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(平8.3.27裁決、裁決事例集No.51 460頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、飲食店業を営む同族会社であるが、原処分庁は、平成4年8月28日付で、平成元年8月から平成4年3月までの各月分の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)について、別表1「内国法人に支払う報酬又は料金に対する源泉所得税」及び別表2「非居住者の国内源泉所得に対する源泉所得税」のとおりの各納税告知処分及び不納付加算税の各賦課決定処分をした。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成4年9月28日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年12月24日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成5年1月22日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
イ 源泉所得税の納税告知処分について
(イ)芸能人の役務の提供を内容とする事業を行う内国法人に支払う報酬に係る源泉所得税について
 原処分庁は、請求人が平成2年10月から平成4年2月までの間(以下「甲の支払期間」という。)に有限会社G(所在地、P市S町、以下「G社」という。)へ支払った金員30,531,020円は芸能人の役務の提供を内容とする事業に係る報酬であるから、所得税法第174条《内国法人に係る所得税の課税標準》第10号に規定する役務の提供に関する報酬(以下「内国法人の役務の提供に関する報酬」という。)に該当するとして、源泉所得税の額を3,053,101円とする納税告知処分(以下「甲の納税告知」という。)をした。
 しかしながら、次に述べるとおり、内国法人の役務の提供に関する報酬に該当する金額は、6,360,000円であるから、請求人が源泉徴収すべき所得税の額は6,360,000円の10パーセントに相当する636,000円であり、当該税額を超える納税告知の税額2,417,101円を取り消すべきである。
A 請求人は、□□国籍の芸能タレント(以下「芸能タレント」という。)を出入国管理及び難民認定法(以下「出入国管理法」という。)の規定に基づき本邦へ招へいする業務に従事する者(以下「招へい業者」という。)であるG社との間に、芸能タレントの舞踊、歌唱、演奏等を内容とする興行の請負契約を締結し、その契約に基づき、G社に対して次の(A)の招へい業務に対する報酬、(B)の芸能タレントの報酬及び(C)の芸能タレント報酬の源泉所得税相当額の合計額47,499,559円を甲の支払期間に支払っているが、次の(B)の芸能タレントの報酬金額32,389,559円及び(C)の芸能タレント報酬の源泉所得税相当額8,750,000円(以下「源泉所得税相当額」という。)は、内国法人の役務の提供に関する報酬に該当しない。
(A)招へい業務に対する報酬
 請求人とG社との関係は、請求人がG社に対して出入国管理法に規定する芸能タレントの本邦への入国及び在留期間の更新手続等の業務(以下「招へい業務」という。)やG社が入国させた芸能タレントの請求人の店舗への派遣を依頼する請負関係にある。
 請求人は、上記の招ヘい業務の報酬として甲の支払期間に芸能タレント1人当たり月額30,000円を基準として総額で6,360,000円をG社へ支払った。
(B)芸能タレントの報酬
 請求人は、G社との請負契約に基づき、甲の支払期間に芸能タレントの役務の提供(ただし、後述の(ロ)を除く。)に対する報酬として32,389,559円をG社に支払った。
 原処分庁は、当該報酬の一部に係る源泉所得税について、G社に対する内国法人の役務の提供に関する報酬になるとして納税告知をしていると認められるが、次の(C)で述べるように芸能タレントの源泉所得税相当額として事実上国に納付していることになるから、納税告知処分の対象とはならない。
(C)源泉所得税相当額
 請求人が芸能タレントの招へい業務を依頼しているG社では、芸能タレントの本邦への在留期間の更新手続等を行う場合、その申請書類の添付書類として当該芸能タレントが月額200,000円以上の報酬を受けていることの証明書を関係官公庁に提出することになっている。
 その場合、G社では、当該芸能タレントに支払われている実際の報酬にかかわらず、当該報酬を月額200,000円として、また、その報酬は所得税法上非居住者に対する報酬であるから同報酬の20パーセントに当たる40,000円の源泉所得税を納付することにより当該証明書としている。
 このような事情から、請求人は、甲の支払期間における芸能タレント報酬に係る源泉所得税相当額として8,750,000円をG社に預け、結局、請求人は上記(B)の芸能タレントの報酬に係る源泉所得税をG社を通じて国に納付してもらっているものである。
B 請求人がG社に支払った金額に、上記(A)の報酬以外の上記(B)の芸能タレントの報酬や上記(C)の芸能タレントの源泉所得税相当額が含まれているのは、出入国管理法第7条第1項第2号の基準を定める省令(以下「法務省令」という。)の規定に従ったためである。
(ロ)非居住者の国内源泉所得について
 原処分庁は、請求人が平成元年8月から平成4年3月までの間(以下「乙の支払期間」という。)、芸能タレントに対して芸能タレントの売上成績に応じて支払った金額(以下「ドリンク・バック」という。)は、所得税法第161条《国内源泉所得》第8号イに規定する報酬、給与、賃金、歳費、賞与又はこれらの性質を有する給与その他人的役務の提供に対する報酬(以下「給与又は報酬」という。)に該当するとして、国内源泉所得の金額を12,336,173円、源泉所得税の額を2,467,231円とする納税告知(以下「乙の納税告知」という。)をした。
 しかしながら、請求人が支払ったドリンク・バックは、芸能タレントへの給与又は報酬でなく、次に述べるとおり本来請求人が負担すべき芸能タレントの最低生活費や福利厚生費などを芸能タレントが立て替えて支出した金員の精算として支払ったものであり、課税される所得ではないから乙の納税告知の全部を取り消すべきである。
A 芸能タレントは、請求人の店舗において請求人とG社との請負契約に基づく舞踊等の興行に従事するほか、請求人の従業員として請求人の売上げに協力するためのサービス業務に従事しており、請求人は、使用者として芸能タレントの労務の効率を高めるためなどの諸経費が必要となる。
 労働関係法令では、使用者に対して、従業員の労務に関して支出せざるを得ない諸経費について、その全額の負担を命じているものと解されているところ、請求人が支払ったドリンク・バックは、本来請求人が負担すべき芸能タレントの最低生活費や福利厚生費を芸能タレントが立替支出した金員の精算として支払ったものである。
 これに対し原処分庁は、請求人がドリンク・バックを支払っていることを根拠に、芸能タレントに対する給与又は報酬であると認定しているが、請求人がそうした方法をとっているのは、芸能タレントへ支払うべき金額の算定基準の一方法として採用しているだけのことであって、芸能タレントが支出した立替金の精算を確実にするための手段にすぎない。
B 上記のとおり、芸能タレントに対する労務上の諸経費については、もともと使用者が負担すべきものであり、芸能タレントらが使用者に代わっていったん立て替えて支払った場合には、当然使用者は当該金額を返済(精算)すべきことになり、仮に、請求人が支払ったドリンク・バックが一時的に芸能タレントの収入になるとしても芸能タレントにおいては収入と支出が同額であるから、何ら経済的利益は発生せず、したがって課税関係も生じない。
ロ 不納付加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、納税告知処分はその一部を取り消すべきであるから、これに伴い、不納付加算税の各賦課決定処分もその一部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 源泉所得税の納税告知処分について
(イ)芸能人の役務の提供を内容とする事業を行う内国法人に支払う報酬に係る源泉所得税について
 原処分庁の調査担当職員がG社の備付帳簿を調査したところ、請求人が甲の支払期間にG社に支払った金額は、30,531,020円であることが認められ、当該金額は、芸能タレントの役務の提供に関する対価たる性質を有するものであるから、所得税法第174条第10号に規定する内国法人の役務の提供に関する報酬に該当する。
 なお、請求人は、G社に支払った金額を(1)招ヘい業務に対する報酬、(2)芸能タレントの報酬、(3)源泉所得税相当額と区分して支払った旨主張するが、そのような事実は認められない。
 したがって、請求人が甲の支払期間にG社へ支払った金額30,531,020円に対する源泉所得税の額は、請求人が甲の支払期間にG社へ支払った各月の合計金額に所得税法第213条《徴収税額》第2項第3号に規定する10パーセントの税率を乗じて算出した各月の合計額3,053,101円となる。
 そして、内国法人に対して所得税法第174条第10号に掲げる報酬の支払をする者は、所得税法第212条《源泉徴収義務》第3項の規定により、その支払の際、当該報酬について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月の10日までに、これを国に納付しなければならないと規定しているから、これに基づいて行った甲の納税告知は適法である。
(ロ)非居住者の国内源泉所得について
A 請求人は、請求人が支払ったドリンク・バックは芸能タレントの給与又は報酬でなく、本来請求人が負担すべき芸能タレントの最低生活費や福利厚生費など芸能タレントが立替支出した金員に対する精算金であり、仮に、ドリンク・バックが一時的に芸能タレントの収入になるとしても、収入と支出が同額であることから課税関係は生ぜず、乙の納税告知を取り消すべきであると主張する。
 しかしながら、請求人は、各事業年度の所得計算において支払ったドリンク・バックを福利厚生費などとしてでなく、上記(1)のイの(イ)のAのG社に支払った金額と同様の勘定科目であるタレント経費として損金に算入しており、芸能タレントが立替支出した分の精算として処理していない。
 請求人が支払ったドリンク・バックは、芸能タレントの役務の提供において一定額以上の成績等をあげた者に対する対価としての支払であり、したがって請求人が乙の支払期間に支払ったドリンク・バック9,868,942円は、所得税法第161条第8号イに規定する給与又は報酬に該当する。
B 請求人は、ドリンク・バックを支払う際、源泉徴収義務者として徴収すべき税額を徴収しないまま支払っているので、ドリンク・バック9,868,942円は、税引後の手取金額と認められるから、当該手取金額に対応する所得税相当額2,467,231円を加算した12,336,173円が国内源泉所得となる。
C 所得税法第212条第1項は、非居住者に対し国内において所得税法第161条第8号イに掲げる国内源泉所得の支払をする者は、その支払の際、これらの国内源泉所得について所得税法第213条第1項第1号に規定する20パーセントの税率により所得税を徴収し、これを国に納付しなければならないと規定している。
 したがって、乙の納税告知も適法である。
ロ 不納付加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、甲の納税告知及び乙の納税告知は適法になされており、また、請求人が源泉所得税を法定納期限までに納付しなかったことについて、国税通則法(以下「通則法」という。)第67条《不納付加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから不納付加算税の賦課決定処分も適法である。

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3 判断

 請求人がG社に支払った金員が内国法人の役務の提供に関する報酬に該当するか否か及び請求人が非居住者に対して支払ったドリンク・バックが芸能タレントの国内源泉所得に該当するか否かに争いがあるので、以下審理する。

(1)源泉所得税の納税告知処分について

イ 芸能人の役務の提供を内容とする事業を行う内国法人に支払う報酬に係る源泉所得税について
 請求人は、甲の支払期間にG社へ支払った金額は47,499,559円であり、当該金額のうち内国法人の役務の提供に関する報酬に該当する金額は6,360,000円であるから、当該報酬に係る源泉所得税の額636,000円を超える納税告知の額2,417,101円を取り消すべきであると主張するので、この点について審理する。
(イ)次のことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
A G社は、出入国管理法第7条の2《在留資格認定証明書》第2項に規定する代理人として法務省令に定める芸能タレントを招へいする資格を有すること。
B G社は、芸能タレントの招へい業務を行う法人として請求人との請負契約に基づき芸能タレントを請求人の店舗に派遣して興業を行っていること。
C 請求人は、甲の支払期間においてG社が本邦へ入国手続した芸能タレントを請求人の店舗に出演させていること。
D 請求人は、出入国管理法に規定する芸能タレントの招へい業者の資格を有していないこと。
E 請求人は、G社に支払った金員に対して源泉所得税を納付していないこと。
(ロ)請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 請求人とG社で交わしている請負契約の内容について
 請求人(注文者、出演先)甲とG社(請負人)乙は、芸能タレントを請求人の店舗へ派遣する都度、次の内容の請負契約(以下「本件請負契約」という。)を締結し、請負契約書(以下「本件請負契約書」という。)を作成し、G社はそれに基づき請求人の店舗での興行を行っていること。
(1)甲は、乙に対して芸能タレント○○○(タレント名)の舞踊、歌唱、演奏を内容とする興行を依頼し、乙はこれを請け負う。
(2)乙は、甲に対し前項の業務の遂行業務を負い、甲は乙の遂行業務に必要な協力義務を負う。
(3)本契約に基づき甲が乙に支払う請負代金は(月額)○○○○円とする。
(4)甲は、乙に対し前項の金額を毎月末までに支払う。
(5)本契約の期間は、平成○年○月○日から平成○年○月○日までとする。
(6)乙は、その雇用する芸能タレントを前項に定める期間、出演先において、1日3回○時間出演させる。
(7)乙は、その雇用する芸能タレントの興行の方法等に関する指示その他の管理を自ら行い、直接芸能人に対する指導命令を行う。
(8)乙は、芸能タレントの出演時間、休日、休暇等に関する指示その他の管理を自ら行う。
(9)乙は、本契約の履行に当たり、乙が立案した業務処理計画に基づき、芸能タレントを適正に配置し、かつ、芸能タレントの指導監督及び教育指導を行い、その秩序の維持、確保等のための指示その他の管理を自ら行う。
(10)乙は、雇用者及び使用者として乙の雇用する芸能タレントに対する労働関係法等の法令に関する責任を負い、責任を持って労務管理を行う。
(11)甲は、本契約に関する注文、指示等については、乙に対して行い、芸能タレントに対する指示等は行わない。
(12)甲は、本契約履行に従事する乙の雇用する芸能タレントのための控室を乙に提供するものとする。
(13)本契約業務の処理中乙(乙の雇用する芸能人を含む。)の責めに帰すべき事由により、甲又は第三者に与えた損害に対し、乙は損害賠償の責任を負う。
B 請求人がG社に支払った金額について
(A)原処分庁の認定額について
a 原処分庁は、請求人が甲の支払期間にG社に対して支払った金額をG社の備付帳簿により別表3「内国法人への支払報酬金額」の「原処分庁認定額1」欄のとおり、30,531,020円を把握して当該金額を内国法人の役務の提供に関する報酬としたこと。
b 原処分庁は、上記aの金額30,531,020円に、甲の支払期間の各月の金額を課税標準の額として所得税法第213条第2項第3号に規定する税率10パーセントを乗じて求めた各月の合計金額3,053,101円を源泉所得税の額として納税告知をしていること。
(B)請求人の記帳状況等について
a 請求人は、G社へ支払った金額47,499,559円を請求人が備える帳簿等に基づいて把握して算定した計算書を当審判所に提出していること。
b 当審判所が、請求人の総勘定元帳、領収証等の証拠資料及び請求人が提出した計算書を基に調査した結果、請求人がG社に支払った金額は、別表3の「審判所認定額3」欄の47,499,559円であること。
c 請求人の帳簿を調査すると、G社への支払金額は、「サービス費」の勘定科目に記載され、その「摘要」欄には「G社」又は「タレント費用」として一括して記載されており、請求人が主張する前記2の(1)のイの(イ)のAの(A)、(B)及び(C)の区分については明確になっていないこと。
d 請求人が提出したG社からの領収証を検討すると、「タレント招へい費用として」、「タレント出演料として」、「タレント給与として」等のただし書があり、その一部に「タレント源泉」とのメモ書があるものがあるが、請求人が主張する前記2の(1)のイの(イ)のAの(A)、(B)及び(C)の区分については、上記c同様明確になっていないこと。
C 芸能タレントの報酬に係る源泉所得税について
 G社は、芸能タレントの報酬に係る源泉所得税を納付していること。
(ハ)請求人の代表者H(以下「H」という。)は、当審判所に対し次のとおり答述している。
A 芸能タレントについて
(A)G社は、出入国管理法の規定に基づき、請求人の店舗へ出演させる芸能タレントの本邦への入国手続等の業務を行っている。
(B)芸能タレントの、本邦への入国等については、出入国管理法第2条の2《在留資格及び在留期間》の規定が適用され、同法に規定する在留資格の事由は「興行」で、在留期間は3か月である。なお、在留期間は、ほとんどの芸能タレントが1回更新することから事実上の滞在期間は6か月になる。
B G社に対する支払金額について
 請求人が甲の支払期間にG社へ支払った金額は、次の(A)ないし(C)の合計金額47,499,559円である。
(A)招へい業務に対する報酬
 請求人は、甲の支払期間にG社に対し芸能タレントの招へい業務に係る報酬を芸能タレント1人当たり月額30,000円として計算したところの総額6,360,000円を支払った。
(B)芸能タレントの報酬
 請求人は、便宜上雇用主であるG社に代わって、直接芸能タレントへ32,389,559円の報酬を支払ったが、会計帳簿上はG社への支払として処理している。
(C)源泉所得税相当額
 請求人は、芸能タレントの報酬に係る源泉所得税相当額として、G社へ芸能タレント1人当たり月額40,000円(一部の月で月額30,000円)として総額で8,750,000円を預けた。
 法務省令では、申請人(芸能タレント)が本邦において、演劇、舞踊等の興行に係る活動に従事する場合、同申請人が月額200,000円以上の報酬を受けなければならない旨定めている。
 そこで、請求人が芸能タレントの招へい業務等を依頼しているG社では、芸能タレントの本邦への在留期間の更新手続等の場合、その申請書類の添付書類として、当該芸能タレントが月額200,000円以上の報酬を受けていることの証明書を関係官公庁に提出する際、業務上当該報酬を月額200,000円として、また、その報酬は所得税法上非居住者に対する報酬であるから同報酬の20パーセントに当たる40,000円の源泉所得税を納付することにより当該証明書としている。
 このような事情から、請求人は、甲の支払期間における芸能タレント報酬に係る源泉所得税相当額8,750,000円をG社に預け、実質的に上記(B)の芸能タレントの報酬に係る源泉所得税をG社を通じて国に納付してもらっているものである。
(ニ)G社の△△営業所長J(以下「J」という。)は、当審判所に対し次のとおり答述している。
A 本件請負契約書について
 G社と請求人は、芸能タレントの本邦への入国手続等に必要なため、芸能タレントの興行の都度請負契約書を作成している。
 本件請負契約書の内容については、実際の取引内容どおりである。
B 招ヘい業務に係る報酬について
 G社は、請求人から芸能タレント1人当たり月額70,000円を報酬として受領することになっているが、その場合、請求人において当該報酬に係る源泉所得税額10パーセントを控除した後の63,000円を小切手で受領している。
 なお、芸能タレントの在留期間を更新するためには、芸能タレントごとに最低40,000円の源泉所得税の納付証明書を添付する必要がある。
 このためG社は、請求人が主張する当該源泉所得税相当額を含めて請求人から芸能タレント1人当たり月額70,000円を報酬として受領している。
C 芸能タレントの報酬について
 G社が入国手続をして請求人へ送り込んだ芸能タレントの報酬は、請求人が実務上直接当該タレントに支払っているが、会計帳簿上は、いったん、G社が当該報酬を受け、当該芸能タレント報酬を売上勘定に計上し、G社が芸能タレントに報酬を支払ったことにし、併せてこれらに係る源泉所得税を国に納付している。
 その場合、G社は、請求人から芸能タレントが報酬を受領した旨のサインのある支払明細書を発行させて確認し、請求人に対しては、G社が当該報酬を受領したことの証拠として領収書を発行している。
(ホ)以上の事実及び答述に基づき検討すると、次のとおりである。
A G社との請負契約等について
(A)G社は、前記(イ)のAのとおり外国人の本邦への入国等に関する出入国管理法上の芸能タレントの招へい業者の資格を有しており、芸能人の役務の提供を内容とする事業を行う内国法人である。
 請求人は、G社と芸能タレントの興行の契約に関して、前記(ロ)のAのとおり本件請負契約書を作成している。
 これらの事実及び本件請負契約書並びにH及びJの答述によれば、芸能タレントの出演については、G社と芸能タレントの間に雇用関係があることは明らかである。
(B)本件請負契約書は、請求人を甲(注文者、出演先)とし、G社を乙(請負人)として作成され、その内容はG社が芸能タレントの興行(芸能タレントの舞踊、歌唱、演奏)を請け負うものとなっている。
 したがって、本件請負契約の内容が、興行に対する報酬と招へい業務に対する報酬とに区分されたものとはなっていないことが認められる。
 そうすると、本件請負契約の基づく報酬の支払は、興行請負の対価として請求人からG社へ支払われたものと認められ、芸能タレントへの出演料の支払は、実務上請求人から直接支払われているとしても、実質的にはG社が芸能タレントの雇用者又は使用者として出演料を支払っているものと認められる。
(C)前記(ニ)のBによると、G社に対する芸能タレントの招へい業務に対する報酬は、芸能タレント一人当たり月額70,000円であり、その内容とするところは、芸能タレントの招へい業務に対するものとしておおむね30,000円、芸能タレント在留期間の更新手続に当たり必要な源泉徴収税額の納付額としておおむね40,000円である旨Jは答述しているが、前記(ハ)のBの(C)の源泉所得税相当額に関するHの答述と併せ考えると、本件請負契約に基づく報酬額の決定に当たっては、上記(B)のとおり本件請負契約書上は明確になっていないものの、本来の興行に対する報酬のほか、芸能タレントの招へい業務に対する報酬部分を含めて契約されていることが推認され、契約上は上記事情等を踏まえて、招へい業務に対する報酬分について一括して芸能タレント一人当たり月額70,000円で算定することとしたことが認められる。
 そうすると、請求人が主張するように源泉所得税相当額を別途に支払うこととしていたものとは認められない。
B 請求人が主張するG社への支払金額及び支払区分等について
 原処分庁は、請求人がG社に甲の支払期間における内国法人の役務の提供に関する報酬として30,531,020円を支払った旨主張し、一方、請求人は、甲の支払期間におけるG社への支払金額は47,499,559円であり、その支払区分は、前記2の(1)のイの(イ)のAの(A)、(B)及び(C)のとおり、招へい業務に対する報酬6,360,000円、芸能タレントの報酬32,389,559円及び芸能タレントの源泉所得税相当額8,750,000円である旨主張するので、その内容を検討すると次のとおりである。
(A)当審判所が請求人の帳簿を調査したところ、G社への支払金額については、前記(ロ)のBのc及びdのとおり、「サービス費」の勘定科目に記載され、その「摘要」欄には「G社」又は「タレント費用」と一括して記載されており、請求人が主張する上記の支払区分については、明確になっていない。
 また、請求人が提示したG社からの領収証によっても「タレント招へい費用として」、「タレント出演料」、「タレント給与として」等のただし書があり、その一部に「タレント源泉」とのただし書はあるものの明確に区別できない。
 したがって、G社への支払金額について、招ヘい業務に対する報酬、芸能タレントの報酬及び源泉所得税相当額と区分することについては、請求人の帳簿及びG社からの領収証からも明確になっていないとともに、芸能タレント出演依頼の請負契約上も区分するとなっていないことから、G社への支払金額は、請求人とG社との本件請負契約に基づくG社の興行に対する報酬と認められる。
(B)H及びJの答述、本件請負契約書、請求人の記帳状況等を総合して検討すると、請求人が主張する支払区分は、結局、請求人とG社との支払報酬額算定に当たっての算定根基ないしは算定根基の基調となった考え方を主張しているものと認められ、芸能タレントへ支払った報酬の源泉徴収義務者は報酬の支払者で雇用主であるG社にあり、法務省令の規定に従う経理は、請求人にとっては直接関係のないことであるといわなければならない。
 また、G社への支払について現行の源泉徴収制度が請求人が主張するような預け金という形で報酬の支払先に源泉徴収義務を依頼するような制度になっておらず、一方、前記(ロ)のCのとおり、G社が芸能タレントに係る源泉所得税を納付している事実からも、上記主張は請求人の独自の主張であると言わざるを得ず請求人の主張は採用できない。
C 以上の事実によると、請求人が主張する前記2の(1)のイの(イ)のAの(A)の招へい業務に対する報酬、(B)の芸能タレントの報酬及び(C)の源泉所得税相当額は、請求人とG社による請負契約によって請求人からG社に支払われたものであり、その支払の全額47,499,559円が芸能人の役務の提供を内容とする事業に係る報酬として、所得税法第174条10号に規定する内国法人の役務の提供に関する報酬に該当すると認められる。
D G社への支払金額について
 原処分庁は、請求人がG社へ支払った金額を別表3の「原処分庁認定額1」欄のとおり30,531,020円と主張し、請求人は、G社へ支払った金額を別表3の「請求人主張額2」欄のとおり47,499,559円と主張するので、検討すると次のとおりである。
 当審判所が原処分関係書類を調査したところによれば、原処分庁の算定金額は、前記(ロ)のBの(A)のとおり請求人の帳簿等からでなく、取引先であるG社の帳簿から把握した金額であることが認められ、請求人が主張するG社への支払金額からも明らかに過少である。
 そこで、当審判所が請求人の総勘定元帳、領収証等の証拠資料及び請求人が提出した計算書を基に調査した結果、請求人がG社に支払った金額は、前記(ロ)のBの(B)のとおり請求人の主張額と同額の別表3の「審判所認定額3」欄の47,499,559円となる。
(ヘ)内国法人に係る所得税の課税標準及び源泉徴収義務について
 当審判所が上記(ホ)のDで認定した請求人がG社に支払った金額47,499,559円は、芸能人の役務の提供を内容とする事業に係る報酬であるから、所得税法第174条第10条に規定する内国法人の役務の提供に関する報酬に該当し、所得税法第212条第3項の規定により請求人が源泉徴収義務者になる。
(ト)以上を総合すれば、請求人が甲の支払期間においてG社に対して支払った芸能人の役務の提供を内容とする事業に係る報酬の金額は、別表3の「審判所認定額3」欄のとおり47,499,559円となり、当該金額を基に源泉所得税の額を計算すると別表4「内国法人への支払報酬金額に対する源泉所得税の額」の「別表3の3欄の報酬金額に対する源泉所得税の額2」欄のとおり、4,749,954円となる。
 ところで、甲の納税告知に係る原処分は、甲の支払期間のうち平成2年10月分、同年11月分、同年12月分、平成3年1月分及び同年3月分を除く各月については審判所認定額の範囲内であるが、平成2年10月分、同年11月分、同年12月分、平成3年1月分及び同年3月分は、審判所認定額が甲の納税告知に係る原処分の額を下回るから、その一部を取り消すべきである。
ロ 非居住者の国内源泉所得について
 請求人が乙の支払期間に支払ったドリンク・バックが国内源泉所得に該当するか否かに争いがあるので、以下審理する。
(イ)次のことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
A 芸能タレントは、所得税法第2条《定義》第1項第5号に定める非居住者に該当すること。
B 請求人は、乙の支払期間について支払ったドリンク・バックに係る源泉所得税を徴収していないこと。
(ロ)請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 請求人は、乙の支払期間において、ドリンク・バックを当該支払期間の各月に、合計金額9,868,942円支払っていること。
B 原処分庁は、請求人が乙の期間に支払ったドリンク・バック9,868,942円は、所得税法第161条第8号イに規定する給与又は報酬に該当するとしていること。
C 原処分庁は、請求人が乙の支払期間に支払ったドリンク・バック9,868,942円は、所得税法第213条第1項第1号に規定する源泉所得税の税率20パーセントを控除した後の手取り金額であるとし、別表5「非居住者の報酬金額」の「原処分庁認定額1」欄のとおり当該支払期間の各月の合計金額12,336,173円を芸能タレントへの給与又は報酬とし、その源泉所得税の税額は当該支払期間の各月の国内源泉所得に20パーセントを乗じて求めた各月の合計金額2,467,231円であるとして所得税法第212条第1項の源泉徴収義務の規定により納税告知をしていること。
D ドリンク・バックの支払については、請求人の元帳の「サービス費」勘定科目に記載され、全額が損金経理されていること。
E 請求人の法人税の決算書等には、「サービス費」の勘定科目とは別に「福利厚生費」の勘定科目があり、損金経理されていること。
F 請求人が支払ったドリンク・バックは、芸能タレントの売上高に応じ、その売上金額の10パーセントが支払われていること。
(ハ)Hは、当審判所に対し次のとおり答述している。
A 請求人が支払ったドリンク・バックについて
(A)芸能タレントは、客から指名を受けあるいは順番によりホステスとして客にサービスするとき、客の許しを得て同人が飲食するジュース等を注文して請求人の店舗の売上げに貢献する。
(B)請求人は、売上成績を芸能タレント別に記録して当該売上金額の一部を芸能タレントに現金で支払う。
(C)請求人が支払ったドリンク・バックの計算根拠は、ジュース等の売上金額の10パーセント(例えばジュース1杯1,000円の売上で100円を芸能タレントに支払う。)である。
(D)芸能タレントの欠勤、遅刻等は、口頭で注意しているが請求人が支払うドリンク・バックを減額するようなことはない。
(E)芸能タレントがサービス業務に従事するときの衣装は、芸能タレントの負担となっている。
(F)請求人が支払ったドリンク・バックに仮に課税されても、税金相当額は芸能タレントから徴収できないから、請求人が負担することになる。
B 芸能タレントの生活費等について
 芸能タレントの興行に係る本来の報酬は、請求人の店舗で舞踊等の興行に従事してからおおむね1か月経過後に1か月分の報酬が支給され、2か月目以降分については6か月の滞在期間終了(帰国)の時点で、5か月分の報酬を一括して支給されるのが実情である。
 したがって、芸能タレントの生活費は、一週間単位で支払われるドリンク・バック及びおおむね1か月経過後に支払われる報酬が充てられることになる。
C 芸能タレントが立替支出した金額の精算について
 芸能タレントは、本来請求人が負担すべき芸能タレントの生活費等を立替えて支出している。
 したがって、請求人としては、芸能タレントが立替支出した生活費等について、請求人が支払うドリンク・バックをもって精算することになる。
(ニ)G社の代表者K(以下「K」という。)は、当審判所に対し次のとおり答述している。
A 請求人が支払うドリンク・バックについては、G社とは関係がないが、そのような支払は業界として一般的に行われている。
B 芸能タレントの本来の業務である興行についての雇用関係は、G社と芸能タレントとの間にある。
C 芸能タレントは、出入国管理法上あらかじめ契約された特定の派遣先以外の店舗では働くことができない。
(ホ)以上の事実及び答述を検討すると次のとおりである。
A 芸能タレントのサービス業務について
(A)芸能タレントが本来の業務である興行を目的として入国する場合の雇用関係は、前記イの(ホ)のAで認定したとおり、G社と芸能タレントとの間にあると認められる。
 ところで、出入国管理法第2条の2及び第19条《在留》の在留資格関係の規定によると、雇用関係、興行場所等が特定され、専ら在留資格に基づく業務に従事することが必要とされていることから、基本的には、その他の者と雇用関係は生じないものと解される。
 しかしながら、原処分関係資料やH及びKの答述によれば、芸能タレントは、G社と芸能タレントとの間の本来の業務である興行に従事するほか、請求人と芸能タレントの間には、その他の勤務時間に別途サービス業務に従事することを目的とした口頭による雇用契約ないしは請負契約があったものと推認される。
(B)そこで、サービス業務の内容について検討すると、(1)芸能タレントの本来の業務は、請求人とG社との間の本件請負契約書に掲げる興行であるが、サービス業務は業界で一般的になされているものであり副業的に行われていること、(2)サービスの業務の内容は、請求人の店舗においてショータイム以外の時間に顧客からの指名又は順番により遊興、飲食させるための接客をするものであること。
 そして、その内容は、結局ホステスとしての業務であり、そのホステス業務に対する対価として、請求人から一定の売上成績に応じて、ドリンク・バックが支払われているものと認められる。
 もっとも、ドリンク・バックは、芸能タレントが請求人の店舗でしか接客しないこと、その金額は芸能タレントが顧客の勘定で飲んだジュース等の代金に比例していることから、歩合給としての給与ではないかとも考えられる。
 しかし、1請求人と芸能タレントとの間には明文の雇用契約はないこと、2芸能タレントの接客につき勤務時間の拘束はないこと、3ドリンク・バックの額が欠勤等により減額されることはないこと、4接客の際の衣装代は自己負担であること等からみると、請求人と芸能タレントとの間に雇用関係又はこれに準ずる関係があるとはいえない。
 したがって、請求人と芸能タレントとの間に明示的な契約はないものの、その内容は請負契約であり、それに基づき受け取る対価は人的役務の提供に対する報酬であると認めるのが相当である。
(C)ドリンク・バックは、前記(ロ)のF及び前記(ハ)のAの(D)のとおり、芸能タレントの売上高に応じ、その売上金額の10パーセントを請求人が芸能タレントに支払うものであること。
B 国内源泉所得の該否について
所得税法第161条第8号イでは、「俸給、給料、賃金、歳費、賞与又はこれらの性質を有する給与その他人的役務の提供に対する報酬のうち、国内において行う勤務その他の人的役務の提供に起因するもの」は、国内源泉所得になる旨規定している。
 請求人が支払ったドリンク・バックは、上記Aの(B)のとおり、所得税法第161条第8号イの「俸給、給料、賃金、歳費、賞与又はこれらの性質を有する給与」には該当しないが、「その他人的役務の提供に対する報酬」に当たる。
 そして、ホステスとしての接客行為は請求人の国内店舗において行われているから、「国内において行うその他の人的役務の提供」に該当する。
 これらの点を併せ考えると、請求人が支払ったドリンク・バックが国内源泉所得に該当することは明らかである。
 なお、非居住者に対し、国内において所得税法第161条第8号イに掲げる「その他人的役務の提供に対する報酬」の支払をする者は、所得税法第212条により源泉徴収義務者となり、源泉徴収すべき税率は所得税法第213条第1項第1号の規定により100分の20となる。
 ところで、請求人は、請求人が支払ったドリンク・バックは、芸能タレントの労働を可能にするため、あるいは労働の効率を高めるなどのために、本来請求人が労務上の諸経費として負担すべき芸能タレントの最低生活費や福利厚生費などを芸能タレントが立替えて支出していたものを請求人がドリンク・バックとして返済(精算)したものであり、仮にドリンク・バックが一時的に芸能タレントの収入になるとしても芸能タレントにおいては収入と支出が同額であり、何ら経済的利益は発生しないから課税関係も生じない旨主張する。
 しかし、請求人が支払ったドリンク・バックは上記Aの(B)で認定したとおり、芸能タレントの勤務成績によって、その対価が支払われるものであり、更に前記(ロ)のD及びEのとおり請求人の記帳状況に照らしても、請求人が負担すべき芸能タレントの最低生活費や福利厚生費などを請求人が芸能タレントに返済(精算)したものという事実は認められない。
 また、一般的に生活をするための金銭の支出は、本来個人の稼得所得(課税済所得)の中から支弁されるべきものであり、この生活費を他の者から支給されたような場合には、その支給を受けた個人は、他の者から経済的利益を享受したこととなり、原則として所得を構成することになる。
 このことは、所得税法第36条《収入金額》第1項の規定で「その年分の各種所得の金額の計算上収入すべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする。」と定めており、同項のかっこ書において、その収入すべき金額には経済的利益の金額が含まれる旨を明らかにしているところであるから、芸能タレントの生活費に相当するものは、請求人から芸能タレントが経済的利益を享受したものと認められ、所得を構成することとなり、たとえ生活費に相当する支出があったとしても、その額を所得の金額の計算上、控除することはできない。
C 国内源泉所得に係る源泉所得税の納税告知について
 原処分庁は、前記(ロ)のCのとおり、請求人が乙の支払期間に非居住者に支払ったドリンク・バック9,868,942円は所得税の額を控除した後の芸能タレントの手取り金額であるとし、税込みの国内源泉所得を別表5の「原処分庁認定額1」欄のとおり12,336,173円として納税告知をしている。
 Hは、前記(ハ)のAの(F)のとおり、仮に請求人が支払ったドリンク・バックに課税されるとしても、当該金額に対する税金相当額を芸能タレントから徴収できないから、請求人が負担しなければならないと答述する。
 ところで、所得税法第221条《源泉徴収に係る所得税の徴収》に規定する源泉徴収義務者がその徴収すべき源泉所得税を徴収しなかった場合には、その徴収しなかった理由が、当該徴収すべき税額を支払者が負担する契約となっていたことによるときには税引手取額により支払ったものとし、既に支払った金額のうちから当該税額を徴収すべきであったのに当該税額を受給者に請求しないこととしたときには、その請求しないこととした時に既に支払った金額を税引手取額により支払ったものとして、当該徴収すべき税額を計算すべきものと解される。
 してみると、請求人から支払われたドリンク・バックは、芸能タレントの税引後の手取金額であると見るのが相当である。
 したがって、国内源泉所得は、芸能タレントの税引手取額であるドリンク・バック9,868,942円に国内源泉所得の所得税相当額2,467,231円(所得税法第213条第1項第1号に規定する税率20パーセント相当額)を加算した別表5の「審判所認定額」の「国内源泉所得4」欄のとおり、12,336,173円となり、この金額を基礎として納税告知した原処分の計算方法は正当である。
(ヘ)以上のとおり、請求人が支払ったドリンク・バックは、芸能タレントの役務の提供に対する報酬であることが明らかであり、請求人は、所得税法第161条第8号イに規定する報酬の支払をする者に該当し、同法第212条第1項の規定により、源泉徴収義務者となり、源泉徴収すべき税額は支払報酬に対して同法第213条第1項第1号に規定する税率20パーセントを適用することとなるから、乙の納税告知に係る原処分は適法である。

(2)不納付加算税の賦課決定処分について

 甲の納税告知に係る賦課決定処分については、上記(1)のイのとおり本件納税告知処分がその一部を取り消されることに伴い、その一部を取り消すこととなる。
 また、乙の納税告知に係る不納付加算税の賦課決定処分については、通則法第119条《国税の確定金額の端数計算等》第4項の規定により不納付加算税の額を算出すると、その一部を取り消すこととなる。
 しかし、請求人が、本件納税告知処分に係る税額のうち上記により取り消される税額以外の税額を法定納期限までに納付しなかったことについては、通則法第67条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められない。
 そうすると、本件賦課決定処分はその一部取り消すべきである。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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