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(平7.12.18裁決、裁決事例集No.50 140頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成5年分の所得税について、青色の確定申告書(分離課税用)に総所得金額を3,724,546円(内訳、不動産所得の金額1,339,546円、給与所得の金額2,385,000円、以下同じ。)、分離長期譲渡所得の金額を31,954,293円及び納付すべき税額を9,720,100円と記載して法定申告期限までに申告した。
 なお、この申告書の「特例適用条文」欄に「措31条の3、措35条」と表示した。
 原処分庁は、これに対し、平成6年10月20日付で総所得金額を3,724,546円、分離長期譲渡所得の金額を46,383,378円及び納付すべき税額を14,048,800円とする更正処分及び過少申告加算税の額を432,000円とする賦課決定処分をした。
 請求人は、これに対し、平成6年12月20日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成7年3月17日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成7年4月18日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 請求人は、平成5年2月24日にP市R町2514番1ほか3筆の土地及び同所在地にある居住用家屋等(土地を含めて、以下「譲渡物件」という。)を譲渡し、譲渡物件のうち居住用部分に係る土地、建物については、租税特別措置法(平成7年法律第55号による改正前のもの。以下同じ。)(以下「措置法」という。)第35条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》に規定する居住用財産に該当するとして確定申告をしたところ、原処分庁は、譲渡物件のうちゲートボール場部分の土地397.70平方メートル(以下「本件土地」という。)は措置法第35条に規定する居住用財産とは認められないとして、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
 しかしながら、本件土地を居住用財産でないとした原処分は事実を誤認したものであるから、原処分の全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
(イ)請求人が本件土地にゲートボール場を設置したのは、請求人及び請求人の家族の運動不足の解消の目的で行ったものであり、設置場所は居住用家屋の敷地に隣接していることから、本件土地は、居住用家屋と一体のものである。
(ロ)本件土地をゲートボール場として利用していたのは、請求人、請求人の家族及びゲームの一員としての町内の老人たちであり、また、ゲートボール場内の休憩所、暖房設備等を請求人の負担で設置していることから、本件土地は、請求人及び請求人の家族の使用するゲートボール場である。
(ハ)請求人とQ町老人クラブ会長との間での昭和56年9月30日付土地の無償貸借契約(以下「無償貸借契約1」という。)期間満了後、請求人とQ町長寿会長との間で昭和61年9月30日付無償貸借契約(以下「無償貸借契約2」といい、「無償貸借契約1」と併せて「本件無償貸借契約」という。)を結んだものの、この無償貸借契約2は、期間の定めがなく、請求人の必要に応じていつでも無償で返還する旨の定めとなっていることから、実質的意味を持たない単なる形式に過ぎないものである。
 また、本件土地は、譲渡後もゲートボール場として利用されているが、このことは、請求人の判断で譲受人に依頼したものであり、このことが譲渡前の土地の利用状況の判定に影響を及ぼすものではない。
(ニ)(a)本件土地をQ町長寿会に、無償で貸し付けた無償貸借契約2があること、(b)当該契約により固定資産税の免除を受けていることを理由に居住用財産であることを否定されることは、個人の有する土地の提供を阻害することとなるため、住民の融和、協調、地域発展の立場からも適正に判断されなければならない。
(ホ)以上(イ)ないし(ニ)のことから、本件土地は措置法第35条に規定する居住用財産に該当する。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり事実を誤認してなされた更正処分は違法であるから、過少申告加算税の賦課決定処分も取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
(イ)請求人は、Q町老人クラブ会長との間で、本件土地をゲートボール場として5年間無償で使用させる旨の無償貸借契約1を結んでいる。その後、P市は、昭和56年10月に、Q町地区の老人会の依頼により本件土地をゲートボール場として利用できるよう工事を行っている。
(ロ)請求人は、Q町長寿会長との間で、本件土地をゲートボール場として引き続き無償で使用させる期間を延長する旨の無償貸借契約2を結んでいる。また、譲渡物件の譲渡後においても、本件土地は、Q町長寿会のゲートボール場として利用されている。
(ハ)したがって、本件土地は、請求人により、昭和56年9月30日から昭和61年9月29日までは、Q町老人クラブに無償で貸し付けられ、昭和61年9月30日から平成5年2月24日に譲渡するまでは、Q町長寿会に無償で貸し付けられており、この間は、本件土地が居住用家屋の敷地に隣接しているからとはいえ、居住用家屋の敷地とは利用区分が異なるものであるから、居住用家屋の敷地とゲートボール場とが一体でないことは明らかであるため、請求人が専ら居住の用に供している土地には該当しない。
(ニ)さらに、請求人は平成3年1月17日に本件土地をQ町地区ゲートボール場用地としてQ町長寿会に無償貸与しているという理由で、固定資産税免除申請書(以下「免除申請書」という。)をP市長あて提出し、本件土地が公益のために直接専用される固定資産としてP市長からP市税条例第72条《固定資産税の減免》第1項第2号(以下「本件条例」という。)により固定資産税が免除されていることからも、本件土地は、居住の用に供している土地には該当しないことは明らかである。
(ホ)以上(イ)ないし(ニ)の理由から、本件土地は、居住の用に供している土地には該当せず、措置法第35条の特例の適用はできない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり更正処分は適法であり、また、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないことから、同条第1項の規定に基づき行った過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1)更正処分について

 本件土地が、措置法第35条に規定する居住用財産に該当するか否かに争いがあるので、以下審理する。
イ 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ)譲渡物件のうち土地については、昭和32年に請求人の父親であるFから相続していること。また、居住用家屋については、昭和45年10月に建築し(登記の日付は、昭和51年2月20日)、G株式会社(所在地P市、以下「G社」という。)への譲渡時まで請求人の住居としていたこと。
(ロ)請求人は、平成5年2月24日にG社へ請求人所有の譲渡物件を66,371,200円で譲渡したこと。
(ハ)譲渡物件には、居住用家屋、事業用の倉庫、事業用のガレージ及びこれらの敷地、事業用と居住用との共用部分となっている駐車場等並びにゲートボール場があったこと。
ロ 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所が調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、確定申告に当たって、本件土地を居住用財産であるとして申告したこと。
(ロ)Q町長寿会は、Q町老人クラブ又はQ老人クラブとも称し、Q町自治会は、Q自治会とも称していること。
(ハ)ゲートボール場の設置状況等については、次のとおりである。
A 請求人は、本件土地をゲートボール場として使用するため、Q町自治会がP市へ整地してもらうよう陳情することを承諾していること。
B 本件土地は、P市が整地した後、請求人がフェンス、休憩所の屋根等を設置し、ゲートボール場として使用していたものであること。
C 請求人が結んだ本件無償貸借契約の内容は、次のとおりである。
(A)無償貸借契約1は、昭和56年9月30日付で、貸主を請求人とし、借主をQ町老人クラブ会長であるH及びQ町自治会長Jとして結ばれていること。
 なお、契約内容は、(a)本件土地をゲートボール場として向こう5年間無償で使用させる、(b)契約が成立したことの証明として契約書をP市に提出することとなっていること。
(B)無償貸借契約2は、昭和61年9月30日付で、貸主を請求人、借主をQ町長寿会長Kとし、Q町自治会長Lを証人として結ばれていること。
 なお、契約内容は、(a)無償貸借契約1の使用契約期限満了に伴い本件土地のゲートボール場としての使用を延長する、(b)請求人が本件土地を必要とする際は本件土地を異議なく返還することとなっていること。
D Q町自治会は、上記Aのとおり請求人の承諾を受けて昭和56年10月2日にP市長に対し、ゲートボール場設置工事の陳情を行っていること。
E P市長は、上記Dの陳情を受けたことから、本件土地の整地を行う旨Q町自治会長あて、昭和56年10月26日付P市公第101〜2号「ゲートボール場の設置について」により通知(以下「設置通知」という。)を行い、整地を行っていること。
 なお、設置通知の内容は、(a)土木課本来の業務に支障のない範囲で行うこと、(b)完成後の維持管理は、地元老人クラブが行うこととなっていること。
F Q町長寿会は、無償貸借契約2により、譲渡時まで本件土地をゲートボール場として使用していたこと。
G ゲートボール場への出入口は、居住用家屋への通常の出入口と異なっていること。
(ニ)固定資産税の免除についての内容等は、次のとおりである。
A 請求人は、平成3年1月17日付で、次のとおり記載された免除申請書をP市長あて提出していること。
 下記の土地はQ町地区ゲートボール場用地としてQ町老人クラブ、Q町自治会に無償貸与しましたので、固定資産税の免除をお願いいたしたく関係書類を添えて申請いたします。

1. 土地の表示
  P市R町2514番1
  山林  477平方メートル
1. 添付書類
  契約書写 1通
  見取図  1通
B 本件条例には、公益のために直接専用する固定資産(有料で使用するものを除く。)に該当し、市長において必要があると認めるものについて、その所有者に対して課する固定資産税を免除する旨規定してあること。
 なお、所有者の管理の下、つまり、自用地では固定資産税の免除がされないこと。
C P市長は、請求人からの免除申請書に基づき、本件土地に係る固定資産税を平成2年度第4期分(平成3年2月末納期分)から平成4年度第4期分(平成5年2月末納期分)まで免除していること。
 なお、免除税額は、平成2年度第4期分で13,600円、同3年度分で154,200円及び同4年度分で154,200円であること。
ハ 当審判所に対する請求人の本件土地に関する答述によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、本件土地を5年間貸し付けることができれば、P市が土地を整地するということから、Q町自治会と無償貸借契約1を結んだこと。
(ロ)ゲートボールをするための道具用倉庫は、Q町長寿会の会員が設置したものであること。
(ハ)請求人は、G社に対し本件土地をゲートボール場として、これまでどおりQ町長寿会に使用させてほしい旨の依頼をしたこと。
ニ 請求人は、ゲートボール場は私財を投じ請求人及び請求人の家族が使用するために造ったものであり、Q町長寿会と結んだ無償貸借契約2は期間の定めがなく、請求人の必要に応じていつでも無償で返還する旨定めてあるから、実質的意味を持たない単なる形式にすぎないものである旨主張するので、上記イないしハの事実を基に以下検討する。
(イ)請求人が本件土地をゲートボール場として使用することとなった発端は、請求人の主張にあるように、請求人及び請求人の家族の運動不足の解消、また、地区の融和、協調、地域の発展に資するためであったことがうかがわれるが、本件土地をゲートボール場として使用できるようにするために、上記ハの(イ)のとおり請求人がQ町自治会と無償貸借契約1を結び、これに基づいて上記ロの(ハ)のDのとおりQ町自治会がP市長に対して行ったゲートボール場設置工事の陳情に対し、上記ロの(ハ)のEのとおりP市長が設置通知を行い、本件土地の整地を行ったことにある。
(ロ)さらに、上記ロの(ニ)のBのとおり公益のために直接専用される無償で貸し付けられた固定資産にあっては、本件条例に基づき固定資産税の課税が免除されていることから、請求人は、無償貸与した本件土地に係る免除申請書をP市長あて提出して、固定資産税の免除を願い出ている。
 これに対し、P市長は、請求人が提出した免除申請書に無償で貸し付けている文言が明確に記載されていることから、本件条例の趣旨に沿ったものとして、上記ロの(ニ)のCのとおり固定資産税の免除を行っている。
(ハ)また、上記ロの(ハ)のC、E及びFのとおり本件無償貸借契約及び設置通知に基づき、Q町長寿会は、ゲートボール場を管理し、譲渡時まで本件土地をゲートボール場として使用している。
 なお、上記ハの(ロ)の請求人の答述のとおり、ゲートボールの道具を入れる倉庫は、Q町長寿会の会員により設置されている。
(ニ)上記(イ)ないし(ハ)を基に譲渡物件の譲渡時に結ばれていた無償貸借契約2を検討してみると、無償貸借契約2は、請求人がQ町長寿会に無償で本件土地を使用させ、期間の定めがなくいつでも本件土地を返還させることができる契約ではあるが、当該契約期間においては契約の目的どおりの使用がQ町長寿会の管理の下になされていたものであり、民法に規定する使用貸借が成立していたことは明らかである。
 さらに、上記ロの(ニ)のとおりP市長から本件土地に係る固定資産税を免除されている事実をもってすれば、無償貸借契約2が、形式的なものにすぎないとの請求人の主張は認められない。
ホ 次に、本件土地が居住の用に供している家屋の敷地に該当するか否かについて検討する。
(イ)措置法第35条の規定の対象となる居住用財産の範囲について、同法第35条第1項には、個人が、その居住の用に供している家屋及びその家屋とともに譲渡するその敷地の用に供されている土地である旨規定しており、譲渡した土地等が居住の用に供している家屋の敷地に該当するかどうかは、社会通念に従い、当該家屋と一体として利用されている土地等であったかどうかにより判定することとなり、敷地の判断に当たっては、具体的には、敷地と居住用家屋の位置及び面積、その現況と従前からの利用状況等種々の要素を総合して、当該居住用家屋と一体として利用されている土地等をいうものと解される。
(ロ)これを本件についてみると、本件土地は、(a)上記ロの(ハ)のGのとおりゲートボール場への出入口は居住用家屋への通常の出入口とは異なっており、ゲートボール場として、それ自体単独で使用されていることから、居住用家屋とは独立していること、(b)上記ニの(ニ)で認定したとおり無償貸借契約2が実質的意味をなさないという請求人の主張には理由がなく、無償貸借契約2に基づきQ町長寿会が自ら管理し、ゲートボールの用地として使用するための貸付地と認められること、(c)上記ニの(ロ)で認定したとおり公益に専用される貸付地に該当するということで固定資産税が免除されていることからすると、居住の用に供している家屋の敷地に該当しないというべきである。したがって、本件土地が、居住用財産であるとの請求人の主張には、理由がない。
ヘ そうすると、原処分庁が譲渡物件のうち本件土地を居住用財産には当たらないとした更正処分は、適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 上記(1)のとおり更正処分は適法であり、また、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてした過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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