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(平7.12.14裁決、裁決事例集No.50 25頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、建築用金物の製造販売業を営む同族会社であるが、平成5年1月1日から平成5年12月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について青色の確定申告書に次の表1のとおり、また、平成5年1月1日から平成5年12月31日までの課税事業年度(以下「本件課税事業年度」という。)の法人特別税について青色の確定申告書に次の表2のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。

表1
(単位 円)
項目\事業年度本件事業年度
所得金額1,480,957,335
納付すべき税額577,575,100

表2
(単位 円)
項目\課税事業年度本件課税事業年度
課税標準法人税額551,358,000
納付すべき税額13,783,900

 原処分庁は、これに対して、平成7年2月28日付で本件事業年度の法人税について次の表3のとおり更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分をするとともに、同日付で本件課税事業年度の法人特別税について次の表4のとおり更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分をした。

表3
(単位 円)
区分\項目\事業年度本件事業年度
更正処分所得金額1,617,464,848
 納付すべき税額633,513,600
賦課決定処分過少申告加算税の額766,000
 重加算税の額16,894,500

表4
(単位 円)
区分\項目\課税事業年度本件課税事業年度
更正処分課税標準法人税額602,549,000
 納付すべき税額15,063,700
賦課決定処分過少申告加算税の額18,000
 重加算税の額381,500

 請求人は、これらの処分のうち法人税及び法人特別税に係る重加算税の各賦課決定処分を不服として、平成7年4月27日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により不当であるから、その全部の取消しを求める。
 原処分庁は、請求人が意図的に棚卸資産116,996,678円を減額して所得金額を過少に申告したとの理由で、重加算税の各賦課決定処分をしているが、これは、次の理由により不当である。
イ 請求人の代表取締役、担当取締役、その他の役員全員は、棚卸資産116,996,678円を減額して所得金額を過少に申告した事実を知らされていなかったし、また、棚卸資産を減額するよう指示もしていない。
ロ 意図的に棚卸資産を減額したのは請求人の経理課長であり、その事実を知っていたのは請求人の社内において経理課長以外にはいない。
ハ 減額された棚卸資産は本件事業年度の翌期において簿外とはなっておらず、簿外資金等になったわけではない。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 原処分庁が調査したところ、次の事実が認められる。
(イ)本件事業年度の法人税の確定申告書に添付された本件事業年度末現在の貸借対照表に、製品の金額は269,960,748円、商品の金額は372,413,170円と記載され、また、本件事業年度の損益計算書の期末棚卸高には、それらの合計額である642,373,918円が記載されていること。
(ロ)請求人の各営業所、出張所、工場等の本件事業年度末における商品、製品、仕掛品及び原材料の棚卸高が記載された実地棚卸集計一覧表(以下「本件棚卸表」という。)は、請求人の経理課長F(以下「F」という。)が作成していたこと。
(ハ)本件棚卸表に、製品の棚卸数量の合計は2,779,089.438キログラムと記載されており、これに1キログラム当たりの単価97.14円を乗じた結果、製品の棚卸高は269,960,748円となること。
 また、本件棚卸表に、購買課における製品の棚卸数量は1,204,413.833キログラムと記載されていること。
(ニ)原処分に係る調査(以下「本件調査」という。)において、本件棚卸表の製品の棚卸数量を集計して確認した結果、3,983,502.438キログラムとなり、Fの集計した製品の棚卸数量の合計2,779,089.438キログラムとの間に1,204,413キログラムの差異が生じたこと。
(ホ)Fは、購買課の製品116,996,678円(1,204,413キログラム×97.14円)を意図的に減額し利益調整を行ったこと及び実際の製品の棚卸高は386,957,426円となる旨記載した申述書を原処分庁の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)に提出していること。
(ヘ)請求人の代表取締役G(以下「G」という。)は、上記(ホ)の申述書と同様の内容の文書を調査担当職員に提出していること。
ロ ところで、重加算税制度の設けられた趣旨は、隠ぺい又は仮装したところに基づく過少申告もしくは無申告に対して特別の経済的負担を課することによって、納税義務違反の発生を防止し、申告納税制度の信用を維持しようとするところにあるので、隠ぺい又は仮装の行為を役員等の行為に限定すべきではなく、従業員等の行為も重加算税の対象となり、役員等がその事実を知っているかどうかにかかわらず、重加算税が賦課されると解されている。
ハ これを本件についてみると、上記イの事実から棚卸高を意図的に減額し、その減額したところに基づき納税申告書を提出していることは明らかであり、このことは、国税通則法第68条《重加算税》第1項に規定する国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたことに該当する。
ニ 請求人は、代表取締役、担当取締役、その他の役員全員はFが棚卸資産116,996,678円を減額して所得金額を過少に申告した事実を知らされていなかったし、また、棚卸資産を減額するよう指示もしておらず、更に意図的に棚卸資産を減額したのは請求人の経理課長であり、その事実を知っているのは請求人の社内において経理課長以外にはいないのであるから、重加算税の各賦課決定処分は不当であると主張する。
 しかしながら、たとえそうだとしても上記ロで述べたことから、請求人の主張には理由がないことは明らかである。
ホ また、請求人は、減額された棚卸資産に相当する額は本件事業年度の翌期において簿外になっておらず、簿外資金等になったわけではないから、重加算税の各賦課決定処分は不当であると主張する。
 しかしながら、たとえそうだとしても重加算税の各賦課決定処分が違法となるわけではない。
ヘ 以上のとおり、重加算税の各賦課決定処分は適法であり、請求人の主張には理由がない。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、法人税及び法人特別税の重加算税の各賦課決定処分の適否であるので、以下審理する。

(1)当審判所において、原処分関係資料等を調査したところ、次の事実が認められる。

イ 本件事業年度の法人税の確定申告書に添付された本件事業年度末現在の貸借対照表に、商品の金額は372,413,170円、製品の金額は269,960,748円と記載され、また、本件事業年度の損益計算書の期末棚卸高には、それらの合計額である642,373,918円が記載されていること。
ロ 本件棚卸表は、Fが作成したと認められること。
ハ 本件棚卸表に、製品の棚卸数量の合計は2,779,089.438キログラムと記載されており、これに1キログラム当たりの単価97.14円を乗じて計算した結果、製品の棚卸高は269,960,748円となること。
 そして、本件棚卸表に、購買課における製品の棚卸数量は、1,204,413.833キログラムと記載されていること。
ニ 本件調査において、本件棚卸表に記載している請求人の各営業所、出張所、工場等における製品の棚卸の棚卸数量を集計して確認した結果、3,983,502.438キログラムとなり、本件棚卸表に記載された製品の棚卸数量の合計2,779,089.438キログラムとの間に1,204,413キログラムの差異が生じたこと。
ホ Fが平成6年9月9日付でM国税局○○部△△部門統括国税調査官宛に提出した申述書に、「Fは購買課の製品116,996,678円(1,204,413キログラム×97.14円)を意図的に減額し利益調整を行ったこと及び実際の製品の棚卸高は386,957,426円であるが、本件事業年度の法人税の確定申告において、製品の棚卸高を269,960,748円と故意に圧縮した」旨の記載があること。
ヘ Gが平成6年9月30日付で原処分庁宛に提出した文書に、「この度の税務調査により、本件事業年度の期末において、製品在庫の一部の数量(1,204,413キログラム、金額にすると116,996,678円)を担当課長が除外し所得金額を過少に申告していた」旨の記載があること。

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(2)本件において、請求人の一従業員であるFが意図的に棚卸資産116,996,678円を減額して請求人の所得金額を過少に申告したという事実については、上記(1)の事実から認められるところ、この事実について、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても相当と認められる。

(3)ところで、重加算税制度の設けられた趣旨は、事実を隠ぺい又は仮装したところに基づく過少申告もしくは無申告に対して特別の経済的負担を課することによって、納税義務違反の発生を防止し、申告納税制度の信用を維持しようとするところにあるので、隠ぺい又は仮装の行為を役員等の行為に限定すべきではなく、従業員等の行為も重加算税の対象となり、役員等がその事実を知っているかどうかにかかわらず、重加算税が賦課されると解するのが相当である。

 そして、ここでいう、「事実を隠ぺいする」とは、故意に事実を隠匿しあるいは脱漏することをいい、また、「事実を仮装する」とは、売上げ、仕入れ又は経費等に関し、あたかもそれが真実であるかのように装う等、故意に事実をわい曲することをいうものと解するのが相当である。
 また、「隠ぺい又は仮装の行為」をした者に関しては、納税者本人の申告行為に重要な関係を有する部門(経理部門等)に所属し、相当な権限を有する地位(課長等)に就いている者の隠ぺい又は仮装の行為は、特段の事情がない限り、納税者本人の行為と同視すべきであると解するのが相当である。

(4)請求人は、(a)請求人の代表取締役、担当取締役、その他の役員全員は請求人の一従業員であるFが棚卸資産116,996,678円を減額して所得金額を過少に申告したという事実を知らされていなかったし、また、棚卸資産を減額するよう指示もしておらず、(b)意図的に棚卸資産を減額したのは請求人の経理課長であり、その事実を知っているのは請求人の社内において経理課長以外にはいなかったこと及び(c)その減額した棚卸資産は本件事業年度の翌期において簿外にはなっておらず、簿外資金等になったわけでもないのであるから、重加算税の各賦課決定処分は不当である旨主張する。

 ところで、本件は、上記(2)に述べたとおり、請求人の一従業員であるFが意図的に棚卸資産116,996,678円を減額して請求人の所得金額を過少に申告したという事実が認められるところ、上記(3)に述べたことから、請求人の申告行為に重要な関係を有する経理部門の経理課長が意図的に棚卸資産の一部を減額して請求人の所得金額を過少に申告したという行為が存在する以上、たとえ請求人の役員全員がその行為に関与しておらず、かつ、その行為を知らなかったとしても、本件における重加算税の各賦課決定処分を不当であるとはいえないこととなる。
 また、重加算税の賦課要件としての隠ぺい又は仮装の行為の成立時期は、期限内申告書の提出がある場合はその提出の時に、期限内申告書の提出がない場合は法定申告期限が経過した時に、申告書の提出を要しない場合は法定納期限が経過した時に成立するのであるから、当該成立の時期に重加算税の納税義務も成立する。もっとも、期限内に提出した申告書は、その申告期限までの間はいつでも差し換えができることから、重加算税の納税義務は、法定申告期限又は法定納期限の経過の時と解するのが相当である。
 これを本件についてみると、原処分庁が請求人に対し、重加算税の各賦課決定処分をした時点では、既に本件事業年度の法定申告期限は経過し、重加算税の納税義務は成立しているのであるから、減額された棚卸資産が本件事業年度の翌期において簿外になっていないとしても、本件における重加算税の各賦課決定処分を不当であるとはいえない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(5)以上の結果、請求人の主張には理由がなく、本件における請求人の行為は、国税通則法第68条第1項に規定するところの納税者が課税標準等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき過少に納税申告をしていたという重加算税の賦課決定の要件を満たすものであるから、これに基づいてした原処分庁の重加算税の各賦課決定処分は適法である。

(6)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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