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(平8.3.22裁決、裁決事例集No.51 127頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、会社役員であるが、平成5年分の所得税について、確定申告書(分離課税用)に総所得金額を2,406,974円(内訳、給与所得の金額1,977,000円及び雑所得の金額429,974円)、分離長期譲渡所得の金額を6,840,100円及び納付すべき税額を1,958,900円と記載して、法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成7年3月31日付で総所得金額を2,406,974円、分離長期譲渡所得の金額を12,840,100円及び納付すべき税額を3,758,900円とする更正処分並びに重加算税の額を630,000円とする賦課決定処分をした。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成7年4月28日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月29日付で棄却の異議決定した。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成7年7月24日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
 原処分庁は、分離長期譲渡所得の金額の計算において、請求人が平成5年に譲渡したP市R町543番所在の土地(田)1,008平方メートル(以下「本件土地」という。)を前所有者であるF(住所P市R町、以下「F」という。)から購入した代価(以下「取得費」という。)は、12,000,000円でなく6,000,000円であるとして更正処分をした。
 しかしながら、次の理由から、本件土地の取得費は、12,000,000円である。
(イ)請求人は、Fから12,000,000円で本件土地の購入依頼を受け、2回に分けて代金を支払うことを条件に本件土地を購入したもので、昭和55年12月20日及び昭和56年1月28日に、それぞれ6,000,000円の合計12,000,000円を支払っている。
(ロ)原処分庁は、昭和55年12月20日支払の6,000,000円のみを取得費としているが、昭和56年1月28日に残金の6,000,000円を支払っていることは、領収書を紛失しているものの、土地の登記簿謄本の原因欄の日付が、昭和56年1月28日と記載されていることからも明らかである。
 なお、請求人は、異議申立てに係る異議審理庁の調査(以下「異議調査」という。)において、残金の支払日は昭和56年2月24日である旨答弁したが、これは誤りである。
(ハ)本件土地取得に当たっての譲渡代金を6,000,000円とする土地売買契約書(以下「本件土地売買契約書」という。)は、税金が高くなるとの理由でFから作成を依頼され、請求人がこれに応じ作成したものである。
 しかし、本件土地売買契約書には、印章の押印がなく売買契約書としての効力はなく、請求人が保管していたF自筆の売渡契約書(以下「本件売渡契約書」という。)こそ印章の押印もあり、本件土地の売買に関する真実の書類である。
 なお、原処分庁からの買入資産の照会に対して、買入価額を6,000,000円であると回答したことは反省している。
(ニ)原処分庁は、本件土地の取得費は、付近の売買実例から坪当たり、20,000円から23,000円が相当であるとしているが、請求人が調べたP市R町538番の5所在の土地482.18平方メートル(以下「請求人売買実例」という。)は、本件土地と隣接する土地であり、昭和61年5月に坪当たり約50,000円で売買されており、このことから推測すると、本件土地の坪当たりの単価は、約40,000円が正当である。
 また、本件土地の所在する区域は、昭和46年1月29日に工業専用区域の決定を受けており、他の用途地区とは全く価値が異なる。
ロ 重加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり更正処分は違法でありその全部を取り消すべきであるから、これに伴い、重加算税の賦課決定処分はその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
(イ)本件売渡契約書には、「代金12,000,000也で売渡し前渡金として6,000,000円受領致しました」と記載されているものの、残金の支払については、証拠資料等の保管が全くなく、支払の事実を確認できないことから、本件売渡契約書は6,000,000円の受領書にすぎない。このことは、請求人が、原処分庁の買入資産についての照会に対して買入価額は6,000,000円である旨の回答をしていることからも明白である。
(ロ)請求人は、本件土地の登記簿謄本の原因欄の日付をもって残金支払の証拠と主張するが、請求人は、異議調査において、登記後の昭和56年2月24日に残金を支払った旨答弁するなど、支払日があいまいである。
(ハ)請求人売買実例は、本件土地と取引年度の異なる造成後の土地であり、かつ地理的にみて道路が整備されている角地でもあることから、売買実例として不適当である。
(ニ)以上のとおり、本件土地の取得費は、請求人が作成した本件土地売買契約書の譲渡価額6,000,000円が正当な金額である。
ロ 重加算税の賦課決定処分について
 請求人は、本件土地の取得費が6,000,000円とする自筆の本件土地売買契約書を作成しながら、分離長期譲渡所得の金額の計算において、本件土地の取得費を12,000,000円とする虚偽の本件売渡契約書をFに作成させていたことを利用し、これによって確定申告書を提出していたものと認められる。
 この請求人の行為は、国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項に規定する重加算税の賦課要件に該当するので、同項の規定に基づき行った重加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1)更正処分について

 本件土地の取得費の金額に争いがあるので、以下審理する。
イ 次のことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ)本件土地は、都市計画法に定める工業専用地域の指定を受けているが、請求人が本件土地を取得した時から平成5年に譲渡するまで地目、現況とも田であったこと。
 また、本件土地は、角地ではなくかつ、盛土した土地ではないこと。
(ロ)本件土地は、昭和55年12月の売買契約により、Fから請求人が取得したものであること。
(ハ)本件土地の売買に関する書類として、請求人が作成した本件土地売買契約書及び請求人から依頼されFが作成した本件売渡契約書があること。
(ニ)本件土地売買契約書の記載内容等は、次のとおりであること。
(a)売主 F
(b)買主 G(請求人)
(c)売買代金 6,000,000円
(d)引渡、登記及び代金支払 本件土地の引渡し及び所有権移転登記申請手続は、昭和56年2月末日までに行うものとする。
(e)売買物件の表示 田、P市R町543番 1,008平方メートル
(f)契約日付 記載はない。
(g)売主の氏名は、Hと記載され、「H」が「F」と訂正されている。
(h)訂正箇所には、F及びGの印章が押印してある。
(i)売主欄及び買主欄には、売主欄にFの押印はあるが、買主欄にGの押印はない。
(ホ)昭和55年12月20日付の本件売渡契約書の記載内容等は、次のとおりであること。
(a)宛先 G様
(b)売買物件 P市R町543番 田 1反5歩
(c)「物件代金12,000,000也で売渡し前渡金として6,000,000円受領致しました」の記載がある。
(d)売渡人 Fとあり、Fの印章が押印してある。
(ヘ)請求人が、昭和56年12月24日に原処分庁に回答した「買入れた資産について(回答)」の記載は、次のとおりであること。
(a)売主氏名 F
(b)買入れ価額 6,000,000円
(c)契約の日 昭和55年12月25日
(d)農業委員会許可日 昭和56年1月27日
(e)登記の日 昭和56年1月28日
ロ 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件土地の取得に当たっては、Fから請求人に購入依頼があり、請求人がそれに応じたものであること。
(ロ)原処分庁の原処分に係る調査及び異議調査の際、Fは本件土地の譲渡に関し、次のとおり申述していること。
A 本件土地を譲渡した時期は昭和55年12月で、不動産権利証を請求人に引き渡したのは、翌年の1月であった。
B 本件土地は、店舗兼住宅を建て替えるに当たって借入金だけでは資金が不足するので土地を譲渡することとしたものであるが、その場合、譲渡するなら他人より親族の方がよいと考え請求人に売り申込みをしたものである。
 また、本件土地の当時の1反当たりの相場が7,000,000円程度であったので、親族でもあることから、1,000,000円値引きして譲渡したものである。
(ハ)本件土地の登記簿謄本によると、昭和56年1月28日付の売買を原因として、Fから請求人への所有権の移転登記が昭和56年2月24日になされていること。
(ニ)請求人が主張する本件土地に隣接する請求人売買実例は、昭和61年5月に取引され、二方が道路に面した角地で盛土を入れた造成後の土地に係るものであること。
(ホ)本件土地に地価事情が類似する近隣地の昭和55年3月の売買実例価額は、1平方メートル当たり5,952円であること。
ハ 請求人は、当審判所に次のとおり答述している。
(イ)本件土地売買契約書は、請求人がFから言われるまま「売主」、「買主」及び「売買代金」欄等を記載したものであること。
(ロ)本件売渡契約書は、本件土地売買契約書を作成したことにより、売買代金が異なることとなったため、請求人が前渡金として6,000,000円を支払った際に、Fに依頼し同人に作成してもらったものであること。
(ハ)本件土地の取得費は12,000,000円であり、売買契約時に現金で6,000,000円を支払い、残金の6,000,000円は本件土地の登記時に現金で支払い、その際領収書を受け取ったが、その領収書は紛失したこと。
(ニ)本件土地の取得時の地目、現況は、田であり、取得の時から譲渡までの間本件土地を小作に出し、田のままで譲渡したこと。
(ホ)本件土地の取得費の資金源については、銀行預金及び郵便貯金を取り崩しその支払に充てたものの、それを証明する書類は紛失し、銀行等で調査したが分からなかったこと。
ニ Fは、当審判所に次のとおり答述している。
(イ)本件土地を請求人に譲渡した価額は、6,000,000円であること。
(ロ)本件土地売買契約書は、請求人が作成したものであること。
(ハ)本件売渡契約書は、本件土地の代金6,000,000円を受領した際に、請求人から言われるままFが作成したものであること。
(ニ)本件土地のその当時の相場は、1反当たり7,000,000円程度であることを理容店のお客さんから聞いていたこと。
(ホ)本件土地の譲渡代金は、店舗兼住宅の建築費16,000,000円の一部に充てたこと。
 なお、建築費の不足分は、国民金融公庫からの5,600,000円及び住宅金融公庫からの3,600,000円の借入金で、残額は、自己資金で補ったこと。
ホ 請求人は、本件売渡契約書が真実の契約書であることを裏付ける証拠書類は、前記ハの(ハ)及び(ホ)のとおり紛失したとして提出しないこと。
ヘ 以上の事実、申述及び答述に基づいて、判断すると次のとおりである。
(イ)本件土地売買契約書及び本件売渡契約書等について
A 本件土地売買契約書は、前記イの(ハ)のとおり請求人が作成したことが認められるところ、本件土地売買契約書には、前記イの(ニ)のとおり契約の日付の記載がなく、買主欄にGの押印はないものの、二か所の訂正箇所には売主、買主双方の押印がそれぞれなされていることからすると、本件土地売買契約書は、Fからの作成依頼に基づき請求人によって、実態を反映しないまま作成されたものとは認め難い。
B 本件売渡契約書は、前記イの(ホ)の事実及び前記ニの(ハ)のFの答述によれば、Fが譲渡代金の6,000,000円を受領した際に請求人の依頼により作成されたものと認められる。
 しかしながら、請求人が、本件売渡契約書に基づき昭和56年1月28日に支払ったと主張する譲渡代金の残金6,000,000円の領収書等はないことが認められる。
C Fの前記ロの(ロ)のBの申述並びニの(ニ)及び(ホ)の答述によれば、本件土地の請求人への売買は、売り申込みであり、当時近隣の相場は1反当たり7,000,000円程度であったが、親戚であったことから1,000,000円値引きして譲渡したものであり、その譲渡代金は、店舗兼住宅の建築資金の一部に充てられたことが認められる。
D 請求人は、本件土地の登記簿謄本の原因欄の昭和56年1月28日の日付をもって、本件土地の取得費の残金の支払の証拠と主張するが、前記ロの(ロ)のAのとおりFが本件土地の不動産権利証を請求人に渡したのは、昭和56年1月であり、前記イの(ヘ)のとおり農業委員会の所有権移転の許可日が昭和56年1月27日であったことからみると、これらの事情から本件土地の所有権移転登記の原因欄の日付が、昭和56年1月28日になったものと認められる。
 そうすると、本件土地の登記簿謄本の原因欄の日付が昭和56年1月28日となっていることをもって、本件土地の取得費の残金の支払の証拠であるとはいえず、また他に請求人にはこれを裏付ける証拠書類がないことからも、請求人の主張は採用できない。
E 本件土地の譲渡代金としてFが6,000,000円を受領したこと及び本件売渡契約書を請求人の依頼に基づきFが作成したことについては争いがないところ、前記イの(ヘ)及び上記B、Cのとおり、(a)請求人が他に譲渡代金6,000,000円を支払ったことを証明する領収書等はなく、(b)請求人が自ら原処分庁に6,000,000円で買入れたと回答していること、(c)当時の近隣の相場は、一反当たり7,000,000円程度であったが、親戚でもあることから1,000,000円値引きしたとするFの答述は、後述の(ロ)の売買実例からみても信用できること、(d)本件土地の売買は売り申込みであったことを併せ判断すると、本件売渡契約書は、本件土地売買契約書を作成したことにより、売買代金が12,000,000円と異なることとなったため、請求人が前渡金として6,000,000円を支払った際に、Fに作成してもらったとの前記ハの(ロ)の請求人の答述は信用し難く、本件売渡契約書が真実の契約書であるとの請求人の主張は採用できない。
(ロ)売買実例について
 請求人は、請求人売買実例地は本件土地と隣接しており、坪当たり約50,000円で売買されていることからみても取得費は、12,000,000円が正当であると主張するので更に検討する。
A ところで、売買契約書等が複数あって、しかもその売買価額に争いがある場合、その土地と地価事情が類似すると認められる当時の近隣土地の売買価額を参考にして、その土地の真実の売買価額を判断するのは、相当と認められる。
B これを本件についてみると、請求人売買実例は、前記ロの(ニ)のとおり、(a)昭和61年5月の取引であり、本件土地の売買契約がなされた昭和55年12月から5年以上経過しており、その間には地価事情も変動していること、(b)二方が道路に面した角地で条件がよいこと、しかも、(c)盛土を入れた造成後の土地であることが認められる。
 一方、本件土地は、前記イの(イ)及びハの(ニ)のとおり、地目、現況も田で、角地ではなく、盛土をすることもなく、田のまま譲渡された土地であることから、請求人売買実例は、本件土地の取得費を検討するに当たっての売買実例としては不適当と認められる。
C つぎに、前記ロの(ホ)のとおり、本件土地に地価事情が類似し、かつ、取引年月日が最も近い近隣地の売買実例価額は、1平方メートル当たり5,952円であり、本件土地の取得時と売買実例の譲渡時では、大幅な価額の変動があったとは認められないことから、当該売買実例価額を本件土地に当てはめて計算すると、5,999,616円(5,952円×1,008平方メートル)となる。
D そうすると、上記Cのとおり売買実例及び前記ロの(イ)の売り申込みの事実からみても取得費が12,000,000円であるとの請求人の主張は採用することができない。
(ハ)上記(イ)及び(ロ)を併せ判断すると、本件土地の取得費は、本件土地売買契約書に記載された6,000,000円と認めるのが相当である。
ト そうすると、本件土地の取得費が12,000,000円であるとの請求人の主張には理由がなく、本件土地の取得費は6,000,000円であるとして行った更正処分は適法である。

(2)重加算税の賦課決定処分について

 上記(1)のとおり更正処分は適法であり、また、請求人は、本件土地の取得に当たって、上記(1)のとおり、本件土地売買契約書を請求人が作成しながら、Fに請求人の依頼で作成させていた本件売渡契約書を利用し、これによって取得費を水増しし、分離長期譲渡所得の金額の計算を行い確定申告書を提出していたものと認められ、このような請求人の行為は、通則法第68条第1項に規定する「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当するので、原処分庁が同項の規定に基づいて重加算税の賦課決定処分をしたことは、適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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