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(平8.2.1裁決、裁決事例集No.51 518頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成2年分の贈与税について、申告書を提出しなかったところ、F税務署長は、原処分庁所属の職員の調査に基づき、平成6年7月13日付で平成2年分の贈与税について、課税価格を72,600,000円、納付すべき税額を42,465,000円とする決定処分(以下「本件決定処分」という。)及び無申告加算税の額を6,369,000円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
 請求人は、これらの処分を不服として平成6年9月2日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月16日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成6年12月15日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件決定処分について
 原処分庁は、平成2年12月31日に、請求人の父G(以下「G」という。)から請求人に預金の贈与の事実があったとして本件決定処分をしているが、これは、次のとおり原処分庁が事実を誤認したものである。
(イ)請求人が認識している事実は次のとおりである。
A 平成3年1月1日に、請求人は、平成3年3月24日に死亡した請求人の夫X(以下「X」という。)から次表の預金(以下「本件預金」という。)の通帳を渡され、預かった。
 ただし、本件預金のうちJ銀行a支店の普通預金については、平成3年1月1日に渡されたかどうか定かではない。

(単位 円)
金融機関名預金の種類名義人口座番号平成2年12月31日の入金額
K銀行c支店普通預金請求人○○3,000,000
K銀行c支店定期預金請求人○×35,000,000
L銀行e支店普通預金請求人△△3,000,000
L銀行e支店定期預金請求人△×30,000,000
J銀行a支店普通預金請求人××16,000,000
合計 87,000,000

B 本件預金の開設及び上記Aの入金手続はXから依頼を受けた請求人の弟M(以下「M」という。)が平成2年12月31日に行ったものであり、その原資はXが所有していた割引債をGに譲渡した代金である。
(ロ)上記(イ)のBのとおり、本件預金はXの財産が原資であり、請求人は本件預金をXから預かったにすぎないのであるから、本件預金はGから請求人に対する贈与財産にもXから請求人に対する贈与財産にも該当せず、Xからの相続財産に該当する。
(ハ)仮に本件預金がG又はXから請求人に対する贈与財産に該当するとしても、上記(イ)のAのとおり請求人が本件預金の通帳を受け取ったのは平成3年1月1日であるから平成2年分の贈与財産と認定した本件決定処分はその年分に誤りがある。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件決定処分はその全部を取り消すべきであるから、これに伴い本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件決定処分について
(イ)原処分庁の調査によれば、次の事実が認められる。
A 平成2年12月31日、K銀行c支店において、同支店及び同行d支店のG名義の普通預金からそれぞれ23,000,000円及び15,000,000円が出金されていること。
B 平成2年12月31日、K銀行c支店において、請求人名義の普通預金及び定期預金が開設され、それぞれ3,000,000円及び35,000,000円が入金されていること。
C 平成2年12月31日、L銀行e支店において、同行f支店及び同行g支店のG名義の普通預金からそれぞれ28,000,000円及び5,000,000円が出金されていること。
D 平成2年12月31日、L銀行e支店において、請求人名義の普通預金及び定期預金が開設され、それぞれ3,000,000円及び30,000,000円が入金されていること。
E 平成2年12月31日、J銀行a支店において、同行b支店のG名義の普通預金から16,000,000円が出金されていること。
F 平成2年12月31日、J銀行a支店において、請求人名義の普通預金が開設され、16,000,000円が入金されていること。
G 平成3年3月4日、上記Fの普通預金から15,000,000円が出金されていること。
H Xの相続に関して、請求人は相続税の申告をしているが、その中には、本件預金は含まれていないこと。
I 請求人は、平成2年11月16日にGから現金600,000円の贈与を受けていること。
(ロ)ところで、贈与が行われた場合の事実の認識については、贈与の性質及び贈与が多くは親族間等の特別関係がある者相互間で行われることが多いことなどによりかなりの困難を伴うことが多いことから、他人名義により財産の取得が行われた場合においては、一般的には名義人となった者が当該財産を贈与により取得したものとして取り扱うこととしている。
(ハ)上記(イ)の事実を総合勘案すると、次のとおり判断される。
 請求人は、本件預金について、Xから預かったものであり、Gから贈与を受けたという認識がないのであるから贈与は成立しない旨主張するが、上記(イ)のAないしFの事実から本件預金は、Gの預金を原資として開設されていることは明らかであると認められ、Xに帰属する財産から開設されているものと認めることはできない。
 なお、割引債をXが所有していたとの請求人の主張は、(a)割引債を元々Xが所有していたこと、(b)割引債は換金が容易であるのに、あえてGに譲渡したこと、(c)当該譲渡代金をXの名義にせず、あえて請求人の名義にしたこと及び(d)当該割引債がGの相続財産に反映していないこと等不自然なことが多いことから、請求人の主張は、信用できるものではない。
 また、本件預金がXに帰属する財産であるとするならば、Xに係る相続税の課税対象となるところ、上記(イ)のHのとおり、Xの相続に関する相続税の申告の中には本件預金は含まれていないことから請求人の主張を認めることはできない。
(ニ)以上の結果、請求人の平成2年分の贈与税の課税価格は72,600,000円、納付すべき税額は42,465,000円となる。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件決定処分は適法であり、かつ、請求人には、国税通則法第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条同項の規定に基づき無申告加算税を賦課したことは適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、贈与の事実の有無であるので、以下審理する。

(1)本件決定処分について

イ 当審判所が原処分関係資料等を調査したところ、次の事実が認められる。
(イ)平成2年12月31日、K銀行c支店において、同支店のG名義の普通預金(口座番号□□)及び同行d支店のG名義の普通預金(口座番号□○)からそれぞれ23,000,000円及び15,000,000円が出金されていること。
(ロ)平成2年12月31日、K銀行C支店において、請求人名義の普通預金(口座番号○○)及び定期預金(口座番号○×)が開設され、それぞれ3,000,000円及び35,000,000円が入金されていること。
(ハ)平成2年12月31日に、L銀行e支店において、同行e支店のG名義の普通預金(口座番号□×)及び同行g支店のG名義の普通預金(口座番号□△)からそれぞれ28,000,000円及び5,000,000円が出金されていること。
(ニ)平成2年12月31日、L銀行e支店において、請求人名義の普通預金(口座番号△△)及び定期預金(口座番号△×)が開設され、それぞれ3,000,000円及び30,000,000円が入金されていること。
(ホ)平成2年12月31日、J銀行a支店において、同行b支店のG名義の普通預金(口座番号□□□)から16,000,000円が出金されていること。
(ヘ)平成2年12月31日、J銀行a支店において、請求人名義の普通預金(口座番号××)が開設され、16,000,000円が入金されていること。
(ト)平成3年3月4日、J銀行a支店において、同支店の請求人名義の普通預金(口座番号××)から15,000,000円が出金されていること。
(チ)平成3年3月4日、J銀行a支店において、同行b支店のG名義の普通預金(口座番号□□□)に15,000,000円の入金があること。
(リ)Xは平成3年3月24日に死亡したこと。
(ヌ)Gは平成4年3月4日に死亡したこと。
(ル)請求人は、本件預金をG又はXからの贈与財産又は相続財産とする申告を行っていないこと。
(ヲ)請求人は、平成2年11月16日にGから現金600,000円の贈与を受けていること。
(ワ)請求人は、原処分に係る調査において、本件預金がXの割引債を原資としている旨の申立てをしていないこと。
ロ 請求人及びMは、当審判所に対し次のとおり答述している。
(イ)上記イの(イ)ないし(ヘ)の行為は、G及びXから依頼を受けたMが行った。
(ロ)本件預金の通帳は平成3年1月1日に、お年玉ということでXから請求人に手渡された。
(ハ)本件預金の原資であると主張する割引債について、その債券番号、購入年月日、購入場所及びGが取得後どのように処分したか等一切記録はなく不明である。
(ニ)上記イの(ト)に記載した15,000,000円の出金について、引出人及びその使途は不明である。
ハ ところで、民法第549条の規定によれば、贈与とは、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与えるという意思表示をし、相手方がこれを受諾する契約をいうところ、贈与は、他人間で行われることは稀であり、一般には、夫と妻、親と子、祖父母と孫といったような親族間で行われることが多いことから、贈与事実の認定は困難を伴うことが多く、外観は贈与でも、その実質は贈与でない場合があり、その逆の場合もある。
 仮に、この贈与事実の確認をしないで、納税者において、贈与を認めたものだけについて贈与税を課税し、贈与を認めないものに対しては贈与税の課税を行わないこととすれば、税負担の公平が著しく損なわれることになる。
 そうすると、贈与税においても実質課税の原則を否定するものではないので、その課税に当たっては、贈与の事実を確認し、その実質を見極める必要があるが、一般的には、財産は名義人がその真実の所有者であり、外観と実質が一致するのが通常であること及び贈与が通常親族間で行われることが多く、その事実認定の困難なことを考慮すると、その実質が贈与でないという反証が特にない限り、一般的には、外観によって、贈与事実の認定を行うのが相当と解される。
ニ 上記イの事実及び上記ロの答述を上記ハに照らしてみると、(a)本件預金は、G名義の預金口座から引き出された金員を原資とする預金であること、(b)平成3年3月4日にJ銀行a支店の請求人名義の普通預金(口座番号××)からJ銀行b支店のG名義の普通預金(口座番号□□□)へ移された15,000,000円の移動理由が不明であること及び(c)請求人は、本件預金の残額をGからの相続財産とする申告を行っていないことを併せ考慮すると、請求人は、少なくとも平成2年12月31日に本件預金に入金された87,000,000円のうち、平成3年3月4日に引き出されJ銀行b支店のG名義の普通預金(口座番号□□□)へ入金された15,000,000円を差し引いた72,000,000円を、Gから贈与により取得したものと推認することができる。
 なお、請求人は、本件預金はXの財産が原資であり、請求人は本件預金をXから預かったにすぎないのであるから、本件預金はXからの相続財産に該当する旨主張するが、本件預金をXからの贈与財産又は相続財産とする申告を行っていないこと、また、請求人及びMの答述以外に、当該金員がXからGに対する割引債の譲渡対価であるとする証拠はなく、その答述も原処分に係る調査の際には行われていないことからすると、本件預金がXからの相続財産であるとの心証を得ることはできないから、この点に関する請求人の主張は採用することはできない。
ホ 請求人は、仮に本件預金がGから請求人に対する贈与財産に該当するとしても請求人が本件預金の通帳を受け取ったのは平成3年1月1日であるから、本件決定処分には年分の誤りがある旨主張するので審理する。
(イ)民法第550条の規定によれば、書面によらない贈与は、その履行が終わるまでは各当事者において何時でもこれを取り消すことができることとされており、受贈者の地位は、履行が終わるまでは不確実なものといわざるを得ないから、書面によらない贈与の場合の相続税法第1条の2《贈与税の納税義務》に規定する「贈与により財産を取得した時」とは、「贈与の履行の時」と解するのが相当である。
 そして、ここにいう贈与の履行の時についても、上記ハで述べたと同様に、特に反証がない限り、外観によって認定することが相当であり、登記、登録又は名義の変更を伴う場合には、当該登記、登録又は名義の変更が行われた時をいうものと解するのが相当である。
(ロ)これを本件についてみると、(a)本件預金は平成2年12月31日に開設され、入金されたものであること、(b)請求人の答述以外に、本件預金が平成3年1月1日に請求人に手渡されたとする客観的な証拠が提出されないこと及び(c)請求人は、本件預金を平成3年分の贈与財産とする申告をしていないことから、請求人は、本件預金が開設され、Gの預金を原資とする金員の入金が行われた平成2年12月31日に贈与の履行を受けたとみるのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
ヘ 以上の結果、請求人の平成2年分の贈与税の課税価格は上記ニで述べた72,000,000円と上記イの(ヲ)で述べた600,000円との合計額72,600,000円となり、この金額は本件決定処分の金額と同額であるから、本件決定処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 以上のとおり、本件決定処分は適法であり、また、請求人には期限内申告書の提出がなかったことについて、国税通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項第1号の規定により無申告加算税の賦課決定をした本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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