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(平6.12.12、裁決事例集No.48 411頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 審査請求人(以下「請求人」という。)は、医薬品卸売業を営む同族会社であるが、平成元年5月1日から平成2年4月30日まで、平成2年5月1日から平成3年4月30日まで及び平成3年5月1日から平成4年4月30日までの各課税期間(以下順に、「平成2年4月期」、「平成3年4月期」及び「平成4年4月期」といい、これらを併せて「各期」という。)の消費税について、別表の「確定申告」欄のとおりの各金額を記載した確定申告書(一般用)を、法定申告期限までにそれぞれ原処分庁に提出した。
(2) 原処分庁は、平成5年3月31日付で平成3年4月期及び平成4年4月期のそれぞれの消費税について、別表の「更正等」欄に記載のとおりの各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
 さらに、原処分庁は、平成5年4月30日付で平成2年4月期の消費税について、別表の「更正」欄に記載のとおりの更正処分(以下、平成3年4月期及び平成4年4月期の各更正処分と併せて「本件更正処分」という。)をした。
(3) 請求人は、平成5年5月21日、原処分を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年7月8日付で棄却の異議決定をした。
(4) 請求人は、平成5年8月5日、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、本件審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法、不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ) 消費税に関する指導について
 請求人は、平成元年夏ころ行われた法人税調査の際、原処分庁から、消費税に関する指導を受けたが、その内容は、商品の流れを明確にしておけばよいということであり、記帳内容を改めるような指摘はなかった。
 ところがその後、原処分庁は、請求人に対して何ら指導することもなく、いきなり本件更正処分をしたのは不当である。
(ロ) 仕入税額控除について
 請求人は、原処分に係る調査(以下「本件調査」という。)の際に、各期に係る仕入取引を記載した仕入帳及び商品出納帳(以下、これらを「仕入帳等」という。)並びに現金仕入納品書(以下「現金仕入納品書」といい、仕入帳等と併せて「本件帳簿等」という。)を本件調査を担当した職員(以下「調査担当職員」という。)に提示したが、原処分庁は、仕入先が「氏」のみとなっている仕入れ(以下「本件取引」という。)について、消費税法(以下「法」という。)第30条((仕入れに係る消費税額の控除))第7項に規定された課税仕入れ等の税額の控除(以下「仕入税額控除」という。)に係る帳簿又は請求書等の保存がないとして仕入税額控除を認めなかった。
 しかしながら、次に述べるとおり、本件取引に係る仕入税額控除は適法であり、原処分庁は、これを認めるべきである。
A 本件帳簿等は、法第30条第8項及び第9項に規定する記載要件を充足し、かつ、請求人はそれを保存しているのであるから、同条第7項に規定する仕入税額控除に係る帳簿又は請求書等を保存しない場合には該当しない。
B 請求人は、本件取引の際、仕入先に消費税を支払ったのであるから、仕入税額控除を認めるべきである。
C 医薬品の卸売は、請求人が作成した資料「A(株)(請求人)粗利益率の推移」(以下「粗利益率の推移表」という。)からも明らかなように、非常に薄利の業種であり、粗利益率の推移からみて、請求人が消費税を支払ったことは解明できる。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は違法、不当であり取り消すべきであるから、これに伴い本件賦課決定処分も取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 本件更正処分について
(イ) 消費税に関する指導について
A 原処分庁は、平成元年夏ころに請求人方へ臨場して、消費税の指導を行った事実はない。
B 原処分庁は、法施行日(昭和63年12月30日)以後、所轄の事業者に対して説明会を開催し、消費税に関する指導を十分に行っている。
(ロ) 仕入税額控除について
 本件取引に係る本件帳簿等の記載内容は、次の理由から、法第30条第8項及び第9項に規定する要件を具備したものではないので、同条第7項の規定により仕入税額控除を適用できない。
A 請求人が本件調査時に保存していた本件取引に係る帳簿又は請求書等は、本帳簿等のみであり、それらにはいずれも仕入先として相手方の「氏」しか記載がなく、本件帳簿等から仕入先を特定することができない。
B 調査担当職員が、本件調査において、請求人の代表取締役K(以下「代表者」という。)に対し、再三にわたり、本件取引の仕入先を特定するよう求めたにもかかわらず、代表者はこれに応じなかった。
C 代表者は異議審理庁に対し、次のとおり申し立てている。
(A) 本件取引は、問屋や薬局チェーン店等を相手とし、相互に電話で商品名及び単価等を確認した上で、当社、高速道路のサービスエリア及び駐車場等の場所において、商品と引換えに現金決済しているもので、請求書及び領収書はない。
(B) 本件帳簿等に記載している本件取引の仕入先名は、仕入先が名乗っている名称であり、実名かどうか確認できない。
(C) 本件取引の仕入先を特定できる書類の保存はない。
(D) 本件取引に係る現金仕入納品書は、請求人方で印刷及び作成されたものであり、代表者又は専務取締役L(以下「専務」という。)が、電話の内容を記入したメモや手帳等に基づき、取引の内容を記載している。
 以上のとおり、請求人は、本件調査及び異議調査において、本件取引の仕入先を明らかにせず、仕入税額控除に係る帳簿又は請求書等を保存しない場合に該当するから、仕入税額控除を適用できない。
 したがって、本件更正処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は適法であり、かつ、請求人が過少申告したことについて、国税通則法第65条((過少申告加算税))第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づく本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1) 本件更正処分について

 本件審査請求の争点は、消費税に関する指導の適否及び仕入税額控除の適用の可否にあるので、以下検討する。
イ 消費税に関する指導について
 請求人は、原処分庁が請求人に対し消費税に関する適切な指導をせず、いきなり本件更正処分をしたのは不当である旨主張する。
 しかしながら、申告納税制度の下では、適正な納税申告は、納税者自らの判断と責任において行われるべきであり、本来、課税庁の指導の有無を理由に課税処分の違法性を主張することはできないと解されるところ、税制改革法第17条第2項は、国税当局においては、平成元年9月30日までは、消費税になじみの薄い我が国の現状を踏まえ、その執行に当たり、広報、相談及び指導を中心として弾力的運営を行うものとする旨規定している。
 ところで、当審判所の調査の結果によれば、原処分庁は、法施行後の平成元年1月から平成2年2月の間に、医薬品卸売業を含む所轄の事業者に対して、消費税に関する説明会を95回(延べ対象人員34,403名)開催し、消費税に関して積極的に広報及び指導をした事実が認められる。
 したがって、請求人は、法を正しく理解できる機会を十分に得られたものであり、原処分庁の指導不足を不当とする請求人の主張には理由がない。
ロ 仕入税額控除について
(イ) 請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 請求人は、本件調査時において、本件取引に係る帳簿書類として本件帳簿等のみを保存していたこと。
B 本件取引については、仕入帳の仕入先欄(仕入金額欄の余白)、商品出納帳の備考欄及び現金仕入納品書の氏名欄には、仕入先の氏名の氏に相当する部分のみを記載していること。
C 調査担当職員は、本件調査の際、請求人に対して、仕入先が特定できない場合には仕入税額控除は認められない旨説明し、本件取引の仕入先を特定するよう求めたが、請求人はこれに応じなかったこと。
D 請求人は、当審判所に対して、本件取引について「仕入先を特定できるものもあるが、仕入先を明らかにすると、仕入先の信用を失い、仕入れのルートを断たれ、今後商取引ができなくなるおそれがあるため明らかにできない」旨の答述をしていること。
E 現金仕入納品書は、仕入先が作成したものではなく、「A株式会社(請求人)殿」という不動文字があらかじめ印刷されているなど請求人によって作成されたものであること。
F 代表者又は専務は、電話連絡による本件取引の内容を記入したメモや手帳等に基づいて現金仕入納品書に日付、品名、金額、仕入先の氏等を記載し、さらに、現金仕入納品書により仕入帳を作成していること。
G 粗利益率の推移表は、各期を含む6事業年度の「売上高」、「粗利益」及び「粗利益率」を記載した表であるが、本件取引の仕入先の氏名等を明らかにするものではないこと。
(ロ) ところで、仕入税額控除については、法第30条第1項において、事業者が国内において課税仕入れを行った場合には、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の法第45条((課税資産の譲渡等についての確定申告))第1項第2号に掲げる課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除する旨規定されている。
 また、法第30条第7項においては、事業者が当該課税期間の仕入税額控除に係る帳簿又は請求書等を保存しない場合には、災害その他やむを得ない事情により、当該保存をすることができなかったことを当該事業者において証明した場合を除き、当該保存がない課税仕入れに係る税額について同条第1項の規定を適用しない旨規定し、課税標準額に対する消費税額から仕入税額を控除する要件として、事業者に帳簿又は請求書等の保存を義務付けている。
 なお、上記の保存には、権限ある税務職員から、税法の規定に基づき、帳簿又は請求書等の提示を求められた場合、これに応じて提示することを含むものと解されるところであるから、事業者が、同税務職員の提示の求めにもかかわらず、これに応じなかったときには、当該帳簿等は、その時点において保存を継続していなかったものとなるというべきである。
 すなわち、法第30条第7項は上記のとおり規定しており、また、消費税法施行令第50条第1項によれば、法第30条第1項の規定の適用を受けようとする事業者は、同条第7項に規定する帳簿又は請求書等を整理し、帳簿についてはその閉鎖の日の属する課税期間の末日の翌日から、請求書等についてはその受領した日の属する課税期間の末日の翌日から、それぞれ2月(清算中の法人について残余財産が確定した場合には1月)を経過した日から7年間、これを納税地又はその取引に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地に保存しなければならないこととされている。
 これらの規定内容を通観すれば、帳簿等の保存年限が、商法では10年とされているのに対し、消費税法では税務当局において課税権限を行使し得る最長の期限である7年とされていること、その保存場所も納税地等に限られていることからみて、法第30条第7項が、帳簿等の保存がなければ原則として同条第1項の規定を適用しないとしているのは,適法な税務調査がなされる際には当然に保存されている帳簿等が提示され、これに基づいて課税仕入れ等に係る消費税額が算出され得ることを予定し、このような確実な資料が保存されていない場合には仕入税額を控除しないこととするという趣旨によるものと解される。
 そうすると、法第30条第7項にいう帳簿等の保存とは、ただ単に帳簿等が事業者の支配下に存在するということのみをいうのではなく、適法な税務調査に際し、税務職員からその提示、閲覧を求められたときには、正当な事由がない限りこれに応じ、当該職員においてこれを確認し得る状態に置くべきことをも含むものであり、このことを含めて、上記の7年間保存が継続されなければならないと解されるのである。 
 さらに、法第30条第7項に規定する帳簿又は請求書等については、同条第8項において、帳簿とは、1課税仕入れの相手方の氏名又は名称、2課税仕入れを行った年月日、3課税仕入れに係る資産又は役務の内容及び4課税仕入れに係る支払対価の額の各事項が記載されているものと規定し、同条第9項において、請求書等とは、事業者に対し課税資産の譲渡等を行う他の事業者が交付する請求書、納品書等で、1書類の作成者の氏名又は名称、2課税資産の譲渡等を行った年月日、3課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容、4課税資産の譲渡等の対価の額及び5書類の交付を受ける当該事業者の氏名又は名称の各事項が記載されているものと規定している。
 以上のことから、事業者が、課税仕入れの相手方すなわち仕入先の氏名若しくは名称を記載した帳簿又は書類の作成者の氏名若しくは名称を記載した仕入先発行の請求書等の保存をしていない場合に、その仕入れに係る消費税額は、たとえ課税事業者が事業として資産の譲渡等を受け、対価を支払ったものであっても、課税仕入れとして仕入税額控除ができないこととされている。
(ハ) そこで、仕入税額控除の適否について、前記(イ)の認定事実を上記(ロ)に照らして検討すると、次のとおりである。
A 本件帳簿等には、仕入先としてその氏名の氏に相当する部分の記載のみで、住所、電話番号等の記載もないため、本件帳簿等から仕入先を特定することはできない。法第30条第8項第1号のイは、明確に「課税仕入れの相手方の氏名又は名称」を記載することと規定しているのであるから、当該記載が同項の帳簿としては不備なものであることは明らかである。
 また、本件調査の際に、調査担当職員が請求人に仕入先を特定できない場合には仕入税額控除が適用できない旨説明し、本件取引の仕入先を特定するよう求めたにもかかわらず、請求人が本件仕入先を明らかにして記載不備を補完しようとしなかったことが認められるから、その時点において保存されていた帳簿等は、記載不備な状態における本件帳簿等のみであることになる。
B 本件取引に係る現金仕入納品書は、仕入先が発行したものではなく請求人方で作成されたものであり、法第30条第9項に規定する請求書等に当たらない。
 また、請求人が提出した粗利益率の推移表は、各期を含む6事業年度の売上高、粗利益及び粗利益率を記載したもので、仕入税額控除に係る帳簿又は請求書等に該当しないことが明らかである。
C ところで、請求人は、当審判所に対して、前記ロの(イ)のDのとおり、仕入先が特定できるものがあっても、仕入先を明らかにすると、取引ができなくなるおそれがあるため明らかにすることはできない旨答述しているが、これをもって請求人が適法な帳簿又は請求書等を保存しないことにつき災害その他やむを得ない事情がある旨主張していると解しても、そのような主張は仕入れの相手先の氏名又は名称を記載した帳簿等を保存することを求める法第30条第7項ないし第9項の規定の趣旨と全くあいいれないところであるから、このような理由をもってしては、法第30条第7項の「その他やむを得ない事情」に該当するとはいえない。
D 以上のとおりであるから、本件帳簿等に記載された氏の真偽につき検討するまでもなく、本件取引については、法第30条第7項に規定する仕入税額控除に係る帳簿又は請求書等の保存がない場合に該当し、同条第1項の規定による仕入税額控除を適用することはできない。
E なお、請求人は、本件取引の際、仕入先に消費税を支払ったのであるから本件取引に係る仕入税額控除を認めるべき旨主張するが、本件取引については、法第30条第7項の規定により、同条第1項の仕入税額控除の規定は適用することができないのであるから、本件取引に係る仕入れの存否、その支払対価の額、消費税相当額の仕入先への支払の有無について検討するまでもなく、仕入税額控除をすることはできない。
 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、本件取引に係る仕入税額控除を認めなかった本件更正処分は適法である。

(2) 本件賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件更正処分は適法であり、かつ、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分も適法である。

(3) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査によっても、これを不相当とすべき理由は認められない。

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