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(平7.2.27裁決、裁決事例集No.49 123頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成2年分の所得税について、確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 その後、請求人は、次表の「修正申告」欄のとおり記載した平成2年分の所得税の修正申告書を平成4年4月28日に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成5年1月29日付で次表の「更正処分等」欄のとおり、更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分をした。

 請求人は、これらの処分のうち更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を不服として、平成5年3月26日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月22日付で異議申立てを棄却する旨の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「原処分」という。)について、平成5年7月20日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、更正処分についてはその一部、過少申告加算税の賦課決定処分についてはその全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
(イ)請求人は、平成2年1月10日、○○株式会社(以下「譲受人」という。)に対し、請求人が喫茶店及びレストランとして使用していたP市R町1丁目44番の宅地386.76平方メートル(持分3000分の281)(以下「本件土地」という。)及び本件土地上の鉄筋コンクリート造4階建1階部分の店舗72.96平方メートル(以下、「本件建物」といい、本件土地と併せて「本件土地建物」という。)を180,000,000円で、本件建物内の什器及び備品等並びに営業権(以下「営業権等」という。)を70,000,000円で、それぞれ譲渡した。
(ロ)請求人は、平成2年分所得税の確定申告に当たって、本件土地建物の譲渡価額については、その16分の5(昭和61年3月6日にGから財産分与により取得した持分の割合をいう。以下同じ。)に相当する金額を分離短期譲渡所得に係るものとし、その16分の11(昭和61年3月6日にGの持分を取得する前の請求人の持分の割合をいう。以下同じ。)に相当する金額を分離長期譲渡所得に係るものとし、それぞれにつき租税特別措置法(平成3年法律第16号による改正前のものをいい、以下「措置法」という。)第37条《特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例》の規定を適用して所得金額等を算出し、また、営業権等の譲渡価額については、そのうち50,000,000円を総合長期譲渡所得に係るものとして所得金額等を算出して、これらの各金額を確定申告書に記載して申告した。
 その後、請求人は、措置法第37条の2《特定の事業用資産の買換えの場合の更正の請求、修正申告等》第2項の規定により、修正申告をした。
(ハ)原処分庁は、これに対し、申告漏れの20,000,000円も含めた営業権等の譲渡価額全額が本件土地建物の対価の一部であるとして、同金額を分離短期譲渡所得及び分離長期譲渡所得に係る収入金額に区分しそれぞれ加算して更正処分をした。
(ニ)しかしながら、次のとおり、上記(ロ)の50,000,000円は営業権の譲渡価額であり、申告漏れの20,000,000円は什器及び備品等の対価であるから、これらの合計額70,000,000円は総合長期譲渡所得に係る収入金額として計算すべきであって、更正処分は事実誤認に基づくものである。
A 本件土地建物の所在地域においては、飲食店等を譲渡する場合、その土地建物のほかに営業権の存在を認め、付随して譲渡する慣習がある。異議決定書においても、飲食店等の譲渡に関しては営業権の譲渡が付随している場合もあることを認めているところである。また、当該店舗を譲渡した後は、同地域で以前と同じ業種の営業活動ができないことになっている。
 そこで、丸1本件土地建物は、いわゆる「居抜き」と呼ばれるそのままの状態で譲渡する方法で行うこと、丸2売買当事者双方は、請求人が12年間本件土地建物において、喫茶店を営業してきたことから、営業権が存在することを確認した上で、本件土地建物に営業権等が付くことを条件に売買交渉を行った。
B 売買交渉において、本件土地建物の譲渡価額は、1坪当たり8,000,000円、総額180,000,000円と決定し、営業権の対価の額は、請求人が金融機関から入手した営業権の譲渡価額は土地建物の譲渡価額の30パーセント前後であるという情報を参考にして、50,000,000円と決め、什器及び備品等の対価を含めた営業権等の譲渡価額を口頭契約で70,000,000円と決定し、総額250,000,000円の売買が成立したものである。
C 上記売買の最終決済日である平成2年1月10日、本件土地建物の売買価額を180,000,000円と記載した平成元年8月26日付の不動産売買契約書(以下「甲売買契約書」という。)を作成し、また、営業権等についても50,000,000円の領収書を作成交付して、売買の一切が終了した。
D 原処分庁は、譲受人は、喫茶店とは全く関係のない業種の法人で、自社の営業所を開設する目的で本件物件を購入したものであり、営業権が譲受人にとって何の価値もなく、譲受人の会計帳簿にも、土地建物勘定に230,000,000円が計上されているのみで営業権が計上されていないことから全額が本件土地建物の譲渡対価である旨主張する。しかしながら、請求人と譲受人の双方が営業権等の価値を認め合った上ではじめて売買契約が成立したものであり、単に譲受人の業種などをもって営業権譲渡の有無を論ずるのは独りよがりで粗雑な言い分である。また、譲受人の取得目的、取得後の利用状況及び取得に係る会計処理については、請求人には何ら関係のないことである。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、更正処分は違法でその一部を取り消すべきであるから、これに基づく過少申告加算税の賦課決定処分はその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
(イ)請求人が取得した譲渡代金は、次の理由により、その全額が本件土地建物の対価と認められる。
A 請求人は、譲渡価額の総額が250,000,000円であり、そのうち20,000,000円は申告漏れであることを認めていること。
B 請求人は、異議調査を担当した職員(以下「異議調査担当者」という。)に対し、「営業権の価額は、本件土地建物の譲渡価額180,000,000円の約30パーセントで計算し、50,000,000円となった。」と申述しているが、そうすると、譲渡価額の総額は230,000,000円ということになり、請求人が認めている譲渡価額の総額と異なること。
 また、申告漏れの20,000,000円が仮に本件土地建物の対価とした場合には、営業権の譲渡価額は200,000,000円の30パーセントで60,000,000円となり、他方、同20,000,000円が仮に営業権の対価とした場合には営業権の価額が土地建物の価額の約39パーセントとなるから、いずれも整合性を欠いていることとなり、請求人の申述を採用することはできないこと。
C 異議調査担当者が、請求人に対し、営業権等の譲渡価額についての具体的な計算根拠を示した書類の提出を求めたところ、請求人は、「契約時に、具体的な計算根拠を示す文書を譲受人からもらっていない。」として提出しなかったこと。
D 売買物件の表示欄に営業権の表示のない、本件土地建物の売買価額を250,000,000円と記載した平成元年8月26日付の不動産売買契約書(以下「乙売買契約書」という。)が存在すること。
E 請求人が主張するとおり、飲食店等の譲渡に際して、営業権の譲渡が付随している場合もあるが、本件の場合、譲受人は、喫茶店とは全く関係のない分譲住宅の建設及び販売を業とする法人で、自社の営業所を開設する目的で本件土地建物を購入したもので、譲受人にとって営業権は何の価値もないこと。
F 譲受人の平成2年10月期の法人税申告書の添付書類によると、土地勘定に217,630,000円、建物勘定に12,370,000円が計上されており、譲受人の会計帳簿には営業権が計上されていないこと。
(ロ)上記(イ)のとおり、250,000,000円はその全額が本件土地建物の対価と認められるから、これに基づき、分離短期譲渡所得の金額及び分離長期譲渡所得の金額を次のとおり算定した。
A 総収入金額
(A)分離短期譲渡所得に係る総収入金額
 分離短期譲渡所得に係る総収入金額は、請求人の修正申告額56,250,000円に、営業権の譲渡価額と称する金額50,000,000円と申告漏れの金額20,000,000円の合計額に16分の5を乗じて算出した金額21,875,000円を加算した78,125,000円となる。
(B)分離長期譲渡所得に係る総収入金額
 分離長期譲渡所得に係る総収入金額は、請求人の修正申告額123,750,000円に、営業権の譲渡価額と称する金額50,000,000円と申告漏れの金額20,000,000円の合計額に16分の11を乗じて算出した金額48,125,000円を加算した171,875,000円となる。
B 資産の取得費
(A)土地の取得費
 土地の取得費は、請求人の修正申告額と同額で、分離短期譲渡所得に係るもの9,159,872円及び分離長期譲渡所得に係るもの5,544,412円である。
(B)建物の取得費
 建物の取得費は、取得価額から償却費の額の累計額を控除すると、13,352,690円となる。
 したがって、上記取得費を取得時の持分割合により按分すると、分離短期譲渡所得に係るもの4,172,715円及び分離長期譲渡所得に係るもの9,179,975円となる。
(C)電気設備及び内装工事の取得費
 電気設備及び内装工事の取得費は、取得価額から償却費の額の累計額を控除すると、11,249,834円となる。
 したがって、上記取得費に譲渡価額の総額に対する分離短期譲渡所得に係る総収入金額の割合を乗じると、分離短期譲渡所得に係るものは3,515,573円となり、残余の7,734,261円が分離長期譲渡所得に係るものとなる。
C 買換資産の取得価額
 買換資産の取得価額は、請求人の修正申告額と同額で、分離短期譲渡所得に係るもの26,611,368円及び分離長期譲渡所得に係るもの20,705,207円である。
D 分離短期譲渡所得の金額及び分離長期譲渡所得の金額
 上記AないしCの金額を基に措置法第37条第1項、同法第32条《短期譲渡所得の課税の特例》第1項及び同法第31条《長期譲渡所得の課税の特例》第1項の規定により、譲渡所得の金額を算定すると、分離短期譲渡所得の金額は44,578,876円及び分離長期譲渡所得の金額は135,016,603円となる。
(ハ)平成2年1月1日ないし同月9日までの間請求人は営業をしていないため、この間の売上金額、仕入金額及び営業経費はないが、平成元年12月末現在製氷機及び電話機の未償却残高がそれぞれ730,000円及び43,000円あるので、これらの合計773,000円は除却損として平成2年分の総所得金額に係る損失の額となる。
(ニ)損益通算
 所得税法施行令第198条《損益通算の順序》及び租税特別措置法施行令(平成3年政令第88号による改正前のものをいう。以下同じ。)第21条《短期譲渡所得の課税の特例》第10項の規定に基づき、上記(ハ)の総所得金額の損失の額773,000円を上記(ロ)のDの分離短期譲渡所得の金額44,578,876円から控除すると、損益通算後の分離短期譲渡所得の金額は43,805,876円となる。
(ホ)所得控除の額
 所得控除の額は、請求人の修正申告額と同額で567,645円である。
(ヘ)納付すべき税額
 以上により、納付すべき税額は、上記(ニ)の損益通算後の分離短期譲渡所得の金額から上記(ホ)の所得控除の額を控除した課税分離短期譲渡所得金額(国税通則法第118条《国税の課税標準の端数計算等》第1項の規定により、1,000円未満の端数を切捨てたもの。以下同じ。)42,238,000円に対する税額19,215,000円と、上記(ロ)のDの課税分離長期譲渡所得金額(国税通則法第118条第1項の規定により、1,000円未満の端数を切捨てたもの。以下同じ。)135,016,000円に対する税額31,754,000円を合計した50,969,900円となり、更正処分に係る納付すべき税額を上回るから、更正処分は適法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、更正処分は適法であり、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由がある場合に該当しないから、同条第1項の規定に基づいて過少申告加算税を賦課決定した処分は適法である。

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3 判断

 双方の主張に基づいて調査、審理したところ、次のとおり判断される。

(1)更正処分について

イ 営業権等の対価の額と請求人の主張する70,000,000円が本件土地建物の譲渡価額の一部であるか否かについて争いがあるので、以下審理する。
(イ)請求人が譲受人から本件土地建物の譲渡に関連して受領した譲渡代金の総額が250,000,000円であることについては、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(ロ)請求人提出資料及び原処分関係資料並びに当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 請求人は、昭和53年にGとともに本件土地建物を取得し、昭和61年3月6日、Gから本件土地建物の同人の持分全部(土地3000分の87及び建物16分の5)を財産分与により取得したこと。
B 本件土地建物の譲渡については、平成元年8月26日付の売買金額を180,000,000円とする甲売買契約書及び同日付の売買金額を250,000,000円とする乙売買契約書が作成されていること。
 なお、甲売買契約書は請求人及び譲受人双方が保存しており、乙売買契約書は、二片に切断された状態で譲受人のみが保存していること。
 また、甲売買契約書及び乙売買契約書については、次のとおりであること。
(A)甲売買契約書及び乙売買契約書とも、同じ書式で印刷した用紙が使用されている。
(B)売買価格の欄は、甲売買契約書では180,000,000円、乙売買契約書では250,000,000円と記載され、金額が相違する。
(C)上記(B)以外の契約書に記載された次の事項は、甲売買契約書及び乙売買契約書とも同じである。なお、いずれの契約書にも営業権についての記載がない。
(1)残代金支払の年月日 平成2年1月10日
(2)本件物件の引渡年月日 平成2年1月10日
(3)売買物件
 所在地 P市R町1丁目44番××ハイツ101号
 土地  宅地386.76平方メートル持分3000分の281
 建物  鉄筋コンクリート造陸屋根4階建1階部分
 店舗  72.96平方メートル
(4)契約年月日 平成元年8月26日
(5)売主の住所 P市R町1丁目5番22号
   氏名    C(請求人)
(6)買主の住所 Q市S町1丁目94番地
   氏名    ○○株式会社代表取締役E
(7)特約条項 売買の引渡日以後、同物件内に残存する物品等は、買主の所有とし、買主が撤去処分等をしても売主は一切異議なきものとすること
(D)甲売買契約書及び乙売買契約書において、売主の住所氏名の筆跡及び印鑑は同一であると認められ、同じく、買主の住所氏名は同一のゴム印により表示され、印鑑も同一と認められる。
 また、請求人は、平成2年1月10日付で営業権等の譲渡代金を50,000,000円と記載した領収書(以下「本件領収書」という。)を譲受人に渡したこと。
C 請求人は、原処分の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)に、次のとおり申述していること。
(A)本件売買の相手方である譲受人の交渉担当者は、譲受人の社長の弟であるFと本部長のHである。
(B)平成元年8月26日の数日前にFが10,000,000円をもって店へ来て、手付金として置いていった。その時、「契約書は後日作成する」と言われ、領収書のみを渡したと思う。
(C)平成元年8月26日に250,000,000円の契約書をもって、F、Hが来て、店で判を押したと思う。しかし、営業権が区分されていないので作り替えてもらおうとお願いしたところ、代金の最終決済のときに、作り替えた契約書を渡してもらい、250,000,000円の契約書は破るということになった。
(D)平成2年1月10日にI信用金庫K支店でFとHの部下の人及び司法書士の立会いで最終代金を受け取り、180,000,000円の契約書に判を押すとともに、営業権及び什器備品代50,000,000円と記載した領収書に署名押印して相手に渡した。
D 請求人が当審判所に提出した「売買契約の経過」と題する書面(以下「本件経過説明書」という。)には、次のとおり記載され、平成4年12月19日付でHのゴム印による記名及び押印があること。なお、本件経過説明書は異議申立書にも添付して提出されていること。
(A)当初はマンション物件200,000,000円、営業権100,000,000円、総額300,000,000円で売主側から申し出があった。
(B)後日、交渉の中で、土地建物代金180,000,000円、営業権等として70,000,000円となり、最終決定した。
(C)当初250,000,000円の契約書を作成したが、営業権は土地建物に入らないので改めて180,000,000円の契約書を作成し、営業権は領収書のみを作成交付した。
(D)金70,000,000円の内容については、当然営業権が条件となり、当社も合意のもとで、最終売買に至った。
E 平成元年8月29日付の譲受人の代表取締役E名の請求人あての「念書」と題する書面(以下「本件念書」という。)には、「今般、下記物件売買に当たり売買価格金弐億伍阡萬円也で売買契約を締結しましたが、別紙売買契約書第3条の残代金支払日に契約書金額を金弐億参阡萬円也に変更したものと差替え致します」と記載されていること。
F 譲受人は、本件土地建物を取得した日の属する平成2年10月期において、請求人に支払った250,000,000円をいったん土地原価勘定に計上し、その後、土地勘定に217,630,000円、建物勘定に12,370,000円及び仮払金勘定に20,000,000円をそれぞれ振り替える経理処理をしたこと。
 そして、譲受人は、この仮払金20,000,000円を平成4年10月期に土地勘定へ振り替えて、本件土地を含む譲受人所有の△△第2営業所用地の帳簿価額に加算していること。
G 平成元年12月末現在の請求人の什器及び備品等の残存価額は、什器及び陶器一式が零円、製氷機が730,000円及び電話機が43,000円であること。
H 請求人が提出した事業所得に係る青色申告決算書のうち本件土地建物譲渡前5年間の喫茶店に係る総収入金額及び青色申告控除前の所得金額(以下このHにおいて「所得金額」という。)は、次表のとおりであること。

(単位 円)
年分\区分総収入金額所得金額
昭和60年分27,907,1601,556,645
昭和61年分25,059,790▲8,345,162
昭和62年分18,549,6401,016,028
昭和63年分19,353,3273,291,942
平成元年分14,401,4401,484,495

(注)「所得金額」欄の▲印は、損失の金額を示す。
 なお、請求人は、平成2年9月14日に収入金額の欄は空欄のまま、事業所得の金額を4,680,000円とする平成元年分所得税の修正申告書を提出していること。
(ハ)請求人は、当審判所に対し、次のとおり答述する。
A 請求人は、昭和53年から平成2年1月9日まで約12年間喫茶店を営業していたこと。
 また、営業時間は午前8時から午後11時までで、正月も営業していたこと。
B 売上内容は喫茶が一番多く、午前8時から午後5時までで1日の売上げの約9割を占めていたこと。
C 喫茶店は、仕入れの残りがあったので、平成2年1月9日まで営業し、売上金額も若干あったが、事業所得の金額を計算すると零円となるので、平成2年分の確定申告書には事業所得の金額を記載しなかったこと。
D 本件土地建物の売買交渉で、請求人は、居抜きのれん付の売買であること及び売買契約金額は総額250,000,000円であるが230,000,000円で成立したこととし、20,000,000円は別に受け取りたいと譲受人に申し入れたところ、譲受人が同意したので売買契約に応じることにしたこと。
E 総額250,000,000円で話がまとまったが、売買契約書をみると、契約書に営業権の記載がされていないので、そのことを指摘すると、決済時に差し替えると言われたこと。
F 平成2年1月10日に、売買価格を180,000,000円と記載して売買契約書を受け取り、また、確定申告は180,000,000円の契約書と50,000,000円の領収書で申告したらよいと言われ請求人も50,000,000円については領収書があればよいと思っていたこと。なお、営業権等についての内訳は営業権が50,000,000円、什器及び備品等が20,000,000円であるが、契約書等はなく、他に証拠もないこと。
(ニ)譲受人の取締役営業本部長H(以下「H」という。)は、当審判所に対し、次のとおり答述する。
A 譲受人は、本件土地建物を転売目的で取得し、取得後、本件土地建物並びに什器及び備品等はそのまま放置して一切使用していないこと。
B 譲受人は、請求人から売買取引の総額250,000,000円のうち20,000,000円を除外して230,000,000円で売買が行われたようにすることを依頼され、表向きは230,000,000円の売買としたこと。
C 請求人から、230,000,000円のうち50,000,000円を営業権として欲しい旨の申立てがあったので、本件土地建物の価額を180,000,000円、営業権の価額を50,000,000円としたこと。
D 譲受人では、売買金額について、基本的には売買契約書のなかでは譲渡物件ごとの価額を記載せず総額で記載していること。
E 譲受人は、本件土地建物を250,000,000円で取得したので、譲受人の帳簿でも土地原価勘定250,000,000円と経理処理をしたこと。
(ホ)請求人は、当審判所に対し営業権の存在及びその対価の算定に関する具体的な資料を一切提出しない。
(ヘ)請求人は、本件土地建物の所在地で約12年間喫茶店を経営してきたことから、本件土地建物の売買に当たり、売買当事者双方が営業権の存在を認め、口頭契約により、本件土地建物とともに営業権を譲渡した旨主張する。
 そこで、上記(イ)ないし(ホ)の事実を基に検討すると、次のとおりである。
A 甲売買契約書及び乙売買契約書は、上記(ロ)のB及び同Cの(C)及び(D)、(ハ)のE及びFから、いずれも請求人及び譲受人の合意により作成されているものと認められる。
B 請求人は、上記(ロ)のCの(C)及び(D)の申述並びに(ハ)のE及びFの答述において、乙売買契約書は甲売買契約書及び本件領収書によって差し替えられたとの趣旨を述べていると認められ、乙売買契約書は上記(ロ)のBのとおり、譲受人保存分については実際に切断されたと認められ、請求人保存分については破棄されたと推認されるが、次の理由から、乙売買契約書に記載された内容が真正の契約と判断され、同契約書に記載された250,000,000円は、その全体が本件土地建物の譲渡の対価の額と推認される。
(A)本件土地建物の譲渡に関連し請求人が譲受人から受領した譲渡代金の総額が250,000,000円であることについては、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所においても事実と認められるところ、甲売買契約書記載の金額と本件領収書記載の金額とを合計しても230,000,000円であるのに対し、乙売買契約書記載の金額は250,000,000円であること。
(B)上記(ロ)のBの(C)のとおり、乙売買契約書には、売買物件として本件土地建物のみが表示されており、営業権等についての記載は、同(ロ)のBの(C)の〔7〕を除き、ないこと。
 なお、甲売買契約書についても同様であること。
(C)乙売買契約書が真正と異なるのであれば、仮に作り替えるという約束があったとしても、請求人が同契約書に署名押印することは不自然であること。
 なお、上記(ロ)のEの本件念書については、その日付は平成元年8月29日付であり、上記判断を覆すものではないこと。
(D)したがって、上記(ハ)のEの「売買契約書をみると、契約書に営業権の記載がされていないので、そのことを指摘すると」との請求人の答述及びこれと同趣旨の上記(ロ)のCの(C)の申述は信用することができず、上記(ニ)のB及びCのHの答述を採用すべきと認められること。
 なお、上記(ニ)のB、C及びDのHの答述については、譲受人が本件土地建物の売買を円滑に行うため、請求人の依頼するままに、譲渡代金を分割し、譲渡対象の名目を変更したとみるのが相当であり、上記(ハ)のFの請求人の「確定申告は180,000,000円の契約書と50,000,000円の領収書で申告したらよいと言われ」との答述は、上記認定と合致する限りにおいて採用すべきものと認められること。
 同様に、本件経過説明書については、異議審理庁又は調査担当職員に対する説明のため、請求人の依頼するままに作成されたものと認められ、採用することはできないこと。
C 請求人は営業権等の譲渡は口頭契約によると主張するが、上記(ホ)のとおり、その営業権の存在及び価額の算定根拠については、金融機関からの情報を参考にしたというだけで、裏付けとなる具体的な資料等を一切提出していず、また、高額な営業権の取引をするにもかかわらず口頭契約により行ったとする請求人の主張は不自然であるから、直ちに採用することはできない。
 なお、本件全資料によれば、請求人は、本件土地建物の譲渡に関する交渉に際し、営業権の対価の名目で相当多額の金員を受領することを意図していたものと推定されるが、売買契約書は、いずれも、上記Bの(B)のとおり作成されているのであるから、売買契約において、営業権の譲渡が合意されたものと認めることはできない。
D また、次の各事実が認められるが、これはいずれも請求人と譲受人の間で営業権等の存在がなかったとする上記Bの推認に合致するものである。
(A)請求人の事業所得に係る青色申告決算書によると、上記(ロ)のHのとおり、本件土地建物の譲渡直前5年間における青色申告控除前の所得金額の平均が439,890円であるように、請求人の事業は比較的小規模の事業に属し、その営業成績は必ずしも良好であったとはいえないこと。
(B)請求人は、平成2年1月9日で喫茶店及びレストランの店舗を閉鎖しているが、Hは、上記(ニ)のAのとおり答述しており、当審判所が平成6年5月10日に本件建物を確認したところでも、店舗は閉鎖されたままであること。
(C)譲受人は本件土地建物を取得した後、その会計帳簿において取得価額250,000,000円をいったん土地原価勘定に計上した後、土地勘定に237,630,000円及び建物勘定に12,370,000円と計上しているが、営業権は計上していないこと。
(ト)ところで、請求人は、本件土地建物の所在地域においては、飲食店等を譲渡する場合、その土地建物のほかに営業権の存在を認め、付随して譲渡する慣習があると主張する。
 しかしながら、当審判所の調査によっても、本件土地建物の所在地において請求人が主張するような高額な営業権の取引事例を認めることはできず、他にそのような慣習があると思料されるほどの証拠資料等も見当たらないから、仮に、一部の取引事例において営業権の対価が支払われたものがあるとしても、それをもって、上記認定を覆すことはできない。
(チ)また、請求人は、店舗内の什器及び備品等を20,000,000円で譲渡した旨主張する。
 しかしながら、上記(ロ)のBの(C)のとおり乙売買契約書には什器及び備品等については同〔7〕の記載しかないこと、上記(ロ)のGのとおり残存価額が零円の什器及び陶器や残存価額が730,000円の製氷機等が残存価額の25倍もの値段で取引されたとは考えられないこと及び上記(ヘ)のDの(B)のとおり本件土地建物の売買以降は店舗は閉鎖されたままで営業されていないことからすると、これらの什器及び備品等には取引上対価の支払の対象とするほどの価値はなかったものと認められ、仮に本件土地建物とともに什器及び備品等が譲受人に譲渡されたとしても、これは請求人がこれらの什器及び備品等を本件建物から除去することを要しないという意味しか有さないとみられるから、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
(リ)なお、請求人は、いわゆる「居抜き」と呼ばれる形で店舗を譲渡したので営業権の譲渡に当たると主張する。
 しかしながら、飲食店業界で行われているいわゆる居抜き権利の売買とは、借家権の譲渡(賃借人名義の変更)につき賃貸人による事前の承諾があることを前提として、第三者に当該店舗内の造作や什器備品等を直ちに営業を開始できる状態のままで一括して譲渡する場合をいい、建物の賃貸借関係を前提としつつ、かつ、それとは別個にテナント間で成立する法律関係であると解されているところ、本件においては、請求人は、本件土地建物の所有権を譲渡したものであり、さらに什器及び備品等については上記(チ)のとおりと認められるから、請求人と譲受人との間でいわゆる居抜き権利の売買がされたということはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ヌ)ところで、請求人は、譲受人の本件土地建物の取得目的、取得後の利用状況及び取得に係る会計処理については、請求人が営業権等を譲渡したことと何ら関係がない旨主張するが、上記認定に当たっては、譲受人の行動等は事実認定の判断材料及び心証形成の一部にすぎないものであり、また、譲受人は本件土地建物及び仮に存するとすればそれに伴う営業権の取引の直接の当事者であるから、その行動等は営業権等の取引の有無を判断する上で当然考慮されるべきである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ル)以上のとおり、請求人が譲受人から受領した譲渡代金250,000,000円は、その全額が本件土地建物の譲渡の対価の額であると認められる。
ロ つぎに、分離短期譲渡所得の金額及び分離長期譲渡所得の金額について検討したところ、次のとおりである。
(イ)総収入金額
 本件土地建物の譲渡対価と認定した250,000,000円に、16分の5を乗じて算出した金額78,125,000円が分離短期譲渡所得に係る総収入金額となり、同様に、16分の11を乗じて算出した金額171,875,000円が分離長期譲渡所得に係る総収入金額となる。
(ロ)資産の取得費
A 土地の取得費
 請求人は、分離短期譲渡所得に係る土地の取得費9,159,872円及び分離長期譲渡所得に係る土地の取得費5,544,412円については争わず、当審判所の調査によっても、これらの金額に誤りは認められない。
B 建物の取得費
 請求人は、平成2年1月9日まで喫茶店を営業しているので、建物の取得費について、取得価額から償却費の額の累計額を控除すると、13,332,126円となる。
 そうすると、残存価額の13,332,126円に、16分の5を乗じた金額4,166,289円が分離短期譲渡所得に係る建物の取得費となり、同様に16分の11を乗じて算出した金額9,165,837円が分離長期譲渡所得に係る建物の取得費となる。
C 電気設備及び内装工事の取得費
 請求人は、平成2年1月9日まで喫茶店を営業しているので、電気設備及び内装工事の取得費について、取得価額から償却費の額の累計額を控除すると、11,122,052円となる。
 そうすると、残存価額の11,122,052円に、16分の5を乗じて算出した金額3,475,641円が分離短期譲渡所得に係る電気設備及び内装工事の取得費となり、同様に16分の11を乗じて算出した金額7,646,411円が分離長期譲渡所得に係る電気設備及び内装工事の取得費となる。
(ハ)買換資産の取得価額
 請求人は、買換資産の取得価額(分離短期譲渡所得に係るもの26,611,368円及び分離長期譲渡所得に係るもの20,705,207円)については争わず、当審判所の調査によっても、これらの金額に誤りは認められない。
(ニ)分離短期譲渡所得の金額及び分離長期譲渡所得の金額
 上記(イ)ないし(ハ)の金額を基に、措置法第37条第1項、第32条第1項及び第31条第1項の規定により分離短期譲渡所得の金額及び分離長期譲渡所得の金額を算出すると、分離短期譲渡所得の金額は44,612,601円及び分離長期譲渡所得の金額は135,108,761円となる。
ハ 総所得金額
 上記イの(ル)のとおり、請求人が受領した譲渡代金250,000,000円は、その全額が本件土地建物の譲渡対価であるから、請求人の主張する営業権等の譲渡による総合長期譲渡所得又は総合短期譲渡所得に係る収入金額はない。
 ところで、請求人は、平成2年1月9日まで喫茶店を営業しているので、什器及び備品等のうち製氷機及び電話機については、それぞれ取得価額から償却費の額の累計額を控除した金額の合計756,500円が未償却残高となり、当該金額は除却損として平成2年分の総所得金額に係る損失の金額となる。
 なお、上記イの(チ)のとおり、仮に什器及び備品等が譲渡されたとしても、その譲渡価額は零円であるから、上記756,500円は総合短期譲渡所得に係る損失として、同様に総所得金額に係る損失の金額となる。
ニ 損益通算
 所得税法第69条《損益通算》、所得税法施行令第198条及び租税特別措置法施行令第21条第10号の規定に基づいて、上記ロの(ニ)の分離短期譲渡所得の金額44,612,601円から上記ハの総所得金額の損失の金額756,500円を控除すると、分離短期譲渡所得の金額は43,856,101円となる。
ホ 所得控除の額
 所得控除の額が567,645円であることについては、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査によっても相当と認められる。
ヘ 納付すべき税額
以上により、納付すべき税額は、上記ニの分離短期譲渡所得の金額から上記ホの所得控除の額を控除した課税分離短期譲渡所得金額43,288,000円に対する税額19,243,400円と、上記ロの(ニ)の課税分離長期譲渡所得金額135,108,000円に対する税額31,777,000円を合計した51,020,400円となり、更正処分に係る納付すべき税額を上回るから、更正処分は適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 以上のとおり、更正処分は適法であり、また、請求人には、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、原処分庁が同条第1項の規定に基づいて過少申告加算税を賦課決定した処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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