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(平7.3.15裁決、裁決事例集No.49 293頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)審査請求人(以下「請求人」という。)は、菓子製造販売業を営む同族会社であるが、平成3年4月1日から平成4年3月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について青色の確定申告書に、次表の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成4年12月25日付で次表の「更正処分等」欄のとおり、更正処分及び重加算税の賦課決定処分をした。

(単位 円)
 項目確定申告更正処分等
所得金額120,032,631213,415,631
納付すべき税額37,938,70071,984,300
重加算税の額11,914,000

(2)請求人は、本件事業年度の法人臨時特別税について青色の申告書に、次表の「申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成4年12月25日付で次表の「更正処分等」欄のとおり、更正処分及び重加算税の賦課決定処分をした。

(単位 円)
 項目申告更正処分等
課税標準法人税額41,252,00076,270,000
納付すべき税額1,031,3001,906,700
重加算税の額304,500

(3)請求人は、上記(1)及び(2)の更正処分並びに重加算税の賦課決定処分を不服として平成5年2月19日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成5年5月19日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分について不服があるとして、平成5年6月15日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 法人税の更正処分について
 請求人は、P市R町3丁目8番1地内の宅地178.20平方メートルの借地権(以下「本件借地権」という。)及び同地上の家屋番号8番1の3の建物(店舗兼居宅、一階部分144.19平方メートル、二階部分69.81平方メートル。以下、これらを「本件建物」といい、「本件借地権」と併せて「本件不動産」という。)を、平成3年5月22日に株式会社E(以下「E社」という。)に対して売買代金1,040,617,000円で譲渡した。
 ところが、原処分庁は、本件不動産の譲渡に伴って、E社が請求人の代表取締役であるI(以下「I」という。)に支払った93,383,000円(以下「本件金員」という。)も請求人に帰属し、本件不動産の譲渡価額は1,134,000,000円であると認定し、本件事業年度の利益に加算して更正処分を行った。
 しかしながら、更正処分は、次のとおり本件不動産の譲渡価額等について認定の誤りがある。
(イ)本件不動産の譲渡は、次のような経緯を経て成立したものであり、本件不動産の譲渡価額は1,040,617,000円であって、本件金員はIとE社との間での借家権に係る立退料であって、請求人に帰属するものではない。
A 本件不動産の売買は、本件借地権の底地を取得していたE社より、借地人である請求人と同人の借家人であるIに対して、立退きをしてくれという要請があり、交渉が始まったもので、取引は「借地人(請求人)とE社」、「借家人(I)とE社」の個別の取引であり、このことは、当事者三者において周知のことである。
 こうした経緯の基に、E社がこれら物件に支払いできる総額として1,134,000,000円の提示があった。
B そこで、国土利用計画法(以下「国土法」という。)の行政指導もあるところから、本件借地権及びIへの立退料を含む総額1,134,000,000円をもって国土法上の申請を行い、この申請に対する結果を待って、Iに対する立退料を何円にするか判断することとしていたところ、Q県の行政指導により、本件借地権価格を1,024,617,000円と指導されたので、これに基づいて本件借地権の額を1,024,617,000円、本件建物の額を16,000,000円とすること及びIへの立退料の額を93,383,000円とすることについて、E社、請求人及びIの三者で合意したものである。
C その合意に基づき、請求人はE社との間で、平成3年5月22日付で、本件不動産の売買価額を1,040,617,000円(借地権の額1,024,617,000円、建物価額16,000,000円)とする借地権付建物売買契約書(以下「本件契約書」という。)を取り交わした。
D なお、平成3年5月22日付のE社から請求人に差し入れた確約書(以下「本件確約書」という。)は、請求人とIの二者に対する支払総額1,134,000,000円について、その支払を確約したものである。
E E社は、本件不動産を買い取った上、更地として使用する目的であり、Iが請求人所有の本件建物から立退きをしなければ、E社はこの目的を達成できないこととなる。
 たまたま、請求人の代表取締役とIが同一人であったから、この二者を代表して、請求人がE社と契約の交渉をし、契約が成立したと考えるのが妥当である。
 なお、立退料は、請求人がE社に対して支払っていた、本件建物の所在する土地の地代月額129,000円と、Iが請求人に対して支払っていた家賃月額15,000円との比率で、取引総額1,134,000,000円をあん分し支払われたと解釈するのが相当である。
F 本件金員は、次のとおり、Iが本件建物を明け渡すに際してE社から受領すべき立退料の金額に相当するものである。
(A)借家権の価額は、それぞれの住所地において発生するものであり、場所が異なれば、それぞれの価額は違ってくるものであり、原処分庁は、Iが本件建物所在地からP市S町2丁目39番1に所在する請求人のマンション「Lマンション103号室」(以下「Lマンション」という。)に入居したことをもって、借家権が引き継がれたと認定し、立退料を支払う理由がないとしているが、それぞれの借家権は別個のものとして考えるのが妥当である。
(B)Iが、本件建物に入居していた時の家賃は月額15,000円であり、立退き後請求人が用意した新しい家屋の家賃は月額400,000円で、約27倍の家賃を支払うこととなったこと、しかも、場所的に不便なところに移転したのは、立退料をもらったからこそであると考えるのが通常であり、本件金員は、借家権消滅の対価として、E社からIに支払われたものである。
(C)そもそも、借家人がいる建物を売却するには、当然に借家人に支払われる立退料を、借家人が承諾して立退かない限り、建物所有者は、その建物を借家人が居住のまま売却しなければならないし、また、現在の法律では借家人に対する立退料について、その額は、借家人と賃貸人の合意で決まるもので、いくら高い立退料でも合意さえあればそれで決まるものである。
(ロ)また、本件不動産の譲渡価額が1,134,000,000円であるとすると、その取引は国土法に違反する無効な取引となり、この取引は成立しないこととなる。
(ハ)仮に、本件不動産の譲渡に伴って、E社からIに対して支払われた本件金員が、請求人に帰属するものであったとしても、借家人であるIに対して、当然支払われるべき立退料があるはずであり、その会計処理の過程を省略され、E社より、請求人及びIがそれぞれ合意の金額を受け取ったと考えるべきである。
ロ 法人税の重加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり更正処分は違法であるから、重加算税の賦課決定処分も、その全部を取り消すべきである。
ハ 法人臨時特別税の更正処分について
 上記イのとおり、法人税の更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い法人臨時特別税の更正処分もその全部を取り消すべきである。
ニ 法人臨時特別税の重加算税の賦課決定処分について
 上記ハのとおり、法人臨時特別税の更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い重加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 法人税の更正処分について
 請求人が、E社に対して譲渡した本件不動産の譲渡価額は、次のとおり、1,134,000,000円であり、当該譲渡収益は請求人に帰属するものである。
(イ)請求人及びE社は、売買交渉の段階において、本件不動産の売買価額について、借地面積3.3平方メートル当たりの単価を約21,000,000円とし、総額では1,134,000,000円とすることに合意していた。
 そして、E社は、請求人の要請に応じ、平成3年4月1日に手付金として150,000,000円を請求人に支払っている。
 したがって、本件不動産の譲渡は、この合意にそって行われたものと認められる。
(ロ)請求人及びE社は、借地権付建物の売買価額を1,134,000,000円と決定していたにもかかわらず、国土法による不勧告通知の金額に基づき、その売買代金を1,040,617,000円とする本件契約書を作成した。
 このため、E社は、請求人の要請により、本件契約書第1条に記載されている代金1,040,617,000円とは別途に、請求人に対して本件金員の支払があることを確認する旨の平成3年5月22日付本件確約書を請求人に証として差し入れている。
(ハ)そして、平成3年7月15日にE社は、本件不動産の売買代金の残金984,000,000円を、請求人の要請により890,617,000円と本件金員の2口に分けて支払をした。
 これに対し請求人は、890,617,000円分については請求人名の領収証を、本件金員分についてはI名の領収証を発行した。
(ニ)本件金員は、売買価額の合意額である1,134,000,000円と本件契約書による売買代金1,040,617,000円との差額、すなわち、本件確約書で別途に請求人に支払う旨うたわれている金額であり、本件確約書の2の四において「本件確約書に定める事項については、互いに秘密事項として取り扱うものとします。」と記載されていることからみても、請求人は、合意額1,134,000,000円より本件金員に相当する分少ないところの、売買代金を1,040,617,000円とする本件契約書を作成し、これを奇貨として、本件確約書に基づく売買代金の一部である本件金員相当額を除外したものと認められる。
 なお、Iは、請求人の益金となる売買代金の一部である本件金員を、あたかも同人の立退料とするため、同人の移転費用として記載して領収証を発行し、同人の受領すべき収入のごとく仮装し、E社から当該金員を平成3年7月15日に受領したものである。
(ホ)Iは、本件建物の二階の一部分を、請求人から賃借して居住していたところ、請求人が、本件不動産をE社に譲渡したことから、当該居住地を立退く必要があった。
 しかし、Iが現在居住しているLマンションは、請求人所有のものであり、請求人は、Iに対してLマンションを権利金・敷金等を受領せず賃貸しており、Lマンションの内装工事もIが依頼し、当該工事費を請求人が負担していること、更に、Lマンションは、本件建物とは構造・設備・仕様等が異なる新しい高額な建物であるから、Iの支払うLマンションの賃借料が、本件建物に係る賃借料より高額となるのは当然であると言えること等を併せ考えると、Iは、本件建物からLマンションに単に転居したに過ぎず、請求人はIに対して立退料等を支払う理由がない。
ロ 法人税の重加算税の賦課決定処分について
 上記イで述べたとおり、請求人は、本件不動産の譲渡において、売買価額が、1,134,000,000円であるにもかかわらず、売買代金を1,040,617,000円とする本件契約書を作成し、本件不動産の譲渡代金の一部を除外し、これに基づき、所得金額を過少に算定した申告書を提出しており、このことは、国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項に規定する「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装した行為」に該当するので、同項の規定に基づき行った重加算税の賦課決定処分は適法である。
ハ 法人臨時特別税の更正処分について
 上記イのとおり、法人税の更正処分は適法であるから、それに伴って行った法人臨時特別税の更正処分も適法である。
ニ 法人臨時特別税の重加算税の賦課決定処分について
 上記ハのとおり、法人臨時特別税の更正処分は適法であり、また、請求人は、上記イで述べたとおり本件不動産の譲渡において、売買価額が1,134,000,000円であるにもかかわらず、売買代金を1,040,617,000円とする本件契約書を作成し、本件不動産の譲渡代金の一部を除外し、これに基づき所得金額を過少に算定した申告書を提出しており、このことは、通則法第68条第1項に規定する「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装した行為」に該当するので、同項の規定に基づき行った重加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件不動産の譲渡価額等にあるので、以下この点について審理する。

(1)法人税の更正処分について

イ 次の事実については、当事者間に争いがなく、当審判所の調査したところによってもその事実が認められる。
(イ)本件不動産は、請求人に帰属するものであったこと。
(ロ)Iは、本件建物の二階の一部に居住していたこと。
ロ 当審判所が原処分関係資料及び請求人等を調査したところ、次のとおりである。
(イ)原処分関係資料によると、次の事実が認められる。
A 請求人がE社と連名で平成3年4月2日にP市へ提出した国土法第23条《土地に関する権利の移転等の届出書》第1項に規定する土地売買等届出書(以下「売買等届出書」という。)には、「予定対価の額等に関する事項」欄の合計欄に1,134,000,000円と記載し、「土地に存する工作物等に関する事項」欄の「移転又は設定に係る権利以外の権利」欄には「該当なし」と記載されていること。
B 上記の売買等届出書に関して、P市からE社は、予定対価の額を1,024,617,000円とするよう通知を受け、その通知に基づき、平成3年5月1日に土地に関する予定対価の額を1,024,617,000円とする旨の土地売買等届出書変更申出書を請求人と連名で提出していること。
C E社は、P市から、平成3年5月2日付で予定対価の総額を1,040,617,000円(土地1,024,617,000円、工作物等16,000,000円)とすることについて、国土法の規定に基づく勧告をしない旨の不勧告通知書を受領していること。
D 本件契約書の主な記載内容は、次のとおりである。
(A)本件不動産の売買代金は1,040,617,000円(借地権価格1,024,617,000円、建物価格16,000,000円)とすること。
(B)売主は本件不動産について、無瑕疵、無担保の所有権を買主に移転するものとし、抵当権、賃借権その他完全な所有権の妨げとなる権利又は負担のある時は、物件の引渡日までに一切の妨げを取り除くものとすること。
E 本件確約書の記載内容は、次のとおりである。
(A)本件契約書第1条に定める売買代金1,040,617,000円の支払義務と別途に、E社がさらに93,383,000円の金員の支払のあることを確認すること。
(B)上記(A)の別途支払額は、本件契約書第4条に定める売買代金残金支払時に請求人に対して全額一括して支払うこと。
(C)この支払金の名目については、別途請求人と協議して定めること。
(D)本件確約書に定める事項については、互いに秘密事項として取り扱うものとすること。
(E)上記の確認事項については、違背なく履行すること。
F E社の会計帳簿及び取引銀行の証票資料によれば、本件不動産の譲渡に係る売買代金の手付金150,000,000円を、平成3年4月1日に請求人へ支払っていること。
G Iが平成3年7月15日付でE社あてに発行した領収証(金額93,383,000円)には、「移転費用として」との記載があること。
H 請求人は、Lマンションを取得するに際し、平成3年3月20日に取締役会を開催し、長期住宅ローンの資金を利用するため、その取得名義人をI個人とすることを満場一致で承認可決していること。
I 請求人は、Lマンションの売買契約を平成3年3月29日に締結し、85,072,000円で他の者から取得していること。
J 請求人は、Iとの間で、平成3年7月1日付で、(1)貸主は請求人、借主をIとし、(2)賃貸物件は、Lマンションで、その専有面積は、119.20平方メートル、ポーチ3.30平方メートル、専用庭99.00平方メートルであり、(3)賃料は、月額400,000円とする賃貸借契約書を作成していること。
K 上記賃貸借契約書、平成4年3月期の決算報告書及び法人税の勘定科目内訳書によると、請求人は、Lマンションを賃貸するに際して、Iから権利金・敷金等を受領していないこと。
 また、本件建物にIが入居するに際しても、権利金・敷金等の受領がない旨Iが原処分庁の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)に申述していること。
L 入居に際しての内装工事費618,000円を請求人が負担していること。
M Iは、Lマンションに移転するに際しての移転費用については、請求人の非番の従業員を使って請求人の車を利用したから、費用はかけなかった旨調査担当職員に申述していること。
(ロ)Iは、当審判所に対して次のとおり答述している。
A E社の窓口であるG株式会社(以下「G社」という。)の代表取締役であるD(以下「D」という。)から、更地として使いたいので立退いてほしい旨申し渡されたこと。
 なお、その際他の地権者以上の結果となるよう最大限の努力をし、誠意をみせる旨の申出があったこと。
B 請求人、I及びE社の間では、本件譲渡に係る交渉の段階において、大家が店子を説得するということで、E社の支払総額を1,134,000,000円とすることについて、口頭で合意していたこと。
C Iは、夜中にも注文がくることから請求人の仕事の都合上、前社長の代から本件建物の二階の一部に居住していたこと。
D 本件譲渡に係る交渉の段階において、Dに対して、「子供の学校の関係から、S中学校の校区の中にマンションくらいは欲しい」と申し出たこと。
E Lマンションへの移転に際し、家財は相当量を処分し、残りの家財については、請求人のワゴン車で非番の従業員に何回も運んでもらい、大物は運送会社に一回運んでもらったこと。
F 国土法に基づく指導価額(以下「指導価額」という。)は想定することができ、上記Bの支払総額と指導価額との差額は立退料として相当の額であるから、請求人とE社との取引は指導に従った価額で契約し、差額はIに対する立退料として処理することとしていたこと。
G 立退料については、契約書は存在しないが、E社とI個人との取引でもあり、双方が合意した金額で決済し、領収証の授受があれば取引は終了すると考えていたこと。
(ハ)E社の営業部長であるHは、当審判所に対して次のとおり答述している。
A 本件契約書は、国土法に基づく指導にそった内容でG社が作成し、契約締結の場に持参してきたこと。
 また、本件確約書についても、G社が作成してきたものであること。
B 請求人以外の事例で立退料の問題があるものについては、E社はタッチせず、家主と借家人との間で解決してもらっていること。
(ニ)G社のDは、当審判所に対して次のとおり答述している。
A E社は、本件不動産を瑕疵のない状態で引渡しを受けることにしているので、借地権者を当事者と考えていること。
B したがって、借地権者との間にどのような賃借人が存在していたとしても、内部事情がどうであれ、借地権者が取得予算の範囲以内で処理してもらうことを条件にしていたこと。
 なお、Iが本件建物に居住していることは承知していたこと。
C また、本件確約書は、坪当たり21,000,000円とする大枠で合意したことの証であり、条件変更等のトラブルを避けるために作成したものと思うこと。
ハ 上記認定事実に基づき、まず、本件不動産の譲渡価額、すなわち、益金の額に算入すべき金額について判断する。
(イ)始めに、本件不動産の譲渡の経緯をみると、請求人とE社との間でE社の支払総額1,134,000,000円により譲渡することに合意し、平成3年4月1日にE社は150,000,000円の手付金を支払い、翌4月2日にP市長に本件借地権に関する予定対価の額を1,134,000,000円、本件建物に関する予定対価の額を16,000,000円とする売買等届出書を提出した。
 これに対し、P市長はE社に対し、平成3年4月23日付で、本件借地権に関する予定対価の額を1,024,617,000円とするよう通知した。これを受けて平成3年5月1日にE社と請求人は連名でP市長に予定対価の額を1,024,617,000円とする旨の土地売買等届出書変更申出書を提出した。
 P市長はE社に対し平成3年5月2日付で、国土法の規定に基づく勧告をしない旨の通知をした。
 その後、平成3年5月22日付で請求人とE社は本件不動産の譲渡価額を1,040,617,000円(本件借地権の価格1,024,617,000円、本件建物の価格16,000,000円)とする本件契約書を作成するとともに、同日E社は請求人に本件確約書を差し入れた。
 本件確約書によれば、E社は請求人に対し、本件契約書に定める譲渡代金1,040,617,000円の支払義務と別途に、さらに93,383,000円の金員の支払のあることを確約し、同金員(本件金員)は、請求人に対し本件契約による残代金支払時に一括支払をすることとされている。
 また、93,383,000円の支払金の名目については、別途協議することとされている。
 本件金員は、上記残代金の支払と同日である平成3年7月15日にIが受領して、同人がE社あて「移転費用として」と記載した領収証を発行している。
(ロ)また、本件不動産は、抵当権、賃借権その他完全な所有権の妨げになる権利又は負担があるときは、これら一切の妨げを請求人の責任で取り除いて引き渡すこととされていたことが認められる。
(ハ)以上の事実に基づき判断すると、国土法の規定に基づく売買等届出書は、その予定対価の額等に関する事項欄に本件金員を含んだ金額を記載して提出されており、売買の当事者間で、国土法の規定に基づくP市長の指導があった後、契約の当事者を変える(I個人を加える。)旨の明示的合意があったとは認められず、また、買主の本件不動産の取得に要する支払総額を変更していない。
 そうすると、本件不動産の譲渡価額は、当初に合意された1,134,000,000円が不変であったと判断される。
(ニ)ところで、請求人は、本件金員をIが立退料としてE社から受領したものであると主張する。
 確かに本件金員について、IがE社あてに領収証を発行しているが、I個人による立退料の領収証を買主であるE社が受容したのは、請求人の代表者でありオーナーである者の領収証であるから、私法上問題を生じるおそれがないと判断し、買収を円滑に進めるためにあえて異を唱えなかったのみで、契約当事者の変更、請求人との売買価格の引下げと代表者への直接支払という契約変更に同意したものとはみられない。
(ホ)よって、本件金員も本件不動産の譲渡価額として、請求人の益金に計上すべきものである。
 なお、請求人は、本件不動産の譲渡価額が1,134,000,000円であるとすれば、国土法に違反し、当該取引は無効であり取引は成立しない旨主張するが、本件の場合、売買等届出書は、国土法第23条第1項の規定に基づいて届出されたものであり、同法第15条《許可申請の手続》の規定に基づく許可を受けようとして届出されたものではないのであるから、仮に、売買等届出書に記載した金額と異なる金員の授受がされ、同法第47条又は第48条の規定により罰則の適用があるとしても、私法上の契約の効力に直接影響を及ぼすものではない。
 したがって、本件不動産の譲渡価額が1,134,000,000円であるからといって、当該取引の効力に何ら影響を及ぼすものではない。
ニ 次いで、請求人は、仮に、本件金員が請求人に帰属するものであったとしても、Iに対して当然支払われるべき立退料があるはずである旨主張するので、立退料の損金認容につき判断する。
(イ)Iは、本件建物の二階に永年居住していたのであり、請求人が本件建物を譲渡するという請求人の事情により、これを明け渡すこととなったのであるから、借家権等の権利の有無はともかく、何らかの支払があっても特に異とするには当たらない。
(ロ)しかし、本件金員は約1億円と多額であるところ、これを立退料として支払うという明確な意思は、代表者による買主からの受取りまで認めることはできない。
(ハ)しかも、その金額は、国土法に基づくP市長の指導による引下げ価格と同額であり、また、これを立退料として支払うべき合理的な説明づけがされていない。
(ニ)この点に関して、請求人は、本件建物の所在する土地の地代月額129,000円と、Iが請求人に支払っていた家賃月額15,000円との比率で、取引総額1,134,000,000円をあん分して支払われたと解するのが相当であると主張する。
 しかしながら、地代月額については、請求人の提出した通い帳によれば、昭和47年8月分が37,000円であり、その後4回の値上げがあり、昭和61年1月から129,000円となり、この間で3.5倍となっている。
 一方、Iの支払っていた家賃月額は、請求人の確定申告によれば昭和62年4月以降15,000円であることが確認できるものの、それ以前分については、契約書もなく、Iの答述等によっても地代の値上げ幅のような値上げがあったとは認められない。
 しかも、原処分庁又は当審判所に対するIの答述によれば、本件建物には、当初Iの両親が居住していたが、昭和48年から両親と同居し、5年ないし6年後に両親は転居したので、その後はIの家族のみが居住していたものであるが、本件建物の二階には、男子従業員更衣室、女子従業員更衣室あるいは従業員食堂等があり、Iは改造を加えながら利用していたというのであって、Iの利用形態は変化していることから、このような家賃と上記のような随時改定された地代との比率によるとする請求人の主張は、立退料算定の合理的説明としては認められない。
(ホ)そうすると、本件金員は単にP市長の指導に基づく引下げ分を給付したものにすぎないという判断を覆すことはできない。
(ヘ)以上のとおりであって、上記(イ)の事情をもってしても、本件金員の立退料としての支払を相当とするものではない。
 また、請求人は、Lマンションを権利金等なく賃貸していること、引っ越し費用を負担していることからみても、これをもって上記(イ)の立退料相当の経済的利益の供与は終了していると考えても不自然ではない。
 なお、支払賃料(15,000円と400,000円)の相違は、利用物件が異なるのであるから当然であり、これをもって、本件金員の額の立退料の支払を直ちに正当化するものではない。
(ト)よって、請求人の主張は採用することができない。
 以上の結果、本件不動産の譲渡価額は1,134,000,000円となり、請求人の本件事業年度の所得金額は213,415,631円となるから、原処分庁の更正処分は相当である。

(2)法人税の重加算税の賦課決定処分について

 上記(1)のハのとおり、請求人はE社に対し本件不動産を売買価額1,134,000,000円で譲渡したにもかかわらず、国土法の規定に基づくP市長の指導を奇貨として、本件契約書に本件不動産の価格を1,040,617,000円と偽りの金額を記載して、真実の価格を隠ぺいし、これに基づき所得金額を過少に記載した法人税の確定申告書を提出したことが認められるところ、このような請求人の行為は、通則法第68条第1項に規定する「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当する。
 したがって、同条第1項の規定に基づいてされた重加算税の賦課決定処分は適法である。

(3)法人臨時特別税の更正処分について

 上記(1)で述べたとおり、法人税の更正処分は適法であるから、それに伴って行った法人臨時特別税の更正処分も相当である。

(4)法人臨時特別税の重加算税の賦課決定処分について

 上記(2)で述べたとおり、請求人の行為は、法人臨時特別税の課税標準等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい又は仮装した行為に該当するので、通則法第68条第1項の規定に基づいて行った重加算税の賦課決定処分は適法である。

(5)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても相当と認められる。

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