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(平9.6.30裁決、裁決事例集No.53 106頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、衣料品小売業を営む同族会社であるが、原処分庁は、請求人に対し、平成8年3月5日付で平成7年7月から平成7年12月までの期間分(以下「本件期間分」という。)の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)について、源泉所得税の額を269,059円とする納税告知処分及び不納付加算税の額を26,000円とする賦課決定処分をし、納税告知書及び賦課決定通知書を同月6日に送達した。
 請求人は、これらの処分のうち不納付加算税の賦課決定処分を不服として、国税通則法第10条《期間の計算及び期限の特例》第2項によって異議申立期間内であるとみなされる平成8年5月7日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年7月9日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成8年8月9日に審査請求をした。

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2 主張

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(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 原処分庁は、所得税法第216条《源泉徴収に係る所得税の納期の特例》の規定による納期の特例(以下「納期の特例」という。)の承認を受けた場合、その承認を受けた者(以下「納期の特例適用者」という。)の納税の告知に係る不納付加算税の計算の基礎となる税額は、その法定納期限までに納付されなかった税額、つまり、1月から6月まで及び7月から12月までの各期間に支払った給与等に係る源泉所得税額であって、法定納期限までに納付されなかった税額の合計額となる旨主張する。
 しかしながら、そのような明文の規定はなく、所得税法第216条は、給与等の支払を受ける者が常時10人未満の小規模な源泉徴収義務者に限り、所轄税務署長の承認を受けた場合には1月から6月まで及び7月から12月までの期間における各月の徴収税額の納付を各期間の属する最終月の翌月10日までにすることができる旨規定しているにすぎず、納期の特例適用者であっても、各月の徴収税額を各期間の属する最終月の翌月10日ではなく、それぞれの月の翌月10日に納付することもできると解すべきである。
 そうすると、納期の特例適用者は、1月から6月まで及び7月から12月までの期間における法定納期限について、各期間の属する最終月の翌月10日とするか、各期間に属する各月の翌月10日とするかを選択することができ、各期間に属する各月ごとに源泉所得税額を納付することも可能となるから、各期間の属する最終月の翌月10日までに納付しない月があった場合には、各月ごとの未納源泉所得税額を基礎として不納付加算税を計算すべきである。
ロ 国税通則法第119条《国税の確定金額の端数計算等》第4項(以下「本件端数計算規定」という。)は、加算税の全額が5,000円未満であるときは、その全額を切り捨てる旨規定しており、また、不納付加算税の税率が10パーセントであることから、納期の特例適用者の1月から6月まで及び7月から12月までの各期間の源泉所得税額が50,000円以上であり、その税額を各期間の属する最終月の翌月10日までに納付しなかった場合、不納付加算税の計算の基礎を1月から6月及び7月から12月までの各期間の源泉所得税額の合計額を基礎として計算をすると、各月ごとの源泉所得税額が50,000円未満であっても本件端数計算規定が適用されず、不納付加算税が徴収されることになる一方、納期の特例適用者が納期の特例の承認を取り消された場合には、不納付加算税は各月ごとの源泉所得税額を基礎として計算され、その月ごとの不納付加算税の額が5,000円未満であるときは、本件端数計算規定によりその全額が切り捨てられるので、各月ごとの源泉所得税額が50,000円未満であれば、不納付加算税が徴収されないことになるので、納期の特例の承認を受けているか否かによって、徴収される不納付加算税に著しい不公平が生ずることになり極めて不合理である。
ハ したがって、納期の特例適用者に係る不納付加算税を計算する場合には、国税通則法第67条《不納付加算税》に規定する法定納期限は、所得税法第183条《源泉徴収義務》第1項の原則規定に従って支払月の翌月10日とし、その法定納期限ごとの源泉所得税額を基礎として不納付加算税の額を計算すると解釈すべきである。
 そうすると、請求人の不納付加算税額を各月の源泉所得税額を基礎として計算すると、各月の源泉所得税額は40,000円(10,000円未満の端数切捨て)、不納付加算税の額は各月の源泉所得税額に不納付加算税の割合100分の10を乗じて計算した4,000円となり、同額は本件端数計算規定により全額が切り捨てられることとなるので、不納付加算税の賦課決定処分は違法である。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 不納付加算税額の基礎となる税額について
(イ)国税通則法第67条第1項は、源泉徴収等による国税がその法定納期限までに完納されなかった場合には、税務署長は、当該納税者から、納税の告知に係る税額又はその法定納期限後に当該告知を受けることなく納付された税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する不納付加算税を徴収する旨規定している。
 ところで、納税告知に係る税額とは、国税通則法第36条《納税の告知》第1項によれば、源泉徴収等による国税でその法定納期限までに納付されなかったものということになる。
(ロ)請求人は、その設立以来、納期の特例適用者である。
 ところで、所得税法第183条第1項は、居住者に対し国内において給与等の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならない旨規定しているが、所得税法第216条は、納期の特例適用者は、1月から6月まで及び7月から12月までの各期間に支払った給与等に係る源泉所得税額を所得税法第183条第1項の規定にかかわらず、当該各期間に属する最終月の翌月10日までに国に納付することができる旨規定している。
 そして、国税通則法第2条《定義》第8号は、法定納期限とは国税に関する法律の規定により国税を納付すべき期限をいう旨規定している。
 したがって、給与等についての源泉所得税の法定納期限は、所得税法第183条第1項によれば、原則として給与等を徴収した各月の翌月10日であるが、請求人のような納期の特例適用者の場合には、所得税法第216条により、1月から6月までの期間に支払った給与等に係る源泉所得税についてはその年の7月10日、7月から12月までの期間に支払った給与等に係る源泉所得税については翌年の1月10日となる。
(ハ)以上のとおり、給与等に係る源泉所得税について、納期の特例の承認を受けた場合、納税の告知に係る不納付加算税の計算の基礎となる税額は、その法定納期限までに納付されなかった税額、すなわち、1月から6月までの期間に支払った給与等に係る源泉所得税額のうちその年の7月10日までに納付されなかった源泉所得税額の合計額、7月から12月までの期間に支払った給与等に係る源泉所得税額のうち翌年の1月10日までに納付されなかった源泉所得税額の合計額である。
 したがって、源泉所得税の納期の特例の承認を受けた場合であっても、法定納期限は給与等を徴収した各月の翌月10日であるから、不納付加算税も各月ごとに計算すべきである旨の請求人の主張には理由がない。
ロ 不納付加算税の賦課決定処分について
 不納付加算税の額は、国税通則法第67条第1項の規定により、平成8年3月5日付の本件期間分の源泉所得税の納税告知処分に係る税額260,000円(10,000円未満の端数切捨て)に100分の10の割合を乗じて計算した金額26,000円となる。
 また、不納付加算税を賦課しない場合の国税通則法第69条第1項ただし書による納税告知処分の税額を法定納期限までに納付しなかったことについて、正当な理由があるとは認められない。
 したがって、不納付加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、不納付加算税の計算の基礎となる税額の適否にあるので、以下審理する。
(1)請求人提示資料、原処分関係資料等及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人は、納期の特例適用者であること。
ロ 本件期間分の源泉所得税の額は、平成8年3月15日にF銀行G支店で納付されていること。
ハ 請求人は、本件期間分の源泉所得税について、平成8年3月5日付で源泉所得税の額を269,059円とする納税告知処分及び不納付加算税の額を26,000円とする賦課決定処分を受けたこと。
ニ 請求人は、不納付加算税の賦課決定処分について、異議申立てを経て本件審査請求をしたが、納税告知処分については、異議申立てをしないまま異議申立期間を徒過したので、納税告知に係る税額を争えなくなっていること。
(2)ところで、国税通則法第67条第1項は、源泉徴収等による国税がその法定納期限までに完納されなかった場合には、税務署長は、当該納税者から、納税の告知に係る税額又はその法定納期限後に当該告知を受けることなく納付された税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する不納付加算税を徴収する旨規定しているから、納税告知処分に係る不納付加算税の額は、納税告知処分によって納税を告知された税額に100分の10の割合を乗じて算出される。
 納税告知に係る税額とは、国税通則法第36条第1項によれば、源泉徴収等による国税でその法定納期限までに納付されなかったものをいうことになる。
 国税通則法第2条第8号は、法定納期限とは国税に関する法律の規定により国税を納付すべき期限をいう旨規定している。
 所得税法第183条第1項は、居住者に対し国内において給与等の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならない旨規定しているが、所得税法第216条は、納期の特例適用者は、1月から6月まで及び7月から12月までの各期間に支払った給与等に係る源泉所得税額を所得税法第183条第1項の規定にかかわらず、当該各期間に属する最終月の翌月10日までに国に納付することができる旨規定している。
(3)以上の事実等に基づいて、不納付加算税の計算の基礎となる税額の適否について検討する。
 請求人は、(a)納期の特例適用者が1月から6月まで及び7月から12月までの各期間において各月の徴収税額を翌月10日に納付することができるから、納期の特例適用者は法定納期限を各期間に属する各月の翌月10日とすることを選択でき、各期間に属する各月ごとに源泉所得税額を納付することも可能であって、各月ごとの未納源泉所得税額を基礎として不納付加算税を計算すべきである、(b)納期の特例適用者の1月から6月まで及び7月から12月までの各期間の源泉所得税額が50,000円以上であり、その税額を各期間の属する最終月の翌月10日までに納付しなかった場合、納期の特例の承認を受けているか否かによって、徴収される不納付加算税に著しい不公平が生ずることになり極めて不合理であるとし、納期の特例適用者に係る不納付加算税の額は、各月ごとの未納源泉所得税額を基礎として不納付加算税を計算すべきである旨主張する。
 しかしながら、上記(2)のとおり、納税告知処分に係る不納付加算税の額は、納税告知処分によって納税を告知された税額に100分の10の割合を乗じて算出されるのであって、このことは納期の特例適用者であっても異なるところはなく、納期の特例適用者について不納付加算税の計算の基礎となる税額の算定について異なる扱いをする旨定めた規定はない。
 なお、所得税法第216条は、納期の特例適用者が1月から6月まで及び7月から12月までの各期間に支払った給与等に係る源泉所得税額を所得税法第183条第1項の規定にかかわらず、当該各期間に属する最終月の翌月10日までに国に納付することができる旨規定しているが、これは同法第183条第1項に規定する法定納期限である徴収月の翌月の10日に代えて、1月から6月まで及び7月から12月までの各期間の属する最終月の翌月の10日をもって法定納期限と規定したものであり、法定納期限として各月の翌月の10日を選択できることを意味するものではないものと解される。また、本件端数計算規定は、税負担の公平に反しない限度において計算等の簡易化を図り、税務行政の能率化及び経済化に資しようというものにすぎないから、納期の特例の承認を受けているか否かで本件端数計算規定の適用を受けられるか否かに違いが生じることがあるとしても、そのことをもって公平さを欠くとまでは言い難い。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がなく、納税告知処分に係る不納付加算税の額は、納税告知処分によって納税を告知された税額に100分の10の割合を乗じて算出すべきとした原処分は相当である。
(4)以上のとおり、不納付加算税の額は、国税通則法第67条第1項の規定により、本件期間分の源泉所得税の納税告知処分に係る税額260,000円(10,000円未満の端数切捨て)に100分の10の割合を乗じて計算した金額26,000円となり、国税通則法第67条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないので、同額でなされた原処分は適法である。
 なお、請求人は、上記(1)のニのとおり、納税告知に係る税額を争えなくなっている以上、不納付加算税の賦課決定処分に係る本件審査請求において、納税告知に係る税額自体が過大であることを前提とする主張はできない。
(5)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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