ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.52 >> (平8.9.30裁決、裁決事例集No.52 31頁)

(平8.9.30裁決、裁決事例集No.52 31頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成6年分の青色の確定申告書(分離課税用)に、総合課税の所得金額7,196,536円、分離課税の長期譲渡所得の金額23,556,460円、申告納税額5,999,300円と記載して法定申告期限までに申告した。
 次いで、請求人は、平成6年分の所得税について総合課税の所得金額7,196,536円、分離課税の長期譲渡所得の金額44,011,108円、申告納税額11,688,200円とする修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を平成7年7月20日に提出したところ、原処分庁は、同修正申告により増加した税額に対して、平成7年8月8日付で過少申告加算税の額を568,000円とする賦課決定処分をした。
 請求人は、この処分を不服として、平成7年10月6日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成7年12月22日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成8年1月18日に審査請求をした。

トップに戻る

2 主張

トップに戻る

(1)請求人の主張

 次の理由により、原処分の全部の取消しを求める。
イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第5項の「調査」とは、課税庁の内部調査は含まれず、確定申告後、又は、確定申告期限後における、臨場調査、面接調査など外部からこれを認識できる具体的調査をいい、単に日時の照会の事前通知、問題事項がある場合の呼出通知等をもって調査があったことにはならないと理解するものである。
 なお、来署依頼状は、行政主体がその意図するところを実現するために相手方の任意の協力を期待して行うところの、いわゆる行政指導のための文書であり、そのために必要な書類を持参して来署を期待するところの文書であると言うべきで、来署を期待した日時に本人に質問し、申告に関する必要書類を検査するなど「調査」に入る旨の通知文書である。
ロ また、一般的に更正は税務署等の職員の実地調査により質問検査権の行使が行われ、その過程で先の申告が適正でないことを把握した時点で初めて可能であると解すべきである。そして、その時点後に修正申告書が提出された場合には、納税者は、不適正の発覚を認識しつつ修正申告書を提出したものであるから、同修正申告は更正を予知して行われたというべきである。
ハ これを本件について言えば、請求人は、原処分庁から単に行政指導を行うため来署を期待するところの「譲渡所得の申告について」と題する文書(以下「本件来署依頼状」という。)の送付を受けただけにすぎないものであって、同依頼状の送付を受けた時点では「調査」は行われておらず、調査に基づく更正を予知する段階ではない。
ニ そして、請求人は質問検査権の行使を一度も受けておらず、かつ、関係先などから自分の申告について調査されていることも察知することはなく、自発的に修正申告書を提出したものであるから、通則法第65条第5項に規定する「調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当する。

トップに戻る

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 請求人が本件修正申告書の提出に至った経緯には、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、平成7年2月3日に平成6年分の「譲渡資産などの明細書(兼譲渡所得計算書明細書)」(以下「譲渡資産などの明細書」という。)の「所在地審」欄に「P市R町248‐1」(同地番に所在する土地を、以下「A物件」という。)と記載して原処分庁に提出していること。
(ロ)請求人は、平成7年3月14日に平成6年分所得税の確定申告書二面の「分離課税の所得」の「所得を生ずる場所」欄に「P市R町248‐1」と記載して原処分庁に提出していること。
(ハ)原処分庁の資産課税部門の担当職員(以下「資産税担当職員」という。)は、平成7年7月17日に請求人に対して、お尋ねし説明したいこととして、売却や交換された資産を「P市R町248‐6他 土地」と記載し(「P市R町248‐6」に所在する土地を以下「B物件」という。)、さらに「7月25日午前11時ころ税務署においでください。」と記載した本件来署依頼状を送付したこと。
(ニ)請求人は、平成7年7月20日に請求人の関与税理士(以下「関与税理士」という。)を通じ原処分庁に本件修正申告書を提出したこと。
(ホ)関与税理士は、異議審理庁の異議調査担当職員(以下「異議担当職員」という。)に本件修正申告書を提出するに至った経緯について、次のとおり申述していること。
 請求人から、平成7年7月17日付で原処分庁から本件来署依頼状が送付されたが、どういうことかと連絡を受け、確認した結果、他の1名への売却分の申告を忘れていたことに気が付き、来署依頼日である7月25日を待たずに同月20日に本件修正申告書を提出したこと。
ロ 通則法第65条は、過少申告加算税の根拠規定であり、同条第1項の規定によると、修正申告書の提出又は更正があった場合において、これらにより納付すべき税額があるときは、その税額の10パーセント相当額を過少申告加算税として賦課決定されるとしている。
 また、通則法第65条第4項において、正当な理由がある場合は、過少申告加算税は賦課されないとしている。
 さらに、通則法第65条第5項において、修正申告書の提出があった場合に、その提出がその申告に係る国税についての調査があったことにより更正があるべきことを予知してされたものでないときは、過少申告加算税は賦課されないとしている。
ハ 通則法第65条第5項における調査とは、課税庁が行う課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味するものであり、課税庁の証拠書類の収集、証拠の評価あるいは経験則を通じての課税要件事実の認定、租税法その他の法令の解釈適用を経て更正処分に至るまでの検討、判断を含む極めて包括的な概念であって、実地調査等の納税者に対する直接的かつ具体的な調査である、いわゆる外部調査はもちろんのこと、申告指導のような納税者が課税庁における検討を認識することができる程度の手続も調査の範囲に含まれると解されている。
ニ 通則法第65条第5項における更正があるべきことを予知してされたものでないときとは、納税者が確定申告書の提出後、何らかの事由によって、先に申告した所得金額が過少申告であり、修正申告書を提出しなければならないことを認識し、これを決意したとしても、その決意は単に内心にとどまるのでは足りず、客観的に認められるものでなければならないとされている。
 換言すれば、更正があるべきことを予知してされたものでないときに当たるというためには、その修正申告書が提出される以前に課税庁において当該申告内容についての調査が開始されたとしても、その調査を納税者が認識できる以前に自発的な意思に基づいて修正申告書を提出した場合をいうものであると解するのが相当である。
ホ 以上のことから、本件修正申告書は、上記イの事実のとおり、請求人が確定申告に当たり申告しなかった譲渡物件について本件来署依頼状の送付を受け、本件修正申告書を提出するに至ったものであると認められることから、調査に基づき更正があることを予知してなされたものというべきであって、通則法第65条第5項は適用できない。
 したがって、通則法第65条第1項の規定に基づき過少申告加算税を賦課した原処分は適法である。

トップに戻る

3 判断

 本件修正申告書の提出が通則法第65条第5項に規定する「調査があったことにより更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するか否かに争いがあるので、調査・審理したところ、次のとおりである。
(1)次のことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成6年中に売却したA物件及びB物件の土地2物件について、それぞれ売却先、売却資産の明細、売却代金、概算取得費、売却に要した費用、必要経費の合計額及び譲渡所得の金額の計算並びにA物件の譲渡所得の金額を23,556,460円、B物件の譲渡所得の金額を20,454,648円と記載した「譲渡資産などの明細書」を平成7年2月3日付で原処分庁に提出していること。
ロ 請求人は、平成7年3月14日に平成6年分の所得税の確定申告書に、A物件に係る分離課税の長期譲渡所得の金額23,556,460円と記載して原処分庁に申告したこと。
ハ 原処分庁は、平成7年7月17日に請求人に対して、お尋ねし説明したいこととして、売却や交換された資産を「P市R町248‐6他 土地」と記載し、さらに「7月25日午前11時ころ税務署においでください。」と記載した本件来署依頼状を送付したこと。
ニ 請求人は、原処分庁から送付された本件来署依頼状を関与税理士に提示し、確定申告書の内容を確認するよう依頼していること。
ホ 請求人の関与税理士は、異議担当職員に対し、請求人が収受した本件来署依頼状を起因として、申告内容を確認した結果、申告洩れに気がついた旨申述していることから、関与税理士はB物件の譲渡所得の金額が申告されていない事実を把握し、請求人に説明し、請求人は、関与税理士を通じ本件修正申告書を平成7年7月20日に提出したこと。
(2)請求人は、通則法第65条第5項の「調査」とは、課税庁の内部調査は含まれず、確定申告後、又は、確定申告期限後における、臨場調査、面接調査など外部からこれを認識できる具体的調査をいい、単に日時の照会の事前通知、問題事項がある場合の呼出通知等をもって調査があったことにはならない旨主張する。
 しかしながら、通則法第65条第5項に規定する「調査」とは、課税庁が行う課税標準又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味するものであり、課税庁の証拠書類の収集、証拠の評価あるいは経験則を通じての課税要件事実の認定、租税法その他の法令の解釈適用を経て更正処分に至るまでの思考、判断を含む極めて包括的な概念であると解するのが相当であるから、課税庁が確定申告書を検討して納税者の過少申告を把握し、これを当該納税者に連絡したような場合は、「調査があったこと」に該当するものと解すべきである。
(3)そして、通則法第65条第5項に規定する「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するというためには、納税者が確定申告書の提出後、何らかの事由によって、先に申告した所得金額が過少申告であり、修正申告書を提出しなければならないことを認識し、これを決意したとしても、その決意は単に内心にとどまるものでは足りず、客観的に認められるものでなければならないと解するのが相当であって、その修正申告書が提出される以前に課税庁において当該申告内容についての調査が開始され、それにつき納税者が認識することができる程度の電話、文書等による連絡があった場合には、その後に納税者の自発的な意思に基づく修正申告書が提出されたとしても、通則法第65条第5項に規定する「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」には当たらないものと解するのが相当である。
(4)これを本件についてみると、請求人は、原処分庁から受けた本件来署依頼状は単に行政指導を行うため来署を期待する文書に当たるもので、「調査」が行われたものではなく、また、請求人は質問検査権の行使を一度も受けておらず、かつ、関係先などから自分の申告について調査されていることを察知せずに、自発的に本件修正申告書を提出したものであり、通則法第65条第5項に規定する「調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当することから、原処分は違法である旨主張する。
 そこで、本件について、通則法第65条第5項に規定する調査があったことにより更正があるべきことを予知してされたものでないときに該当するか否かを検討したところ、次のとおりである。
イ 「調査があったこと」に該当するか否かについては、上記(1)のイ及びロのとおり、請求人が確定申告書を提出する以前にA物件及びB物件に係る「譲渡所得の計算明細書」を提出しているものの、確定申告書にはその内のA物件のみの譲渡所得の金額を記載し申告した。
 その後、資産税担当職員は、請求人の確定申告書の申告内容を精査検討したところ、B物件の譲渡所得が申告されていないことを把握し、その時点において、請求人からB物件の譲渡所得を含めたところの修正申告書の提出もなかったことから、上記(1)のハのとおり、請求人に対して本件来署依頼状を送付した。
 ところで、本件来署依頼状には具体的に「B物件についてお尋ねし説明したいから税務署においでください。」と記載してあり、このことは資産税担当職員が請求人の確定申告書の申告内容を精査検討したその結果からB物件の譲渡所得が申告されていないことを請求人に対し指摘し、かつ、連絡していると認められることから、上記(2)で述べたとおり、通則法第65条第5項に規定する「調査があった」というべきである。
 なお、請求人は質問検査権の行使を一度も受けておらず、かつ、関係先についても調査されていない旨主張するが、上記(2)で述べたとおり、調査とは、課税庁が行う課税標準又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味するところ、上記のとおり、資産税担当職員が請求人の申告内容を精査検討した結果、B物件の譲渡所得の申告洩れを把握し、指摘していることから、質問検査権の行使を受けていないなどのことをもって「調査があった」ことを覆し得るものではない。
ロ そして、「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するか否かについては、請求人が本件修正申告書を提出したのは、上記(1)のニのとおり、原処分庁から本件来署依頼状の送付を受け、関与税理士に確定申告書の内容を確認するよう依頼したところ、上記(1)のホのとおり、関与税理士は本件来署依頼状の内容を起因としてB物件の譲渡所得が申告洩れとなっていることを認識し、請求人に説明した後であることから、修正申告をしない場合には、原処分庁により更正処分がなされるであろうことを当然に予知した後と推認するのが相当である。
 よって、「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当しないというべきである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(5)以上の結果、本件修正申告書の提出は、通則法第65条第5項の規定に該当しないから原処分は適法である。
(6)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る