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(平8.4.25裁決、裁決事例集No.51 664頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、昭和58年11月17日に死亡したFの相続人であるが、この相続開始に係る相続税の申告書に租税特別措置法第70条の6(平成3年法律第16号による改正前のもの)《農地等についての相続税の納税猶予等》第1項に規定する、相続により取得した農地の相続税について納税の猶予をする特例(以下「相続税の納税猶予の特例」という。)の適用を受ける旨を記載して法定申告期限までに原処分庁に提出した。
 その後、請求人は、租税特別措置法の一部を改正する法律(平成3年法律第16号。以下「改正法」という。)附則第19条《相続税及び贈与税に関する経過措置》第6項の規定に基づき、租税特別措置法施行令の一部を改正する政令(平成3年政令第88号。以下「改正政令」という。)附則第10条《相続税の特例に関する経過措置》第4項の規定により、相続税の納税猶予の特例の適用を受けている農地の一部について、改正法附則第19条第6項第3号に掲げる要件に該当する転用に関し同項の適用を受けたい旨を記載した申請書(以下「本件承認申請書」という。)を平成6年2月22日付で原処分庁に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成6年3月18日付で改正法附則第19条第6項第3号に掲げる要件に該当する転用に関し同項の適用を受けたい旨の申請(以下「本件承認申請」という。)の却下処分(以下「本件却下処分」という。)をした。
 請求人は、上記処分を不服として平成6年5月17日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年9月29日付で棄却の異議決定をし、異議決定書謄本は、同月30日に送達された。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成6年10月31日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 請求人は、相続税の納税猶予の特例の適用を受けたP市R町630番3所在の田地積970平方メートル(以下「本件特例農地」という。)上に、改正法附則第19条第6項第3号に規定する共同住宅の建設を計画し、平成4年5月31日にQ市S町4丁目7番35号所在のG株式会社(以下「G社」という。)と建築工事請負契約を結び、同年8月25日付でP市農業委員会に本件特例農地の転用(以下「本件農地転用」という。)に係る農地法第4条《農地の転用の制限》第1項第5号に規定する届出書(以下「本件農地転用届出書」という。)を提出し、同委員会に同日付で受理された後、同年11月30日に上記共同住宅の建設に着手し、平成5年6月18日付でその完成した共同住宅について、平成5年3月14日新築を原因とする所有権保存登記をした。
 その後、請求人は、平成6年2月22日付で原処分庁に本件承認申請書を提出したところ、原処分庁は、本件承認申請書の提出前に、本件特例農地について本件農地転用届出書を提出して本件農地転用を行ったという理由から、本件却下処分をした。
 しかしながら、本件承認申請書の提出が本件農地転用届出書の提出後となったのは、請求人が、原処分庁に再三相談に行ったにもかかわらず、応対した原処分庁所属の職員(以下「原処分庁所属職員」という。)が、本件承認申請書の提出期限等についての指導をしてくれなかったからである。
 このことは、応対した原処分庁所属職員が国民の奉仕者たる公務員としての職務を全うしていないこととなり、その責任は原処分庁にあるから、本件承認申請は認められるべきである。
ロ また、本件農地転用については、本件承認申請書の提出が遅れたことを除き、改正法附則第19条第6項に規定する他の要件をすべて満たしているから、三大都市圏の農地の有効活用による住宅の供給不足の解消を図るという法の趣旨からしても、本件承認申請は認めるべきである。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 改正法附則第19条第6項は、相続税の納税猶予の特例の適用を受けていた特例農地等(以下「特例農地等」という。)のうち、租税特別措置法第70条の4(平成3年法律第16号による改正後のもの。)《農地等を贈与した場合の贈与税の納税猶予》第2項第3号に規定する特定市街化区域農地等(以下「特定市街化区域農地等」という。)に該当し、かつ、当該特定市街化区域農地等の全部又は一部につき、改正法附則第19条第6項第1号ないし第4号に掲げる要件に該当する転用(以下「特定転用」という。)をする見込みであることにつき、納税地の所轄税務署長に改正政令附則第10条第4項に規定する申請書を提出して承認を受けた場合は、その特例農地等については、相続税の納税猶予の特例の適用が継続適用される旨規定しているところ、請求人は、次のとおり、本件特例農地の本件農地転用を行った後に本件承認申請書を原処分庁に提出していることから、本件却下処分をしたものである。
(イ)請求人は、平成4年5月31日にG社と本件特例農地上に共同住宅の建築を目的として、建築工事請負契約を締結したこと。
(ロ)請求人は、平成4年8月25日付でP市農業委員会に本件特例農地に係る本件農地転用届出書を提出し、本件農地転用届出書は、同日付で同委員会に受理されたこと。
(ハ)G社は、平成4年11月30日に本件特例農地上に共同住宅の建築に着手したこと。
(ニ)請求人は、平成5年6月18日付で上記共同住宅について、平成5年3月14日新築を原因とする所有権保存登記をしたこと。
(ホ)請求人は、平成6年2月22日付で原処分庁に本件承認申請書を提出したこと。
ロ 請求人は、本件承認申請書の提出が本件農地転用届出書の提出後となったのは、その提出期限等について、原処分庁所属職員の指導がなかったからである旨主張するが、G社の社員であるH(以下「H」という。)が単独で原処分庁所属職員を訪れた最初の日は、請求人がP市農業委員会に本件農地転用届出書を提出(平成4年8月25日)した後の平成4年10月9日であり、また、Hから受けた相談の内容は、本件特例農地が相続税の納税猶予の特例の適用を受けるための担保となっていたため、その担保の変更を求めるものであったことが認められることからすれば、請求人の主張には理由がない。
ハ また、請求人は、本件農地転用については、本件承認申請書の提出が遅れたことを除き、改正法附則第19条第6項に規定する他の要件のすべてを満たしており、三大都市圏の農地の有効活用による住宅の供給不足の解消を図るという法の趣旨からしても認められるべきである旨主張するが、同法は、同項の規定に基づき適法に提出された申請書についてのみ適用されるものであるから、請求人の主張には理由がない。

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3 判断

(1)本件承認申請が認められるか否かについて争いがあるので、以下審理する。
イ 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ)本件特例農地は、請求人が昭和58年11月17日に死亡したFから相続により取得したものであること。
(ロ)本件特例農地は、平成3年1月1日において特定市街化区域農地等であること。
(ハ)請求人は、平成4年5月31日にG社と本件特例農地上に共同住宅の建築を目的として、建築工事請負契約を締結したこと。
(ニ)請求人は、平成4年8月25日付でP市農業委員会に本件特例農地に係る本件農地転用届出書を提出し、本件農地転用届出書は、同日付で同委員会に受理されたこと。
(ホ)G社は、平成4年11月30日に本件特例農地上に共同住宅の建築に着手したこと。
(ヘ)請求人は、平成5年6月18日付で上記共同住宅について、平成5年3月14日新築を原因とする所有権保存登記をしたこと。
(ト)請求人は、平成6年2月22日付で原処分庁に本件承認申請書を提出したこと。
ロ 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人の建築した上記イの(ヘ)の共同住宅は、改正法附則第19条第6項第3号に規定する共同住宅に該当すること。
(ロ)Hは、原処分庁所属職員を平成4年10月9日、同月13日及び同年11月2日の合計3回訪れて、相続税の納税猶予の特例の適用を受けるための担保となっていた本件特例農地について、その担保の変更を求める相談をしたこと。
ハ 上記ロの(ロ)の相談について、Hは、当審判所に対し、次のとおり答述している。
(イ)応対した原処分庁所属職員に、本件特例農地が相続税の納税猶予の特例の適用を受けるための担保となっていたので、担保を変更したい旨を告げ、当該原処分庁所属職員から担保物の変更の手続について指導を受けた。
(ロ)改正法附則第19条第6項に規定する特定転用に係る承認申請については、何も話をしなかった。
ニ ところで、改正法附則第19条第6項は、特例農地等のうち、平成3年1月1日において特定市街化区域農地等に該当するもの(昭和60年1月1日前に開始した相続に係るものに限る。)については、当該特定市街化区域農地等の全部又は一部につき、特定転用の見込みであることにつき、納税地の所轄税務署長に改正政令附則第10条第4項に規定する申請書を提出して当該所轄税務署長の承認を受けた場合は、当該特例農地等については、相続税の納税猶予の特例の適用が継続適用される旨規定しているから、当該特例農地等の転用があってもなお相続税の納税猶予の特例の継続適用を受けるためには、当該特例農地の転用をする前に当該申請書を当該所轄税務署長に提出して当該税務署長の承認を受けなければならないものと解される。
 そして、ここにいう農地の「転用」とは、農地法第4条に規定する「農地を農地以外のものにする」こと、具体的には、農地に区画形質の変更を加えて、住宅、店舗、工場等の施設用地等にする行為であると解するのが相当である。
 また、租税特別措置法は、一定の政策目的から定められた特則、例外規定であるから、その解釈適用は厳格にされなければならないと解するのが相当である。
ホ これを本件についてみると、本件特例農地は、上記イの(イ)及び(ロ)のとおり、改正法附則第19条第6項に規定する、昭和60年1月1日前に開始した相続により取得した農地で、かつ、平成3年1月1日において特定市街化区域農地等に該当することは認められる。また、請求人が建築した共同住宅は、上記ロの(イ)のとおり、改正法附則第19条第6項第3号に規定する共同住宅に該当することは認められる。
 しかしながら、上記イの(ト)のとおり、請求人は、平成6年2月22日に本件承認申請書を原処分庁に提出したことが認められるところ、上記イの(ハ)及び(ホ)のとおり、G社は、平成4年5月31日に請求人と本件特例農地上に共同住宅の建築を目的として締結した建築工事請負契約に基づき、同年11月30日に当該共同住宅の建築に着手したことが認められる。
 したがって、本件特例農地の本件農地転用は、遅くとも当該共同住宅の建築に着手した平成4年11月30日までに行われたことは明らかであるから、本件承認申請書は、本件農地転用を行った後に提出されたものであって、改正法附則第19条第6項に規定する要件を満たさない不適法な申請書といわざるを得ない。
ヘ 請求人は、本件承認申請書の提出が本件農地転用届出書の提出後となったのは、請求人が原処分庁に再三相談に行ったにもかかわらず、その提出期限等について、応対した原処分庁所属職員の指導がなかったからであり、その責任は原処分庁にある旨主張するが、上記ロの(ロ)の事実及び上記ハのHの答述によれば、Hが原処分庁所属職員を訪れて、相続税の納税猶予の特例の適用を受けるための担保となっていた本件特例農地について、担保を変更したい旨の相談をし、当該原処分庁所属職員がこれに応じて担保の変更について指導したことは認められるものの、その際、Hは、改正法附則第19条第6項に規定する特定転用に係る承認申請について、当該原処分庁所属職員に相談をしなかったことが認められるところ、同項の規定の適用を受けるかどうかは、納税者の判断と責任においてなされるべきものであるから、Hが原処分庁所属職員を訪れた機会に、当該原処分庁所属職員が本件承認申請について指導しなかったとしても、本件承認申請書の提出が本件農地転用届出書の提出後となったことについて原処分庁に責任があるとはいえない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は理由がない。
ト また、請求人は、三大都市圏の農地の有効活用による住宅の供給不足の取消を図るという法の趣旨からしても、本件承認申請を認めるべきである旨主張するが、上記ニのとおり、租税特別措置法の解釈適用は厳格になされるべきであり、また、上記ホのとおり、本件承認申請書は、改正法附則第19条第6項に規定する要件を満たさない不適法な申請書である以上、この点に関しても請求人の主張は理由がない。
チ 以上審理したところによれば、改正法附則第19条第6項の規定は請求人に適用できないことから、本件承認申請の却下処分は適法である。
(2)その他
 原処分のその他の部分について、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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