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(平7.11.6裁決、裁決事例集No.50 1頁)

《裁決書(抄)》

第一 平成3年10月1日から平成4年9月30日までの課税期間の消費税の更正処分

1 審査請求人(以下「請求人」という。)は、不動産貸付業を主として営む同族会社であるが、平成3年10月1日から平成4年9月30日までの課税期間の消費税について、確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告したところ、原処分庁は、これに対し、平成6年10月31日付で次表の「更正」欄のとおりの更正処分を行った。

(単位 円)
項目\区分確定申告更正
課税標準額20,363,00020,363,000
納付すべき税額0△2,502,433

(注)「納付すべき税額」欄の△印は、その金額が還付金の額に相当する税額であることを示す。
2 ところで、上記1の更正処分が不利益処分に当たるか否かは、その更正処分により納付すべき税額が増加したか否かにより判断すべきであるが、上記1の更正処分は、平成3年10月1日から平成4年9月30日までの課税期間の納付すべき税額を増加させるものでないことは明らかである。したがって、当該更正処分については、請求人の権利又は利益を侵害するものとはいえないから、その取消しを求める利益はなく、更正処分に係る審査請求は、請求の利益を欠く不適法なものである。

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第二 平成4年10月1日から平成5年9月30日までの課税期間の消費税に係る過少申告加算税の賦課決定処分

1 事実

 請求人は、平成4年10月1日から平成5年9月30日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税について、確定申告書に課税標準額を53,638,000円及び控除不足還付税額を20,499,503円と記載して、法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成6年10月31日付で課税標準額を53,638,000円及び納付すべき税額を643,600円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)並びに過少申告加算税の額を3,146,000円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
 請求人は、本件賦課決定処分を不服として、平成7年1月4日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成7年3月28日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成7年4月3日に審査請求をした。

2 主張

(1)請求人の主張

 本件賦課決定処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第1項は、「更正に基づき第35条第2項(期限後申告等による納付)の規定により納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する」と規定している。
 また、通則法第35条《申告納税方式による国税等の納付》第2項は、「次の各号に掲げる金額に相当する国税の納税者は、その国税を当該各号に掲げる日までに国に納付しなければならない」と規定し、同項第2号は、「更正通知書に記載された第28条第2項第3号イからハまで(更正により納付すべき税額)に掲げる金額」と規定している。
 これらの条文の下線部を文字どおり読む限り、過少申告加算税を課すためには、納付しなければならない税額の存在することが必要とされていることは明白である。
 そうすると、通則法第28条《更正又は決定の手続》第2項第3号イに規定する「増加する部分の税額」及び同号ロに規定する「減少する部分の税額」には、「納付義務の存在するところの」という限定を付けて解釈するのが正しいこととなる。
 請求人は、本件課税期間の確定申告書に記載した還付金の額に相当する税額である控除不足還付税額の還付を受けていないので、本件更正処分により上記の「減少する部分の税額」となった当該控除不足還付税額については、納付義務が存在しないこととなり、通則法第65条第1項に規定する納付すべき税額ではないこととなるから、これを過少申告加算税の計算の基礎として本件賦課決定処分を行う根拠はない。
ロ 直接税にあっては、還付申告をした後、還付金の額に相当する税額を受領する前に更正又は修正申告によって、その還付金の額に相当する税額が減少した場合、課税庁は、特に悪質なものを除いてその差額に対して過少申告加算税を賦課していない。
 ところが、原処分庁は、特に悪質とはいえない請求人に対し本件賦課決定処分を行った。このことは、直接税に係る過少申告加算税の賦課決定処分と著しく均衡を失するものであり、直接税と間接税である消費税との違いは、税金の徴収形態の違いにすぎず、その違いにより本件賦課決定処分が行われるとは到底考えられない。
 そもそも、租税平等主義は租税法の基本原則であり、その一内容として執行上の租税平等主義がある。これは、租税法の執行に当たり本質的に同じ事実につき合理的理由もなく異なる取扱いをしたり、又は本質的に異なる事実につき合理的理由もなく同じ取扱いをすることを禁止するものである。本件賦課決定処分は、上記のとおり直接税に係る過少申告加算税では賦課されない場合であるのに、これと異なる取扱いにより賦課されたものであり、還付金の額に相当する税額を受領していないという本質を同じくするものについて、異なった取扱いをするものである。しかも、そこには何ら請求人を納得させるだけの合理的理由がないから、本件賦課決定処分は、租税平等主義に違反するものである。
ハ 過少申告加算税の本質が租税債権の確保のために納税義務者に課せられた税法上の義務不履行に対する行政上の制裁であるとすれば、還付金の額に相当する税額が還付されていない場合には、租税債権は実質的に侵害されていないから、過少申告加算税の賦課という制裁をもって租税債権の確保をする必要がないこと、また、たとえ更正通知書に記載された税額が納付すべき税額だとしたとしても、還付されていない還付金の額に相当する税額に過少申告加算税を賦課することは不当又は酷であるというのが一般の人の感覚であることから、本件賦課決定処分のうち還付されていない還付金の額に相当する税額に係る部分については、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」がある。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 異議審理庁の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、平成元年10月2日に、消費税法(平成3年法律第73号による改正前のもの)第37条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第1項に規定する控除の方法(以下「簡易課税」という。)の選択届出書を提出し、それ以後、簡易課税の適用を受けることをやめる旨の届出書を提出していないこと。
(ロ)請求人は、本件課税期間の確定申告に際して、簡易課税を適用しないで計算し、課税標準額を53,638,000円及び控除不足還付税額を20,499,503円としていること。
(ハ)本件課税期間に係る基準期間である平成2年10月1日から平成3年9月30日までの請求人の課税売上高は136,247,022円であること。
(ニ)原処分庁は、上記(イ)ないし(ハ)の事実から、請求人が、本件課税期間の確定申告において簡易課税を適用すベきであるところ、それを適用しないで確定申告していたので、本件更正処分を行ったこと。
ロ 過少申告加算税は、法定申告期限内に提出された申告書に記載された納付すべき税額が過少であったり、還付金に相当する税額が過大であったりした場合に、適法に計算した場合との差額を対象とし、あくまで申告書に記載された税額を基礎に計算されるものである。
 したがって、上記(1)のイの請求人の主張は、この点を理解せず、独自の見解を述べるものであり、理由とならない。
ハ 法人税、所得税及び消費税は、いずれも申告納税方式による国税であり、過少申告加算税について異なる規定がないことは明らかであるから、上記(1)のロの請求人の主張には理由がない。
ニ 請求人は、通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある旨主張する。
 しかしながら、正当な理由とは、例えば、税法の解釈に関して、申告当時に公表されていた見解がその後改変されたことに伴い、修正申告をし又は更正処分を受けた場合等、納税者の故意又は過失に基づかない特別の事情により、当該申告額が過少になった場合のように、真にやむを得ない理由をいうものと解される。
 本件賦課決定処分の基となった本件更正処分は、上記イの(ニ)のとおり、請求人が、簡易課税を適用して申告すべきところ、これを適用しないで申告していたことから行われたものであり、上記の特別の事情は認められない。
 したがって、請求人には、通則法第65条第4項に規定する正当な理由が認められないことから、本件賦課決定処分を行ったものである。
 なお、還付金の額に相当する税額の受領の有無で正当な理由の判断が左右されることはないから、上記(1)のハの請求人の主張には理由がない。
ホ 通則法第65条第1項は、更正があったときの過少申告加算税の計算について、同法第35条第2項の規定により納付すべき税額を基に行う旨規定し、同法第35条第2項第2号は、更正通知書に記載された同法第28条第2項第3号イからハまでの税額及び金額の合計が更正により納付すべき税額である旨規定している。
 したがって、通則法第28条第2項第3号ハに規定する還付加算金がない本件更正処分においては、同号イ及びロの税額の合計額が過少申告加算税の計算の基礎となる納付すべき税額となり、当該税額は次のとおりである。
(イ)通則法第28条第2項第3号イに規定する増加する部分の税額とは、本件課税期間の適法な計算に基づく納付すべき税額と請求人が本件課税期間の確定申告書に記載した納付すべき税額との差額であるから、本件更正処分に係る更正通知書の「調査額」欄の「納付税額」欄のとおり643,600円となる。
(ロ)通則法第28条第2項第3号ロに規定する減少する部分の税額とは、請求人が本件課税期間の確定申告書の「控除不足還付税額」欄に記載した還付金の額に相当する税額20,499,503円と本件更正処分による還付金の額に相当する税額との差額であるが、本件更正処分に係る更正通知書の「調査額」欄の「控除不足還付税額」欄のとおり本件更正処分による還付金の額に相当する税額はないから、当該減少する部分の税額は20,499,503円となる。
(ハ)上記(イ)及び(ロ)の税額の合計について、10,000円未満の端数を切り捨てた額21,140,000円が、過少申告加算税の基礎となる税額となる。
ヘ 以上の結果、本件更正処分に係る過少申告加算税の額を通則法第65条第1項及び第2項の規定により算定すると3,146,000円となり、この額は本件賦課決定処分の額と同額となるから、本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件賦課決定処分の適否であるので、以下審理する。

(1)当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。

イ 請求人は、平成元年10月2日に、昭和63年10月1日から平成元年9月30日までの課税期間を適用開始課税期間とする簡易課税の選択届出書を提出しているところ、簡易課税の適用をやめる旨の消費税法第37条第2項に規定する届出書を提出しておらず、かつ、本件課税期間に係る基準期間の請求人の課税売上高は400,000,000円以下であることから、請求人は、消費税法第37条の規定により、本件課税期間の消費税について、簡易課税を適用して申告しなければならないと認められること。
ロ 請求人は、本件課税期間の消費税について、消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》に規定する仕入れに係る消費税額を控除する方法(以下「本則課税」という。)により還付金の額に相当する税額を20,499,503円とする確定申告をしていたので、原処分庁は、当該確定申告に対し、簡易課税を適用して納付すべき税額を643,600円とする本件更正処分をしたこと。
ハ 本件賦課決定処分は、本件更正処分により生じた納付すべき税額643,600円と本件更正処分によりなくなった還付金の額に相当する税額20,499,503円を合計した税額21,143,103円が過少となっていたことから、行われたものであること。

(2)請求人は、通則法第28条第2項第3号イ及びロに規定する「減少する部分の税額」等については、「納付義務の存在するところの」という限定を付けて解釈すべきであり、同人は本件課税期間の確定申告書に記載した還付金の額に相当する税額である控除不足還付税額の還付を受けていないから、当該控除不足還付税額については、納付義務が存在しないこととなり、通則法第65条第1項に規定する納付すべき税額ではないこととなるから、これを過少申告加算税の計算の基礎として本件賦課決定処分を行う根拠はない旨主張する。
 ところで、通則法第65条第1項は、期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出又は更正があったときは、当該納税者に対し、その修正申告又は更正に基づき同法第35条第2項の規定により納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨規定しているところ、同項第2号及び同法第28条第2項第3号イないしハの規定の内容からみて、この「更正に基づき同法第35条第2項の規定により納付すべき税額」には、同法第28条第2項第3号イの更正により増加する部分の納付すべき税額のほか、同号ロの更正により減少する部分の還付金の額に相当する税額が含まれることは明らかというべきであり、還付金の額に相当する税額について還付を受けたか否かを問わないと解するのが相当である。
 なお、このように解することは、過少申告加算税が、申告納税方式による国税について、適正な申告をしなかった者に対し行政上の制裁を加えることにより、申告秩序の維持を図ることを目的として課されるものであると解されていることからみても、首肯されるところである。
 そうすると、更正により更正前の還付金の額に相当する税額がなくなり、納付すべき税額が生じた場合において、過少申告加算税の計算の基礎となる税額は、その更正により生じた納付すべき税額となくなった還付金の額に相当する税額を合計した税額となるところ、上記(1)のハのとおり、本件更正処分により生じた納付すべき税額となくなった還付金の額に相当する税額を合計した税額21,143,103円を過少申告加算税の計算の基礎として本件賦課決定処分を行うことは相当であると認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(3)請求人は、直接税にあっては、還付金の額に相当する税額を受領する前に更正があった場合、課税庁は、特に悪質なものを除いて過少申告加算税を賦課しておらず、本件賦課決定処分は、直接税に係る過少申告加算税では賦課されない場合であるにもかかわらず、これと異なる取扱いにより行われたものであるから、租税法の基本原則である租税平等主義に違反する旨主張する。
 しかしながら、当審判所の調査によれば、課税庁においては、法人税等の直接税についても消費税の場合と同様に、還付金の額に相当する税額を還付する前に更正処分を行ったときは、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」に当たる事由がある場合又は通則法第119条《国税の確定金額の端数計算等》第4項の規定に該当する場合を除き、過少申告加算税を賦課していることが認められるから、直接税に係る過少申告加算税と消費税に係る過少申告加算税とで異なる取扱いをしている事実は認められない。
 したがって、本件賦課決定処分は、請求人が主張するところの租税平等主義に違反して行われたものとは認められないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(4)請求人は、還付金の額に相当する税額が還付されていない場合には、上記2の(1)のハに記載した理由により、本件賦課決定処分のうち当該還付されていない還付金の額に相当する税額に係る部分については、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」がある旨主張する。
 ところで、通則法第65条第4項にいう「正当な理由」に当たる事由としては、申告した税額に不足が生じたことについて、納税者が通常の状態においてその事実を知ることができなかった場合や納税者の責めに帰せられない外的事情による場合などが考えられるところ、具体的には、(a)税法の解釈に関して、申告当時に公表されていた公的見解がその後改変されたため、修正申告をし又は更正処分を受けるに至った場合、(b)災害又は盗難等に関し、申告当時に損失とすることを相当としたものが、その後予期しなかった保険金、損害賠償金等の支払を受け又は盗難品の返還を受けた等のため、修正申告をし又は更正処分を受けるに至った場合、(c)その他真にやむを得ない事由が認められる場合が該当するものと解されており、税法の不知等はこれに該当しない。
 本件について、上記の正当な理由に当たると認められる事由があるか否かをみると、上記(1)のとおり、請求人が本件課税期間の消費税について簡易課税を適用して申告しなければならないことは、消費税法第37条の規定により明らかであるところ、請求人は、同条の規定によらず本則課税により申告していたものであり、このことが、正当な理由に該当しないことはいうまでもないことである。
 また、請求人の主張する理由は、上記(2)で述べた過少申告加算税の目的からみて、正当な理由に当たるとする根拠となり得るものではないというべきである。
 そうすると、請求人の本件課税期間の確定申告に係る税額が過少となったことについて正当な理由があるとは認められないので、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(5)以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、かつ、本件更正処分に係る過少申告加算税の額を通則法第65条第1項及び第2項の規定に基づいて算定すると本件賦課決定処分のそれと同額となるから、本件賦課決定処分は適法と認められる。

(6)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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