ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.51 >> (平8.1.26裁決、裁決事例集No.51 208頁)

(平8.1.26裁決、裁決事例集No.51 208頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、会社役員であるが、平成5年12月20日、請求人を含む6名(以下「請求人ら」という。)で共同所有していたP市R町10丁目438番157所在の宅地2,175.69平方メートル(以下「本件土地」という。)を株式会社W(以下「W社」という。)に譲渡し、当該譲渡は、租税特別措置法(平成6年法律第22号による改正前のもの。以下同じ。)第31条の2《優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例》第2項第9号に規定する優良住宅地等のための譲渡に該当するとして、同法第31条の2第1項に規定する税率軽減の特例(以下「本件特例」という。)を適用の上、平成5年分の所得税の確定申告書(分離課税用)に総所得金額を5,442,222円(内訳、不動産所得の金額3,927,222円、給与所得の金額1,515,000円)、分離課税の長期譲渡所得の金額(以下「譲渡所得金額」という。)を41,052,034円、納付すべき税額を6,660,000円と記載して、法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成7年2月24日付で本件土地の譲渡には本件特例の適用はないとして、納付すべき税額を12,817,800円とする更正処分をするとともに、過少申告加算税615,000円の賦課決定処分をした。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成7年4月20日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年7月4日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成7年8月4日に審査請求をした。

トップに戻る

2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
(イ)請求人らは、本件土地につき平成5年9月3日に、W社との間で、租税特別措置法第31条の2第2項第9号に規定する一団の住宅又は中高層の耐火共同住宅(以下「優良住宅」という。)の用に供することを条件として、売買価額269,655,000円で売却する旨の売買契約(以下「甲売買契約」という。)を締結の上、同日付で売買契約書(以下「甲売買契約書」という。)を取り交わし、売買代金の残金決済日である同年12月20日に所有権移転登記に必要な書類を引き渡しているが、次の理由により、本件土地は、実質的には請求人らが本件土地に優良住宅を建設したX株式会社(以下「X社」という。)に譲渡したものであるから、本件土地の譲渡については、本件特例が適用されるべきである。
A W社は、請求人らが本件土地をW社に引き渡した平成5年12月20日に、X社との間で本件土地を売買価額262,627,539円で売却する旨の売買契約(以下「乙売買契約」という。)を締結の上、同日付で売買契約書(以下「乙売買契約書」という。)を取り交わし、即日引渡し及び代金決済がなされていること。
B 甲売買契約に係る売買代金の残額158,793,000円は、X社の依頼によるH銀行○○支店振出しの自己宛小切手(以下「本件自己宛小切手」という。)により、請求人らに支払われていること。
C 本件土地の所有権移転登記は、請求人らから直接X社にされていること。
(ロ)仮に、本件土地の譲渡が、W社に対してなされたものであり、X社に対する譲渡には当たらないものとしても、次の理由により、本件特例の適用を認めるべきである。
A 請求人らには、W社が優良住宅の建設を行わなかったことについて、何らの瑕疵もないこと。
B 乙売買契約書には、本件土地を優良住宅の用に供する旨の条件が付されていること。
C 租税特別措置法第31条の2第2項第9号は、優良住宅の建設を行う法人の範囲につき「当該建設に関する事業を引き継いだ合併法人」を含めるものと規定しているところ、当該規定は、事業引継ぎに関する例示と解すべきであり、最終的にはX社が本件土地上に優良住宅の建設を行っているのであるから、優良な住宅の供給への寄与という同法第31条の2の趣旨からしても、請求人の本件土地の譲渡は、優良住宅の建設を行う法人に対する譲渡に該当するものと解すべきであること。
D W社は、乙売買契約による譲渡により約7,000,000円の差損を生じていること。
 なお、譲渡所得金額及び総所得金額の計算並びに所得控除の金額については争わない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、更正処分は違法であるから、これに伴う過少申告加算税の賦課決定処分も違法である。

トップに戻る

(2)原処分庁の主張

 原処分は次のとおり適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
(イ)原処分における調査及び異議申立てに係る調査によれば、次の事実が認められる。
A 請求人らは、平成5年9月3日に請求人を代表者としてW社との間で甲売買契約を締結していること。
B 請求人らは、甲売買契約に係る売買代金として、契約日前の平成5年6月30日に内金5,000,000円、契約日の同年9月3日に中間金105,862,000円及び同年12月20日に残金158,793,000円をW社から受領していること。
C W社は、平成5年12月20日にX社との間で乙売買契約を締結していること。
D W社は、乙売買契約の売買代金として、契約日の平成5年12月20日に額面103,834,539円及び額面158,793,000円の小切手をX社から受領し、そのうち額面158,793,000円の小切手を上記Bの甲売買契約に係る残金として請求人に手渡していること。
E W社及びX社は、乙売買契約に先立ち、あらかじめ国土利用計画法に基づく届出書をP市に提出しているが、当該届出書には譲渡人W社、譲受人X社と記載されていること。
F W社の代表取締役J(以下「J」という。)は、異議申立てに係る調査に際し「本件土地は優良住宅建設のために請求人らから購入したものであるが、事情がありそのままX社に譲渡した」旨を申述していること。
G X社は、建築主として本件土地上に「K」という名称の共同住宅を建設するため、P市に対し平成6年2月に建築確認申請を行い、当該共同住宅は同年9月に完成していること。
(ロ)以上の事実により、請求人の本件土地の譲渡につき本件特例の適用についてみれば、次のとおりである。
A 上記(イ)のAないしFの各事実により、本件土地に関する〔1〕請求人らとW社との売買、〔2〕W社とX社との売買は、これらの各売買契約の締結状況及び各売買契約に係る売買代金の支払状況からみて、明らかに相互に独立した取引であり、各売買契約は有効に成立していることが認められ、また、上記(イ)のF及びGの事実により、本件土地上に共同住宅を建設したのは、W社ではなくX社であることが認められる。
B そうすると、請求人らの本件土地の譲渡先は、W社であり、W社は優良住宅の建設を行っていないのであるから、請求人の本件土地の譲渡は、租税特別措置法第31条の2第2項第9号に規定する土地等の譲渡に該当しないこととなる。
C なお、租税特別措置法第31条の2第2項第9号において、優良住宅の建設を行う法人には、「当該建設を行う法人の合併による消滅により当該建設に関する事業を引き継いだ当該合併に係る合併法人が当該建設を行う場合には、当該合併により消滅した法人又は当該合併法人」を含むものと規定されているのみであるところ、請求人らの本件土地の譲渡先であるW社と最終的に優良住宅を建設したX社が合併した事実はないのであるから、請求人の本件土地の譲渡は、やはり同号に規定する優良住宅の建設を行う法人に対する譲渡には該当しないこととなる。
D 以上のとおり、請求人の本件土地の譲渡は、租税特別措置法第31条の2第2項第9号に規定する譲渡には該当しないので、本件特例の適用はないとした更正処分は適法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、更正処分は適法であり、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由がある場合に該当しないから、同条第1項の規定に基づいてした過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

トップに戻る

3 判断

 本件土地の譲渡に係る本件特例の適用の可否について争いがあるので、以下審理する。

(1)更正処分について

イ 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。
(イ)請求人らは、平成5年9月3日にW社との間で甲売買契約を締結の上、同日付で甲売買契約書を取り交わし、同年12月20日までに売買代金の全額を受領していること、また、甲売買契約書には、次の内容が記載されていること。
A 売主L他5名(M、N、T、A、B)は、買主W社と本件土地について売買価額269,655,000円で売買契約を締結する。
B W社は、本件土地を優良住宅地の用に供するものとする。
(ロ)W社は、平成5年12月20日にX社との間で乙売買契約を締結の上、同日付で乙売買契約書を取り交わし、即日売買代金の全額を受領していること、また、乙売買契約書には、次の内容が記載されていること。
A 売主W社は、本件土地を更地にて買主X社に売買価額262,627,539円で売り渡し、X社は、本件土地に共同住宅を建設の上、第三者に分譲することを目的としてこれを買い受けるものとする。
B X社は、本件土地を優良住宅地の用に供するものとする。
(ハ)本件土地については、平成5年12月20日受付で、同日付の売買を原因として、請求人らからX社へ所有権移転登記がなされていること。
(ニ)本件土地上にP市長の認定による優良住宅を建設した法人は、X社であること。
ロ 当審判所の調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人らは、甲売買契約に係る売買代金として、平成5年6月30日に内金5,000,000円、同年9月3日に中間金105,862,000円及び同年12月20日に残金158,793,000円を受領していること、また、これら受領額に係る領収書については、いずれもW社宛となっていること。
(ロ)W社は、乙売買契約の売買代金として、平成5年12月20日に額面103,834,539円及び額面158,793,000円の小切手を受領していること、また、この受領額に係る領収書については、X社宛となっていること。
(ハ)W社とX社が合併した事実はないこと。
ハ 請求人は、当審判所に対して次のとおり答述している。
(イ)本件土地の譲渡については、私が請求人らを代表して一切の行為を行っている。
(ロ)本件土地の譲渡に関する国土利用計画法第23条《土地に関する権利の移転等の届出》第1項の規定に基づく届出(以下「国土法に基づく届出」という。)については、P市長に売主を請求人ら、買主をW社として届出を行い、平成5年8月20日付で同法第24条《勧告》第1項の規定に基づく勧告をしない旨の通知を受けている。
(ハ)私は、甲売買契約に係る残金の受領と同時に本件土地の登記済権利証等所有権移転登記に必要な書類をW社に引き渡した。
(ニ)請求人らは、Y税務署の調査担当職員から指摘されるまで、W社が本件土地をX社に譲渡した事実を知らなかった。
ニ Jは、当審判所に対して次のとおり答述している。
(イ)甲売買契約を解除せずに乙売買契約に至った経緯は、地価下落の情勢により、国土法に基づく届出に係るP市長の指導による価額が、当社と請求人らとの当初の売買契約金額に満たないことから、請求人らとX社との売買契約に変更することができなかったものである。
(ロ)甲売買契約に係る売買代金の残額は、乙売買契約の売買代金として平成5年12月20日にX社から受領した2枚の小切手のうち、額面158,793,000円の本件自己宛小切手により請求人に支払った。
(ハ)当社は、甲売買契約に係る売買代金の残額の支払と同時に請求人から登記済権利証等所有権移転登記に必要な書類の引渡しを受け、即刻、それらの書類をX社が依頼した司法書士に渡した。
ホ X社××支社の土地購入及び共同住宅建設の担当者であり、本件土地を購入した際の担当者である同支社不動産部開発企画課長Zは、当審判所に対して次のとおり答述している。
(イ)本件土地は、平成5年12月20日に当社とW社との間で売買契約を締結し、乙売買契約書を作成の上、即日代金決済をし、所有権移転登記に必要な書類の引渡しを受けている。
 なお、本件土地の売買に関し、当社が請求人らと交渉を持った経緯はない。
(ロ)乙売買契約に係る売買代金は、2枚の小切手により支払っているが、これはW社からの要請によるものである。
ヘ ところで、租税特別措置法第31条の2第2項第9号は、土地等の譲渡が優良住宅地等のための譲渡に該当する場合として、優良住宅の建設を行う法人に対する土地等の譲渡で、当該譲渡に係る土地等が当該優良住宅の用に供されるものと規定し、また、同号のかっこ書きには、当該優良住宅の建設を行う法人として「当該建設を行う法人の合併による消滅により当該建設に関する事業を引き継いだ合併法人が当該建設を行う場合には、当該合併により消滅した法人又は当該合併法人」を含む旨が規定されている。
ト 以上を踏まえて、本件土地の譲渡に係る本件特例の適用の可否についてみれば、次のとおりである。
(イ)請求人は、本件土地の実質的な譲渡先は、優良住宅を建設したX社である旨主張する。
 しかしながら、上記イの(イ)及びロの(イ)の各事実並びに上記ハ、ニの(ロ)、ニの(ハ)及びホの(ロ)の各答述により、請求人らの本件土地の譲渡についてみれば、〔1〕甲売買契約は請求人らとW社との間で締結されていること、〔2〕甲売買契約に係る売買代金は請求人がW社から受領していること、〔3〕本件土地は甲売買契約により請求人らからW社に引き渡されていることが認められ、また、上記イの(ロ)及びロの(ロ)の各事実並びに上記ニ及びホの(イ)の答述により、W社の本件土地の譲渡についてみれば、〔1〕乙売買契約はW社とX社との間で締結されていること、〔2〕乙売買契約に係る売買代金はW社がX社から受領していること、〔3〕本件土地は乙売買契約によりW社からX社に引き渡されていることが認められる。
(ロ)そうすると、甲売買契約及び乙売買契約は、それぞれ有効に成立し履行された別個の取引であることが認められ、他にこれを不相当とする理由がない以上、請求人らの本件土地の譲渡は、形式的にも実質的にもW社に対してなされたものというべきであり、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
 なお、本件土地の所有権移転登記が、請求人らから直接X社にされていること及び請求人らが甲売買契約に係る売買代金のうち残金の158,793,000円を本件自己宛小切手で受領していることについては、上記イの(ハ)の事実及びニの(ロ)の答述により、その事実が認められるところであるが、これらは、不動産売買取引においては一般的に行われ得る形態であって、請求人らの本件土地の譲渡先がいずれであるかについての判断を左右するものでないことは明らかである。
(ハ)次に、請求人は、上記2の(1)のイの(ロ)の理由により、請求人の本件土地の譲渡が、租税特別措置法第31条の2第2項第9号に規定する優良住宅の建設を行う法人に対する譲渡に該当すると解すべきである旨主張する。
 しかしながら、上記へのとおり、租税特別措置法第31条の2第2項第9号は、優良住宅の建設に関する事業の承継につき、土地等の譲渡先である当該建設を行う法人が合併により消滅した場合「当該建設に関する事業を引き継いだ合併法人が当該建設を行う場合には、当該合併により消滅した法人又は当該合併法人」についても、当該建設を行う法人に該当する旨の限定した規定に止まっているところ、土地等の譲渡先法人と優良住宅の建設を行う法人が異なる場合においては、法人の合併による消滅という事実により合併存続法人又は合併新設法人がその建設事業を引き継いだ場合のみが該当するとした規定であり、土地等の譲渡先法人が他の第三者に譲渡した場合までをも含めるとしたものではないと解するのが相当である。
(ニ)そうすると、請求人らの譲渡先法人であるW社が本件土地をX社に譲渡し、X社が優良住宅の建設を行ったことにつき、請求人らには何らの瑕疵がなく、また、結果的に優良な住宅の供給への寄与という租税特別措置法第31条の2の趣旨に沿うものとなったとしても、上記ロの(ハ)の事実のとおり、W社とX社が合併した事実がないのであるから、この場合についてまでをも、優良住宅の建設を行う法人に対する譲渡に該当するものと拡大して解することはできず、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ホ)したがって、請求人らの本件土地の譲渡は、実質的にはX社に対するものであり、仮に、X社に対する譲渡には当たらないものとしても、租税特別措置法第31条の2第2項第9号に規定する優良住宅の建設を行う法人に対する譲渡に該当すると解すべきであるとする請求人の主張にはいずれも理由がなく、請求人の本件土地の譲渡は、同号に規定する優良住宅の建設を行う法人に対する譲渡には該当しないので、本件特例の適用はないとした更正処分は適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 以上のとおり、更正処分は適法であり、また、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてした過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る