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(平8.4.5裁決、裁決事例集No.51 31頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、会社役員であって不動産貸付業を営んでいる者であるが、平成4年分及び平成5年分(以下、これらを併せて「各年分」という。)の所得税について、確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成6年12月8日付で次表の「更正処分」欄のとおりの更正処分及び「賦課決定処分」欄のとおりの賦課決定処分をした。

(単位 円)
区分/項目<年分>平成4年分平成5年分
確定申告
 総所得金額54,075,32750,990,431
 内訳
  不動産所得の金額425,327△3,744,569
  配当所得の金額8,600,0007,500,000
  給与所得の金額45,050,00047,235,000
 納付すべき税額2,453,900259,600
更正処分
 総所得金額55,940,24352,706,126
 内訳
  不動産所得の金額2,290,243△2,028,874
  配当所得の金額8,600,0007,500,000
  給与所得の金額45,050,00047,235,000
  納付すべき税額3,386,4001,117,600
賦課決定処分
 過少申告加算税の額93,00085,000

(注)△印は、損失の金額を示す。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成7年2月8日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成7年4月21日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成7年5月22日に審査請求をした。

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2 主張

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(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
(イ)請求人は、相続税の延納に係る利子税の額のうち、不動産所得を生ずべき財産に対応する部分の額(以下「本件利子税」という。)を不動産所得の金額の計算上必要経費に算入して各年分の所得の金額を算定し確定申告をした。
 原処分庁は、これに対し、必要経費に算入すべき経費の範囲について、所得税法第37条《必要経費》第1項の規定の中の「別段の定め」の一つとして、同法第45条《家事関連費等の必要経費不算入等》第1項第3号において、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額(以下、これらを併せて「不動産所得等の金額」という。)の計算上必要経費に算入しないものとして附滞税が掲げられており、同号の括弧書において例外として必要経費に算入する利子税が規定されているが、上記利子税は、同法第131条《確定申告税額の延納》第3項又は第136条《延払条件付譲渡に係る所得税額の延納に係る利子税》に掲げるものに限定されるから、相続税法第38条《延納の要件》及び第52条《利子税》に規定する利子税は該当しないので、本件利子税は含まれず、本件利子税を不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することはできないとして更正処分をした。
(ロ)しかしながら、各年分の更正処分は、次の理由により違法である。
A 所得税法第45条第1項第3号の規定は、括弧書の中の確定申告税額の延納に係る利子税又は延払条件付譲渡に係る所得税額の延納に係る利子税を除き附帯税を必要経費として認めていないが、この目的及び趣旨は、附滞税でも罰則的なものとか家事関連的なものについては必要経費として認めないということであるから、事業に対応するものについては必要経費として認めるべきであり、原処分庁は文理解釈しかしておらず、経済的実質に従い論理解釈すべきである。
B 相続財産を譲渡した場合、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第39条《相続財産に係る譲渡所得の課税の特例》第1項において、譲渡した資産の取得費にその譲渡した資産に対応する相続税が加算される旨規定され、相続税は譲渡所得に係る取得費とみなされている。
 また、不動産所得を生ずべき事業用資産を銀行等からの借入れをもって取得したときの支払利息と相続税の延納に係る利子税は経済の実態が同様である。
 税といえども所得金額の算定に当たっては、費用収益対応の原則に従って必要経費に算入されるべきである。
 以上のとおり、業務の用に供する資産についての相続税の延納に係る利子税は、所得金額の計算上必要経費に算入すべきである。
したがって、本件利子税は、請求人の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することを認めるべきである。
ロ 賦課決定処分について
 上記イのとおり、各年分の更正処分は違法であるから、その全部の取消しに伴い、各年分の過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 更正処分について
(イ)必要経費に算入すべき費用の範囲については、所得税法第37条第1項において「その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする。」と規定されている。
 そして、別段の定めのうち一つとして、所得税法第45条第1項において「居住者が支出し又は納付する次に掲げるものの額は、その者の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上、必要経費に算入しない。」と規定され、同項第3号に附滞税が掲げられているが、同号括弧書において、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業を行う居住者が納付する同法第131条第3項又は第136条の規定による利子税で、その事業についてのこれらの所得に係る所得税の額に対応するものとして政令で定めるものは、例外として、上記不動産所得等の金額の計算上必要経費に算入しないとされる附帯税から除く旨規定されている。
 したがって、不動産所得等の金額の計算上例外的に必要経費に算入するものとして所得税法第45条第1項第3号の括弧書に規定される利子税は、同法第131条第3項又は第136条に掲げるものに限定され、相続税法第38条及び第52条に規定する利子税は該当しないことから、本件利子税は含まれない。
(ロ)請求人は、本件利子税は、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべきである旨主張するが、そもそも相続税は、その財産が不動産所得を生ずベき業務の用に供されているか否かにかかわらず、相続という身分上の法律効果を受けて生ずるものであり、財産の承継が行われることによって生じた担税力に着目して課されるものであるので、相続税及び相続税の延納に係る利子税は、共に、所得税法第37条に規定する必要経費のらち外のものである。
 したがって、請求人が請求人の実父であるF(以下「被相続人」という。)から財産を承継したことにより生じた本件利子税は、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。
ロ 賦課決定処分について
 上記イのとおり、各年分の更正処分は適法であり、かつ、更正処分により増加した納付すべき税額の基礎となった事実には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められず、各年分の過少申告加算税の額は同条第1項の規定に基づき正しく計算されていることから、各年分の過少申告加算税の賦課決定処分も適法である。

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3 判断

(1)更正処分について
 本件利子税が、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することができるか否かについて争いがあるので、以下調査・審理する。
イ 次のことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。
(イ)請求人が相続で取得した財産には、P市R町(以下「R町」という。)904番地の1所在の貸家5棟、その敷地(面積993平方メートル)及び請求人が代表取締役である株式会社Gに対する貸地(その所在地、用途及び面積は次表のとおり。)があり、これらはいずれも不動産所得を生ずる事業用資産であること。

(単位 平方メートル)
所在地用途面積
R町861番の1資材置場279.00
R町862番の1資材置場181.07
R町965番地の1事務所兼倉庫450.23
R町965番地の5事務所兼倉庫206.84
R町965番地の6事務所兼倉庫89.38
R町965番地の7事務所兼倉庫89.38
R町965番地の8事務所兼倉庫95.17

(ロ)請求人は、上記(イ)の貸家5棟を平成5年中に取り壊し、平成4年12月31日現在のその未償却残高1,835,870円を平成5年分の不動産所得の金額の計算上固定資産廃棄損として必要経費に算入したこと。
ロ 当審判所が、請求人提示資料及び原処分関係資料を調査したところ、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、被相続人が平成3年1月12日に死亡したことに伴い、被相続人が所有し不動産貸付業の用に供していた土地及び建物を相続し、その相続した土地及び建物を引き続き請求人の不動産貸付業の用に供したこと。
(ロ)請求人が納付した相続税の延納に係る利子税の額は、平成4年7月10日に納付した額が2,642,000円、平成5年7月12日に納付した額が2,430,600円であり、請求人は、平成4年7月10日及び平成5年7月12日に納付した相続税の延納に係る利子税の額に相続で取得した財産の総額に占める上記イの(イ)の事業用資産の額の割合を乗じて計算した額である、平成4年分1,864,916円、平成5年分1,715,695円を、それぞれ不動産所得の金額の計算上必要経費に算入して不動産所得の金額を算定したこと。
ハ ところで、所得税法は、同法第37条第1項において、不動産所得等の金額の計算上必要経費に算入すべき金額について、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする旨規定し、そして、その「別段の定め」の一つとして、同法第45条第1項は、居住者が支出し又は納付する次に掲げるものの額は、不動産所得等の金額の計算上必要経費に算入しないと規定し、同項第3号で附帯税を掲げているが、同号の括弧書において、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業を行う居住者が納付する同法第131条第3項又は第136条の規定による利子税で、その事業についてのこれらの所得に係る所得税の額に対応するものとして政令で定めるものを上記必要経費に算入しない附帯税から除外している。
 そして、国税通則法第2条《定義》第4号に規定する附帯税のうち利子税とは、同法第64条《利子税》第1項において、「延納又は納税申告書の提出期限の延長に係る国税の納税者は、国税に関する法律の定めるところにより、当該国税にあわせて利子税を納付しなければならない。」と規定されているもので、所得税法第131条第3項、第136条、法人税法第75条《確定申告書の提出期限の延長》第7項、第75条の2《確定申告書の提出期限の延長の特例》第6項、相続税法第43条第8項、第52条《利子税》、措置法第70条の4《農地等を贈与した場合の贈与税の納税猶予》及び第70条の6《農地等についての相続税の納税猶予等》等の規定により、これらの法律に規定する延納の期間中は、法定納期限経過後の期間であっても各個別の税法によって利子税が課されることとなっている。
 そうすると、所得税法は、利子税を含め附帯税のすべてを原則として不動産所得等の金額の計算上必要経費に算入しないとし、数ある利子税のうち特に同法第131条第3項又は第136条に規定する利子税を例外として掲げているにすぎないから、同法第45条第1項第3号括弧書の必要経費に算入される利子税は限定列挙されたものと解すべきである。
 したがって、本件利子税は、所得税法第45条第1項第3号括弧書に規定する利子税には該当しないから、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入できない。
ニ 請求人は、所得税法第45条第1項第3号の括弧書で確定申告税額の延納に係る利子税が、必要経費として認められた目的及び趣旨は、附滞税でも罰則的なものとか家事関連的なものではなく、事業に対応するものについては必要経費として認められるというものであるから、括弧書に列挙されていないものでも事業に対応するものは必要経費として認めるべきで、原処分庁は文理解釈しかしておらず、経済的実質に従い論理解釈すべきであり、不動産所得を生ずべき事業用資産を銀行等の借入れをもって取得したときの支払利息と相続税の延納に係る利子税は経済の実態が同様であって、本件利子税は、課税の対象とされる収益を生じる業務の用に供される資産に係るものであるから、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべきである旨主張する。
 しかしながら、所得税法第45条第1項第3号の括弧書に規定する利子税を、同法第131条第3項又は第136条に掲げるものに限定すべきことは上記ハのとおりである。
 また、相続税の延納に係る利子税の発生の基因となった相続とは、自然人に属していた権利義務をその者の死亡により相続人に承継させるものであって、相続による資産の取得は、その財産が不動産所得を生ずべき業務の用に供されているか否かにかかわらず相続により権利義務を承継することによるものにすぎず、相続税の賦課も財産の承継が行われたことによって生じた担税力に着目してなされているものであり、相続税の延納に係る利子税は、相続に伴いそれに付随して生じたものであることから、業務の遂行ないしはこれと直接の関連を持つものと解することはできない。
 したがって、請求人の主張は採用できない。
 よって、本件利子税は、不動産所得の金額の計算上必要経費とすることができないことから、原処分庁が本件利子税を必要経費に算入しないこととして行った更正処分は相当である。
(2)賦課決定処分について
 上記(1)のとおり、各年分の更正処分は適法であり、かつ、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてされた各年分の過少申告加算税の賦課決定処分も適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所において調査・審理したところによってもこれを不相当とする理由は認められない。

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