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(平8.10.31裁決、裁決事例集No.52 1頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、不動産所得を有する医療法人の役員であるが、次表の「確定申告」欄のとおり記載した平成2年分、平成3年分及び平成4年分(以下、これら3年分を併せて「各年分」という。)の所得税の確定申告書を、いずれも法定申告期限までに原処分庁に提出した。
 その後、請求人は、平成6年12月15日に各年分の総所得金額及び納付すべき税額を次表の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。
 原処分庁は、これに対し、平成7年6月15日付で各年分について、それぞれ更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。

 請求人は、これらの処分を不服として、平成7年8月10日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月8日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成7年12月4日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 原処分について
(イ)請求人は、平成元年6月10日に、P市R町1837番の1の医療法人G医院(以下「G医院」という。)との間で、請求人所有のP市R町1837番地の1所在の木造・鉄筋コンクリート造瓦スレート葺2階建建物の一部(当該部分の床面積は、1階326.07平方メートルのうち183.91平方メートル、2階241.10平方メートルのうち182.14平方メートル、合計366.05平方メートルであり、以下「本件建物」という。)を月額500,000円でG医院へ賃貸する旨の不動産賃貸借契約(以下「元契約」といい、当該契約に係る契約書を「元契約書」という。)を締結した。
 なお、一般に、不動産賃貸借契約書には賃料の算定根拠及び算定過程まで記載しないことから、元契約書には、賃貸借の目的物である本件建物の占有面積、賃料の記載にとどめ、賃料の算定根拠及び算定過程は記載しなかった。
(ロ)請求人は、平成6年9月に、原処分庁の係官(以下「係官」という。)から、平成5年分の不動産所得に係る支払利息が過大に計上されているのではないかとの電話照会を受けたため、改めて検討したところ、各年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべき本件建物に係る支払利息(平成2年分が3,879,239円、平成3年分が4,168,102円、平成4年分が3,082,968円であり、以下「本件支払利息」という。)の計上漏れの事実を把握した。
(ハ)請求人は、本件支払利息の計上漏れについて、更正の請求ができる期間を経過していたため、係官の勧めにより減額更正を求める嘆願書を提出したが、原処分庁は、「他の納税者とのバランス」を理由に減額更正を行わなかった。
(ニ)そこで、請求人は、各年分について適法に更正の請求ができる事由を探したところ、建物の賃料の算定においては、テナントビルの場合1平方メートル当たりの単価に占有面積を乗じて算定するのが一般的であるように、賃貸借の目的物である建物の床面積は占有面積で算定し、利用できない部分については考慮しないのが通常であるにもかかわらず、元契約の本件建物の床面積について、2階に通じる階段部分の面積を二重に計算したため9.6平方メートル過大に算定した瑕疵があることを発見したので、平成6年11月11日に、G医院との合意により元契約を解除するとともに、同日、新たに本件建物の床面積を是正し、月額賃料を500,000円から487,000円に変更した不動産賃貸借契約(以下「新契約」といい、当該契約に係る契約書を「新契約書」という。)を締結した。なお、新契約では特約条項として「変更後の賃料は元契約書締結時まで遡及して精算する」旨定めた。
 その結果、過大床面積部分に対応する月額賃料は13,000円、各年分の過大に受領していた賃料(以下「過大賃料」という。)はいずれも156,000円となるので、請求人は、G医院に対して当該金額を平成6年12月に現金で返還した。
(ホ)平成6年12月15日、請求人は、各年分の不動産所得に係る過大賃料の減額と併せて、上記(ロ)の本件支払利息の計上漏れを理由として、本件更正の請求を行った。
(ヘ)上記(ニ)の元契約の合意解除は、建物の賃貸借契約における重要な要素である占有面積(床面積)が過大に計算されていたという客観的理由によるものであり、国税通則法(以下「通則法」という。)第23条《更正の請求》第2項第3号を受けた国税通則法施行令(以下「通則法施行令」という。)第6条《更正の請求》第1項第2号に規定する「当該契約の成立後生じたやむを得ない事情によって解除されたこと」に該当するから、本件更正の請求は認められるべきである。
ロ 職権発動による減額更正について
(イ)請求人は、平成7年1月20日に、原処分の調査担当者(以下「調査担当者」という。)が本件更正の請求についての調査(以下「本件調査」という。)を行った際に、(a)元契約書、(b)新契約書、(c)本件建物を含む建物の平面図、(d)本件建物の改築資金の返済予定表及び(e)支払利息の発生状況資料等を提示して、本件支払利息の計上漏れ及び過大賃料について説明した。
 そして、調査担当者は、上記資料のほか本件更正の請求の理由としていないマンションの賃貸借契約等も詳細に調査し、本件支払利息の計上漏れを確認した。
(ロ)通則法第24条《更正》によれば、税務署長は、納税申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったとき、その他当該課税標準等又は税額等がその調査したところと異なるときには、その調査により、当該申告書に係る課税標準等又は税額等を更正する旨規定されており、原処分庁には、同法第23条第4項に基づき行った調査により納税申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算がその調査したところと異なることが判明した場合でも、同法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第2項に掲げる減額更正をすることのできる期間内であれば、事実に即して誤りを正す義務がある。
 また、本件調査は、調査担当者が、上記(イ)のとおり、本件更正の請求の理由としていないマンションの賃貸借契約等の調査も実施しており、実態において通則法第24条に基づき行われた調査であったといえる。
 したがって、いずれにしても原処分庁は、上記(イ)のとおり、課税標準等の計算誤り(本件支払利息の計上漏れ)を確認したのであるから、通則法第24条に基づいて減額更正をすべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 原処分について
(イ)原処分庁が調査したところ、次の事実が認められる。
A 請求人は、昭和59年12月27日にH銀行a支店から1億円の融資(以下「本件借入金」という。)を受け、従来から個人で経営していた医院の診療所部分を昭和60年に増築し、本件借入金に係る支払利息を事業所得の金額の計算上必要経費に算入していたこと。
B 請求人は、平成元年10月1日に個人経営の医院を法人組織に改組しG医院を設立したが、本件建物は個人所有のまま月額500,000円でG医院へ賃貸することとし、法人設立に先立つ同年6月10日に元契約を締結したこと。
C 平成6年9月19日、係官は、請求人の平成5年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入された支払利息が既往年分に比して著しく増加している点について、請求人の顧問税理士に説明を求めたこと。
D 請求人は、原処分庁の指摘に基づいて調査した結果、各年分の不動産所得の金額の計算上、本件支払利息を必要経費に算入するのを失念していた事実を確認したこと。
E 平成6年9月30日、請求人は、各年分について本件支払利息相当額を減額した場合の所得税額を更正の請求の用紙にて計算し、「更正の請求期限はすでに経過しているが、支払利息を必要経費に算入していなかった事実を確認いただきたい」旨記載した嘆願書と題する書面に添付して原処分庁へ提出したこと。
F 平成6年10月14日、係官は、請求人及び同人の顧問税理士に対し、請求人が本件支払利息を必要経費に算入していなかった事実は認められるものの、通則法第23条第1項に規定する更正の請求ができる期間を経過していることを理由として、また、他の納税者とのバランスもあり、減額更正を求めた嘆願には応ずることはできない旨回答したころ、請求人はこれを了承したこと。
G 平成6年12月15日、請求人は本件更正の請求を行い、当該請求に基づき、調査担当者は、平成7年1月20日に、本件調査を実施するため請求人宅に赴いたこと。
H 新契約書には請求人が主張するような特約条項が設けられているが、元契約書と同様に、賃料の算定根拠として、1平方メートル当たりの単価等の記載はなく、賃料の総額が記載されているのみであること。
I 請求人が提出した本件建物を含む建物の平面図によると、階段部分は、吹き抜け等の特殊な構造を有しているものではなく、一般的な階段であること。
(ロ)通則法第23条第2項の趣旨は、納税申告時には予想し得なかった事由が後発的に生じ、これにより課税標準等又は税額等の計算の基礎に変更が生じて、その結果、税額の減額をすべき場合に、同条第1項に規定するように法定申告期限から1年を経過した後には一切更正の請求を認めないとすると、帰責事由のない納税者に酷な結果が生じる場合等があると考えられることから、例外的に、一定の要件を満たす場合に更正の請求を認めることによって、保護されるべき納税者の救済の途を拡充したものであると解される。
 したがって、更正の請求の対象となる後発的な事由は、限定的なものとなっている。
(ハ)その事由の一つとして、通則法第23条第2項第3号を受けた通則法施行令第6条第1項第2号に「その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に係る契約が、解除権の行使によって解除され、若しくは当該契約の成立後生じたやむを得ない事情によって解除され、又は取り消されたこと。」が掲げられているが、ここでいう「契約の成立後生じたやむを得ない事情」とは、法定の解除事由がある場合、事情の変更により契約内容に拘束力を認めるのが不当な場合、その他これに類する客観的理由がある場合を指すものと解されており、契約を解除等することについて、やむを得ないと認められる客観的理由がない場合、又は更正の請求を受けることのみを目的として解除された場合には、これに該当しない。
(ニ)これを本件についてみると、請求人は、元契約をG医院と合意解除した事情は、本件建物の床面積について、2階に通じる階段部分の面積を二重に計算したため9.6平方メートル過大に算定した賃貸借契約であったためと主張する。
 しかしながら、元契約書によると、賃貸借の目的物に関しては、単に「床面積」と表示されるのみで、また、賃料も「月額」とするのみで、請求人が主張するような階段部分については何ら言及されておらず、契約当事者間において2階に通ずる階段部分について1階部分のみを対象とする旨の意思が存在したことの真偽の程さえ疑われるところである。
 その点はともかくとして、建築基準法施行令第2条《面積、高さ等の算定方法》の規定によれば、建物の床面積とは、建築物の各階又はその一部で壁その他の区画の中心線で囲まれた部分の水平投影面積による(ただし、建設大臣が高い開放性を有すると認めて指定する構造の建築物は除かれる。)ものとされており、一般的な形状を有する階段は床面積に含まれる。
 そうすると、賃貸借の目的物である本件建物の2階の床面積は、請求人の主張する階段部分を除いたものではなく、元契約書どおり182.14平方メートルが正当と認めざるを得ない。
(ホ)請求人は、テナントビルの場合を例に掲げ、賃貸借の目的物である建物の床面積は占有面積で算定し、利用できない部分については、賃料の算定においては考慮されないのが通常である旨主張するが、一般に、同一目的で同一人が使用する建物全体を賃貸借する場合の賃料を算定するときにおいて、当事者間において特段の事情がない限り、階段部分の床面積を賃料の算定根拠から除くことは極めて希有(むしろ皆無といえる。)であり、本件の場合、本件建物が当初から診療所として増築され、その全体を賃貸借することが予定されていたことからすれば、2階の階段部分の床面積を賃料の算定根拠から除く特段の事情があったとは認められない。
(ヘ)そして、本件建物が合意解除後も賃料の改定を除き従前と同様の状況で賃貸借されていることなどからすれば、本来考慮されないはずの階段部分の床面積の相違や総額500,000円の月額賃料のうちの13,000円程度の差額が、賃貸借契約上重要な内容をなすもの(契約内容に拘束力を認めるのが不当となる程の事情)とは認められず、他に元契約を解除することがやむを得ないと認められる客観的理由はない。
(ト)むしろ、上記(イ)の事実関係からすれば、元契約の合意解除は、主として、請求人が原処分庁に対し嘆願書を提出して本件支払利息相当額の減額更正を求めたのに対して、その請求を拒まれたために、後発的事由に基づく更正の請求を契機として、係官による調査をなさしめ、その結果、後述するような通則法第24条に基づく調査が行われたという見解を前提として、本件支払利息相当額の減額更正を受けることを意図し、その体裁を整えるために成されたものと認めざるを得ない。
(チ)したがって、請求人が主張する合意解除の事情は、上記(ハ)の「契約の成立後生じたやむを得ない事情」には該当しないから、後発的事由に基づく更正の請求をすることはできない。
ロ職権発動による減額更正について
(イ)通則法第23条第4項に基づき行う調査とは、更正の請求がされた場合に、(a)その更正の請求ができる要件としての請求の時期又はその時期の特例の原因が適法なものであるか否かを確認し、その要件を具備する場合、(b)「更正の請求をする理由」について、納税申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が法律の規定に従っていなかったか否か、すなわち、更正の請求事由に当たるか否かを判断するために行われるものであり、その他の部分について税務署長は、当該申告書に記載された所得金額等をそのまま正当なものとして、納付すべき税額を確定させることとなる。
 したがって、この場合、税務署長は、更正の請求事由以外の項目までも含めた納税者の真実の税額等までを確定することは要しない。
(ロ)これを本件についてみると、請求人が、元契約の合意解除は通則法第23条第2項第3号に規定する更正の請求ができる要件に当たるとして本件更正の請求をしたため、原処分庁は、その適否について同条第4項に基づき調査した結果、当該合意解除は後発的事由に当たらないと判断したものである。また、本件支払利息の計上漏れが、更正の請求ができる要件に当たらないことは、請求人も認めているところである。
 したがって、更正の請求ができる要件を欠いた時点で通則法第23条第4項に規定する調査は終了したことになり、本件支払利息の事実関係を調査したとしても、それは同条関連の調査であるから、原処分庁がそれ以上進んで請求人の真実の税額等までを認定するために本件支払利息を必要経費に算入すべきか否かを確認する調査を行う必要もなく、それゆえに減額更正をする必要もない。
(ハ)確かに、通則法第70条第1項及び第2項の規定によれば、税務署長は、職権により、納税申告書に係る国税の法定申告期限から5年以内に限り、当該申告書に記載された税額等を減額する更正を行うことができ、請求人は、原処分庁がその職権を発動することが可能な平成6年9月30日及び同年12月15日に職権発動を求め、関係書類を提示して内容の確認を求めた事実は認められるが、仮にこの関係書類の閲覧等が職権の発動をする契機とするに足りるものであったとしても、原処分庁が請求人に対して減額更正をすることを約束した等の特段の事情がない限り、減額更正を行うか否かは原処分庁の裁量に属する(納税者との関係では減額更正する義務を負わない。)ことに変わりはないものというべきである。
 なるほど、平成6年9月30日付の嘆願書は、係官の勧しょうにより提出されたものであるが、それは原処分庁の職権の発動を約束したものではなく、また、同係官に減額更正を約束すべき職権もないことからすれば、減額更正の約束があったものとは認められないばかりか、係官は、請求人に対し、他の納税者とのバランスもあり、更正の請求の期間を経過していることを告げて減額更正には応じられない旨告げていることから、仮に請求人が減額更正がされるものとの期待感を抱いたとしても、本件更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分は、何ら信義誠実の原則に反するものということもできない。
(ニ)このような理は、通則法第23条第1項の規定によれば、納税申告書を提出した者は、一定の事由がある場合に、原則として、当該申告書に係る国税の法定申告期限から1年以内に限り、更正の請求をすることができるものとされているところ、この更正の請求期間経過後に、納税者が税務署長に対して職権による減額更正を求めた場合において、常に更正処分を義務づけられると解すると、更正の請求の期間制限を実質上無意義なものにすることになる(平成3年9月27日最高裁判決)ことからも、説明することができる。
(ホ)更に付言すれば、通則法第24条に規定する更正のための調査とは、納税者の申告により一応確定された納付すべき税額が課税要件の充足により成立する抽象的納税義務の内容たる納付すべき税額(真実の税額)と一致しているかどうか、その他申告に係る事項が正しいかどうかを判定するために行われるものであり、税務署長は、課税標準等又は税額等を認定し得る事項全般について調査を行うこととなる。
 したがって、通則法第23条第4項に基づいて行う調査と更正のための調査とでは、その目的及び範囲が異なるから、税務署長は、同条項に基づく調査によって、課税標準等の計算誤りを確認したからといって、直ちに同法第24条により、減額更正をしなければならないというものではない。

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3 判断

 双方の主張に基づいて調査、審理したところ、次のとおり判断される。

(1)原処分について

 請求人は、元契約の合意解除が、通則法第23条第2項第3号を受けた通則法施行令第6条第1項第2号に規定する「当該契約の成立後生じたやむを得ない事情によって解除されたこと」に該当するから、本件更正の請求は認められるべきである旨主張するので、以下審理する。
イ 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、G医院からの家賃収入を、平成元年分が1,500,000円(月額500,000円)、各年分及び平成5年分がいずれも6,000,000円(同500,000円)、平成6年分が5,844,000円(同487,000円)として、不動産所得の金額を計算し、確定申告書を原処分庁に提出していること。
(ロ)請求人は、平成元年分ないし平成6年分の不動産所得の金額の計算において、G医院に対する貸付資産として、診療所(昭和60年5月取得)、車庫(昭和61年5月取得)、空調設備(昭和60年5月取得)、空気設備(昭和60年5月取得)、給排水設備(昭和60年5月取得)、盗難防止設備(平成元年5月取得)及び外溝(昭和60年5月取得)
(以下、これらを併せて「本件貸付建物設備等」という。)を減価償却資産に計上し、当該資産に係る減価償却費を必要経費に算入していること。
(ハ)元契約書には、第1条で、賃貸借物件として本件建物が記載され、第2条で、本件建物を診療所以外の目的で使用することを禁止し、第3条で、契約期間を10年、貸主借主双方から賃貸借契約を終了させる意思表示がない間は自動的に継続されるとし、第4条で、家賃は、月額500,000円、2年ごとに貸主借主双方合意のうえ改正すると定められていること。
(ニ)新契約書には、第1条で、賃貸借物件として本件建物の2階部分の床面積9.6平方メートルを減少したものが記載され、第4条で、家賃は、月額487,000円、2年ごとに貸主借主双方合意のうえ改正するとし、特約条項で、元契約は瑕疵があることから解除し、新契約は当該瑕疵を理由に賃料を変更し作成されたものである旨及び変更後の賃料は元契約締結時まで遡及して精算する旨定められているが、その他の条項は、元契約書と同一であること。
ロ ところで、通則法第23条第2項第3号及び通則法施行令第6条第1項第2号の規定によれば、納税申告書を提出した者又は決定を受けた者は、当該国税の法定申告期限後に、申告等に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に係る契約が、解除権の行使によって解除され、若しくは当該契約の成立後生じたやむを得ない事情によって解除され、又は取り消されたことによるやむを得ない理由があるときは、当該理由が生じた日の翌日から起算して2月以内に税務署長に対し、更正の請求をすることができるものとされている。
ハ そして、「契約の成立後生じたやむを得ない事情」とは、法定の解除事由がある場合、事情の変更により契約の効力を維持するのが不当な場合(契約内容に拘束力を認めるのが不当な場合)、その他これに類する客観的理由がある場合を指すものと解するのが相当である。
ニ これを本件についてみると、請求人が主張する合意解除の事情は、本件建物の床面積を9.6平方メートル過大に算定し、賃料を月額13,000円過大に受領したとするものであるが、(a)元契約書では、賃貸借物件として本件建物が表示され、賃料は500,000円と記載されているのみで、本件建物の床面積及び賃料の算定根拠は明らかでなく、(b)新契約書では、賃貸借物件として本件建物について元契約の2階部分の床面積から9.6平方メートル減少したものが表示されているが、請求人は、上記イの(ロ)のとおり、G医院に対し、合意解除の前後とも本件建物だけでなく本件貸付建物設備等を賃貸していることが認められ、(c)請求人は、本件貸付建物設備等を個人で経営していた時に取得し、また、G医院を設立してからは、合意解除の前後とも同医院が本件貸付建物設備等を業務に供しており、(d)元契約及び新契約とも、本件建物の診療所以外の目的での使用を禁止し、契約期間を10年としながら、貸主借主双方から賃貸借契約を終了させる意思表示がない間は自動的に継続される旨定められており、(e)元契約では、家賃は2年ごとに貸主借主双方合意のうえ改正するものと定められているが、上記イの(イ)のとおり、合意解除に至るまで一度も改正されていないことが認められる。
(a)ないし(e)からすると、元契約は、本件建物のみを対象にその床面積に1平方メートル当たり単価を乗じて賃料を算定したものではなく、賃貸借の目的物は本件建物を含む本件貸付建物設備等であったことは明らかであり、また、当該契約の合意解除後も、本件貸付建物設備等が診療所用設備として賃料の改定を除き従前と同様の状況で賃貸借されていることから、元契約の効力を維持したとしても不当とはいえず、他に元契約を合意解除せざるを得ない客観的理由があったとは認められない。
 むしろ、元契約の合意解除は、請求人は「本件支払利息の計上漏れが判明した時には、既に更正の請求ができる期間が経過していたため、係官の勧めにより嘆願書を提出したが、減額更正が行われなかったことから、適法に更正の請求ができる事由を探したところ、元契約の瑕疵を発見したので、当該契約を解除し新契約書を作成した」旨主張しており、当審判所としては、本件支払利息相当額の減額更正を求めることを目的として成されたものと認めざるを得ない。
ホ よって、請求人が主張する合意解除の事情は、「契約の成立後生じたやむを得ない事情」には該当せず、通則法第23条第2項に基づく更正の請求をすることはできない。
ヘ なお、各年分の本件支払利息の計上漏れについては、通則法第23条第1項により、更正の請求ができる期間は、法定申告期限から1年以内に限られているところ、請求人の提出した各年分の更正の請求書は、いずれも法定申告期限から1年を経過した後の平成6年12月15日に提出されたものであり、また、同条第2項に規定する更正の請求ができる事由にも該当しないから、適法な更正の請求事由とはならない。
ト したがって、原処分庁が行った更正をすべき理由がない旨の通知処分は適法であり、請求人の主張には理由がない。

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(2)職権発動による減額更正について

イ 請求人は、原処分庁は、請求人の各年分の課税標準等について、通則法第23条第4項に基づき調査をし、計算誤り(本件支払利息の計上漏れ)を確認しているから、同法第70条第2項に規定する期間内であれば、同法第24条により減額更正すべきである旨主張するので、以下審理する。
(イ)通則法第24条の規定によれば、税務署長は、納税申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったとき、その他当該課税標準等又は税額等がその調査したところと異なるときは、その調査により、当該申告書に係る課税標準等又は税額等を更正するとされ、同法第70条第1項及び第2項の規定によれば、税務署長は、その国税の法定申告期限から5年以内に限り、納付すべき税額を減少させる更正をすることができるとされている。
(ロ)一方、通則法第23条第1項の規定によれば、納税申告書を提出した者は、一定の事由がある場合に、当該申告書に係る国税の法定申告期限から1年以内に限り、更正の請求ができるとされ、納税者から課税標準等又は税額等の是正を求める更正の請求については期間制限が設けられている。
(ハ)そうすると、通則法第23条第1項に規定する期間を経過した後に、納税者が課税庁に対して職権による減額更正を求め、右職権の発動をする契機とするに足りる関係書類を提出した場合でも、なお、税務署長が納税者に対して減額更正をすることを約束した等の特段の事情がない限り、減額更正をするかどうかは税務署長の裁量に属するものと解するのが相当である。
(ニ)本件の場合、本件更正の請求に対してなされた原処分は、上記(1)のトのとおり適法であり、また、請求人が減額更正を求める本件支払利息の計上漏れは、通則法第23条第1項に規定する期間を経過した後に判明したものであり、当審判所の調査によっても、原処分庁が当該減額更正を行わなければならないような特段の事情も認められないから、仮に本件支払利息の計上漏れが請求人の主張のとおりであったとしても、原処分庁が他の納税者とのバランス等を理由にこれを行わなかったことに違法はない。
ロ また、請求人は、本件調査は、実態において通則法第24条に規定する調査であったから、同条に基づいて減額更正をすべきである旨主張するので、以下審理する。
(イ)通則法第23条に基づき行う調査は、更正の請求が同条第1項及び第2項の要件を具備した適法なものであるか否か手続面から判断するとともに、当該更正の請求に係る課税標準等又は税額等の計算が法律の規定に従っていなかったか否かを各税法にそって実体面から判断するために行うものと解される。
(ロ)また、通則法第24条の更正のための調査は、納税者の申告により確定された納付すべき税額が課税要件の充足により成立する抽象的納税義務の内容たる納付すべき税額と一致しているかどうか、その他申告に係る事項が正しいかどうかを判定するために行われるものであり、税務署長は、課税標準等又は税額等を認定し得る事項全般について調査を行うものと解される。
(ハ)当審判所の調査によれば、調査担当者は、本件調査に当たり、請求人に対して本件更正の請求に係る調査を行う旨告げており、本件調査が、本件更正の請求に基づき行われたものであることは明らかである。
 また、本件調査において、調査担当者は、本件更正の請求に係る不動産所得の「請求額」の内容について、本件支払利息及び請求人の各年分の不動産所得の基因となるマンションの賃貸借契約等について質問し、請求人及び同人の顧問税理士から説明を受けた事実は認められるが、それは、更正の請求が通則法第23条の要件を具備した適法なものであるか否か判断するとともに、当該更正の請求に係る課税標準等又は税額等の計算が法律の規定に従っていなかったか否かを判断するために行う同条に基づく調査と認められるから、原処分庁が、同法第24条に基づく調査を行ったとはいえない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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