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(平7.2.28裁決、裁決事例集No.49 340頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、経営コンサルタント業を営む同族会社であるが、平成4年4月1日から平成5年3月31日までの事業年度(以下「平成5年3月期」という。)の法人税の青色の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)を、その提出期限である平成5年5月31日を徒過した同年6月11日に提出した。
 原処分庁は、これに対し平成6年6月20日付で平成5年3月期以後の法人税の青色申告の承認の取消処分(以下「本件青色申告の承認の取消処分」という。)をした。
 請求人は、本件青色申告の承認の取消処分を不服として平成6年6月29日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、これに対し同年10月13日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成6年10月20日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により不当であるから、その取消しを求める。
イ 請求人が本件確定申告書をその提出期限までに提出しなかったのは、次に述べるとおり、やむを得ない事情があったからであり、今後は、決算期を変更して、期限に遅れることなく申告する用意がある。
(イ)請求人は、(1)経営コンサルタント業という仕事の社会的責任から、顧問先である企業経営者から至急の要請があれば、自社のことは後回しにしてでも顧問先を優先せざるを得ないこと、(2)勢い、請求人の代表取締役(以下「代表者」という。)の補助的仕事をしている経理部員もやむを得ずその影響を受けたこと及び(3)特に、平成3年頃からこの傾向が顕著になり、代表者が保証をしていた金型製造業者の経理を全面的にみることになったため、請求人の経理事務がほとんどできないことから、本件確定申告書の提出が大幅に遅れたものである。
(ロ)本件確定申告書の提出が遅れた理由は、平成5年3月に保証先が倒産したことにより、同年4月から5月まではその残務整理及び債務の弁済の準備に追われ、同年6月に入って本来の仕事をすることができたからである。
ロ 原処分庁は、平成5年3月期中に本件青色申告の承認の取消処分の予告をしなかった。
ハ 原処分庁が青色申告の承認の取消処分を行った平成5年3月期と平成3年4月1日から平成4年3月31日までの事業年度(以下「平成4年3月期」という。)との取扱いに矛盾がある。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 法人税法第127条《青色申告の承認の取消し》第1項第4号は、法人が同法第74条《確定申告》第1項又は同法第102条《清算中の所得に係る予納申告》第1項の規定による申告書をその提出期限までに提出しなかった事実があれば、納税地の所轄税務署長(以下「税務署長」という。)は当該申告書に係る事業年度までさかのぼって青色申告の承認を取り消すことができる旨規定している。
ロ ところで、請求人は、本件確定申告書のみならず、その前2事業年度の確定申告書も法定申告期限内に提出しておらず、また、請求人の主張をもって法定申告期限内に申告しなかったことの正当な理由ともなり得ないし、災害その他やむを得ない理由があったとも認められない。
ハ したがって、本件確定申告書が法定申告期限内に提出されていないことが、法人税法第127条第1項第4号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当する。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件青色申告の承認の取消処分の適否にあるので、以下審理する。
(1)当審判所が原処分関係資料を調査したところによれば、次の事実が認められる。
イ 請求人は、昭和47年4月1日から昭和48年3月31日までの事業年度以後の法人税の青色申告の承認を受けていること。
ロ 請求人は、本件確定申告書をその提出期限である平成5年5月31日を徒過した同年6月11日に提出していること。
ハ 請求人は、平成5年3月期の前5事業年度の確定申告書についても、その提出期限を経過して提出している事実が認められること。
(2)ところで、法人税法第127条第1項は、青色申告の承認を受けた法人が、(1)その事業年度に係る帳簿書類の備付け、記録又は保存が大蔵省令で定めるところに従って行われていないこと、(2)その事業年度に係る帳簿書類についてなされた税務署長の指示に従わなかったこと、(3)その事業年度に係る帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載する等、その記載事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があること、(4)確定申告書又は清算中の所得に係る予納申告書をその提出期限までに提出しなかったことの事実が生じた場合には、税務署長は、当該事実が生じた事業年度までさかのぼって青色申告の承認を取り消すことができる旨規定している。
 また、法人税法は、同法第127条第1項に規定する青色申告の承認の取消事由に該当する場合に、税務署長が、青色申告の承認の取消処分をすべきかどうかについては、具体的な基準を設けていない。
 しかしながら、税務署長は、納税者に青色申告の承認の取消事由に該当する事実が認められる場合、その原因、性質、態様、結果等、諸般の事情を考慮して、青色申告の承認の取消処分をすべきかどうかを決定することができるものと考えられるのであるが、その判断は、上記のような広範な事情を考慮してなされるものである以上、平素から当該税務署管内の実情に通暁し、納税者と最も密接なつながりを持つ者の裁量に任せるのでなければ、到底適切な結果を期待することができないものといわなければならない。それ故、納税者につき、法人税法に規定された取消事由がある場合に、青色申告の承認の取消処分を行うかどうかは、税務署長の合理的な裁量にゆだねられているものと解すべきであるから、税務署長が上記裁量権を行使した青色申告の承認の取消処分は、それが社会通念上妥当性を欠いて、裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法あるいは不当とならないものと解するのが相当である。
 さらに、法人税法第75条《確定申告書の提出期限の延長》第1項には、確定申告書を提出すべき法人が、災害その他やむを得ない理由により決算が確定しないため、当該申告書を提出することができないと認められる場合には、税務署長はその法人の申請に基づき、期日を指定してその提出期限を延長することができる旨規定している。
(3)これを本件についてみると、請求人は本件確定申告書をその提出期限である平成5年5月31日を経過した同年6月11日に提出している事実が認められ、このことは法人税法第127条第1項第4号に規定する確定申告による申告書をその提出期限までに提出しなかったことに該当することは明らかである。この場合において、青色申告の承認を取り消すか否かは税務署長の合理的な裁量にゆだねられていると解するのが相当であるところ、請求人が本件確定申告書をその提出期限までに提出しなかった理由は、単に請求人の事務処理等の遅れによるものであり、また、本件確定申告書のみならず、平成5年3月期の前5事業年度の確定申告書についてもその提出期限までに提出していないので、請求人が本件確定申告書をその提出期限までに提出しなかったことにつきやむを得ない理由があったとは認められないから、原処分庁が、本件青色申告の承認の取消処分を行うに当たって、裁量権の逸脱、濫用があったとも認められない。
(4)請求人は、本件確定申告書をその提出期限までに提出しなかったことにつきやむを得ない事情があった旨主張する。
 しかしながら、上記(3)で述べたとおり、請求人には本件確定申告書をその提出期限までに提出しなかったことにやむを得ない理由があったとは認められず、原処分庁に裁量権の逸脱、濫用があったとも認められない。
 さらに、請求人が、法人税法第75条第1項に規定する災害その他やむを得ない理由により、平成5年3月期の確定申告書に係る提出期限の延長申請をした事実も認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(5)請求人は、原処分庁が、平成5年3月中に本件青色申告の承認の取消処分の予告がなかったから不当である旨主張する。
 しかしながら、原処分庁が青色申告の承認の取消処分を行うに当たって、事前に処分の相手に対し予告等を行わなければならない旨を定めた法令上の規定はない上、前記(3)で述べたとおり、本件確定申告書が法人税法第127条第1項第4号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当し、また、原処分庁には、裁量権の逸脱、濫用があったとも認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(6)請求人は、原処分庁が青色申告の承認の取消処分を行った平成5年3月期と平成4年3月期との取扱いに矛盾がある旨主張する。
 しかしながら、青色申告の承認の取消処分において、いずれの事業年度までさかのぼるかは税務署長の合理的裁量にゆだねられていると解するのが相当であるところ、当審判所の調査によれば、本件青色申告の承認の取消処分は、原処分庁において所定の手続を経てその合理的裁量の範囲内においてなされたものであり、また、原処分庁には、裁量権の逸脱、濫用の事実は認められないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(7)以上のとおり、請求人の主張には理由がなく、請求人が本件確定申告書をその提出期限までに提出しなかったことは、法人税法第127条第1項第4号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当するから、本件青色申告の承認の取消処分は適法である。

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