ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.53 >> (平9.6.26裁決、裁決事例集No.53 253頁)

(平9.6.26裁決、裁決事例集No.53 253頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、茶小売業を営む者であるが、平成5年分の所得税について、青色の確定申告書(分離課税用)に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 なお、この申告書の「特例適用条文」欄に「措置法37条、31条の3、措置法35条、所法58条」と表示した。
 その後、請求人は、原処分庁所属の職員の調査を受け、平成6年5月26日に別表1の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書を提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成7年2月27日付で別表1の「更正処分」欄のとおりの更正処分及び「賦課決定処分」欄のとおりの過少申告加算税の賦課決定処分をした。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成7年4月26日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年7月6日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成7年8月7日に審査請求をした。

トップに戻る

2 主張

トップに戻る

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
(イ)請求人は、地主H(以下「H」という。)が所有するP市R町9番の5所在の土地(宅地、995.93平方メートル。以下「駅南画地」という。)の一部251.57平方メートルを賃借し(以下、この賃借に係る借地権を「本件借地権」という。)、その借地上に建物(店舗兼居宅(木造瓦亜鉛メッキ鋼板葺2階建1階104.75平方メートル2階77.42平方メートル)及び倉庫(木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建19.44平方メートル)。以下「本件建物」という。)を所有していたところ、Hと駅南画地をHから賃借していた請求人らを含む借地権者とで、P市の優良再開発建築物整備事業の制度を利用して駅南画地上に優良再開発建築物を建築し、借地権者及びHがその有する権利をそれぞれ譲渡するとともに、当該建物の一部の区分所有建物及び駅南画地の借地権負担付所有権(以下「底地権」という。)の共有持分を取得し、残りの区分所有建物等を一般に分譲する「P市R町9―5地区優良再開発建築物整備事業」(以下「本件事業」という。)を計画し、本件事業に基づき、鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根地下1階付10階建の建物(P市R町9番5、Jビル。以下「駅南再開発ビル」という。)を建築する一方、本件建物の全部及び本件借地権の一部を株式会社K(代表者H。以下「K社」という。)に対して譲渡するとともに、本件借地権のうちK社に譲渡した残部の半分をHに対して駅南画地の共有持分との交換により譲渡した。
 そこで、請求人は、平成5年分の所得税について、K社に対して譲渡した本件建物の全部及び本件借地権の一部のうち居住用部分の譲渡に係る譲渡所得の金額の計算に当たり、租税特別措置法(平成7年法律第55号による改正前のもの。)第31条の3《居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例》(以下「措置法第31条の3」という。)の規定による特例(以下「居住用の税率特例」という。)及び同法(平成7年法律第55号による改正前のもの。)第35条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》(以下「措置法第35条」という。)の規定による特例(以下「居住用の特別控除」といい、居住用の税率特例と併せて「居住用の各特例」という。)を適用し、Hに譲渡した本件借地権の一部の譲渡に係る譲渡所得の金額の計算に当たり、所得税法第58条《固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例》の規定による特例(以下「交換特例」という。)を適用して確定申告書に別表1の「確定申告」欄の「分離長期譲渡所得の金額」欄のとおり記載して申告したところ、原処分庁は、これに対し、本件借地権の一部がK社に対して譲渡された際、本件建物は既に取り壊されていたから、請求人がK社に対して譲渡した資産は、本件借地権の一部のみで本件建物は譲渡しておらず、本件借地権の一部の譲渡に関する契約は、本件建物を取り壊した日から1年以内に締結されていないから、居住用の各特例の適用は認められないとして更正処分をした。
 しかしながら、請求人は、本件事業に基づきその有する資産を譲渡したのであって、本件事業が、都市再開発法に基づく法定再開発事業と同じ手法により本件事業地の所有権者及び借地権者がそれぞれ有する駅南画地の底地権、借地権及び駅南画地上の建物等を譲渡し、駅南画地上に建築する駅南再開発ビルの一部の区分所有建物及び駅南画地の底地権の共有持分を取得するものであるという特殊性を有することにかんがみれば、請求人が本件借地権のみならず、本件建物を譲渡したものであることは明らかであり、このことは請求人とK社との間で取り交わした平成5年12月20日付の「借地権付建物売買契約書」(以下「本件売買契約書」という。)において本件建物の価額を含めて売買代金を定めていること及びこの定めのとおりに売買代金が決済されていることからも認められる(なお、本件売買契約書を平成5年12月20日付で作成したのは代金の精算を目的としたためにすぎず、この日に資産を譲渡する旨の譲渡契約を締結したものではない。)。
 なお、長期譲渡所得の金額の計算に当たり、居住用の各特例と他の特例のいずれかのみの適用となる場合には、居住用の各特例の適用を選択する。
 したがって、更正処分は事実を誤認したものであり、違法である。
(ロ)請求人は、平成4年6月、原処分庁に対し、本件事業を資料に基づきその細部まで説明し、原処分庁から本件事業全体について居住用の各特例を適用できると了解を得ていたにもかかわらず、原処分庁がこれを無視し、居住用の各特例の適用がないとして更正処分を行ったことは、信義則に反し違法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

トップに戻る

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
(イ)居住用の各特例の適用の可否
A 請求人が本件借地権ばかりでなく、本件建物を譲渡したものであるか否かについて、調査したところ、次の事実が認められる。
(A)本件建物は、L株式会社(以下「L社」という。)により取り壊され、平成4年3月31日取毀を原因とする建物の滅失の登記がされた。
(B)駅南再開発ビルの起工式は、平成4年4月20日に行われた。
(C)請求人は、本件事業の共同施行者代表Sから補償金等として平成4年6月30日に16,030,000円の支払を受けた。
(D)請求人は、本件建物の取縦し工事及び駅南再開発ビルの建築工事の期間中、P市R町22番地3号の仮設店舗において営業を継続していた。
(E)請求人は、本件借地権が本件建物の取壊し後も存在するとして、Hに対し、平成4年3月1日からの15か月分の地代を支払った。
(F)本件売買契約書は平成5年12月20日付となっている。
(G)駅南再開発ビルは、平成5年7月14日新築を原因として建物の表示の登記がされた。
B ところで、居住用の税率特例における居住用財産とは、措置法第31条の3第2項によれば、家屋及びその敷地である土地等をいい、また、措置法第35条第1項によれば、居住用の特別控除は、家屋とともにする敷地である土地等の譲渡について適用できることとなるが、敷地であった土地等のみを譲渡した場合は、昭和46年8月26日付直資4―5ほか2課共同「租税特別措置法(山林所得・譲渡所得関係)の取扱いについて」通達(以下「措置法通達」という。)31の3―5《居住用土地等のみの譲渡》及び同通達35―2《居住用土地等のみの譲渡》の定めにより土地等の譲渡に関する契約が家屋を取り壊した日から1年以内に締結されている場合には、居住用の各特例を適用できるとされている。
C 上記Aの事実から、請求人は、本件売買契約書により、その有する資産をK社に対して譲渡する旨の譲渡契約をしたものと認められるところ、本件建物は本件売買契約書の作成時において既に取り壊されているから、本件売買契約書による譲渡契約の売買代金に本件建物の対価が含まれることはあり得ず、本件売買契約書により請求人が譲渡したのは本件借地権のみであり、本件借地権の譲渡契約は本件建物を取り壊した日から1年以内に締結されなかったことになるから、居住用の各特例の適用を認めることはできない。
(ロ)請求人は、原処分庁との事前の打合せで、本件事業について居住用の各特例が適用できると原処分庁から了解を得ていたから、居住用の各特例の適用を否定し、更正処分を行ったことは信義則に反する旨主張するが、その事前の打合せは租税特別措置法及び措置法通達の取扱いを説明したものであり、取壊し後1年以内に借地権の譲渡に関する契約が締結されていない場合の本件借地権の譲渡について居住用の各特例が適用できる旨の指導をした事実はない。
ロ 長期譲渡所得の金額(課税長期譲渡所得金額)
(イ)本件借地権は、平成5年1月1日において請求人が所有していた期間が5年を越えていると認められるので、本件借地権の譲渡に係る譲渡所得は、租税特別措置法(平成7年法律第55号による改正前のもの。)第31条《長期譲渡所得の課税の特例》(以下「措置法第31条」という。)第1項に規定する長期譲渡所得となる。
(ロ)K社に対する譲渡に係る長期譲渡所得の金額
A 居住用部分の譲渡に係る長期譲渡所得の金額
(A)収入金額
 収入金額は、本件売買契約書に定められた売買代金200,895,940円に本件建物のうち居住用部分の面積が占める割合(以下「居住用割合」という。)72.03パーセントを乗じて計算した額144,705,346円となる。
(B)取得費及び譲渡費用の合計額
 取得費及び譲渡費用の合計額は、租税特別措置法第31条の4《長期譲渡所得の概算取得費控除》第1項の規定による収入金額の100分の5に相当する額(以下「概算取得費」という。)である7,235,267円と請求人の申告した譲渡費用の額72,030円との合計額7,307,297円となる。
(C)居住用部分の譲渡に係る長期譲渡所得の金額
 居住用部分の譲渡に係る長期譲渡所得の金額は、上記(A)の収入金額144,705,346円から上記(B)の取得費及び譲渡費用の合計額7,307,297円を控除した額137,398,049円となる。
B 事業用部分に係る長期譲渡所得の金額
(A)収入金額
 収入金額は、租税特別措置法(平成6年法律第22号による改正前のもの。)第37条《特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例》の規定による特例(以下「買換特例」という。)の適用により、本件売買契約書に定められた売買代金額200,895,940円に本件建物のうち事業用部分の面積が占める割合(以下「事業用割合」という。)27.97パーセントを乗じて計算した額56,190,594円から、請求人が事業用に取得した別表2記載の資産の取得価額34,636,200円に80パーセントを乗じて計算した額27,708,960円を控除した額28,481,634円となる。
(B)取得費及び譲渡費用の合計額
 取得費及び譲渡費用の合計額は、概算取得費1,424,082円と請求人の申告した譲渡費用の額14,177円との合計額1,438,259円となる。
(C)事業用部分の譲渡に係る長期譲渡所得の金額
 事業用部分の譲渡に係る長期譲渡所得の金額は、上記(A)の収入金額28,481,634円から上記(B)の取得費及び譲渡費用の合計額1,438,259円を控除した額27,043,375円となる。
C K社に対する譲渡に係る長期譲渡所得の金額
 K社に対する譲渡に係る長期譲渡所得の金額は、上記Aの(C)の居住用部分の譲渡に係る長期譲渡所得の金額137,398,049円と上記Bの(C)の事業用部分の譲渡に係る長期譲渡所得の金額27,043,375円との合計額164,441,424円となる。
(ハ)Hに対する譲渡に係る長期譲渡所得の金額
 Hに対する譲渡に係る長期譲渡所得の金額は、請求人とHとの間で締結された交換契約書(以下「本件交換契約書」という。)によれば、交換差額はないと認められるので、交換特例の適用により譲渡がなかったとみなされる。
(ニ)課税長期譲渡所得金額
 したがって、課税長期譲渡所得金額は、上記(ロ)のCの164,441,424円から、特別控除の額1,000,000円を控除した額163,441,000円(1,000円未満の端数切捨て)となるから、上記金額と同額の課税長期譲渡所得金額でなされた更正処分は適法である。
ハ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、更正処分は適法であり、かつ、更正処分により増加した納付すべき税額の計算の基礎となった事実には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項に従い正しく計算された過少申告加算税の賦課決定処分も適法である。

トップに戻る

3 判断

 本件審査請求の争点は、請求人が保有する資産のうち居住用部分の譲渡に係る長期譲渡所得の金額の計算に当たり、居住用の各特例を適用できるか否かにあり、この点については、請求人がその有する資産を譲渡する旨の譲渡契約をいつ締結したかにかかるので、以下、審理する。

トップに戻る

(1)居住用の各特例の適用の可否について

イ 請求人提出資料、原処分庁関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、Hが所有する駅南画地の一部251.57平方メートルを賃借し、その借地上に本件建物を所有しており、本件建物のうち店舗兼居宅については、昭和36年10月1日建築を原因とする建物の表示の登記を経、同年12月11日付で所有権保存の登記を経由し、倉庫(附属建物であったが、主たる建物が昭和45年11月30日に取り壊され、昭和46年5月6日付で同年4月25日変更を原因としてこれを主たる建物とする建物の表示の登記がなされた。)については、昭和31年2月20日付で所有権保存登記が経由されているところ、昭和38年10月10日付で同年9月12日相続を原因とする所有権移転登記を経由しているから、遅くともそのころから本件建物を所有するとともに、本件借地権を有していた。
(ロ)請求人、S、M(その後、同人が死亡したことに伴いNが相続)、T、W(その後、同人が死亡したことに伴いX外3名が相続)及びY(以下「請求人ら借地権者」という。)がHから駅南画地を賃借していたところ、昭和63年ころ、請求人ら借地権者のうち数名がHに対し、老朽化等を理由に建物の建替えを打診した。
 Hは、駅南画地の高度利用のため法定再開発事業として事業化できないか株式会社Za支店b営業所(以下「Z社」という。)に相談したところ、Z社の営業課長であるA(以下「A」という。)は、自ら中心となって事業化の研究を進め、P市の優良再開発建築物整備事業の制度を利用するのが適当との判断に至った。
 P市及びAは、平成元年2月ころから、請求人ら借地権者及びHと折衝を開始し、駅南画地上に優良再開発建築物である店舗併用住宅(駅南再開発ビル)を建築し、請求人ら借地権者及びHの有する駅南画地の底地権、借地権及び駅南画地上の建物の価額により駅南再開発ビルの一部の区分所有建物及び駅南画地の底地権共有持分を取得し、残りの区分所有建物等は一般に分譲するという本件事業の概要をまとめた。
(ハ)請求人ら借地権者及びHは、本件事業を共同施行するとして(代表者S。以下、共同施行者である請求人ら借地権者及びHを「本件事業共同施行者」という。)、平成元年12月13日にP市優良再開発建築物整備事業補助金交付要綱(以下「補助金交付要綱」という。)に基づき、「優良再開発建築物共同施行届」(以下「施行届」という。)をP市長へ提出した。
(ニ)本件事業共同施行者は、平成元年12月18日、K社との間で、K社が駅南再開発ビルの一部を取得することなどを内容とした「R町9―5地区優良再開発建築物整備事業、事業参画に関する覚書」を締結した。
(ホ)本件事業共同施行者は、本件事業共同施行者代表あてに、(a)駅南画地に係る本件事業共同施行者の権利割合(請求人ら借地権者45パーセント、H55パーセント)、(b)(a)に基づく本件事業共同施行者各自の保有する資産の価額等、(c)(b)の額で取得可能な駅南再開発ビルの区分所有建物の床面積、(d)本件事業共同施行者が保有する資産等を譲渡し、駅南再開発ビルの区分所有建物及び駅南画地の底地権共有持分を取得する方法(請求人は、本件建物及び本件借地権の一部を駅南再開発ビルの区分所有建物のうち保留されるものを取得する者(以下「保留床取得者」という。)に売り渡し、保留床取得者から駅南再開発ビルの区分所有建物を買い受けるとともに、本件借地権の残部の半分を底地権者であるHの有する底地権共有持分と交換して譲渡する。また、駅南画地外に転出する者の資産は保留床取得者が取得する。)を定めた平成3年6月30日付の同意書(以下「施行同意書」という。)をそれぞれ提出した。
(ヘ)その後、T、X外3名及びYは駅南画地外に転出することとなり、K社に対し、平成3年10月から同年12月にかけ、駅南画地上の建物及び借地権を売り渡すとともに、補助金交付要綱に基づき、共同施行者をK社に変更する旨の「施行者変更届」をP市長あてに提出した。
(ト)請求人は、Hとの間で、平成4年3月1日、「R町9―5地区優良再開発建築物整備事業に係る建物および借地権の取扱いに関する覚書」を作成し、本件建物の取壊し後、駅南再開発ビルが完成するまでの間、本件借地権が存続する旨を確認した。
(チ)本件事業共同施行者は、L社との間で、平成4年3月3日、駅南画地上の建物等を解体除去し、整地する旨の工事請負契約を締結しており、本件建物について、同月31日取毀を原因とする建物の滅失の登記がされていることから、本件建物は、同日ころ、取り壊された。
(リ)本件事業共同施行者は、平成4年4月7日、駅南再開発ビルの起工式を行い、Z社との間で、同年5月28日、駅南再開発ビルを建設する旨の工事請負契約を締結した。
(ヌ)請求人は、本件建物の取壊工事及び駅南再開発ビルの建築工事中、P市R町22番地3号の仮設店舗兼住宅に転居し、当該仮設店舗において営業を継続する一方、本件事業共同施行者代表から、移転等に伴う補償金等として平成4年6月30日、16,030,000円の支払を受けた。
(ル)本件事業共同施行者は、平成5年6月11日、駅南再開発ビルについてP市の建築主事の確認を受けるとともに、同年7月14日、Z社から「引渡書及び受領書」等の交付を受けて駅南再開発ビルの引渡しを受け、同月26日付で、建築基準法第7条《建築物に関する検査》第3項の規定による「検査済証」の交付を受けた。
(ヲ)請求人は、駅南画地につき、平成5年7月19日付で平成4年4月8日交換を原因とするH持分一部移転の登記(共有持分1,000,000分の43,369)を経由するとともに、同年8月1日付で肩書地である駅南再開発ビル10階の居宅(Jビル1001号)へ住民登録を異動し、駅南再開発ビル1階店舗と10階の居宅について、同月9日付で同年7月14日新築を原因とする建物の表示の登記を経た。
(ワ)請求人は、平成4年分所得税について、上記(ヌ)の移転等に伴う補償金等16,030,000円を一時所得としての確定申告をした。
(カ)本件事業共同施行者は、本件事業に基づき請求人が譲渡した資産の価額を本件借地権340,620,000円、本件建物を8,770,000円と、請求人が取得した駅南再開発ビルの1階店舗及び10階の居宅の価額を1階店舗107,969,250円、10階の居宅106,428,330円と、清算額を134,992,420円と算定した本件事業に伴う清算金の「支払通知書」を平成5年12月付で作成し、請求人に対し、清算額134,992,420円を平成5年12月20日と平成6年1月21日の2回に分けて支払った。
(ヨ)請求人は、平成5年12月20日付で、次の契約書を作成した。
A 請求人は、K社との間で、本件借地権のうち192,125,940円に相当する部分及び本件建物(評価額8,770,000円)を200,895,940円で売却し、売買代金は、請求人が取得を予定する本件事業により建設される駅南再開発ビルの区分所有建物の取得代金に充当する旨の本件売買契約書を作成した。
B 請求人は、K社との間で、駅南再開発ビルの1階店舗及び10階居宅を65,903,520円で買い受け、同売買代金の支払に上記Aで取得する売買代金を充当する旨の区分所有建物売買契約書を作成した。
C 請求人は、Hとの間で、本件借地権のうち74,247,030円に相当する部分と駅南画地の底地権のうち74,247,030円に相当する共有持分を交換するとともに、請求人が駅南画地の底地権の共有持分1,000,000分の43,369を取得する旨の交換契約書を作成した。
(タ)請求人は、平成5年分の所得税について、K社に対する譲渡のうち居住用部分の譲渡に係る長期譲渡所得の金額の計算に当たっては居住用の各特例を、K社に対する譲渡のうち事業用部分の譲渡に係る長期譲渡所得の金額の計算に当たっては買換特例を、そして、Hに対する譲渡に係る長期譲渡所得の金額の計算に当たっては交換特例を適用して、確定申告をした。
(レ)本件事業共同施行者は、補助金交付要綱の規定に基づき、平成6年3月31日付で、補助事業完了届をP市長に提出し、同年4月14日にP市から最終補助金55,180,000円を受領して、同月15日に本件事業の清算を完了した。
ロ Aは、当審判所の職員の質問に対し、本件事業共同施行者が本件事業共同施行者代表あてに施行同意書を提出したことで、当事者全員の権利金額等が確定し、本件事業は実質的にスタートした旨回答している。
ハ 以上の事実等を基に、請求人がその有する資産を譲渡する旨の譲渡契約をいつ締結したかについて検討したところ、次のとおりである。
(イ)請求人が本件借地権の一部をK社に対して譲渡し、本件借地権の残部の半分をHに対して譲渡したことは、請求人及び原処分庁の双方に争いがないところ、上記イで認定したとおり、(a)これら本件借地権の譲渡は、請求人ら借地権者及びHとの間で、昭和63年ころから検討が開始され、平成6年4月15日精算を完了した本件事業の一環としてなされたこと、(b)本件事業は、駅南画地上に優良再開発建築物である駅南再開発ビルを建築し、建築した駅南再開発ビルの一部の区分所有建物及び駅南画地の底地権共有持分を本件事業共同施行者の有する駅南画地の底地権、借地権及び駅南画地上の建物の権利の価額に応じて取得するとともに、残りの区分所有建物等を一般に分譲するというものであること、(c)本件事業共同施行者は、平成3年6月30日付で、本件事業共同施行者各自が保有する資産の価額等、同資産の価額等で取得可能な駅南再開発ビルの区分所有建物の床面積、保有する資産を譲渡し駅南再開発ビルの区分所有建物等を取得する方法及び保有する資産の譲渡の相手方を定めた施行同意書を作成して、本件事業共同施行者代表あてに提出していること、(d)施行同意書においては、請求人が本件建物及び本件借地権の一部を売り渡して譲渡し、本件借地権の残部の半分を交換により譲渡することが定められていること、(e)施行同意書の作成、提出は、本件事業を遂行する上で欠くことのできないものであって、これを実質的にスタートさせるものであり、施行同意書の作成、提出を受けて駅南画地上の建物の取壊し、駅南再開発ビルの建築等が進められ、施行同意書において合意された内容でほぼ実現されていること、(f)施行同意書において本件事業共同施行者が駅南画地から転出する場合の資産の譲渡方法が定められており、その定めのとおり本件事業共同施行者の一部が施行同意書の作成、提出後にその所有する借地権及び建物をK社に対して売り渡しているところ、これらの者との間で譲渡を別異に取り扱う合理的理由がないことが認められ、(a)ないし(f)からすると、施行同意書を作成し提出したことは、本件事業遂行のため、本件事業共同施行者がその保有する資産等を譲渡する旨の譲渡契約を締結したものと認めるのが相当であり、このことから、請求人は、平成3年6月30日に、
その保有する資産である本件建物及び本件借地権を譲渡する旨の譲渡契約を締結したものと認められる。
 この点について、原処分庁は、本件売買契約書の日付である平成5年12月20日に、請求人はその保有する資産をK社に対して譲渡する旨の譲渡契約を締結した旨主張するが、上記のとおりその保有する資産の譲渡は本件事業遂行の一環として行われたものであるところ、(a)請求人は、駅南画地の底地権の共有持分の移転登記を平成5年7月19日付で経由したこと、(b)駅南再開発ビルは、本件事業共同施行者が平成5年6月11日、P市の建築主事の確認を受けるとともに、同年7月14日、Z社から引渡しを受け、同月26日付で検査済証の交付を受けて使用可能になっていたところ、請求人は、同年8月1日付で肩書地である駅南再開発ビル10階の居宅へ住民登録を異動し、駅南再開発ビル1階店舗と10階の居宅について、同月9日付で建物の表示の登記を経由したことが認められ、本件事業において請求人がその保有する資産との引換えに取得することになっている資産を本件売買契約書の日付である同年12月20日以前に引渡しを受けてしまっていると認められる一方、請求人が譲渡した資産の価額と請求人が取得した資産の価額を明らかにして本件事業に伴う精算金の額を明らかにした支払通知書が作成されていることからすると、本件売買契約書は、同日に作成された交換契約書及び区分所有建物売買契約書とあいまって、上記精算の過程を明らかにするために作成されたものと認めるのが相当であり、本件売買契約書により請求人の有する資産の譲渡契約が締結されたと認めることはできず、原処分庁の主張には理由がない。
 したがって、請求人は、平成3年6月30日に、本件建物及び本件借地権を譲渡する旨の譲渡契約を締結したものであり、上記イの(イ)のとおり、本件建物及び本件借地権の居住の用に供していた部分は、平成5年1月1日において所有期間が10年を超える居住用財産に該当し、居住の用に供さなくなった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までにこれを引き渡したのであるから、請求人のその他の主張を検討するまでもなく、当該居住用部分の譲渡に係る長期譲渡所得の金額の計算に当たっては、居住用の各特例を適用することができると認められる。
(ロ)なお、上記イの(タ)のとおり、請求人は、平成5年分の所得税について、K社に対する譲渡のうち居住用部分の譲渡に係る長期譲渡所得の金額の計算に当たっては居住用の各特例を、K社に対する譲渡のうち事業用部分の譲渡に係る長期譲渡所得の金額の計算に当たっては買換特例を、そして、Hに対する譲渡に係る長期譲渡所得の金額の計算に当たっては交換特例を適用していることが認められる。
 ところで、措置法第31条の3第1項及び同法第35条第1項は、交換特例の適用を受けるものは居住用の各特例の適用から除く旨規定している。
 そうすると、上記2の(1)のイの(イ)のとおり、請求人は、居住用の各特例と他の特例のいずれかのみの適用となる場合には、居住用の各特例を選択する旨主張していることからすると、Hに対する譲渡に係る長期譲渡所得の金額の計算に当たって交換特例を適用することはできず、Hに対する譲渡のうち居住用部分に係る長期譲渡所得の金額の計算に当たり居住用の各特例を適用することとなる。

トップに戻る

(2)長期譲渡所得の金額(課税長期譲渡所得金額)について

イ 本件建物及び本件借地権は、上記(1)のイの(イ)のとおり、平成5年1月1日において請求人が所有していた期間が5年を超えていると認められるので、本件建物及び本件借地権の譲渡に係る譲渡所得は、措置法第31条第1項に規定する長期譲渡所得となる。
ロ K社及びHに対する譲渡のうち居住用部分の譲渡に係る長期譲渡所得の金額
(イ)収入金額
 収入金額は、本件売買契約書に定められた売買金額200,895,940円に居住用割合72.03パーセントを乗じて計算した144,705,346円と、本件交換契約書に定められた交換金額74,247,030円に居住用割合72.03パーセントを乗じて計算した53,480,136円の合計額198,185,482円となる。
(ロ)取得費及び譲渡費用の合計額
 取得費及び譲渡費用の合計額は、概算取得費9,909,274円と請求人の申告した譲渡費用の額72,030円との合計額9,981,304円となる。
(ハ)特別控除の額
 特別控除の額は、措置法第35条第1項の規定により30,000,000円となる。
(ニ)居住用部分の譲渡に係る長期譲渡所得の金額
 居住用部分の譲渡に係る長期譲渡所得の金額は、上記(イ)の収入金額198,185,482円から上記(ロ)の取得費及び譲渡費用の合計額9,981,304円及び上記(ハ)の特別控除の額30,000,000円を控除した金額158,204,178円となる。
ハ K社に対する譲渡のうち事業用部分に係る長期譲渡所得の金額
(イ)収入金額
 収入金額は、本件売買契約書に定められた売買金額200,895,940円に事業用割合27.97パーセントを乗じて計算した56,190,594円から買換特例を適用することによる買換取得資産の取得価額34,636,200円に80パーセントを乗じて計算した額27,708,960円を控除した額28,481,634円となる。
(ロ)取得費及び譲渡費用の合計額
 取得費及び譲渡費用の合計額は、概算取得費1,424,082円と請求人の申告した譲渡費用の額14,177円の合計額1,438,259円となる。
(ハ)K社に対する譲渡のうち事業用部分に係る長期譲渡所得の金額
 K社に対する譲渡のうち事業用部分に係る長期譲渡所得の金額は、上記(イ)の収入金額28,481,634円から上記(ロ)の取得費及び譲渡費用の合計額1,438,259円を控除した額27,043,375円となる。
ニ Hに対する譲渡のうち事業用部分の譲渡に係る長期譲渡所得の金額
(イ)収入金額
 収入金額は、本件交換契約書に定められた交換金額74,247,030円に事業用割合27.97パーセントを乗じて計算した20,766,894円となる。
(ロ)取得費の額
取得費の額は、概算取得費1,038,344円となる。
(ハ)特別控除の額
 特別控除の額は、措置法第31条第3項の規定により1,000,000円となる。
(ニ)Hに対する譲渡のうち事業用部分に係る長期譲渡所得の金額
 Hに対する譲渡のうち事業用部分に係る長期譲渡所得の金額は、上記(イ)の収入金額20,766,894円から上記(ロ)の取得費の額1,038,344円及び上記(ハ)の特別控除の額1,000,000円を控除した額18,728,550円となる。
ホ 長期譲渡所得の金額
 長期譲渡所得の金額は、上記ロの(ニ)の金額158,204,178円、上記ハの(ハ)の金額27,043,375円及び上記ニの(ニ)の金額18,728,550円を合計した額203,976,103円となる。

トップに戻る

(3)課税総所得金額について

イ 総所得金額
 総所得金額は、請求人の申告額のとおり、事業所得の金額5,310円及び雑所得の金額2,397,018円の合計金額2,402,328円となる。
ロ 所得控除の額
 所得控除の額が1,670,890円であることは、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によっても相当と認められる。
ハ 課税総所得金額
 以上のとおり、課税総所得金額は、上記イの総所得金額2,402,328円から上記ロの所得控除の額1,670,890円を控除した731,000円(1,000円未満の端数切捨て)となる。

トップに戻る

(4)納付すべき税額について

イ 課税総所得金額に対する税額
課税総所得金額に対する税額は、上記(3)のハの課税総所得金額731,000円に100分の10の税率を乗じて計算した金額73,100円となる。
ロ 居住用の税率特例の適用のある課税長期譲渡所得金額に対する税額
 課税長期譲渡所得金額のうち居住用の税率特例の適用のあるのは、上記(2)のロの(ニ)の長期譲渡所得金額158,204,178円であるから、居住用の税率特例の適用のある課税長期譲渡所得金額に対する税額は、158,204,000円(1,000円未満の端数切捨て)から60,000,000円を控除した額98,204,000円に100分の15を乗じて計算した額14,730,600円と6,000,000円とを合計した額20,730,600円となる。
ハ 居住用の税率特例の適用のない課税長期譲渡所得金額に対する税額
 居住用の税率特例の適用のない課税長期譲渡所得金額に対する税額は、上記(2)のハの(ハ)の課税長期譲渡所得金額27,043,375円及び同ニの(ニ)の課税長期譲渡所得金額18,728,550円を加算した額45,771,000円(1,000円未満の端数切捨て)に100分の30を乗じて計算した額13,731,300円となる。
ニ 源泉徴収税額
 源泉徴収税額は、請求人の申告額のとおり、11,460円である。
ホ 納付すべき税額
 納付すべき税額は、上記イの課税総所得金額に対する税額73,100円、上記ロの居住用の税率特例の適用のある課税長期譲渡所得金額に対する税額20,730,600円及び上記ハの居住用の税率特例の適用のない課税長期譲渡所得金額に対する税額13,731,300円の合計額34,535,000円から上記ニの源泉徴収税額11,460円を控除した34,523,500円(100円未満の端数切捨て)となり、更正処分に係る納付すべき税額を下回るから更正処分はその一部を取り消すのが相当である。

トップに戻る

(5)過少申告加算税の賦課決定処分について

 過少申告加算税の賦課決定処分については、更正処分が上記(4)のホのとおり、その一部が取り消されることに伴い、その基礎となる税額は13,230,000円となる。
 また、この税額の計算の基礎となった事実については、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 したがって、請求人の過少申告加算税の額は1,323,000円となり、賦課決定処分の金額に満たないから、過少申告加算税の賦課決定処分は、その一部を取り消すべきである。
(6)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これらを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る

別表1

(単位 円)
区分項目金額
確定申告総所得金額1,993,765
内訳
事業所得の金額△403,253
雑所得の金額2,397,018
分離長期譲渡所得の金額134,441,424
課税総所得金額322,000
課税長期譲渡所得金額134,441,000
納付すべき税額21,243,300
修正申告総所得金額2,402,328
内訳
事業所得の金額5,310
雑所得の金額2,397,018
分離長期譲渡所得の金額134,441,424
課税総所得金額731,000
課税長期譲渡所得金額134,441,000
納付すべき税額21,284,200
更正処分総所得金額2,402,328
内訳
事業所得の金額5,310
雑所得の金額2,397,018
分離長期譲渡所得の金額163,441,424
課税総所得金額731,000
課税長期譲渡所得金額163,441,000
納付すべき税額49,093,900
賦課決定処分過少申告加算税の額3,109,500

(注)△印は、損失の金額を表す。

トップに戻る