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(平8.12.9裁決、裁決事例集No.52 128頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人F、G、H、J及びK(以下「請求人ら」という。)は、平成5年10月22日に死亡したL(以下「被相続人」という。)の共同相続人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)開始に係る相続税の申告書に別表1の「当初申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告し、次いで、別表1の「修正申告」欄のとおりとする修正申告書を平成6年7月25日に提出した。
 その後、請求人らは、原処分庁所属の職員の調査を受け、別表1の「修正申告(第二次)」欄のとおりとする修正申告書を平成7年6月20日に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成7年7月3日付で別表1の「更正処分等」欄のとおり、Fに対しては更正処分(以下「本件減額更正処分」という。)をし、請求人らのうちF以外の審査請求人(以下「Gら」という。)に対しては更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
 請求人らは、これらの処分を不服として、平成7年8月24日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年12月4日付でFに対しては却下の異議決定をし、Gらに対してはいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人らは、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成7年12月30日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、Fを総代として選任し、その旨を平成8年2月22日に届け出た。

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2 主張

(1)請求人らの主張

イ 本件減額更正処分について
 本件減額更正処分は、被相続人の遺産である別表2に掲げる順号1の土地ないし順号10の土地(以下、これらを「順号1」ないし「順号10」といい、併せて「本件土地」という。)に有限会社M(昭和41年8月16日有限会社Nを設立、その後、昭和51年9月30日に有限会社Mに商号変更する。以下「M社」という。)が時効取得した地上権(以下「本件地上権」という。)が存在しないことを前提とした処分であるので、Fがこの処分を看過することは、本件土地に本件地上権が存在しないとの結論を認めることとなり、Gらの審査請求に悪影響を及ぼすことになる。
 したがって、Fは、審査請求の利益を有するものであり、本件減額更正処分の全部取消しを求める。
ロ 本件更正処分について
 本件更正処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
(イ)本件土地の使用関係
 M社は、本件土地について次のとおり本件地上権を有しており、その残存期間は永久である。
A M社は、順号1ないし順号6について、当初荒地であったものを昭和44年に開墾し、遅くとも昭和45年1月1日から竹木所有の目的で、期間永久、地代無償の意思をもって、平穏かつ公然に占有していたものであり、うち順号2については、その占有の始めは善意にしてかつ過失がないので、10年後の昭和55年1月1日の経過をもって、また、順号1及び順号3ないし順号6については、農地であるにもかかわらず農地法に定める許可を受けていなかったことから、その占有の始めに過失があったので、20年後の平成2年1月1日の経過をもって、それぞれ本件地上権を時効取得している。
B M社は、順号7ないし順号10について、当初被相続人が竹木所有の目的で使用していたところ、当該竹木を被相続人より譲り受けた上で、昭和41年8月16日から竹木所有の目的で、期間永久、地代無償の意思をもって、平穏かつ公然に占有していたものであり、うち順号7ないし順号9については、その占有の始めは善意にしてかつ過失がないので、10年後の昭和51年8月16日の経過をもって、また、順号10については、農地であるにもかかわらず農地法に定める許可を受けていないことから、その占有の始めに過失があったので、20年後の昭和61年8月16日の経過をもって、それぞれ本件地上権を時効取得している。
C M社は、本件地上権を時効取得するに当たり、本件土地の占有を開始してからその時効取得までの占有状態に変化がないことから、被相続人との間には、時効の中断事由は存在せず、また、それを占有するに当たり、暴行、強迫などの違法な行為を用いていないのであるから、時効取得の要件は整っている。
D ○○地方裁判所は、原告をM社、被告をF、G、H及びJ(以下「被告ら」という。)とする平成△年×第○×号地上権設定登記手続等請求事件(以下「本件訴訟」という。)において、平成△年○月×日に本件土地にM社の地上権が存在する旨の判決(以下「本件判決」という。)を下している。
E 本件地上権の残存期間が永久であることは、(a)被相続人が××家の家業としての造園業を永久に続けていくために法人組織にしたこと、(b)Fが昭和43年にA大学造園学科を卒業すると直ちにM社の従業員として働き、現在は代表取締役として活躍していること、(c)Gが平成8年にA大学造園学科を卒業し、家業としての造園業を続けていく予定であり、日本人男性の平均余命からして今後50年は生きて造園業に従事できること及び(d)M社の役員一同は、M社が永久に造園業を続けていくことを言明し、そのための努力を続けてきたことからも明らかである。
(ロ)地上権の存否
 原処分庁は、(a)本件判決は十分な審理が尽くされたとは到底認められないから、本件判決をもって請求人らの主張を採用することができないこと、(b)M社は本件地上権の設定登記を行っていないこと、(c)M社の平成5年8月1日から平成6年7月31日までの事業年度(以下「平成6年7月期」という。)の法人税の確定申告書によると本件地上権の価額が雑収入等に計上されていないこと、(d)M社は、本件土地と同様に利用していた被相続人の所有する別表3の順号1の土地ないし順号4の土地(以下「本件隣地」という。)を無償で返還したこと、(e)被相続人が本件相続開始時まで本件土地の固定資産税を納税していたことから、本件地上権が存在しない旨主張するが、次のとおり理由がなく、本件土地上に本件地上権が存在することは明らかである。
A 訴訟における審理は、不必要なことまで大げさに時間を浪費するのは善でなく、原告が、訴訟提起の際に十分に事実調査等をして正確な事実を主張し、被告側に反論の余地なからしめるのを上策とするものであるところ、本件訴訟において、原告であるM社は、正確な事実を主張したために、反論する方法がなく、その必要もなかったので、答弁書も提出せず、第一回口頭弁論期日に出頭しなかったものであり、早く判決に至ったものである。
B M社は、本件判決により本件地上権の存在が明らかにされ、直ちに、地上権設定登記をする予定であったが、(a)本件土地の所有者がその処分行為等を行って、本件地上権を危うくする恐れがなかったこと、(b)地上権設定登記をする場合は、登録免許税等に2,000万円を要すると聞かされたこと等から、地上権設定登記を見合わせたものである。
 なお、地上権設定登記の有無をもって、当該権利の存否が左右されるものではない。
C M社及び請求人らは、取得時効の効力発生の時期について、占有を開始した時にさかのぼるとする説が正しいと信じており、仮に、M社が本件判決に基づき地上権設定登記を行っていたならば、本件土地の不動産登記簿には、本件地上権の取得時期が「昭和41年8月16日」又は「昭和45年1月1日」と記載されるのであるから、M社は、平成6年7月期において、本件地上権を取得した事実はない。
D M社は、本件隣地を竹木所有の目的で、期間永久、地代無償の意思をもって使用を開始した際に権利金を支払わず、その後、地代をも支払っていないことから、当該土地を返還するに際して立退料等を被相続人に要求しなかったのは、日本人の健全な常識に合致するものである。
E 固定資産税の納税義務者は、その年の1月1日の土地所有者がなるのであるから、本件土地の所有者である被相続人がその納税を行うのは当然である。
(ハ)本件土地の価額
 以上のことから、本件土地の価額は、その自用地価額(地上権等の他人の権利の目的とされていない土地の価額をいう。以下同じ。)から相続税法第23条《地上権及び永小作権の評価》に規定する「残存期間が50年を超えるものの割合100分の90」を適用して評価した本件地上権の価額を控除した金額により評価すべきであるから、別表2の「請求人主張額」欄のとおり、106,742,138円となる。
ハ 本件賦課決定処分について
 上記ロのとおり、本件更正処分は違法であるから、本件賦課決定処分も全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

イ 本件減額更正処分について
 本件減額更正処分は、本件相続に係るFの相続税の課税価格及び納付すべき税額を減額するものであり、Fの権利又は法律上の利益を何ら侵害するものではないことから、Fの審査請求は、請求の利益を欠く不適法なものであり、却下されるべきである。
ロ 本件更正処分について
 本件更正処分は、次の理由により適法である。
(イ)本件土地の使用関係
 本件土地は、次のことから、M社が被相続人との特殊な信頼関係に基づき利用していたものであると認められる。
A 本件土地は、M社が営む造園業に係る植木及び庭石等の保管場所として更地のまま利用していたものである。
B 被相続人とM社の間には、本件土地に係る賃貸借契約がなく、また、権利金及び地代の授受も認められない。
C 被相続人は、M社の取締役であり、仕事は同社の全般的な内容について行っていたことから、本件土地の使用関係についても無償でM社が使用していることを黙認していたと推認される。
(ロ)地上権の存否
 請求人らは、M社の本件土地の使用関係について地上権によるものである旨主張するが、次のとおり、本件地上権が存在するとは認められない。
A 本件判決は、被告らが、適式な呼び出しを受けながら口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出していないことから、本件地上権をM社が時効取得したとするものであり、十分な審理が尽くされたとは到底認められず、また、他にM社が本件地上権を時効取得したとする証拠資料も存在しないことから、本件判決をもってM社が本件地上権を取得したとする請求人らの主張は採用できない。
B 本件土地に係る平成7年11月6日付の不動産登記簿の謄本によると、M社を登記権利者とする地上権の設定登記の申請を行った事実はない。
C M社の平成6年7月期の法人税の確定申告書によると、本件地上権の価額が雑収入等に計上されていない。
D M社は、本件隣地を本件土地と同様に竹木所有の目的で期間永久、地代無償の意思をもって利用していたところ、被相続人が本件隣地上に鉄筋コンクリート造5階建の賃貸マンション(以下「本件建物」という。)を新築するに当たり、被相続人に当該土地を無償で返還していることから、本件隣地は、使用貸借関係に基づき利用していたに過ぎない。
E 本件土地の固定資産税は、本件相続開始等までは被相続人が支払っていた。
(ハ)本件土地の価額
 以上のことから、本件土地の相続開始時における利用形態は、使用貸借の関係にあったと認められるから、本件土地の価額については、地上権が設定されていない自用地として評価すべきであり、別表2の「原処分庁主張額」欄のとおり、1,067,421,398円となる。
ハ 本件賦課決定処分について
 上記ロのとおり、本件更正処分は適法であり、また、Gらには国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由も認められないから、同条第1項の規定に基づきされた本件賦課決定処分は、適法である。

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3 判断

(1)本件減額更正処分について

 本件減額更正処分が不利益処分に当たるか否かは、当該処分により課税価格及び納付すべき税額が増加したか否かにより判断すべきであるが、本件減額更正処分は、本件相続に係るFの相続税の課税価格及び納付すべき税額を増加させる更正処分でないことは明らかである。
 したがって、本件減額更正処分については、Fの権利又は利益を侵害するものとはいえないから、その取消しを求める利益はなく、Fの審査請求は、請求の利益を欠く不適法なものである。
 なお、上記のとおり、Fの審査請求は、請求の利益を欠く不適法なものでありもともと行うことができないものであるから、たとえFが本件減額更正処分に対する審査請求を行わなかったとしても、Gらの審査請求に影響を及ぼすものではない。

(2)本件更正処分について

 本件審査請求の争点は、本件土地に本件地上権が存在するか否かにあるので、以下審理する。
イ 争いのない事実
 次の事実については、請求人ら及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ)M社は、昭和41年8月16日に有限会社Nの商号で造園業等を営むことを目的として設立され、昭和51年9月30日に有限会社Mに商号を変更したこと。
(ロ)被相続人は、本件相続開始までM社において取締役であったこと。
(ハ)被相続人とM社の間には、本件土地に係る賃貸借契約はなく、権利金及び地代の授受も行っていないこと。
(ニ)M社は、平成6年5月19日付で、本件訴訟を○○地方裁判所に提起したこと。
(ホ)○○地方裁判所は、本件訴訟において、平成6年7月15日に、原告であるM社の請求に理由があるとして本件判決を下したこと。
(ヘ)本件判決の「事実及び理由」欄には、「被告らは、適式な呼び出しを受けながら第一回口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しないので請求原因事実を明らかに争わないものと認め、これを自白したものとみなす。」と記載されていること。
(ト)M社は、本件地上権の設定登記の申請を行っていないこと。
(チ)M社は、平成6年7月期の法人税の確定申告書によると本件地上権の価額を雑収入等に計上していないこと。
(リ)被相続人は、本件隣地に本件建物を新築し、平成5年4月26日付で所有権の保存登記をしたこと。
(ヌ)本件土地の固定資産税は、被相続人が納税していたこと。
(ル)本件土地の自用地価額は1,067,421,398円であること。
ロ 認定した事実
 請求人らの答述及び提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)被相続人は、昭和41年8月16日にM社を設立した際、被相続人の個人としての営業権及び棚卸資産等をM社に引き継いだこと。
(ロ)本件土地は、M社が営む造園業のための植木及び庭石等の保管場所として利用していたこと。
(ハ)本件訴訟における被告らのうち、F、H及びJは、M社の役員であり、かつ、その出資口数の76パーセントを所有していること。
 また、Fは、昭和44年7月15日以降M社の代表取締役に就任していること。
(ニ)Fは、異議審理庁に対し、被相続人がM社において経営等の意思決定権を有し、仕事は全般的な内容について行っていた旨申述していること。
(ホ)Fは、異議審理庁に対し、以前からM社が本件土地につき植木栽培の目的で永久かつ無償で使用できる何らかの権利を有すると認識していたが、その権利については、本件相続開始後に弁護士Yより地上権についての説明を受けて初めて、本件地上権であると認識した旨申述していること。
(ヘ)Fは、当審判所に対し、本件相続開始後、M社が本件土地につき有する何らかの権利について検討した結果、本件土地の竹木の状況及びその肥培管理の状況からM社が地上権を有すると判断した上で、本件訴訟を提起させたところ、本件判決により本件地上権の時効取得が認められた旨答述していること。
(ト)M社は、被相続人が本件隣地に本件建物を新築する際、それまで利用してきた当該土地を被相続人に無償で返還したこと。
ハ 本件更正処分の適否
 前記イの争いのない事実及び上記ロの認定事実に基づき、本件更正処分の適否について判断すると、以下のとおりである。
(イ)本件土地の使用関係
 本件土地は、上記ロの(イ)及び(ロ)のとおり、M社が、その設立に当たって被相続人の営業権及び棚卸資産等を引き継いだ後、造園業に係る植木及び庭石等の保管場所として引き続き使用してきたが、前記イの(ハ)のとおり、被相続人とM社との間には、本件土地に係る賃貸借契約を締結した事実はなく、権利金及び地代の授受の事実もないことから、被相続人とM社の本件土地の使用関係は、前記イの(ロ)及び上記ロの(ト)の事実に照らして鑑みると、被相続人とM社の特殊な信頼関係に基づくものであると認められる。
(ロ)地上権の存否
 本件土地に係る地上権の存否について判断すると、次のとおりである。
A 地上権の時効取得
(A)地上権の時効取得が成立するためには、土地の継続的な使用という外形的事実が存在するほかに、その使用が地上権行使の意思に基づくものであることが客観的に表現されていることを要すると解するのが相当である。
 しかしながら、M社が、上記ロの(イ)及び(ロ)のとおり、本件土地について継続的に使用しているという事実は認められるものの、上記ロの(ホ)のとおり、M社の代表取締役であるFは、本件相続開始時までは本件地上権の存在を明確に認識しておらず、ただ単に、M社が本件土地につき何らかの権利を有するという程度の漠然とした認識でしかなかったところ、弁護士Yの説明により本件地上権の存在を認識したものであり、M社による本件土地の使用が当初から地上権行使の意思に基づくものとは認められないから、地上権の時効取得の成立要件を欠くものといえ、請求人らの主張する本件地上権の存在は認め難い。
(B)また、地上権に関する本件判決は、前記イの(ヘ)のとおり、被告らが、適式な呼び出しを受けながら第一回口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出していないことから、請求原因事実を明らかに争わないものと認め、これを自白したものとみなした上で、前記イの(ホ)のとおりM社が本件地上権を時効取得したとするものであるが、このことは、上記ロの(ハ)のとおり、本件訴訟における被告らのうちF、H及びJは、いわゆる支配権を有する同族会社の社員であり、実質的にM社において意思決定権を有する者であることから、上記ロの(ヘ)のとおり、請求人らが本件相続開始時まで本件地上権の存在を認識していなかったにもかかわらず、時効取得という法的手段を用いて本件地上権の存在を確定させるために、相続税の申告期限の間際になって本件訴訟をM社に提起させ、被告らが請求原因事実を十分に争わなかったことに起因するものというべきであり、請求人らがM社に本件訴訟を提起させたこと自体が、相続税軽減という動機を専ら経済的、実質的に行為化したものと判断すべきである。
(C)以上のことから、本件判決をもってM社が本件地上権を取得したとする請求人らの主張は採用できない。
B 地上権の設定登記
 請求人らは、本件判決後にM社が地上権の設定登記を行わなかったのは、(a)本件土地の所有者が本件地上権を危うくする恐れがないこと、(b)地上権設定登記に2,000万円の登録免許税等を要すること等から登記を見合わせたものであり、地上権設定登記の有無によって当該権利の存否が左右されるものではない旨主張するが、上記Aのとおり、本件地上権の存在が否定されるべきであるから、請求人らの主張は、当を得ないこととなる。
C 地上権の課税時期
 請求人らは、取得時効の効力の発生時期は、占有を開始した時期にさかのぼるものであり、M社は平成6年7月期に地上権を取得した事実はなく、同期の法人税の確定申告において本件地上権を雑収入等に計上する必要はない旨主張するが、法人が時効により無償で土地等を取得した場合は、法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第2項の規定により、時効の基礎たる事実の開始時点ではなく、時効を援用した時をもってその時の土地等の時価を益金の額に算入すべきであると解するのが相当であるから、仮に請求人らの主張するようにM社が本件地上権を本件判決に基づき時効取得したとするならば、M社は、平成6年7月期の法人税の確定申告の際、本件地上権を益金の額に算入する必要があるから、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
D 本件隣地の無償返還
 請求人らは、M社が本件隣地を竹木所有の目的で、期間永久、地代無償の意思をもって使用を開始した際に権利金を支払わず、その後、地代をも支払っていないことから、被相続人に当該土地を返還するに際して立退料等を被相続人に要求しなかったのは、日本人の健全な常識に合致するものである旨主張するが、請求人らは、本件土地については、M社が竹木所有の目的で、期間永久、地代無償の意思をもって、平穏かつ公然に10年間又は20年間占有していたから、本件地上権につき取得時効が成立したとしながら、一方では、上記ロの(ト)のとおり、本件隣地を無償で返還していることから、請求人らの主張は、論拠の一貫性に欠けるものといわざるを得ず、その正当性に疑義がもたれる。
E 固定資産税の納税義務
 請求人らは、本件土地の固定資産税の納税は、その所有者である被相続人が行うのは当然である旨主張するが、固定資産税の納税については、地方税法第343条《固定資産税の納税義務者等》第1項において、存続期間が100年より長い地上権の目的とされている土地については、その固定資産税の納税義務者を地上権者とする旨規定されており、仮に本件地上権が存在するとすれば、請求人らは本件地上権の存続期間は永久であると主張していることから本件土地の固定資産税の納税義務者は地上権者となり、請求人らの主張には矛盾が生じ、その理由がない。
(ハ)本件土地の価額
A 以上のことから、前記イ及び上記ロの事実を踏まえて総合して勘案すると、M社の使用開始から本件相続開始までの間における本件土地の使用関係は、被相続人とM社の特殊な信頼関係に基づく使用貸借によるものと認定するのが相当であり、本件土地に係る地上権の存在は認められない。
B ところで、使用貸借に基づく土地の使用権は、借地法等の特別立法により手厚い保護を受けている借地権に比し、法的効果の薄弱なものであり、いわば、当事者の信頼関係に基盤をおくものであって、経済的価値を有するものとは認められない。
 したがって、自用地価額から控除される使用貸借に係る権利の価額は零円であり、本件土地の価額は自用地価額と同額になる。
 よって、本件土地の価額を自用地価額によってした本件更正処分は相当であり、Gらの主張には理由がない。

(3)本件賦課決定処分について

 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、また、Gらには、納付すべき税額を計算するに当たり、原処分庁が過少申告加算税の基礎とした税額に係る事実をその計算の基礎としなかったことについて国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいた本件賦課決定処分は適法である。
(4)原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

別表3 本件隣地の明細


(単位 平方メートル)
順号所在地地目面積
1Q市W町30番2宅地285.74
2Q市W町35番宅地578.51
3Q市W町36番1宅地1,749.71
4Q市W町37番2宅地283.16

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