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(平8.6.25裁決、裁決事例集No.51 324頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、染み抜き業を営む同族会社であるが、平成3年8月1日から平成4年7月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告したが、本件事業年度の法人特別税の申告書は提出しなかった。
 原処分庁は、これに対し、平成6年5月31日付で、法人税については、次表の「更正処分等」欄のとおり、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をするとともに、同日付で、法人特別税については、課税標準法人税額を1,061,000円及び法人特別税額を26,500円とする決定処分をした。

(単位 円)
区分確定申告更正処分等
項目
法人税
所得金額△780,31215,524,634
納付すべき税額△623,1585,227,400
翌期へ繰り越す欠損金額780,312
過少申告加算税の額758,000

(注)「所得金額」欄の△印は、欠損金額を示し、「納付すべき税額」欄の△印は、所得税額等の還付金額を示す。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成6年7月30日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月27日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成6年11月25日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法・不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 法人税の更正処分等について
(イ)法人税の更正処分
 請求人は、本件事業年度末に所有する証券取引所に上場されている有価証券について、当該有価証券の価額が著しく低下し、かつ、将来その価額の回復が見込まれないことから、これら有価証券の評価換えをして損金経理によりその帳簿価額を減額した上、有価証券の評価損の金額16,304,946円(以下「本件評価損」という。)を本件事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入して確定申告をしたところ、原処分庁は、当該有価証券の価額が帳簿価額に比して著しく低下し、かつ、将来その回復が見込まれないとは認められないとして、本件評価損は、損金の額に算入できないとする更正処分をした。
 しかしながら、本件評価損は、次の理由により、本件事業年度の損金の額に算入すべきである。
A 請求人は、本件事業年度の決算に当たり、○○証券取引所の第一部に上場されている株式会社N銀行(以下「N銀行」という。)発行の有価証券(以下「N銀行株式」という。)及び株式会社T銀行(以下「T銀行」といい、N銀行と併せて「両銀行」という。)発行の有価証券(以下「T銀行株式」といい、N銀行株式と併せて「本件株式」という。)の価額(株価)が本件事業年度末の帳簿価額に比して著しく低下(おおむね50パーセント程度)しており、かつ、当時の社会状況からして、将来本件株式の株価の回復が見込まれないものと認識し、法人税法第33条《資産の評価損の損金不算入等》第2項及び法人税法施行令第68条《資産の評価損の計上ができる場合》第2号イの規定に基づき、本件評価損を本件事業年度の損金の額に算入したものである。
B 本件事業年度末当時の社会状況は、地価及び株価の下落により、いわゆるバブル経済が崩壊し、多くの金融機関においても多額の不良債権が表面化しており、その後も金融機関発行株式全般の株価が停滞していることを考え併せれば、本件事業年度末における本件株式の価額の下落が一時的なものでないことは明らかである。
(ロ)過少申告加算税の賦課決定処分
 以上のとおり、更正処分は違法・不当で取り消すべきであるから、これに基づく過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。
ロ 法人特別税の決定処分について
 請求人は、原処分庁が更正の通知書により行った法人特別税の決定処分の手続については争わない。
 しかしながら、法人税の更正処分は、上記イのとおり違法・不当で取り消すべきであるから、これに基づく法人特別税の決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 法人税の更正処分等について
(イ)法人税の更正処分
A 原処分庁及び異議審理庁が調査したところ、次の事実が認められる。
(A)請求人は、平成2年7月26日にW証券株式会社(以下「W証券」という。)からN銀行株式を買付け単価2,220円で5,000株取得し、購入手数料と合わせて取得価額を11,191,489円としていること。
(B)請求人は、平成2年7月30日にW証券からT銀行株式を買付け単価1,230円で3,000株及び買付け単価1,250円で17,000株をそれぞれ取得し、購入手数料と合わせて取得価額を25,113,457円としていること。
(C)請求人は、本件事業年度末に上記(A)のN銀行株式5,000株を単価1,320円で6,600,000円に評価換えをして損金経理によりその帳簿価額を減額し、評価換え直前の帳簿価額との差額4,591,489円を有価証券の評価損として、本件事業年度の損金の額に算入していること。
(D)請求人は、本件事業年度末に上記(B)のT銀行株式20,000株を単価670円で13,400,000円を評価換えをして損金経理によりその帳簿価額を減額し、評価換え直前の帳簿価額との差額11,713,457円を有価証券の評価損として、本件事業年度の損金の額に算入していること。
(E)本件事業年度末である平成4年7月31日における証券取引法第122条第2項の規定により公表された株式の1株当たりの最終価格(以下「最終価格」という。)は、△△新聞によるとN銀行株式が1,320円及びT銀行株式が679円となっていること。
(F)平成4年9月25日発行の会社四季報によると、N銀行の平成4年3月期については、業務純益が増益基調であるとして、業務純益は平成3年3月期では19,174百万円であったところ、平成4年3月期では30,387百万円と増加しており、経常利益も12,918百万円を計上していること。また、T銀行の平成4年3月期については、業務純益が改善されたとして、業務純益は平成3年3月期では5,104百万円であったところ、平成4年3月期では8,378百万円と増加しており、経常利益も4,075百万円を計上していること。
(G)△△新聞によると、平成4年中のN銀行株式及びT銀行株式の月中終値平均株価(○○証券取引所で銘柄別に毎月発表している月中終値平均株価をいう。以下同じ。)は、次表のとおり推移していること。

(単位 円)
区分N銀行株式T銀行株式
年月
平成4年1月1,676886
平成4年2月1,610818
平成4年3月1,480777
平成4年4月1,367729
平成4年5月1,323718
平成4年6月1,318716
平成4年7月1,309693
平成4年8月1,328678
平成4年9月1,452741
平成4年10月1,405758
平成4年11月1,319733
平成4年12月1,333684

B ところで、法人税法第33条第1項では、有価証券の評価損は、原則として所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定しているが、同条第2項では、政令で定める特定の事実が生じたことにより、当該有価証券の価額がその帳簿価額を下ることとなった場合には、評価損を損金の額に算入することができることとされているところ、証券取引所において上場されている有価証券(法人税法施行令第34条《有価証券の評価の方法》第3項に規定する企業支配株式に該当するものを除く。以下「上場有価証券」という。)について評価損の損金算入をすることができる事実とは法人税法施行令第68条第2号イに定める「その価額が著しく低下したこと」の事実をいうこととされており、ここでいう「その価額が著しく低下したこと」とは、当該有価証券の当該事業年度終了の時における価額(時価)がその時の帳簿価額のおおむね50パーセントに相当する金額を下回ることとなり、かつ、近い将来その価額の回復が見込まれないことをいうものと解されている。
C そこで、本件について上記Aの事実関係からみると、(1)N銀行株式の評価換え直前の帳簿価額は11,191,489円であり、本件事業年度末の1株当たりの価額は、1,320円であることから、本件事業年度末の価額は5,000株で6,600,000円となり、当該金額は、評価換え直前の帳簿価額の59.0パーセントに相当し、(2)T銀行株式の評価換え直前の帳簿価額は25,113,457円であり、本件事業年度末の1株当たりの価額は679円であることから、本件事業年度末の価額は20,000株で13,580,000円となり、当該金額は、評価換え直前の帳簿価額の54.1パーセントに相当し、また、(3)両銀行の平成4年3月期においては、ともに業務純益も増加しており、株価の推移からしても、近い将来において株価が回復する見込みがないとはいえないものと認められる。
 したがって、本件事業年度末における本件株式の価額についてその価額が評価換え直前の帳簿価額に比して著しく低下したことには当たらないので、請求人が本件事業年度末の所得の金額の計算上、損金の額に算入した本件評価損を損金の額に算入しないとした原処分は適法である。
D 請求人は、本件事業年度末当時の社会状況からして、本件株式の株価の下落が一時的なものではなく、当該株価が著しく低下したことは明らかである旨主張するが、上記Cのとおり、将来において本件株式の株価が回復しないとする旨の判断をすることはできないから、請求人の主張には理由がない。
(ロ)過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、法人税の更正処分は適法であり、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由がある場合に該当しないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行った過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
ロ 法人特別税の決定処分について
 上記イのとおり、本件法人税の更正処分は適法に行われており、これに基づいて更正の通知書により行った法人特別税の決定処分も適法である。

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3 判断

 双方の主張に基づいて調査、審理したところ、次のとおり判断される。

(1)法人税の更正処分等について

イ 法人税の更正処分
 本件審査請求は、本件評価損が所得の金額の計算上、損金の額に算入されるか否かについての争いであるので、以下審理する。
(イ)次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
A 請求人は、平成2年7月26日にW証券からN銀行株式を買付け単価2,220円で5,000株取得し、同月30日にW証券からT銀行株式を買付け単価1,230円で3,000株及び買付け単価1,250円で17,000株それぞれ取得していること。
B 請求人は、本件事業年度末にN銀行株式5,000株及びT銀行株式20,000株を所有し、その評価換え直前の帳簿価額は、N銀行株式にあっては当該株式の購入手数料の金額91,489円を加えた11,191,489円及びT銀行株式にあっては当該株式の購入手数料の金額173,457円を加えた25,113,457円であること。
C 請求人は、本件事業年度末において、N銀行株式の価額を6,600,000円(5,000株1株当たり1,320円)及びT銀行株式の価額を13,400,000円(20,000株1株当たり670円)にそれぞれ評価換えをして損金経理によりその帳簿価額を減額し、上記Bのそれぞれの帳簿価額の合計額と当該評価換えした後の価額の合計額との差額を本件評価損として本件事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入していること。
D 請求人が所有する両銀行の株式は上場有価証券であるところ、請求人は、有価証券の評価の方法を届け出ていないことから、当該株式の評価の方法は、法人税法施行令第37条《有価証券の法定評価方法》第1項に規定する総平均法により算出した取得価額による原価法であること。
(ロ)請求人及び原処分庁から提出された資料並びに当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 平成4年7月31日におけるN銀行株式の最終価格は、別表1に記載のとおり1,320円であること及び最終価格に対する株価低下率(取得時の買付け単価から最終価格を控除した後の金額を当該取得時の買付け単価の額で除した割合をいう。以下同じ。)は、40.54パーセントであること。
B 平成4年7月1日から平成4年9月30日までの間におけるN銀行株式の日々の最終価格の推移は、別表1に記載のとおりであり、その推移を概観すると同年7月1日に1,330円(株価低下率40.09パーセント)であったものが、同年8月14日には1,260円(株価低下率43.24パーセント)まで下落したものの、同月31日には1,500円(株価低下率32.43パーセント)及び同年9月30日においては、1,460円(株価低下率34.23パーセント)にまでそれぞれ上昇していること。
C N銀行の主要な財務指標等の推移は、別表2に記載のとおり、平成2年3月期において経常利益及び当期純利益が減少に転じ、平成4年3月期においては、前期に比して景気後退による株式相場の下落に伴う保有株式の評価損を計上したため、前期に比して経常利益は8,718百万円、当期純利益は5,080百万円及び有価証券残高は137,131百万円とそれぞれ減少しているものの、他方、経常収益は3,145百万円、預金残高は225,112百万円、貸出金残高は83,409百万円及び総資産額は265,103百万円と前期に比してそれぞれ増加しており、また、国際統一基準による自己資本比率(平成5年大蔵省告示第55号《銀行法第14条の2の規定に基づく銀行がその保有する資産等に照らし自己資本の充実の状況が適当であるかどうかを判断するための基準》第1条の定めによる比率をいう。以下同じ。)についても前期に比して0.45ポイント上昇していること。
 なお、平成3年3月期及び平成4年3月期の総資産額の金額は、別表2に記載のとおり、それぞれ4,429,674百万円及び4,694,777百万円となっており、他方、総負債額は、それぞれ平成3年3月期4,234,898百万円及び平成4年3月期4,494,686百万円であり、いずれも総資産額が総負債額を上回っていること。
D N銀行の1株当たりの純資産額の推移は、別表2に記載のとおり、平成元年3月期においては前期に比して20.98円低下しているものの、その後、平成4年3月期に至るまでいずれの期においても前期に比して増加していること。
E N銀行の業務純益の推移は、別表2に記載のとおり、平成3年3月期において減少に転じているものの、平成4年3月期においては改善され増加していること。
F 本件事業年度末におけるT銀行株式の総平均法により算出した原価法による価額(株価)(評価換え直前の1株当たり買付け単価をいい、当該株式の購入に係る手数料を除く。以下「改定株価」という。)は1,247円であること。
G 本件事業年度末におけるT銀行株式の最終価格は、別表1に記載のとおり679円であること及び同株式の改定株価低下率(取得時の改定株価から最終価格を控除した後の金額を当該取得時の改定株価で除した割合をいう。以下同じ。)は、45.55パーセントであること。
H 平成4年7月1日から同年9月30日までの間におけるT銀行株式の最終価格の推移は、別表1に記載のとおりであり、その推移を概観すると同年7月1日に690円(改定株価低下率44.67パーセント)であったものが、同年8月5日には679円(改定株価低下率45.55パーセント)及び同月13日には659円(改定株価低下率47.15パーセント)にまで下落したものの、同年9月30日においては760円(改定株価低下率39.05パーセント)まで上昇していること。
I T銀行の主要な財務指標等の推移は、別表3に記載のとおり、平成元年3月期において経常利益及び当期純利益が前期に比して減少に転じ、平成4年3月期においては、前期に比して景気後退による株式相場の下落に伴う株式等償却の増加や株式等売却益の減少などのため、前期に比して経常収益は6,049百万円、経常利益は3,029百万円、当期純利益は1,388百万円及び有価証券残高は10,904百万円とそれぞれ減少しているものの、他方、預金残高は66,322百万円、貸出金残高は35,985百万円及び総資産額は66,804百万円とそれぞれ増加しており、また、国内基準による自己資本比率(平成5年大蔵省告示第55号第2条の定めによる比率をいう。以下同じ。)についても前期に比して0.33ポイント上昇していること。
 なお、平成3年3月期及び平成4年3月期における総資産額は、別表3に記載のとおり、それぞれ2,003,467百万円及び2,070,271百万円となっており、他方、総負債額は、それぞれ平成3年3月期1,949,909百万円及び平成4年3月期2,010,332百万円であり、いずれも総資産額が総負債額を上回っていること。
J T銀行の1株当たりの純資産額の推移は、別表3に記載のとおり、昭和63年3月期ないし平成4年3月期に至るまでいずれの期においても前期に比して増加していること。
K T銀行の業務純益の推移は、別表3に記載のとおり、平成2年3月期において減少に転じているものの、平成4年3月期においては改善され増加していること。
L 両銀行は、平成4年4月1日から同年9月30日までの間における定時株主総会資料の営業報告書及び投資者等に対する資料若しくは報道資料その他の資料によっても、経営に関して再建策を講じるような状態になっていたとは認められないこと。
M 請求人は、当審判所に対して証拠資料として両銀行の平成4年3月期及び平成5年3月期に係るそれぞれの有価証券報告書総覧を提出していること。
(ハ)ところで、法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第1項では、内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする旨規定されており、損金の額に算入すべき金額の範囲については、同条第3項において、別段の定めがあるものを除き、(1)当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額、(2)当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用の額及び(3)当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るものをいうことと規定されている。
 資産の評価損については、法人税法第33条第1項によれば、内国法人がその有する資産の評価換えをしてその帳簿価額を減額した場合は、その減額した部分の金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定されており、同条第3項では、評価換えにより減額された金額が損金の額に算入されなかった資産については、その評価換えをした日の属する事業年度以後の各事業年度の所得の金額の計算上、当該資産の帳簿価額は、その減額がされなかったものとみなす旨規定されている。
 また、法人税法第33条第2項では、内国法人の有する資産(預金、貯金、貸付金、売掛金その他の債権を除く。)につき災害による著しい損傷その他の政令で定める事実が生じたことにより、当該資産の価額がその帳簿価額を下ることとなった場合において、その内国法人が当該資産の評価換えをして損金経理によりその帳簿価額を減額したときは、その減額した部分の金額のうち、その評価換えの直前の当該資産の帳簿価額とその評価換えをした日の属する事業年度終了の時における当該資産の価額との差額に達するまでの金額は、第1項の規定にかかわらず、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する旨規定されており、上場有価証券の評価損の損金算入につき法人税法施行令第68条第2号イでは、上場有価証券について評価損の損金算入をすることができる事実は、「その価額が著しく低下したこと」の事実とする旨規定されている。
(ニ)さらに、上記(ハ)の法人税施行令第68条第2号イに規定する「有価証券の価額が著しく低下したこと」の意義については、法人税基本通達(以下「基本通達」という。)9ー1ー7において「当該有価証券の当該事業年度終了の時における価額がその時の帳簿価額のおおむね50パーセント相当額を下回ることとなり、かつ、近い将来その価額の回復が見込まれないことをいうものとする。」と定めている。
 これは、株式市場の相場はその市場の特性等から20ないし30パーセント程度の変動を繰り返しているのが常態であり、その程度の価額の低落は回復する機会も早いとみる実質的判断から、その価額がその時の帳簿価額のおおむね50パーセント相当額を下回っていないような場合にはその価額が「著しく低下」したとはいえないとし、おおむね50パーセント相当額を下回る場合に限定することとしたものであり、これに加えて「近い将来にその価額の回復が見込まれないこと」に該当することを要することとしているのは、有価証券の評価損はいわば未実現の損失部分を損金の額に算入するものであることから、資産の価額が回復不能であることが確実に見込まれるような場合に限定することが相当であるという判断によったものと考えられ、当審判所の調査・審理によっても、株式市場の実態、株価の変動及び有価証券の評価損の計上の趣旨に鑑み、当該基本通達に定める取扱いによることは、合理的であり相当と認められる。
(ホ)そこで、上記(イ)及び(ロ)の事実並びに上記(ハ)及び(ニ)の規定等に基づき、判断すると次のとおりである。
A 請求人は、上記2の(1)のイの(イ)のA及びBのとおり、本件事業年度末において、本件株式の価額(株価)が、本件事業年度末の評価換え直前の帳簿価額に比してその価額が著しく低下(おおむね50パーセント程度)しており、かつ、当時の社会状況からして、将来本件株式の株価の回復が見込まれないものと認識し、本件評価損を本件事業年度の損金の額に算入したものである旨及び本件事業年度末当時の社会状況からみて、本件株式の価額の下落が一時的なものでないことは明らかである旨主張するので、以下検討する。
(A)N銀行株式の評価損について
a 請求人は、N銀行株式については、平成2年7月26日に上記イの(イ)のA及びBのとおり、1株につき2,220円で取得し、本件事業年度末におけるその評価換え直前の帳簿価額は11,191,489円であるところ、本件事業年度末における1株当たりの買付け単価に相当する金額について、上記(イ)のCのとおり、当該株式の平成4年7月31日の最終価格である1,320円に評価換えをするとともに評価換え直前の帳簿価額と評価換え後の金額6,600,000円との差額を当該株式の評価損として損金の額に算入して確定申告しており、評価換え後の1株当たりの価額1,320円は株価低下率が40.54パーセントであることが認められる。
 なお、N銀行株式の評価換え直前の帳簿価額は、上記(イ)のBのとおり、当該株式の購入手数料の91,489円を加えた11,191,489円であるところ、請求人の評価換え後の帳簿価額の金額6,600,000円には、上記の当該株式の購入手数料に相当する金額91,489円が含まれていないため、本件事業年度末における購入手数料に相当する金額91,489円を加えた6,691,489円が評価換え後の帳簿価額として計算することが相当と認められる。
 そうすると、評価換え直前の帳簿価額から評価換え後の帳簿価額を控除した後の金額は4,500,000円となり、これにより算定した株価低下率に相当する割合は40.21パーセントとなるものと認められる。
b N銀行株式の価額(株価)は、上記(ロ)のA及びBのとおり、平成4年7月31日における最終価格は1,320円であるところ、同年8月1日から同年9月30日までの間における株価の推移は、同年8月14日には1,260円まで下落したものの、同月31日には1,500円及び同年9月30日においては1,460円とそれぞれ株価が上昇していることが認められ、いずれも株価低下率は43.24ないし32.23パーセントであると認められる。
c N銀行の主要な財務諸表の状況は、上記(ロ)のCないしE及びLのとおり、平成4年3月期においては、経常利益及び当期純利益はいずれも前期に比して減少しているものの、経常収益、預金残高及び貸出金残高はいずれも前期に比して増加しており、1株当たり純資産額及び自己資本比率についても、前期に比して増加又は上昇していることが認められ、さらに、平成4年3月期及び前期において債務超過となっているという事実は認められず、平成4年4月1日から同年9月30日までの間において再建計画を策定することを要するような状態に至っているという事実も認められない。
d 上記aのとおり、請求人の主張する本件事業年度末におけるN銀行株式の株価低下率は40.54パーセントと認められるところ、請求人は、株式の購入手数料を含めて計算していないため、これを含めたところで再計算すると、本件事業年度末の評価換え後の帳簿価額とすべき金額は6,691,489円となり、これを基礎として算定した株価低下率は40.21パーセントとなるものと認められることから、本件事業年度末の当該株式の価額が評価換え直前の帳簿価額に比較して、おおむね50パーセント相当額以上を下回っているとは認められない。
 したがって、N銀行株式の価額(株価)については、近い将来においてその価額の回復が見込まれないものであるかどうかについては判断するまでもなく、法人税法施行令第68条第2号イに規定する「有価証券の価額が著しく低下したこと」には該当しないものと認められる。
(B)T銀行株式の評価損について
a 請求人は、T銀行株式については、平成2年7月30日に上記(イ)のA及びBのとおり、1株につき1,230円及び1,250円でそれぞれ取得し、本件事業年度末におけるその評価換え直前の帳簿価額は25,113,457円であるところ、本件事業年度末における1株当たりの買付け単価に相当する金額について、上記(イ)のCのとおり、当該株式の価額を670円に評価換えをしているが、上記の評価換え後の1株当たりの買付け単価に相当する株式の価額670円については、上記(ロ)のGのとおり、本件事業年度末におけるT銀行株式の最終価格679円(改定株価低下率45.55パーセント)によることが相当であり、当該最終価格を基に上記aと同様、購入手数料に相当する金額として173,457円を加えて当該株式の評価換え後の額とすべき金額を算定すると13,753,457円となり、これを基礎として算定した改定株価低下率は45.23パーセントとなる。
b T銀行株式の価額(株価)は、上記(ロ)のG及びHのとおり、本件事業年度末における最終価格は679円であるところ、平成4年8月1日から同年9月30日までの間における株価の推移は、同年8月5日に679円であったものが、同月13日には659円にまで下落したものの、同年9月30日においては760円まで上昇していることが認められ、いずれも、改定株価低下率は47.15ないし39.05パーセントであると認められる。
c T銀行の主要な財務諸表の状況は、上記(ロ)のIないしLのとおり、平成4年3月期においては、経常収益、経常利益及び当期純利益はいずれも前期に比して減少しているものの、預金残高、貸出金残高及び1株当たり純資産額はいずれも前期に比して増加し、自己資本比率についても前期に比して上昇していることが認められ、さらに、平成4年4月1日から同年9月30日までの間において再建計画を策定することを要するような状態に至っているという事実も認めらず、平成4年3月期及び前期において債務超過となっているという事実も認められない。
d T銀行株式の価額(株価)は、上記aのとおり、本件事業年度末における改定株価低下率は45.55パーセントと認められるところ、本件事業年度末における評価換え後の帳簿価額とすべき金額は13,753,457円となり、これを基礎とした改定株価低下率は45.23パーセントと認められることから、本件事業年度末の当該株式の価額が評価換え直前の帳簿価額に比較して、おおむね50パーセント相当額以上を下回っていると認めることが相当である。
 しかしながら、近い将来においてその価額の回復が見込まれないものであるかどうかについては、上記bのとおり、平成4年9月30日までの間において改定株価低下率が39.05パーセントまで回復していることが認められること及び上記cのとおり、平成4年3月期において財務内容の一部が悪化している事実は認められるものの、預金残高、貸出金残高及び1株当たり純資産額はいずれも前期に比して増加し、自己資本比率についても前期に比して増加していることに加え、平成4年3月期及び前期において債務超過となっているという事実は認められないことからみて、法人税法施行令第68条第2号イに規定する「有価証券の価額が著しく低下したこと」には該当しないと認められる。
B 以上の結果、本件評価損については、法人税法第33条第2項に規定する内国法人の有する資産につき災害による著しい損傷その他の政令で定める事実が生じたことにより、当該資産の価額がその帳簿価額を下回ることとなった場合には該当しないと認められ、また、原則として資産の評価損については、当該内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定しているところ、同条第2項に規定する特定の事実があった場合に例外的に資産の評価損が認められるのであるから、所得の金額の計算上、資産の評価損を損金の額に算入しようとする者が、その評価損を損金に算入し得る特定事実の存在について、具体的に証拠資料等を提出すべきであるところ、請求人は、上記(ロ)のMのとおり有価証券報告書総覧を提出するのみであり、T銀行株式の価額が近い将来回復が見込まれないものであることについて具体的な証拠を提出していないことと併せて判断すると、当該株式の価額がその帳簿価額を下回ることとなった場合に該当する事実を認めることができず、同条第2項に規定する資産の評価損として損金の額に算入できない。
C したがって、原処分庁が、本件評価損の金額16,304,946円について本件事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入することはできないとして行った更正処分は適法であり、違法・不当とは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には、いずれも理由がない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分
 以上のとおり、更正処分は適法であり、また、請求人には、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、原処分庁が同条第1項及び第2項の規定に基づいて行った過少申告加算税の賦課決定処分は相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2)法人特別税の決定処分について

 法人特別税については、原処分庁が更正の通知書により行った決定処分の手続については双方に争いがないところ、本件法人税の更正処分は上記(1)のとおり、適法であり、これに基づき、法人特別税の課税標準法人税額を1,061,000円及び法人特別税額を26,500円としてなされた法人特別税の決定処分は適法である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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