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(平7.4.28裁決、裁決事例集No.49 267頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)の平成3年分の所得税について、審査請求(平成6年7月11日請求)に至る経緯等は別表1−1のとおりである。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分(異議決定で一部取り消された後のものをいう。以下同じ。)は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
イ 譲渡所得の帰属について
 請求人とその妻D(以下「妻」といい、請求人と併せて「請求人夫婦」という。)は、平成3年7月1日に、請求人夫婦が共有(持分各2分の1。以下同じ。)する別表2−1に記載の不動産(以下「本件不動産」という。)をG株式会社(以下「G社」という。)に譲渡(以下、この譲渡を「本件譲渡」という。)をした。
 本件譲渡に係る分離課税の長期譲渡所得(以下「本件譲渡所得」という。)の金額の計算に当たり、請求人夫婦は、それぞれが譲渡益の2分の1に相当する金額から租税特別措置法第35条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》第1項に規定する長期譲渡所得の特別控除額30,000,000円を控除して申告したところ、これに対し原処分庁は、本件不動産は請求人の単独所有であり、本件譲渡所得の金額の計算に誤りがあるとして更正処分をした。
 しかしながら、本件不動産は、登記簿上の所有者は請求人となっているが、次のとおり、真実の所有関係は、請求人の単独所有でなく、請求人夫婦が共有するものであり、原処分庁は、本件不動産の実質的所有関係について、事実を誤認している。
(イ)請求人は、本件不動産をL株式会社(以下「L社」という。)から11,450,000円で取得し、その資金は、妻がその両親から借入れ(以下「本件借入れ」という。)をした6,000,000円、請求人がL社から借入れをした住宅ローン(以下「住宅ローン」という。)の金額5,000,000円及び請求人の手持資金450,000円により賄ったものである。
(ロ)請求人は、本件不動産を取得した昭和44年当時は勤務先の社宅で生活しておりめぼしい資産もなく、また、給料以外の所得はなかったことなどから、当初は本件不動産を単独で所有することを前提に購入申込みの手続をしたが、その取得資金全額を請求人単独で調達することが困難で、しかも、請求人の給料から返済可能な住宅ローンは5,000,000円が限度であるとの結論に達し、本件借入れをしたものである。
(ハ)請求人は、本件借入れの際に、妻の両親から本件不動産の名義についての条件を付されなかったが、妻との間で本件不動産を共有する旨の合意を行い、その旨妻の両親に伝えている。
 そして、対外的に特に支障がなかったので、請求人名義で本件不動産に係る売買契約書(以下「本件取得契約書」という。)の作成及び所有権保存登記の手続を行い、その後、21年間本件不動産に居住したものである。
 したがって、平成3年5月24日付で作成された本件譲渡の際の売買契約書(以下「本件譲渡契約書」といい、「本件取得契約書」と併せて「本件売買契約書」という。)及び譲渡代金の領収書の名義は、請求人名義にせざるを得なかったものである。
(ニ)昭和44年当時、取得代金である11,450,000円という金額は、43歳の一介の勤労者にとって容易に調達できる金額ではない。本件不動産の取得代金11,450,000円と住宅ローン5,000,000円との差額6,450,000円のギャップが約19年間続いており、この間、本件不動産が、住宅ローン5,000,000円以外のいかなる債務の担保にも供されていないということは、他の金融機関等から借入れをしなかった証左であり、本件借入れを裏付けるものである。
(ホ)本件借入れは、請求人夫婦に返済能力がなく返済しないまま推移し、妻の両親の死亡(父は昭和52年、母は昭和60年に死亡)により、返済の必要がなくなった。
 なお、妻は、婚姻の全期間を通じて専業主婦であり、請求人の扶養家族である。
(ヘ)請求人は、老後の生活を考えB銀行E支店に本件不動産の譲渡代金(以下「本件譲渡代金」という。)の運用についてのプランを作成させたが、その中には個人年金信託、請求人夫婦それぞれの介護費用保険が含まれており、これは、請求人夫婦が健常な高齢者生活を営み、それぞれの死亡に至るまでの必要な資金を、共有である本件譲渡代金で賄おうとする請求人夫婦の意思の表れである。
(ト)請求人は、本件譲渡代金の使途について、その一部を請求人名義の現在居住している別表3に記載の不動産(以下「現マンション」という。)の取得資金とし、その残余の金員を請求人名義の貸付信託、定期預金等で運用しているが、結婚後45年間も夫婦であり、この夫婦が同居して日常生活を営む場合、信託及び預金等の口座名義を請求人と妻とに分ける必要はなく、これらの口座から必要に応じて共同の生活資金を引き出し費消することは当然の常識であり、請求人の単独所有であるから請求人の名義にしているものではない。
(チ)不動産に係る所有権の登記は、法務局において書類上の体裁が整ってさえいれば、真実の所有者が誰であるか審査することなく受け付けられており、その登記名義は形骸化している。
 原処分庁は、本件不動産に係る(a)登記簿上の所有名義、(b)取得及び譲渡の際における契約の名義、(c)本件譲渡代金の使途及び運用の名義のすべてが請求人のみで推移していることから、本件不動産は請求人の単独所有であると認定しているが、名義のみにこだわった判断は失当である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、更正処分は違法であり、その一部を取り消すべきであるから、これに伴い過少申告加算税の賦課決定処分も、その一部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 譲渡所得の帰属について
 請求人は、本件不動産の実質的所有関係に事実誤認がある旨主張するが、次のとおり、本件不動産は請求人の単独所有であるから、本件譲渡所得の全額を請求人に課税した更正処分を取り消すべき理由はない。
(イ)本件不動産の取得時におけるL社との間の(a)昭和44年10月20日付の購入申込受付書兼申込金領収書のあて名、(b)昭和44年11月24日付(居宅)及び昭和46年5月17日付(倉庫)の売買契約書の名義は、いずれも請求人となっている。
(ロ)本件不動産の取得代金の支払に対するL社発行の領収書のあて名は、請求人となっている。
(ハ)本件不動産の登記簿謄本によると、昭和45年12月17日受付で請求人を所有者とする所有権保存登記がされている。
 また、別表2−2のとおり、根抵当権及び抵当権設定の登記がされ、債務者はいずれも請求人となっている。
(ニ)本件譲渡契約書の名義は、請求人となっている。
 また、本件譲渡の仲介人である株式会社MがG社あてに、平成3年5月24日付で作成した本件譲渡に関する重要事項説明書に登記名義人及び売主の住所氏名を記載する欄があり、そのいずれにも請求人の住所氏名のみが記載されている。
(ホ)本件譲渡代金75,000,000円については、G社から平成3年5月24日に手付金22,500,000円及び同年6月28日に残金52,551,500円(代払固定資産税51,500円を含む。)の全額がそれぞれC銀行F支店の請求人名義の普通預金口座に振込まれている。
 このうち、21,700,000円を平成3年6月24日に現マンションの購入先であるH株式会社(以下「H社」という。)に請求人名義で送金し、そして41,900,000円を同年12月2日にB銀行E支店に振込み、請求人名義で貸付信託3口合計21,100,000円、自由金利型定期預金10,000,000円及び指定金銭信託10,800,000円を設定し、運用している。
(ヘ)請求人は、本件不動産の取得代金の一部を本件借入れで賄った旨主張するが、本件借入れの事実を証する資料の提出はない。
(ト)請求人は、本件借入れの際に、請求人夫婦の間で本件不動産を共有するとの合意を行った旨主張するが、請求人夫婦の間で共有の合意があったかどうかを確認できる資料はない。
 また、請求人は、本件売買契約書等に請求人の単独名義を使用せざるを得なかった旨主張するが、請求人の単独名義を使用せざるを得なかった合理的な理由はなく、請求人から提出された本件売買契約書等の内容等から請求人夫婦の共有であったとする事実関係は認められない。
(チ)請求人は、本件譲渡代金を請求人夫婦のための現マンションの取得代金の支払及び生活資金として貸付信託及び定期預金等で運用しているから、本件不動産が請求人夫婦の共有であった旨主張するが、現マンション並びに貸付信託及び定期預金等いずれもその名義を請求人の単独名義にせざるを得なかった理由はなく、その利益を夫婦で享受したとしても、それは通常の夫婦間における扶養関係にすぎないから、本件不動産が請求人夫婦の共有であったと主張する根拠にはならない。
(リ)以上のとおり、請求人は、本件不動産が請求人夫婦の共有であったとする具体的証拠を提出せず、また、本件売買契約書等の状況並びに本件譲渡代金の使途及び運用の状況からみて、本件不動産は、請求人の単独所有であることは明らかである。
 したがって、請求人の主張には、いずれも理由がない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、更正処分は適法であり、かつ、請求人には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づき行った過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求において、本件不動産の譲渡による所得の帰属する者が、請求人単独であるか、請求人夫婦の両者であるかに争いがあるので、以下審理する。

(1)譲渡所得の帰属について

イ 次のことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ)本件不動産の譲渡価額(収入金額)は、75,000,000円であり、その取得費及び譲渡費用の額はそれぞれ11,771,470円及び1,140,000円であること。
 なお、取得費の額11,771,470円は、取得代金11,450,000円、登記費用等の額148,300円及び改良費の額1,839,830円の合計額13,438,130円から償却費相当額1,666,660円を控除した額であること。
(ロ)本件譲渡所得については、租税特別措置法第31条の3《居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例》及び同法第35条に規定する特例の適用があること。
ロ 当審判所が原処分関係資料及び請求人から提出された資料等を調査したところ、次の事実が認められる。
(イ)本件不動産の登記簿謄本によれば、本件不動産は、(a)昭和45年12月17日受付で請求人を所有者とする所有権保存登記がされていること、(b)平成3年6月28日の売買を原因として、請求人からG社に同月29日受付で所有権移転登記がされていること、(c)別表2−2のとおり、仮登記、根抵当権及び抵当権設定の登記がされていること。
(ロ)本件不動産の取得及び譲渡の際に作成された次の売買契約書等に記載されている名義は、すべて請求人単独であること。
A 本件取得契約書等に関すること
(A)昭和44年10月20日付の購入申込受付書兼申込金領収書のあて名
(B)昭和44年11月24日付(居宅)及び昭和46年5月17日付(倉庫)の売買契約書の名義
(C)取得代金の支払に対する領収書(昭和44年10月27日付、同年11月24日付、昭和45年9月21日付、同月28日付及び昭和46年5月17日付の5枚)のあて名
B 本件譲渡契約書等に関すること
(A)本件譲渡契約書の名義
(B)本件譲渡代金75,000,000円の受領に対する平成3年5月24日付及び同年6月(日付の記載はない)の領収書の発行者
C 本件譲渡代金の使途及び運用に関すること
(A)G社から支払われた手付金22,500,000円及び残金52,551,500円(代払固定資産税51,500円を含む。)の振込先であるC銀行F支店の普通預金口座の名義
(B)本件譲渡代金から、平成3年12月2日にB銀行E支店へ入金した41,900,000円(貸付信託3口合計21,100,000円、自由金利型定期預金10,000,000円、指定金銭信託10,800,000円)の口座名義
(C)現マンションの取得に係る平成2年7月13日付の売買契約書の名義
(D)現マンションの登記簿上の所有者
(ハ)現マンションの売買契約書によれば、その取得代金は27,124,000円であり、そのうち21,700,000円の支払については、平成3年6月24日に上記(ロ)のCの(A)の本件譲渡代金から現マンションの購入先であるH社に請求人名義で送金していること。
ハ 請求人が提出した妻作成の陳述書には、次のとおり記載されている。
(イ)妻の両親は、長男(妻の弟)の事業開始のために資金を蓄えていたが、長男の急死(昭和44年10月22日死亡)により資金的に余裕があったこと。
(ロ)本件不動産の取得資金の約半分は、妻が本件借入れをしたものであること。
ニ 請求人は、当審判所に対し、本件借入れについて、妻の両親との間でその返済方法、返済期限及び利率等の具体的な取決めはなく、また、借用証書の作成もしなかった旨答述している。
ホ ところで、所得の帰属について所得税法第12条《実質所得者課税の原則》では、資産から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、その帰属する者に所得税を課税する旨規定されている。
 そして、資産から生じる収益を享受する者がだれであるかは、その収益の基因となる資産の真実の権利者がだれであるかにより判定し、それが明らかでない場合には、その資産の名義者が真実の権利者であるものと推定するのが相当であると解される。
ヘ そうすると、本件譲渡所得の帰属の判定に当たっては、まず、本件不動産の真実の所有者がだれであったかを明らかにすることが必要であり、前記の事実に基づいて判断すると、次のとおりである。
(イ)請求人は、前記2の(1)のイの(イ)及び(ハ)のとおり、本件不動産の取得資金の約半分は、妻が本件借入れをしたものであること及び妻とは共有する旨の合意があったことを理由に、本件不動産は実質的に請求人夫婦の共有であった旨主張する。
 しかしながら、請求人は、本件借入れについて、前記ニのとおりその返済方法、返済期限及び利率等の約定並びに借用証書の作成はしなかった旨答述し、また、前記2の(1)のイの(ホ)のとおり、全く返済をしなかった旨自認していることから、本件借入れの事実の存否に疑問があり、また、夫婦間の合意の存否については確認をすることができない。
 仮に、請求人主張のとおり、本件借入れが事実であったとすれば、当然返済しなければならないが、前記2の(1)のイの(ホ)のとおり、妻は専業主婦であって妻固有の収入はないと認められ、その返済資金は請求人の所得からせざるを得ないから、本件借入れの実質的な借主は請求人とみるのが相当である。本件借入れの借主が請求人であれば、その資金で取得した本件不動産は、請求人の単独所有となる。
(ロ)請求人は、前記2の(1)のイの(ロ)及び(ニ)のとおり(a)本件不動産を取得した当時の請求人の経済状態等から本件借入れをせざるを得なかったこと、(b)住宅ローン以外に他の金融機関等からの借入れがなかったことを主張し、また、前記ハの(イ)のとおり妻作成の陳述書には妻の両親に資金的余裕があった旨記載されている。
 しかしながら、これらのことから本件借入れがあったことを直ちに推認することはできない。
 また、妻は、本件不動産の所有名義について、登記済証等の登記関係書類から登記簿上の所有名義が請求人単独であることを知っていたものと推認されるが、本件不動産を取得してから譲渡するに至るまで相当の期間が経過しているにもかかわらず、登記簿上の所有名義は共有に変更されていない。
 前記(イ)及び上記のことを併せ考えれば、前記ハの(ロ)の妻が本件借入れをした旨の妻の陳述書の記載は、直ちに採用することができない。
(ハ)請求人は、前記2の(1)のイの(ヘ)及び(ト)のとおり、請求人夫婦のための保険料の支払、現マンション取得等を理由に、本件譲渡による収益を請求人夫婦で享受しているから本件不動産は請求人夫婦の共有である旨主張するが、夫の財産を夫婦のために使用することは、夫婦は同居し、互いに協力し扶助するという通常の夫婦間のごく自然で一般的なことにすぎず、そのことをもって夫の財産が夫婦の共有財産であるとは言えないから、本件不動産が請求人夫婦の共有であったと主張する根拠にはならない。
(ニ)請求人は、前記2の(1)のイの(チ)のとおり、登記における名義は形骸化しており、登記簿上の名義のみにこだわった原処分庁の判断は失当である旨主張する。
 しかしながら、登記は、その真正を保障するために不動産登記法に規定する厳格な手続によってなされており、登記には、登記簿上表示される法律関係が実体法上も存在するものと推定される効力があり、登記簿上の法律関係が一応真正なものとして扱われる。
 もとより、反対の証拠によりこの推定を覆すことは可能であるが、当審判所の調査においても、請求人から提出された証拠資料及び原処分関係資料から請求人の主張を立証するに足る証拠資料を得ることはできず、20数年前の外部から窺い知ることのできない親子、夫婦という特殊な親族間における金銭の貸借及び合意があったことを認めることはできず、かえって、妻には本件借入れの返済のための資力に欠けていることに照らし、本件不動産が請求人夫婦の共有であったとの心証を得ることはできない。
ト したがって、前記ロの事実のとおり、丸1本件不動産を取得してから譲渡するに至るまでの本件不動産の登記簿上の所有名義、丸2本件売買契約書等に記載されている名義、丸3本件譲渡代金で取得した現マンション及びその残余の金員を預け入れた貸付信託、定期預金等の口座名義はいずれも請求人単独であることから、本件不動産は、請求人が単独で所有していたものと認めざるを得ない。
 よって、この点に関する請求人の主張を採用することはできない。
チ 以上のとおり、本件不動産は請求人の単独所有と認めざるを得ないから、本件譲渡所得は、すべて請求人に帰属することとなる。
 そうすると、本件譲渡所得の金額は、別表1−2の「審判所認定額」欄に記載のとおりとなり、この金額は異議決定を経た後の更正処分に係る本件譲渡所得の金額と同額となるから、更正処分は適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 以上のとおり、更正処分は適法であり、また、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行った過少申告加算税の賦課決定処分は、適法である。

(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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