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(平7.1.27裁決、裁決事例集No.49 443頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、財団法人であるが、平成元年4月1日から平成2年3月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税について、次表の「確定申告」欄のとおり記載した確定申告書を法定申告期限までに提出した。
 原処分庁は、平成5年5月28日付で、次表の「更正」欄のとおり更正処分をした。
 請求人は、この処分を不服として平成5年6月24日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成5年9月22日付で次表の「異議決定」欄のとおり一部を取り消す異議決定をした。

(単位 円)
 区分項目金額
確定申告課税標準額11,191,000
 納付すべき税額△1,330,206
更正課税標準額153,929,000
 納付すべき税額2,951,900
異議決定課税標準額153,929,000
 納付すべき税額2,887,700

(注)△印は、還付金の額に相当する税額を表す。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成5年10月18日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
 請求人は、平成元年3月29日に、○○宿舎G荘(以下「G荘」という。)として収益事業である旅館業の用に供していた別表1の土地(以下「本件土地」という。)及び建物(以下「本件建物」といい、本件土地と併せて「本件不動産」という。)を、H証券株式会社(以下「H証券」という。)へ、本件土地652,979,000円及び本件建物147,021,000円、総額800,000,000円で譲渡する旨の不動産売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し、契約の効力が発生したので、同日を消費税法取扱通達(以下「取扱通達」という。)9ー1ー13《固定資産の譲渡の時期》のただし書により、資産の譲渡の日(時期)として本件建物に係る譲渡の対価の額を平成元年4月1日から開始する本件課税期間における消費税の課税標準額に含めないで申告したところ、原処分庁は、取扱通達9ー1ー13に基づいて、消費税の課税の対象とならないためには本件売買契約を締結した平成元年3月29日を含む昭和63年4月1日から平成元年3月31日までの事業年度(以下「平成元年3月期」という。)において、本件不動産の譲渡に係る収益を計上すべきなのに計上していないことから、本件不動産の譲渡の時期については、平成元年7月1日以降が本件建物の引渡しの課税時期であるとし、本件建物の譲渡の対価の額を本件課税期間における消費税の課税標準額に含めるべきであるとして更正処分をした。
 しかしながら、本件不動産の譲渡の時期は、次のとおり平成元年3月29日の契約の日であるから、本件建物の譲渡は、消費税法附則第1条《施行期日等》第1項に規定する消費税の適用開始日である平成元年4月1日(以下「消費税法の適用日」という。)前に行った取引であるので、消費税を課税すべきでない。
イ 一般に、固定資産の譲渡については、その引渡しの日をもって譲渡の時期とするのが原則であるが、取扱通達9ー1ー13のただし書において、事業者がその固定資産の譲渡に関する契約の効力発生の日を資産の譲渡の時期としているときは、これを認める旨定められている。
 したがって、取扱通達9ー1ー13のただし書に照らして、本件売買契約の効力が発生した平成元年3月29日を本件不動産の譲渡の時期として適用すべきである。
ロ 契約の効力発生の日を不動産の譲渡の時期とするに当たっては、事業者が不動産の譲渡の時期として認識していれば足り、認識していたことを外形的に表示するための経理処理はその要件となるものではない。
 なお、請求人は、本件不動産の譲渡収入に関する経理処理を本件不動産の引渡しの日である平成元年7月17日に行ったのは、次の理由によるものであり、当該経理処理をもって本件不動産の譲渡の日を引渡しの日としたのは違法である。
(イ)本件売買契約を締結した平成元年3月29日には、既に平成元年5月までG荘の宿泊客の予約があったため、本件不動産を引き続き事業の用に供せねばならなかったこと。
(ロ)平成元年5月末までG荘を営業し、その後、同年6月末ころまで当該事業の残務整理をしていたことから、本件不動産の実際の引渡しが平成元年7月になってしまったこと。
(ハ)本件不動産の売買契約書(以下「本件売買契約書」という。)の特約条項の2《建物取壊し》において、本件土地の上に存する本件建物以外の建物を売主の費用負担により本件建物の引渡しの時までに取り壊すものとし、引渡しの時までに取壊しが完了しない場合には、買主は、その完了時まで本件不動産の売買代金の一部である3,000万円の支払を留保できる旨の条件が付されているところ、その取壊しが本件不動産の引渡しの時までに完了しなかったこと。
(ニ)前記(ハ)のとおり、平成元年3月29日には、本件建物以外の建物の取壊しの費用などの譲渡経費の金額が未確定であったこと。
ハ 請求人は、本件売買契約に基づいて、平成元年3月29日に、手付金160,000,000円を受領して、買主であるH証券が本件不動産の所有権移転請求権仮登記をすることを承諾し、平成元年4月4日には、平成元年3月29日の売買予約を原因とする本件不動産の所有権移転請求権仮登記が行われていることからみても、本件不動産の所有権の移転を約した日を譲渡の時期としているのであるから、請求人が平成元年3月29日を本件不動産の譲渡の時期としていたことは明らかである。
 したがって、本件売買契約を締結した日に当該契約の効力は発生し、請求人の本件不動産の譲渡に係る権利義務が確定する。
 なお、請求人は、本件不動産の譲渡が消費税法の適用日前の平成元年3月29日に行われた資産の譲渡である旨を主張するものであり、本件不動産の譲渡の時期以外については争わない。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 本件不動産の譲渡について調査したところ、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、平成元年3月29日付で売主を請求人、買主をH証券として、別表1の本件不動産を譲渡する旨の本件売買契約書を作成しているが、請求人は、平成元年3月29日を含む平成元年3月期において、本件不動産の譲渡に係る収益を何ら計上していないこと。
(ロ)本件売買契約書の主な記載内容は、次のとおりであること。
A 第1条《売買代金》において、本件不動産の売買代金の総額を800,000,000円とし、その内訳として、本件土地の売買代金を652,979,000円及び本件建物の売買代金を147,021,000円とする。
B 第5条《所有権移転及び移転登記》において、本件不動産の所有権は、買主が売買代金の全額を売主に支払ったときに買主に移転するものとし、同時に、売主及び買主は、協力して所有権移転登記申請の手続を行うものとする。
C 第6条《引渡し》において、本件不動産の引渡しの時期は、所有権の移転と同時に行うものとする。
D 第8条《租税公課》において、本件不動産に係る平成元年度の固定資産税及び都市計画税は、賦課のあて名名義にかかわらず、昭和64年1月1日から引渡しの日の前日までの分は売主が負担し、引渡しの日から平成元年12月31日までの分は買主が負担する。
E 第9条《諸費用の負担》において、本件不動産に係る電気・ガス・水道等の使用料金及び負担金等は、引渡しの日をもって区分し、引渡しの日の前日までの分は売主が、引渡しの日以降の分は買主が負担する。
F 特約条項の2において、売主は、本件土地の上に存する本件建物以外の建物について、売主の費用負担において取り壊すものとし、引渡しの時までに取壊しが完了しない場合、買主は、完了時まで残金の一部(3,000万円)の支払を留保することができるものとする。
(ハ)本件不動産の売買代金の受渡状況は、次のとおりであること。
A 請求人は、平成元年3月29日に、H証券から売買代金の手付金として160,000,000円を受領している。
B 請求人は、H証券から売買代金の残金として、平成元年7月17日に610,000,000円及び支払留保分として平成元年8月11日に30,000,000円を受領している。
(ニ)平成元年7月20日に、同年3月29日の売買を原因とする本件不動産の所有権移転登記の受付けがされ、請求人からH証券に所有権の移転が行われていること。
(ホ)本件不動産に係る平成元年度の固定資産税及び都市計画税の負担状況は、次のとおりであること。
A 平成元年6月30日付のL銀行M支店作成の平成元年度固定資産税及び都市計画税分担額計算書によれば、本件不動産に係る平成元年度の固定資産税は、1,969,500円及び都市計画税は276,200円である。
B 前記Aの固定資産税及び都市計画税の合計額2,245,700円について、請求人とH証券との負担額は、次のとおりである。
(A)請求人は、昭和64年1月1日から平成元年6月30日までの6か月分として、1,125,700円を負担する。
(B)H証券は、平成元年7月1日から同年12月31日までの6か月分として1,120,000円を負担する。
C H証券は、平成元年8月11日に、前記Bの(B)の負担額1,120,000円をL銀行M支店の請求人名義の普通預金口座(口座番号○○○)に振り込んでいる。
(ヘ)本件不動産に係る電気及び水道の使用料金の負担状況について、請求人が記帳しているG荘の会計伝票を調査したところ、請求人は、これらの料金を別表3のとおり支払っていること。
(ト)請求人は、平成元年7月17日付で、本件不動産の譲渡に関する経理処理を別表2のとおり行っており、本件不動産の譲渡収益を計上していること。
ロ 本件建物の利用状況について調査したところ、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、本件建物をG荘として利用し、収益事業である旅館業を営んでいたこと。
(ロ)請求人は、前記(イ)の旅館業に係る宿泊収入及び飲食収入を平成元年5月28日分まで計上していること。
(ハ)請求人は、平成元年6月7日に、前記(イ)の旅館業の廃業届をR保健所に提出していること。
(ニ)請求人は、前記(イ)の旅館業を平成元年5月28日に廃業した旨の収益事業廃止届出書をF税務署長に提出していること。
(ホ)請求人の常務理事であるAは、原処分庁の請求人に対する消費税調査の担当職員に、G荘の営業を平成元年5月末日に廃止した旨申述していること。
ハ 以上の事実を総合すると、次のとおりである。
(イ)固定資産の譲渡の時期については、取扱通達9ー1ー13において、「別に定めるものを除き、その引渡しがあった日とする。」と定められている。
 また、取扱通達9ー1ー13のただし書において、「事業者が当該固定資産の譲渡に関する契約の効力発生の日を資産の譲渡の時期としているときは、これを認める。」と定められている。
(ロ)請求人は、本件不動産の譲渡の時期が本件売買契約の効力の発生した平成元年3月29日である旨主張するが、本件売買契約書を作成した平成元年3月29日を含む平成元年3月期において、本件不動産の譲渡に係る収益の計上を行っていないことから、請求人には、本件不動産の譲渡について、前記(イ)の取扱通達9ー1ー13のだたし書の定めを適用することはできず、本件不動産の引渡しの日が本件不動産の譲渡の時期となる。
 なお、請求人は、平成元年4月4日に、同年3月29日の売買予約を原因とする本件不動産の所有権移転請求権仮登記が行われていることから、請求人が平成元年3月29日を本件不動産の譲渡の時期としていたことは明らかである旨主張するが、請求権保全の仮登記は、将来の本登記の順位保全のための予備登記に過ぎず、所有権変動は生じていないのであるから、請求人の主張には理由がない。
(ハ)請求人は、(a)前記イの(ロ)のE及び(ヘ)のとおり、平成元年7月分までの本件不動産に係る電気及び水道等の使用料を負担していること、(b)前記イの(ニ)のとおり、本件不動産の所有権移転登記が平成元年7月20日に行われていること、(c)前記イの(ホ)のとおり、平成元年6月30日までの本件不動産に係る平成元年度の固定資産税及び都市計画税を負担していること、(d)前記イの(ト)のとおり、平成元年7月17日に本件不動産の譲渡に係る経理処理を行っていること並びに(e)前記ロのとおり、少なくとも平成元年5月28日まではG荘を旅館業の用に供していたこと、また、H証券は、前記イの(ロ)のA、F及び(ハ)のとおり、平成元年7月17日に売買代金800,000,000円から手付金160,000,000円を差し引いた残額640,000,000円のうち、引渡しの日までに本件建物以外の建物の取壊しが遅れたとして支払を留保した30,000,000円以外の610,000,000円を請求人に支払っていることなどから、本件不動産の引渡しは、少なくとも平成元年7月1日以降に行われたものと認められる。
 なお、本件不動産の引渡しの時期が平成元年7月17日に行われた旨の請求人の主張は、審査請求に至り初めてされたものであるが、当該請求人の主張は、本件不動産の引渡しの時期が同年7月1日以降であることを明らかにするものであり、その事実については争わない。
 そうすると、本件不動産の譲渡は、本件不動産の引渡しが平成元年7月1日以降であることから消費税の適用日以後に行われたこととなり、本件建物の譲渡は、消費税法第4条《課税の対象》第1項の規定により消費税が課せられることとなる。
 したがって、本件建物の譲渡価額を本件課税期間における課税資産の譲渡等の対価の額に含めて、消費税の課税標準額を算出した本件課税期間の更正処分は適法である。

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3 判断

 本件不動産の譲渡の時期に争いがあるので、これについて調査・審理したところ、次のとおりである。

(1)次のことについては、当事者間に争いがなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。

イ 請求人は、水産教育等に関する事業等を目的とする財団法人であり、本件不動産は財団法人の基本財産であること。
ロ 請求人は、本件不動産をG荘として利用して収益事業である旅館業を平成元年5月28日まで営んでいたこと。
ハ 請求人は、平成元年3月29日に、別表1の本件不動産をH証券に譲渡する旨の本件売買契約書を作成して、本件売買契約を締結していること。
ニ 本件売買契約書の主な記載内容は、次のとおりであること。
(イ)売主は請求人、買主はH証券とし、本件不動産の売買代金は、本件土地652,979,000円及び本件建物147,021,000円の合計額800,000,000円である。
(ロ)買主は、本件売買契約の締結と同時に、手付金として160,000,000円を売主に支払い、売主は、これを受領した。
(ハ)本件不動産の所有権は、買主が売買代金の全額を売主に支払ったときに買主に移転するものとし、同時に、売主及び買主は、協力して所有権移転登記申請の手続を行うものとする。
(ニ)本件不動産の引渡しは、所有権の移転と同時に行うものとする。
(ホ)売主は、前記(ロ)の手付金の受領時において、本件不動産に対して所有権移転請求権仮登記の設定を行うことを承諾するものとし、売主及び買主は、協力して登記申請の手続を行うものとする。
(ヘ)本件不動産に関する平成元年度の固定資産税及び都市計画税は、昭和64年1月1日から引渡しの日までの分は売主が負担し、引渡しの日より平成元年12月31日までの分は買主が負担する。
(ト)売主は、本件土地の上に存する本件建物以外の建物について、売主の費用負担において取り壊すものとし、引渡しの時までにその取壊しが完了しない場合、買主は、完了時まで前記(イ)の売買代金800,000,000円から前記(ロ)の手付金160,000,000円を差し引いた残金640,000,000円の一部として30,000,000円の支払を留保することができるものとする。
ホ 登記簿によれば、本件不動産は、平成元年4月4日に権利者H証券として同年3月29日の売買予約を原因として、所有権移転請求権仮登記が行われていること。
ヘ 請求人は、平成元年5月28日まで収益事業であるG荘の宿泊収入及び飲食収入を計上していること。
ト 請求人は、平成元年7月17日に、仲介業者であるS株式会社の事業部長及びB等の立会いの下に、本件不動産に係る権利証書、本件建物の鍵及び本件建物の設備備品の備付け保管状況を記載したG荘備品一覧表の受渡しをもって、H証券に対する本件不動産の引渡しを行ったこと。
チ 請求人は、H証券から本件不動産の売買代金800,000,000円を、次のとおり受領していること。
(イ)平成元年3月29日に、前記ニの(ロ)のとおり、手付金160,000,000円が、H証券からT銀行U支店の請求人名義の普通預金口座に入金されている。
(ロ)平成元年7月17日に、前記ニの(ト)のとおり、本件不動産の引渡しの時までに本件建物以外の建物の取壊しが完了しなかったための支払留保分30,000,000円以外の売買代金の残金610,000,000円が、H証券からL銀行M支店の請求人名義の普通預金口座に入金されている。
(ハ)平成元年8月11日に、前記ニの(ト)の支払留保分30,000,000円並びに前記ニの(ヘ)の固定資産税及び都市計画税の平成元年7月1日から同年12月31日までの金額1,120,000円が、H証券からL銀行M支店の請求人名義の普通預金口座に入金されている。
リ 請求人は、本件不動産の譲渡収入について、平成元年7月17日に、別表2のとおり経理処理を行っていること。
ヌ 登記簿によれば、本件不動産は、平成元年7月20日に、同年3月29日の売買を原因とする請求人からH証券へ所有権移転登記が行われていること。

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(2)請求人の提示資料及び原処分関係資料等を基に当審判所が調査したところ、次のことが認められる。

イ 平成元年5月28日付の昭和63年度事業報告書(自昭和63年4月1日至平成元年3月31日)における収支決算書の平成元年3月31日現在の基本財産目録には、本件不動産が計上されていること。
ロ 平成元年5月28日付の平成元年度事業計画書(自平成元年4月1日至平成2年3月31日)には、平成元年7月1日をもって本件不動産を引渡す旨及び平成元年5月31日まででG荘の営業を廃止し、平成元年6月30日までにその残務整理を完了する旨の計画が記載されていること。
ハ 平成2年5月27日付の平成元年度事業報告書(自平成元年4月1日至平成2年3月31日)には、平成元年7月31日をもってH証券へ基本財産であった本件不動産の売却が完了した旨が記載されていること。
ニ 第37期決算報告書(平成元年4月1日から平成2年3月31日まで)の収支計算書には、基本財産収入のうち固定資産売却収入として本件土地の売却収入652,979,000円及び本件建物の売却収入147,021,000円が計上されていること。

(3)前記(1)及び(2)の事実に基づき、本件不動産の譲渡の時期について検討すると、次のとおりである。

イ 消費税法は、消費税法附則第1条《施行期日等》第1項の規定により昭和63年12月30日の公布の日から施行し、平成元年4月1日以後に国内において事業者が行う資産の譲渡等に係る消費税について適用することとされている。
 国内取引に係る消費税の納税義務の成立の時期は、国税通則法第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第2項第7号の規定により、課税資産の譲渡等をした時とされている。
 ところで、取扱通達9ー1ー13の定めによれば、固定資産の譲渡の時期については、その引渡しがあった日と定められ、そのただし書として、その固定資産が土地、建物その他これらに類する資産である場合において、事業者が当該固定資産の譲渡に関する契約の効力発生の日を資産の譲渡の時期としているときは、これを認めると定められている。
 請求人は、前記(1)のイ及びロのとおり、その基本財産である本件不動産をG荘として収益事業の用に供していたことから、本件不動産は請求人の事業に係る固定資産と認められる。
 そうすると、譲渡の時期は、原則として、その引渡しのあった日であり、また、請求人が譲渡に関する契約の効力発生の日を譲渡の時期としているときは、その日が譲渡の時期となる。
ロ 請求人は、本件不動産の譲渡について、本件売買契約を締結した平成元年3月29日が本件不動産の譲渡の時期であり、請求人が契約の効力発生の日を譲渡の時期としたことを認識していれば足り、何ら外形的に認識していたことを明らかにする必要はないから、請求人が本件売買契約の効力発生の日を本件不動産の譲渡の時期として認識していた以上、本件不動産の引渡しの日や譲渡に関する経理処理の要件は本件不動産の譲渡の時期を左右するものではない旨主張する。
 しかしながら、土地及び建物等の固定資産については、その引渡しの事実関係が外形上明らかでない場合が多いために、課税時期を決定するに当たりその時期の判定の明確性を図る目的から取扱通達9ー1ー13が制定されたものであり、その趣旨は、譲渡の時期は引渡しの日が原則であるが、そのただし書で、契約が有効に効力を発生し、かつ、譲渡に係る経理処理(本件では売却収入の経理処理)を適正に行っているときはこれを特別に認めるというものと解されている。
 これは、取扱通達9ー1ー13と同一の内容の規定が法人税基本通達等にも存することからも明らかであり、請求人の主張するように事業者が契約の効力発生の日を譲渡の時期としたことを、単に主観的に認識していれば足りるというものではなく、何ら外形的にそれを明らかにする必要はない旨の請求人の主張には理由がない。
 また、請求人は、前記(1)のニの(ロ)、(ホ)及びホのとおり、本件売買契約の特約条項の1の規定にしたがい、平成元年3月29日に手付金を受領するとともに買主であるH証券が本件不動産の所有権移転請求権仮登記の設定を行うことを承諾し、平成元年4月4日にH証券が平成元年3月29日売買予約を原因とする所有権移転請求権仮登記をしていることから、請求人が平成元年3月29日を本件不動産の譲渡の時期としていたことは明らかである旨主張するが、このような請求権保全の仮登記は、将来の本登記の順位保全のための予備登記に過ぎず、これをもって、平成元年3月29日が本件不動産の譲渡の時期として取扱われるものではない。
 一般に、事業者がその譲渡契約の効力発生の日を譲渡の時期としているときとは、法人にあっては契約の効力発生の日を譲渡の時期として経理処理をしているときと解されているところ、前記(1)のリ及び(2)のとおり、請求人の経理処理は、平成元年3月31日現在、本件不動産は、なお請求人の基本財産として計上し、本件不動産の譲渡収入は、平成元年4月1日から平成2年3月31日までの事業年度の収益として計上している。
 したがって、本件建物の譲渡については、取扱通達9ー1ー13に定める「事業者が当該固定資産の譲渡に関する契約の効力発生の日を資産の譲渡の時期としているとき」に該当しないから、原則により引渡しの日が譲渡をした時となる。
 さらに、前記(1)及び(2)の全事実、当審判所の調査並びに全資料をもってしても、請求人が本件売買契約の効力発生の日を譲渡の時期としていた何らの行為も認められないので、本件不動産の譲渡については、その引渡しのあった日が譲渡の時期とするのが相当である。
 そうすると、前記(1)のトのとおり、本件不動産は、平成元年7月17日にその引渡しがあったことは明らかであるから、本件不動産の譲渡の時期は平成元年7月17日となる。
 したがって、本件不動産の譲渡が消費税の適用日以後の取引であるとして、本件建物の譲渡価額を、本件課税期間の課税標準額に加算した原処分は適法である。

(4)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所において調査・審理したところによっても、これを不相当とする理由は認められない。

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