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(平9.6.3裁決、裁決事例集No.53 59頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、昭和62年11月27日に死亡したG(以下「被相続人」という。)の相続人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税について、申告書に別表1の「申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した(以下、この申告を「本件申告」という。)。
 その後、請求人は、本件相続に係る相続人が請求人のほかに2名存在することが判明したとして、昭和63年10月18日に課税価格及び納付すべき税額を別表1の「当初更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求(以下「当初更正の請求」という。)をしたところ、原処分庁は、平成元年4月3日付で当該請求のとおりとする更正処分(以下「当初更正処分」という。)をした。
 次いで、請求人は、平成7年8月4日に課税価格及び納付すべき税額を別表1の「本件更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をしたところ、原処分庁は、平成8年5月8日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)及び同表の「本件更正処分」欄のとおりとする更正処分(以下「本件更正処分」という。)をした。
 請求人は、本件通知処分及び本件更正処分を不服として平成8年7月5日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、本件通知処分については同年10月22日付で、また本件更正処分については同年10月2日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成8年10月31日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由によりいずれも違法であるから、本件通知処分についてはその取消しを、また、本件更正処分についてはその一部の取消しを求める。
イ 本件通知処分について
(イ)本件更正の請求に至る経緯は、次のとおりである。
A 本件申告において、相続財産としていたP市R町3丁目7番の4所在の宅地148.76平方メートル及び同3丁目13番の6所在の宅地112.13平方メートル(以下、両宅地を併せて「本件土地」という。)は、請求人とその夫であるH(以下、請求人と併せて「請求人ら」という。)が、昭和56年に24,000,000円で被相続人の弟であるJ(以下「J」という。)から売買により取得したが、次の理由により登記名義を被相続人にしていたものであり、本件土地の実質所有者は請求人らである。
(A)被相続人のこれまでの苦労に報い、喜ばせてやりたかったこと。
(B)本件土地の取得当時、請求人は、夫の姓である○○姓を称していたが、本件土地の取得に際し、Jから取得後の本件土地の登記名義について、請求人の姓ではなく、○○姓になることを反対されていたこと。
B 本件申告に当たり、本件土地の登記名義を被相続人にしていたため、本件土地を相続財産から除外することについて、関与税理士であるKと相談したところ、本件土地の購入代金を請求人らが支払ったとする物的証拠がなく、真実を立証することが困難であるとのことであり、また、当時請求人としては他に相続人がいることは考えてもおらず、請求人一人で相続するのであれば、税務当局と争って精神的及び時間的な負担をするよりも相続財産として申告した方が無難であると考えて、あえて相続財産から除外しなかった。
C その後、請求人のほかにL及びM(以下、両名を併せて「Lら」という。)の2名の相続人が存在することが判明した。このため、本件相続に係る相続税の計算上、遺産に係る基礎控除額が増加することとなり、納付すべき税額が減少することとなったため、当初更正の請求をした。
 なお、当初更正の請求の時点では、相続財産が未分割であったため、相続税法第55条《未分割遺産に対する課税》の規定に基づき民法第900条に規定する相続分どおりに相続したものとして、各相続人の課税価格を計算した。
D 次いで、請求人は、Lらから本件土地を含む相続財産について、遺産の分割を求められ、話合いを続けていたが話合いがつかなかったため、平成元年に至り、Lが□□家庭裁判所に遺産の分割を求めて調停(平成元年(家イ)第○×号遺産分割調停事件。以下「本件調停」という。)を申し立てた。
 このため、請求人らは、本件土地の所有権が請求人らにあることの確認を求めて平成3年12月4日に□□地方裁判所に所有権確認訴訟(平成3年(ワ)第××号所有権確認等請求事件。以下「本件訴訟」という。)を提起したところ、平成7年4月18日本件訴訟について裁判上の和解(以下「本件和解」という。)が成立した。
E 本件和解の内容は、Lらが請求人らに対し、本件土地の所有権が請求人らにあることを確認するとともに、請求人が被相続人の遺産(以下「本件遺産」という。)のすべてを相続し、その代償としてLらにそれぞれ8,500,000円を支払うことを定めたものである。
 したがって、本件和解は、本件土地を相続財産から除外し、当該財産の総額を減少させるものであると同時に、各相続人間における遺産の分割をも確定させるものであり、これらの事実は国税通則法(以下「通則法」という。)第23条《更正の請求》第2項第1号及び相続税法第32条《更正の請求の特則》第1号の両規定に該当するものであることから、請求人は、これらの規定に基づき本件更正の請求をした。
F 本件審査請求において、本件土地上の建物(評価額4,176,600円)についても、本件土地と同様に相続財産から除外すべきであると主張していたが、この点の主張を取り下げる。
 なお、上記主張の取下げに伴い、本件審査請求における取得財産の価額の合計及び請求人の取得財産の価額の主張額も、別表2の「請求人主張額」欄の「請求人」欄に記載したとおりの金額に変更する。
(ロ)原処分庁は、本件更正の請求に対し、通則法第23条第2項に規定する請求期限を徒過しているとして本件通知処分を行ったが、上記(イ)のEのとおり本件更正の請求は、通則法第23条第2項第1号及び相続税法第32条第1号の両規定に基づく請求であり、それらの請求ができることになった日は本件和解の成立した平成7年4月18日であるから、その請求の期限は、通則法第23条第2項の規定(事実が確定した日の翌日から起算して2月以内)によるのではなく、請求人に有利な相続税法第32条の規定(事由が生じたことを知った日の翌日から起算して4月以内)によるべきである。
 そうすると、本件更正の請求の期限は平成7年8月18日であり、請求人は、同年8月4日に本件更正の請求をしているのであるから、その期限は徒過していない。
 したがって、本件通知処分は違法であるから取り消すとともに、別表2の「請求人主張額」欄に記載のとおり更正すべきである。
ロ 本件更正処分について
 原処分庁は、本件更正の請求によって、本件土地を相続財産から除外すべきであるにもかかわらず、本件土地を相続財産に含めたところで本件更正処分を行ったことは違法であるから、本件更正処分のうち、別表2の「請求人主張額」欄の「請求人」欄に記載した金額を上回る部分については、取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件通知処分について
 請求人は、本件更正の請求は通則法第23条第2項及び相続税法第32条第1号の両規定に基づく請求であるから、その請求期限は、請求人に有利な相続税法第32条の規定によるべきであり、本件更正の請求の期限は徒過していない旨主張するが、次のとおり請求人の主張には理由がない。
(イ)通則法第23条第2項第1号は、その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定した時は、「その確定した日の翌日から起算して2月以内に更正の請求をすることができる」旨規定し、さらに、通則法第10条《期間の計算及び期限の特例》第2項において「当該期限が日曜日に当たるときは、その翌日を期限とみなす」旨を規定している。
(ロ)これを本件についてみると、本件更正の請求書には、更正の請求をする理由として、本件和解が成立したことにより、本件相続に係る総遺産価額が減少する旨記載されているので、本件更正の請求は、通則法第23条第2項第1号の規定の適用を受けようとする請求であると認められる。
 そうすると、本件更正の請求の期限は、本件和解が平成7年4月18日に成立・確定しているのであるから、上記(イ)の各規定により同年6月19日(同月18日は日曜日)となる。したがって、平成7年8月4日に提出された本件更正の請求書は、請求期限を徒過してなされた不適法なものと認められ、かつ、本件更正の請求は、相続税法第32条に規定する特定の事由にも該当しないから、更正をすべき理由がないとして行った本件通知処分は適法である。
ロ 本件更正処分について
 請求人は、原処分庁が本件更正の請求によって、本件土地を相続財産かを除外すべきであるにもかかわらず、本件土地を相続財産に含めたところで本件更正処分を行ったことは違法である旨主張するが、次のとおり請求人の主張には理由がない。
(イ)平成7年5月9日にLらから、本件和解により遺産分割が確定したとして相続税法第32条第1号の規定による更正の請求書が請求期限内に提出されたこと。
(ロ)上記(イ)の本件和解により作成された和解調書(以下「和解調書」という。)には、要旨次のとおり記載されていること。
A 請求人が本件遺産のすべてを取得し、Lらはこれを承認する。
B 請求人は、本件遺産のすべてを取得した代償としてLらに対し、各8,500,000円を支払う。
C 請求人とLらは、本件和解によって本件遺産についての分割がすべて完了したものとし、今後名義のいかんを問わず、相互に金銭その他の請求は一切しない。
(ハ)ところで、相続税法第35条《更正及び決定の特則》第3項は、税務署長は、相続税法第32条第1号から第4号までの規定による更正の請求に基づき更正をした場合において、当該請求をした者の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した他の者につき、当該請求に基づく更正の基因となった事実を基礎として計算した場合におけるその者に係る課税価格又は相続税額と異なることとなるときは、当該事由に基づき、その者に係る課税価格又は相続税額を更正する旨規定し、また、相続税法第31条《修正申告の特則》第1項において、相続税の申告書を提出した者は、同法第32条第1号から第4号までに規定する事由が生じたため既に確定した相続税額に不足を生じた場合には、修正申告書を提出することができる旨規定している。
(ニ)これを本件についてみると、原処分庁は、Lらから本件和解により遺産分割が確定したとして、前記(イ)の更正の請求書が提出されたので、これに基づき更正処分をした。
 しかしながら、請求人は、上記の遺産分割の確定により既に確定した相続税額に不足が生じ、修正申告書を提出できるところ、これを提出しなかったため、原処分庁は、相続税法第35条第3項の規定に基づき別表2の「原処分庁主張額」欄に記載のとおり、本件更正処分を行ったものである。
(ホ)なお、請求人は、本件更正処分に係る異議申立てにおいて本件土地を本件相続に係る相続財産から除外すべきである旨主張する。
 しかしながら、本件更正処分前の本件相続に係る課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったこと等による場合は、通則法第23条第1項又は第2項の規定による更正の請求をすべき(本件の場合は、上記イの(ロ)で述べたとおり通則法第23条第2項第1号に該当)であるから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(ヘ)以上のとおりであるから、本件更正処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、(a)本件更正の請求は、通則法第23条第2項第1号又は相続税法第32条第1号のいずれの規定に該当するのか、あるいは、いずれの規定にも該当し請求人に有利な規定を適用すべきか否か、(b)本件土地を相続財産から除外すべきか否かであるので、以下審理する。

(1)本件通知処分について

イ 請求人は、本件更正の請求は通則法第23条第2項第1号及び相続税法第32条第1号の両規定に基づくものであるから、その請求期限は請求人に有利な相続税法第32条の規定によるべきである旨主張するのに対し、原処分庁は、本件更正の請求書に記載された請求の理由は、通則法第23条第2項第1号の規定の適用を受けようとするものであるから、請求期限も同条同項の規定によるべきである旨主張するので検討したところ、次のとおりである。
(イ)本件相続に係る相続人は、請求人及びLらの合計3人であること並びに本件申告において本件土地が相続財産とされていることについては、当事者双方に争いはなく、当審判所の調査したところによってもその事実が認められる。
(ロ)請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 請求人らは、平成3年12月4日に、Lらに対し、本件土地の所有権が請求人らにあることの確認を求める本件訴訟を提起し、平成7年4月18日に、本件和解が成立したこと。
B 平成7年8月4日に提出された本件更正の請求書によれば、更正の請求をする理由として、要旨次のことが記載されていること。
(A)請求人は、本件土地の実質所有者は請求人らであるが、本件土地の登記名義を被相続人としていたこと及び請求人らが本件土地の購入代金を支払ったとする物的証拠がなく、実質所有者が請求人らであることの立証が困難であることから、本件土地を被相続人の相続財産として申告したこと。
(B)その後、請求人のほかに相続人(Lら)が出現し請求人らの本件土地が侵害されるに及んで、本件訴訟を提起したところ、本件和解により双方が納得したこと。
C 本件更正の請求書の更正の請求をするに至った事情の詳細、その他参考となるべき事項欄に、「別添和解調書のとおり」と記載され、当該和解調書が添付されていること。
D 上記Cの和解調書の内容は、要旨次のことが記載されていること。
(A)Lらは請求人らに対し、本件土地につき、請求人らが所有権を有することを確認する。
(B)Lら及び請求人は、被相続人が請求人らに対して有していた本件土地につき、真正な登記名義の回復を原因として、請求人らの各持分を2分の1とする所有権移転登記手続をすべき義務を相続により承継したことを確認する。
(C)請求人が本件遺産のすべてを取得することをLらは承認する。
(D)請求人は、本件遺産のすべてを取得した代償として、Lらに対しそれぞれ8,500,000円の支払義務があることを認め、本件和解の席上で支払った。
(E)請求人とLらは、本件和解によって本件遺産についての分割が全部完了したものとし、今後名義のいかんを問わず相互に金銭その他の請求は一切しない。
(F)Lは、同人が申し立てた本件調停を取り下げる。
E Lらは、本件和解が成立し未分割遺産の分割が確定したとして、平成7年5月9日に更正の請求書を提出しているが、当該更正の請求書によれば、請求人が本件土地を相続により取得したものとされていること。
(ハ)ところで、国税の更正の請求に関する一般的な規定は、通則法第23条に規定されており、同条第1項において通常の場合の更正の請求が、また、同条第2項において一般的な後発的事由に基づく場合の更正の請求が規定されていることが認められ、同条第2項第1号には、その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の基礎となった事実に関する訴えについての判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定した場合に、その確定した日の翌日から起算して2月以内に更正の請求をすることができる旨規定されている。
 これに対し、相続税又は贈与税については、通則法に定める事由に該当しない場合、すなわち課税価格又は相続税額若しくは贈与税額が法の規定に従って計算されている場合、又は通則法に定める一般的な後発的事由にも該当しない場合であっても、相続、遺贈又は贈与により財産を取得した者の間の負担の公平を図るため、課税価格又は税額を更正すべきであると認められる場合があり、相続税法第32条は、その場合の相続税法特有の事由を具体的に規定している。このことからも、相続税法第32条は、通則法第23条の一般的な規定に対し、相続税法特有の後発的事由に基づき特例的に更正の請求を認めるために設けられた特別規定である。
 そして、相続税法第32条第1号は、同法第55条の規定により未分割遺産について民法(第904条の2を除く。)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って課税価格を計算し、相続税の申告がされた後に、遺産分割が行われた結果、共同相続人又は包括受遺者が分割により取得した財産に係る課税価格が上記の相続分又は包括遺贈の割合に従って計算されていた課税価格と異なることとなったことにより、課税価格又は相続税額(更正があった場合には、当該更正後の税額)が過大となったときは、その事由が生じたことを知った日の翌日から4月以内に限り、更正の請求をすることができる旨規定している。
(ニ)本件更正の請求について、前記(ロ)の各事実を基に、上記(ハ)に照らし、通則法第23条第2項第1号又は相続税法第32条第1号のいずれの規定に該当するのか検討したところ、次のとおりである。
A 前記(ロ)のDの(A)の和解調書の内容をみると、本件土地の所有権が被相続人にあるのではなく、請求人らにあることをLらが確認したものであること及び本件更正の請求書の請求理由(前記(ロ)のB)からみても、本件更正の請求は、請求人の主張するとおり、本件申告において本件土地を相続により取得した財産としていたものを除外すべきであるとの趣旨、いわゆる、当初申告の過誤を正す趣旨であると認められるから、上記(ハ)で述べたとおり、通則法第23条第2項第1号の規定による更正の請求と認められる。
 しかしながら、この場合の更正の請求期限は、本件和解が成立した平成7年4月18日(前記(ロ)のAのとおり)の翌日から起算して2月以内の同年6月18日(日曜日)であり、通則法第10条第2項の規定により同年6月19日になるところ、請求人は、同年8月4日に本件更正の請求書を提出しているのであるから、本件更正の請求は、その請求期限を徒過してなされた不適法なものと認められる。
B 次に、前記(ロ)のDの(C)ないし(F)の和解調書の内容をみると、本件遺産の分割についての内容であり、本件和解によって本件遺産についての分割が完了し、Lが本件調停を取り下げることで、その分割がすべて完了したものであることが認められるから、本件更正の請求は、上記(ハ)で述べたとおり未分割遺産の分割により取得財産が確定したことによるものであり、相続税法第32条第1号に規定する事由に基づいてなされた更正の請求と認められる。
 しかしながら、本件更正の請求が、相続税法第32条第1号に規定する事由に基づいてなされたものであるとしても、当該更正の請求が同号に規定する事由に該当するか否かは、別の問題として検討されねばならない。そこで、この点について検討したところ、次のとおりである。
(A)請求人は、本件土地を相続財産から除外すべきである旨主張するが、本件土地を相続により取得した財産であるとした当初申告を是正するための更正の請求は、通則法第23条の規定に基づくものであり、上記Aで述べたとおり、本件更正の請求は、請求期限を徒過してなされた不適法なものであるから、相続税の課税価格の計算に当たっては、本件土地が相続により取得した財産であることは争い得なくなったことになる。
 そして、この確定した被相続人の相続財産を基に、当該財産が未分割であるとした場合の請求人の課税価格及び相続税額を相続税法第55条の規定により、民法(第904条の2を除く。)の規定による相続分に従って計算すると、課税価格が17,153,000円、相続税額が947,200円(別表1の「当初更正処分」欄の「課税価格」欄及び「納付すべき税額」欄に記載した金額と同額)となる。
(B)次に、本件相続により取得した財産であると争い得なくなった本件土地を、相続人3名のうちの誰が被相続人から相続により取得したものであるかについて検討すると、Lらが提出した前記(ロ)のEの更正の請求書によれば、請求人が本件土地を相続により取得したものとして相続税の計算を行っていること、及び前記(ロ)のDの和解調書の内容によっても、Lらが本件土地を相続により取得したものと認めることはできないことから、請求人が本件土地を被相続人から相続により取得したものと認めるのが相当である。
 そして、請求人が本件土地を相続により取得したものとして同人の課税価格及び相続税額を計算すると、別表2の「審判所認定額」欄の「請求人」欄に記載のとおり、課税価格が34,459,000円、相続税額(納付すべき税額)が1,903,800円となる。
(C)そうすると、上記(B)のとおり、請求人が遺産分割により取得した財産に係る課税価格34,459,000円及び相続税額1,903,800円が、前記(A)により被相続人の相続財産が未分割であるとして計算した場合の課税価格17,153,000円及び相続税額947,200円をいずれも上回る結果となるのであるから、本件更正の請求は、相続税法第32条第1号に規定する請求事由には該当しないものと認められる。
C 以上のとおり、本件更正の請求は、通則法第23条第2項第1号に規定する更正の請求事由には該当するものの、その請求の期限を徒過した不適法なものと認められ、また、相続税法第32条第1号に規定する更正の請求事由にも該当しないことから、同法第32条に規定する更正の請求の特則の対象とはなり得ないものと認められる。
(ホ)次に、請求人は、本件更正の請求は、通則法第23条第2項第1号及び相続税法第32条第1号の両規定に基づく請求であるから、その請求期限は、請求人に有利な相続税法第32条の規定によるべきである旨主張する。
 しかしながら、前記(ハ)で述べたとおり、通則法第23条第2項第1号に規定する更正の請求事由と相続税法第32条第1号に規定する請求事由は、その請求事由を異にしていることが認められ、また、相続税法第32条に規定する更正の請求の特則は、相続税法特有の事由があることから、通則法第23条に規定する更正の請求期限後においても後発的事由に基づき更正の請求を認めるために特例的に設けられた特別規定であることからみても、これらの規定は、それぞれ異なった事実関係において適用されるべきものであり、両規定に基づく更正の請求ができると解するのは相当とはいえない。その上、本件更正の請求は、上記(ハ)で判断したとおり通則法第23条第2項第1号に規定する更正の請求事由には該当するものの、その請求の期限を徒過した不適法なものと認められ、かつ、相続税法第32条第1号に規定する更正の請求事由にも該当しないのであるから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
ロ 以上のとおり、本件更正の請求は、通則法第23条第2項の更正の請求期限を徒過してなされた不適法なものであり、かつ、相続税法第32条に規定する更正の請求事由にも該当しないことが認められるから、原処分庁が、更正をすべき理由がないとして行った本件通知処分は適法である。

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(2)本件更正処分について

イ 請求人は、原処分庁が本件更正の請求によって、本件土地を相続財産から除外すべきところ、本件土地を相続財産に含めたところで本件更正処分を行ったことは違法である旨主張する。
(イ)しかしながら、本件更正の請求によって、本件土地を相続により取得した財産から除外できないことについては、既に上記(1)のイの(ニ)のBの(A)で判断したとおりであるから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(ロ)次に、本件更正処分の適法性について、以下検討する。
A 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(A)Lらは、平成7年4月18日に本件和解が成立し遺産の分割が完了したとして、同年5月9日に更正の請求書を原処分庁へ提出したこと。
 なお、上記更正の請求書は、相続税法第32条第1号に規定する更正の請求事由に基づく更正の請求であると認められること。
(B)上記(A)の更正の請求書によれば、本件土地を被相続人の相続財産に含めたところで請求額が計算されており、Lらは、各人の更正の請求前の額として、(a)取得財産の価額を18,906,864円、(b)課税価格を17,153,000円及び(c)納付税額(相続税額)を947,200円と記載していること、また、各人の請求額として、(a)取得財産の価額を8,500,000円、(b)課税価格を8,500,000円及び(c)納付税額を468,800円と記載していること。
(C)原処分庁は、平成8年5月8日付で、上記(B)の更正の請求書に記載された金額のとおりの更正処分をしていること。
B ところで、相続税法第31条第1項は、相続税の申告書を提出した者は、同法第32条第1号から第4号までに規定する事由が生じたため既に確定した相続税額に不足を生じた場合には、修正申告書を提出できる旨規定しており、さらに、同法第35条第3項は、税務署長は、同法第32条第1号から第4号までの規定による更正の請求に基づき更正をした場合において、その請求をした者の被相続人から相続により財産を取得した他の者について、当該他の者が、相続税の申告書を提出している場合において、その申告に係る課税価格又は相続税額(その申告があった後に更正があった場合には、更正後の課税価格又は相続税額)が、その更正の請求の基因となった事実を基礎として計算した場合におけるその者に係る課税価格又は相続税額と異なるときは、その事由に基づいて、その者の課税価格又は相続税額を更正する旨規定している。すなわち、相続税法第35条第3項の規定による更正は、当初の申告(その申告があった後に更正があった場合には、当該更正後)の段階における過誤を原因とするものではなく、未分割遺産が遺産分割等により分割され、実際に取得した財産を基礎として算出した課税価格等に異動が生じた場合になされるものと解すべきである。
C これを本件についてみると、Lらは、遺産分割が確定したことにより、相続税法第32条第1号に規定する請求事由に該当するとして更正の請求書を提出(前記Aの(A))したところ、原処分庁は、当該請求のとおりとする更正処分(同Aの(C))をしていることが認められる。
 その結果、請求人が遺産分割により取得した財産の課税価格は34,459,000円、相続税額は1,903,800円(前記(1)のイの(ニ)のBの(B)に記載の金額と同じ。)となり、前記(1)のイの(ニ)のBの(A)で算出した未分割財産の場合における請求人の課税価格17,153,000円及び相続税額947,200円をいずれも上回る結果となるから、原処分庁が、既に確定した自己に係る税額が不足となったと認められる請求人に対し、相続税法第35条第3項の規定により本件更正処分を行ったことに何ら違法な点はないから、この点に関する請求人の主張も採用できない。
ロ 以上のとおり、原処分庁が、相続税法第35条第3項の規定により本件更正処分を行ったことは適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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