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(平7.1.17裁決、裁決事例集No.49 23頁)

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、会社役員であり、かつ、不動産貸付業を営む者であるが、平成2年分及び平成3年分(以下「両年分」という。)の所得税の確定申告書に不動産所得の金額等を次表のとおり記載して、それぞれ法定申告期限までに申告した。

(単位 円)
項目\年分平成2年分平成3年分
総所得金額65,840,50512,443,404
内訳
 不動産所得の金額34,359,705△7,607,396
 配当所得の金額8,565,8001,125,800
 給与所得の金額22,915,00018,925,000
納付すべき税額19,424,500△3,020,850

(注)「不動産所得の金額」欄の△印は、その金額が損失の金額であることを、「納付すべき税額」欄の△印は、その金額が還付金の額に相当する税額であることを示す。
 原処分庁は、これに対し平成5年4月28日付で両年分について次表のとおり更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。

(単位 円)
区分\項目\年分平成2年分平成3年分
更正処分
 総所得金額87,302,26540,190,687
 内訳
  不動産所得の金額55,821,46520,139,887
  配当所得の金額8,565,8001,125,800
  給与所得の金額22,915,00018,925,000
 納付すべき税額30,155,0009,889,800
賦課決定処分
 過少申告加算税の額1,073,0001,816,500

 請求人は、これらの処分を不服として平成5年6月4日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、これに対し同年9月7日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成5年10月6日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
イ 更正処分について
 原処分庁は、請求人が取得したP市R町4124番10、同所4125番1、同所4125番4、同所4126番7及び同所4126番10所在の土地(以下これらの土地を併せて「本件土地」という。)及び本件土地の上に存する建物(以下、「既存建物」といい、本件土地と併せて「本件土地等」という。)は業務の用に供される資産に当たらないから、本件土地等に係る不動産取得税、登記費用、固定資産税、借入金利子及び保証料(以下これらを併せて「本件借入金利子等」という。)の額は、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額には当たらないとして更正処分をしたが、次に述べるとおり、原処分庁は事実を誤認している。
 したがって、次表の本件借入金利子等の額については、不動産所得の金額の計算上必要経費の額に算入すべきであり、また、請求人は、原処分庁が認定した本件借入金利子等の額以外の必要経費の額については争わないから、請求人の平成2年分の不動産所得の金額は34,359,705円及び平成3年分の不動産所得の損失金額は6,893,900円となり、原処分庁は不動産所得の金額を過大に算定している。

(単位 円)
項目\年分平成2年分平成3年分
借入金利子の額10,753,83026,600,127
租税公課の額4,361,820433,660
雑費の額(保証料の額)6,346,110

(イ)請求人は、従前から不動産貸付業を大規模に行っており、本件土地等もこの事業の一環として、本件土地がホテルの建設に非常に適していたので、銀行から借入れを行い購入したものである。
(ロ)本件土地等を使用収益できなかった理由は、ホテル建設が始まるまでの間いったん貸してしまうと、後々立退き等でトラブルが生じかねないので貸さなかったにすぎないものである。
(ハ)P市当局の行政指導が非常に緩慢で、ホテル建設までに非常に手間取っているのが実情であるが、請求人は、所期の目的を果たすため、その利用設計図の作成やP市当局に対する折衝等も頻繁に行っており、いたずらに開発許可申請等の手続きを放置していたものではない。
 なお、請求人は、原処分庁が主張する後記(2)のイの(イ)のAの事実については争わない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、更正処分は違法であり、その一部を取り消すべきであるから、これに伴い両年分の過少申告加算税の賦課決定処分もその一部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 更正処分について
(イ)不動産所得に係る本件借入金利子等の額
A 原処分庁の調査担当職員が調査したところ、次の事実が認められた。
(A)請求人は、本件土地等の取得後これを賃貸していないこと。
(B)本件土地は、都市計画法第7条《市街化区域及び市街化調整区域》に規定する市街化調整区域内にあること。
(C)請求人は、本件土地の利用計画として次の計画設計を行ったが、いずれも実行していないこと。
a 平成2年9月に三世帯賃貸住宅を建設することを計画し、その設計図を有限会社G(以下「G社」という。)に依頼して作成した。
b 平成2年12月に四世帯賃貸住宅を建設することを計画し、その設計図をH株式会社に依頼して作成した。
c 平成4年3月にホテルを建設して賃貸することを計画し、その設計図をG社に依頼して作成した。
d 平成4年9月に三世帯賃貸住宅を建設することを計画し、その設計図をG社に依頼して作成した。
(D)請求人は、前記(C)で述べたとおり、種々の建物の設計図を作成したが、当該建物建設に係る見積書の作成、建設業者の選定や建設請負契約の締結等は行っていないこと。
(E)請求人は、既存建物の取壊しや建物建設のために本件土地を整地する等の行為を行っていないこと。
(F)請求人は、市街化調整区域内において建築物を建設するために必要な開発許可の申請を行っていないこと。
B ところで、業務用資産とは、現実に業務のために使用されているもののほか、将来業務の用に供されることが明らかなものも含まれると解されるが、利用目的が多岐にわたる土地が業務用資産であるかどうかは、当該土地の取得目的や取得者の主観的意思において業務の用に供される資産であるというだけでは足りず、その土地の具体的な利用計画及び利用状況等から客観的に業務の用に供することが明らかであることが必要であると解される。
C そこで、前記Aで述べた事実によれば、請求人は、本件土地等の取得後これを何ら業務の用に供しておらず、また、本件土地の上に建設する建物の設計図の作成は数回行っているものの、建物の見積書の作成や建設業者の選定などの具体的な建設計画は行っていないことが認められる。
 さらに、市街化調整区域内にある本件土地に建物を建設するためには、都市計画法に定める許可が必要であるにもかかわらず、請求人は許可申請も行っていないなど、その状況等からみると、本件土地等を業務の用に供することが客観的に明らかであったとは認められない。
 したがって、本件土地等は業務の用に供される資産であるとはいえないから、本件借入金利子等の額は、不動産所得の金額の計算上必要経費の額に算入することはできない。
 なお、P市当局の行政指導が緩慢であったとする請求人の主張は、本件土地等が業務用資産に当たるか否かの判断上直接の関係はない。
D 以上により、次表の本件借入金利子等の額については、請求人の不動産所得の金額の計算上必要経費の額に算入することはできない。

(単位 円)
項目\年分平成2年分平成3年分
借入金利子の額10,753,83026,600,127
租税公課の額4,361,820433,660
雑費の額(保証料の額)6,346,110

(ロ)不動産所得の金額
 以上の結果、両年分の不動産所得の金額は、次表のとおりとなり、これらの金額は、いずれも更正処分に係る不動産所得の金額と同額であるから、本件更正処分は適法である。

(単位 円)
項目\年分平成2年分平成3年分
総収入金額(1)148,060,048180,913,840
必要経費の額
 給料賃金246,000
 減価償却費27,499,60262,621,757
 借入金利子42,141,86569,753,427
 租税公課9,818,49014,796,690
 損害保険料1,558,1201,910,080
 修繕費3,551,5345,130,861
 水道光熱費1,069,4701,321,868
 消耗品費695,546
 支払手数料2,549,614
 雑費5,657,9562,689,656
  合計(2)92,238,583160,773,953
不動産所得の金額55,821,46520,139,887
((1)−(2))

ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、かつ、請求人には国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づき両年分の過少申告加算税の賦課決定処分をしたものである。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件借入金利子等の額が不動産所得の金額の計算上必要経費の額に算入されるか否かにあるので、以下審理する。

(1)更正処分について

 請求人は、本件借入金利子等の額について、原処分庁がこれを不動産所得の金額の計算上必要経費の額に算入しなかったことは事実誤認に基づく違法がある旨主張するので審理したところ、以下のとおりである。
イ 本件借入金利子等の額
(イ)次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
A 本件土地は、都市計画法第7条第3項に規定する市街化調整区域内にある宅地であること。
B 請求人は、本件土地等を取得後貸付けの用に供したことがないこと。
C 請求人は、本件土地の利用計画として、平成2年9月以降4回にわたり三世帯賃貸住宅、四世帯賃貸住宅又はホテルを建設することを計画し、その建物の設計図を外部業者に依頼して作成したものの、当該建物建設に係る見積書の作成、建設業者の選定及び建物建設請負契約の締結等は行っていないこと。
D 請求人は、ホテル等を建設するために既存建物の取壊し及び本件土地の整地などの行為を行っていないこと。
E 請求人は、本件土地の上に建物を建設するために必要な開発行為の許可申請等を行っていないこと。
(ロ)本件土地等に係る登記簿謄本によれば、本件土地等は、平成2年6月29日の売買を原因として、同日請求人に所有権移転の登記がされていることが認められる。
(ハ)当審判所が、P市役所宅地指導課において、本件土地に建物を建設する場合の開発許可関係について調査したところによれば、本件土地に建物を建設する場合には、市街化調整区域内であるため、従前の建物と規模、構造及び用途が同一のいわゆる用途変更を伴わないものしか建設することができず、この結果、仮に、既存建物を取り壊した上で本件土地上に請求人が主張するようなホテルを建設する旨の許可申請がなされたとしても、これが許可されることは有り得ないことが認められる。
(ニ)請求人は、当審判所に対し要旨次のように答述している。
A 本件土地等の取得目的はホテルの用に供するためであり、当然、利用計画もそれに沿うものであったこと。
 したがって、三世帯賃貸住宅及び四世帯賃貸住宅の設計図を作成した理由は、ホテルに転用することを前提にしたものであり、そのような住宅であれば、ホテルに転用しやすいということで当該設計図を作成したものであること。
B 本件土地等を貸付けの用に供さなかったのは、わずかな利益を上げることより、そもそもの目的がホテルの建設にあったためであること。
C 本件土地等を購入する際、本件土地が市街化調整区域内にある宅地であることは知っていたが、それでもホテルの建設は可能であると思っていたこと。
 そして、本件土地に建物を建てることはできても、ホテルとしての営業許可が下りないということをずっと後に知り、その結果、本件土地にはホテルができないということを知ったこと。
(ホ)ところで、所得税法第37条《必要経費》第1項の規定によれば、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、不動産所得に係る収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における一般管理費その他不動産所得を生ずべき業務について生じた費用の額とされている。
 ここにいう「不動産所得を生ずべき業務」とは、所得税法第26条《不動産所得》第1項に規定する不動産所得が、不動産等の貸付けによる所得をいうことから、不動産等の貸付けに係る業務をいうものと解されるところ、土地等の不動産は、貸付けの用に供されるだけでなく、賃貸以外の業務用や家事用として利用したり、また、値上がり益を得るために保有されることもあるなどその利用方法等が多岐にわたることから、不動産貸付業を営む者の所有する土地等がいまだ貸付けに係る業務の用に供されていないものである場合、その借入金利子等が不動産所得を生ずべき業務について生じた費用に当たるというためには、その者が当該土地等を貸付けの用に供する意思を有していたというだけでは足りず、当該土地等の具体的な利用計画とその実現可能性、準備手続や建設工事の進行状況等からして、当該土地等が貸付けの用に供されることが客観的に明らかであることを必要とすると解するのが相当である。
(ヘ)そこで、本件土地等について、前記(イ)、(ロ)及び(ハ)の各事実並びに前記(ニ)の請求人の答述を前記(ホ)の解釈に照らして判断すると、請求人は、平成2年6月29日に本件土地等を取得して以来、これを利用するためにホテル等の建設を計画しその建物の設計図を作成するなど、本件土地を貸付けの用に供する意思を有していたことはうかがえるものの、いまだ計画した建物の建設着工がなされていないばかりか、本件土地の上に建物を建設するために必要な開発許可の申請や建物建設請負契約の締結、既存建物の取壊し等すら行われていないこと、更に、前記(ハ)で述べたとおり、本件土地に建物を建設する場合、用途変更を伴わない建物の建設しかできず、請求人が計画したホテルの建設はできないことなどからすれば、本件土地等については、貸付けの用に供されることが客観的に明らかであるとは認められない。
 したがって、本件土地等は、不動産所得を生ずべき業務の用に供されている資産には該当しないものというべきであり、本件借入金利子等の額は、請求人の両年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。
(ト)本件借入金利子等の額については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によっても相当と認められるものであるところ、原処分庁がこれを不動産所得の金額の計算上必要経費としなかったことは、前記(ヘ)で述べたとおり相当と認められるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 以上の結果、本件借入金利子等の額を請求人の不動産所得の金額の計算上必要経費の額に算入しなかった更正処分は適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、また、請求人には、確定申告の税額を計算するに当たり、原処分庁が過少申告加算税の基礎とした税額に係る事実を確定申告の税額の計算の基礎としなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてした過少申告加算税の各賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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