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(平7.3.30裁決、裁決事例集No.49 202頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は会社役員であるが、昭和63年分所得税の確定申告書(分離課税用)に次表の「申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し平成4年3月12日付で、次表の「更正等」欄のとおり更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。

(単位 円)
項目\区分申告更正等
総所得金額14,347,43114,347,431
内訳
 不動産所得の金額3,402,4313,402,431
 給与所得の金額10,945,00010,945,000
分離短期譲渡所得の金額912,980290,552,980
納付すべき税額1,077,400187,190,100
過少申告加算税の額27,744,000

 請求人は、これらの処分を不服として平成4年5月11日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、これに対し同年8月5日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成4年9月3日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 異議審理手続について
 異議審理庁は、異議申立てに係る調査において、請求人に対し一度の確認調査もせず、G株式会社(平成4年9月18日付でF株式会社に商号変更した。以下「G社」という。)の代表取締役K(以下「K」という。)及び株式会社M(以下「M社」という。)の代表取締役L(以下「L」という。)の原処分庁の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)に対する申述のみを採用し、異議決定を行った。
ロ 本件更正処分について
(イ)請求人は、昭和63年7月8日付で自己が所有するP市R町1892番1及び同所1895番所在の畑、合計1,928平方メートル(以下「本件譲渡土地」という。)をM社に263,000,000円で譲渡したので、当該譲渡に係る譲渡所得の金額を計算の上、申告したところ、原処分庁は、本件譲渡土地の譲渡に係る収入金額は、請求人が同年8月24日付でG社から取得したP市S町901番2及び同所902番所在の宅地、合計1,447.27平方メートル(以下「本件取得土地」という。)の価額455,300,000円及び本件取得土地上に建築された建物(以下「本件建物」といい、本件取得土地と併せて「本件取得資産」という。)の価額97,340,000円の合計額552,640,000円であるとして平成4年3月12日付で本件更正処分をした。
 しかしながら、本件譲渡土地の譲渡に係る収入金額は、次の理由から、請求人がM社に本件譲渡土地を譲渡した際の売買契約書(以下「本件契約書」という。)に記載した金額263,000,000円である。
A 本件譲渡土地の譲渡及び本件取得資産の取得(以下「本件取引」という。)の経緯については、次のとおりである。
(A)当初、G社から学校法人C大学(以下「C大学」という。)のキャンパス用地として本件譲渡土地が必要であるとして、買い取りの申込みがあった。
(B)そこで、P市役所の企画室長にC大学のキャンパス用地の買収について確認したところ、P市全体の都市計画の一部として考えてほしい旨の回答があった。
(C)このため、P市の発展に寄与するつもりで、本件譲渡土地を請求人が納得のできる最低価額で譲渡することとした。
(D)当時、請求人が代表取締役を務めるH株式会社(以下「H社」という。)が事務所の建築を考えていたので、G社にその用地の確保を依頼することとなり、結果として取得したのが本件取得資産である。
B 本件契約書に係る売買価額263,000,000円は、請求人が証拠として提出した不動産鑑定評価書(鑑第○○○号)に基づく本件譲渡土地の鑑定評価額271,840,000円に照らし若干の差異はあるものの、おおむね妥当な金額である。
C 本件取得資産の取得価額については、次のとおりである。
(A)原処分庁は、本件取得土地の価額をM社がB株式会社(以下「B社」という。)から取得した際の売買代金455,300,000円であるとしているが、請求人が証拠として提出した不動産鑑定評価書(鑑第△△△号)(以下「本件鑑定評価書」という。)に基づく本件取得土地の鑑定評価額は302,470,000円であり、M社が不当に高い価額で買入れたものについて、請求人自身関知するものではない。
(B)本件鑑定評価書に基づく本件取得土地の鑑定評価額302,470,000円及び本件建物の建築価額97,340,000円の合計額399,810,000円とこれらの取得価額263,000,000円には乖離がみられるが、後記(ハ)のとおり本件取得資産の取得価額は適正な価額である。
(ロ)本件取引についてはM社に一任し、その税務処理についてはD税理士(以下「D税理士」という。)に委任した。
 なお、本件取引について、L及びD税理士は事前に原処分庁の担当統括国税調査官(以下「担当統括官」という。)に相談の上、承認を取ったということであった。
(ハ)以上のとおり、本件契約書に係る売買価額が適正である限り、その売買価額の範囲を予算の上限として、新規に物件を取得することは当然の行為である。
 したがって、その予算を踏まえた上で、G社が通常の取引価額より低額で本件取得資産を譲渡したことは、いわば取引上の駆け引きに当方が秀でていたことにほかならない。
 請求人自身、この取引で経済的利益を受けているような認識はもっていない。
 つまり、本件譲渡土地の譲渡対価として本件取得資産を取得したものではなく、本件譲渡土地の譲渡対価をもって本件取得資産を取得したものである。
ハ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 異議審理手続について
 異議審理手続の違法又は不当を理由として原処分の取消しを求めることはできない。
 なお、異議決定の棄却の理由は、異議決定書に記載したとおりであり、K及びLの調査担当職員に対する申述のみに基づくものではない。
ロ 本件更正処分について
(イ)所得税法第36条《収入金額》第1項及び第2項の規定によれば、譲渡所得の金額の計算上収入金額とすべき金額は、金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入とする場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額とするとされており、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受するときにおける価額とされている。
(ロ)異議審理庁の異議審理担当職員が調査、審理したところ、次の事実が認められる。
A 昭和63年7月8日付、売主を請求人、買主をM社、売買価額を263,000,000円とする本件契約書が存すること。
B 昭和63年8月24日付、売主をM社、買主をG社、売買価額を272,000,000円とする本件譲渡土地に係る売買契約書が存すること。
C 昭和63年6月8日付、売主をB社、買主をM社、売買価額を455,300,000円とする本件取得土地及び本件取得土地上の建物133.63平方メートル(以下「本件旧建物」という。)に係る売買契約書が存すること。
D 昭和63年8月24日付、売主をM社、買主をG社、売買価額を538,000,000円とする本件取得土地及び本件旧建物に係る売買契約書が存すること。
E 昭和63年8月24日付、売主をG社、買主を請求人、売買価額を263,000,000円とする本件取得資産に係る売買予約契約書(以下「本件予約契約書」という。)が存すること。
F 昭和63年8月24日付、請求人、G社、N社(以下「N社」という。)及びI株式会社(以下「I社」という。)は本件予約契約書に付帯して覚書(以下「本件覚書」という。)を作成しており、同覚書には次のような記載があること。
(A)G社は、本件建物を請求人の企画プラン及び請求人が定める仕様により、かつ、請求人が指名したN社の設計及びI社の施工により建築するものとする。
(B)G社は、I社から引渡しを受けた現状のまま、請求人に対し本件建物を引き渡すことにより売主としてのすべての義務を果たしたものとし、G社は請求人に対し、瑕疵担保、後請補償その他何らの責任も負担しないものとする。
(C)請求人は、本件建物に対する仕様、工事範囲、施工精度(出来上がり品質)については、G社に対し異議を述べないものとし、万一異議等が生じた場合には、請求人とN社又はI社間で処理解決するものとし、G社には迷惑をかけないものとする。
(D)G社は、N社に対し本件建物の設計料として4,000,000円及びI社に対し本件建物の建築費用として93,340,000円を支払う。
G 請求人は、本件譲渡土地をM社に売り渡し、その代替えとしてG社から本件取得資産を買い受ける契約をしたが、当該買受けに伴って請求人が課税処分を受けてもG社には迷惑をかけない旨の昭和63年8月24日付念書(以下「本件念書」という。)をG社に差し入れていること。
H G社は、請求人に本件取得土地を譲渡したことに伴い生じた譲渡損失を本件譲渡土地の取得価額に算入していること。
I Kは、調査担当職員に対し次のとおり申述していること。
(A)本件譲渡土地は、C大学のキャンパス用地として必要な土地であったので、当初請求人に対し買収交渉を行った。
(B)請求人から本件譲渡土地の件についてはM社を間に入れて欲しい旨の申出があったので、以後M社を通して交渉することになった。
(C)本件譲渡土地の金額について請求人と折合いがつかず、最終的には、本件取得資産を代替物件として提供することで交渉が成立した。
(D)本件取得資産に関する手当てはすべて請求人及びM社に任せた。
(E)本件取得資産の金額については、請求人、M社、N社及びI社で決めたものであり、G社は、ただ請求人らの決めた金額に見合う金銭を支払ったものである。
(F)本件譲渡土地の取得についてM社が間に入っているが、直接の売買当事者はあくまでG社と請求人であると認識している。
(G)本件取得土地の譲渡に関する譲渡損失を本件譲渡土地の取得原価に算入したのは、当該損失を本件譲渡土地の取得のために要したものと認識しているからである。
J Lは、調査担当職員に対し次のとおり申述していること。
(A)請求人は、本件譲渡土地を譲渡する際、代替地を要求した。
(B)本件取得土地の面積が本件譲渡土地の面積より少なかったので、請求人は本件譲渡土地の譲渡になかなか応じなかったが、建物を建てるという条件で取引に至った。
(ハ)以上の事実等を総合勘案すると、次のとおりである。
A 請求人は、本件譲渡土地をM社に263,000,000円で譲渡したものであるから、本件譲渡土地の譲渡収入金額は263,000,000円である旨主張するが、次の理由により、請求人は、本件譲渡土地の譲渡対価として本件取得資産を取得したものと認められ、本件譲渡土地の譲渡収入金額は、前記(イ)のとおり、本件取得資産の価額であると認められる。
(A)売買契約上本件譲渡土地は、請求人からM社を経由してG社に譲渡されているが、前記(ロ)のIのK及び前記(ロ)のJのLの申述によれば、G社は、請求人から本件譲渡土地を取得したのであって、M社は請求人からの依頼により、請求人側の交渉窓口となったにすぎないと認められること。
(B)前記(ロ)のFのとおり、本件覚書によれば、丸1本件建物の建築主はG社であるものの、本件建物の設計は、請求人の企画プランに基づくものであること、丸2本件建物の設計及び建築業者は請求人が指名していること及び丸3本件建物について異議が生じた場合は請求人とI社との間で協議することとし、G社は何の責任も負わないこと等の事実を考え併せれば、本件建物の実質の建築主は請求人であると認められること。
(C)上記(B)に加え、前記(ロ)のG、I及びJの事実に照らせば、請求人は、本件譲渡土地の譲渡対価として、G社に対し本件取得資産を要求したものと認められること。
(D)前記(ロ)のH及びIの事実に照らせば、G社の請求人に対する本件取得資産の譲渡は形式的なものであり、G社は、本件譲渡土地の取得に関する一連の行為として本件取得資産の価額に見合う金銭を支払ったに過ぎないと認識していると認められること。
B 本件予約契約書によれば、請求人は、本件取得土地を263,000,000円で取得しているものの、当該金額は前記(ロ)のIの(E)のとおり、請求人とM社で算定した金額であってG社はそれに従っただけであると認められることから、この金額を本件取得土地の価額とすることはできないところ、本件取得土地は、前記(ロ)のC及び前記(ロ)のIの(D)のとおり、請求人の代替地の要求に応じるために、M社が第三者であるB社から取得したものと認められるから、当該取得価額が本件取得土地の価額であると認められる。
 なお、M社はB社から本件取得土地及び本件旧建物を併せて455,300,000円で取得しているが、前記(ロ)のFのとおり本件取得土地上には本件建物の建築が予定されており、本件旧建物は取り壊される予定であったことから売買契約上無価値であったと認められ、当該金額はすべて本件取得土地の価額であると認められる。
C 前記(ロ)のFの(D)のとおり、本件建物の価額は、G社がN社に対し支払った本件建物の設計料4,000,000円及びI社に対し支払った本件建物の建築費用93,340,000円の合計額97,340,000円と認められる。
(ニ)以上の結果、請求人の譲渡収入金額は、本件取得土地の価額455,300,000円と本件建物の価額97,340,000円の合計額552,640,000円と認められるから、請求人の分離短期譲渡所得の金額及び納付すべき税額は、次表のとおりとなり、本件更正処分の金額はこれらの金額と同額であるから、本件更正処分は適法である。

(単位 円)
項目金額
譲渡所得の金額の計算
 譲渡収入金額1 552,640,000
 取得費の額2 254,097,020
 譲渡に要した費用の額3 7,990,000
 分離短期譲渡所得の金額290,552,980
  (123
納付すべき税額の計算
 総所得金額14,347,431
 内訳
  不動産所得の金額3,402,431
  給与所得の金額10,945,000
 分離短期譲渡所得の金額290,552,980
 納付すべき税額187,190,100

(ホ)なお、請求人は、担当統括官が本件取引について事前に承認している旨主張するが、原処分庁の調査によれば、担当統括官が本件取引内容について事前に承認したという事実は認められない。
ハ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、かつ、請求人には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてした過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、異議審理手続の違法性の存否及び本件譲渡土地の譲渡に係る収入金額の多寡にあるので、以下審理する。

(1)異議審理手続について

 請求人は、異議審理庁が異議申立てに係る調査において、請求人に対し一度の確認調査もせず、K及びLの調査担当職員に対する申述のみを採用して異議決定を行ったのは違法である旨主張する。
 しかしながら、国税通則法第76条《不服申立てができない処分》は、異議審理庁がした異議決定について、不服申立てをすることはできない旨規定しており、異議審理手続の違法又は不当は、原処分の取消事由に当たらないというべきであるから、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

(2)本件更正処分について

イ 当審判所が原処分関係資料等を調査したところ、次の事実が認められる。
(イ)本件譲渡土地は、C大学のキャンパス予定地内にあったこと。
(ロ)請求人は、昭和62年8月24日に本件譲渡土地を前所有者であるV(以下「V」という。)から239,120,000円で取得していること。
(ハ)本件契約書によれば、請求人は、昭和63年7月8日に本件譲渡土地をM社に、263,000,000円で譲渡していること。
(ニ)M社とG社との売買契約書によれば、M社は、昭和63年8月24日に本件譲渡土地をG社に272,000,000円で譲渡していること。
(ホ)M社とB社との売買契約書によれば、M社は、昭和63年6月8日に本件取得土地及び本件旧建物をB社から455,300,000円で取得していること。
(ヘ)M社の昭和63年1月1日から昭和63年12月31日までの事業年度の法人税の確定申告書によれば、同社は、本件旧建物の借家人である有限会社J及び株式会社Tに対し、土地明渡費用(以下「本件立退料」という。)として合計70,000,000円支払い、これを会計処理上、本件取得土地の取得原価に算入していること。
(ト)M社とG社との売買契約書によれば、M社は、昭和63年8月24日に本件取得土地及び本件旧建物をG社に538,000,000円で譲渡していること。
(チ)本件予約契約書によれば、請求人は、昭和63年8月24日に本件取得資産をG社から263,000,000円で取得していること。
(リ)請求人、G社、N社及びI社は、昭和63年8月24日に本件予約契約書に付帯して本件覚書を作成しているが、その内容は要旨次のとおりであること。
A G社は、本件建物を請求人の企画プラン及び請求人が定める仕様により、かつ、請求人が指名したN社の設計及びI社の施工により建築するものとする。
B G社は、N社に対し本件建物の設計料として4,000,000円及びI社に対し本件建物の建築費用として93,340,000円を支払い、I社から引渡しを受けた現状のまま請求人に引き渡す。
(ヌ)本件取得土地の登記簿謄本によれば、昭和56年3月1日の相続を原因としてWが所有権を取得し、以後、昭和62年9月25日の売買を原因としてWからB社に、昭和63年8月24日の売買を原因としてB社からG社に、同年12月27日の売買を原因としてG社から請求人に所有権移転の登記がされていること。
(ル)上記(ヌ)に記載するWからB社に所有権が移転される間に、登記を省略して更に2回の売買契約が存すること。
(ヲ)上記(ル)に記載するWからB社に所有権が移転され、更にM社に売買されるまでのいずれの売買当事者間においても、相互に資本系列等の特別な関係はないと認められること。
(ワ)本件旧建物の登記簿謄本によれば、本件旧建物は、昭和63年8月5日に取り壊され、同年12月21日に閉鎖登記がされていること。
(カ)請求人は、「本件譲渡土地をM社に売り渡し、その代替えとしてG社から本件取得資産を買い受ける契約をしたが、当該買受けに伴って請求人が課税処分を受けてもG社には迷惑をかけないし、また、金銭その他の請求をしない」旨の本件念書を同社に差し入れていること。
(ヨ)G社の昭和63年5月1日から平成元年4月30日までの事業年度の総勘定元帳(土地建物勘定)には、次のとおり記載されていること。
A M社に対し、本件譲渡土地の代金272,000,000円を昭和63年8月24日及び同年12月24日に各136,000,000円ずつ現金及び小切手で支払った。
B 昭和63年8月24日に本件取得土地をM社から538,000,000円で取得し、現金で支払った。
C 請求人から本件予約契約書に基づく売買代金263,000,000円を昭和63年8月24日及び同年12月27日に各131,500,000円ずつ現金で受領した。
D 本件建物の設計料としてN社に対し昭和63年8月24日1,000,000円、同年10月20日2,000,000円及び同年12月27日1,000,000円を現金及び小切手で支払った。
E I社に対し本件建物の建築費用として昭和63年8月24日30,000,000円、同年12月13日30,000,000円及び同年12月27日33,340,000円を現金及び小切手で支払った。
(タ)平成3年3月26日付のX株式会社(以下「X社」という。)とG社との覚書によれば、X社は、C大学から○○キャンパス新築工事を受注する目的で、同キャンパス予定敷地内にあった本件譲渡土地及びP市R町1906‐1ほか所在の雑種地を買収するようG社に依頼したが、これらの土地を買収する際に生じた損失708,363,000円は、X社が補てんすることで合意していること。
(レ)G社は、上記(タ)の覚書に基づき、平成3年3月26日にX社から前記(ヨ)のBとCの取引による損失275,000,000円及び(ヨ)のDとEの本件建物に係る建築費等97,340,000円をそれぞれ補てんされていること。
ロ 当審判所が、請求人並びにY銀行××支店(以下「Y銀行」という。)及びZ銀行△△支店(以下「Z銀行」という。)を調査したところ、次のとおりである。
(イ)本件契約書に基づく手付金26,300,000円は、昭和63年7月8日付でY銀行において、M社振出しの小切手で支払われ同小切手は同月11日に請求人名による裏書によりZ銀行の請求人名義の普通預金口座に入金されていること。
(ロ)上記(イ)の金員は、昭和63年7月12日にZ銀行の請求人名義の定期預金になっているが、同定期預金は同年8月12日に解約され同人名義の普通預金口座に入金され、さらに、同月24日に引き出され26,300,500円の小切手が作成されており、同小切手はZ銀行においてG社が裏書して取り立てていること。
(ハ)本件契約書に基づく中間金105,200,000円は、昭和63年8月23日に、Y銀行においてM社振出しの小切手で支払われているが、同小切手は、同日M社が裏書して取り立てていること。
(ニ)請求人は、上記(イ)の裏書の筆跡は請求人のものではなく、その小切手を受領した記憶がないこと及び本件取引では自分で金銭の受払いをした記憶もない旨述べていること。
ハ 請求人は、当審判所に対し次のとおり答述している。
(イ)本件譲渡土地を取得した後、当該土地を残土及び資材置場として、また、その上に倉庫を建てて利用していたところ、G社から譲り受けたい旨の申込みがあったこと。
(ロ)請求人は、本件譲渡土地を売るつもりはなかったが、市や県からの仕事も請け負っており、また、ロータリークラブの役員にもなっていることから、市に協力する立場にあったため、やむなく本件譲渡土地を譲渡することとしたこと。
(ハ)将来、本件譲渡土地上にH社の事務所を建てるつもりでいたので、当該土地の譲渡交渉は、丸1本件譲渡土地と同面積で、かつ、建築が可能な代替地を用意すること及び丸2請求人自身に金銭の負担が一切ない旨の条件を提示してM社に一任したこと。
(ニ)本件取得土地の面積は、請求人が要求した面積にかなり不足していたため、面積の不足する分は本件建物を建てるということで補い、本件譲渡土地を譲渡することとしたこと。
(ホ)本件取得資産の売買価額は、請求人自身に金銭の負担のないことを条件として、本件譲渡土地の売買価額と同額である263,000,000円となったものであること。
(ヘ)本件譲渡土地の買主がM社になったのは、M社から「そうすることで取引がはっきりするし、税金対策上そうする」ということであったので、同社が用意した本件契約書に署名したものであり、また、本件譲渡土地の価額は、M社が主体となって決めたものであるが、請求人としては、提示した条件を満たせばよかっただけであること。
(ト)M社と本件譲渡土地の売買契約を締結した昭和63年7月8日には、請求人が代替物件を取得することを含めてすべての手はずが整っていたこと。
(チ)本件譲渡土地に係る譲渡代金の授受はなかったこと。
(リ)本件念書は、昭和63年末ころにM社からG社に対して、念書を差し入れて欲しい旨の話があり、M社が用意した文書に署名したものであること。
ニ Kは、当審判所に対し次のとおり答述している。
(イ)C大学のキャンパス用地のうち、買収未了の土地が3か所あり、X社からの依頼によりG社がその買収交渉に当たることになったこと。
 そのうちの一つが本件譲渡土地であるが、これはVとC大学との間の用地買収の際に、Vに気分を害するようなことがあったので、同人は本件譲渡土地をC大学には譲渡しないことを条件として請求人に譲渡したものであると請求人及びM社から聞いていること。
(ロ)当初、請求人に対し買収交渉を行ったところ、請求人からM社を間に入れて欲しい旨の申出があり、以後の交渉はM社を入れたところで行ったこと。
(ハ)買収交渉の際、請求人から代替地が欲しい旨の条件が提示されたので、M社にも代替地を探すよう依頼したところ、依頼後間もなくM社が本件取得土地を探してきたこと。
(ニ)本件譲渡土地が、請求人からM社への売買となり、さらに、M社からG社への売買となったのは、請求人が本件譲渡土地を取得する際に、C大学には譲渡しないことを条件としたための形式的な契約で、実質的な契約当事者は、あくまでG社と請求人であること。
(ホ)請求人が本件譲渡土地をM社に譲渡したとする昭和63年7月8日には、請求人が代替物件を取得することを含めてすべての手はずは整っていたのであり、後は、手順に従って進めただけであること。
(ヘ)本件建物は、請求人の指示に基づいて建築されたものであること。
(ト)本件予約契約書に係る売買価額は、請求人及びM社が決めたものであること。
(チ)本件譲渡土地を買収した結果、G社には損失が発生したが、X社に買収を依頼された段階で損失の補てんを約束されており、現実にその補てんを受けたこと。
(リ)本件取引における請求人の課税問題については、大きな不安があったところ、請求人からG社に迷惑を掛けないということで、念書を差し入れてもよいとの申出を受けたので、本件念書を徴することとしたものであること。
ホ Lは、当審判所に対し次のとおり答述している。
(イ)M社は、請求人がG社から本件譲渡土地の買取りの申込みを受けたことに伴い、請求人からG社との交渉を一任されたこと。
(ロ)その際、請求人から本件譲渡土地を譲渡する条件として、丸1本件譲渡土地と同面積の代替地を用意すること及び、丸2請求人自身に金銭の負担がないことを提示されたこと。
(ハ)請求人の代替地要求にそってM社がいくつかの物件を探し、請求人に紹介した物件の一つが本件取得土地であること。
(ニ)請求人が本件取得資産を取得したのは請求人の代替地要求にそったものであり、そういう意味からすれば、本件譲渡土地の実質的な取引当事者は請求人とG社であるともいえること。
(ホ)請求人は、本件譲渡土地に関し、譲渡代金を受領した事実はないこと。
 また、請求人が本件取得資産を取得した際の代金の支払は、M社が行ったこと。
(ヘ)G社からM社に対して念書の話があり、G社の要望に応じて請求人が本件念書を差し入れたこと。
ヘ 前記イないしホの事実及び答述から判断すると、次のとおりである。
(イ)前記イの(ハ)によれば、請求人が本件譲渡土地をM社に譲渡したとする契約書は存するが、丸1前記ハの(ハ)、ニの(ロ)、ホの(イ)及び(ロ)のとおり、請求人は本件譲渡土地の譲渡に条件を付してM社にその交渉を一任したものであること、丸2前記ニの(ニ)のとおり、本件譲渡土地をC大学の買収当事者に直接譲渡することができなかったことから、本件譲渡土地をM社に譲渡した形式を取ったものであること及び丸3前記ハの(ヘ)のとおり税金対策上、取引を明確にする意思を持ってM社を本件譲渡土地の買主としたことは、この取引が形式的なものであることを表しているとみることができることなどから、前記ニの(ニ)及びホの(ニ)でK及びLが認めているように、本件譲渡土地の売買に係る実質的な当事者は、請求人とG社であると認められる。
(ロ)また、前記イの(チ)によれば、請求人は、本件取得資産を本件譲渡土地の実質譲渡先であるG社から取得していることが認められるが、丸1前記ハの(ハ)、ホの(ロ)及び(ニ)のとおり、請求人は本件譲渡資産を譲渡する条件として、金銭面の負担を一切しないで、本件譲渡土地と同面積で、かつ、建築が可能な代替地を要求し、その要求にそって本件取得資産を取得していること、丸2前記ハの(ニ)のとおり、本件取得土地の面積が請求人の要求した面積に不足するので、その不足分は本件建物を建築することで合意し、本件譲渡土地を譲渡していること、丸3前記ニの(ハ)のとおり、本件取得土地は、本件譲渡土地の譲渡交渉を一任されていたM社が本件契約書の作成前において、既に用意していたにもかかわらず、請求人は、直接これを取得せず、前記イの(ト)のとおり、M社がG社へいったん譲渡した後にG社から取得していること、丸4前記ハの(ト)及びニの(ホ)のとおり、本件契約書を作成した時点で、既に請求人が本件取得資産を取得することが決まっていたこと及び丸5前記ロの(イ)ないし(ハ)のとおり、請求人は、本件譲渡土地の譲渡に係る手付金に相当する金員を受領し、その後当該金員とほぼ同額をG社に支払っているものの、前記ロの(ニ)のとおり請求人は、当該金員については関知しない旨述べており、また、前記ハの(チ)及びホの(ホ)のとおり本件譲渡土地に係る代金の授受はない旨述べていることから、これらの金銭のやりとりは、本件取引が通常の売買取引であるとの形式を整えるために行ったものに過ぎないとみるのが相当であり、本件取得資産を金銭で取得したとは認められないことなどから、請求人は、本件譲渡資産の譲渡において代替物件の取得を希望していたが、代替地を自分で直接購入することなく、代替地の面積が不足する部分を別途、物で要求したり、また、金銭の負担を一切しないで、本件譲渡土地の実質譲渡先であるG社から本件取得資産を取得していることからすると、請求人は本件譲渡土地の譲渡対価として本件取得資産を取得したことにほかならないものと認められる。
ト 請求人は、本件譲渡土地の譲渡対価として本件取得資産を取得したものではなく、本件譲渡土地の譲渡対価をもって、本件取得資産を取得したものである旨主張する。
 しかしながら、上記ヘの(ロ)で述べたとおり、本件譲渡土地の実質譲渡先であるG社から本件譲渡土地の対価として、金銭の負担を一切することなく、本件取得資産を取得したことが認められるので、本件譲渡土地の譲渡対価として本件取得資産を取得したことは明らかである。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
チ ところで、当審判所の調査等によれば、M社は、前記ロの(イ)のとおり本件譲渡土地に係る購入代金を請求人に支払い、また、前記ホの(ホ)のとおり、本件取得資産に係る請求人が支払うべき取得代金をG社に支払っており、G社は、前記イの(ヨ)のAないしCのとおり、総勘定元帳に、本件譲渡土地の取得代金をM社に支払い、本件取得土地の譲渡代金を請求人から受領したと記載していることが認められるが、丸1前記ヘの(ロ)の丸5で認定したとおり、請求人は、本件譲渡土地に係る譲渡代金を受領していないこと、丸2前記ヘの(イ)のとおり、M社は、本件譲渡土地の売買に係る実質的な当事者ではないにもかかわらず、本件取引に係る譲渡代金の授受の形跡を記していること、丸3前記イの(ホ)ないし(ト)のとおり、本件取得土地は、M社が探してきたものであり、その購入価額等を知っているにもかかわらず、本件取得資産に係る請求人の取得対価として、その約半額以下の対価しか支払わないという通常の経済取引としては不自然な取引を行っていること及び丸4G社の総勘定元帳への記載は、前記イの(タ)、(レ)及びニの(チ)のとおり、X社から補てんを受けるための計算根拠として記載されたものと認められることなどから、これらの金銭の授受に関する記載事項等は、代金授受の形式を整えるためだけの目的でなされたに過ぎないものとみることができる。
 したがって、これらの金銭の授受に関する記載事項等をもって、請求人が本件譲渡土地の譲渡対価で本件取得資産を取得したものと認めることはできない。
リ 以上のとおり、請求人は、本件取得資産を対価として本件譲渡土地を譲渡したことが明らかであるところ、所得税法第36条第1項及び第2項の規定によれば、金銭以外の物をもって収入する場合には、その収入すべき金額は、当該金銭以外の物の価額とするとされているので、本件譲渡土地の譲渡所得に係る収入金額は、本件取得資産の価額になることとなる。
 ところで、ここでいう「価額」とは、当該取得の時における客観的交換価値、換言すれば自由市場において市場の事情に十分通じ、かつ、特別な動機をもたない多数の売主と買主が存在する場合に成立すると認められる価額をいうものと解されるところ、土地の価額を評価する場合において、評価すべき土地そのものについて、その評価すべき時点に近い時期に売買取引が行われており、それが正常な取引の範囲にあるときには、その売買価額をもって当該土地の価額とみるのが相当である。言い換えれば、たとえその取引の行われたのが全国的な場合はもとより当該土地を含む地域において土地投機等の諸事情により価額が高騰している場合であっても、当時大多数の人々の間でその価額でならば、更に他の財貨と交換できる事情にある以上、当該売買取引は正常な取引の範囲にあるというべきであり、その取引において成立した価額をもって当該土地の価額とみることができるというべきである。
ヌ そこで、本件取得資産の価額について検討すると次のとおりである。
(イ)本件取得土地は、M社がB社から取得した後G社に譲渡し、更にG社から請求人が取得したことになってはいるが、前記ヘの(ロ)のとおりM社は、請求人の代替地要求に伴うG社からの依頼に基づき本件取得土地を取得したものであり、M社からG社への譲渡は形式的なものと認められる。
(ロ)M社は、B社から本件取得土地及び本件旧建物を455,300,000円で取得しているが、前記イの(ワ)のとおり本件旧建物は昭和63年8月5日に取り壊され、請求人が本件取得土地を取得した時には、本件旧建物は存在しないことから、当該金額は、すべて本件取得土地の価額であり、また、前記イの(ヘ)のとおり、M社は、これらの取得に伴って支払った本件立退料70,000,000円を本件取得土地の取得原価に算入しているが、この支払は、本件旧建物の入居者が本件取得土地の所有者であったB社の関係会社であり、しかも、前記イの(ホ)のB社との売買契約書で売主であるB社が当該物件の明渡しの手続をすることになっているにもかかわらず、請求人の代替地要求にそって本件取得土地をどうしても取得する必要があり、かつ、これを更地にする必要があったため、やむを得ず本件立退料を支払ったものであると認められるから、本件立退料の支払は、通常の土地等の売買取引における対価としての支払を超えるものであって、本件取得土地の適正な価額を構成するとは認められない。
(ハ)Wから登記を省略した2回の売買を経て、B社に所有権が移転され、更にM社に売買されるまでの間の取引は、相互に資本系列等の関係のない第三者間の取引であることからすれば、たとえ本件取得土地の価額が高騰していたとしても、その取引は正常な取引の範囲にあるということができる。
(ニ)M社とG社との売買価額538,000,000円は、両社が請求人に代替地を提供するという目的の下になされた形式的な取引における価額であると認められるので、本件取得土地の価額として採用することはできない。
(ホ)以上のことから判断すると、M社がB社から取得した価額455,300,000円をもって、本件取得土地の価額とみるのが相当である。
(ヘ)原処分庁は、本件建物の価額を設計料4,000,000円と建築費用93,340,000円の合計額97,340,000円であると認定しているところ、当審判所の調査によっても、原処分庁の認定額は相当と認められる。
 したがって、本件取得資産の価額は、本件取得土地の価額455,300,000円と本件建物の価額97,340,000円の合計額552,640,000円となる。
ル 請求人は、本件取得資産の価額は263,000,000円であり、本件鑑定評価書に基づく本件取得土地の鑑定評価額302,470,000円及び本件建物の建築価額97,340,000円の合計額399,810,000円とは乖離があるものの、G社から通常の取引価額より低額で取得したことは、取引上の駆け引きに請求人の方が秀でていたにほかならず、本件予約契約書の価額は適正な価額である旨主張する。
 しかしながら、本件取得資産の価額は、前記ヌで述べたとおりであるところ、前記ハの(ホ)のとおり、本件予約契約書の金額は、請求人に金銭の負担がないようにとの請求人の提示した条件の下に、形式的に本件譲渡土地の価額と同額としたことが認められ、その算定根拠に合理的な理由が認められないから、当該価額が本件取得資産の適正な価額である旨の請求人の主張は採用することができない。
ヲ 以上の結果、本件譲渡土地の譲渡に係る収入金額は、552,640,000円となる。
ワ 原処分庁は、本件譲渡資産の取得費の額を254,097,020円及び譲渡に要した費用の額を7,990,000円と算定しているところ、当審判所の調査によっても、これらの金額は相当と認められる。
 この結果、分離短期譲渡所得の金額は290,552,980円となり、この金額は、本件更正処分に係る分離短期譲渡所得の金額と同額となるから、本件更正処分は適法である。
カ 請求人は、L及びD税理士が本件取引について、事前に担当統括官に相談し、承認を得ている旨主張するが、当審判所が調査したところ、請求人の主張するような事実は認められず、他に請求人の主張を裏付けるに足る証拠もない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

(3)過少申告加算税の賦課決定処分について

 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、また、請求人には、確定申告の税額を計算するに当たり、原処分庁が過少申告加算税の基礎とした税額に係る事実を確定申告の税額の計算の基礎としなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてした過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(4)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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