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(平6.9.26、裁決事例集No.48 405頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、建設業を営んでいた法人(平成4年2月10日以降婦人服リサイクル業を営む。)であるが、平成元年9月27日に平成元年4月1日から平成2年3月31日までの課税期間より適用するとした消費税法(ただし、平成3年法律第73号による改正前のもの。以下「法」という。)第9条((小規模事業者に係る納税義務の免除))第4項の規定に基づく「消費税課税事業者選択届出書」(以下「選択届出書」という。)及び法第37条((中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例))の規定(以下「簡易課税」という。)に基づく「消費税簡易課税制度選択届出書」(以下「簡易届出書」といい、選択届出書と併せて「両届出書」という。)をそれぞれ原処分庁に提出するとともに、平成3年4月1日から平成4年3月31日までの課税期間(以下「当期」という。)について課税標準額159,038,000円、簡易課税に基づいて納付すべき税額を954,200円と記載した消費税の確定申告書を法定申告期限までに提出した。
 その後、請求人は、平成5年5月31日に簡易届出書の提出は錯誤によるものであるとして法第30条((仕入れに係る消費税額の控除))の規定(以下「本則課税」という。)を適用し、当期の納付すべき税額を339,400円とする更正の請求をした。
 これに対し原処分庁は、平成5年7月8日付で更正をしないことの通知をした。
 請求人は、原処分を不服として平成5年9月8日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月29日付で棄却の異議決定をした。請求人は、異議決定を経た後の原処分について不服があるとして、平成5年11月29日に本件審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 両届出書の同時提出は、経済合理性を前提とした事業法人には、いかなる合理性も認められない。したがって、簡易届出書の提出は錯誤に基づくものであり無効である。
ロ 原処分庁は、両届出書の同時提出について、請求人に何らかの錯誤があったと、当然知り得る立場にあったにもかかわらず、原処分をしたことは、無効である。
ハ 簡易課税は、中小事業者の納税事務の負担軽減を目的に制定されたものであるが、簡易課税によって納税事務の負担が軽減されても、消費税の納税額が増加するようでは、負担軽減になっていない。
ニ 請求人の当期の確定申告を本則課税に当てはめると、請求人の消費税率は次表のとおり8.4パーセントにもなり、消費税率が3パーセントを超えることがないという消費税の法理に反しており、簡易課税は無効である。

(単位:円、%)
項目 金額等
A 課税資産譲渡額 159,038,000
B 控除対象仕入額 147,723,733
C 差引(A−B) 11,315,000
D 簡易課税に係る税額 954,200
E 実質消費税率(D/C) 8.433

ホ 簡易届出書を提出するとその翌課税期間から2年間は簡易課税により確定申告をしなければならない。
 簡易課税の選択には、2年間の課税期間の業績予測が必要であり、予測が当たると消費税額が本則課税より少額となり、外れると実質3パーセント以上の消費税額となる。
 消費税額がこのような偶然の要素に影響されるのは税額を法律で定めたことにはならず、租税法律主義に反する。
ヘ 簡易課税により計算した納付すべき消費税額が、本則課税により計算した納付すべき税額を上回った場合の救済措置のない現行制度は、租税法律主義に反する。

(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 簡易届出書は、納税者の選択により自由に提出することが可能であり、かつ、選択届出書との同時提出は何ら違法ではない。したがって、両届出書の同時提出をもって、簡易届出書の提出が、錯誤に基づくものであるとの証明にはならない。
ロ 仮に請求人が、簡易課税の適用を受けるつもりがないのに、簡易届出書を提出しても、そのことを原処分庁が知り得る余地はないのであるから、請求人の主張は理由がない。
ハ 簡易課税は、制度の公平性と納税事務の簡素化のバランスの上に立脚しており、制度の内容については、立法政策の問題であり課税庁の権限の及ぶところではない。
ニ 簡易課税では、課税標準の100分の80(卸売業を主として営む事業者として政令で定める者にあっては、100分の90)に相当する金額を仕入れに係る消費税額とみなすと規定されており、後発的事由で、結果的に納付税額が本則課税により計算した消費税額を上回ったとしても、租税法律主義の精神に反するものではない。
ホ 租税法律主義とは、租税の賦課及び徴収は、必ず法律の根拠に基づかなければならないことを意味するものであり、消費税についても納税義務者、課税物件、課税標準及び税率等の課税要件は、法律により明確に規定されており、租税法律主義に反するものではない。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、更正の請求に対する更正をしないことの通知の適否にあるので、以下検討する。

(1) 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

イ 請求人は、平成元年9月27日に両届出書を同時に原処分庁に提出していること。また、平成3年3月31日までに、簡易課税を取りやめる届出書を提出していないこと。
ロ 請求人の当期の消費税の確定申告書は、簡易課税を適用して提出していること。また、請求人の平成元年4月1日から平成2年3月31日及び平成2年4月1日から平成3年3月31日までの課税期間の消費税の確定申告書は、簡易課税を適用して提出していること。
 ただし、当期以前の各課税期間の納付すべき税額は、零円であったこと。
ハ 請求人が提出した簡易届出書は法令の規定に従い記載され提出されており、その記載には明らかな誤りは認められないこと。

(2) ところで、法第37条第1項の規定によれば、簡易課税の適用を受けようとする事業者は、その旨記載した届出書を納税地を所轄する税務署長に提出すればよく、承認等の手続は必要とされていない。また、法第37条第3項の規定によれば、事業を廃止した場合を除き、簡易課税の適用を開始した翌課税期間(ただし、本件の場合は、平成元年4月1日の属する課税期間)の初日から2年を経過しなければ、簡易課税をやめることはできないとされている。

 これらの規定から判断すると、簡易課税の選択は、事業者の自由にまかされており、また、簡易届出書の提出をもって選択がされたものと解される。

(3) これを本件についてみれば、以下のとおりである。

イ 請求人は、前記2の(1)のイ及びロのとおり主張するが、簡易届出書の提出による簡易課税の選択が錯誤により無効となるのは、請求人の錯誤が客観的に明白かつ重大なものである場合に限られると解すべきである。
 本件については、前記(1)のハのとおりの事実が認められ、仮に請求人に錯誤があったとしても、簡易届出書上錯誤が表れているとはいえないから、客観的に明白かつ重大な錯誤が存在したと認定することはできない。
 なお、両届出書が同時に提出されたことは何らこの認定に影響するものではないというべきである。
 さらに、前記(1)のイ及びロで認定した事実は、むしろ請求人にそもそも錯誤がなかったことを推認せしめるものと認められる。
 したがって、簡易届出書の提出による簡易課税の選択が無効であるとの請求人の主張は採用することができない。
ロ 前記2の(1)のハ、ニ、ホ及びヘの請求人の主張については、いずれも立法政策に属するものであり、当審判所の判断の限りでない。
 なお、租税法律主義とは、新たに租税を課し又は現行の租税を変更するのはもとより、納税義務者、課税標準、税率等の課税要件のほか、租税の賦課及び徴収の手続は、すべて法律の根拠に基づいて明確に定められなければならないとするものであるが、消費税法についても、納税義務者、課税標準及び税率等の課税要件は、法律により明確に規定されており租税法律主義に反するものではない。
ハ 以上検討したとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、原処分庁が行った原処分は相当である。

(4) 原処分のその他の部分については請求人は争わず、当審判所に提出された資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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