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(平8.4.26裁決、裁決事例集No.51 719頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は同族会社であるが、次表の「確定申告」欄のとおり記載した平成3年10月1日から平成4年9月30日まで、平成4年10年1日から平成5年9月30日まで及び平成5年10月1日から平成6年9月30日までの各課税期間(以下、順次、「平成4年9月期課税期間」、「平成5年9月期課税期間」及び「平成6年9月期課税期間」といい、これらを併せて「各課税期間」という。)の消費税の確定申告書を、いずれも法定申告期限までに原処分庁に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成7年6月30日付で各課税期間について、それぞれ次表の「更正処分等」欄のとおり、消費税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。

 請求人は、これらの処分を不服として、平成7年8月21日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月17日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成7年12月14日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、平成4年9月期課税期間についてはその全部の、平成5年9月期課税期間及び平成6年9月期課税期間についてはその一部の取消しを求める。
イ 更正処分について
 請求人は、各課税期間について、消費税法第37条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第1項の規定(以下「簡易課税制度」という。)を適用し、また、請求人の事業が消費税法施行令第57条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第5項第1号に規定する第一種事業(卸売業)に該当することから、各課税期間における仕入れに係る消費税額を、同条第1項第1号の規定により、各課税期間における売上げに係る消費税額(各課税期間の課税標準額に対する消費税額から各課税期間における売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額の合計額を控除した残額をいう。以下同じ。)の100分の90に相当する額として消費税の確定申告書を提出した。
 これに対し、原処分庁は、請求人の事業が消費税法施行令第57条第5項第3号に規定する第三種事業(印刷業)に該当するとして、各課税期間における仕入れに係る消費税額は、同条第1項第3号の規定により、各課税期間における売上げに係る消費税額の100分の70に相当する額とする更正処分を行った。
 しかしながら、原処分庁は、次のとおり事実を誤認しており、請求人の事業は、第一種事業に該当するから、各課税期間における仕入れに係る消費税額は、各課税期間における売上げに係る消費税額の100分の90に相当する額とすべきである。
 なお、請求人は、原処分庁が平成5年9月期課税期間及び平成6年9月期課税期間において、請求人の事業用資産であった車両の売却に伴う収入金額を消費税の課税標準額に算入したことについては争わない。
(イ)請求人の事業は、顧客から注文があれば、それを請求人の仕入先である印刷業又は紙製品製造業を行っている第三者(以下「印刷会社」という。)へ発注し、印刷会社はこれを製作して請求人に納品している。
 請求人は、その納入された製品をそのまま顧客へ引き渡しているだけで、印刷業務を行っているのは請求人ではない。
 原処分庁は、請求人の定款に記載された事業目的をもってオフセット印刷や活版印刷(以下「印刷業務」という。)の受注をしていると認定しているが、消費税の事業区分の判定に当たっては現実の取引によって判断すべきである。
(ロ)原処分庁は、請求人が印刷会社に依頼して製作する印刷物は顧客の指示に基づくものであり汎用性がないこと、また、請求人が印刷会社へ依頼する部数は顧客から依頼を受けた部数と同数であることを理由として、請求人の事業がその他の紙製品卸売業ではなく、印刷業に該当すると認定している。
 しかしながら、商品の汎用性の有無は、請求人とは関係のない顧客の問題であり、また、印刷会社へ依頼する部数が顧客から依頼を受けた部数と同数であるのは、余分な在庫をもたないという請求人の経営方針であるからであり、これらをもって請求人の事業が第一種事業に該当しないとの理由にはならない。
(ハ)以上のとおり、請求人は、印刷業務はしておらず、単に他の者から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで顧客に販売しているだけで、付加価値の提供は行っていないのであるから、請求人の事業は、消費税法施行令第57条第6項の規定により卸売業に該当する。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、各課税期間の更正処分は違法であり、平成4年9月期課税期間についてはその全部を、また、平成5年9月期課税期間及び平成6年9月期課税期間についてはその一部を取り消すべきであるから、これに基づく過少申告加算税の各賦課決定処分もその全部又は一部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
(イ)原処分庁及び異議審理庁が調査したところによれば、次の事実が認められる。
A 請求人の定款によれば、請求人の事業目的は、(a)オフセット印刷、活版印刷及びタイプ印刷事業、(b)写真植字及び版下製作に関する事業、(c)製本に関する事業、(d)テレビ、ラジオ、新聞、雑誌等を媒体とする広告代理業、(e)その他これらの事業に附帯する一切の事業であること。
B 請求人が所有する印刷用機械は、写植機のみであること。
C 請求人の事業内容は、おおむね次のとおりであること。
(A)オフセット印刷(チラシ、パンフレット等)については、請求人が顧客からの受注に基づいて版下を製作した上で、フィルム、印刷、製本等は外注先に依頼している。
(B)活版印刷(名刺、葉書、封筒等)については、請求人が顧客からの受注に基づいて原稿を作成した上で、印刷、構成等は外注先に依頼している。
D 請求人が外注先に依頼して製作する印刷物については、顧客の指示に基づくものであり、汎用性がないこと。
E 請求人が外注先に依頼する部数は、顧客より請求人が依頼を受けた部数と同数であること。
(ロ)ところで、消費税法施行令第57条第6項に規定する第一種事業の卸売業とは、他の者から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで他の事業者に対して販売する事業をいうものとされており、ここでいう他の者から購入した商品とは、他の者が取得あるいは製作していた商品を購入したものと解され、また、その性質及び形状を変更しないとは、自ら加工を加えないことはもちろんのこと、自己の指示により他の者(外注先)等に行わせる加工をも加えないことと解されている。
(ハ)そこで、本件について、上記(イ)の事実に基づき検討すると次のとおりである。
A 請求人の定款に記載された事業目的からすると、請求人の事業は、その他の紙製品卸売業ではなく印刷業に該当することは明らかであり、また、請求人の事業実態や取引形態は、請求人自身が印刷機械を有していないことから、請求人は、印刷、製本等の行為をしていないものの、顧客から受注した印刷物について、請求人の責任と計算において外注先に印刷内容、印刷部数等を指示し、印刷を依頼していることが認められる。
 そうすると、請求人は、外注先が任意に製作した商品(印刷物)を購入して販売しているものではなく、請求人が営業活動の結果、顧客から受注したものを自社で印刷等ができないために外注先に依頼して製品化し、これを顧客に引き渡しているものであるから、顧客に納入した製品は、その性質及び形状を(外注先において)変更させているものといわざるを得ない。
B また、大部分の印刷行為は、請求人が主張するとおり、別の法主体(法人又は自然人)が行っていることは明らかであるが、顧客は、紙それ自体ではなく、紙に印刷されたことによって生ずる付加価値を期待して請求人に注文するのであり、また、請求人が発注する印刷会社は、印刷によって紙等の媒体(以下「媒体」という。)に付加価値を与え、これによって利益を得ているのである。
 つまり、請求人が行う一連の取引から受ける利益は、媒体に与えられた付加価値から生ずるものであって、決して媒体そのものの価値から生ずるものではないことは明らかである。
 ちなみに、印刷とは、媒体に文字やデザインを刷ることによって情報を多数の人に伝達する方法であり、印刷業者とは、印刷によって媒体に付加価値を与えることを業とし、そこから利益を得る者であるから、印刷業者が取り扱う商品は、表面的、直接的には印刷を施した製品自体であるが、その本質は媒体に与えられた付加価値であるということができる。
 これに対して、紙製品卸売業者が取り扱う商品は、紙それ自体であり、この点に関して紙製品卸売業者は、印刷業者と大きく相違する。
C 請求人は、商品の汎用性の有無は請求人とは関係のない顧客の問題であり、また、請求人が印刷会社へ依頼する部数が顧客から依頼を受けた部数と同数であるのは、余分な在庫を持たないという請求人の方針であるからであり、このことをもって請求人の事業が第一種事業に該当しないことの理由とはならない旨主張する。
 しかしながら、この汎用性とは、顧客の要望によって製作された印刷物を顧客以外の者が、本来の用途に使用し得るか否かということであり、請求人が主張するような顧客の内部における汎用性の問題ではない。
 また、顧客から注文のあった部数以上に、第三者から製品の納品を受けても、その製品を求めようとする者がいないということは、とりもなおさず、取引の目的が製品自体ではなく、その付加価値にあるからにほかならない。
(ニ)以上のとおり、請求人の事業について検討すると、請求人の主張のとおり、請求人は直接には印刷行為をしていないことから、単なる動産(製品)の売買取引という側面をもつが、これは経済取引の一面にすぎず、その本質は、上記(ハ)のBのとおり、印刷によって生じる付加価値の提供であり、このことは明らかに第三種事業に該当するから、各課税期間における仕入れに係る消費税額を、各課税期間における売上げに係る消費税額の100分の70に相当する額であるとして行った各課税期間の更正処分は適法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、各課税期間の更正処分は適法であり、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由がある場合に該当しないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行った過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 請求人の事業が、第一種事業又は第三種事業のいずれに該当するかに争いがあるので、以下審理する。

(1)更正処分について

イ 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、平成元年9月30日に、簡易課税制度の適用を受ける旨を記載した消費税簡易課税制度選択届出書を原処分庁に提出しており、また、各課税期間ともその基準期間における課税売上高が4億円を超えていないこと。
(ロ)原処分庁に提出された消費税簡易課税制度選択届出書の「事業内容等」欄には、印刷業等と記載されていること。
(ハ)原処分庁に提出された平成3年10月1日から平成4年9月30日まで、平成4年10月1日から平成5年9月30日まで及び平成5年10月1日から平成6年9月30日までの各事業年度(以下、順次、「平成4年9月期」、「平成5年9月期」及び「平成6年9月期」といい、これらを併せて「各事業年度」という。)の法人税の確定申告書の「事業種目」欄には、それぞれ印刷業等と記載されていること。
(ニ)平成4年9月期及び平成5年9月期の法人税の確定申告書に添付された損益計算書の「売上原価」欄において、当期製品製造原価は、平成4年9月期が60,274,206円、平成5年9月期が59,715,650円と記載され、また、当該確定申告書に添付された製造原価報告書によれば、その内訳は、次表のとおりであること。

(単位 円)
科目平成4年9月期平成5年9月期
材料仕入(1)9,043,0068,996,765
外注加工費(2)52,187,04551,207,277
当期総製造費用((1)+(2))(3)61,230,05160,204,042
期首仕掛品(4)298,0001,253,845
期末仕掛品(5)1,253,8451,742,237
当期製品製造原価((3)+(4)−(5))(6)60,274,20659,715,650

 なお、平成6年9月期については、製造原価報告書は法人税の確定申告書に添付されておらず、損益計算書の「売上原価」の額は64,831,187円と記載され、その内訳は、期首商製品棚卸が1,742,237円、仕入高が64,005,542円、期末商製品棚卸が916,592円とされていること。
(ホ)請求人の定款には、請求人の事業目的として、(a)オフセット印刷、活版印刷及びタイプ印刷事業、(b)写真植字及び版下製作に関する事業、(c)製本に関する事業、(d)テレビ、ラジオ、新聞及び雑誌等を媒体とする広告代理業、(e)上記の事業に附帯する一切の事業と記載されていること。
(ヘ)総務庁が作成している日本標準産業分類によれば、同分類は産業の種類を体系的に区分したものであり、その「大分類Fー製造業」の中の「中分類19ー出版・印刷・同関連産業」には、出版業、印刷業及びこれに関連した補助的業務を行う事業所が分類される旨記載され、その小分類として印刷業(謄写印刷業を除く)、製版業、製本業、印刷物加工業及び印刷関連サービス業が掲げられていること。
(ト)請求人の各事業年度の法人税の確定申告書に添付された「定率法による減価償却資産の償却額の計算に関する明細書」によれば、請求人が所有する印刷機械は、昭和60年9月に取得した写植機の1台のみであること。
ロ 請求人は、当審判所に対し、平成4年9月期の仕入帳、平成3年6月分ないし同年9月分の工程指示票等を提出したので、これらの請求人の提出資料を調査したところ、次のとおりである。
(イ)仕入帳には、取引年月日、品名、数量、単価、仕入金額、支払金額等が記載されているが、「品名」欄に記載された取引内容は、用紙などの材料仕入れ、チラシ・案内状・カタログ等の印刷、納品書・注文書・見積書等の製本、社報・ポスター等の版下製作、製版等であること。
(ロ)工程指示票は、受注年月日、納期、発注者、品名、規格、寸法、数量、仕様、刷色、用紙の種別、製作の種別、印刷の種別、仕上製本の種別、納品価格などの項目が記載できる様式となっていること。
ハ 請求人の代表取締役G(以下「G」という。)は、当審判所に対して、次のとおり答述した。
(イ)請求人の事業内容は、顧客からの印刷物の注文に応じて、請求人自身が印刷物に係る版下及び原稿を作成し、これに基づき、印刷会社に製作を依頼し、完成された印刷物を顧客に納品するものであること。
(ロ)請求人は、顧客からの印刷物の注文を印刷会社に依頼する際には、すべて工程指示票を作成しており、既製の印刷物を仕入れることはないこと。
 なお、工程指示票の一部は印刷会社に渡し、一部は控えとして請求人が保存していること。
(ハ)顧客から依頼された印刷物が指定された納期限までに間に合わなかった場合には、請求人がこれらの責任のすべてを負うこととなり、顧客から印刷会社へ責任を追及することはないこと。
(ニ)印刷物に印刷ミス等が生じた場合の顧客に対する責任は、請求人が負うこと。
(ホ)印刷会社において印刷物の製作過程において生ずる印刷枚数のロスについては、印刷会社が危険負担を負うこと。
ニ ところで、消費税の簡易課税制度上の事業区分は、消費税法施行令第57条第5項第1号で第一種事業は卸売業を、第2号で第二種事業は小売業を、第3号で第三種事業は農業、林業、漁業、鉱業、建設業、製造業(製造した棚卸資産を小売する事業を含む。)、電気業、ガス業、熱供給業及び水道業(第三種事業のうち第一種事業及び第二種事業に該当するもの並びに加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業を除く。)を、第4号で第四種事業とは第一種事業から第三種事業に掲げる事業以外の事業をいうと規定されており、さらに、同条第6項で卸売業とは、他の者から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで他の事業者に対して販売する事業をいうものとされている。
ホ そこで、上記イ及びロの各事実並びに上記ハのGの答述に基づき、請求人の事業について検討すると、次のとおりである。
(イ)請求人は、印刷業務はしておらず、単に他の者から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで顧客に販売しており、付加価値の提供は行っていないから、請求人の事業は、消費税法施行令第57条第6項の規定により卸売業(第一種事業)に該当する旨主張する。
 しかしながら、請求人の事業形態は、出来合いの製品を顧客へ販売する形態でもなく、また、一定の規格などにより製作された印刷物を購入し、顧客へ販売する形態でもない。
 つまり、請求人の契約内容については、請求人自身が、顧客の注文に基づいて、顧客のニーズに合わせた規格及び形状のものを必要部数のみ印刷会社に製作させ、これを顧客に引き渡すというもので、売買契約というよりはむしろ請負契約に該当するものであり、また、請求人の事業形態については、請求人は、請求人自身では印刷加工業務は行わないものの、上記ハの(ハ)及び(ニ)のとおり、顧客の注文に応じて自己の計算と危険において印刷会社に印刷加工を行わせることにより、印刷物の性質及び形状を変更して付加価値を高め、完成された印刷物を顧客に引き渡すことにより利益を得ていることから、請求人の事業は印刷業(製造業)であり、およそ印刷物を商品として仕入れて販売する卸売業とは認められない。
(ロ)したがって、請求人の事業区分については、消費税法施行令第57条第5項第1号に規定する第一種事業(卸売業)に該当せず、原処分庁が、請求人の事業が同条第5項第3号に規定する第三種事業に該当するとして、各課税期間における仕入れに係る消費税額を、同条第1項の規定により、各課税期間における売上げに係る消費税額の100分の70に相当する額であるとして行った各課税期間の更正処分は適法であり、請求人の主張には理由がない。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 以下のとおり、更正処分は各課税期間とも適法であり、また、請求人には更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、原処分庁が同条第1項及び第2項の規定に基づいて行った過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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