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(平8.4.19裁決、裁決事例集No.51 709頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、同族会社であるが、平成4年8月1日から平成5年7月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税の確定申告書(簡易課税用)に、課税標準額に対する消費税額を3,715,260円、控除対象仕入税額を2,972,208円、納付すべき税額を743,000円と記載して法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成6年7月29日付で本件課税期間の消費税について、課税標準額に対する消費税額を3,715,260円、控除対象仕入税額を2,655,842円、納付すべき税額を1,059,400円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の額を31,000円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
 請求人は、これらの処分を不服として平成6年9月6日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、これに対し、同年12月5日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成6年12月28日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)請求人の営む紳士服の販売事業は、F株式会社(以下「F社」という。)の営むG・フランチャイズチェーン(以下「Gチェーン」という。)への加盟を前提として成立しているが、その加盟は、次の事項が条件となっている。
A Gの看板を店舗に掲げ、その看板には注文服である旨の文言を入れること。
B 店舗において顧客の採寸を行い、採寸伝票をGチェーンの本部であるF社(以下「本部」という。)に送付すること。
C 採寸伝票に基づいて本部が製造したスーツ又はワイシャツ(以下「スーツ等」という。)の製品を請求人が仕入れること。
D 当該製品の販売価額は本部が決定すること。
E 本部は、請求人に対し生地の見本品を支給するが、当該製品の生地は本部が仕入れること。
(ロ)以上の条件からみると、請求人は、本部に対してスーツ等の縫製加工を委託しているとはいえず、また、本部が請求人の本来的な意味での外注先であるともいえない。
 そして、前記(イ)のAの注文服である旨の宣伝は、請求人の営業戦略上の問題であり、消費税法上の事業区分には影響しない。
 むしろ、取引形態全体を捕らえると、消費税法施行令第57条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第6項に規定する「他の者から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで販売する事業で卸売業以外のもの」という第二種事業(小売業)に該当する。
(ハ)平成3年6月24日付間消2―29消費税関係法令の一部改正に伴う消費税の取扱いについて(以下「消費税関係通達」という。)第2章第1節5《製造業に含まれる範囲》の(1)によれば、「自己の計算において原材料等を購入し、これをあらかじめ指示した条件に従って下請加工させて完成品として販売する、いわゆる製造問屋」は第三種事業に該当するものとして取り扱っている。
 そこで請求人の場合を考えると、請求人は、(a)自己の計算において原材料等を購入していないこと、(b)「あらかじめ指示した条件に従って下請加工させて完成品として販売する」とは、完成品の売価についても決定権があると解釈されるところ、請求人はGチェーンの一員として営業活動を行っており、本部を下請加工業者として扱えるような力関係にないこと等の状況からして、上記通達に該当する要件を備えていない。
(ニ)同じ注文服という看板を掲げていても、全工程を手縫いするテーラーメイドとマシンメイドの注文服とでは事業形態に根本的な違いがあるにもかかわらず、原処分庁は請求人の事業形態を誤認している。
(ホ)以上の理由により、請求人の営むスーツ等の販売事業は、消費税法施行令第57条第5項第2号に規定する第二種事業に該当する。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)原処分庁の調査によれば、以下の事実が認められる。
A 請求人は、その事業を第二種事業(小売業)及び第四種事業(修理業)として本件課税期間の消費税の申告を行っていること。
B 請求人は、店頭、ダイレクトメール及びチラシ等における広告で、販売するスーツは注文服である旨の宣伝を行っていること。
C 顧客がスーツを注文する場合、請求人は、店頭で顧客に生地の見本から生地を選択させるとともに、顧客の採寸を行い、採寸伝票を作成すること。
D 請求人は、本部に対して生地及び寸法を連絡し、スーツの縫製加工を委託していること。
E 請求人は、本部から納入されたスーツを検品した後に顧客に引き渡していること。
F 請求人は、ワイシャツの縫製加工も受注しているが、この取引についても上記BないしEと同様に行っていること。
G 請求人の作成する採寸伝票は、生地の色柄を始めとして、上着だけでも50項目程度の受注内容が記載される書式となっていること。
(ロ)請求人は、スーツ等の販売価額やその製造工程があらかじめ契約で定まっていることをもって、スーツ等の取引が第二種事業に該当する旨主張する。
 ところで、請求人の行うスーツ等の販売は、請求人がスーツ等は注文服である旨を宣伝し、それによって来店した顧客がスーツ等の生地及びデザインを指定し、これと請求人が行う採寸に係る数値等を採寸票に記入した上で本部に採寸票が渡され、本部が縫製加工したスーツ等を請求人が顧客に引き渡すという一連の取引である。
 したがって、請求人も本部もスーツ等の在庫品は一切持っておらず、顧客からの注文があって初めてスーツ等の縫製加工(製造)が始まるのであり、既製服の販売とは明らかに異なるものである。
 以上により、スーツ等の取引の形態は、請求人が顧客から特注品であるスーツ等の注文を請け負い、その縫製加工(製造)を本部に指示及び委託し、完成した製品を顧客に納品するというものであるから、他の者から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで販売する事業(第二種事業)であるとする請求人の主張には理由がない。
 更に、事業の種類を特定するに当たり、商品の販売業者が顧客から製品の製造を受注し、外注先にその製品を製造させて顧客に引き渡しを行う取引は、顧客から製品の製造を請け負った取引として第三種事業の製造業とされているのであるから、請求人のスーツ等の販売は第三種事業に該当するのである。
(ハ)請求人は、スーツ等の販売について、消費税関係通達第2章第1節5の(1)に該当する要件を備えていないから第二種事業に該当すると主張するが、前記(ロ)で述べたとおり、原処分庁はスーツ等の販売形態の全体を捕らえて第三種事業に該当すると認定したものであり、消費税関係通達第2章第1節5の(1)を根拠に認定したものではない。
(ニ)なお、消費税法施行令第57条第5項各号に掲げる事業のいずれに該当するかの判断に当たって、販売価額があらかじめ決定されているか否か及びテーラーメイドであるかマシンメイドであるかは、その判定の根拠となるものではないので、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 本件賦課決定処分について
 本件更正処分により納付すべきこととなる消費税額の計算の基礎となった事実について、請求人の場合には国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当しないので、同条第1項の規定に基づいてした本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、請求人の営むスーツ等の販売事業が消費税法の簡易課税制度上の第二種事業か第三種事業かであるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 次の事実については、請求人と原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ)請求人は、請求人の営む事業が消費税法施行令第57条第1項に規定する第二種事業及び第四種事業に該当するとして本件課税期間の消費税の申告を行っていること。
(ロ)請求人は、店頭、ダイレクトメール及びチラシ等における広告で、請求人が販売するスーツは注文服である旨の宣伝を行っていること。
(ハ)顧客がスーツを注文する場合、請求人は、店頭で顧客に生地の見本から生地を選択させるとともに顧客の採寸を行い所定の採寸伝票に記入すること。
(ニ)請求人は、本部に対し、当該採寸伝票を送付し、その採寸伝票に基づいてスーツが縫製加工され完成されること。
(ホ)請求人は、本部から納入されたスーツを検品した上で顧客に引き渡していること。
(ヘ)請求人は、ワイシャツの縫製加工も受注しているが、この取引についても前記(ロ)ないし(ホ)と同様の方法をとっていること。
(ト)課税売上高の合計額の内訳は、ネクタイ、カフス等の洋品売上が18,939,362円、スーツ等の販売が92,454,286円及び洋服等の修理が16,164,586円であること。
ロ 当審判所が関係人及び原処分関係資料を調査したところ、次の事実が認められる。
(イ)昭和59年4月25日付の請求人とGチェーンとの「G・フランチャイズチェーン契約書」(以下「本件契約書」という。)によれば、要旨次の事項が記載されていること。
A 本部は、請求人に対して、本部が有する商標、経営のノウハウ等を利用して「G店舗」を開設し、紳士服、紳士洋品を主体とした販売を行う権利を与える。
B 看板及び各種宣材については、本部が作成の上、加盟店に有償で交付することとし、加盟店が独自に作成使用してはならない。
C 取扱商品、販売価格、陳列数量及び在庫数量等に関してはすべて本部が決定し指示する。
D 本部の供給する商品の縫製加工については、すべて本部の指示に従い、許可なく他の業者に加工の依頼をしてはならない。
E Gスーツは、「製品卸し」のシステムを原則とし、本部は加盟店に対して、(a)原則として販売価格の60%、(b)奉仕品については販売価格の65%、(c)製品見本(既製服)については販売価格の55%の料率で商品を供給する。
(ロ)F社の取締役部長であるHは、当審判所の質問に対し、次のように答述していること。
A F社の行う事業は、Gチェーン事業、Kチェーン事業及びL事業の3事業からなっており、それぞれの事業本部はすべてF社にある。
B Gチェーン事業とは、加盟店は顧客からの注文を受けたことに伴い作成した採寸伝票をF社に送付し、同社はこの採寸伝票を基に縫製、ネーム入れ、裾上げ、袖つめ等までを完了した製品を各加盟店に販売する方式である。
C Gチェーン加盟店は、顧客の寸法を採寸することにより、注文服としてのイメージを前面に出して販売することができる。
 なお、加盟店は、ネクタイ等の小物を多少販売するが、これはGチェーン本部が仕入れた商品をそのまま加盟店に販売したものである。
(ハ)請求人の代表取締役であるMは、当審判所の質問に対し、次のように答述していること。
A 請求人は、(a)オーダースーツ及び(b)オーダーワイシャツの販売並びに(c)ネクタイやカフス等の洋品小物の販売、(d)洋服の修理という四種類の事業を行っている。
B 請求人は、シルエットパターンと呼ばれる生地見本パネル等を本部から無償又は有償で支給を受け、これを顧客に展示して生地を選んでもらうとともに、顧客の採寸をして所定の採寸伝票に記入し、これを本部に送付している。
C 顧客に対する販売価格は、すべて本部が決定することになっており、請求人が販売価格を自由に設定することや値引販売をすることはできない。
ハ ところで、本件のスーツ等の販売事業の簡易課税制度上の事業区分については、次のとおり解される。
(イ)簡易課税制度上の事業区分は、消費税法施行令第57条第5項第1号において第一種事業は卸売業、同項第2号において第二種事業は小売業、同項第3号において第三種事業は農業、林業、漁業、鉱業、建設業、製造業(製造した棚卸資産を小売する事業を含む。)、電気業、ガス業、熱供給業及び水道業のうち、第一種事業及び第二種事業に該当するもの並びに加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業を除くものをいう旨規定されている。
(ロ)また、消費税法施行令第57条第6項の後段において、小売業とは、他の者から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで販売する事業で卸売業以外の事業をいう旨規定されている。
ニ そこで、前記イ及びロの事実を基に上記ハに照らし判断すると、次のとおりである。
 請求人は、本件のスーツ等の販売事業の簡易課税制度上の事業区分の適用に当たっては、本件取引の形態の全体を捕らえて判断すると、本部から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで販売しているのであるから、請求人の営むスーツ等の販売事業は製造業ではなく、第二種事業である小売業に該当するとしてその適用を認めるべきである旨主張する。
 ところで、請求人は、前記イ及びロのとおり、スーツ等を注文服として販売する旨の広告宣伝をして、現に顧客からスーツ等の縫製の注文を請け負い、その縫製を本部に委託することにより、その注文により仕立てをしたスーツ等をその顧客に販売していることが認められる。
 そうすると、請求人の事業形態については、スーツ等の縫製を現実に行うのは本部であっても、顧客との関係においては、当該スーツ等の縫製は請求人の行為として捕らえられているものであって、本部が縫製したスーツ等の製品を請求人が購入して顧客に販売しているものとみることは、社会通念上できない。
 したがって、請求人の事業は、前記ハに照らすと、消費税法施行令第57条第5項第3号へに規定する製造業に当たり、同項第2号に規定する小売業には当たらないと認められ、この点に関する請求人の主張を採用することはできない。
ホ 以上の結果、請求人の営むスーツ等の販売事業は、消費税法の簡易課税制度上の第三種事業に該当すると認められることから、本件更正処分は適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、また、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定により過少申告加算税の賦課決定をした原処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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