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(平8.6.13裁決、裁決事例集No.51 548頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人Hほか2名(以下「請求人ら」という。)は、平成4年3月17日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したJの共同相続人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)開始に係る相続税について、申告書に別表1の「申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した(以下、この申告書を「本件申告書」という。)。
 次いで、請求人らは、原処分庁所属の職員の調査を受け、別表1の「修正申告」欄のとおりとする修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を平成5年12月28日に提出するとともに、同日に別表1の「更正の請求」欄のとおりとする更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。
 原処分庁は、これに対し、平成6年8月31日付で別表1の「更正」欄のとおりの減額の更正処分(以下「本件更正処分」という。)をした。
 請求人らは、本件更正処分を不服として、平成6年10月31日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成7年1月25日付で棄却の異議決定をした。
 請求人らは、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成7年2月24日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、Hを総代として選任し、その旨を平成7年2月24日に届け出た。

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2 主張

(1)請求人らの主張

 原処分は、次の理由により不当、かつ、違法であるから、本件更正の請求の金額を超える部分の取消しを求める。
イ 請求人らは、本件更正の請求において、本件相続により取得したP市R町3丁目174番5所在の宅地590.84平方メートルのうち持分10分の9(以下「本件土地」という。)の価額は、財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達。ただし、平成5年6月23日付課評2ー7ほかによる改正前のもの。以下「評価基本通達」という。)の定めによらず、K株式会社○○鑑定部の不動産鑑定士のLが作成した平成5年12月27日付鑑第□ー△×号の鑑定評価書(以下「本件鑑定書」という。)における鑑定評価額(以下「本件鑑定評価額」という。)によるべきである旨を主張したところ、原処分庁は、相続財産の客観的交換価値は、租税負担の公平の見地から、評価基本通達に定める画一的な評価方式により評価する方が合理的であり、特別の事情がある場合を除き、評価基本通達に定める方式以外の方法によってその評価を行うことは納税者間の実質的租税負担の公平を欠くこととなり、許されないとした。
ロ しかしながら、本件土地は画地の規模が地域の標準的なそれより大きいという特徴を持っている。
 このような土地は、通常面大地(以下「面大地」という。)と呼ばれており、画大地は、標準的な規模の土地に比べて、その利用などに次のような特徴を持っている。
(イ)都市計画法上の開発許可を得る必要があること。
(ロ)道路・公園等を建設するための潰れ地・造成費用・各種負担金・造成期間中の金利等の負担が必要になってくること。
(ハ)取引の総額が大きくなること。
 すなわち、面大地は、そのままでは使い勝手が悪く、その土地を有効に利用するためには、造成等をして開発する必要があり、また、このような特徴から、個人が住宅用地に購入することは考えにくく、買い手の多くは不動産業者であると考えられ、通常の商品でいえば卸売価格又は原材料価格のような性格を持つ場合が多い。
 また、面大地が取引される場合には、取引の総額が大きくなり、それに伴って単価が安くなることは不動産取引におけるいわば常識となっており、面大地の価格は、通常の相場よりも低くなる傾向にある。
ハ ところで、不動産鑑定評価制度は、適正な価格を形成する市場を持つことが困難な不動産について、その適正な価格を市場になりかわって判定するものであり、その担い手として、その地位を法に認められ付与されたものが不動産鑑定士である。
 したがって、不動産鑑定評価額は、専門家たる不動産鑑定士の意見の表明であり、個別性の強い不動産の適正な価格を、法の根拠の下で表示しうる唯一のものといえる。そして、不動産鑑定士が鑑定評価活動を行う上での行為規範として不動産鑑定評価基準(以下「鑑定評価基準」という。)が定められている。本件鑑定書においては、面大地としての更地の正常価格を求めたものであり、その内容を鑑定評価基準の内容に沿って検討すると次のとおりである。
(イ)正常価格は市場性を有する不動産について合理的な市場で形成されるであろう市場価格を表示するもので、税務上の時価と軌を一にするものであると考えられるから、求めるべき価格は税務上も鑑定評価上も同じだといえる。
(ロ)面大地の鑑定評価をする場合、鑑定評価基準では、三方式併用のほか、開発法による価格の試算を定めているところ、本件鑑定書では、本件土地が積算価格については既成市街地に存すること、また、収益価格については収益概念になじみにくい住宅地に存することからそれぞれ求めていないが、その他は鑑定評価基準の規定にのっとり、取引事例比較法による比準価格と開発法による価格の2つの試算価格を求めている。
 本件鑑定書における試算価格については、取引事例比較法による比準価格が市場性を反映するものとはいえ対象不動産と同様の大規模画地の事例から比準して求めたものではないことからやや難点を残すこと及び開発法により求めた価格は大規模画地の取引における土地の投資採算性を適正に反映するものの、手法に想定を含んでおり、その点で難なしとしないことなど、両手法はいずれも対象不動産の価格を適正に反映するものでありながら、その手法が一長一短を合わせ持つため、両試算価格には開差が生じている。
 そこで本件鑑定書では、これらの試算価格から鑑定評価額を決定するに際して、上述したように対象地が面大地であり、結果として取引総額が大きなものとなるため、鑑定評価基準にも定めるとおり単価と総額の関連の適否にも留意しながら、いずれも本件土地の価格を適正に反映するものである両試算価格に等しくウエートをおいて、本件鑑定評価額を1平方メートル当たり679,000円と決定したものである。
ニ 本件更正の請求において、本件土地の価額として採用した本件鑑定評価額は、上記ハのとおり、価格の専門家たる不動産鑑定士が、鑑定評価基準に沿って非常に個別性の強い本件土地の適正な客観的交換価値を求めたもので、職業専門家たる不動産鑑定士としての良心に従った適正な価額である。
 本件土地の場合、評価基本通達に基づき算定した評価額(以下「相続税評価額」という。)が、個別性を適正に反映した本件鑑定評価額を上回っている以上、画一的な評価方法による評価が客観的交換価値を上回ってしまったものといえる。
 原処分庁の考え方は、相続財産の評価が評価基本通達による画一的な評価手法によってもその客観的交換価値を上回らないような場合に限ってのみ妥当とする考え方であり、本件土地のように画一的な評価手法による評価が客観的交換価値を上回ってしまうようなケースには、その資産のもつ担税力以上の課税をしてしまうこととなり、逆に課税の不公平を生ぜしめる結果となる。
ホ また、原処分庁は、公示価格(地価公示法第6条《標準地の価格等の公示》の規定により公示された標準地(以下「公示地」という。)の1平方メートル当たりの価格をいう。以下同じ。)を基に算定した本件土地の価額が相続税評価額を上回っている旨主張するが、そもそも公示価格とは、その地域の標準的な画地の更地としての価格を公示するものであり、これらをベースとして路線価(路線に接する標準的な宅地について、売買実例価額、公示価格、精通者意見価格等を基にして国税局長がその路線ごとに評定した1平方メートルあたりの価格をいう。以下同じ。)が付されているのは事実であり、公示価格が地域の標準的な更地の価格を正しく反映し、これを基に路線価が付されたとしても、本件土地のようなケースが生じてしまうのは、画一的な評価方法が不動産の個別性を反映しきれないからにほかならない。
 本件土地の場合は面大地という個別性があり、先に述べたとおり画一的な評価方法によりこれらの事項をすべて反映することは不可能であり、適正な客観的交換価値、すなわち時価を反映しきれないと考えられる。
ヘ さらに原処分庁は、近隣の取引事例を基に算定した本件土地の時価が相続税評価額を上回っている旨主張するが、個々の取引価格は取引等の内容に応じて個別的に形成されるのが通常であり、それは個別的な事情(不動産に係る不動産市場の特性、取引等における当事者双方の能力の多様性と売急ぎ、買進み等の個別的な事情)に左右されがちで、そこで形成される価格は必ずしも不動産の適正な価格を形成するとは言えず、適正な価格がいくらかということを取引価格等を通じて判断することは困難である。
ト したがって、価格の分析にあたってこれらの事情を捨象した原処分は不当かつ違法である。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 相続税法に定める財産の評価について
(イ)相続税法第22条《評価の原則》は、相続財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価によるべき旨を規定しており、この時価とは、相続開始の時における財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、客観的な交換価値をいうものと解されている。
(ロ)しかしながら、財産の客観的交換価値は、必ずしも一義的に確定されるものではないことから、課税実務上、特別の事情がある場合を除き、相続財産の評価の一般的基準としての評価基本通達の定めに基づく画一的な評価方式によって相続財産の評価を行うこととされている。
 この画一的な評価方式により評価することとされている趣旨は、相続財産の客観的な交換価値を個別に評価する方法を採ると、その評価方式や基礎資料の選択の仕方等により異なった評価額が生ずることが避け難く、あらかじめ定められた評価方式によりこれを画一的に評価する方が、納税者間の公平及び納税者の便宜という見地からみて合理的であるという理由に基づくものと解されている。
(ハ)この評価基本通達において、市街地的形態を形成する地域にある宅地の価額は、路線価を基としてその宅地の形状に応じて計算した金額によって評価することとされている。
 したがって、評価基本通達に基づき路線価が合理的に算定されている限り、これが形式的にすべての納税者に適用されることによって租税負担の実質的な公平をも実現することができるものと解されることから、相続税評価額が相続開始時におけるその土地の価額を上回っていると認められるような特別の事情がある場合を除き、特定の納税者あるいは特定の財産についてのみ評価基本通達に定める方式以外の方法によってその評価を行うことは、納税者間の実質的租税負担の公平を欠くこととなり許されないと解されている。
ロ 原処分庁の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)P市R町2丁目に平成3年12月25日に売買契約が締結されている宅地2,968.49平方メートルの売買事例(以下「A売買事例」という。)があり、その宅地の譲渡価額は1平方メートル当たり1,050,000円であること。
 また、A売買事例に係る宅地の平成4年分の相続税評価額は、1平方メートル当たり709,195円であること。
(ロ)P市S町4丁目に平成4年9月18日に売買契約が締結されている宅地433.07平方メートルの売買事例(以下「B売買事例」という。)があり、その宅地の譲渡価額は1平方メートル当たり607,292円であること。
 また、B売買事例に係る宅地の平成4年分の相続税評価額は、1平方メートル当たり614,776円であること。
(ハ)P市R町3丁目に平成3年11月19日に売買契約が締結されている宅地142.32平方メートルの売買事例(以下「C売買事例」という。)があり、その宅地の譲渡価額は1平方メートル当たり900,154円であること。
 また、C売買事例に係る宅地の平成4年分の相続税評価額は、1平方メートル当たり750,000円であること。
(ニ)P市R町3丁目に平成4年10月19日に売買契約が締結されている宅地93.05平方メートルの売買事例(以下「D売買事例」という。)があり、その宅地の譲渡価額は1平方メートル当たり702,305円であること。
 また、D売買事例に係る宅地の平成4年分の相続税評価額は、1平方メートル当たり741,734円であること。
(ホ)上記(イ)ないし(ニ)で述べた4件の取引事例(以下「本件売買事例」という。)の周辺には、P市R町3丁目209番1ほかの公示地(以下「本件公示地」という。)があり、その平成3年から平成5年までの公示価格(以下「本件公示価格」という。)は、次表のとおりであること。

(単位 円)
公示地の所在地公示価格
平成3年平成4年平成5年
P市R町3丁目1,150,000940,000686,000

209番1ほか
 また、本件公示地の平成4年分の相続税評価額は、1平方メートル当たり750,000円であること。
ハ 本件土地の価額について
(イ)本件売買事例の1平方メートル当たりの譲渡価格に、本件公示価格の下落額から計算される時点修正率を乗じて本件相続開始日現在の譲渡価額相当額に置き換えた後、本件土地と本件売買事例との距離及び画地条件による価格差をそれぞれの1平方メートル当たりの相続税評価額の価格差により修正すると、別表2の(1)ないし(4)の8欄のとおり537,774,195円ないし443,875,653円となり、別表3に記載した評価基本通達に基づく本件土地の評価額389,560,050円(以下「本件評価額」という。)をいずれも上回っている。
(ロ)また、本件公示価格に、本件公示価格の下落額から計算される時点修正率を乗じて本件相続開始日現在の公示価格相当額に置き換えた後、本件土地と本件公示地との距離及び画地条件による価格差をそれぞれの1平方メートル当たりの相続税評価額の価格差により修正すると別表2の(5)の8欄のとおり455,242,873円となる。
 この価額は、本件評価額(389,560,050円)を上回っており、本件土地に係る相続税評価額が、相続開始時におけるその土地の価額を上回っていると認められるような特別な事情は認められない。
(ハ)したがって、本件土地の価額は本件評価額となり、その相続税の課税価格に算入される価額は、租税特別措置法(平成6年法律第22号による改正前のもの。)第69条の3《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》第1項の規定による特例(以下「本件特例」という。)を適用して301,648,050円となる。
 なお、請求人らは、本件鑑定書において、本件土地が面大地に該当するので、上記2の(1)のロのとおり本件土地の価額は標準的な画地の価額より減価する旨主張するが、面積が400平方メートルを超えるA売買事例及びB売買事例の1平方メートル当たりの譲渡価額を基に別表2の(1)及び(2)のとおり算出した本件土地の価額は、いずれも本件評価額を上回っている。
ニ 本件更正処分について
 上記ハの(ハ)のとおり、本件土地の相続税の課税価格に算入される価額は301,648,050円であり、請求人らの課税価格及び納付すべき税額は、次表のとおりとなるから、これらと同額でした本件更正処分は適法である。

(単位 円)
審査請求人課税価格納付すべき税額
総代H179,046,00052,100,500
M99,563,00028,970,700
N177,892,00051,764,600

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件相続開始日現在における本件土地の価額の多寡であるので、以下審理する。

(1)本件土地の価額について

イ 請求人らの提出資料、原処分関係資料及び当審判所が調査したところよれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人らは、本件土地の価額を平成4年分の路線価と評価基本通達に基づき次のとおり算定し、それに本件特例を適用して相続税の課税価格に算入される価額を301,648,050円とする本件申告書及び本件修正申告書を提出したこと。
740,000円(正面路線価)×0.99(奥行価格補正率)×531.75平方メートル(面積)=389,560,050円(自用地の評価額)
389,560,050円(自用地の評価額)‐87,912,000円(小規模宅地等について減額される金額)=301,648,050円(相続税の課税価格に算入される価額)
(ロ)次いで請求人らは、本件土地の相続税の課税価格に算入される価額を、本件鑑定評価額による279,386,023円として本件更正の請求をしたこと。
(ハ)原処分庁は、本件土地の価額を、別表3のとおり389,560,050円(1平方メートル当たり732,600円)と評価し、これに本件特例を適用して、本件相続に係る相続税の課税価格に算入される価額を請求人らの申告額と同額の301,648,050円としたが、本件修正申告書の課税価格の計算に誤りがあったとして、別表1の「更正」欄のとおり本件更正処分をしたこと。
(ニ)本件鑑定評価額は、大要、次の手順により鑑定し、決定していること。
A 取引事例比較法を適用して、本件土地の近隣で用途地域が同一の地域に所在する取引事例2件(P市S町4丁目所在の宅地426.99平方メートル及びP市T町1丁目所在の宅地451.77平方メートル)を抽出し、これらの取引価額のそれぞれに、事情補正、時点修正、地域要因格差の比較及び個別的要因格差の比較に基づく価格修正を行い、本件宅地の1平方メートル当たりの比準価格を733,000円と試算した。
B 次に、開発法を適用して本件宅地の1平方メートル当たりの試算価格を下記の手順により求めた。
(A)本件土地の近隣地域内の幅員6メートルの公道沿いに、間口対奥行が1:1.5の標準的画地(地積約150平方メートル程度)を想定し、この標準的画地と類似する取引事例4件((1)P市S町3丁目所在の宅地126.16平方メートル、(2)P市R町3丁目所在の宅地137.98平方メートル、(3)P市W町2丁目所在の宅地167.92平方メートル、(4)P市W町5丁目所在の宅地199.58平方メートル)を抽出し、これらの取引価額のそれぞれに事情補正、時点修正、標準化補正及び地域格差の比較に基づく価格修正を行い、4件の価格の中庸値をもって標準的画地の1平方メートル当たりの比準価格を818,000円と求めた。
(B)標準的画地の純収益をP市S町3丁目所在の物件を採用して、次の算式により収益還元法(土地残余法)による収益価格を求めた。
13,728円(1平方メートル当たりの純収益)÷3%(還元利回り)=約458,000円(収益価格)
(C)本件土地に最も近く、かつ、同一の用途地域にある本件公示価格に、時点修正、地域格差の比較に基づく修正を行い、1平方メートル当たりの規準価格を893,000円と求めた。
(D)標準的画地の価格の決定
 上記(A)ないし(C)により求められた価格から、比準価格を重視し、収益価格も十分考慮に入れ、公示価格を規準とする価格との均衡にも留意して、1平方メートル当たりの標準的画地の価格を850,000円と決定した。
(E)本件土地の開発有効面積を519.84平方メートルと算定し、これを4区画に分割して分譲することを想定し、分譲収入を次の算式により求めた。
850,000円/平方メートル(標準的画地の価格)×0.96(平均評点)×519.84平方メートル(分譲面積)=424,189,440円(分譲収入)
(F)次いで売上収入を6か月経過時10パーセント、9か月経過時40パーセント及び12か月経過時50パーセントと想定して、それぞれに複利現価率を乗じて売上収入の総額を381,758,872円、造成工事費、販売費・一般管理費などの経費の総額を13,251,190円と見積もって次の算式により開発法による本件土地の1平方メートル当たりの価格を624,000円と算定した。
381,758,872円(収入の総額)−13,251,190円(経費の総額)=約368,500,000円(624,000円/平方メートル)(土地の価格)
C 上記A及びBで求めた価格に、次の検討を加えて本件鑑定評価額を1平方メートル当たり679,000円と決定した。
(A)取引事例比較法により求めた比準価格は、不動産の市場性に着目して求めた価格で、一般的には客観性を有し説得力があるものといえるが、本件の場合対象地が大規模画地(面大地)ということもあり、大規模画地(面大地)の事例を数多く抽出することができず、かつ、その抽出した事例も対象地との面積の比較では25〜30パーセントの規模の小さいもので、対象地の個別性を適正に反映し得たかどうかその点でやや難点がある。
(B)開発法により求めた価格は、開発業者の投資採算性に着目して求められた価格で、手法の大半が想定に基づく点でやや難なしとしないが、特に近隣地域の標準的画地より規模の大きな画地にあっては、昨今の不動産市場を勘案した場合、実際の需要を反映した、実証的な価格と位置付けられる。
(C)以上を踏まえ、現在の経済的・社会的な要因と近隣地域の不動産需給との関連性、更には近隣地域の特性をも精査した上で、取引事例比較法により求めた比準価格及び開発法により求めた価格の双方に等しくウェイト付けするのが相当と判断して本件鑑定評価額を決定した。
(ホ)K株式会社〇〇鑑定部の不動産鑑定士Lは、本件鑑定評価額に関し、当審判所に対して次のとおり答述していること。
A 面大地については、その地域の標準的な画地の面積(おおむね150平方メートルから200平方メートル)よりも広大なものをいい、本件土地はその面大地に該当する。
B ×□県内にある土地の開発には、都市計画法上、面積が500平方メートル以上ある土地は、開発許可を要することとなっており、本件土地を開発する場合には開発許可を要する。
C 本件土地の鑑定評価には、開発法を適用し、本件土地を4区画に分割することを想定して価格を求めたが、その試算に当たっては、具体的な開発計画書などは作成せず、メモ程度のもので行った。
D 開発法における収益(売上)の予想を6か月経過時を10パーセント、9か月経過時を40パーセント及び12か月経過時を50パーセントとしたのは、自分の判断で、一般的な予想を立てたものである。
E 取引事例比較法で採用したE及びFの取引事例の具体的な所在地については、公表しないことになっているので、明らかにすることはできない。
ロ ところで、納税者が更正の請求をする場合については、(1)国税通則法第23条《更正の請求》第3項は、更正の請求をしようとする者は、更正の請求書に更正前の課税標準等又は税額等及び当該更正後の課税標準等又は税額等、その更正の請求をする理由、当該請求をするに至った事情の詳細を記載するものとしており、また、(2)同法施行令第6条《更正の請求》第2項は、その更正の請求をする理由の基礎となる事実が一定期間の取引に関するものであるときは、その取引の記録等に基づいて、その理由の基礎となる事実を証する書類を添付するものとしているところであって、これらの規定は、更正の請求をする者が、まず、自ら記載した内容が真実に反するものであることを主張・立証すべきである旨を定めたものであると解される。
 本件審査請求につきこれをみると、本件土地の価額について、請求人らは、本件申告書に上記イの(イ)のとおり評価して申告し、次いで本件更正の請求をしたのに対し、原処分庁は、本件土地の価額については上記イの(ハ)のとおり変更せず、本件修正申告書における課税価格の計算誤りだけを訂正する本件更正処分を行ったものであるから、請求人らは、上記イの(イ)の価額を下回ることを主張・立証することを要すると解すべきである。
ハ 請求人らは、本件土地が面大地に該当し、売買する場合には標準的な画地よりも価格が減価するため、このような個別性の強い不動産の適正な価格は、評価基本通達によらず本件鑑定評価額によるべきである旨主張し、本件鑑定書を証拠として提出したので、以下審理する。
(イ)相続税法第22条は、相続財産の価額は特別の定めのあるものを除き、当該財産の相続による取得の時における時価による旨を規定しており、この時価とは、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、客観的な交換価値を示す価額をいうものと解される。
 しかし、相続税の課税対象となる財産は多種多様であり、(1)時価を正確に把握することは必ずしも容易でないこと及び(2)納税者間で財産の評価が区々になることは課税の公平の観点から見て好ましいことではないことから、課税庁における事務の統一性を図ることなどのため、課税庁は、評価基本通達を定め、各種財産の時価の評価に関する原則及びその具体的な評価方法を明らかにし、更に土地の価額については、具体的に路線価等を定めて部内職員に示達するとともに、これを公開することによって、納税者の申告・納税の便に供していることが認められる。
 しかしながら、通達は上級行政庁の下級行政庁に対する命令であって法規たる性質を有さず、それ自体は納税者を拘束するものではなく、納税者は、通達に示されている行政庁の解釈に当然に従わなければならないものではないから、相続財産である土地の価額が路線価を下回ることが証明されれば、路線価を適用しなくてもよいことはいうまでもない。
(ロ)当審判所の調査によれば、P市内で本件土地と同一の用途地域にあり、かつ、面積が400平方メートル以上でその地域において面大地と認められる土地の売買事例13件(平成4年分7件、平成5年分6件)を抽出して、それぞれに近隣の公示価格の下落率を基に各年の1月1日現在の価格への時点修正を行い、更に評価基本通達に基づく標準化補正をした価格とそれぞれの売買実例地の路線価との価格差を求めたところ、別表4及び別表5のとおり、売買事例13件の内12件が路線価を上回っていることが認められる。
 そうすると、P市内で本件土地と同一規模の宅地は数多く売買されており、その価額の点においても、売買事例における価額のほとんどが路線価を上回っていることが認められるので、仮に請求人らが主張するように面大地としての減価があるとしても、その価額が路線価よりも低額になっているとは認められない。
(ハ)また、本件鑑定書においては、面大地を理由として開発法を採用して本件土地の価格を算定しているが、当審判所の調査によれば、本件土地の面積は、近隣に所在する画地と比較しても特に著しく広大であるとは認められず、更に、本件土地の約3分の2が住居地域(国道×号線の東側道路境界線寄り)にあり、近隣にマンション等の大型集合住宅が数多く建築されている状況を考えれば、本件土地の周辺においては、マンション等の敷地としての利用が成熟していると認められ、このような場合、土地価格比準表(昭和50年1月20日国土地第4号国土庁地価調査課長通達「国土利用計画法の施行に伴う土地価格の評定等について」)には、住宅地の適用上の留意事項に、「(画地条件に係る地積の過大による減価について)第2種住居専用地域、住居地域において、マンション敷地としての利用が成熟している場合には、一戸建住宅の敷地との比較において広大地と判定される画地であっても地積過大による減価を行う必要がないことに留意すべきである」との規定が設けられていることからしても、開発法の理論的なことはともかく、これを本件土地の時価を算定する方法として採用することは、実態に則さないものと判断されるほか、本件鑑定書における開発法による価格は、上記イの(ホ)のとおり、具体的な開発計画書が存在せず、基礎となる開発計画の内容が不明なためその適否が確認できないこと及びその算定の基礎となる収支内訳や開発スケジュールが具体的根拠のない想定に基づくものであり、その価格は流動的なものであることから、開発法による価格が本件土地の実証的な価格であると認めることはできない。
(ニ)さらに、本件鑑定書では、取引事例比較法による比準価格を算定するために採用された上記イの(ニ)のA取引事例の2件については、その具体的な所在地が明らかにされておらず、また、当審判所の調査によっても、当該事例の存在が確認できないため、その比準価格を検証することができない。
(ホ)したがって、上記(ロ)のとおり、P市内で本件土地と同様の規模を有する宅地の価額が路線価を下回っているとは認められず、また、上記(ハ)及び(ニ)で述べたとおり、本件鑑定評価額をもって、本件土地の相続税法第22条に規定する時価、すなわち、客観的な交換価値を証明したことにはならないので、請求人らの主張は採用することができない。
ニ 当審判所が、本件土地と同一区域内にあり、かつ、同程度の規模(500平方メートル以上600平方メートル未満)の土地の取引事例2件(別表6のとおりである。以下「本件比準地」という。)を抽出し、これらに最も近い公示価格の下落率に基づく時点修正を行うとともに、現地確認を行い、土地価格比準表を適用して、本件土地と本件比準地との地域要因及び個別要因の比較を行い、本件比準地の取引価額を基にして本件土地の価額を算定したところ、次のとおりである。
(イ)別表6の本件比準地の取引事例1については、面積が526.33平方メートルで、JR△△線「a駅」東南約400メートルに位置し、東側約6メートルの道路に面しており、周囲の環境については、一部マンションが混在する住宅地域で、地勢は平担である。
A 時点修正について
(A)本件土地に係る時点修正は、本件土地に最も近く、かつ、同一の用途地域にある公示地(P市ーイ)の公示価格の下落率(平成4年1月1日940,000円、平成5年1月1日686,000円、年間の下落率27パーセント)を基に、相続開始日までの期間を月数あん分して7パーセントと算定した。
(B)取引事例1に係る時点修正は、取引事例の1に最も近く、かつ、同一の用途地域にある公示地(P市ーロ)の公示価格の下落率(平成4年1月1日1,190,000円、平成5年1月1日921,000円、年間の下落率22.6パーセント)を基に、取引時点までの期間を月数あん分して9パーセントと算定した。
B 地域要因の比較は、土地価格比準表に照らしてみると、次のとおりと認められる。
(A)交通・接近条件・・・マイナス21.5ポイント
(B)環境条件・・・・・・マイナス6.5ポイント
C 個別要因の比較は、土地価格比準表に照らしてみると、街路条件がマイナス1.0ポイントと認められる。
D 上記AないしCを基に本件土地の価額を算定すると、別表7のとおり、1平方メートル当たり860,200円となる。
(ロ)別表6の本件比準地の取引事例2については、面積が545.32平方メートルであり、JR△△線「b駅」の南方約600メートルに位置し、周囲の環境は一般住宅の多い住宅地域で、地勢は平担である。
 また、本件比準地は、西側6メートル、北側5.5メートルの道路に面した角地である。
A 時点修正について
(A)本件土地に係る時点修正は、上記Aの(A)と同様公示地(P市ーイ)の公示価額の下落率を基に、相続開始日までの期間を月数あん分して7パーセントと算定した。
(B)取引事例2に係る時点修正は、取引事例の2に最も近く、かつ、同一の用途地域にある公示地(P市ーハ)の公示価格の下落率(平成4年1月1日951,000円、平成5年1月1日738,000円、年間の下落率22.4パーセント)を基に、取引時点までの期間を月数あん分し17パーセントと算定した。
B 地域要因の比較は、土地価格比準表に照らしてみると、次のとおりと認められる。
(A)交通・接近条件・・・マイナス5.0ポイント
(B)環境条件・・・・・・マイナス4.0ポイント
(C)行政的条件・・・・・プラス1.5ポイント
C 個別要因の比較は、土地価格比準表に照らしてみると、次のとおりと認められる。
(A)画地条件・・・・・・マイナス5.0ポイント
(B)街路条件・・・・・・マイナス1.0ポイント
D 上記AないしCを基に本件土地の価額を算定すると、別表7のとおり、1平方メートル当たり849,900円となる。
(ハ)上記(イ)及び(ロ)のとおり、本件比準地から算定した本件土地の価額は近似しており、そのいずれも評価基本通達に基づき算定された本件土地の1平方メートル当たりの相続税評価額732,600円を上回っていることが認められる。
 そうすると、請求人らのした申告及び本件更正処分において、本件土地の価額を評価基本通達に基づき、上記イの(イ)及び(ハ)のとおり389,560,050円と算定したことが過大な価格であるとは認められない。
ホ 請求人らは、不動産鑑定評価は、専門家たる不動産鑑定士の意見の表明であり、個別性の強い不動産の適正な価格を法の根拠の下に表示しうる唯一のもである旨主張する。
 しかしながら、不動産鑑定評価は、相続税法第22条に規定する時価を検討する上での一つの判断要素であるが、個々の鑑定評価額が評価対象地の時価として真に適正なものか否かについては、個別具体的に鑑定評価の内容等を検討して判断すべきであって、鑑定評価は客観的な価額であるという一般論をもって、鑑定評価であれば全て時価としての妥当性を有していると解するのは請求人らの主観的な解釈と認められるので、この点に関する請求人らの主張は採用することができない。
ヘ 請求人らは、本件土地のように面大地という個別性がある土地を評価する場合には、評価基本通達に基づく画一的な評価手法による評価では客観的な交換価値、すなわち、時価を反映できない旨主張する。
 しかしながら、評価基本通達においては、土地の形状や利用を制限する権利の態様等により、同通達の15《奥行価格補正》から20《不整形地、無道路地、間口が狭小な宅地等、がけ地等の評価》に定める個別性に応じた各種補正を行って評価されており、その定めに従って算定した本件土地の1平方メートル当たりの相続税評価額が、上記ニのとおり、面大地と認められる本件比準地の取引価額を基に算定した本件土地の1平方メートル当たりの価額を下回っていることが認められるから、この点に関する請求人らの主張には理由がない。

(2)本件更正処分について

 以上のとおり、本件土地の価額を389,560,050円とした原処分庁の認定は相当であり、本件特例の適用については、請求人ら及び原処分庁の双方に争いがないと認められ、当審判所の調査によっても相当と認められるので、本件土地の価額389,560,050円に本件特例を適用して本件土地の相続税の課税価格に算入される価額を計算すると301,648,050円となり、これに基づき請求人らが本件相続により取得した財産の課税価格及び納付すべき税額を計算すると次表のとおりとなるから、これらの金額と同額でなされた本件更正処分は適法である。

(単位 円)
審査請求人課税価格納付すべき税額
総代H179,046,00052,100,500
M99,563,00028,970,700
N177,892,00051,764,600

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(3) 判断

 原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

別表3 本件土地の相続税評価額等の計算

(1)740,000円(正面路線価)×0.99(奥行価格補正率)=732,600円(1平方メートル当たりの価格)
(2)732,600円(1平方メートル当たりの価格)×531.75平方メートル(面積)=389,560,050円(本件土地の相続税評価額)

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