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(平8.11.22裁決、裁決事例集No.52 145頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、和菓子の製造販売業を営む同族会社であるが、平成4年7月1日から平成5年6月30日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税に係る確定申告書を提出しなかったところ、原処分庁は、平成5年12月27日付で課税標準額を37,459,000円及び納付すべき税額を197,500円とする決定処分並びに無申告加算税の額を28,500円とする賦課決定処分をした。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成6年1月11日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年4月28日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成6年5月27日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部を取り消すべきである。
イ 基準期間における課税売上高の算定方法について
 消費税法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第1項に規定する基準期間における課税売上高が3,000万円以下であるか否かの判定に当たっては、事業者が、当該基準期間において消費税の納税義務が免除されている事業者(以下「免税事業者」という。)に当たる場合には、次の理由により、当該基準期間における課税資産の譲渡等の対価の額の合計額に103分の100を乗じて算出した金額(以下「税抜き価額」という。)で判定すべきであり、これによれば、本件課税期間は免税事業者に該当するので、原処分は違法である。
(イ)消費税の基準期間の課税売上高の算定方法については、消費税法第9条第2項で引用する同法第28条《課税標準》第1項において「課税資産の譲渡等につき課せられるべき消費税に相当する額を含まないものとする。」と規定されており、明らかに税抜き価額で課税売上高を算出することになるものと解される。
(ロ)上記(イ)における「課されるべき消費税」は、消費税法第4条《課税の対象》第1項において「国内において事業者が行った資産の譲渡等には、この法律により、消費税を課する。」と規定し、他の条項において免税事業者が行う資産の譲渡等には消費税を課さない旨の規定はないから、すべての事業者に消費税が課せられているので、基準期間において免税事業者であっても、当該基準期間において課されるべき消費税は存在し、同法第9条第1項の規定は、「…消費税を納める義務を免除する。」とあり、あくまでも免税事業者においても消費税の転嫁を行った上で、納税義務のみを免除しようとするものである。
(ハ)原処分庁は、消費税は、税制改革法第11条《消費税の円滑かつ適正な転嫁》等の規定からも明らかなように税の転嫁を予定している間接税であるため、免税事業者以外の事業者(以下「課税事業者」という。)においては、課税期間の初日より納付すべきこととなる消費税を上乗せした金額で取引がされ、税の転嫁の円滑化を図る観点から消費税法第9条に基準期間の概念を設けたものであり、同条第1項の規定が納付の義務だけを免除しようとするものであれば、課税事業者であるか否かにかかわらず消費税を転嫁することとなり、基準期間の概念の意味が全くないこととなる旨主張するが、基準期間の概念については、資本主義経済における自由取引において事業者は、将来納付すべきこととなる消費税の有無、仕入れに係る消費税、価格競争力、自己の利益その他を勘案し、自己の取引における価格を設定する必要があり、課税事業者であるか否かにかかわらず、事業者が価格設定をする上で基準期間の概念は重要な意味を持ち、この基準期間の概念自体が免税事業者に対する消費税の課税関係の有無を判断する基準にはならない。
(ニ)原処分庁は、免税事業者は自己の売上げについて課される消費税の転嫁は必要ない旨主張するが、そうであれば、免税事業者において税の転嫁が終了することとなり、税の転嫁の上で、免税事業者は事業者以外の者(いわゆる一般消費者等)の立場と何ら変わらないこととなる。
 しかしながら、消費税法第2条《定義》第1項第4号の規定により、法人は事業者以外の者とはなり得ず、同法第4条第1項の規定によって事業者が行った資産の譲渡等につき課された消費税は、売上げに上乗せされ転嫁されることとなる。
 したがって、課税事業者が免税事業者から課税仕入れを行った場合においても、消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第1項の規定により、当該課税仕入れに係る消費税額の控除(以下「仕入税額控除」という。)が認められるのであって、免税事業者の設定した価額が、たとえ増加コスト分の上乗せのみであったとしても、消費税法上においては3パーセント相当額の消費税が含まれていることになる。
 また、上記の価額に消費税相当額が含まれていないとすると、転嫁されていない消費税相当額について仕入税額控除を認めることとなり、原処分庁が主張する税制改革法第10条《消費税の創設》及び第11条の趣旨に矛盾する。
 このようなことから、消費税法第9条第1項の規定は、消費税の転嫁を行った上で納税義務のみを免除しようとするものである。
(ホ)消費税法第40条《小規模事業者等に係る限界控除》の規定は、零細事業者について、課税期間における課税売上高が3,000万円前後の事業者間の価格競争力の公平を図るため、税負担を調整するために設けられた制度であり、課税期間において消費税の転嫁を行った上で納付すべき消費税額からその一部又は全部を控除するものである。
 この制度との整合性を考慮すれば、消費税法第9条第1項の規定は、更に零細な事業者についての納税義務の負担に配慮し、消費税の転嫁を行った上で本来納税すべき税額の一部を控除するのではなく、その全額の納税を免除するものであることは明白である。
 また、税制改革法第10条及び第11条の趣旨を踏まえれば、消費者の負担した消費税を円滑に転嫁し、取引の各段階において円滑、かつ、適正に国に納付されることとするのは、消費税の法律構成からも重要なことであるが、一方では、消費税法第9条及び第40条の規定による小規模事業者の税負担に考慮して税負担の調整を図ることも政策的に重要なことである。
ロ 本件課税期間の納付すべき税額について
 上記イのとおり、基準期間における課税売上高の算定に当たっては、消費税に相当する額を控除して行うべきであり、請求人の本件課税期間に係る基準期間(以下「本件基準期間」という。)における課税売上高は、30,519,098円に103分の100を乗じた29,630,192円となる。
 したがって、請求人の本件基準期間の課税売上高は3,000万円以下であるから、消費税法第9条第1項の規定により、本件課税期間については免税事業者となり、消費税の納税義務は生じないことになる。
ハ 無申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、決定処分は違法であるから、無申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 基準期間における課税売上高の算定方法について
 基準期間が免税事業者である場合には、次のとおり、当該基準期間において課されるべき消費税に相当する額は存在しないのであるから、当該基準期間における課税売上高の算定に当たっては、課税資産の譲渡等の対価として取引される金額そのものにより算定することになる。
(イ)消費税は、税制改革法第10条及び第11条の規定をみても明らかなように、税の転嫁を予定している間接税であり、各取引段階で消費税相当分を転嫁することを前提に、売上高等に含まれる消費税相当分から自己において支払った消費税相当分を控除することによって納付税額を計算する仕組み(いわゆる前段階控除方式)を採っている。
 そして、消費税法は、課税事業者が消費税を適正に転嫁することができる法律構成とするため、同法第9条に基準期間の概念を設けることにより、事業者がその課税期間の初日において課税事業者としての立場にあるか否かを明らかにさせることとしたものである。
 つまり、事業者がある課税期間において消費税の課税事業者に該当するか否かの判断は、2年前(法人は2事業年度前)の課税売上高が3,000万円を超えるか否かによることとし、3,000万円を超えていれば、課税期間の初日から消費税を納めることを前提として、自己の取引に将来納付すべきこととなる消費税を上乗せした金額で取引がなされるように消費税の転嫁の円滑化を図っている。
 反面、基準期間の課税売上高が3,000万円以下であれば、当該課税期間の初日から免税事業者であることが判明しているのであるから、事業者は将来納付すべき消費税額はないこととなり、自己の売上げについて課される消費税の転嫁は必要ないのであるが、自己の仕入れに係る消費税相当額を上乗せ(増加コスト分の転嫁)した金額で取引を行うことによって、自己の利益の圧縮部分がないようにすることが予定されている。
 ところで、請求人は、免税事業者にも消費税が課されており、消費税法第9条第1項の規定に該当することによって、単に納税義務が免除されているに過ぎないと主張するが、同項の規定が、免税事業者であっても消費税相当額を転嫁した上で、申告及び納付の義務だけを免除しようとするものであれば、課税事業者であるか否かにかかわらず消費税の転嫁をしていることになるので、基準期間の概念の意味が全くないこととなり、わざわざ2年前を判定の基礎とせず、その課税期間の課税売上高で判断すればよいということになる。
 また、上記で述べたように、消費税そのものの趣旨を踏まえれば、消費税法第28条第1項のかっこ書で規定する「課されるべき消費税に相当する額」とは、具体的な納税義務を負うこととなる消費税を意味していることは明白であり、このような具体的な納税義務を負わない免税事業者の上乗せ収益部分までをも包含するものではない。
 したがって、基準期間において納税事業者であった場合には、その事業者の売上高等には「課されるべき消費税に相当する額」は存在しない。
(ロ)いわゆる一般消費者は、自己の支払った消費税相当額を他の者に転嫁することはできないのであり、増加コスト分の転嫁が可能である免税事業者とは立場が異なることは明らかである。
 また、消費税法第2条第1項第12号において、免税事業者又は一般消費者からの資産の譲受けであったとしても課税仕入れに含めることとされているのは、免税事業者からの課税仕入れについて、消費税が転嫁されていないことを理由に仕入税額控除を認めないこととした場合には、免税事業者が経済取引から排除されることとなることを防止する観点から政策的に設けられた規定と解されている。
 したがって、免税事業者からの仕入れについても仕入税額控除が認められていることを理由に、消費税法第9条第1項の規定は、免税事業者も消費税の転嫁を行った上で納税義務のみを免除しようとするものである旨の請求人の主張には理由がない。
(ハ)消費税法第9条第1項に規定する基準期間における課税売上高の3,000万円は、いわゆる基礎控除的な金額ではなく、課税事業者と免税事業者を区分するための基準となる金額にすぎない。
 そして、消費税法第40条に規定する限界控除は、基準期間における課税売上高が3,000万円前後の事業者の納付税額の極端な差異を調整するため、その課税期間の課税売上高が5,000万円未満であれば、課税標準額に対する消費税額からその一部若しくは全額を控除することとした制度であることは明らかである。
 したがって、消費税法第9条の規定と同法第40条の規定との整合性を図るべきであるとの観点にたって、同法第9条の規定が納付すべき消費税を全額免除する旨の制度であるとの請求人の主張は、基準期間と課税期間における課税売上高を混同したものにすぎない。
(ニ)消費税法を解釈するに当たり、その背景となった税制改革法の趣旨を踏まえるのは当然のことである。
 そして、消費税法第9条第1項は、上記(イ)に記載したとおり、基準期間の概念を設けることにより、課税期間の初日における事業者の消費税法上における立場を明らかにし、消費税の転嫁の円滑化を図るとともに、免税事業者の消費税の納税のための事務負担を一切免除するという規定であって、免税事業者に消費税を課税(転嫁)する権利を認めた上で、その納税義務のみを免除することを規定したものでないことは明らかである。
ロ 本件課税期間の納付すべき税額について
 請求人は、平成2年7月2日に設立された法人であり、本件課税期間の基準期間である2事業年度前の課税売上高はないので、本件基準期間は開始当初から免税事業者であったことになる。
 そうすると、上記イのとおり、基準期間が免税事業者である場合には、当該基準期間における課税売上高は、課税資産の譲渡等の対価の額そのものとなるから、請求人の本件基準期間における課税売上高は、30,519,098円となる。
 したがって、請求人は、本件基準期間の課税売上高が3,000万円を超えるから、本件課税期間においては課税事業者に該当し、次のとおり、本件課税期間の課税標準額は37,489,000円及び納付すべき税額は198,600円となり、これらの金額は、決定処分に係る金額を上回るから、決定処分は適法である。
(イ)課税標準額
 本件課税期間における課税標準額は、本件課税期間の課税売上高である38,614,100円に103分の100を乗じて算出した金額37,489,000円(1,000円未満の端数を切り捨てた後の金額)となる。
(ロ)課税標準額に対する消費税額
 本件課税期間の課税標準額に対する消費税額は、上記(イ)の課税標準額に100分の3を乗じて算出した金額1,124,670円となる。
(ハ)仕入税額控除の額
 本件課税期間における仕入税額控除の額は、請求人の本件課税期間に係る売上原価、販売費及び一般管理費並びに資産の取得費の額38,703,821円のうち課税仕入れと認められる20,398,907円に103分の3を乗じて算出した金額594,142円となる。
(ニ)限界控除税額
 本件課税期間の課税売上高は5,000万円未満であるから、消費税法第40条の規定に基づいて限界控除税額を計算すると、331,860円となる。
(ホ)納付すべき税額
 本件課税期間の納付すべき税額は、上記(ロ)の消費税額1,124,670円から上記(ハ)の仕入税額控除の額594,142円及び上記(ニ)の限界控除税額331,860円を控除した後の金額198,600円(100円未満の端数を切り捨てた後の金額)となる。
ハ 無申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、決定処分は適法であり、また、請求人の場合、本件課税期間の消費税の確定申告書をその提出期限までに提出していなかったことについて、国税通則法第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があると認められる場合には該当しないので、同項の規定に基づいてした無申告加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件課税期間において、請求人が消費税の免税事業者に該当するか否かにあるので、以下、この点について、調査・審理する。

(1)基準期間における課税売上高の算定方法について

イ 請求人は、平成2年7月2日に設立された法人であるから、本件基準期間に係る課税期間においては免税事業者に該当するものであり、また、当該課税期間において、請求人が課税資産の譲渡等に伴って収受し、または収受すべき金銭等の額の全額の合計額(以下「課税資産の譲渡等の対価の額の全額の合計額」という。)は30,519,098円であることについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
ロ 消費税法第9条第1項は、事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が3,000万円以下である者については、別段の定めがある場合を除き、同法第5条《納税義務者》第1項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等につき、消費税を免除すると規定しており、上記の「基準期間における課税売上高」の範囲については、同法第9条第2項第1号において、基準期間中に国内において行った課税資産の譲渡等の対価の額(同法第28条第1項に規定する対価の額をいう。)の合計額から、基準期間中に行った売上げに係る対価の返還等の金額から当該基準期間中に行った売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額を控除した金額の合計額を控除した残額とする旨規定している。
 そして、上記の消費税法第9条第2項第1号のかっこ書において引用する「第28条第1項に規定する対価の額」とは、同項のかっこ書において、「対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税に相当する額を含まないものとする。」と規定されている。
ハ そこで、請求人は、消費税法第9条第2項第1号において定める「対価の額」の範囲につき引用している規定である同法第28条第1項の規定のかっこ書の後段では「課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税に相当する額を含まないものとする。」と規定されていることから、同法第9条第1項で規定する「基準期間における課税売上高が3,000万円以下である者」に該当するか否かの判定に当たっては、同法第4条第1項の規定により、すべての事業者には消費税が課されているので、基準期間において免税事業者に該当する場合であっても、当該基準期間において課されるべき消費税は存在するものと解されるとして、当該課税売上高の算定に当たっては、税抜き価額で算出すべきである旨主張する。
ニ ところで、消費税の課税対象については、消費税法第4条第1項で「国内において事業者が行った資産の譲渡等には、この法律により、消費税を課する。」と規定し、また、同法第6条《非課税》で「国内において行われる資産の譲渡等のうち、別表第一に掲げるものには、消費税を課さない。」と規定している。
 したがって、消費税の課税対象とされる資産の譲渡等は、「資産の譲渡等のうち、消費税法第6条第1項の規定により消費税を課さないこととされているもの以外のもの」(消費税法第2条第1項第9号)、すなわち、課税資産の譲渡等ということになる。
 ただし、課税資産の譲渡等であっても、その対価に実際に消費税が課されるか否かは、消費税法第9条等の他の規定との関係に委ねられているのであり、「課税資産の譲渡等」の文言は、課税対象となる取引の基本的な範囲を定義しているに止まるものと解することが相当であると考えられる。
 そして、消費税の納税義務については、消費税法第5条第1項において、「事業者は、国内において行った課税資産の譲渡等につき、この法律により、消費税を納める義務がある。」と規定しているが、この規定は、所得税法第5条《納税義務者》等の規定と同様、一般的に納税義務について定めたものであり、この規定のみによって直ちに個々の取引に対する消費税の課税関係が律せられるわけではなく、課されるべき消費税の額の有無は、消費税法第4条及び第5条の規定のみならず、同法第7条《輸出免税等》、同法第9条、国税通則法第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》等を含め、すべての関係規定を適用した結果により決まるものであり、本件の課税売上高の算定方法の解釈に当たっても関係条文を総合的に解釈して判断することが相当であると考える。
ホ このような考え方に基づき、関係規定を解釈すれば以下のとおりである。
(イ)消費税法第4条、第5条及び国税通則法第15条第1項の規定から、消費税は国内において行う課税資産の譲渡等について課税される税で、事業者はその課税資産の譲渡等をした時、すなわち、課税資産の取引の都度、消費税の納税義務が抽象的に成立するものと解される。
(ロ)しかし、一方、消費税法第9条第1項の規定の適用がある場合には、納税義務が免除されることになるが、この規定の適用があるか否かは、基準期間(一般的には、当該課税期間の2年前の課税期間)における課税売上高が3,000万円以下であるか否かによることとされていることから、免税事業者であるか否かは当該課税期間の開始前に既に確定している。すなわち、消費税法第9条第1項の規定の適用がある場合には、その事業者が当該課税期間内に行う「個々の」課税資産の譲渡等のすべてについて消費税を納める義務が免除されることが当該課税期間の当初から予定されているのであって、このことからすると、課税資産の譲渡等をした時に同法第4条及び第5条の規定によって成立する抽象的な納税義務は、同法第9条第1項の規定によって成立と同時に免除されるものと観念することができ、消費税の納税義務は存在しないことになるものと考えられる。
(ハ)したがって、消費税法第4条、第5条及び第9条を総合的に解釈すると、免税事業者には、結果として納税義務が存在せず、課されるべき消費税も存在しないものと解される。
(ニ)なお、消費税法第7条で規定する輸出免税の適用がある場合には、課税資産の譲渡等に該当するものであっても、その取引が同条第1項各号に定める輸出取引等に該当する場合には消費税が免除されることから、その課税資産の譲渡等には消費税は課されない。
 したがって、輸出免税の対象となる課税資産の譲渡等も上記(ロ)と同様に、課税資産の譲渡等の時に消費税法第4条及び第5条の規定によって成立する抽象的な消費税の納税義務は、同法第7条第1項の規定によって成立と同時に免除され、事業者が行う輸出免税の適用対象となる課税資産の譲渡等についても「課されるべき消費税」は存在しないものと解される。
(ホ)次に、消費税法第28条第1項では「課されるべき消費税に相当する額」と規定しているが、このような文言を用いたのは、次のような計算技術上の必要によるものであると解される。
 すなわち、(a)消費税の課税標準は、税抜き価額とすることとしていることから、消費税の課税標準の計算上、課税資産の譲渡等の対価の額から「課されるべき消費税の額」を除外する必要がある。(b)しかし、間接税である消費税は、課税資産の譲渡等の対価の一部を構成しているものであり、取引の相手方から収受する一切の金銭又は経済的な利益の中に課税資産の譲渡等に係る消費税そのものが独立して存在しているものではなく、課税資産の譲渡等の対価の額から除外する金額について「課されるべき消費税の額」そのものと規定することはできないことから、「課されるべき消費税に相当する額」と規定しているものである。
 そして、消費税法第9条第2項第1号において「対価の額」の範囲については、同法第28条第1項で規定する「対価の額」の規定を引用しているが、これは、本来「対価の額」の原則的な定義は「対価として収受する一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の金額=取引の全額」であることを明確にすると同時に、基準期間において課税事業者であった者については、当該期間は消費税が課されているので、当該課されるべき消費税の額を除外したところにより売上高を算定すべきであるとの観点等から、消費税分を除外することとしている課税標準の計算に関する規定を借用して規定しているものであると解するのが相当であると考える。
(ヘ)以上のことから、基準期間において免税事業者に該当する者である場合には、当該期間にあっては、消費税の納税義務が存在せず、「課されるべき消費税」が存在しない以上、消費税法第28条第1項で規定する「課されるべき消費税に相当する額」が存在せず、同法第9条第2項で規定する課税売上高の計算上も、課税資産の譲渡等の対価の額から控除すべき消費税相当額はないと解するのが相当である。
 したがって、消費税法第9条第1項で規定する「課税売上高が3,000万円以下である者」に該当するか否かの判定に当たっては、基準期間において免税事業者であった者については、課税資産の譲渡等の対価の額の全額の合計額により課税売上高を算定して判定することが相当であると解されるので、この点に関する請求人の主張は採用できない。
ヘ 請求人は、消費税法第9条第1項の規定は、消費税の転嫁を行った上で納税義務のみを免除しようとするものである旨主張する。
 しかしながら、消費税法第9条第1項で規定する「課税売上高」の算定方法については、上記ホの(ヘ)のとおりであり、また、消費税は転嫁を予定した間接税であるものの、課税売上高の算定方法に関する同条ほかの関係条文においては、消費税の転嫁の有無により適用関係を異にする旨の定めはない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ト 請求人は、消費税法第40条で規定する限界控除制度は、課税期間における課税売上高が3,000万円前後の零細事業者間の価格競争力の公平を図るため、税負担を調整するために設けられているものであり、同法第9条の規定の適用に当たっても、この限界控除制度との整合性を考慮すれば、更に零細な小規模事業者の税負担に配慮し、消費税の転嫁を行った上で、その全額の納税義務を免除するものである旨主張する。
 しかしながら、消費税法第40条で規定する限界控除制度は、課税事業者のうち、その課税期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者に対する負担の調整を図る観点から設けられている制度であり、他方、同法第9条で規定する免税事業者の制度は、消費税に係る事務負担等に配慮して納税義務そのものを免除する制度であって、双方の制度はその目的を基本的に異にするものであることから、本件の判断に当たって、限界控除制度との整合性を考慮する必要は特にないものと解される。したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
チ 請求人は、課税事業者が免税事業者から課税仕入れを行った場合においても仕入税額控除が認められていることを理由に、消費税法第9条第1項の規定は、消費税の転嫁を行った上で納税義務のみを免除しようとするものである旨主張する。
 しかしながら、仕入税額控除の範囲と免税事業者の判定方法とでは、制度の目的、趣旨等が基本的に異なるものであることから、免税事業者からの仕入れについても仕入税額控除を認めていることを根拠とする請求人の主張には理由がない。
リ なお、請求人は、税制改革法第10条及び第11条の趣旨を踏まえて判断すべきである旨主張する。
 しかしながら、税制改革法は、税制改革の趣旨、基本理念及び方針等を定めることを目的として制定されたのであって、同法第10条は消費税の創設等を規定するものであり、また、同法第11条は消費税の円滑かつ適正な転嫁等に関し講ずるべきことを規定するに止まり、消費税に関する実体規定は消費税法において定められているところであって、本件にあっては、同法第9条第2項等の規定の条文解釈が問題とされているものであることから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ヌ 以上の結果、請求人の本件課税期間に係る基準期間における課税売上高は30,519,098円であり、当該金額は3,000万円を超えることから、消費税法第9条第1項の規定は適用されず、本件課税期間においては、消費税の納税義務があることになる。
 したがって、請求人に納税義務があるとした原処分庁の認定は相当である。

(2)本件課税期間の納付すべき税額について

イ 当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件課税期間における課税資産の譲渡等の対価の合計額は、38,614,100円であること。
(ロ)本件課税期間における課税仕入れの合計額は、20,398,907円であること。
ロ 上記(1)のヌのとおり、本件課税期間において、請求人に納税義務があるとした原処分庁の認定は相当であり、また、原処分庁が、上記イの(イ)及び(ロ)に基づき、請求人の本件課税期間の課税標準額を37,489,000円及び納付すべき税額を198,600円と算定したことは相当と認められ、これらの金額はいずれも決定処分に係る金額を上回るから、本件課税期間の消費税の決定処分は適法である。

(3)無申告加算税の賦課決定処分について

 以上のとおり、決定処分は適法であり、期限内申告書の提出がなかったことについて、国税通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由がある場合に該当しないので、無申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(4)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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