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(平7.1.12裁決、裁決事例集No.49 420頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成4年9月10日に死亡したA(以下「被相続人」という。)の相続人であるが、この相続に係る相続税の申告書に次表の「申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 その後、請求人は、平成5年5月14日に次表の「更正請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。
 原処分庁は、これに対し平成5年7月27日付で次表の「減額更正」欄のとおり、更正処分(以下「本件更正処分」という。)をした。

(単位 円)
区分/項目申告更正請求減額更正
課税価格789,638,000584,316,000585,703,000
納付すべき税額331,601,300241,886,800242,968,600

 請求人は、この処分を不服として平成5年9月27日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、これに対し同年12月3日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成5年12月28日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、本件更正の請求を超える部分の取消しを求める。
 請求人は、遺言に基づいて申告していたところ、請求人の弟Bからの遺留分の減殺請求によって請求人が被相続人から相続により取得した財産が減少したこと及び土地の評価計算に誤りがあることから、請求人の課税価格は584,316,000円であるとして本件更正の請求を行った。
 請求人は、本件更正の請求において、P市R町2丁目1番7及び8所在の雑種地1,655平方メートルのうち、請求人が取得した1,210平方メートル(以下「物納予定地」という。)の100分の65の持分及び445平方メートル(以下「残地」といい、「物納予定地」と併せて「本件土地」という。)の2分の1の持分については、各々別個の土地であるから別々に評価し、その際、残地の評価に当たって、新たに、昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達「財産評価基本通達」(以下「評価基本通達」という。)20《不整形地、無道路地、間口が狭小な宅地等、がけ地等の評価》の(3)に定める奥行長大補正率0.98を乗じて算定していたところ、原処分庁は、本件土地は1画地の土地として評価すべきであり、当該補正はないとして、請求人の課税価格を585,703,000円とする本件更正処分をした。
 しかしながら、次のとおり、本件土地は、物納予定地と残地とに分けて評価すべきであるから、請求人の課税価格は、本件更正の請求のとおり584,316,000円とすべきである。
イ 土地の課税時期における利用状況は、相続開始時の瞬間的な利用状況のみではなく、近い将来の確定的な利用目的等、その土地全体の状況と利用目的とを総合的に考慮して判定すべきである。
 本件においては、本件土地のうち物納予定地を物納することになっているから、物納予定地と残地とは利用状況が異なることとなり、各々別個の土地として評価すべきである。
ロ 評価基本通達1《評価の原則》の(3)によると、財産の評価に当たっては、その財産の価額に影響を及ぼすすべての事情を考慮するとされている。
 本件土地は、物納予定地が物納により分離されるので、残地は地積が減少し、形状も悪化することとなり、この事情を無視して相続開始時の形状のままで評価するのは妥当ではない。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 相続税法第22条《評価の原則》は、「この章で特別の定のあるものを除く外、相続、遺贈又は贈与に因り取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価」による旨規定している。
 相続税の課税価格の計算に当たり、財産の価額は必ずしも一義的に確定されるものではないことから、国税庁は、財産の評価の一般的基準として評価基本通達を定めており、特段の事情がある場合を除き評価基本通達の定めに基づき財産を評価することは合理的であると解されている。
 ところで、評価基本通達1の(2)によれば、財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、相続、遺贈若しくは贈与により財産を取得した日において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいう旨定め、また、評価基本通達81《評価単位》は、雑種地の価額は、利用の単位となっている一団の雑種地ごとに評価することとし、雑種地の上に存する権利の価額についても同様とする旨定めている。
ロ 原処分庁の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)被相続人は、昭和62年6月1日にE株式会社(以下「E社」という。)と本件土地を賃貸借する旨の土地賃貸借契約書を締結していること。
(ロ)上記(イ)の土地賃貸借契約書には、次の内容が記載されていること。
A 被相続人は、本件土地をE社に賃貸し、事務所(プレハブ造り)及び資材置場を目的として使用させる。
B 賃貸借期間は、昭和62年6月1日から起算し、10年間とする。
(ハ)平成5年10月21日現在、E社は、本件土地をプレハブ造りの事務所の敷地及び資材置場として、一体として利用していること。
ハ 本件土地は、上記ロの事実から、相続開始日現在においてE社が一体として利用していると認められ、また、本件土地の評価上の区分は、雑種地と認められる。
 したがって、本件土地は、前記イで述べたとおり、相続開始日における利用状況に基づき、1画地の土地として評価することになる。
ニ 本件土地の自用地の価額を算定すると、次の算式で示すとおり528,747,675円となり、本件土地の相続税の課税価格に算入すべき価額は、評価基本通達86《貸し付けられている雑種地の評価》の定めを適用して、515,528,982円となる。
(正面路線価) (奥行価格補正率) (1平方メートル当たりの価額)
 330,000円  ×  0.95    = 313,500円・・・・A
  (裏面路線価)  (奥行価格補正率)(二方路線影響加算率)
A+(210,000円 ×   0.95   ×   0.03  )
             (1平方メートル当たりの価額)
                = 319,485円・・・・B
       (地積)      (自用地の価額)
B  ×  1,655平方メートル  = 528,747,675円
ホ 以上の結果、請求人の持分に相当する本件土地の価額は314,301,355円、課税価格は585,703,000円となり、これと同額でした本件更正処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件土地の評価に当たり、物納予定地と残地とに分けて評価すべきか否かにあるので、以下審理する。
(1)次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。
イ 土地家屋調査士であるCが、平成5年4月12日に作製した本件土地の地積測量図及び本件土地に係る路線価の概要は、別紙のとおりであること。
ロ 本件土地に係る昭和62年6月1日付の、賃貸人を被相続人、賃借人をE社とする土地賃貸借契約書には、次のとおり記載されていること。
(イ)本件土地を、事務所(プレハブ造り)及び資材置場として使用する目的で賃貸させる。
(ロ)賃料は、1か月180,000円とする。
(ハ)賃貸借期間は、昭和62年6月1日から起算して、10年間存続するものとする。
ハ 相続開始日現在において、本件土地は、E社のプレハブ造りの事務所の敷地及び資材置場として、一体として貸し付けられている雑種地であること。
ニ 請求人は、原処分庁に対し、平成5年3月10日に申告に係る相続税物納申請書を提出しており、物納予定地を物納する旨が記載されていること。
(2)相続により取得した雑種地の評価に当たり、当該雑種地を全体として評価する場合と、区分して評価する場合では、その区分の方法等によっても当該雑種地の価額が異なることがある。
 ところで、相続税法第22条によれば、相続により取得した財産の価額は、特別の定めがあるものを除くほか、当該財産の取得の時における時価による旨規定されているが、この場合の時価とは、相続開始時における財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいうものと解される。
 そうすると、雑種地を評価するに当たっては、相続開始時において物理的に一体として利用されている土地ごとに区分して評価するのが、「相続開始時における財産の現況」に即した評価と解される。
(3)これを本件についてみると、相続開始時における本件土地の現況は、前記(1)のとおり、E社に一体として貸し付けられている雑種地であることが認められる。
 したがって、相続開始時において物理的に一体として利用されている本件土地の評価に当たり、物納予定地と残地とに区分して評価するのは相当ではない。
(4)請求人は、本件土地は、物納予定地を物納することになっているから、物納予定地と残地とは利用状況が異なることとなり、各々別個の土地として評価すべきである旨主張する。
 しかしながら、相続により財産を取得した者が、物納するか否か及び当該財産のどの部分を物納するかについては、相続開始後において、その者の意思、行為等によって決定し、また、変更することができるものであるから、本件土地の相続開始時における現況に何ら影響を及ぼすものではない。
 したがって、請求人の主張は採用することができない。
(5)以上の結果、原処分庁が本件土地を一体として評価したことは相当であり、本件更正処分は適法である。
(6)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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