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(平7.5.29裁決、裁決事例集No.49 515頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)審査請求に至る経緯

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、悉皆業(白生地卸売業及び染色加工に係る事業)を営む同族会社であるが、平成4年1月1日から同年12月31日まで及び平成5年1月1日から同年12月31日までの各課税期間(以下、それぞれ「平成4年分課税期間」及び「平成5年分課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税の各更正処分並びに過少申告加算税の各賦課決定処分に対する審査請求(平成6年10月13日)に至る経緯は、別表に記載のとおりである。

(2)事件の概要

 請求人は、本件各課税期間における消費税について、消費税法(以下「法」という。)第37条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第1項の規定(以下「簡易課税制度」という。)の適用を受け、法施行令第57条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第2項第1号及び第3項の規定により、白生地卸売業については第一種事業、染色加工に係る事業(以下「本件事業」という。)については第三種事業として、それぞれの事業に係る課税資産の譲渡等に係る消費税額に各々百分の九十、百分の七十(以下、これら法令で定める率を「みなし仕入率」という。)を乗じて計算した金額の合計額を課税仕入れ等の消費税額として法定申告期限までに原処分庁に申告した。
 これに対し、原処分庁は、本件事業は法施行令第57条第5項第3号の規定(以下「本件規定」という。)により第四種事業に該当するとして更正処分(以下「本件更正処分」という。)を行った。

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2 主張

(1)請求人の主張

イ 本件更正処分について
 原処分は、次のとおり違法であるから、その全部の取消しを求める。
(イ)事業区分について
A 本件事業は、染色加工業であって、日本標準産業分類によれば、製造業の中分類(繊維工業)の小分類染色整理業に該当し、請求人自らの名と責任においてすべての加工を外注先に依存する製造業であることから、法においても第三種事業として認められるべきである。
B 仮に、本件事業が第四種事業であるとしても製造工程のすべてを外注に依存しているのであるから、当該染色加工収入から外注費の金額を控除したものを課税売上高とすべきである。
(ロ)役務の提供を行う事業について
A 法第37条におけるみなし仕入率に係る事業区分が平成3年に2区分から4区分に改正されたのは、みなし仕入率が実際の仕入率とかい離するケースが多かったため、課税の不公平を是正するものであり、本件規定において「加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業」(以下「役務の提供を行う事業」という。)を第三種事業から除外したのは、このような事業形態の業種は実際の仕入率が低く、第四種事業に近くなることから第四種事業に含めることとしているものと考えられる。
 また材料等の無償支給は、子会社、関連会社及び協力下請会社等に対して行われることが多く、このような場合の消費税の租税回避行為を防止するために材料の支給を受けて、役務の提供を行う事業については第四種事業に該当する旨の規定が設けられたものであり、本件規定は自らの工場等で製造、加工が行われることを前提にしているものと考えられる。
B しかしながら、請求人は、自らの工場等で製造、加工を行うものでなく、すべて外注先に加工を依頼しているため、実際の売上原価率(仕入率)は、平成4年分課税期間が73.7%、平成5年分課税期間が75.3%と高くなっている。
 法第37条では、みなし仕入率を「課税資産の譲渡等に係る消費税額のうちに課税仕入れ等の税額の通常占める割合を勘案して政令で定める率」と規定していることから見ても、本件事業については第三種事業のみなし仕入率を適用することこそ法が期待しているものといえる。
 また、請求人が白生地(材料)の提供(無償支給)を受けて染色加工することは、上記Aで説明したように協力下請会社等へ材料を無償支給して製品を加工することとは異なった取引形態であり、材料等の無償支給というだけですべて第四種事業のみなし仕入率を適用することは、事業実態を無視し、法の趣旨に逆らった適用といわざるを得ない。
(ハ)本則課税と簡易課税について
 本件事業の実際の仕入率が第三種事業に近いのであれば、法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》の規定により仕入れに係る消費税額の控除をする方法(以下「本則課税」という。)を適用すべきだとする考え方もあるが、本則課税の選択は簡易課税の事業区分によるみなし仕入率と実際の仕入率とに差がある場合の救済措置ではない。
 簡易課税制度は、文字どおり事業者の納税事務の負担を軽減するために設けられた規定であり、本則課税と簡易課税との計算に差は生ずるにしても、法改正の趣旨に照らすと本則課税と簡易課税の計算結果が近いことこそ課税の公平を保つ上で必要なことであり、その意味からも本件事業に対する本件規定による第四種事業の適用には納得しかねる。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 本件更正処分は違法であるから、過少申告加算税の賦課決定処分も違法である。

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(2)原処分庁の主張

イ 本件更正処分について
 本件更正処分は、次の理由により適法である。
(イ)事業区分について
A 法第37条第1項は、「事業者が、その納税地を所轄する税務署長にその基準期間における課税売上高が4億円以下である課税期間についてこの項の規定の適用を受ける旨を記載した届出書を提出した場合には、当該届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間以後の課税期間については、第30条から前条までの規定により課税標準額に対する消費税額から控除することができる課税仕入れ等の税額の合計額は、これらの規定にかかわらず、当該事業者の当該課税期間の課税標準額に対する消費税額から当該課税期間における次条第1項に規定する売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額の合計額を控除した残額の100分の60に相当する金額(卸売業その他の政令で定める事業を営む事業者にあっては、当該残額に、政令で定めるところにより当該事業の種類ごとに当該事業における課税資産の譲渡等に係る消費税額のうちに課税仕入れ等の税額の通常占める割合を勘案して政令で定める率を乗じて計算した金額)とする。この場合において、当該金額は当該課税期間における仕入れに係る消費税額とみなす。」と規定している。
B また、法施行令第57条第1項において、みなし仕入率を第一種事業は100分の90、第二種事業は100分の80、第三種事業が100分の70とそれぞれ規定し、また、第5項において、第一種事業とは卸売業を、第二種事業とは小売業を、第三種事業とは農業、林業、漁業、鉱業、建設業、製造業(製造した棚卸資産を小売する事業を含む。)電気業、ガス業、熱供給業及び水道業(第一種及び第二種事業に該当するもの並びに加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業を除く。)を、第四種事業とは第一種事業から第三種事業に掲げる事業以外の事業をそれぞれいうと規定している。
C 一般的に染色加工業の事業区分について日本標準産業分類の大分類に掲げる分類基準により判定すると、製造業に該当することになるが、本件事業はすべて小売店から白生地を無償で支給を受けている事実を前記A及びBの法令並びに平成3年6月24日付国税庁長官通達「消費税関係法令の一部改正に伴う消費税の取扱いについて」第2章第1節の4(加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供の意義)に照らせば、たとえ請求人が、本件事業の工程のすべてを外注に依存しているとしても、役務の提供を行う事業に該当することから第四種事業である。
(ロ)役務の提供を行う事業について
 請求人は、本件事業が役務の提供を行う事業であっても、実際の仕入率は第三種事業のみなし仕入率に近いことから、法第37条でみなし仕入率を「課税資産の譲渡等に係る消費税額のうちに課税仕入れ等の税額の通常占める割合を勘案して政令で定める率」と規定している趣旨に鑑み、請求人の事業実態に則した第三種事業のみなし仕入率を適用すべき旨主張するが、これらの主張は請求人が独自に解釈したものである。
(ハ)本則課税と簡易課税について
 簡易課税制度は、納税事務をできるだけ簡素化する観点から事業者の選択により課税売上高に係る消費税額に概算による仕入率、つまりみなし仕入率を乗じた金額を仕入れに係る消費税とみなすことによって、簡易に納付税額の計算を行うものであるから本則課税を適用した場合と第四種事業のみなし仕入率を適用した場合における納付税額に開差が生じるのは、やむを得ないことである。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 更正処分により納付すべき税額の基礎となった事実が、更正処分前の税額の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由がある場合に該当しないため、同条第1項の規定に基づいて行った過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 審査請求の争点は、本件事業が、法施行令第57条第1項に定める第三種事業に該当するか否かにあるので、以下検討する。

(1)更正処分について

イ 次に掲げる事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所が調査したところによってもその事実が認められる。
(イ)請求人は、平成元年8月29日に、簡易課税制度を選択する旨の届出書を原処分庁に提出していること。
(ロ)請求人の取引形態及び取引の記録は、次のとおりであること。
A 請求人は、白生地卸売業及び本件事業の区分ごとに課税売上高を区分して経理しており、本件事業に係る売上先は、すべて小売店であること。
B 白生地卸売業及び本件事業に係る売上先が同一の小売店であってもそれぞれ別個の請求書を作成し、代金を請求していること。
C 本件事業の染色加工する生地は、すべて小売店から支給を受けていること。
ロ 上記の事実等を基に検討すると、次のとおりである。
(イ)事業区分について
 請求人は、本件事業は染色加工業であって、日本標準産業分類によると第三種事業に該当する旨主張するが、事業区分の判断はその事業の呼称にかかわらず、実質的な事業内容で判断すべきであって、本件事業については、白生地を受注先の小売店から提供されて、それに染色等の加工をしているのであるから、法施行令第57条第5項第3号かっこ書の「加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業」に該当すると認められ、そうすると第四種事業とするのが相当である。
 なお、染色等の加工を自らが行うか外注先に下請けさせるか否かは事業者の経営上の判断事項というべきであり、事業区分の判定要素にはならないと解すべきである。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
(ロ)役務の提供を行う事業について
 請求人は、本件事業は収入に対する売上原価の占める割合が高いので、法第37条第1項かっこ書を引用して、実質的に第三種事業としての製造業に該当する旨主張するが、請求人が引用した条項は「通常占める割合を勘案して政令で定める率を乗じて計算した金額」としており、政令で定める率は、通常占める割合を勘案して定めることを規定しているものであって、現実の売上原価の多寡により事業区分が決定されるものとは解することはできない。
 また、請求人は、材料等の無償支給ということのみで第四種事業とみなされるのは事業実態を無視したものである旨主張するが、第三種事業に該当する製造業は、自己の計算において材料等を購入し、加工した上で販売をする事業と解されるところ、主要な原材料の無償支給は事業区分の判断の重要な要素であり、このことをもって事業実態を無視したものであるという主張は採用できないことは明らかである。
(ハ)本則課税と簡易課税について
 請求人は、本則課税と簡易課税の税額計算において税額の開差が生じるとしても法の趣旨に照らせば、その開差は少ないことこそ望ましい状態であるから工程のすべてを外注先に依存している本件事業は第三種事業とすべきである旨主張するが、法に定めている簡易課税制度は、中小事業者を対象に税額計算の簡素化を図るために設けられたものである。
 このことから、事業の種類に応じて定められているみなし仕入率は、各種事業の平均的な率、つまり、概数値であり簡易課税と本則課税による税額計算において税額の開差が生じることはやむを得ないというべきである。
 そのために、簡易課税を適用するかどうかの選択が、事業者の判断に委ねられているものと解される。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
ハ 以上のとおり、原処分庁が請求人の染色加工業について、本件規定により第四種事業と認定し、みなし仕入率を百分の六十として更正処分をしたことは適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、また、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正処分前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいて行った
 過少申告加算税の賦課決定処分も適法である。

(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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