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(平6.9.30、裁決事例集No.48 458頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は飲食業(ラウンジ)を営む者であるが、平成2年1月1日から同年12月31日までの課税期間及び平成3年1月1日から同年12月31日までの課税期間(以下、順次「平成2年課税期間」、「平成3年課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税の確定申告書を提出しなかったところ、原処分庁は、平成5年3月9日付で、本件各課税期間について、次表のとおり、決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分をした。

(単位:円)
区分
課税期間
項目
平成2年課税期間 平成3年課税期間
決定処分 課税標準額 110,748,000 101,541,000
納付すべき税額 3,322,400 3,046,200
賦課決定処分 無申告加算税の額 498,000 456,000

 請求人は、これらの処分を不服として、平成5年4月14日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年7月26日付で、次表のとおり、一部を取り消す決定処分をした。

(単位:円)
区分
課税期間
項目
平成2年課税期間 平成3年課税期間
決定処分 課税標準額 108,268,000 97,559,000
納付すべき税額 3,248,000 2,926,700
賦課決定処分 無申告加算税の額 486,000 438,000

 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成5年8月12日に本件審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分(異議決定により一部取り消された後のもの。以下同じ。)は、次の理由により違法、不当であるから、その一部の取消しを求める。
イ 決定処分について
(イ) 課税標準額及び課税標準額に対する消費税額について
 請求人が本件各課税期間の消費税法第9条((小規模事業者に係る納税義務の免除))第1項の規定により消費税を納める義務を免除される事業者以外の事業者(以下「課税事業者」という。)であること及び本件各課税期間の消費税法第28条((課税標準))第1項に規定する課税資産の譲渡等の対価の額並びにこれに対する消費税額は、原処分庁の主張額と同額であるが、本件課税期間の仕入税額控除の額及び平成3年課税期間の貸倒れに係る消費税額の控除を認めるべきであり、納付すべき税額は、これらの控除後の額となるので、これを超える部分は取り消すべきである。
(ロ) 仕入税額控除について
 請求人が本件各課税期間中に行った課税仕入れに係る消費税額は、平成2年課税期間が2,699,041円、平成3年課税期間が2,380,069円であり、請求人は、これらの課税仕入れに係る帳簿又は請求書等を保存しているから、上記各消費税額は、消費税法第30条((仕入れに係る消費税額の控除))第1項(以下、同項に規定する課税仕入れに係る消費税額の控除を「仕入税額控除」という。)の規定により、本件各課税期間の消費税の課税標準額に対する消費税額から控除されるべきである。
 原処分庁は、請求人が、原処分の調査(以下「本件調査」という。)の際、本件調査を担当した職員(以下「調査担当職員」という。)に対し、本件各課税期間の課税仕入れに係る帳簿又は請求書等を提示しなかったことをもって、消費税法第30条第7項に規定する「課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿又は請求書等(以下「帳簿又は請求書等」という。)を保存しない場合」に該当するとし、たとえ本件調査後にこれらを提示しても、本件調査の際に提示しなかったのである以上、仕入税額控除は認められないとして、本件各課税期間の仕入税額控除の額をいずれも零円と認定しているが、原処分庁の同項に関する上記解釈は、次のとおり、消費税法の立法趣旨、課税要件の構造、目的等を逸脱しており、法律の解釈適用を誤っている。
A 消費税法第30条第7項に規定する帳簿又は請求書等が保存されているか否かは、次に述べるとおり、帳簿又は請求書等の物理的な保存の有無によって決せられるべきであるから、保存の事実が客観的に確認された場合には、その確認の時点がいかなる段階であったとしても、仕入税額控除を認めるべきである。
(A) 消費税法と同日(昭和63年12月30日)に公布された税制改革法第10条((消費税の創設))第2項は、「消費税は、事業者による商品の販売、役務の提供等の各段階において課税し、経済に対する中立性を確保するため、課税の累積を排除する方式による」と規定している。
 すなわち、消費税法は、生産、流通の各過程を経て事業者から消費者に提供される資産の譲渡等の流れに着目し、事業者の売上げを課税対象とすることにより税負担を求めるものであり、原則として、すべての事業者が納税義務者となる多段階方式を採用したため、課税の累積排除のための前段階税額控除の手続を採る必要が生ずる。そもそも、消費税は、事業者が負担すべきものではなく、事業者の販売する物品やサービスの価格に上乗せされ、次々に転嫁されて、最終的には消費者にその負担を求める税であるから、課税標準を課税資産の譲渡等の対価の額とするのである以上、課税の累積排除のための前段階税額控除方式を採ることは法律の構造上必然であり、このような課税の累積排除の手段として仕入税額控除が設けられているのである。
 ところで、消費税法が対象とする流通過程は日々変動するものであるから、後発的な事情等により、課税資産の譲渡等の対価の額や控除対象仕入税額に変動が生じることがあるが、消費税法は、同法第38条((売上げに係る対価の返還等をした場合の消費税額の控除))等からみても課税期間によって固定的に分断するのではなく、このような変動に合理的かつ柔軟に対応し、有効に課税の累積を排除し得る構造となっている。
 これらの規定は、いずれも、納税者がそれらの事実の存在を一定の書類により証明することをその適用要件としているが、そうである以上、当該要件を満たせば必ず適用されなければならないのであり、そうでなければ、課税の累積を排除しないこととなって、著しく公正に欠ける結果となるからである。
 また、取扱通達においても、消費税法取扱通達11ー1ー37((課税仕入れに係る支払対価の額が確定していない場合の見積り))は、課税仕入れを行った月の属する課税期間の末日までに対価の額が確定しない場合、これを適正に見積り確定後に清算する方法を認めており、変動する流通過程において発生し得る事態に対し、合理的かつ適正に対応するよう配意している。
 以上のような消費税法の趣旨、構造等からすれば、帳簿又は請求書等が物理的に保存されていることが確認されれば、仕入税額控除をしなければならないことは明らかであるというべきであり、原処分庁の主張するように、本件調査の際に帳簿又は請求書等の調査ができなかったことをもって、以後仕入税額控除の適用を全面的に排除することは、消費税法の趣旨等の根本的理解を欠くものであるといわざるを得ない。
(B) 消費税法第30条第7項は、仕入税額控除を適用しない要件として「帳簿又は請求書等を保存しない場合」と明文で定め、そのただし書において「災害その他やむを得ない事情により当該保存をすることができなかったことを当該事業者において証明した場合」には、仕入税額控除の適用を認めている。
 すなわち、現実に保存がない場合であっても、当該保存があったことが客観的に推認し得る場合は、これを保存と同視しているのである。
 そうすると、消費税法第30条第7項に規定する帳簿又は請求書等の保存とは、物理的な意味での保存を指すことは明らかであって、この点からも、原処分庁は、条文を曲解した誤った判断をしている。
(C) 消費税法施行令第50条((課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の保存期間等))第1項は、帳簿又は請求書等を7年間保存すべき旨規定しているが、本件審査請求日現在においてまだ7年間を経過しておらず、請求人は、現在においてもそれらの帳簿又は請求書等を保存している。
 請求人は、本件決定処分並びにこれと同時にされた平成元年分、平成2年分及び平成3年分(以下「各年分」という。)の所得税の各更正処分に係る異議申立てに際し、異議審理庁に対し、各年分の事業所得の金額の計算に必要な帳簿書類等(以下「帳簿書類等」という。)を提出しており、異議審理庁は、上記所得税の各更正処分に係る異議決定書において、請求人の提出した帳簿書類等の内容を検討したところ、請求人の事業実態に即した妥当なものであったと認め、当該帳簿書類等に基づき、取引実績額を基礎とした損益計算の方法(以下「実額計算の方法」という。)により請求人の事業所得の金額を認定した。
 したがって、請求人が本件各課税期間の帳簿又は請求書等を物理的に保存していたことは、異議審理庁によって調査確認されているのであるから、仕入税額控除を認めるべきである。
B 仮に、消費税法第30条第7項の規定が、仕入税額控除の適用を受けるためには、調査を担当する職員に対し、仕入税額控除に係る帳簿又は請求書等を提示することをも要するとしたものと解したとしても、本件においてはこれに該当しない。
 すなわち、提示がない場合とは「税務当局の行う調査の全過程を通じて、税務当局側が帳簿の備付状況等を確認するために社会通念上当然に要求される程度の努力を行ったにもかかわらず、その確認を行うことが客観的にみてできなかったと考えられる場合」(東京高等裁判所平成3年課税処分取消・所得税更正処分等取消請求控訴事件(甲事件)、平成5年2月9日判決)をいうものと解すべきところ、前記Aの(C)のとおり、請求人は、異議審理庁に対し、その異議調査において、本件各課税期間の帳簿又は請求書等を提示している。
 しかも、前記Aの(C)のとおり、異議審理庁は、所得税については、その異議決定書において、請求人の提出した帳簿書類等の内容を検討した結果、請求人の事業実態に即した妥当なものであると認め、当該帳簿書類等に基づいて実額計算の方法により請求人の事業所得の金額を認定したにもかかわらず、消費税については、帳簿又は請求書等が保存されていないとして仕入税額控除は認められないとしており、著しく取扱いの整合性を欠いている。
C さらに、前記A及び上記Bの主張がすべて認められないとしても、請求人は、本件調査に際し、調査担当職員が請求人に対し、帳簿又は請求書等の提示を求めたか否かは明確に記憶していないものの、本件調査中にこれらの帳簿又は請求書等を提示しなければ仕入税額控除が認められなくなる等の説明は一切受けなかった。
 消費税法は、まだ新しい税法であり、原処分の調査の際に仕入税額控除に係る帳簿又は請求書等を提示しなければ、たとえ、それ以後に提示したとしても、これを保存しない場合と同一視され、本件のような著しい不利益を被ることになるということは、一般的に予想し難いことであるから、少なくとも調査担当職員は、請求人に対し、本件調査の過程の中で、この点について明確にしておくべきである。
 したがって、これを怠ったまま決定処分をしたことは違法、不当である。
(ハ) 貸倒れに係る消費税額の控除について
 請求人は、平成3年課税期間について、消費税法第39条((貸倒れに係る消費税額の控除等))第2項に規定する貸倒れの事実が生じたことを証する書類を保存しているから、当該貸倒れに係る消費税額10,386円の控除が認められるべきであり、その理由は、上記(ロ)で述べた仕入税額控除が認められるべき理由と同旨である。
(ニ) 納付すべき消費税額について
 以上のとおりであるから、本件各課税期間について請求人が納付すべき消費税額は、平成2年課税期間が548,900円、平成3年課税期間が536,300円となる。
ロ 無申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、本件各課税期間の決定処分は、いずれもその一部を取り消すべきであり、これに伴い、本件各課税期間の無申告加算税の計算の基礎となる税額が異動することになるから、無申告加算税の賦課決定処分もその一部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 決定処分について
(イ) 課税標準額及び課税標準額に対する消費税額について
A 請求人は、本件調査に当たり、調査担当職員が消費税の課税標準額の計算に必要な帳簿書類等(以下「課税標準に係る書類等」という。)の提示を再三にわたり求めたのに対し、当該書類等を提示しなかったが、異議審理庁に対してはこれら課税標準に係る書類等を提出しており、平成3年課税期間については、当該帳簿書類等からその内容が確認できた。したがって、請求人の平成3年課税期間の課税資産の譲渡等の対価の額は、請求人の帳簿書類等に基づき実額計算の方法により算定した総収入金額100,486,150円に103分の100を乗じて計算し、97,559,368円と認めた。
 しかしながら、請求人は、平成2年課税期間については、金銭出納帳、売上明細帳、当座預金お取引明細表及び売掛帳の各帳簿等を異議審理庁に対し提出したものの、それら帳簿等の内容を裏付ける領収書等を提出しなかった。
 したがって、異議審理庁は、請求人の平成2年課税期間の課税資産の譲渡等の対価の額を実額計算の方法によって算定することができないので、やむを得ず、請求人の取引先に対する調査によって把握した資料等に基づき算定した請求人の平成2年課税期間の酒類に係る仕入金額を、請求人の平成3年課税期間の総収入金額に占める同課税期間の酒類に係る仕入金額の割合で除して、請求人の平成2年課税期間の課税資産の譲渡等の対価の額を計算した。
 請求人の平成2年課税期間の課税資産の譲渡等の対価の額及びその計算内容は、次のとおりである。
(A) 酒類に係る仕入金額
 請求人の平成2年課税期間の酒類に係る仕入金額は、原処分庁が請求人の取引先への調査により把握した8,464,092円である。
(B) 課税資産の譲渡等の対価の額
 上記(A)の酒類に係る仕入金額を、請求人の平成3年課税期間の総収入金額100,486,150円に占める同課税期間の酒類に係る仕入金額7,624,457円の割合7.59パーセントで除して計算すると、平成2年課税期間の総収入金額は111,516,363円となり、これに103分の100を乗じて計算すると、平成2年課税期間の課税資産の譲渡等の対価の額は108,268,314円となる。
B 請求人の本件各課税期間の消費税の課税標準額は、上記Aの課税資産の譲渡等の対価の額の千円未満の端数を切り捨てた後の金額、平成2年課税期間が108,268,000円、平成3年課税期間が97,559,000円であり、課税標準額に対する消費税額は、これらの金額に3パーセントを乗じた後の金額、平成2年課税期間が 3,248,040円、平成3年課税期間が2,926,770円である。
(ロ) 仕入税額控除について
 請求人は、本件調査に当たり、調査担当職員が請求人に対し帳簿又は請求書等の保存がある場合に限り仕入税額控除の適用がある旨を教示し、再三にわたりその提示を求めたにもかかわらず、その提示をしなかった。
 このことは、次のとおり、消費税法第30条第7項に規定する「仕入税額控除に係る帳簿又は請求書等を保存しない場合」に該当するから、本件調査後にこれらの帳簿又は請求書等を提示したとしても、仕入税額控除は認められない。
 したがって、本件各課税期間の仕入税額控除の額は、いずれも零円である。
A 消費税法第30条第7項に規定する帳簿又は請求書等の保存とは、次に述べるとおり、課税事業者がそれらの帳簿又は請求書等を単に保存しているというだけでは足りず、調査を担当する職員が、その存在をいつでも確認でき、内容を検査し得る状態にしておくことを要すると解すべきである。
(A) 消費税の調査において、調査を担当する税務職員が、質問検査権に基づき、帳簿又は請求書等の提示を求めたにもかかわらず、納税者が提示しない場合、当該職員は、納税者がそれらの帳簿又は請求書等を保存しているか否かを確認することができない。帳簿又は請求書等が保存されているか否かは、納税者がそれらの帳簿又は請求書等を提示することによってのみ確認することができるのであるから、その提示がない以上、保存されていないと判断せざるを得ない。
 また、消費税法第30条第7項に規定する帳簿又は請求書等の保存とは、それら帳簿又は請求書等の保存期間に関する同法施行令第50条第1項に規定するとおり、同項に定められた保存の開始の時期から一定の期間、保存された状態を維持継続しなければならない。
 したがって、納税者が、原処分の調査の際に、帳簿又は請求書等を提示しない場合には、その時点において、保存が継続されていることを確認できないのであるから、消費税法第30条第7項に規定する帳簿又は請求書等を保存していることには当たらないというべきである。
(B) 消費税法第30条第7項ただし書は、災害その他やむを得ない事情により、帳簿又は請求書等を保存できなかったことを事業者において証明した場合のゆうじょ規定であって、国税通則法第11条((災害等による期限の延長))の規定と同様、天災又は人為的な災害等、当該納税者の責めに帰すことのできない事情がある場合には、他の納税者と同様に取り扱うことは酷であるという趣旨によるものである。
 したがって、当該ただし書をもって、消費税法第30条第7項に規定する帳簿又は請求書等の保存とは、物理的な意味での保存を指すとする請求人の主張は理由がない。
(C) 異議審理庁は、請求人の平成3年分所得税に係る異議決定書において、請求人の提出した帳簿書類等に基づいて事業所得の金額を認定しているが、このことをもって、本件調査の際にそれらの帳簿書類等が既に保存されていたことが確認されたということはできない。
B 請求人は、消費税法第30条第7項の規定が、仕入税額控除の適用を受けるためには、調査を担当する職員に対し、帳簿又は請求書等を提示することをも要するとしたものと解したとしても、請求人は、異議審理庁に対し、それら帳簿又は請求書等を提示しているから、仕入税額控除を認めるべきである旨主張する。
 しかしながら、本件調査後において、異議審理庁に対し、帳簿又は請求書等を提示したとしても、そのことをもって、本件調査の段階までさかのぼってその時点において提示があったことにはならない。
 仮にこれを容認し、仕入税額控除を認めるとすれば、消費税法第30条第7項の規定が空文化することは明らかであり、他の納税者との均衡を考慮するならば、税務行政に対する納税者の信頼を損ねる結果となるから、原処分の調査後に提示した場合にまで仕入税額控除を認めることは妥当ではない。
 また、異議審理庁は、請求人の平成3年分所得税に係る異議決定書において、請求人の提出した帳簿書類等に基づいて事業所得の金額を認定しているが、消費税については、本件調査の際に帳簿又は請求書等の提示がなかったため、既に仕入税額控除の規定の適用の余地はないのであるから、仕入税額控除を認めなかったのであり、何ら違法ではない。
 そもそも、所得税法と消費税法とは、それぞれ別個独立した法律であり、その課税要件も異なっているのであるから、所得税と消費税とを同様に取り扱わなければならないということはない。
C 調査担当職員は、本件調査の際、請求人に対し、再三にわたり仕入税額控除は帳簿又は請求書等の保存がある場合に限り適用される旨を説明し、その提示を求めているから、請求人の前記(1)のイの(ロ)のCの主張は、その前提を欠く。
(ハ) 貸倒れに係る消費税額の控除について
 消費税法第39条第2項に規定する貸倒れの事実が生じたことを証する書類の保存とは、上記(ロ)の仕入税額控除の場合と同様に解すべきであるから、本件調査の際、請求人が当該書類を調査担当職員に対し提示しなかった以上、本件調査後に提示しても、同条同項に規定する保存があったことにはならない。
(ニ) 納付すべき消費税額について
 以上のとおりであるから、本件各課税期間について納付すべき消費税額は、前記(イ)のBの課税標準額に対する消費税額の百円未満の端数を切り捨てた後の金額、すなわち、平成2年課税期間が 3,248,000円、平成3年課税期間が2,926,770円である。
ロ 無申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、決定処分は適法であり、また期限内申告書の提出がなかったことについて、国税通則法第66条((無申告加算税))第1項に規定する正当な理由がある場合にも該当しないから、同項の規定に基づいてした無申告加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1) 決定処分について

 本件審査請求の争点は、本件各課税期間の消費税の課税標準額に対する消費税額から控除される仕入税額控除の額及び平成3年課税期間の貸倒れに係る消費税額の控除が適用できるか否かにあるので、以下検討する。
イ 課税標準額及び課税標準額に対する消費税額について
 当審判所の調査の結果によれば、請求人が本件各課税期間において消費税の課税事業者であること並びに請求人の平成2年課税期間の消費税の課税標準額が108,268,000円、課税標準額に対する消費税額が3,248,040円であること及び平成3年課税期間の消費税の課税標準額が97,559,000円、課税標準額に対する消費税額が2,926,770円であることが認められる。
ロ 仕入税額控除について
 仕入税額控除の規定の適用の可否に争いがあるので、以下検討する。
(イ) 請求人の答述、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 平成4年9月28日、調査担当職員は、請求人の自宅に臨場し、請求人に対し、各年分の所得税及び本件各課税期間の消費税の調査を行う旨告げ、消費税の課税標準に係る書類等並びに帳簿又は請求書等を提示するよう求めたこと。
B 平成4年11月18日、調査担当職員は、電話で、請求人に対し、消費税の課税標準に係る書類等及び帳簿又は請求書等の提示を求めたところ、請求人は「帳簿を見せるとろくなことはないし、しかられるのはわかっている。」旨申し立てたこと。
C 平成5年1月27日、調査担当職員は、請求人の事業所に臨場し、請求人に対し、帳簿又は請求書等の提示がなければ仕入税額控除は認められない旨説明し、これらの帳簿又は請求書等を提示するよう求めたが、請求人は「帳簿を見せても、間違ったところがあれば信用してもらえない。」旨申し立てたこと。
D 平成5年2月5日、調査担当職員は、電話で、請求人に対し、帳簿又は請求書等の提示がなければ仕入税額控除は認められない旨説明し、これらの帳簿又は請求書等の提示を求めたこと。
E 平成5年2月12日、調査担当職員は、請求人の事業所に臨場し、請求人に対し、帳簿又は請求書等の提示がなければ仕入税額控除は認められない旨説明し、これらの帳簿又は請求書等を提示するよう求めたが、請求人は「まともな帳面ではないから、提示するつもりはない。」旨申し立てたこと。
F 請求人は、上記AないしEの原処分の調査担当職員の帳簿又は請求書等の提示の求めに対して、何ら帳簿又は請求書等を提示していないこと。
G 請求人は、各年分の所得税の更正処分及び本件各課税期間の消費税の決定処分に係る異議申立てをした際、異議審理庁に対し、いずれも本件各課税期間に係る金銭出納帳、売上明細帳、銀行勘定帳、当座預金お取引明細表、売掛帳、いずれも平成3年課税期間に係るお勘定書及び同付属日報、収支日計表、入金及び出金伝票、課税仕入れに係る領収書等の証拠書類を提出したこと。
(ロ) ところで、課税仕入れに係る消費税額の控除については、消費税法第30条第1項において、事業者が国内において課税仕入れ等を行った場合には、当該課税仕入れ等を行った日の属する課税期間の同法第45条((課税資産の譲渡等についての確定申告))第1項第2号に掲げる課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額(当該課税仕入れに係る支払対価の額に103分の3を乗じて算出した金額)を控除する旨規定されている。
 また、消費税法第30条第7項において、同条第1項の規定は、事業者が当該課税期間の帳簿又は請求書等を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ等の税額については適用しないが、災害その他やむを得ない事情により、当該保存することができなかったことを、当該事業者において証明した場合は、この限りでない旨規定されている。
 さらに、消費税法施行令第50条第1項において「法第30条第1項の規定の適用を受けようとする事業者は、同条第7項に規定する帳簿又は請求書等を整理し、当該帳簿については、その閉鎖の日の属する課税期間の末日の翌日、当該請求書等については、その受領した日の属する課税期間の末日の翌日から2月を経過した日から7年間、これを納税地又はその取引に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地に保存しなければならない」と規定している。
 これらの規定内容からすれば、帳簿又は請求書等の保存年限が、消費税法では、税務当局において課税権限を行使できる最長の期限である7年とされていること、また、その保存場所も納税地等に限られていることからみて、消費税法第30条第7項で帳簿又は請求書等の保存を要求している趣旨は、ただ単に帳簿又は請求書等が事業者の支配下に存在するというだけでは足りず、適法な税務調査に際し、調査を担当する職員から帳簿又は請求書等の提示を求められたときには、正当な事由がない限りこれに応じ、当該職員において検査し得る状態、すなわち、帳簿又は請求書等に基づいて課税仕入れ等に係る消費税額が算出され得ることを予定しているものであって、逆に、かかる確実な資料が保存されていない場合には、仕入税額を控除しないということであると解される。
(ハ) 前記(イ)の事実及び上記(ロ)の規定に基づいて判断すると次のとおりである。
A 仕入税額控除は、上記(ロ)のとおり、帳簿又は請求書等の保存があるものについて適用されるところ、前記(イ)のAないしEのとおり、本件調査に際し、調査担当職員が請求人に対し、再三にわたり、帳簿又は請求書等の提示がなければ仕入税額控除の適用は認められない旨を説明し、本件各課税期間の帳簿又は請求書等の提示を求めたにもかかわらず、正当な理由もなくこれらの帳簿又は請求書等の調査を拒否し、これに応じなかったことが認められ、本件において請求人は、消費税法第30条第7項に規定する「仕入税額控除に係る帳簿又は請求書等を保存しない場合」に該当するというべきであるから、消費税法第30条第1項の規定による仕入税額控除を適用することはできない。
B 請求人は、消費税法第30条第7項に規定する帳簿又は請求書等が保存されているか否かは、帳簿又は請求書等の物理的な保存の有無によって決せられるべきであるから、保存の事実が客観的に確認された場合には、その確認の時点がいかなる段階であったとしても、仕入税額控除を認めるべきであると主張し、また、仮に消費税法第30条第7項の規定が、仕入税額控除の適用を受けるためには、調査を担当する職員に対し、帳簿又は請求書等を提示することをも要するとしたものと解したとしても、請求人は異議審理庁に対しそれらの帳簿書類等を提示しているから、これに該当しない旨主張する。
 しかしながら、前記(ロ)で述べたとおり、事業者が仕入税額控除の適用を受けるためには、法定申告期限を経過した日から7年間、適法な税務調査に際し、調査を担当する職員から帳簿又は請求書等の提示を求められたときにはこれに応じ、当該帳簿又は請求書等を当該調査を担当する職員が閲覧検査できる状態に置くべきことも含め、その保存を継続しなければならないところ、請求人は上記Aのとおり、本件調査に際して、帳簿又は請求書等を調査担当職員に提示しなかったのであるから、既にこの時点において、帳簿又は請求書等の保存を継続していなかったといわざるを得ないので、請求人の主張は採用することができない。
 また、請求人は、東京高等裁判所における判決を引用して上記の主張をするが、当該判決は、所得税法第150条((青色申告の承認の取消し))第1項第1号に規定する帳簿書類の備付け、記録又は保存が大蔵省令で定めるところに従って行われているか否かが争われた事例であり、本件とは処分に至る事実関係を異にするばかりでなく、異議申立て段階で所定の帳簿書類の存在が明らかになったことを取消しの事由とするものでないと認められ、上記判断を左右する資料とはならない。
 なお、請求人は、異議決定処分における所得税と消費税の判断が、著しく取扱いの整合性を欠くと主張するが、所得税の課税標準額の認定と異なり、消費税の仕入税額控除の適用については、消費税法第30条第7項に規定する帳簿又は請求書等を保存しない場合は適用しないこととされているのであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
C 請求人は、当審判所に対し仕入税額控除に係る帳簿書類として、請求人が異議審理庁に対し提出した前記(イ)のGの帳簿書類等を提出したことをもって、帳簿又は請求書等を保存していたことになるのであるから、課税仕入れに係る領収書等に基づく仕入税額控除を認めるべきである旨主張する。
 しかしながら、前記(ロ)で述べたとおり、事業者が仕入税額控除の適用を受けるためには、法定申告期限を経過した日から7年間、適法な税務調査に際し、調査を担当する職員から帳簿又は請求書等の提示を求められたときにはこれに応じ、当該帳簿又は請求書等を当該調査を担当する職員が閲覧検査できる状態におくべきことも含め、その保存を継続しなければならないところ、請求人は前記Aのとおり、本件調査に際して、帳簿又は請求書等を調査担当職員に一切提示しなかったのであるから、既にこの時点において、帳簿又は請求書等の保存を継続していなかったといわざるを得ない。
 したがって、請求人がその後に至り、課税仕入れに係る領収書等を当審判所に提出したからといって、請求人が仕入税額控除の適用を受けることができることとなると解することはできない。
D 請求人は、本件調査の際、調査担当職員は、仕入税額控除は帳簿又は請求書等の保存がある場合に限り適用される旨の説明を行っておらず、これを怠ったまま決定処分をしたことは、違法、不当である旨主張するが、前記(イ)のとおり、本件調査に際し、調査担当職員が請求人に対し、再三にわたり、保存を前提とする帳簿又は請求書等の提示がなければ仕入税額控除は認められない旨を説明し、本件各課税期間の帳簿又は請求書等の提示を求めたにもかかわらず、請求人は、正当な理由もなくこれらの帳簿又は請求書等の調査を拒否し、これに応じなかったことが認められるから、請求人の主張は理由がない。
ハ 貸倒れに係る消費税額の控除について
 請求人は、平成3年課税期間について、消費税法第39条第2項に規定する貸倒れの事実が生じたことを証する書類を保存しているから、当該貸倒れに係る消費税額の控除を認めるべきであると主張するので、以下審理する。
(イ) 事業者が、課税資産の譲渡等を行った場合において、その課税資産の譲渡等の相手方に対する売掛金その他の債権につき貸倒れの事実が生じたため、その課税資産の譲渡等の税込価額の全部又は一部を領収することができなくなったときは、消費税法第39条第1項の規定により、その領収することができなくなった日の属する課税期間の課税標準に対する消費税額から、その領収することができなくなった税込価額に係る消費税額を控除することとされている。
 この貸倒れに係る消費税額の控除の適用を受ける場合には、消費税法第39条第2項及び同法施行規則第19条((貸倒れの事実を証する書類及びその保存))の規定により、その貸倒れとなる事実が生じたことを証する書類を法定申告期限を経過した日から7年間、納税地又は事務所等の所在地に保存することを適用要件としており、当該書類の保存の解釈については、前記ロの(ロ)の帳簿又は請求書等の保存の場合と同様に解するのが相当である。
 なお、貸倒れに係る消費税額の控除については、確定申告書に記載があるなど明らかな場合以外は一般的に貸倒れの有無を推測することは困難であることからも、当該控除を求める事業者がその事実を調査を担当する職員に説明し、また、これを証する書類の提示を要すると解される。
(ロ) 請求人は、本件調査において前記ロの(イ)の事実のとおり、調査担当職員が、再三にわたり、請求人に対し課税標準に係る書類等及び帳簿又は請求書等の提示を求めたにもかかわらず、消費税の課税標準及び仕入税額控除の計算に必要な帳簿等を一切提示しておらず、また、請求人は、平成3年課税期間の消費税確定申告書を提出していない上、調査担当職員に貸倒れの事実が生じた旨の説明もしていないことが認められる。
(ハ) 以上のとおりであるから、請求人が本件調査の際に貸倒れの事実が生じたことを調査担当職員に説明せず、また、これを証する書類を調査担当職員に提示しなかった時点において、当該書類の保存が継続していなかったといわざるを得ず、請求人は、消費税法第39条第2項に規定する「保存しない場合」に該当することとなるので、その後において当審判所に当該書類を提出したからといって、貸倒れに係る消費税額の控除の適用を受けることができることとなると解することはできない。
 したがって、当該貸倒れに係る消費税額の控除を認めるべきであるとの請求人の主張は、採用することができない。
ニ 納付すべき消費税額について
 以上のとおりであるから、請求人の主張はいずれも理由がなく、本件各課税期間の仕入税額控除の額及び消費税法第39条第1項の規定により控除すべき貸倒れに係る消費税額は、いずれも零円であるから、本件各課税期間の課税標準額に対する消費税額について、それぞれ、国税通則法第119条((国税の確定金額の端数計算等))第1項の規定により百円未満の端数を切り捨てて計算すると、請求人の納付すべき消費税額は、平成2年課税期間が3,248,000円、平成3年課税期間が2,926,700円となる。
 そうすると、消費税の決定処分はいずれも請求人の納付すべき消費税額と同額であるから、本件各課税期間の消費税の決定処分は適法である。

(2) 無申告加算税の賦課決定処分について

 以上のとおり、消費税の決定処分はいずれも適法であり、また、期限内申告書の提出がなかったことについて、国税通則法第66条第1項に規定する正当な理由がある場合にも該当しないので、同項の規定に基づいてした無申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(3) 原処分のその他の部分については請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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