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(平7.6.19裁決、裁決事例集No.49 563頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、食料品小売業を営む同族会社であるが、平成元年3月21日から平成2年3月20日までの課税期間(以下「平成2年3月課税期間」という。)、平成2年3月21日から平成3年3月20日までの課税期間(以下「平成3年3月課税期間」という。)及び平成3年3月21日から平成4年3月20日までの課税期間(以下「平成4年3月課税期間」といい、これらの課税期間を併せて、以下「本件各課税期間」という。)の消費税の確定申告書に次表のとおり記載して、平成2年3月課税期間及び平成3年3月課税期間は、それぞれ法定申告期限までに、平成4年3月課税期間は平成4年7月6日に申告した。

 これに対し、M税務署長は、平成4年3月課税期間について、平成5年5月18日付で無申告加算税の額を3,992,500円とする賦課決定処分をした。
 さらに、M税務署長は、原処分庁所属の職員の調査に基づき、平成5年5月18日付で本件各課税期間について、次表のとおり更正処分(以下「本件更正処分」という。)並びに過少申告加算税及び無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をした。

 請求人は、本件更正処分等を不服として平成5年7月19日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、これに対し同年11月18日付でいずれも棄却の異議決定をし、異議決定書謄本は、同月22日に請求人に送達された。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成5年12月22日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
 請求人は、消費税法第45条《課税資産の譲渡等についての確定申告》第1項第2号に規定する課税標準額に対する消費税額の計算に当たり、消費税法施行規則第22条《確定申告書の記載事項等》第1項の規定を適用して本件各課税期間の消費税の確定申告をしたところ、原処分庁が、請求人の〇〇事業本部を除く店舗及び部門の売上げ(以下「本件売上げ」という。)に係る課税標準額に対する消費税額の計算上、同項の適用は認められないとした本件更正処分は、次の理由により違法である。
(イ)消費税法施行規則第22条第1項の規定を適用して課税標準額に対する消費税額を計算するためには、課税資産の譲渡等に係る決済上受領すべき金額を課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税に相当する額を含まないものとする。以下同じ。)と当該課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税に相当する額とに区分して領収することが要件とされている。
 なお、消費税法施行規則第22条第1項に規定する「決済上受領すべき金額」は、法令上何ら明示されていないことから、同項の規定の適用に当たっては、一の決済における課税資産の譲渡等の対価の額の合計額と当該金額に消費税の税率を乗じて算出した金額から1円未満の端数を処理した消費税に相当する額とに区分して領収する場合のみならず、個々の商品ごとの課税資産の譲渡等の対価の額と当該金額に消費税の税率を乗じて算出した金額から1円未満の端数を処理した消費税に相当する額とのそれぞれの合計額を区分して領収する場合も認められると解される。
(ロ)請求人は、本件売上げについて、社内的には、顧客から領収した金額を個々の商品ごとに課税資産の譲渡等の対価の額と当該個々の課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税に相当する額とに区分して経理しており、消費税の確定申告の際は、当該顧客から領収した消費税に相当する額の合計額を課税標準額に対する消費税額としている。
(ハ)一方、顧客に対しては、次のとおり、店頭商品やチラシ広告の価格表示に、個々の商品につき課税資産の譲渡等の対価の額と当該課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税に相当する額との区分についての説明をしている。
  (商品名)
    100円
   −2円+2円=0
 なお、レシート上に課税資産の譲渡等の対価の額と当該課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税に相当する額との区分表示がなかったのは、消費税法が公布及び施行の日から適用の日までわずか3か月間しかなく、コンピューターのソフトウェアの改訂が遅れたためである。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は違法であるから、これに伴い本件賦課決定処分もその一部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 本件更正処分について
(イ)原処分庁の調査によれば、次の事実が認められる。
A 請求人は、本件売上げに係る商品には、前記(1)のイの(ハ)に掲げるような価格表を添付し、また、チラシ広告においても個々の商品につき同様の価格表示を行っていること。
B 請求人は、本件売上げについて、次表に掲げる計算例のとおり、顧客から領収する課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税に相当する額の算出を個々の商品ごとに行い、本件各課税期間におけるそれら個々の商品に係る消費税に相当する額の合計額を、消費税法施行規則第22条第1項の規定を適用した課税標準額に対する消費税額として消費税の確定申告をしていること。

 上記の計算例によると、顧客は請求人に対し440円を支払い、請求人の顧客から領収する消費税に相当する額は11円となる。
C 上記Bに掲げた計算例に基づき、請求人が本件売上げの代金の領収時に顧客に発行するレシートの印字は、次の表に掲げるとおりになること。

商品A¥150
商品B¥90
商品C¥200
小計¥440
¥440¥0

(ロ)ところで、消費税法第45条第1項には、事業者は、課税期間ごとに、当該課税期間の末日の翌日から2か月以内に、当該課税期間における課税標準額及び課税標準額に対する消費税額等を記載した申告書を税務署長に提出しなければならない旨規定されている。
 また、ここでいう課税標準額とは、その課税期間におけるすべての課税資産の譲渡等の当該課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税に相当する額を含む対価の額の合計額に103分の100を乗じて算出された金額から1,000円未満の端数を切り捨てた後の金額とされており、課税標準額に対する消費税額とは、当該課税標準額に100分の3を乗じて算出された金額とされている。
(ハ)ところが、消費税法施行規則第22条第1項では、事業者が、課税資産の譲渡等に係る決済上受領すべき金額を当該課税資産の譲渡等の対価の額と当該課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税に相当する額とに区分して領収する場合において、当該消費税に相当する金額の1円未満の端数を処理したときは、上記(ロ)の課税標準額に対する消費税額の計算については、当該端数を処理した後の消費税に相当する額を基礎として行うことができる旨規定されている。
 したがって、課税標準額に対する消費税額の計算に当たり、消費税法施行規則第22条第1項の規定を適用して計算するためには、(1)消費税に相当する金額の端数の処理が、決済上受領すべき金額を単位として行われること及び(2)決済上受領すべき金額が、課税資産の譲渡等の対価の額と当該課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税に相当する額とに区分して領収されることが要件とされている。
(ニ)しかしながら、これを請求人の本件売上げについてみると、請求人は、前記(イ)のBに述べたとおり、消費税に相当する金額の端数の処理を個々の商品ごとに行っており、このことは、上記(ハ)の(1)の要件を満たしていないこととなる。
 さらに、請求人は、前記(イ)のCに掲げた表のとおり、代金決済時に発行するレシート上に課税資産の譲渡等の対価の額と当該課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税に相当する額とを区分して表示していないから、たとえ前記(イ)のAのように課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税に相当する額についての請求人の算出方法を顧客に対し明示していたとしても、決済上受領すべき金額を課税資産の譲渡等の対価の額と当該課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税に相当する額とに区分して領収していることには該当せず、上記(ハ)の(2)の要件をも満たしていないこととなる。
 なお、消費税法の公布及び施行の日から適用の日までの期間がわずか3か月間であったことは、本件更正処分に何ら影響を与えるものではない。
(ホ)したがって、本件各課税期間の課税標準額に対する消費税額の計算に当たり、消費税法施行規則第22条第1項の規定の適用は認められず、消費税法第45条第1項に規定する原則的な計算方法によって課税標準額に対する消費税額を計算した本件更正処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件各課税期間の本件更正処分は適法であり、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項及び同法第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、同法第65条第1項及び第2項並びに同法第66条第1項第2号の規定に基づき本件賦課決定処分をしたものである。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件売上げに係る課税標準額に対する消費税額の計算における消費税法施行規則第22条第1項の規定の適用の可否にあるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。
(イ)請求人は、本件各課税期間の消費税の確定申告に当たり、消費税法施行規則第22条第1項の規定を適用して課税標準額に対する消費税額を計算し申告したこと。
(ロ)請求人は、本件売上げにおいては、個々の商品につき店頭商品やチラシ広告に次のとおり価格表示をしていること。
  (商品名)
    100円
   −2円+2円=0
(ハ)請求人は、本件売上げに係る課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税に相当する額の計算に当たって、個々の商品ごとに消費税に相当する金額の1円未満の端数を切り捨てた額により行っていること。
(ニ)請求人は、本件各課税期間における本件売上げに係る課税資産の譲渡等に伴い顧客に発行するレシート上には、次のような表示をしており、課税資産の譲渡等の対価の額と当該課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税に相当する額とを区分表示していないこと。

商品A¥150
商品B¥90
商品C¥200
小計¥440
¥440¥0

ロ ところで、消費税の確定申告書に記載すべき課税標準額とは、消費税法第45条第1項で、事業者が、課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等(消費税法その他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。)に係る同法第28条《課税標準》に規定する課税標準である金額の合計額であるとされており、また、課税標準額に対する消費税額とは、課税標準額に消費税法第29条《税率》に規定する税率を乗じて算出された金額であるとされている。
 これに対して、消費税法施行規則第22条第1項では、事業者が、課税資産の譲渡等に係る決済上受領すべき金額を当該課税資産の譲渡等の対価の額と当該課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税に相当する額とに区分して領収する場合において、当該消費税に相当する金額の1円未満の端数を処理したときは、その端数を処理した後の消費税に相当する額を基礎として、課税標準額に対する消費税額の計算を行うことができる旨規定されている。
ハ したがって、消費税法施行規則第22条第1項の規定を適用して課税標準額に対する消費税額を計算する場合には、(1)当該消費税に相当する金額の1円未満の端数の処理が、課税資産の譲渡等に係る決済上受領すべき金額を単位として行われ、かつ、(2)決済上受領すべき金額が、課税資産の譲渡等の対価の額と当該課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税に相当する額とに区分して領収されることが要件となる。
 そして、「決済上受領すべき金額」とは、一般に、販売者と購入者の間では購入者が商品の購入の意思を販売者に示し、販売者が当該購入者に対し販売の承諾をし、両者間で商品とその代金の交換すなわち取引の決済が行われる場合に受領すべき金額と考えるのが通例であり、これを、スーパーマーケット等に当てはめて考えると、顧客が一度に複数の商品を購入した場合、スーパーマーケット側では、それらの商品を一括して顧客に引き渡し、それらの商品の代金として顧客から一括して受領する領収書ごとの金額であると考えるべきであり、また、「区分して領収する場合」とは、領収する側において、課税資産の譲渡等の対価の額と当該課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税に相当する額とに区分していることが明らかであることはもちろんのこと、代金を支払う側に対して、それが区分して領収されていることが容易に判断できる請求書や領収書等が交付される必要があるものと解するのが相当である。
ニ そこで、前記イの事実を前記ロ及びハに照らして判断すると、次のとおりである。
 請求人は、消費税法施行規則第22条第1項に規定する「決済上受領すべき金額」とは、法令上何ら明示されていないことから、個々の商品ごとの課税資産の譲渡等の対価の額と、当該金額に消費税の税率を乗じて算出した金額から1円未満の端数の処理をした消費税に相当する額とのそれぞれの合計額を区分して領収する場合も含むと解すべきであり、また、本件売上げについて、社内的には顧客から領収した金額を個々の商品ごとに課税資産の譲渡等の対価の額と当該課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税に相当する額とに区分して経理しており、一方、顧客に対しても店頭商品やチラシ広告において、課税資産の譲渡等の対価の額と当該課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税に相当する額との区分について説明していることから、同項に規定する「区分して領収する場合」に当たる旨主張する。
 しかしながら、上記ハで述べたとおり、「決済上受領すべき金額」とは、顧客に複数の商品を一括して引き渡した場合、それらの商品の代金として顧客から一括して受領する領収書ごとの金額をいうものであることは明らかであり、請求人が主張するように個々の商品ごとの代金と、当該個々の商品に課されるべき消費税に相当する額とのそれぞれの合計額と解するのは相当ではない。
 また、「区分して領収する場合」とは、領収する側においてはもちろんのこと代金を支払う側に対しても課税資産の譲渡等の対価の額と当該課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税に相当する額とに区分していることを明示すべきところ、前記イの(ニ)のとおり、請求人は、代金決済時に発行するレシート上に課税資産の譲渡等の対価の額と当該課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税に相当する額とを区分して表示しておらず、また、前記イの(ロ)のとおりの表示をもって、店頭商品やチラシ広告において、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税に相当する額及びこれを含む対価の額の表示がされているものと解するとしても、当該表示をもって決済上受領すべき金額が区分表示されていたと認めることはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
 なお、請求人は、レシート上に課税資産の譲渡等の対価の額と当該課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税に相当する額とを区分して表示していなかったのは、消費税法が公布及び施行の日から適用の日まで3か月間しかなく、コンピューターのソフトウェアの改訂が遅れたためである旨主張するが、消費税法が公布及び施行されてから約3年を経過した後の平成4年3月課税期間の末日においても区分表示されていないことから、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
ホ 以上のとおり、請求人は、(1)消費税に相当する金額の1円未満の端数の処理が決済上受領すべき金額を単位として行っておらず、かつ、(2)決済上受領すべき金額が、課税資産の譲渡等の対価の額と当該課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税に相当する額とに区分して領収されていないので、本件各課税期間の本件売上げに係る課税標準額に対する消費税額の計算に当たり、消費税法施行規則第22条第1項の規定の適用は認められないから、本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 本件賦課決定処分については、平成3年3月課税期間及び平成4年3月課税期間の消費税の更正処分は上記(1)のホのとおり適法であり、これらの更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、これらの更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項及び同法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、同法第65条第1項及び第2項並びに同法第66条第1項第2号の規定に基づき行った本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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