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(平7.2.27裁決、裁決事例集No.49 100頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、会社役員で、かつ、不動産賃貸業を営む者であるが、平成4年12月4日に建物に係る耐用年数の短縮の承認申請(以下「本件申請」という。)を行った。
 原処分庁は、これに対し平成5年9月24日付で、本件申請について申請の事由が認められないとして却下処分(以下「本件処分」という。)をした。
 請求人は、本件処分を不服として、平成5年10月22日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年12月14日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成6年1月14日に審査請求をした。

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2 主張

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(1)請求人の主張

 本件処分は、次の理由により違法であるから、その取消しを求める。
イ 本件申請に至った背景
(イ)請求人は、P市R町5丁目570番6所在の建物(以下「本件建物」という。)について、平成3年9月12日に有限会社Dを賃借人とする賃貸借契約(以下「本件契約」といい、その際作成した賃貸借契約書を以下「本件契約書」という。)を締結し、平成4年2月1日より本件建物の賃貸を開始した。
(ロ)本件契約は、次のAないしGに述べる内容を賃貸借の条件としており、特にFで述べる契約期間満了後の本件建物の取壊しという条項は、本件契約の大前提で必要不可欠であり、何らかの租税回避を目的としたものではない。
A 賃貸借期間を10年間とし、更新は絶対にしない。
B 賃借人を限定する。
C 賃借人の本件建物の用途、用法を限定し、賃借人の使用目的に合致した建物を提供することで、本件建物の賃貸建物としての汎用性、転用性を否定する。
 そのため、賃借人は本件建物の設計段階から参加し、また、賃借人は、建物の全部を賃借する。
D 賃借人は請求人に対し、10年間の借上げを保証する。
E 10年後に新築計画がある。
F 契約期間が満了し、本件建物の明渡し後、本件建物を取り壊す。
G 借家権の存在を排除若しくは認めない。
ロ 本件申請の合理性
(イ)減価償却は、各会計期間にわたって費用を配分することにより、正確な期間損益計算をするためのものである。
(ロ)減価償却資産の耐用年数は、個々の資産の利用可能期間により決定されるべきである。
 減価償却費の計算の要素たる耐用年数を定める場合、その資産の予定利用可能期間若しくは使用可能限度期間は正確に算定できないから、このことによって適正な減価償却費の計算が不可能となり、所得の計算をゆがめ、課税の公平を欠く結果となる。
 これを避ける理論値として、減価償却資産の耐用年数等に関する大蔵省令(以下「耐用年数省令」という。)において耐用年数(以下「法定耐用年数」という。)が定められているものと理解している。
 一般的に法定耐用年数は、減価償却資産の使用開始時にはその資産の終えん期が不明で、しかも、その資産が「反復継続して使用される資産」であるがゆえに、科学的経験値として定められているものであり、使用可能期間が限定されている減価償却資産については、その期間を耐用年数として採択した方が合理的である。
(ハ)したがって、減価償却費の計算に際しては、固定資産の材質や構造から耐用年数を決定するのではなく、費用配分若しくは費用収益の対応からして、効用期間あるいは利用期間を耐用年数とするのが正確な損益計算となり、ひいては、それに基づく課税が正しく行われることとなる。
(ニ)また、適正な耐用年数によらず、法定耐用年数によって減価償却費の計算を行った場合、年々の減価償却費たる費用が計上不足となり、10年後に現実に建物を取り壊したときに結果として一時の損失が算出されることになる。
 この損失の内容は、予見できない外的事情によるものではない。なぜなら、ここで生ずる損失は、事前に充分計算され得る減価償却不足の累計額であり、本来は残存価額として資産本体価額にあってはならないものである。
 このことは、会計理論からしても、公平課税の目的からしても、全く不条理な結果となる。
(ホ)以上のとおり、本件建物は、賃貸借期間が10年に限定され、賃貸借期間終了後取り壊されるものであることから、本件建物の耐用年数は、法定耐用年数の40年ではなく、賃貸借期間に応じた10年となるから、耐用年数の短縮を承認すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 本件処分は、次の理由により適法である。
イ 減価償却資産の耐用年数は、その本来の用途、用法により通常予定される効果をあげることができる年数、すなわち、その減価償却資産の本来の効用の持続する年数である。
 したがって、個々の減価償却資産に耐用年数の算定の前提とされている諸条件と異なる事情がある場合には、その実際の耐用年数と制度上の耐用年数とが異なる結果になる。
 そこで、その相違が著しい場合には、実際の耐用年数と制度上の耐用年数との調整の必要が生じる。
 そのための制度が耐用年数短縮承認の制度である。
ロ ところで、所得税法施行令第130条《耐用年数の短縮》第1項では、耐用年数が短縮できる特別の事由として、次の場合を挙げている。
(イ)その減価償却資産の材質又は製作方法が種類及び構造を同じくする他の減価償却資産の通常の材質又は製作方法と著しく異なることにより、その使用可能期間が法定耐用年数に比して著しく短いこと。
(ロ)その減価償却資産の存する地盤が隆起し又は沈下したことにより、その使用可能期間が法定耐用年数に比して著しく短いこととなったこと。
(ハ)その減価償却資産が陳腐化したことにより、その使用可能期間が法定耐用年数に比して著しく短いこととなったこと。
(ニ)その減価償却資産が使用される場所の状況に基因して著しく腐食したことにより、その使用可能期間が法定耐用年数に比して著しく短いこととなったこと。
(ホ)その減価償却資産が通常の修理又は手入れをしなかったことに基因して著しく損耗したことにより、その使用可能期間が法定耐用年数に比して著しく短いこととなったこと。
(ヘ)その他の事由で大蔵省令で定めるものにより、その減価償却資産の使用可能期間が法定耐用年数に比して著しく短いこと又は短いこととなったこと。
 以上述べた特別の事由として挙げられているのは、いずれも、そのために使用可能期間が法定耐用年数に比して著しく短いこと又は短いこととなった場合である。
ハ そこで、これを本件建物についてみると、本件建物は、その材質及び構造等が同様の他の建物と比較して、その使用可能期間が著しく短くなるものとは認められず、また、その使用の態様も通常の維持管理がなされる下での一般的に行われている建物の貸付けと何ら異なるところはないものと認められる。
 さらに、請求人は、本件契約において、賃貸借期間が終了した後本件建物を取り壊す旨の条項があることをもって、耐用年数の短縮承認申請の理由としているが、そのことによって本件建物の使用可能期間が著しく短くなるものではなく、また、本件申請の理由は、前記ロに記載した減価償却資産の耐用年数が短縮される場合の特別な事由のいずれにも該当しない。
ニ 以上のとおり、本件建物の耐用年数を短縮すべき理由はなく、本件申請を却下した本件処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件建物の耐用年数の短縮承認申請を却下した原処分の適法性にあるので、以下審理する。
(1)請求人は、本件建物自体その賃貸借期間(10年)満了とともに取り壊すことを予定しているものであり、その使用可能期間があらかじめ明確であることから、本件建物に係る耐用年数の短縮を認めるべきである旨主張するので審理したところ、次のとおりである。
イ 本件契約において、賃貸借期間を10年とし、同期間満了とともに本件建物を取り壊す旨の条項が定められていることについては、請求人及び原処分庁の双方に争いはないところ、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
ロ 請求人が原処分庁に提出した「耐用年数短縮の承認のお願い」書によれば、請求人は、前記イの事実をもって本件建物の耐用年数短縮の承認申請の事由とし、これが所得税法施行令第130条第1項第6号の規定に該当するものとしていることが認められる。
ハ ところで、資産の耐用年数については、耐用年数省令により資産の種類、構造又は用途、細目によって定められているが、このように耐用年数を大蔵省令で定めているのは、所得税法が、納税者が耐用年数を恣意的に決定することを排除し、課税の公平を図るため画一的処理ができるようにしたものであると解される。
 しかしながら、資産の使用可能期間が法定耐用年数に比して著しく短くなったような場合までもこれに従うこととするのは、かえって課税の公平を欠くこととなることから、所得税法施行令第130条では、一定の事由により資産の使用可能期間が法定耐用年数に比して著しく短くなった場合などには、納税地の所轄国税局長の承認により、耐用年数の短縮を認めている。
ニ そして、所得税法施行令第130条第1項は、耐用年数の短縮を認める特別な事由として次の(イ)ないし(ヘ)の事由を列挙しているが、これらの事由からみれば、耐用年数の短縮は、減価償却資産の使用可能期間が法定耐用年数よりも物理的ないしは客観的に短くなるという事由が現に発生しているような場合に限って認める趣旨にでたものと解するのが相当である。
(イ)当該資産の材質又は製作方法がこれと種類及び構造を同じくする他の減価償却資産の通常の材質又は製作方法と著しく異なることにより、その使用可能期間が法定耐用年数に比して著しく短いこと。
(ロ)当該資産の存する地盤が隆起し又は沈下したことにより、その使用可能期間が法定耐用年数に比して著しく短いこととなったこと。
(ハ)当該資産が陳腐化したことにより、その使用可能期間が法定耐用年数に比して著しく短いこととなったこと。
(ニ)当該資産がその使用される場所の状況に基因して著しく腐食したことにより、その使用可能期間が法定耐用年数に比して著しく短いこととなったこと。
(ホ)当該資産が通常の修理又は手入れをしなかったことに基因して著しく損耗したことにより、その使用可能期間が法定耐用年数に比して著しく短いこととなったこと。
(ヘ)前記(イ)ないし(ホ)で述べた事由以外で所得税法施行規則第30条《耐用年数の短縮が認められる事由》に定める次の事由により、当該資産の使用可能期間が法定耐用年数に比して著しく短いこと又は短いこととなったこと。
A 法定耐用年数を用いて償却費の額を計算すべき減価償却資産の構成が同耐用年数を用いて償却費の額を計算すべき同一種類の減価償却資産の通常の構成と著しく異なること。
B 当該資産が機械及び装置である場合において、当該資産の属する設備が耐用年数省令別表第二《機械及び装置の耐用年数表》に掲げられた設備以外のものであること。
C その他前記(イ)ないし(ホ)並びに前記A及びBに準ずる事由
ホ そこで、本件建物についてみると、請求人が耐用年数の短縮を求める理由としている「賃貸借期間(10年)満了に伴う本件建物の取壊し」は、本件建物自体の構造等に変化が生じて物理的、客観的に使用可能期間が短くなったという事由ではなく、取壊しの行われることが将来予定されているという本件契約当事者双方の取決めを理由とするものにすぎないというべきところ、これを前記ハで述べた納税者が耐用年数を恣意的に決定することを排除するという所得税法の趣旨に照らしても、所得税法施行令第130条第1項第6号に掲げられている事由には該当しないことが明らかである。
 また、本件契約書によれば、本件建物の構造は、フッソ樹脂塗装溶融亜鉛メッキ鋼板葦鉄骨造3階建であることが認められるから、これを耐用年数省令第1条《一般の減価償却資産の耐用年数》第1項第1号に定める別表第一《機械及び装置以外の有形減価償却資産の耐用年数表》に照らせば、その法定耐用年数は請求人も自認しているとおり40年となるところ、請求人は、上記本件契約に定めた賃貸借期間以外に本件建物の耐用年数が短縮されるべき物理的な事由については主張せず、また、当審判所の調査によっても、本件建物の上記構造その他からみて、本件建物について所得税法施行令第130条第1項に掲げられている事由に該当するというべき耐用年数の短縮を認めなければならない特別な事由があるとも認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(2)請求人は、費用収益対応の観点からいっても、当該賃貸借期間すなわち使用可能期間を耐用年数とすることによって正確な損益計算が可能になり、ひいては、適正な課税が行われることになるから、耐用年数の短縮を認めるべきである旨主張する。
 しかしながら、前記(1)のハで述べたとおり、所得税法にあっては、納税者が恣意的に定めた使用期間を耐用年数として減価償却費の額を算定することを排除しているというべきであるから、契約によって使用可能期間を定めたからといってこれが減価償却費の額の算定基礎となる耐用年数になるということはできず、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
(3)なお、請求人は、賃貸借期間10年によらず、法定耐用年数40年を適用して減価償却費の計算を行った場合、年々の減価償却費たる費用が計上不足となり、10年後に本件建物を取り壊したときに一時の損失が算出されることになり、当該損失額は減価償却不足の累計額であり、このことは、会計理論からしても、課税の公平の目的からしても、全く不条理な結果となる旨主張する。
 しかしながら、所得税法第49条《減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法》には、「減価償却資産につきその償却費として第37条《必要経費》の規定によりその者の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入する金額は、その者が当該資産について選定した償却の方法に基づき政令で定めるところにより計算した金額とする」旨規定していることからも明らかなように、所得税法にあっては、一定の償却方法に基づく一定の計算方法によって算定される減価償却費の額のみを必要経費の額に算入することとしており、むしろこのことによって課税の公平を担保しているものと考えられること、また、所得税法第51条《資産損失の必要経費算入》第1項において、「事業の用に供される固定資産について、取壊し等の事由により生じた損失の金額は、その損失の生じた日の属する年分の事業所得等の金額の計算上、必要経費に算入する」旨規定していることからも明らかなように、所得税法にあっては、事業用の固定資産が取り壊されたような場合には、取り壊された同資産の実際の残存価値がその取り壊した日の属する年分に消滅した事実を捕らえて必要経費に算入するというもので、各年分において、将来の取壊しに伴う事業用の固定資産の損失をあらかじめ配分することとはされていないことからすれば、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
(4)以上のとおりであり、本件建物は所得税法施行令第130条に規定される耐用年数が短縮できる事由のいずれにも該当しないから、原処分庁が行った本件処分は適法である。

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