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(平7.6.20裁決、裁決事例集No.49 34頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、料理飲食業(ふぐ割烹)を営む者であるが、平成2年分及び平成3年分(以下、併せて「各年分」という。)の所得税について、青色の確定申告書(平成2年分については分離課税用、平成3年分については損失申告用)に総所得金額等を次表のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。

(単位 円)
項目\年分平成2年分平成3年分
総所得金額38,186,035△13,997,567
内訳
 事業所得の金額4,933,797△12,602,753
 不動産所得の金額△5,497,762△1,394,814
 一時所得の金額38,750,000
分離長期譲渡所得の金額1,717,100,000
納付すべき税額269,816,0000

(注)表中の△印は、その金額が損失の金額であることを示す。
 次いで、請求人は、原処分庁所属の職員の調査を受け、各年分の所得税について、次表のとおりとする修正申告書を平成4年7月10日に提出した。

(単位 円)
項目\年分平成2年分平成3年分
総所得金額41,328,116△13,625,081
内訳
 事業所得の金額8,013,797△12,602,753
 不動産所得の金額△5,435,681△1,022,328
 一時所得の金額38,750,000
分離長期譲渡所得の金額1,717,100,000
納付すべき税額271,387,0000

(注)表中の△印は、その金額が損失の金額であることを示す。
 原処分庁は、これに対し、平成4年8月31日付で平成2年分の所得税について、過少申告加算税の額を157,000円とする賦課決定処分(以下「本件修正申告に係る過少申告加算税の賦課決定処分」という。)をするとともに、同日付で各年分の所得税について、総所得金額等を次表のとおりとする更正処分(以下、平成2年分に係るものを「平成2年分の更正処分」、平成3年分に係るものを「平成3年分の更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。

(単位 円)
区分\項目\年分平成2年分平成3年分
更正処分
 総所得金額59,508,9374,864,098
 内訳
  事業所得の金額8,013,797△12,602,753
  不動産所得の金額△5,435,681△1,022,328
  一時所得の金額38,750,000
  雑所得の金額18,180,82118,489,179
 分離長期譲渡所得の金額1,717,100,000
 納付すべき税額280,477,000292,300
賦課決定処分
 過少申告加算税の額909,0001,068,500

(注)表中の△印は、その金額が損失の金額であることを示す。
 その後、請求人は、平成4年10月6日に各年分の所得税について、総所得金額等を次表のとおりとすべき旨の更正の請求(以下「本件第一次更正の請求」という。)をし、さらに、平成2年分の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分並びに本件修正申告に係る過少申告加算税の賦課決定処分に不服があるとして、平成4年10月28日に審査請求をした。

(単位 円)
項目\年分平成2年分平成3年分
総所得金額39,726,035△13,997,567
内訳
 事業所得の金額8,013,797△12,602,753
 不動産所得の金額△5,497,762△1,394,814
 一時所得の金額37,210,000
 雑所得の金額00
分離長期譲渡所得の金額1,717,100,000
納付すべき税額270,586,0000

(注)表中の△印は、その金額が損失の金額であることを示す。
 原処分庁は、平成5年7月8日付で、平成2年分の本件第一次更正の請求に対し、更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件第一次通知処分」という。)をするとともに、同年分の所得税について、総所得金額等を次表の「平成2年分」欄のとおりとする再更正処分(以下「平成2年分の再更正処分」という。)及び過少申告加算税の変更決定処分をし、また、同日付で平成3年分の本件第一次更正の請求に対して、総所得金額等を次表の「平成3年分」欄のとおりとする再更正処分(以下「平成3年分の更正の請求に対する更正処分」という。)及び過少申告加算税の変更決定処分をした。

(単位 円)
区分\項目\年分平成2年分平成3年分
更正処分
 総所得金額57,951,5564,759,809
 内訳
  事業所得の金額8,013,797△12,602,753
  不動産所得の金額△5,453,062△1,126,617
  一時所得の金額37,210,000
  雑所得の金額18,180,82118,489,179
 分離長期譲渡所得の金額1,717,100,000
 納付すべき税額279,698,500281,900
変更決定処分
 過少申告加算税の額988,0001,067,000

(注)表中の△印は、その金額が損失の金額であることを示す。
 請求人は、本件第一次通知処分並びに平成3年分の更正の請求に対する更正処分及び過少申告加算税の変更決定処分に不服があるとして、平成5年8月30日に審査請求をし、その後、平成6年3月23日に各年分の所得税について、その理由を第一次更正の請求と異にし、かつ、金額を第一次更正の請求のとおりとする更正の請求(以下「本件第二次更正の請求)という。)をした。
 原処分庁は、これに対し、平成6年7月29日付で、いずれも更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件第二次通知処分」という。)をした。
 請求人は、本件第二次通知処分に不服があるとして、平成6年9月27日に審査請求をした。
 そこで、当審判所は、以上の処分に対する各審査請求について国税通則法第104条《併合審理等》第1項の規定に基づき併合審理をする。
 また、平成4年8月31日付の平成3年分の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分についてもあわせ審理する。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 総所得金額について
(イ)事業所得の金額
 各年分の事業所得の金額は、各年分の修正申告書に記載したとおり、平成2年分は8,013,797円であり、平成3年分は12,602,753円の損失である。
(ロ)不動産所得の金額
 不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入すべき減価償却費の計算の基礎となる賃貸マンションの取得価額(建物に係る部分に限る。以下同じ。)の算定方法については、所得税法上規定がないのであるから、他の法令及び通達を類推適用し、合理的な基準によって算定すべきところ、請求人がP市R町208‐1に居住するI(以下「売主」という。)から平成2年10月27日に購入したQ市S町195番6所在の賃貸マンション(以下「本件マンション」という。)の取得価額は、売主の建築原価に販売経費、適正利潤及びその他建築物の付加的価値(本件の場合は、購入時に賃借人が入居済みであること)を考慮し、租税特別措置法関係通達63(2)−4(以下「措置法関係通達63(2)−4」という。)を適用して、売主の取得価額である88,489,334円の142パーセント相当額が請求人の取得価額と推定されるところ、請求人が各年分の不動産所得の金額の計算上、本件マンションの減価償却費の計算の基礎とした取得価額111,348,000円は、その範囲内であるから合理的なものである。
 この取得価額を基礎にすれば、本件マンションの減価償却費の額は平成2年分283,937円及び平成3年分1,703,624円となり、減価償却費の合計額は、平成2年分291,362円及び平成3年分1,774,208円となるから、各年分の不動産所得の損失額は、平成2年分5,497,762円及び平成3年分1,394,814円となる。
(ハ)一時所得の金額
 平成2年分の一時所得の金額は、37,210,000円であり、原処分庁が認定したとおりである。
(ニ)雑所得の金額
A 請求人は、当時T市V町1丁目63番8号に居住していたC(以下「C」という。)に対し、平成2年5月8日に350,000,000円の貸付金(以下「本件貸付金」という。)を、弁済期を同月24日、利息の割合を年8パーセントと定めて貸し渡し、同日、Cからその旨の金銭借用証書(以下「本件A借用証書」という。)の交付を受けた。
 その後、Cは、弁済期を経過するも、本件貸付金を弁済せず、その利息も支払わなかったが、平成3年8月16日に至り、本件貸付金に対する平成2年5月8日から平成3年8月16日までの利息の額36,670,000円について、弁済期を平成4年8月15日とする金銭借用証書(以下「本件B借用証書」という。)を作成し、これを請求人に交付した。
B ところで、本件A借用証書においては、平成2年5月25日以後の利息の収受についての特約をしておらず、無利息貸付けとしているところ、無利息貸付けの場合は、所得税法においては収入認定の具体的条項はないから、平成2年分の雑所得の金額の計算上、収入すべき権利が確定していたのは本件貸付金に対する平成2年5月8日から同月24日までの利息の額1,304,109円のみであり、平成2年5月25日から平成3年8月16日までの本件貸付金に対する利息の額は、平成3年8月16日に至って初めて収入すべき権利が確定したものである。
 したがって、上記利息の額36,670,000円のうち原処分庁が平成2年分の雑所得として認定した18,180,821円から、平成2年5月8日から同月24日までの利息の額1,304,109円を除いた16,876,712円は、雑所得の金額の計算上平成2年分に計上することはできない。
C 原処分庁が雑所得として認定した本件貸付金に対する利息の額36,670,000円は、次のとおり、Cの所在不明及び同人に対する債権放棄によりその全部が回収不能となった。
(A)Cは、平成4年8月15日を経過するも本件貸付金に対する利息の額36,670,000円を支払わず、同月16日以降、請求人のもとを訪れることもなく、請求人に連絡さえ全くしない。
(B)平成4年9月29日、本件B借用証書に記載されたCの住所地であるT市V町1丁目63番8号所在のメゾンX(以下「メゾンX」という。)を訪れ、メゾンXの住人に確認したところ、Cなる人物が入居した形跡も記憶もないとのことであった。また、メゾンXの郵便受け及び住宅地図に記載された同所の入居人リストにもCの名は見当たらない。
(C)また、請求人は、平成6年1月25日、E郵便局受付第○○○号内容証明郵便をもって、前記(B)の住所にあてて、Cに対し、本件貸付金に対する利息の全額を放棄する旨通知した。
 したがって、所得税法第64条《資産の譲渡代金が回収不能となった場合等の所得計算の特例》第1項の規定により、本件貸付金に対する利息の額は、その全額が各年分の雑所得の金額の計算上なかったものとみなされる結果、請求人の各年分の雑所得の金額は零円となる。
 なお、本件B借用証書は、Cが一方的に差し入れたもので、本件貸付金に対する利息の額の確認書類にすぎず、当該利息の額について新たな金銭消費貸借がなされたことを示すものではないから、当該利息の全額が回収不能となったことに何ら影響を及ぼすものではない。
 また、仮に上記利息の額について原処分庁が主張するように準消費貸借契約が成立したとしても、新旧両債権・債務の間には同一性があるから、請求人の当該新債権が回収不能となったときは、所得税法第64条第1項が適用されるべきである。
ロ 分離長期譲渡所得の金額について
 平成2年分の分離長期譲渡所得の金額は、1,717,100,000円であり、原処分庁の認定額のとおりである。
ハ 総所得金額及び分離長期譲渡所得の金額について
 以上の結果、平成2年分の総所得金額及び分離長期譲渡所得の金額並びに平成3年分の総所得金額は次表のとおりとなる。

(単位 円)
項目\年分平成2年分平成3年分
総所得金額39,726,035△13,997,569
内訳
 事業所得の金額8,013,797△12,602,753
 不動産所得の金額△5,497,762△1,394,814
 一時所得の金額37,210,000
 雑所得の金額00
分離長期譲渡所得の金額1,717,100,000

(注)表中の△印は、その金額が損失の金額であることを示す。
ニ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、原処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い平成2年分の過少申告加算税の賦課決定処分は、本件修正申告に係るものも含めて、また、平成3年分の過少申告加算税の変更決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 総所得金額について
(イ)事業所得の金額
 各年分の事業所得の金額は、各年分の修正申告書に記載された金額で、平成2年分は8,013,797円であり、平成3年分は12,602,753円の損失である。
(ロ)不動産所得の金額
A 請求人は、各年分の不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入すべき減価償却費の計算の基礎となる本件マンションの取得価額を措置法関係通達63(2)−4に基づいて算定すべきである旨主張する。
B ところで、同通達は、土地譲渡益重課制度における土地譲渡益を計算する上で土地等と建物を一括譲渡した場合における当該譲渡の対価の額を土地等に係る対価の額と建物に係る対価の額に区分するための簡便な方法を定めたものである。
C そもそも、土地譲渡益重課制度は、土地投機の抑制を主たる目的としつつ、併せて土地の供給促進にも配慮するという基本的な考え方のもとに創設されたものであって、費用の適正な配分をその目的とする減価償却制度における取得費の考え方とはおのずから異なるものである。
 したがって、同通達は減価償却費の計算上適用されるべきものではない。
D 各年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべき本件マンションの減価償却費の額は、次の(B)及び(C)のとおり平成2年分239,237円及び平成3年分1,435,427円となるから、減価償却費の合計額は、平成2年分246,662円及び平成3年分1,506,011円となり、各年分の不動産所得の損失額は、平成2年分5,453,062円及び平成3年分1,126,617円となる。
 なお、本件マンションの減価償却費の計算の基礎となる取得価額は、売主の取得価額を基に次の(A)のとおり算定した。
(A)本件マンションの取得価額
a 請求人の本件マンション及びその敷地の取得対価の合計額 215,000,000円
b 売主の敷地の取得価額 114,297,375円
c 売主の本件マンションの取得価額 88,489,334円
 a×(c÷(b+c))=215,000,000円×(88,489,334÷(114,297,375円+88,489,334円))=93,818,805円
(B)本件マンションに係る平成2年分の減価償却費の額
 93,818,805円×0.9×0.017×2/12×100%=239,237円
(C)本件マンションに係る平成3年分の減価償却費の額
 93,818,805円×0.9×0.017×12/12×100%=1,435,427円
(ハ)一時所得の金額
 平成2年分の一時所得の金額は、修正申告書に記載された収入金額(確定申告書の金額と同額)78,000,000円から、請求人が弁護士Gに対して支払った報酬額3,500,000円のうち事業所得の金額の計算上必要経費に算入された420,000円を除く3,080,000円を控除した金額から、更に所得税法第34条《一時所得》第3項に規定する特別控除額500,000円を控除した後の金額の2分の1に相当する金額37,210,000円である。
(ニ)雑所得の金額
A 請求人に対する原処分に係る調査(以下「本件調査」という。)によれば、次の事実が認められる。
(A)本件A借用証書には、丸1平成2年5月8日にCが請求人から本件貸付金を借り受けたこと、丸2その利息の割合が年8パーセントであること及び丸3本件貸付金の弁済及びその利息の支払は同月24日までであることが記載されていること。
(B)請求人は、本件A借用証書に記載のとおり、本件貸付金をCに貸し付けたが、Cは、平成2年5月24日までにこれを弁済せず、また、その利息も支払わなかったこと。
(C)そこで、Cは、自己が所有するM市W町1丁目16番2号及び同10号所在の各宅地(以下「W町の宅地」という。)を、350,000,000円で請求人に売却することとし、平成3年8月16日付で土地売買契約書(以下「本件売買契約書」という。)を作成し、これを実行したこと。
(D)本件売買契約書の日付と同一日付の本件B借用証書には、Cが請求人から36,670,000円を借り受けたことが記載されていること。
(E)原処分庁の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)が請求人に対し本件B借用証書の記載金額について質問したところ、請求人は、36,670,000円は先に貸し付けた本件貸付金の平成2年5月8日から平成3年8月16日の期間に対応する利息である旨申述していること。
(F)平成3年8月16日には金銭の授受が行われていないこと。
B ところで、所得税法第36条《収入金額》第1項の規定によれば、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、その年において収入すべき金額であるとされており、この場合の「その年において収入すべき金額」とは、その年において収入すべき権利が確定した金額と解される。
 そして、金銭の貸付けによる利息収入については、原則として、一般の企業会計の方法に従って期間計算により収入計上するのが相当であるから、その年に対応するものについては、その年の末日にその対応する部分の金額を総収入金額に算入することとなる。
C 前記Aの事実によれば、本件貸付金については、Cが平成2年5月24日までにこれを弁済していないから、請求人がCに本件貸付金を貸し付けているという状況は、その翌日以降においても変化はなく、したがって、本件貸付金に対する利息についても、平成2年5月8日から同月24日までの間に生じていることはいうまでもなく、同月25日以降においても年8パーセントの割合で日々これが生じていたものと認められる。
D したがって、各年分の雑所得の金額の計算上総収入金額に計上すべき金額は、次の(A)及び(B)のとおり、平成2年分については、本件貸付金に対する利息の額36,670,000円のうち、平成2年5月8日から同年12月31日までの期間に対応する利息の額18,180,821円、平成3年分については、上記利息の額から平成2年分の利息の額を控除した額18,489,179円となる。
(A)平成2年分
 350,000,000円×0.08×(237÷365)=18,180,821円
(B)平成3年分
 36,670,000円−18,180,821円=18,489,179円
E また、前記Aの事実によれば、本件B借用証書は、請求人がCと合意の下に同人から交付を受けたものであり、本件B借用証書の内容は、民法第588条《準消費貸借》に規定する準消費貸借に当たると認められるから、これにより、既存の債権・債務が消滅し新たに消費貸借上の債権・債務が成立することになる。
 したがって、本件貸付金に対する利息の額36,670,000円は、貸付金に振り替わったものであり、法的にはいったん当該利息を受領し、これを新たに貸し付けたのと同様の効果が生ずるのであるから、その貸付金が回収不能となったとしても、それは所得税法第64条第1項に規定するところの「その年分の各種所得の金額の計算の基礎となる収入金額若しくは総収入金額の全部若しくは一部」には該当しないこととなるので、請求人のこの点に関する主張は採用できない。
ロ 分離長期譲渡所得の金額について
 平成2年分の分離長期譲渡所得の金額(租税特別措置法(以下「措置法」という。)第35条《長期譲渡所得の課税の特例》第1項第1号に規定する特別控除額を控除した後の金額をいう。以下同じ。)は、修正申告書に記載された金額1,717,100,000円である。
ハ 総所得金額及び分離長期譲渡所得の金額について
 以上の結果、請求人の平成2年分の総所得金額及び分離長期譲渡所得の金額並びに平成3年分の総所得金額は、次表のとおりとなり、これらの金額は、それぞれ平成2年分の再更正処分及び平成3年分の更正の請求に対する更正処分の額と同額であるから、各年分の所得税の更正処分は適法である。

(単位 円)
項目\年分平成2年分平成3年分
総所得金額57,951,5564,759,809
内訳
 事業所得の金額8,013,797△12,602,753
 不動産所得の金額△5,453,062△1,126,617
 一時所得の金額37,210,000
 雑所得の金額18,180,82118,489,179
分離長期譲渡所得の金額1,717,100,000

(注)表中の△印は、その金額が損失の金額であることを示す。
ニ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、各年分の所得税の更正処分は適法であり、かつ、請求人には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づき各年分の過少申告加算税の賦課決定処分をしたものである。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、各年分の総所得金額の多寡であるので、以下審理する。

(1)総所得金額について

イ 事業所得の金額
 各年分の事業所得の金額については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても、相当と認められる。
ロ 不動産所得の金額
(イ)請求人は、各年分の不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入すべき減価償却費の計算の基礎となる本件マンションの取得価額は、前記2の(1)のイの(ロ)のとおり111,348,000円とすべきである旨主張するので、審理したところ、次のとおりである。
A 請求人は、本件マンションの取得価額の算定の合理性を裏付ける根拠として、前記2の(1)のイの(ロ)のとおり、措置法関係通達63(2)−4を挙げるが、同通達は、措置法第63条《短期所有に係る土地の譲渡等がある場合の特別税率》又は同法第63条の2《超短期所有に係る土地の譲渡等がある場合の特別税率》に規定するいわゆる土地譲渡益重課制度における土地譲渡益を算定するに当たり、土地等と建物を一括譲渡した場合にその対価の額を土地等に係る部分と建物に係る部分とに区分する簡便な方法を定めたものと解される。
 また、土地譲渡益重課制度は、法人の土地投機の抑制を主眼としつつ、併せて土地の供給促進にも配慮するという政策目的のために創設されたものであって、必要経費の適正な配分を目的とする減価償却制度とはその目的を異にするものである。
 そうすると、本件マンションの減価償却費の計算の基礎となる取得価額を算定するに当たって、措置法関係通達63(2)−4を適用するのは相当でないから、請求人の主張する本件マンションの取得価額が同通達に定める金額の範囲内であることをもってこれが合理的なものということはできない。
B 当審判所が原処分関係資料を調査したところによれば、原処分庁は、各年分の不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入すべき本件マンションの減価償却費の計算の基礎となる取得価額の算定に当たり、請求人が本件マンション及びその敷地を一括取得した際の取得対価の合計額215,000,000円に、売主が本件マンション及びその敷地を取得した当時の取得価額の合計額202,786,709円に対するその当時の本件マンションの取得価額88,489,334円の割合を乗じて、前記2の(2)のイの(ロ)のDの(A)のとおり93,818,805円と算定していることが認められる。
C 本件マンションの取得価額の算定に当たっては、請求人が本件マンション及びその敷地を一括取得した際の取得対価の合計額に、当該取得対価の合計額に対する本件マンションの取得時の価額の割合を乗じて算定すべきところであるが、本件マンション及びその敷地は、売主がこれらを取得した日(当該敷地は平成元年5月12日に、本件マンションは平成2年1月1日にそれぞれ取得している。)から比較的短期間に請求人へ一括譲渡されたものであることから、その算定方法に代えて売主の取得時の価額の割合をもって前記2の(2)のイの(ロ)のDの(A)の方法によりこれを算定しても、なお請求人の取得時における本件マンション及びその敷地の時価を反映していると認められるから、原処分庁の算定方法は合理的なものということができ、かつ、その計算も適正であると認められる。
 したがって、原処分庁が本件マンションの取得価額を93,818,805円と認定したことは相当である。
(ロ)ところで、請求人の主張する各年分の不動産所得の損失額は、いずれも修正申告書に記載された損失額を上回るものであるところ、平成2年分の本件第一次更正の請求及び本件第二次更正の請求については、国税通則法第23条《更正の請求》に定める期限を徒過しており、かつ、所得税法第152条の規定による更正の請求の特例にも該当しないから、平成2年分については、その損失額が修正申告額を上回ることを争うことはできない。
 そうすると、平成2年分の不動産所得の損失額については、既に確定した、平成2年分の再更正処分の額とみるべきであるから、同年分の不動産所得の損失額は、5,453,062円となる。
(ハ)平成3年分については、前記(イ)のとおり相当と認められる本件マンションの取得価額を基礎としてその減価償却費の額を算定すると、次の算式により求めた金額1,435,427円となり、減価償却費の合計額は、この金額に本件マンション以外の減価償却費の額70,584円を加算した1,506,011円となるので、同年分の不動産所得の損失額は、収入金額9,171,853円から当該減価償却費の額と減価償却費以外の必要経費の額8,792,459円の合計額10,298,470円を差し引いた1,126,617円となることから、原処分庁の認定額は相当と認められる。
 93,818,805円×0.9×0.017×12/12×100%=1,435,427円
ハ 一時所得の金額
 平成2年分の一時所得の金額については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても、相当と認められる。
ニ 雑所得の金額
(イ)請求人は、前記2の(1)のイの(ニ)のA及びBのとおり、原処分庁が平成2年分の雑所得と認定した額18,180,821円のうち16,876,712円は、平成3年8月16日に至って初めて収入すべき権利が確定したものであるから、雑所得の金額の計算上平成2年分に計上すべきものではない旨主張し、さらに、前記2の(1)のイの(ニ)のCのとおり、本件貸付金に対する利息の全額がCの所在不明及び同人に対する債権放棄により回収不能となったので、各年分の雑所得の金額はいずれも零円である旨主張する。
(ロ)そこで、当審判所は、まず、雑所得の金額の計算上、総収入金額に算入すべき時期及びその金額について審理したところ、以下のとおりである。
A 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(A)平成2年5月8日、請求人は、Cに対し、利息の割合を年8パーセント、弁済期を平成2年5月24日と定めて本件貸付金を貸し付け(以下「本件貸付け」という。)、Cが本件A借用証書を作成しこれを請求人に交付したこと。
(B)Cが本件貸付金をその弁済期までに弁済せず、利息も支払わなかったこと。
(C)平成3年8月16日、Cは、弁済期を平成4年8月15日とする36,670,000円に係る本件B借用証書を作成し、これを請求人に交付したこと。
B 当審判所が原処分関係資料等を調査したところによれば、次の事実が認められる。
(A)本件A借用証書には、本件貸付金に対する利息の弁済期を定めた記載はなく、かつ、遅延損害金の割合を定めた記載もないこと。
(B)平成3年8月16日、請求人とCとの間で、W町の宅地を350,000,000円でCが請求人に売り渡す旨の本件売買契約書が作成され、同月21日、当該宅地について同月16日付売買を原因とする所有権移転登記がなされていること。
(C)前記(B)の売買代金相当額の授受は行われていないこと。
(D)本件B借用証書については、次のとおりである。
a 36,670,000円をCが請求人から借り受けた旨及びこれを平成4年8月15日限り弁済する旨の記載があること。
b 前記aの36,670,000円の授受は行われていないこと。
(E)請求人は、調査担当職員に対し、本件B借用証書に記載の36,670,000円は、その全額が本件貸付金に対する利息であると思う旨申述していること。
(F)請求人は、平成6年1月25日、E郵便局に対し、同局受付第○○○号書留内容証明郵便物として、前記2の(1)のイの(ニ)のBの(B)の住所のCあてに、36,670,000円の請求権を放棄する旨の書簡を差し出していること。
C 請求人は、当審判所に対し、大要次のとおり答述している。
(A)本件A借用証書が作成された平成2年5月8日及び本件B借用証書が作成された平成3年8月16日、いずれもその場に同席していたこと。
(B)平成3年8月16日には、書類に押印し、売買契約書や登記簿謄本などを持ち帰ったように思うが、詳細についてはよく覚えていないこと。
(C)本件貸付金については、その利息計算、弁済の督促等一切をH銀行からF株式会社(以下「F社」という。)に出向しているA(以下「A」という。)に一任していたこと。
D 参考人Aは、当審判所に対し、次のとおり答述している。
(A)本件貸付けは、平成2年5月8日、A、請求人、C、B(本件貸付金の代物弁済の目的となったW町の宅地の当時の所有者)らの同席の下にH銀行K支店において行われたこと。
(B)本件貸付金は、請求人の取引銀行であるH銀行L支店の請求人名義の口座から引き出し同行K支店のCの口座に振り込んだこと。
 その際、請求人は、担保として、W町の宅地の権利証を預かったこと。
(C)本件貸付金の弁済期から相当期間が経過してもCから本件貸付金及びその利息の弁済がなかったことから、AがCに対し、電話等で弁済の催促をしていたこと。
(D)平成3年8月16日、請求人、C、A及びBらがF社の事務所に集まり、話合いをしたところ、本件貸付金350,000,000円の弁済に代えて、Cが所有していたW町の宅地を請求人に譲渡することとしたこと。
(E)その際、Aが、Cに対して、本件貸付金の利息及び請求人がCに代わって立て替えておいたW町の宅地の固定資産税額(平成3年第1期分及び第2期分の合計384,200円)の支払を請求したところ、Cは、いずれも手元不如意を理由に支払えない旨申し立てたが、1年後には弁済する旨約したこと。
(F)そこで、Aは、請求人から本件貸付金の弁済の督促等について一任されていた立場上、口約束で済ますわけにはいかず、書面化するようCに強く要求したこと。
(G)そして、利息の額を計算するに当たっては、本件貸付けの日から1年後である平成3年5月8日までの利息については、本件貸付金350,000,000円に対し年8パーセントの割合で計算してその金額28,000,000円を算出し、次いで、平成3年5月9日から同年8月16日までの利息については、本件貸付金の額にその28,000,000円を加えた金額に対し年8パーセントの割合で計算して8,284,931円を算出し、これらを合算して36,284,931円としたこと。
(H)前記(G)の36,284,931円に前記(E)の固定資産税相当額384,200円を加えた額36,669,131円の端数を切り上げた結果、36,670,000円(以下「本件利息等」という。)という金額を算定したこと。
(I)本件利息等については、利息を付さないこととしたこと。
(J)Aは、借用証書の用紙を用意した上、Cに対し、本件利息等について1年後である平成4年8月15日を弁済期とする旨の書面の作成交付を求め、本件B借用証書が作成されたこと。
(K)前記(E)ないし(J)の経過を経て、本件利息等について新たに金銭消費貸借契約を締結したと記憶していること。
E 請求人が当審判所に提出した丸1総合口座通帳、丸2平成3年度固定資産税都市計画税納税通知書及び丸3平成3年度固定資産税都市計画税領収証書(第1期分ないし第4期分)、原処分関係資料並びに当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(A)平成3年1月1日現在におけるW町の宅地の登記簿上の所有者であったBに対し、D市長から平成3年5月10日付で固定資産税都市計画税納付通知書が送付されていること。
(B)平成3年1月1日現在におけるW町の宅地の実質所有者は、Cであったこと。
(C)請求人は、平成3年8月19日にH銀行L支店の請求人名義の総合口座から前記(A)の納付通知書記載の合計税額相当額766,200円を引き出していること。
(D)D市役所名の平成3年分固定資産税都市計画税領収証書(第1期分ないし第4期分合計4枚)には、平成3年8月19日付でD市公金収納取扱店であるH銀行J支店出納係の領収印がそれぞれ押なつされており、それらの領収証書の合計額は前記(C)の金額と同額であり、また、そのうち第1期分及び第2期分の領収証書の合計額は、前記Dの(E)の金額と同額であること。
F ところで、所得税法第36条第1項は、各種所得の金額の計算上、収入金額又は総収入金額に算入すべき金額は、その年において収入すべき金額とすると規定しており、ここにいう「その年において収入すべき金額」とはその年において収入すべき権利が確定した金額と解されるところ、貸付金の利息については、その弁済期が到来して履行の請求が可能となれば、それだけで収入すべき権利が確定したということができ、そして弁済期の定めのない債権は、債権の発生と同時に弁済期が到来するものと解すべきところ、借入金債務の不履行に基因する遅延損害金債権にあってはその元本の弁済がされるまで日々発生し、発生と同時に弁済期が到来し収入すべき金額が確定するものと解するのが相当である。
G 前記AないしEの各事実を前記F及び民法の規定に照らして判断すると、次のとおりである。
(A)前記AないしEで述べた各事実を整理・要約すると、丸1平成2年5月8日、請求人、C、Aらの同席の下にH銀行K支店において、本件貸付金に対する利息の割合を年8パーセント、元本の弁済期を同月24日とする本件A借用証書が作成されたこと、丸2本件A借用証書には、利息についての弁済期を定めた記載がなく、かつ、遅延損害金の割合を定めた記載もないこと、丸3Cは、本件貸付金を弁済期までに弁済せず、利息も支払わなかったこと、丸4平成3年8月16日、請求人、CらがF社の事務所に集まり、本件貸付金350,000,000円の弁済に代えて、Cが所有していたW町の宅地を請求人に譲渡することとし、同日付で本件売買契約書が作成されたこと、また、丸5同日付で本件利息等の額36,670,000円について、弁済期を平成4年8月15日とする本件B借用証書が作成されたこと、丸6本件利息等の額には、W町の宅地の固定資産税等が含まれていること、丸7本件利息等の額には利息を付さないこととしたこと及び丸8平成6年1月25日、請求人は、Cに対し、本件利息等の全額を放棄する旨通知したことが認められる。
(B)以上の事実によれば、本件貸付金については、その弁済期を平成2年5月24日、利息の割合を年8パーセントと定めていたことが認められるから、本件貸付金の貸付日である平成2年5月8日からその弁済期である同月24日までの間、本件貸付金に対する年8パーセントの割合による利息(以下「本件利息」という。)が生じていたことは明らかである。
 また、本件貸付金がその弁済期までに弁済されなかったことから、民法第415条《債務不履行による損害賠償の要件》の規定により、弁済期の経過とともに本件貸付金の債務不履行に基づく損害賠償金として、本件貸付金に対する遅延損害金が生じることとなるところ、遅延損害金の割合についての定めがなく、約定利率が民法所定の法定利率である年5分を超える本件にあっては、民法第419条《金銭債務の特則》第1項の規定により、遅延損害金の割合は、約定利率と同じ割合である年8パーセントとなり、本件貸付金の弁済期の翌日である平成2年5月25日から日々これが生じていたものと認めるのが相当である。
 そうすると、本件利息の額については平成2年分に計上し、遅延損害金の額については平成2年に対応する部分は平成2年分に、平成3年に対応する部分は平成3年分にそれぞれ計上するのが相当である。
 なお、前記Dの(G)によれば、本件利息等の額の算定に当たっては本件貸付金に対する1年分の利息及び遅延損害金に相当する金額28,000,000円を本件貸付金に組み入れ、これを基礎として本件利息等の額の計算をする、いわゆる重利の計算をしたものと認められるが、当審判所の調査によれば、平成3年8月16日以前に民法第405条《法定重利》に規定する法定重利の要件を充足したと認めるに足る証拠はなく、かつ、重利の約定をしたとも認められないから、本件貸付金の元本に組み入れた28,000,000円に対する平成3年5月9日から同年8月16日までの期間に対応する部分については、本件B借用証書が作成された同年8月16日に収入すべき権利が確定したものと解するのが相当であり、また、前記Dの(H)の端数を切り上げた分869円は、本件貸付金に対する期間の経過を基礎として算定されたものではないから、同様に、平成3年8月16日に収入すべき金額となったものと解するのが相当であるが、いずれにしても、これらの金額は雑所得の金額の計算上、平成3年分の総収入金額に算入すべきものと認められる。
 なお、請求人は、本件貸付金の弁済期の翌日である平成2年5月25日以降の期間については本件A借用証書において利息の収受の特約をしていないから、同日以後の利息を平成2年分の雑所得の金額の計算上、総収入金額に計上することはできない旨主張するが、上記のとおり、同日以後の期間に係る債権は、金銭借用の対価たる利息ではなく、金銭債務の不履行に基づく損害賠償債権たる遅延損員金であり、これは法律上当然に発生するものであって、特約の有無に左右されるものではないから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(C)原処分庁は、本件利息等の額の全額36,670,000円を各年分の雑所得の金額の計算上、総収入金額に算入しているところ、そのうち384,200円は、Cが納付すべきW町の宅地に係る平成3年分の固定資産税及び都市計画税の額の第1期分及び第2期分の合計額と認められるので、請求人の雑所得の金額の計算上、これを総収入金額に算入すべきものとは認められない。
(D)また、前記2の(2)のイの(ニ)のDのとおり、原処分庁は、平成2年分の雑所得の金額の計算上総収入金額に算入すべき利息及び遅延損害金の額の算定に当たり、同年に対応する日数を237日としているが、金銭消費貸借においては、特約のない限り、借主は消費貸借成立の日から利息を支払う義務があると解すべきであり、本件にあってはこれと異なる特約の存在は認められないから、これらの金額の計算に当たっては、その起算日を本件貸付けの日である平成2年5月8日とするのが相当であり、同年に対応する日数は238日とすべきである。
(E)前記(B)ないし(D)に基づき、各年分の雑所得の金額の計算上、総収入金額に算入すべき金額を算定すると、次のとおり、平成2年分18,257,534円及び平成3年分18,028,266円となる。
a 雑所得の総収入金額に算入すべき利息等の総額
 36,670,000円−384,200円=36,285,800円
b 平成2年分
 350,000,000円×0.08×(238÷365)=18,257,534円
c 平成3年分
 36,285,800円−18,257,534円=18,028,266円
(ハ)請求人は、原処分庁が各年分の雑所得の金額の計算上総収入金額に算入した本件利息等の額は、その全額がCの所在不明及び同人に対する債権放棄により回収不能となったから各年分の雑所得の金額は零円となること、本件B借用証書は、Cが一方的に差し入れたもので、本件貸付金に対する利息の確認書類にすぎないから、本件利息等の額が回収不能となったことに影響を及ぼすものではないこと、また、仮に原処分庁が主張する準消費貸借が成立したとしても新旧両債権・債務の間には同一性があるから、これが回収不能となったときは所得税法第64条第1項が適用され、各年分の雑所得の金額の計算上なかったものとみなされるべきである旨主張するので、審理したところ、次のとおりである。
A ところで、所得税法第64条第1項は、「その年分の各種所得の金額の計算の基礎となる収入金額若しくは総収入金額の全部若しくは一部を回収することができないこととなった場合・・・」と規定している。
B 前記(ロ)の事実を前記Aの規定に照らし判断すると、次のとおりである。
(A)前記(ロ)のBの(D)、C及びDの(E)ないし(K)のとおり、丸1請求人が本件貸付金に係る利息計算等の一切を一任していたAの要求に基づき、Cが本件利息等の額36,670,000円に係る本件B借用証書を作成したこと、丸2請求人もその場に同席していたこと、丸3当該金額につき弁済期を定めていること、丸4本件B借用証書は、本来的に金銭消費貸借契約締結の事実を証するものとして使用されるべき借用証書の用紙を用いており、かつ、その記載内容は利息に関する約定の記載がないことを除き、本件A借用証書のそれとほぼ同旨であること及び丸5Cが負担すべき固定資産税及び都市計画税相当額を加算していることなどを併せ考慮すると、本件B借用証書が一方的に差し入れられたものとは認め難く、かつ、本件B借用証書が本件貸付金に対する利息の額等を具体的に確認する趣旨をも含んだものであることは否定できないものの、これが単なる利息の額の確認書類にすぎないとも認められない。
 したがって、請求人のこの点に関する主張を採用することはできず、むしろ、以上の事実によれば、平成3年8月16日、請求人とCとの間で本件利息等の額について、これを新たに消費貸借の目的としたものと認められ、両当事者間に準消費貸借契約が成立したものと認められる。
 そうすると、法律上、既存債権・債務である本件利息及び遅延損害金に係る債権・債務は消滅し、その額と前記(ロ)のDの(H)の固定資産税及び都市計画税相当額の合計額並びに端数を切り上げた額について消費貸借上の債権・債務が新たに発生したこととなるから、所得税法第64条第1項に規定する「各種所得の金額の計算の基礎となる収入金額若しくは総収入金額」は、法律上もはや存在せず、これに相当する金額が仮に一定の事由により回収不能となったとしても、同項の規定の適用はないと解すべきである。
 なお、請求人は、仮に平成3年8月16日に請求人とCとの間で本件利息等につき準消費貸借契約が成立したとしても、新旧両債権・債務の間に同一性があるから、請求人の当該新債権が回収不能となったときは、所得税法第64条第1項が適用されるべきである旨主張するが、両者に同一性があるとしても、旧債権・債務である本件利息及び遅延損害金に係る債権・債務が消滅し、新たに貸付金債権・借入金債務が発生したことを左右するものではないから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(B)以上によれば、Cの所在不明及び債権放棄により本件利息等の額に相当する貸付金債権が回収不能となったか否かについては審理するまでもないことであるから、このことを理由とする請求人の主張は採用することができない。
(ニ)原処分庁は、各年分の雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額を零円と認定しているところ、請求人からはこの点につき主張、立証がなく、当審判所においても原処分庁の認定を不相当とする理由は認められない。
 したがって、各年分の雑所得の金額は、前記(ロ)のGの(E)で述べた各年分の総収入金額に算入すべき金額と同額となる。

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(2)分離長期譲渡所得の金額について

 平成2年分の分離長期譲渡所得の金額については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても、相当と認められる。

(3)総所得金額及び分離長期譲渡所得の金額について

 以上の結果、請求人の平成2年分の総所得金額及び分離長期譲渡所得金額並びに平成3年分の総所得金額は次表のとおりとなるところ、これらの金額のうち、平成2年分の総所得金額及び分離長期譲渡所得の金額は、平成2年分の更正処分(平成2年分の再更正処分により減額された後のもの)の額を上回るから原処分は適法であるが、平成3年分の総所得金額は、平成3年分の更正処分(平成3年分の更正の請求に対する更正処分により減額された後のもの)の額に満たないから、原処分の一部を取り消すべきである。

(単位 円)
項目/年分平成2年分平成3年分
総所得金額58,028,2694,298,896
内訳
 事業所得の金額8,013,797△12,602,753
 不動産所得の金額△5,453,062△1,126,617
 一時所得の金額37,210,000
 雑所得の金額18,257,53418,028,266
分離長期譲渡所得の金額1,717,100,000

(注)表中の△印は、その金額が損失の金額であることを示す。

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(4)過少申告加算税の賦課決定処分について

イ 平成2年分の過少申告加算税の賦課決定処分については、上記(3)のとおり、同年分の更正処分は適法であり、また、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定により過少申告加算税の賦課決定をした原処分は適法である。
ロ 平成3年分の過少申告加算税の賦課決定処分については、同年分の更正処分の一部が取り消されることに伴い、その基礎となる税額は、国税通則法第65条第1項の規定による7,230,000円及び同条第2項の規定による加重分6,730,000円となるところ、この税額の基礎となった事実については、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 したがって、請求人の過少申告加算税の額は1,059,500円となり、賦課決定処分の金額に満たないから平成3年分の過少申告加算税の賦課決定処分は、その一部を取り消すべきである。
ハ 請求人は、本件修正申告に係る過少申告加算税の賦課決定処分の取消しを求める審査請求をしているが、当該審査請求は、国税通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第3項に規定する異議申立てについての決定を経た後のものではなく、また、同条第4項に規定する異議申立てをしないで審査請求ができる場合にも該当しないことは明らかである。
 したがって、当該審査請求は、異議決定を経ていない不適法なものとして却下すべきである。

(5)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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