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(平7.1.25裁決、裁決事例集No.49 505頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、企業の財務会計に関する計算業務を行う同族会社であるが、平成元年4月1日から平成2年3月31日までの課税期間、平成2年4月1日から平成3年3月31日までの課税期間及び平成3年4月1日から平成4年3月31日までの課税期間(以下、それぞれ「平成2年3月課税期間」、「平成3年3月課税期間」及び「平成4年3月課税期間」といい、これらを併せて「各課税期間」という。)の消費税について、確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載した上、これをいずれも法定申告期限までに原処分庁に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成4年10月30日付で次表の「原処分」欄の記載のとおり更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。

(単位 円)
課税期間区分確定申告原処分
平成2年3月課税標準額等112,898,864112,898,864
 納付すべき税額338,600677,300
平成3年3月課税標準額等136,990,585136,990,585
 納付すべき税額410,900821,900
 過少申告加算税の額41,000
平成4年3月課税標準額等126,437,364126,437,364
 納付すべき税額379,300758,600
 過少申告加算税の額37,000

 請求人は、これらの処分を不服として平成4年12月28日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は平成5年3月26日付でいずれも棄却の異議決定をし、同月29日に異議決定書の謄本を送達した。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成5年4月27日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は次の理由により違法であるから、いずれもその一部の取消しを求める。
イ 更正処分について
(イ)請求人は、各課税期間について、消費税法(平成3年法律第73号による改正前のもの。以下同じ。)第37条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第1項に規定する卸売業を主として営む事業者として政令で定める者(以下「卸売業者」という。)に該当することから、各課税期間における仕入れに係る消費税額を、各課税期間における売上げに係る消費税額(各課税期間の課税標準額に対する消費税額から各課税期間における売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額の合計額を控除した残額をいう。以下同じ。)の100分の90に相当する額として申告した。
 原処分庁は、これに対し、請求人は卸売業者に該当しないとして、各課税期間における仕入れに係る消費税額を、各課税期間における売上げに係る消費税額の100分の80に相当する額として更正処分をした。
 しかしながら、請求人は、次のとおり、卸売業者に該当するから、各課税期間における仕入れに係る消費税額は、各課税期間における売上げに係る消費税額の100分の90に相当する額とすべきである。
A 消費税法施行令(平成3年政令第201号による改正前のもの。以下同じ。)第57条《卸売業を主として営む事業者の範囲》の規定によれば、卸売業者とは、卸売売上割合(同条第1項第1号に掲げる金額のうちに同項第2号に掲げる金額の占める割合をいう。以下同じ。)が100分の50を超える事業者とされており、また、この場合の卸売業とは、他の事業者から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで販売する事業で小売業以外のものとされている。
B 請求人が各課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等の対価の額の合計額を卸売業に係るものとそれ以外のものとに区分すると、別表のとおりであり、各課税期間の卸売売上割合は、いずれも100分の50を超えている。
C 請求人の各課税期間における卸売業に係る課税資産の譲渡等の対価の額のほとんどは、株式会社J(以下「J社」という。)から提供を受けた帳票類を得意先に販売する業務(以下「帳票類販売業務」という。)に係る対価の額であるが、この帳票類販売業務は、次のとおり、消費税法施行令第57条第2項に規定する卸売業に該当する。
(A)J社と情報処理等のサービスの提供に関する契約を締結しているのは、A税理士(以下「A税理士」という。)であるが、請求人は、A税理士の保証の下に、J社から直接帳票類の提供を受け、また、代金もJ社に直接支払っているものである。
 したがって、請求人は、帳票類の仕入れに限ってJ社と関わっており、情報処理サービスを始めとする会計事務所経営に必要な総合的サービスの提供は受けていない。
(B)得意先との関係においても、請求人は、A税理士及びA税理士の顧問先でもある請求人の得意先との三者間で締結している業務委託に関する契約(以下「三者間の業務委託契約」という。)によって、A税理士との職域を明確に区分しており、これによっても、帳票類販売業務の内容が、J社から仕入れた帳票類の販売であることは明白である。
(C)請求人の得意先は、特定の事業者であって一般の消費者ではないので、帳票類販売業務は小売業には該当しない。
(D)以上のとおり、帳票類販売業務は、他の事業者であるJ社から購入した帳票類を、一切手を加えずに、特定の事業者である得意先に販売するものであるので、消費税法施行令第57条第2項に規定する卸売業に該当する。
(ロ)課税標準額等
 各課税期間の課税標準額等は、平成2年3月課税期間114,341,464円、平成3年3月課税期間139,284,585円、平成4年3月課税期間127,004,287円となる。
(ハ)納付すべき税額
 以上により、各課税期間の納付すべき税額を算定すると、平成2年3月課税期間343,000円、平成3年3月課税期間417,800円、平成4年3月課税期間381,000円となる。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、平成3年3月課税期間及び平成4年3月課税期間の更正処分はいずれもその一部を取り消すべきであるから、これに伴い、過少申告加算税の賦課決定処分もその一部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
(イ)請求人は、次のとおり、卸売業者に該当しないので、各課税期間における仕入れに係る消費税額は、各課税期間における売上げに係る消費税額の100分の80に相当する額であるから、各課税期間の更正処分をしたものである。
A 卸売業者とは、請求人の主張のイの(イ)のAのとおりである。
B 請求人は、企業の財務会計に関する計算業務を行うことを主たる目的とした法人であり、その日常の業務は、得意先を毎月訪問し、得意先が起票した伝票及び会計日記帳等を巡回監査し、これらを持ち帰りコンピューターに入力後、J社の計算センターへ電話回線をもって伝送し、J社からのアウトプット帳票を得意先に提供するというものであり、請求人が行う業務の内容は、J社情報システムを利用した情報サービスの提供である。
C したがって、請求人が行う業務は、消費税法施行令第57条第2項に規定する他の事業者から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで販売する事業には該当しないので、請求人は、卸売業者に該当しない。
(ロ)課税標準額等
 各課税期間の課税標準額等は、平成2年3月課税期間112,898,864円、平成3年3月課税期間136,990,585円、平成4年3月課税期間126,437,364円となる。
(ハ)納付すべき税額
 以上により、各課税期間の納付すべき税額を算定すると、更正処分のとおり、平成2年3月課税期間677,300円、平成3年3月課税期間821,900円、平成4年3月課税期間758,600円となる。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、平成3年3月課税期間及び平成4年3月課税期間の更正処分は適法であり、かつ、確定申告額が過少であったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないことから、過少申告加算税を賦課決定したものである。

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3 判断

(1)更正処分について

イ 請求人が、卸売業者に該当するか否かに争いがあるので、以下審理する。
(イ)請求人の提出資料及び原処分関係資料等を当審判所が調査したところによれば、次の事実が認められる。
A 請求人は、消費税法第37条第1項の規定(以下「簡易課税制度」という。)の適用を受ける旨を記載した届出書を、平成元年10月2日に提出しており、また、各課税期間とも、その基準期間における課税売上高が5億円を超えていないこと。
B J社とA税理士との間の情報処理等のサービスの提供に関する契約書には、第1条に「本契約は、J社が、税理士または公認会計士専用として開発した情報処理サービスを始めとする会計事務所経営に必要な総合的サービスを継続的に会員に提供し、会員は、J社のサービス給付の対価を支払うとの契約であり、会員並びにJ社の権利・義務を明確にすることを目的とする。」と、また第5条に「会員は、J社の提供する情報処理サービス及びマルチ・データベース・サービス等の対価として、会費(計算料及び情報提供料)を納入しなければならない。」と定められていること。
C 三者間の業務委託契約には、得意先からA税理士に対しては税理士法第2条に定める業務を、得意先から請求人に対してはJ社システム利用による帳票類の提供のほか税理士法第2条に定める業務以外の業務を委嘱する旨、定められていること。
D 請求人は、J社のコンピューターと電話回線で結ばれている端末機を自らの事務所に設置し、使用していること。
E 上記AのJ社の会費(計算料及び情報提供料)の請求書によれば、その請求の内容は、会計帳簿及び財務書類の作成に係る処理料金を中心とするものであり、また、この請求は直接請求人に対して行われていること。
F 請求人が、原処分庁に対し提出した平成3年6月18日付申述書によれば、請求人の日常の業務は、得意先を毎月訪問し、得意先が起票した伝票及び会計日記帳等を巡回監査し、これらを持ち帰りコンピューターに入力後、J社の計算センターへ電話回線をもって伝送し、J社からのアウトプット帳票を得意先に提供するというものであること。
G 当審判所に対する請求人の答述によれば、帳票類販売業務に係る帳票類は、J社から直接請求人に対し提供されていること。
(ロ)ところで、簡易課税制度においては、各課税期間における売上げに係る消費税額の100分の80(卸売業者にあっては100分の90)に相当する額を、各課税期間における仕入れに係る消費税額とみなして控除することができるとされている。そして、この場合の卸売業者とは、卸売売上割合が100分の50を超える事業者とされており、また、卸売業とは、他の事業者から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで他の事業者へ販売する事業とされている。
(ハ)これを本件についてみると、次のとおりである。
A 請求人は、帳票類販売業務なるものを観念し、購入した帳票類を一切手を加えずに販売するものであるから卸売業に該当する旨主張するが、上記(イ)のBないしGの各事実を総合すれば、請求人が行っているのは、得意先が起票した伝票及び会計日記帳等の資料をJ社の情報処理システムにより整理分析して会計帳簿及び財務書類を作成するという、いわゆる会計処理業務である。そして、請求人が主張する帳票類販売業務の「帳票類」とは、この会計処理業務の成果品として作成される会計帳簿及び財務書類のことであり、その「販売」とは、委託業務の履行として成果品を引き渡すことであるから、およそ商品の販売としての帳票類販売業務なるものを観念することはできない。
B 結局、請求人が行う会計処理業務は、他の事業者から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで他の事業者へ販売するものとは到底言えないから、卸売業に該当しないものと認められ、請求人の主張は、独自の見解を述べるものであって、採用できない。
C そして、請求人の提出資料及び原処分関係資料等を当審判所が調査したところによれば、各課税期間とも、この会計処理業務に係る課税資産の譲渡等の対価の額の合計額が、請求人が国内において行った課税資産の譲渡等の対価の額の合計額に占める割合は、100分の50を超えていることが認められることから、卸売売上割合は100分の50を超えないこととなり、請求人は、各課税期間とも卸売業者には該当しない。
ロ 課税標準額等
 原処分庁は、各課税期間の課税標準額等を、平成2年3月課税期間112,898,864円、平成3年3月課税期間136,990,585円、平成4年3月課税期間126,437,364円と算定しているが、請求人の提出資料及び原処分関係資料等を当審判所が調査したところによれば、各課税期間とも計上漏れなどの算定誤りがあることが認められ、これらを是正すると、各課税期間の課税標準額は、平成2年3月課税期間114,093,000円、平成3年3月課税期間139,279,000円、平成4年3月課税期間126,946,000円、また、各課税期間における売上げに係る対価の返還等の金額は、平成2年3月課税期間1,770円、平成3年3月課税期間4,100円、平成4年3月課税期間6,900円となる。
ハ 納付すべき税額
 各課税期間における仕入れに係る消費税額は、各課税期間における売上げに係る消費税額の100分の80に相当する額であるから、上記ロの課税標準額等を基に各課税期間の納付すべき税額を算定すると、平成2年3月課税期間684,500円、平成3年3月課税期間835,600円、平成4年3月課税期間761,600円となる。
ニ 以上審理したところによれば、各課税期間の納付すべき税額は、いずれも更正処分の額を上回るから、更正処分は適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、平成3年3月課税期間及び平成4年3月課税期間の更正処分は適法であり、かつ、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があったとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてされた過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分について、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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