代金、父の指示で払出し父に手渡す。同じく、800,000円、父の指示でO(銀行)(□○)へ振り込む。
(D) 昭和55年7月5日ワリトー122買い、3,994,848円、4,004,160円、E銀小切手4,000,000円払い出し、P(銀行)(◎◎)の保護預、釣銭992円はU(銀行)(×○)に入金昭和55年7月26日、先週の父の要求により釣銭992円を払い出し父に持参する。
(E) ワリチョー326、55年10月父さんの報告分に抜けていたもの(N(證券)55.10.15残高照合により気が付いたもの)。
(F) ワリトー第127売、昭和56年5月14日7,716,436円、受渡5月19日、R(銀行)(○×)D口座に小切手入金後、R(銀行)(□×)D口座に振込(地方税支払引当分)。
(G) ワリコー493、昭和58年3月26日1,999,982円、C、帰国時、父の指示で、C、円建トラベラーズチェックR(銀行)(○×)購入引当のため売却。
B 本件収支明細簿には、被相続人が請求人及び請求人の家族に対し、次表のとおり、贈与した旨記載されている。

(単位:円)
順号 年月日 預金(R銀行)
請求人 G H I J
1 55.7.5 600,000 600,000 600,000 600,000 600,000
2 56.7.7 600,000 600,000 600,000 600,000 600,000
3 57.8.9 600,000 600,000 600,000 600,000 600,000
4 58.7.12 600,000 600,000 600,000 600,000 600,000
5 59.7.16 650,000 650,000 650,000 650,000 650,000
6 60.7.8 750,000 750,000 750,000 750,000 750,000
7 61.7.7 1,100,000 1,100,000 1,100,000 1,100,000 1,100,000
8 62.7.8 1,100,000 1,100,000 1,100,000 1,100,000 1,100,000

(ロ) 請求人及び請求人の家族は、上記(イ)のBの表の5ないし8について△○税務署長に対し贈与税の申告をしている。
(ハ) 前記(イ)及び(ロ)の事実を総合勘案すれば、本件収支明細簿は、請求人が、自己の固有財産の管理運用状況を記録したものでなく、被相続人の所有する有価証券及び預金の管理をするために、その収支を記録したものであり、また、その資産の管理運用は、被相続人の指示に基づいて行われたことが明白である。
 このことは、請求人が、収支明細簿に「贈与」と明記されている金額について、被相続人から贈与を受けたと認識して贈与税の申告をしているが、請求人が主張する本件贈与の時期には、そのような認識がなかったために申告がないことからも裏付けられる。
 以上のとおり、本件財産は、E銀行の預金口座から下ろした現金及びF證券の被相続人名義の口座で取引した株式から化体した財産であり、被相続人に帰属する財産である。
ロ 課税価格及び納付すべき税額について
 原処分庁の調査によれば、本件相続財産の種類別価額及び請求人らの取得価額、相続税の課税価格は別表3の「原処分庁の認定額」欄の「課税価格」欄のとおりとなる。
 また、請求人らの相続税額は、別表3の「原処分庁の認定額」欄の「納付すべき相続税額」欄のとおりとなる。
ハ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、かつ、請求人らには国税通則法第65条((過少申告加算税))第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、同条第1項の規定に基づいてした本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、E銀行の預金口座から引き出された現金及びF證券の被相続人名義の口座で売却した株式売却代金が請求人に贈与されたものであるか否かにあるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。
(イ) 別表1のNo.1ないし3(1)及びNo.4ないし9の金員は、E銀行の預金口座からそれぞれの記載日に現金で引き出されていること。
(ロ) 別表1のNo.3(2)の株式は、F證券の被相続人名義の口座で売却され、それぞれの記載日にU銀行の請求人名義の普通預金口座に入金されていること。
(ハ) 本件財産は、別表1のNo.1ないし9の金員を運用した結果によるものであり、本件相続時に存在すること。
(ニ) 前記2の(2)のイの(イ)のBの表の1ないし8の各金員は、請求人及び請求人の家族が被相続人から贈与され、そのうち5ないし8の各金員について贈与税の申告をしていること。
ロ 請求人が当審判所に提出した本件収支明細簿(写し)には、次の記載が認められる。
(イ) 昭和55年2月14日から昭和63年12月末までの証券類の売買及び預金等の入出金状況等について記載されていること。
(ロ) 証券類の売買欄、預金等の入出金欄及び備考欄に区分され、請求人及び請求人の家族のほか、次のとおり被相続人の証券類の売買及び預金等の入出金状況について記載されていること。
A 昭和55年6月11日1,000,000円をU銀行の請求人名義の普通預金口座からR銀行□×支店(以下「R銀行(□×)」という。)の被相続人名義の普通預金口座に振り替える。
B 昭和55年6月14日a社ほかの株式を5,158,608円で売却し、当該売却代金はU銀行の請求人名義の普通預金口座に入金する。
C 昭和55年6月17日被相続人の指示により、U銀行の請求人名義の普通預金口座から現金500,000円を引き出して被相続人に手渡す。
D 昭和55年6月20日V社ほかの株式を1,048,808円で売却し、当該売却代金はU銀行の請求人名義の普通預金口座に入金する。
E 昭和55年6月20日U銀行の請求人名義の普通預金口座から500,000円を引き出してR銀行(□×)の被相続人名義の普通預金口座に入金する。
F 昭和55年7月1日Q社の株式500株を129,404円で売却し、当該売却代金はU銀行の請求人名義の普通預金口座に入金する。
G 昭和55年7月5日E銀行の預金口座から引き出した4,000,000円を原資としてワリトー122回を3,994,848円で購入し、釣銭5,152円は被相続人に手渡す。
H 昭和55年7月5日E銀行の預金口座から引き出した4,000,000円に請求人の手持現金4,160円を加えてワリトー122回を購入する。
I 昭和55年7月25日前記FのQ社の株式の売却代金129,404円は、被相続人の指示により引き出して同人に手渡す。
J 昭和55年7月5日U銀行の請求人名義の普通預金口座から 800,000円を引き出して被相続人の指示によりO銀行×□支店の被相続人名義の普通預金口座に振り込む。
K 昭和55年10月8日b社の株式1,094株を1,063,355円で売却し、当該売却代金はU銀行の請求人名義の普通預金口座に入金する。
L 昭和55年12月23日c社の株式を1,407,568円で売却し、当該売却代金はU銀行の請求人名義の普通預金口座に入金する。
M 昭和56年1月9日d社の株式3,441株を725,300円で売却し、当該売却代金はU銀行の請求人名義の普通預金口座に入金する。
N 昭和56年2月3日e社の株式1,760株を1,681,192円で売却し、当該売却代金はU銀行の請求人名義の普通預金口座に入金する。
O 昭和56年4月2日U銀行の請求人名義の普通預金口座から292,100円を被相続人の固定資産税の支払のため引き出す。
P 昭和56年8月1日R銀行の請求人名義の普通預金口座から561,300円をE銀行の預金口座に入金するため引き出す。
Q 被相続人から請求人及び請求人の家族に贈与された前記2の(2)のイの(イ)のBの表の各金額は贈与として明記されているが、本件贈与については贈与である旨の記載がない。
ハ 請求人が当審判所に提出した銀行の普通預金通帳(写し)等によれば、次のとおりである。
(イ) E銀行の預金口座によれば、次の事実が認められる。
A 別表1のNo.1ないし3(1)及びNo.4ないし9の金員は、E銀行の預金口座からそれぞれの記載日に現金で引き出されていること。
B 被相続人が請求人及び請求人の家族に生前贈与した前記2の(2)のイの(イ)のBの表の各金員は、同表のとおり引き出されていること。
C 入金状況は、T社からの振込みが相当部分を占めていること。
D 出金状況は、前記Bのほか他の銀行への振替え、現金の出金及び税金の支払のためのものが多いこと。
E 昭和56年8月1日1,000,000円の一部として、R銀行の請求人名義の普通預金口座から561,300円が入金されていること。
(ロ) R銀行の被相続人名義の普通預金口座によれば、次の事実が認められる。
A 昭和55年7月5日に口座を開設し、昭和56年8月1日にいったん解約したが、昭和58年7月27日に再び口座を開設していること。
B 昭和55年11月29日C帰国として970,000円を引き出していること。
C 昭和56年5月19日ワリトー127回の売却代金7,716,436円が入金され、当該金額は、同年5月28日R銀行(□×)の被相続人名義の普通預金口座に振り替えていること。
D 上記Aの再取引後の入出金状況は、株式の売買によるものが大部分であること。
(ハ) R銀行(□×)の被相続人名義の普通預金口座によれば、次の事実が認められる。
A 昭和55年6月11日1,000,000円及び同月20日500,000円をU銀行の請求人名義の普通預金口座に入金のため引き出していること。
B 昭和56年5月28日R銀行の被相続人名義の普通預金口座から7,716,436円を振替入金していること。
C 入金は株式の売却代金が大半であり、出金は公共料金等の支払が相当部分を占めていること。
(ニ) U銀行の請求人名義の普通預金口座によれば、同口座の取引期間は昭和55年6月7日から昭和56年8月1日までであり、その間の入出金状況は次の事実が認められる。
A 別表1のNo.3(2)の金員は、それぞれの記載の日に入金していること。
B 昭和55年6月11日1,000,000円及び同月20日500,000円をR銀行(□×)の被相続人名義の普通預金口座に入金するため引き出していること。
C 昭和55年6月17日500,000円、同年7月25日129,404円及び昭和56年4月17日292,100円を引き出して被相続人の固定資産税の支払等に充てていること。
D 昭和55年10月16日2,541,765円を引き出して利付国債第11回を購入していること。
E 昭和55年6月30日2,356,465円を引き出し、V社の株式5,000株を、また、同年12月8日531,562円を引き出してW社の株式1,000株を購入していること。
F 昭和55年10月13日3,000,000円を引き出し、定額郵便貯金としていること。
G 昭和56年2月17日2,346,750円を引き出し、ワリトー129回を購入していること。
H 昭和56年3月14日1,000,000円を引き出し、ワリコー477号を購入していること。
(ホ) R銀行の請求人名義の普通預金口座によれば、次の事実が認められる。
A 昭和55年4月30日ワリトー115回の売却代金3,022,773円が入金され、金額の頭に(D)と記載されていること。
B 昭和55年7月18日割引国債第18回を購入するため991,164円を引き出していること。
C 昭和56年6月18日ワリコー474号を売却した代金の一部1,291,349円が入金されていること。
D 昭和56年7月28日ワリトー122回の売却代金の一部4,598,302円が入金されていること。
E 請求人が被相続人から生前贈与された前記2の(2)のイの(イ)のBの表の金員は、同表のとおり入金されていること。
F 入出金は株式の売買によるものが大半であること。
(ヘ) R銀行(□×)のH名義の普通預金口座によれば、次の事実が認められる。
A Hが被相続人から生前贈与された前記2の(2)のイの(イ)のBの表の金員は、同表のとおり入金されていること。
B 昭和55年6月10日1,830,000円を引き出して定額郵便貯金としていること。
(ト) R銀行のG名義の普通預金口座によれば、同人が被相続人から生前贈与された前記2の(2)のイの(イ)のBの表の金員は、同表のとおり入金されていること。
(チ) R銀行(□×)のJ名義の普通預金口座によれば、次の事実が認められる。
A Jが被相続人から生前贈与された前記2の(2)のイの(イ)のBの表の金員は、同表のとおり入金されていること。
B 昭和55年6月10日2,080,000円を引き出して定額郵便貯金としていること。
(リ) R銀行(□×)のI名義の普通預金口座によれば、次の事実が認められる。
A R銀行(□×)のIが被相続人から生前贈与された前記2の(2)のイの(イ)のBの表の金員は、同表のとおり入金されていること。
B 昭和55年6月10日1,640,000円を引き出して定額郵便貯金としていること。
ニ 請求人が当審判所に提出したワリトー等の売買に関するメモ等の資料(写し)によれば、次のとおりである。
(イ) ワリトー93回と題するメモ、E銀行の債券代金計算書、M證券発行のご案内・計算書及びN證券発行の有価証券応募約定報告書・有価証券売買報告書によれば、昭和53年2月18日E銀行の預金口座から797,640円を引き出して同行において、無記名の現物債券(以下「現物債券」という。)のワリトー93回を購入し、同ワリトーは、M證券の請求人名義の口座にてワリトー105回へ乗り換え、さらに、N證券の請求人名義の口座にてワリトー117回に乗り換えているが、昭和55年6月4日に8,679,300円で売却していること。
(ロ) ワリトー98回と題するメモ、E銀行の債券代金計算書、M證券発行のご案内・計算書及びN證券発行の有価証券応募約定報告書・有価証券売買報告書によれば、昭和53年7月15日E銀行の預金口座から6,989,750円を引き出して現物債券のワリトー98回を購入し、同ワリトー98回は、M證券の請求人名義の口座にてワリコー457号に乗り換えているが、昭和55年6月4日にN證券の請求人名義の口座にて7,534,519円で売却していること。
(ハ) ワリトー103回と題するメモ、E銀行発行の債券代金計算書、M證券発行のご案内・計算書及びN證券発行の有価証券売買報告書によれば、昭和53年12月16日にE銀行の預金口座から6,000,000円を引き出して現物債券のワリトー103回を購入し、同ワリトーは、M證券の請求人名義の口座にてワリコー463号に乗り換えたが、昭和55年6月4日にN證券の請求人名義の口座にて6,261,965円で売却していること。
(ニ) 利付国債28と題するメモ、N證券発行の有価証券応募約定報告書、計算書及び売買・応募報告書によれば、前記(イ)ないし(ハ)の各ワリトーの売却代金合計22,475,784円は、次のとおり運用されていることが認められること。
A 昭和55年6月6日N證券の請求人の家族及びC名義の口座にて利付国債第28回を11,806,500円で購入している。
B 昭和55年6月10日6,450,000円を請求人の家族名義の定額郵便貯金としている。
C U銀行の請求人名義の普通預金口座に4,219,284円を入金している。
(ホ) 上記(ニ)のAの利付国債第28回のうちH、I及びJ名義分は、昭和61年12月10日N證券において10,160,000円で売却し、当該売却代金により請求人名義の中国ファンドを購入していること。
(ヘ) ワリトー110回及び割引国債18と題するメモ、E銀行発行の債券代金計算書並びにN證券発行の有価証券売買報告書、有価証券応募約定報告書、売買・応募報告書及び応募買付報告書兼受渡計算書によれば、昭和54年7月14日にE銀行の預金口座から7,500,000円を引き出して7,498,608円で現物債券のワリトー110回を購入したが、昭和55年7月15日N證券の請求人名義の口座にて7,867,396円で売却し、当該売却代金にU銀行の請求人名義の普通預金口座から引き出した991,164円を合算して割引国債第18回を購入し、同国債は、別表1のNo.4のとおりワリコー577号に乗り換えた後、平成2年7月27日に償還されていること。
(ト) ワリトー115回と題するメモ、E銀行発行の債券代金計算書、M證券発行の売買報告書及び計算書並びにN證券発行の有価証券売買報告書によれば、昭和54年12月8日にE銀行の預金口座から7,500,000円を引き出して現物債券のワリトー115回を購入し、同ワリトーは、昭和55年4月28日7,722,773円で売却し、当該売却代金からN證券の請求人名義の口座にて、4,700,000円でワリコー474号を購入し、残金3,022,773円はR銀行の請求人名義の普通預金口座に入金していること。
 さらに、ワリコー474号は、昭和56年6月18日に4,808,836円で売却し、当該売却代金から3,517,487円でM證券の請求人名義の口座にてX社の株式2,000株、Y社の株式3,000株及びZ社の株式2,000株を購入し、残金1,291,349円はR銀行の請求人名義の普通預金口座に入金していること。
(チ) ワリトー122回と題するメモ、E銀行発行の債券代金計算書並びにP證券発行の受渡計算書、お預かり証券・お預かり金照合書及び割引債券満期償還のお知らせによれば、昭和55年7月5日にE銀行の預金口座から4,000,000円2口合計8,000,000円を引き出し、同行において現物債券のワリトー122回4,290,000円を、また、P證券の請求人名義の口座にてワリトー122回4,300,000円を購入し、これらのワリトーは、昭和56年7月27日P證券の請求人名義の口座にて8,590,000円で売却し、当該売却代金から3,991,698円でワリコー481号を購入し、残金4,598,302円をR銀行の請求人名義の普通預金口座に入金していること。
 なお、E銀行の預金口座から引き出した8,000,000円とワリトー122回の購入代金7,999,008円との差額992円は、被相続人に手渡していること。
 さらに、ワリコー481号は、後記(ヌ)のワリトー134回と合算してワリコー493号に乗り換え、昭和58年3月26日にトラベラーズチェック購入費用のため同ワリコーの一部を1,999,081円で売却し、その余のワリコー493号は、別表1のNo.6のとおりワリトー230回にそれぞれ乗り換えていること。
(リ) ワリトー127回と題するメモ、E銀行発行の債券代金計算書並びにP證券発行の受渡計算書及び売買報告書によれば、昭和55年12月6日にE銀行の預金口座から9,600,000円を引き出して現物債券のワリトー127回8,110,000円及びP證券の請求人名義の口座にてワリトー127回2,130,000円を購入し、これらのワリトーは、昭和56年5月14日にP證券の請求人名義の口座にて9,846,436円で売却し、当該売却代金から7,716,436円をR銀行の被相続人名義の普通預金口座に入金し、残金2,130,000円でワリコー486号を購入し、別表1のNo.7のとおり、ワリトー224回に乗り換えているが、同ワリトー224回は、平成3年1月26日に償還していること。
(ヌ) ワリトー134と題するメモ、E銀行発行の債券代金計算書並びにP證券発行の受渡計算書及び売買報告書によれば、昭和56年7月4日にE銀行の預金口座から10,000,000円を引き出して8,999,920円で現物債券のワリトー134回を購入し、同ワリトーは、P證券の請求人名義の口座にて前記(チ)のワリコー481号と合算してワリコー493号に乗り換えていること。
 なお、残金1,000,080円は被相続人に手渡していること。
(ル) ワリトー147と題するメモ、E銀行発行の債券代金計算書及びP證券発行の受渡計算書によれば、昭和57年8月5日にE銀行の預金口座から5,000,000円を引き出して現物債券のワリトー147回を4,997,520円で購入し、別表1のNo.9のとおりワリトー219回に乗り換えていること。
 なお、5,000,000円と購入代金4,997,520円との差額2,480円は被相続人に返還していること。
(ヲ) ワリトー129と題するメモ及びP證券発行の受渡計算書によれば、前記ハの(ニ)のGのワリトー129回は、別表1のNo.3(7)及び(8)のとおりワリトー227回に乗り換えていること。
ホ 請求人が当審判所に提出した被相続人の療養経過と題する書面(写し)によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人は、昭和51年1月に脳梗塞によりK病院に入院し、昭和53年6月まで治療を繰り返したが、その後、昭和54年12月肺炎のため再入院して、昭和55年6月に退院したこと。
(ロ) さらに、昭和63年12月にS病院に入院し、一時退院したが、平成元年5月に再入院して同年6月3日に死去したこと。
(ハ) 被相続人が脳梗塞を発病したのは74歳であり、死去したのは87歳であること。
ヘ 原処分関係資料によれば、次のとおりである。
(イ) 別表2の1のイの有価証券の評価額は、いずれも同表のとおりであることが認められる。
(ロ) 別表2の1のロの本件郵便貯金の預入れ及び払出し状況は、次のとおりである。
A 預入年月日は、請求人名義が昭和55年10月13日、その他の名義が同年6月10日であり、預入額はいずれも3,000,000円であること。
B 払出年月日は、請求人名義が平成3年3月28日、その他の名義が平成2年6月6日であり払出金額は、請求人が5,842,980円、その他の名義が5,997,666円であること。
C 請求人名義の原資は、全額がU銀行の請求人名義の普通預金口座から充てていること。
D G名義の原資は、別表1のNo.1のワリトー117回、同No.2のワリコー457号及び同No.3(1)のワリコー463号を売却した22,475,784円の内から3,000,000円を充てていること。
E H名義の原資は、上記Dのワリコー463号を換金した金員から1,170,000円及びR銀行の同人名義の普通預金口座から1,830,000円を充てていること。
F I名義の原資は、上記Dのワリコー463号を売却した金員から1,360,000円及びR銀行の同人名義の普通預金口座から1,640,000円を充てていること。
G J名義の原資は、上記Dのワリトー463号を売却した金員から920,000円及びR銀行の同人名義の普通預金口座から2,080,000円を充てていること。
(ハ) 別表2の1のハの(ロ)ないし(ハ)の債券の評価額は、同表のとおりであることが認められること。
(ニ) 別表2の1のニ及びホの本件その他の財産の評価額は、同表のとおりであることが認められること。
ト 請求人は、原処分庁の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)に対し、次のとおり申述している。
(イ) 請求人は、E銀行の預金口座から引き出した現金を被相続人から「お前に任せるから運用しなさい」といわれて管理していたので、当該金員を被相続人から贈与され請求人自身の財産だと思っていたこと。
 なお、本件贈与は、口頭でされたので書面は作成しなかったこと。
(ロ) 請求人は、被相続人が昭和51年に病気で倒れてからすべての財産の管理を任されていたが、上記(イ)の本件贈与に係るE銀行の預金口座からの引き出しは、請求人が被相続人の指示で行ったこと。
(ハ) 請求人は、本件贈与のような方法では贈与したという形が残らないのでまずいと思い、被相続人に頼んで昭和55年から毎年600,000円ずつを請求人及び請求人の家族に贈与してもらったこと。
(ニ) 被相続人と請求人の財産に関する書類等は、各自が保管し、帳簿もそれぞれ別々に作成していたこと。
チ 請求人は、当審判所に対して次のとおり答述している。
(イ) 本件贈与は、被相続人から口頭で贈与されたものであり、贈与されたことを明らかにする証拠はないこと。
(ロ) 被相続人の印鑑及び通帳は、常に同人が保管、管理していたこと。
(ハ) 昭和56年から昭和57年ころの被相続人は、物事に明確な識別能力を持ち、贈与の意思表示をして請求人名義になったものについては無関心であったこと。
(ニ) 本件贈与について、他の相続人に説明したのは本件異議申立時であったこと。
リ Cは、当審判所に対して次のとおり答述している。
(イ) 被相続人は、識別能力に優れていたから、印鑑、通帳及び現金は同人の手の届く所に置いてあったこと。
(ロ) 請求人は被相続人の指示で行動していたものであり、被相続人の財産は、実質的には同人が管理していたこと。
(ハ) ワリコー493号についてはどういうものかはわからないが、トラベラーズチェックを作ってもらったことは覚えていること。
 トラべラーズチェックは請求人から手渡されたが、同人は被相続人の指示で行動しただけであり、トラベラーズチェックは被相続人からもらったものと思っていること。
(ニ) 被相続人が請求人及び請求人の家族に前記2の(2)のイの(イ)のBの表の金員を生前贈与していることは知っていたが、本件贈与の事実を知ったのは遺産分割時であること。
ヌ 以上の事実に基づき判断すると、次のとおりである。
(イ) 本件収支明細簿について
 請求人は、前記2の(1)のイの(イ)において、本件収支明細簿は、請求人の固有財産の管理及び運用状況を記録したものであり、被相続人の財産事務管理用の記録とは区別されていたものである旨主張する。
 ところで、本件収支明細簿には、前記ロの(イ)のとおり、昭和55年2月14日から昭和63年12月末までの間の証券類の売買及び預金等の入出金状況等について記載されているが、その内容は、前記ロの(ロ)のとおり、請求人及び請求人の家族名義のほか、被相続人名義の証券類の売買及び預金等の入出金状況等についても記載されていることが認められる。
 また、請求人名義の預金口座から被相続人名義の預金口座への振替え、証券類の売却代金の被相続人への手渡し及び被相続人の固定資産税の支払いのために請求人名義の預金口座からの出金状況とそれ以外のものが混然一体に記載されていることが認められる。
 そうすると、本件収支明細簿は、請求人の固有財産の管理及び運用状況のほか、請求人の家族及び被相続人の財産を管理及び運用するために、請求人がその収支状況等を記載したものとみるのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
(ロ) 本件相続開始前の贈与について
A 前記イのとおり、E銀行の預金口座から現金が別表1のNo.1ないし3(1)及びNo.4ないし9のとおり引き出されていること、F證券の被相続人名義の口座で売却した株式の売却代金が別表1のNo.3(2)のとおりU銀行の請求人名義の普通預金口座に入金されていること及び別表2の1の本件財産が別表1のNo.1ないし9の金員を運用した結果に基づくものであり、本件相続時に存在することについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがない。
B 請求人は、前記2の(1)のイの(ロ)のAの(A)のbにおいて、本件贈与の形態は、贈与される数日前に被相続人から「金○○円あげるから下ろしておいで」との指示により、請求人が通帳と印鑑を預かりE銀行の預金口座から現金を引き出したものであり、この時点に贈与された旨主張する。
(A) 被相続人の療養経過と題する書面(写し)によれば、前記ホのとおり、被相続人は74歳で脳梗塞を発病し、87歳で死去しているが、昭和55年後半から昭和63年ころは元気であったことが認められる。
(B) また、本件調査担当職員の調査、請求人及びCの当審判所に対する答述によれば、前記トないしリのとおり、請求人は、被相続人が昭和51年に倒れてからは、請求人がすべての財産の管理を任されていたこと、被相続人は識別能力に優れていたため、印鑑、通帳等は手元に保管し、請求人が必要に応じて印鑑、通帳等を預かり、被相続人の指示で同人の財産の管理運用及び預金の引き出し等を行っていたことが認められる。
(C) 以上の事実から判断すると、被相続人は、本件贈与時には比較的元気であったことが認められるが、高齢であり、いつ病気が再発するか心配な状況であったことも否定できない。
 したがって、被相続人が識別能力に優れており、印鑑、通帳等を保管していたとしても、財産の管理、運用及び預金の引き出し等は請求人が被相続人の指示で行動したものとみるのが相当である。
(D) ところで、別表1のNo.1ないし9のとおり昭和53年から昭和57年までの5年間で通算15回にわたり79,072,325円もの多額の現金が口頭で贈与され、一方、前記2の(2)のイの(イ)のBの表の各贈与された金額のうち5ないし8については贈与税の申告をしていながら、本件贈与については、本件収支明細簿に贈与として記載することなく、かつ、贈与税の申告をしていないこと、Cは、本件贈与について遺産分割時まで知らなかったということからみれば、本件贈与は極めて不自然であり、被相続人から贈与されたものとみることはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
C 請求人は、前記2の(1)のイの(ロ)のAの(H)ないし(J)において、ワリトーを購入した際に釣銭に見合う現金を被相続人に手渡しているのは、たまたま同人の指示で他の預金を引き出した時に、一緒に手渡した封筒の中に小口の釣銭が入っていたものであること、トラベラーズチェックの購入費用は、請求人の自発的意思によりCに贈与したものであること及びワリトーの売却代金から被相続人の地方税の支払に充てた金員は、同人の地方税の振替口座に預金がなく、また、同人の手持ち現金もなかったので請求人が立て替えたものである旨主張する。
 しかしながら、前記ニによれば、次の事実が認められる。
(A) 別表1のNo.6のワリトー122回は、前記ニの(チ)のとおり、7,999,008円で購入しているところ、E銀行の預金口座から引き出した8,000,000円と購入代金との差額992円を被相続人に返還していること、また、ワリコー493回の一部を売却し、当該売却代金1,999,081円をトラベラーズチェックの購入費用に充てている。
(B) 別表1のNo.7のワリトー127回は、前記ニの(リ)のとおり、9,846,436円で売却し、そのうち7,716,436円をR銀行の被相続人名義の普通預金口座に入金し、その後、R銀行(□×)の被相続人名義の普通預金口座に振り替えている。
(C) 別表1のNo.8のワリトー134回は、前記ニの(ヌ)のとおり、8,999,920円で購入しているが、E銀行の預金口座から引き出した10,000,000円と購入代金との差額1,000,080円を被相続人に返還している。
(D) 別表1のNo.9のワリトー147回は、前記ニの(ル)のとおり、4,997,520円で購入しているが、E銀行の預金口座から引き出した5,000,000円と購入代金との差額2,480円を被相続人に返還している。
(E) 以上の事実から判断すると、請求人は、E銀行の預金口座から引き出した現金とワリトー等の購入代金との差額を数回にわたり被相続人に返還していることが認められるところ、いったん贈与された金員の一部を贈与者に返還することは通常考えられないこと、また、トラベラーズチェックの購入費用は、前記リの(ハ)のとおり、Cは、被相続人からもらったものと認識していること、さらに、被相続人の地方税の支払に充てた金員は、請求人が立て替えたものであることを明らかにする証拠がないことなどを併せ考慮すると、本件相続開始前に本件贈与があったものと認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
D 請求人は、前記2の(1)のイの(ロ)のBにおいて、F證券の被相続人名義の口座で売却した別表1のNo.3(2)の株式売却代金がU銀行の請求人名義の普通預金口座に入金され、当該預金口座から、請求人が自己の判断と決定に基づいて資金運用したものである旨主張するが、前記ハの(ニ)のとおり、当該預金口座の取引期間は約1年2か月であること、R銀行の被相続人名義の預金口座に入金のため再三にわたり払い出していること及び被相続人の固定資産税を支払っていることなどを考慮すると、当該預金口座は、実質的に被相続人の預金口座であったとみるのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
E 請求人は、前記2の(1)のイの(ロ)のAの(K)において、本件は、ワリトー等の購入以前における請求人の資力が問題なのではなく、それらの財産の購入財源について生前贈与されたかという法律行為(民法第549条の贈与)の存否が本質的な問題である旨主張する。
 ところで、民法第549条((贈与))は、「贈与は当事者の一方が自己の財産を無償にて相手方に与える意思を表示し相手方が受諾を為すに因りて其の効力を生ずる」こととされているので、一般的には、意思の有無によって贈与の有無を判定すべきであり、書面によらない贈与は、その履行が終わるまでは当事者がいつでも自由にこれを取り消すことができ、この場合の贈与の時期は、贈与財産の実質的な支配状況など具体的な事実関係に基づいて総合的に判定すべきであると解される。
 そうすると、本件贈与は書面によらない贈与であり、かつ、贈与の当事者の一方である被相続人はすでに死去しているため、被相続人が本件贈与の意思表示をしたかどうかの判断は、具体的な事実関係に基づいて総合的に判定すべきであるところ、前記BないしDで認定したとおり別表1のNo.1ないし9の金員を被相続人から請求人に贈与があったものとみることはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
ル 本件財産
 本件財産は、別表1のNo.1ないし9の金員を運用した結果に基づくものであり、本件相続時に存在していたことについては、請求人と原処分庁の双方に争いはない。
 しかしながら、本件財産の本件相続時の評価額について、当審判所の調査によれば、次のとおりである。
(イ) 本件郵便貯金
 本件郵便貯金の本件相続時の評価額は、次のとおりであることが認められる。
A 原処分庁は、本件郵便貯金の本件相続時の評価額を次表3欄の1ないし5のとおり認定している。
B 請求人の家族名義の原資は、前記ヘの(ロ)のとおり、別表1のNo.1ないし3(1)のワリトーの売却代金6,450,000円と請求人の家族名義の預金5,550,000円(次表2欄の3ないし5の合計)である。
C したがって、請求人の家族名義のものは、預入れの際の原資割合により区分して算定するのが相当であり、評価額は次表4欄のとおりとなる。
D 以上の結果、本件郵便貯金の本件相続時の評価額は、原処分庁が認定した額から請求人の家族の固有財産に相当する11,095,682円(次表5欄の3ないし5の合計)を控除した金額18,737,962円とするのが相当である。

(単位:円)
項目
原資区分 本件相続時の評価額
原処分庁の認定額 当審判所の調査額
名義   1 2 3 4 5
預入額 内自己資金 相続財産 相続財産 固有財産
A 1 3,000,000 - 5,842,980 5,842,980 -
G 2 3,000,000 - 5,997,666 5,997,666 -
H 3 3,000,000 1,830,000 5,997,666 2.339,090 3.658,576
I 4 3,000,000 1,640,000 5,997,666 2,718,942 3,278,724
J 5 3,000,000 2,080,000 5,997,666 1,839,284 4,158,382
合計 15,000,000 5,550,000 29,833,644 18,737,962 11,095,682

(ロ) 本件有価証券
 本件有価証券のうち別表ハのワリコー565号の本件相続時の評価額は、当審判所の調査によれば次のとおりであることが認められる。
A 原処分庁は、ワリコー565号の本件相続時の評価額を14,258,424円と認定している。
B しかしながら、ワリコー565号は、次のとおりであることが認められる。
(A) 前記ニの(ヘ)のとおり、昭和54年7月14日ワリトー110回を7,498,608円で購入したが、昭和55年7月15日に7,867,396円で売却していること。
(B) 前記ニの(ヘ)の売却代金にR銀行の請求人名義の普通預金口座から引き出した991,164円を加えて割引国債第18回を購入していること。
(C) 割引国債第18回は売却して、昭和63年7月18日ワリコー565号を14,258,424円で購入していること。
C したがって、ワリコー565号の評価額は、割引国債第18回を購入した際の原資割合により区分して算定するのが相当であり、次表4欄のとおりとなる。

(単位:円)
割引国債第18回の原資区分 ワリコー565号の評価額
原処分庁の認定額 当審判所の調査額
1 2 3 4 5
購入額 内自己資金 相続財産 相続財産 固有財産
8,858,560 991,164 14,258,424 12,663,082 1,595,342

(ハ) 上記(イ)及び(ロ)以外の本件財産の本件相続時における評価額は、当審判所の調査によっても原処分庁の認定額は相当である。

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(2) 課税価格及び納付すべき税額

 以上の結果、請求人らの相続税の課税価格は、別表3の「当審判所の調査額」欄の「課税価格」欄に記載のとおりであり、また、請求人らの納付すべき税額は、同表の「当審判所の調査額」欄の「納付すべき税額」欄に記載のとおりである。
 したがって、これらの金額は、いずれも本件更正処分に係る税額に満たないので、本件更正処分は、その一部を取り消すのが相当である。

(3) 過少申告加算税の賦課決定処分について

 請求人らには、相続税の税額を計算するに当たり、原処分庁が過少申告加算税の基礎とした税額のうち一部取消しにより減額される部分以外の税額に係る事実を相続税額の計算の基礎としなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 したがって、原処分庁が過少申告加算税の基礎とした税額のうち当該減額される部分以外の税額を基礎とする部分に係る本件賦課決定処分は適法である。
 ところで、過少申告加算税の基礎となる税額及び過少申告加算税の額は次表のとおりとなり、本件賦課決定処分に係る税額に満たないので、本件賦課決定処分は、その一部を取り消すのが相当である。

(単位:円)
氏名
項目
A B C
過少申告加算税の基礎となる税額 24,030,000 24,010,000 24,030,000
過少申告加算税の額 2,403,000 2,401,000 2,403,000

(4) その他

 原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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