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(平8.1.26裁決、裁決事例集No.51 346頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、土木工事業を営む同族会社であるが、平成2年9月1日から平成3年8月31日までの事業年度(以下「平成3年8月期」という。)、平成3年9月1日から平成4年8月31日までの事業年度(以下「平成4年8月期」という。)及び平成4年9月1日から平成5年8月31日までの事業年度(以下「平成5年8月期」といい、平成3年8月期及び平成4年8月期と併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に次表のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。

(単位 円)
 <事業年度>
 平成3年8月期平成4年8月期平成5年8月期
<項目>
所得金額12,217,53316,922,70521,298,262
納付すべき税額3,337,6004,965,5006,518,400

 次いで、請求人は、原処分庁所属の職員の調査に基づき、平成5年8月期の法人税について、所得金額を22,044,465円、納付すべき税額を6,798,100円と記載した修正申告書を平成6年3月29日に提出したところ、原処分庁は、平成6年6月29日付で過少申告加算税の額を27,000円とする賦課決定処分をした。
 さらに、原処分庁は、平成6年6月29日付で本件各事業年度の法人税について、次表のとおり更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下、本件更正処分とこの過少申告加算税の賦課決定処分を併せて「本件更正処分等」という。)をした。

 請求人は、本件更正処分等を不服として、平成6年8月29日に審査請求をした。
 また、原処分庁は、平成6年6月29日付で平成3年5月、平成4年5月及び平成5年5月の各月分の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)について、次表のとおり納税告知処分(以下「本件納税告知処分」という。)及び不納付加算税の賦課決定処分(以下、本件納税告知処分と不納付加算税の賦課決定処分を併せて「本件納税告知処分等」という。)をした。

(単位 円)
<月分>平成3年5月分平成4年5月分平成5年5月分
<区分/項目>
納税告知処分
 所得の種類給与給与給与
 源泉所得税の額296,306504,552715,055
賦課決定処分
 不納付加算税の額29,00050,00071,000

 請求人は、本件納税告知処分等を不服として、平成6年8月29日に異議申立てをした。
 異議審理庁は、本件納税告知処分等に対する異議申立てについて、国税通則法第89条《合意によるみなす審査請求》第1項の規定により審査請求として取り扱うことが適当であると認め、平成6年9月9日付で請求人に同意を求めたところ、請求人は同月16日に同意したので、同日審査請求がされたものとみなされた。
 そこで、これらの審査請求について併合審理をする。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
 請求人は、請求人の役員及び使用人(以下「従事員」という。)による平成3年5月21日から同月25日までのシンガポールへの慰安旅行(以下「平成3年分旅行」という。)に係る費用2,387,000円、平成4年5月16日から同月20日までのアメリカ西海岸への慰安旅行(以下「平成4年分旅行」という。)に係る費用4,089,700円及び平成5年5月15日から同月19日までのカナダへの慰安旅行(以下「平成5年分旅行」といい、平成3年分旅行及び平成4年分旅行と併せて「本件各旅行」という。)に係る費用5,200,000円を全額負担し、これらの金額を本件各事業年度の福利厚生費として経理処理したところ、原処分庁は、本件各旅行に係る費用を当該旅行に参加した従業員に対する臨時的な給与と認定し、そのうち本件各事業年度の請求人の代表取締役E(以下「E」という。)に係る費用の額(平成3年8月期265,222円、平成4年8月期454,411円及び平成5年8月期577,777円)を、同人に対する役員賞与として本件各事業年度の所得金額にそれぞれ加算した。
 しかしながら、請求人が本件各事業年度に支出した本件各旅行に係る費用の額は、次に述べるとおり、福利厚生費として損金の額に算入すべきものであるから、Eに係る費用を役員賞与として、本件各事業年度の所得金額に加算すべきではない。
(イ)請求人の知る限りにおいては、従業員等による慰安旅行に係る費用を従業員等に負担させている企業はまれであり、大部分の企業が全額負担するか、僅少な額の従業員等の負担で実施しているのが実情である。
(ロ)請求人が実施した本件各旅行の場合、旅行費用の大部分は航空運賃に費やされているから、宿泊及び飲食等は決して豪勢なものではなく、請求人が負担した本件各旅行に係る費用は、福利厚生費として社会通念上一般的に妥当な金額である。
(ハ)平成2年4月の原処分庁の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)による請求人の調査の際、調査担当職員から、従業員等の慰安旅行に係る費用は福利厚生費として処理すれば全額損金の額に算入できる旨の説明があった。
 請求人は、その説明に従って本件各旅行に係る費用を福利厚生費として損金の額に算入したものであるから、これをEに対する役員賞与と認定した原処分は不当である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 前記イのとおり、本件更正処分はその全部を取り消すべきであるから、これに伴い過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。
ハ 本件納税告知処分について
 原処分庁は、請求人が負担した本件各旅行に係る費用を当該旅行に参加した従事員に対する臨時的な給与として本件納税告知処分をしたが、前記イで述べたとおり、本件各旅行に係る費用は、福利厚生費とすべきものであるから、従事員に対する給与とすべきではない。
ニ 不納付加算税の賦課決定処分について
 上記ハのとおり、本件納税告知処分は違法であるから、不納付加算税の賦課決定処分も違法であり、その全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由によりいずれも適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)原処分庁の調査によれば、次の事実が認められる。
A 請求人は、本件各事業年度において、次表のとおり、本件各旅行を実施し、F株式会社○○支店に対してその費用を支払っていること。

B 請求人は、上記Aの本件各旅行に係る費用の額を福利厚生費として、本件各事業年度の損金の額に算入していること。
C 本件各旅行には、いずれもEが参加していること。
(ロ)従業員等による慰安旅行は、使用者が社内の親睦、融和を図り、従業員等の勤労意欲を向上させ、事業を円滑に遂行する目的で行われる企業の福利厚生行事の一つであると解されている。
(ハ)ところで、所得税法第36条《収入金額》第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額をすべき金額は、その年分において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする旨規定しており、企業の役員又は従業員が、使用者たる企業から給与以外の名目の金銭や無償の便益等の供与を受けた場合、その金額の多寡にかかわらず、原則として給与所得として課税の対象とされることになる。
 しかし、役員又は使用人のレクリエーションのために社会通念上一般的に行われていると認められる福利厚生行事(例えば新年会、忘年会、ボーリング大会等)は、簡易なものが多く、参加者全員の希望を十分に満たすものばかりとはいえず、また、それにより受ける経済的利益の額も少額と認められることから、使用者がその行事の費用を負担した場合であっても、その参加による経済的利益については強いて課税しないこととしている。
 そして、従業員等慰安旅行(海外旅行を含む。)についても、この取扱いの一環として、その旅行の企画立案、主催者、旅行の目的・規模・行程、従業員等の参加割合、使用者及び参加従業員等の負担額及び負担割合などを総合的に勘案し、使用者の負担額が少額であり、かつ、次のいずれの要件も満たしている場合には、強いて課税しないこととしているのである。
A 旅行期間(目的地における滞在日数)が4泊5日以内のものであること。
B 全従業員の半数以上が参加するものであること。
(ニ)そこで、本件について検討してみると、本件各旅行はいずれも4泊5日以内のものではあるが、本件各旅行に係る費用の額を参加人数で除した参加者1人当たりの旅行費用の額は、平成3年5月分旅行265,222円、平成4年5月分旅行454,411円及び平成5年5月分旅行577,777円にものぼることとなる。
 そうすると、使用者がかかる高額な従業員等慰安旅行費用の全額を負担する福利厚生行事が、一般的に行われているとも、また、1人当たりの金額が課税上弊害のない少額なものであるとも到底認められないから、本件各旅行が前記(ハ)で述べた税務上の取扱いの対象となるものでないことは明らかであるので、原則に立ち返り、請求人が負担した本件各旅行に係る費用は、請求人が請求人の従業員に対して供与した経済的利益(臨時的な給与)となる。
(ホ)なお、過去の調査における調査担当職員の説明は、あくまでも課税しない経済的利益の範囲内での説明を行ったものであり、また、仮にその説明が十分でなかったとしても原処分を違法ならしめる理由となるものではない。
(ヘ)法人税法第35条《役員賞与等の損金不算入》第1項は、法人がその役員に対して支給する賞与の額は、その法人の各事業年度の所得金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定しているところ、前記(ニ)で述べたとおり、請求人が負担した本件各旅行に係る費用は、本件各旅行に参加した従事員に対する経済的利益の供与であり、臨時的な給与(賞与)に該当するから、本件各旅行に係る費用のうちEに係る費用の額は、同項の規定により本件各事業年度の損金の額に算入されない役員賞与として、本件各事業年度の所得金額に加算したものである。
 なお、本件各事業年度にEが請求人から供与を受けた経済的利益の金額は、本件各旅行の費用の額をそれぞれの参加人数で除した金額とするのが合理的であるから、平成3年5月分旅行265,222円、平成4年5月分旅行454,411円及び平成5年5月分旅行577,777円となる。
(ト)平成4年8月期及び平成5年8月期については、それぞれ直前の事業年度の所得金額が増加することに伴い、増加することとなる事業税の額(平成4年8月期31,800円及び平成5年8月期50,800円)がそれぞれ損金の額に算入される。
(チ)以上の結果、請求人の本件各事業年度の所得金額は、次表のとおりとなり、これらの金額は、本件更正処分に係る所得金額といずれも同額であるから、本件更正処分は適法である。

ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イの(チ)のとおり本件更正処分はいずれも適法であり、また、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づき行った過少申告加算税の賦課決定処分はいずれも適法である。
ハ 本件納税告知処分について
(イ)請求人の負担した本件各旅行に係る費用は、前記イの(ニ)で述べたとおり、本件各旅行に参加した従事員に対する臨時的な給与(賞与)であるから、当該従事員の給与所得に該当する。
(ロ)本件各旅行に参加した従事員に対する支給額は、本件各旅行の費用の額をそれぞれの参加人数で除して算出した金額(平成3年5月分265,222円、平成4年5月分454,411円、平成5年5月分577,777円)とするのが合理的であると認められるので、その金額を基に本件各旅行を実施した各月分の源泉所得税の額を計算すると次表のとおりとなり、これらの金額は、いずれも本件納税告知処分に係る源泉所得税の額と同額であるから、本件納税告知処分は適法である。

ニ 不納付加算税の賦課決定処分について
 上記ハの(ロ)のとおり本件納税告知処分は適法であり、また、請求人が源泉所得税を納付しなかったことについて、国税通則法第67条《不納付加算税》第1項に規定する正当な理由があるとは認められないから、不納付加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、請求人が支払った本件各旅行に係る費用がその旅行に参加した従事員に対する臨時的な給与に該当するか否かであるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。
(イ)請求人は、平成3年分旅行に係る費用2,387,000円、平成4年分旅行に係る費用4,089,700円及び平成5年分旅行に係る費用5,200,000円を負担し、これらの金額を本件各事業年度の福利厚生費として損金の額に算入していること。
(ロ)本件各旅行のすべてにEが参加していること。
(ハ)本件各旅行を担当した旅行代理店は、すべてF株式会社○○支店(以下「本件旅行代理店」という。)であること。
ロ 当審判所が原処分関係資料を調査したところ、次の事実が認められる。
(イ)本件旅行代理店が作成した旅行日程表によると、次のとおりであること。
A 平成3年分旅行は、観光を目的とした「シンガポール3泊5日の旅」であり、目的地における滞在日数が3泊4日である。
B 平成4年分旅行は、観光を目的とした「アメリカ西海岸・5日間の旅」であり、目的地における滞在日数が3泊4日である。
C 平成5年分旅行は、観光を目的とした「カナダ5日間の旅」であり、目的地における滞在日数が3泊4日である。
(ロ)本件旅行代理店が請求人に対して発行した領収証によれば、請求人は、本件各旅行に際し、本件旅行代理店に対して次表のとおり旅行代金等を支払っていること。

(単位 円)
旅行内容支払年月日金額
旅行代金傷害保険料
平成3年分旅行平成3年5月16日2,310,00077,000
平成4年分旅行平成4年5月26日4,089,700
平成5年分旅行平成5年5月12日5,200,000

(ハ)請求人は、原処分に係る原処分庁の調査(以下「本件調査」という。)の際、本件各旅行の参加者について、次表のとおり本件旅行代理店の添乗員を含めて各10名である旨を記載した「旅行参加者」と題するメモ(以下「旅行参加者メモ」という。)を原処分庁に提出していること。

平成3年分旅行平成4年分旅行平成5年分旅行
EEE
GGG
HHH
JJJ
KKK
LLL
MNN
PQR
SSP
添乗員添乗員添乗員

(ニ)請求人の本件各事業年度終了の日における資本の金額は、いずれも15,000,000円であること。
ハ 当審判所が、本件旅行代理店等を調査したところ、次の事実が認められる。
(イ)当審判所の本件旅行代理店に対する調査によれば、次のとおりであること。
A 平成3年分旅行の参加者は7名であり、旅行代理店の添乗員は同行していない。
B 平成4年分旅行の参加者は本件旅行代理店の添乗員を除いて9名である。
C 平成3年分旅行及び平成4年分旅行の参加者名を確認する資料の保存がない。
D 平成5年分旅行の参加者は本件旅行代理店の添乗員を除いて10名であり、(1)請求人の従業員であるP(以下「P」という。)及びN(以下「N」という。)は参加しておらず、(2)T、W及びXが参加している。
(ロ)当審判所の上記(イ)のDの(2)の3名に対する調査によれば、次のとおりであること。
A 請求人の同業者である有限会社Yの代表取締役T(以下「T」という。)は、当審判所に対し、請求人から無料で招待を受け平成4年分旅行及び平成5年分旅行に参加した旨答述している。
B Nの妹であるW(以下「W」という。)は、当審判所に対し、Nから頼まれて平成5年分旅行に参加したが、旅行費用を一切負担していない旨答述している。
C 請求人の取引先の従業員であるX(以下「X」という。)は、当審判所に対し、請求人から招待を受け勤務先に了解をとり、平成5年分旅行に参加した旨答述している。
ニ Eは、当審判所に対し、次のとおり答述している。
(イ)本件各旅行は、従事員の慰安及び確保が目的であり、全従事員を対象として実施したこと。
(ロ)本件各旅行への参加については、参加資格の制限はなく、個人的に日程の都合の悪い者が不参加となること。
(ハ)本件各旅行に参加しなかった従事員については、特に何も手当てしていないこと。
(ニ)平成4年分旅行及び平成5年分旅行には本件旅行代理店の添乗員が同行し、平成3年分旅行には同行していないこと。
(ホ)旅行参加者メモは、請求人の経理担当者が記憶に基づいて作成したものであること。
(ヘ)旅行参加者メモには、次のとおり誤りがあること。
A 平成3年分旅行に請求人の従業員であるS(以下「S」という。)は参加していない。
B 平成4年分旅行について
(A)請求人の従業員であるJ(以下「J」という。)は旅行直前に△△県で不幸があったため参加できず、同人の代理として同人の友人であるZ(以下「Z」という。)が参加している。
(B)Tが参加している。
(C)Sは参加していない。
C 平成5年分旅行について
(A)PとNは参加していない。
(B)Nの代理としてWが参加している。
(C)T及びXが参加している。
(ト)Tには当社の積算の仕事を手伝ってもらっており、Xには官公庁の工事の際に主任技術者として当社の現場に来てもらっていたので、両名から旅行代金を受け取っていない。
ホ 請求人が、当審判所に対して平成7年10月6日に提出した本件各旅行に参加した者の名簿によれば、次の事実が認められる。
(イ)平成3年分旅行には、P及びSは参加しておらず、参加者は7名であること。
(ロ)平成4年分旅行には、Z(Jの代理)及びTが参加しており、Sは参加しておらず、参加者は9名であること。
(ハ)平成5年分旅行には、W(Nの代理)、X及びTが参加しており、Pは参加しておらず、参加者は10名であること。
ヘ ところで、所得税法第36条第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする旨規定しており、従業員等が、使用者から給与以外の名目の金銭や無償の便益等の供与を受けた場合、その金額の多寡にかかわらず、原則として給与所得に係る収入金額となる。
 このことは、使用者が負担するレクリエーション等の福利厚生行事において、経済的利益の供与を受けた場合も同様であるが、(1)従業員等は、雇用されている関係上、必ずしも希望しないレクリエーション行事に参加せざるを得ない面があり、その経済的利益を自由に処分できるわけでもないこと、(2)レクリエーション行事に参加することによって従業員等が受ける経済的利益の価額は少額であるのが通常である上、その評価が困難な場合も少なくないこと及び(3)従業員等の慰安を図るため使用者が費用を負担してレクリエーション行事を行うことは一般化しており、当該レクリエーション行事が社会通念上一般的に行われていると認められる場合には、あえて課税しないことと解するのが相当である。
 また、従業員等の慰安旅行は、運動会、演芸会、新年会、忘年会等レクリエーション行事と同様、従業員等の慰安、社内の親睦・融和及び人間関係の緊密化等を図るとともに、勤労意欲の向上を目的として行われる福利厚生行事の一つであるところ、従業員等の慰安旅行が社会通念上一般的に行われていると認められるレクリエーション行事であるか否かの判断に当たっては、当該旅行の企画立案、主催者、旅行の目的・規模・行程、従業員の参加割合、使用者及び参加従業員の負担額、両者の負担割合等を総合的に考慮すべきであるが、上述したあえて課税しないことの趣旨からすれば、参加従業員の受ける経済的利益の価額、すなわち使用者の負担額が重視されるべきである。
 したがって、経済的利益の価額が多額であれば、あえて課税しないとする根拠を失うと解するのが相当である。
ト 法人税法第35条第1項は、内国法人がその役員に対して支給する賞与の額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しないと規定し、同条第4項には、同条第1項に規定する賞与とは、役員又は使用人に対する臨時的な給与(債務の免除による利益その他の経済的な利益を含む。)のうち、他に定期の給与を受けていない者に対し継続して毎年所定の時期に定額(利益に一定の割合を乗ずる方法により算定されることとなっているものを除く。)を支給する旨の定めに基づいて支給されるもの及び退職給与以外のものをいう旨規定している。
チ 前記イないしホの事実を前記へ及びトに照らして判断すると、次のとおりである。
(イ)本件各旅行の参加人員は別表1記載のとおり、平成3年分旅行は7名、平成4年分旅行は9名及び平成5年分旅行は10名であり、いずれの年においてもEが参加していることが認められる。
 また、本件各旅行の参加者一人当たりの費用の額は、請求人が負担した本件各旅行の費用の合計額を参加人員で除した金額とするのが合理的であると認められるので、この方法により本件各旅行に係る参加者一人当たりの費用の額を算出すると、次表のとおりとなる。

(単位 円、人)
旅行内容請求人の負担額参加人員1人当たりの金額
平成3年分旅行2,387,0007341,000
平成4年分旅行4,089,7009454,411
平成5年分旅行5,200,00010520,000

(ロ)さらに、従業員等の慰安旅行が社会通念上一般的に行われている福利厚生行事に当たるか否かの判断に当たっては、前記ヘのとおり使用者の負担額等により総合的に判断すべきであると解するのが相当であるところ、本件各旅行は、従事員の慰安等を目的とした観光旅行であるが、本件各旅行において請求人が負担した参加者一人当たりの金額は、上記(イ)のとおり平成3年分旅行341,000円、平成4年分旅行454,411円及び平成5年分旅行520,000円であり、前記ヘで述べたあえて課税しない趣旨からすれば当該金額は多額であることが認められるから、本件各旅行が社会通念上一般的に行われている福利厚生行事と同程度のものとは認められない。
(ハ)そうすると、請求人は、本件各旅行の実施によって、本件各旅行の参加者に対して、それぞれ前記(イ)の一人当たりの金額に相当する経済的利益を供与したと認められるので、従事員に係る費用は当該従事員に対して所得税法第28条《給与所得》第1項に規定する給与等を支給し、取引先の役員及び従業員に係る費用は租税特別措置法(平成6年法律第22号による改正前のもの。以下同じ。)第62条《交際費等の損金不算入》第3項に規定する交際費等を支出したと認めるのが相当である。
 この場合において、従事員に対する給与等は臨時的な給与と認められるので、法人税法第35条第4項に規定する賞与に該当する。
 なお、本件各旅行に従事員の代理で参加した者については、請求人の従事員の妹及び友人であり請求人とは何ら関係がなく、当該従事員の個人的な事情に基づく依頼により当該従事員の代理として参加したものであるので、本件各旅行による経済的利益はいったん当該従事員が請求人から享受してその友人及び妹に贈与したと認められるから、本件各旅行に当該従事員の代理で参加した者に係る費用は請求人から当該従事員に対する経済的利益の供与と認めるのが相当である。
 したがって、請求人はEに対して前記(イ)の一人当たりの金額(平成3年分旅行341,000円、平成4年分旅行454,411円及び平成5年分旅行520,000円)の役員賞与を支給したことになるので、当該金額は法人税法第35条第1項の規定により本件各事業年度の損金の額に算入することができない。
リ 請求人は、従業員等の慰安旅行に係る費用を従業員等に負担させている企業はまれであり、大部分の企業が全額負担しているか又は僅少な額の従業員等の負担で実施しているのが実情であるから、Eに係る費用は役員賞与ではない旨主張するが、請求人からは、この点に関する具体的な資料の提出がなく、当審判所の調査によってもこれを相当とする証拠資料等は認められないから、この点に関する請求人の主張を採用することはできない。
ヌ 請求人は、本件各事業年度に支出した本件各旅行に係る費用は、福利厚生費として社会通念上一般的に妥当な金額であり、福利厚生費として全額損金の額に算入すべきであるから、Eに係る費用は役員賞与ではない旨主張するが、前記チの(ロ)及び(ハ)のとおり、請求人が負担した参加者一人当たりの金額は多額であり、本件各旅行に参加した従事員の受けた経済的利益の額が社会通念上一般的に行われている福利厚生行事と同程度の金額とは認められないから、請求人が負担したEに係る費用は役員賞与であると認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ル 請求人は、平成2年4月の原処分庁の調査の際、調査担当職員は、従業員等の慰安旅行に係る費用は福利厚生費として処理すれば全額損金の額に算入できる旨の説明をしたにもかかわらず、本件各旅行におけるEに係る費用を同人に対する役員賞与と認定した原処分は不当である旨主張するが、当審判所の調査によれば、当該調査担当職員に対する質問は、請求人も認めるとおり、具体的に資料等を提示したものではなく、口頭でされた一般的なものであり、また、調査担当職員の説明は一般的な従業員等の慰安旅行に関する取扱いにとどまることが認められるから、この点に関する請求人の主張を採用することはできない。
ヲ 以上の結果、請求人の各事業年度の所得金額は、次のとおりとなる。
(イ)損金の額に算入されない役員賞与の額
 前記チの(ハ)のとおり、本件各旅行において請求人がEに供与した経済的利益の額(平成3年分旅行、341,000円、平成4年分旅行454,411円及び平成5年分旅行520,000円)は、役員賞与の額と認められるから、当該金額は本件各事業年度の損金の額に算入されない。
(ロ)交際費等の損金不算入額
 前記チの(ハ)のとおり、本件各旅行において請求人が取引先の役員及び従業員に供与した経済的利益の額(平成4年分旅行454,411円、平成5年分旅行1,040,000円)は、交際費等の額と認められるので、これらの金額を請求人の確定申告に係る交際費等の額に加えたところ、請求人の支出交際費等の額は平成4年8月期1,393,632円及び平成5年8月期2,526,595円となり、いずれも請求人に係る定額基準額3,000,000円に満たないから、平成4年8月期及び平成5年8月期における交際費等の損金不算入額は生じない。
(ハ)損金の額に算入される事業税の額
 原処分庁は、それぞれ直前の事業年度の所得金額が増加することに伴い、増加することとなる事業税の額を平成4年8月期31,800円及び平成5年8月期50,800円と算定していると認められるところ、当審判所の調査によっても原処分庁の認定額は相当と認められる。
(ニ)所得金額
 以上の結果、請求人の本件各事業年度の所得金額は、次表のとおりとなり、平成3年8月期及び平成4年8月期の所得金額は、更正処分に係る所得金額と同額か又はこれを上回るから平成3年8月期及び平成4年8月期の更正処分は適法であり、平成5年8月期の所得金額は、更正処分に係る所得金額を下回ることとなるから、平成5年8月期の更正処分はその一部を取り消すべきである。

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(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 過少申告加算税の賦課決定処分については、請求人には、確定申告の税額を計算するに当たり、原処分庁が過少申告加算税の基礎とした税額のうち一部取消しにより減額される部分以外の税額に係る事実を確定申告の税額の計算の基礎としなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 したがって、原処分庁が過少申告加算税の計算の基礎とした税額のうち当該減額される部分以外の税額を基礎とする部分に係る過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
 ところで、平成5年8月期については、過少申告加算税の計算の基礎となる税額は170,000円であるから過少申告加算税の額は17,000円となるところ、この金額は、賦課決定処分に係る金額19,000円に満たないから、過少申告加算税の賦課決定処分はその一部を取り消すべきである。

(3)本件納税告知処分について

イ 請求人は、本件各旅行に係る費用は、福利厚生費とすべきであり、従事員に対する臨時的な給与とすべきではない旨主張する。
 しかしながら、前記(1)のチの(ハ)で述べたとおり、請求人が負担した本件各旅行に係る費用は、取引先の役員及び従業員に対する費用を除き、従事員に対する臨時的な給与と認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ ところで、原処分庁は、本件各旅行に参加した者の平成3年5月、平成4年5月及び平成5年5月の各月分の源泉所得税を別表2の「原処分庁」欄のとおり算定し、それに基づいて本件納税告知処分をしていることが認められるところ、当審判所の調査によれば、本件各旅行に参加した者は前記(1)のチの(イ)のとおりであり、本件納税告知処分には次のとおり事実誤認が認められる。
(イ)平成3年分旅行には、P及びSの2名が参加していないことから、両名に対する臨時的な給与の額は生じない。
(ロ)平成4年分旅行には、Sが参加していないことから、同人に対する臨時的な給与の額は生じない。
(ハ)平成5年分旅行には、Pが参加していないことから、同人に対する臨時的な給与の額は生じない。
ハ そこで、当審判所がこれらを補正して再計算したところ、各月分の源泉所得税の額は、別表2の「審判所」欄のとおりとなり、平成3年5月分の源泉所得税額は納税告知処分に係る源泉所得税額を上回るから平成3年5月分の納税告知処分は適法であり、平成4年5月分及び平成5年5月分の源泉所得税額は納税告知処分に係る源泉所得税額を下回ることとなるから、平成4年5月分及び平成5年5月分の納税告知処分はその一部を取り消すべきである。

(4)不納付加算税の賦課決定処分について

 請求人は、平成3年5月分、平成4年5月分及び平成5年5月分の源泉所得税の納付に当たり、原処分庁が不納付加算税の計算の基礎とした税額のうち一部取消しにより減額される部分以外の税額に係る事実を納付すべき税額の計算の基礎としていないことについて、国税通則法第67条第1項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 したがって、当該減額される部分以外の税額を計算の基礎とする部分に係る不納付加算税の賦課決定処分は適法である。
 ところで、不納付加算税の基礎となる税額は平成4年5月分460,000円及び平成5年5月分590,000円であるから、不納付加算税の額は平成4年5月分46,000円及び平成5年5月分59,000円となるところ、これらの金額は、平成4年5月分の賦課決定処分に係る金額50,000円及び平成5年5月分の賦課決定処分に係る金額71,000円を下回るから、平成4年5月分及び平成5年5月分の不納付加算税の賦課決定処分の一部を取り消すべきである。

(5)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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