ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.53 >> (平9.6.2裁決、裁決事例集No.53 293頁)

(平9.6.2裁決、裁決事例集No.53 293頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、食鳥加工・養鶏業を営む同族会社であるが、平成6年7月1日から平成7年6月30日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に、次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 F税務署長は、これに対し、平成8年6月24日付で原処分庁所属の職員の調査に基づき次表の「更正処分等」欄のとおり、法人税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。

(単位 円)
区分確定申告更正処分等
項目
所得金額14,147,151338,445,414
納付すべき税額721,800122,333,600
過少申告加算税の額 18,048,000

 請求人は、これらの処分を不服として、平成8年8月20日に審査請求をした。

トップに戻る

2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
(イ)請求人は、請求人が100パーセントの株式を保有する子会社であるG株式会社(所在地F市、以下「旧G社」という。)の平成4年の税務調査により、旧G社が新たに納税することとなった法人税等を納付するための資金として、旧G社の会長であり、当時の請求人の会長であった故H(平成7年11月4日死亡。以下「H」という。)を通じて一時的に旧G社に融資(以下「本件融資」といい、当該融資に係る金員を「本件融資金」という。)を行った。
 旧G社は、請求人から仕入れた鶏肉の販売を業とする会社で、J株式会社(所在地P市、以下「J社」という。)を大口販売先としているところ、J社と取り交わしている商品売買取引基本契約書(以下「基本契約書」という。)及びフランチャイズ契約書(以下、「フランチャイズ契約書」といい、基本契約書と併せて「本件契約書」という。)には、旧G社が債務超過など不健全経営の場合においては、取引停止となる旨が明確に規定されており、仮に、旧G社が債務超過の状態で推移した場合、J社から取引を停止されるおそれがあり、取引停止を受けると、請求人は、鶏肉販売の60パーセント以上を占める取引先を失うことになり、旧G社の存立はもとより、生産会社である請求人も倒産の危機に陥ることとなる。これらの危機を回避するため、新たに、請求人が100パーセントの株式を保有する同一商号の子会社G株式会社(所在地R市、以下「新G社」という。)を設立し、対外的には表面上何も変わらないようにして旧G社に債務を負わせたまま新G社へ営業を譲渡(以下「本件営業譲渡」という。)したものである。
 また、本件営業譲渡により、旧G社が債務のみを有する法人となったため、旧G社から債権を回収することは不可能と判断されたことから、請求人は、再建計画に基づいたものではないが、旧G社に対する売掛金128,644,994円(以下「本件売掛金」という。)の債権放棄(以下「本件売掛金の放棄」という。)を行った。しかし、これは、債務超過に陥った旧G社の再建計画を建ててもそれを実行する時間的余裕はなく、仮に、再建計画を実行してもその途中でJ社から取引を停止されることも想定されたために行ったものであることから、「子会社等の債権を放棄しなかったときに親会社等が、より大きな損失を蒙るためやむを得ず債権の放棄をしたときは寄付金の額に該当しない。」旨定めた法人税基本通達9―4―1(以下「本件通達」という。)が適用できると判断し、本件売掛金相当額を関係会社整理損として損金の額に算入したものである。
 なお、再建計画の有無は本件通達の適用要件に直接関係ない。
 したがって、新G社の設立、本件営業譲渡、本件売掛金の放棄、旧G社の解散は、いずれもJ社との取引停止を免れるために行ったものであるから、本件売掛金の放棄がJ社との取引停止と関係がないという原処分庁の主張は相当ではない。
(ロ)Hを通じて行った本件融資は、とりあえず同人の個人資産を担保に請求人が調達した資金により旧G社の法人税等を完納させるために行ったものであったところ、同人に対する本件融資金が別表の「仮払金」欄のとおり400,000,000円を超え、同人から個人資産ではその返済ができないとの申入れを受けた。
 そこで、本件融資金の最終的な負担者について、H、請求人及び旧G社の三者で覚書(以下「本件覚書」という。)を取り交わし、最終的にそのうち200,000,000円を請求人が負担することとし、請求人は、当該金額を旧G社に対し貸し付けるとともに、旧G社はHに、同人は請求人にそれぞれ同額を返済したとする振替処理を会計帳簿上で行ったものである。そして、本件事業年度の決算に当たり上記旧G社に対する貸付金200,000,000円(以下「本件貸付金」といい、当該資金の貸付けを「本件貸付け」という。)について債権放棄(以下「本件貸付金の放棄」といい、「本件売掛金の放棄」と併せて「本件債権の放棄」という。)を行ったが、これらのことについては、上記(イ)の理由と同じくJ社との取引を維持するために行ったものであり、旧G社に対する贈与を目的としたものではなく、また、実質的に旧G社に対する新たな貸付けにも当たらない。
 したがって、本件貸付金の放棄についても本件通達を適用し、関係会社整理損として損金の額に算入したことに問題はない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり本件更正処分は、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い、本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

トップに戻る

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
(イ)本件契約書においては、債務超過の継続など不健全経営の場合における取引停止が明確に規定されているが、その取引停止についての具体的な行動等の事実がないことから、請求人の旧G社に対する本件売掛金の放棄は、取引停止の問題とは関係なく、あくまでも期待利益を守るための債権放棄であって、本件通達に定める今後蒙るより大きな損失には当たらない。また、(a)新G社の役員は、代表取締役Kをはじめ旧G社の役員とほぼ同じであること、(b)新G社の業務内容は、旧G社と同じであること、(c)新G社の本店所在地は、旧G社が○○事務所として利用していた所であること、(d)旧G社は、本件営業譲渡後解散するまで長期間にわたって全く営業活動を行っていないこと等から、子会社旧G社の解散は形式的に行われただけで、実質的には何も変わらないまま新G社が引き続き旧G社の営業を続けているものであると認められ、その債権の放棄が寄付金にならないために必要とされる子会社の消滅、又は親会社の支配下から離脱という事実がない。
 これらの理由から、請求人が有していた旧G社に対する本件売掛金の放棄は、本件通達の「法人がその子会社等の解散、経営権の譲渡等に伴い当該子会社等のために債権の放棄をした場合においても、その負担又は放棄をしなければ今後より大きな損失を蒙ることになることが社会通念上明らかであると認められるためやむを得ずその負担又は放棄するに至った等そのことについて相当の理由があると認められるとき」の定めに当たらず、同通達の適用はなく、法人税法第37条《寄付金の損金不算入》に規定する寄付金に該当する。
(ロ)また、本件融資金のうち、本件貸付金相当額200,000,000円の旧G社への振替は、旧G社が全く営業活動を行っておらず、赤字法人であったにもかかわらず行われたものであることからすると、当初より回収の意思のない旧G社への寄付金であり、上記(イ)と同様に本件通達の適用はできない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり本件更正処分は正当であり、また、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由がある場合には該当しないので、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行った本件賦課決定処分は正当である。

トップに戻る

3 判断

(1)更正処分について

 本件審査請求の争点は、本件債権の放棄による損失の額が寄付金の額に当たるか否かにあるので、以下審理する。
イ 次のことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ)旧G社及び新G社はいずれも、請求人が100パーセントの株式を保有する子会社であり、旧G社は昭和51年7月7日付、新G社は平成5年2月22日付でそれぞれ設立されていること。
(ロ)本件営業譲渡は、平成5年3月1日付で行われていること。
 なお、本件営業譲渡により旧G社から新G社へ引き継がれた資産・負債の額は、簿価でそれぞれ、1,792,670,025円であり、旧G社に残されたのは請求人に対する買掛金が主で、見るべき資産はなかったこと。
(ハ)旧G社は、商業登記簿によれば、平成7年4月28日に解散し、同年6月29日に清算結了したこと。
(ニ)請求人は、旧G社に対する本件売掛金及び本件貸付金の合計額328,644,994円について本件債権の放棄をし、これを関係会社整理損として本件事業年度の所得金額の計算上損金の額に算入していること。
 なお、本件債権の放棄は、旧G社清算人Lに対し、平成7年6月12日付債権放棄通知書により行われていること。
ロ 請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人の平成5年12月1日付取締役会議事録では、第一号議案として、Hに対して400,000,000円を融資する件が付議され、可決承認されていること。
(ロ)本件融資金の請求人からHへ、同人から旧G社への各出金状況及び旧G社の法人税等の納付状況は、請求人等の仕訳台帳によると、別表「本件融資金の流れ等の状況」のとおりであること。
 なお、旧G社は、平成4年10月にF税務署長の税務調査を受け、これに伴う平成5年3月31日付及び同年6月30日付の各修正申告による法人税の本税177,829,000円、これに附帯する加算税、延滞税及び法人事業税等の地方税の合計額(以下「法人税等」という。)400,000,000円余りを納付することとなったこと。
(ハ)平成7年4月24日付で取り交わされた本件覚書には、要旨次のとおり記載されていること。
A 平成4年に甲(旧G社)の納付すべき税額409,146,932円の会計処理について暫定的に丙(請求人)が乙(H)に貸し付け、その金額を乙が甲に貸し付けて完納した。
B 上記金額は、乙が甲及び丙の代表権者であるにしても超過負担となるとの申出が乙からあり、丙は甲に200,000,000円を貸し付け、甲は乙にその金額を返済し、乙は丙に同額を返済する。
(ニ)旧G社の清算に係る平成7年6月28日付清算事務報告書には、負債は資本金のほかは流動負債537,791,926円、その内訳は、買掛金128,644,994円、仮受金409,146,932円と記載されていること。
 なお、負債整理方法について、負債537,791,926円のうち、328,644,994円は請求人から、209,146,932円はHからそれぞれ債務免除を得たので、債務は零円となった旨記載されていること。
(ホ)旧G社及び新G社の役員は、平成5年10月12日付の各商業登記簿の謄本によると両会社とも次のとおり同一であること。
代表取締役 K、H
取締役   M、L、N、W
監査役   X
(ヘ)請求人から当審判所に提出された1992年6月1日付基本契約書(写し)及び昭和63年6月15日付フランチャイズ契約書(写し)によると、これらはいずれもフランチャイザーであるJ社とフランチャイジーである旧G社との間で取り交わされたもので、その契約の内容は、旧G社の営むレストランY店がJ社のフランチャイズ店として、同社の提供するフライドチキン等の食品を販売することに関するものであり、請求人が生産する鶏肉の取引に関するものではないこと。
 なお、上記各契約書には、それぞれ要旨次のとおりの内容の条項が定められていること(ただし、抜粋である。)。
A 1992年6月1日付基本契約書
 第7条 期限利益の喪失
(1)次の各号の一つにでも該当したときは、乙(J社)から甲(旧G社)への通知催告がなくても甲の乙に対する一切の債務は当然期限の利益を失い、甲は、ただちに債務を完済する。
3 甲又は甲の保証人について、仮差押え、仮処分若しくは差押えの命令、通知若しくは仮登記担保権の実行通知が発送され、あるいは競売の申立て、公売処分、租税滞納処分、その他公権力の処分があったとき、あるいは破産、和議開始、会社更正手続開始、会社整理開始若しくは特別清算の申立てがあったとき。
4 甲又は甲の保証人が手形交換所の取引停止処分を受けたとき。
第10条 決算資料等の提出
 甲は乙から請求があった場合には何時でもその決算資料を提出し、その内容を乙に説明しなければならない。
B 昭和63年6月15日付フランチャイズ契約書
第2条 ライセンス料及び使用料
(c)甲(旧G社Y店)は乙(J社)に対し毎日所定の日報を送付し、また、毎月20日までに乙の承認した様式に従い前月の月間営業報告書等乙が指定する報告書を提出する。
(d)甲は店舗所在地にその営業活動の正確な帳簿及び記録を備え付ける。
(e)乙は甲の帳簿、記録、納税申告書を営業時間内に随時立入り検査する権利を有し、少なくとも年に一度会社監査を乙の費用で行うことができる。監査の結果、甲の店舗の総売上の計算に1パーセントを超える誤りが発見されたときは、甲は乙による監査費用を負担する。
第12条 契約解除その他
(d)甲が次のいずれかに該当する場合、乙は催告なく本契約の全部又は一部を直ちに解約することができる。
1 本契約上の権利・利益等の無断譲渡
2 甲の振り出した手形が不渡りとなる等、支払不能又はそのおそれのある場合
3 甲に対する破産、更正、和議等の申立て又は宣告
4 法定又は任意を問わず清算手続に入った場合
5 仮執行、仮差押え、仮処分その他強制執行を受けたとき
(ト)請求人及び旧G社の会計伝票(振替伝票)によれば、本件貸付金の発生時における会計処理は、それぞれ次のとおりなされていること。

請求人 (単位 円)
日付借方金額貸方備考
平7.5.17立替金200,000,000普通預金旧G社へ
平7.5.19普通預金200,000,000仮払金Hより戻り

旧G社 (単位 円)
日付借方金額貸方備考
平7.5.17普通預金200,000,000仮受金請求人より受入れ
平7.5.18仮受金200,000,000普通預金Hへ戻し

(チ)新G社は、平成5年5月31日付の「口座番号変更のお願い」と題する文書により、振込口座を次のとおり変更した旨取引先あて通知していること。

銀行名Z銀行 a支店
種別普通預金
口座番号○○×
口座名義G株式会社

(リ)平成8年8月5日に提出された被相続人Hの平成7年11月4日相続開始に係る相続人X、Kの相続税の申告書によれば、両名の取得した純資産の価額は640,229,012円であること。
(ヌ)旧G社は、本件営業譲渡が行われた平成5年3月1日以降売上実績がないこと。
ハ 請求人の専務取締役Q及び請求人の関与税理士であるS(以下、これら両名を「代理人ら」という。)は、当審判所に対し、次のとおり答述している。
(イ)新G社について、新しく設立した会社であることが取引先に分からないよう次のとおり、旧G社と外形的に全く変わらないようにするなどしたこと。
A 新G社の本店を旧G社の○○事務所の所在地としたほかは、会社形態は同じであり、主な使用人の地位及び組織も変更していない。
B 本件営業譲渡に関しては、金融機関を除く取引先には通知を行わず、上記ロの(チ)の文書により振込口座変更の通知を行っている。
C 取引形態について、請求人と旧G社で行っていた売買を、新G社設立後は委託販売に変更したが、対外的には従前どおりとし、新G社は、旧G社が使用していた請求書の振込口座番号のみを変えたものにより取引先に対して請求を行うとともに、売掛金の回収まで行っている。
(ロ)新G社は、J社との間で本件契約書と同様な契約を改めて締結していないこと。
(ハ)請求人は、Hへ本件融資を行った際には、それが回収不能になるとは考えていなかったこと。また、請求人は、本件融資を行う以前から、金融機関からの借入金の担保としてHの個人資産の提供を受けていたこと。
(ニ)旧G社は、本件融資によりHから借り入れた資金を平成4年の法人税の調査に係る修正申告に伴う法人税等の支払に充てたこと。
(ホ)請求人は、Hから400,000,000円余りの本件融資金の返済ができないとの申入れを受けたことから本件覚書を取り交わし、請求人がそのうち200,000,000円を負担することとしたが、その際、返済能力に関して同人の土地についての資産状況を調査したのみで、全資産の状況について同人から説明を受けたことはなく、調査も行っていないこと。
(ヘ)本件融資金のうち200,000,000円をHに対する貸付金から旧G社に対する貸付金に振替処理することについては、取締役会を開催することなく、社長の決裁を受けて行っていること。
なお、会計処理は、次のとおりであること。
(a)本件覚書に基づき、200,000,000円の現金が請求人から旧G社に本件貸付金として渡り、(b)旧G社は、その金員をHから納税資金に借り受けていた借入金の一部として同人に返済し、(c)さらに、同人は、その金員を本件融資金の一部として請求人に返済している。
(ト)請求人は、本件営業譲渡後、旧G社が営業を行っていなかったことから、本件貸付金の回収は不可能であると考えていたが、本件覚書により請求人が負担しなければならないとされたため、本件貸付けを行ったこと。
(チ)請求人が200,000,000円を負担した理由は、請求人の関係会社内で請求人以外に200,000,000円を負担できる者がいなかったこと。
(リ)旧G社は、J社から決算書類等の提出要求を受けていなかったこと。
(ヌ)本件営業譲渡は、旧G社の具体的な再建計画に基づいてなされたものではないこと。
(ル)旧G社には、経営上問題があったわけではなく、本件営業譲渡をしなければならない差し迫った事由はなかったものの、債務超過の状況からJ社との契約解除が想定されたことから、本件営業譲渡を行ったものであること。
ニ 以上の事実及び答述に基づいて、本件債権の放棄等について検討すると次のとおりである。
(イ)本件債権の放棄の経緯等
A 請求人は、前記イの(ニ)及びロの(ニ)のとおり、本件事業年度において旧G社に対して有する本件売掛金128,644,994円及び本件貸付金200,000,000円の合計額328,644,994円の債権について本件債権の放棄を行い、これによる損失を関係会社整理損として処理したことが認められるが、当該債権の放棄に至る経緯は次のとおりである。
(A)旧G社は、前記ロの(ロ)のとおり、平成4年10月にF税務署長による税務調査を受けて修正申告をした結果、400,000,000円余りの法人税等を納付することとなったがその資金がなかった。
 このため、請求人は、取締役会の承認の下に旧G社に対して、別表のとおり平成5年12月から平成7年1月にかけてHを経由して本件融資を行い、旧G社は本件融資金により法人税等を納付した。
 なお、本件融資を行うに際して、前記ロの(ロ)及び(ハ)のとおりHを経由したのは、次項に述べる旧G社の状況から、前記ハの(ト)で代理人らも認めているとおり、旧G社に対して直接融資を行った場合、その融資金の回収ができないとあらかじめ見込まれたためと認められる。
(B)請求人は、本件融資に先立って、前記イの(イ)及び(ロ)のとおり、平成5年2月22日に新G社を設立し、その直後の同年3月1日付で本件営業譲渡が行われたため、財産の大半は新G社に引き継がれ、旧G社には、請求人に対する買掛金のほか、上記(A)の400,000,000円余りの租税債務が残された。
(C)旧G社は、前記ロの(ヌ)及びハの(ト)のとおり、本件営業譲渡の日以後営業活動を行っておらず、事実上法人税等の納付等負債を整理するためにのみ存続していたもので、負債を返済する余裕はなかったと認められるところ、請求人の主張によれば、Hから本件融資金の返済ができない旨の申入れがあったため、前記ロの(ハ)のとおり、法人税等の納税を終えて(別表のとおり、平成7年1月31日に納税を終えている。)間もない平成7年4月24日付で、本件融資の関係者3名(社)により取り交わされた本件覚書に基づいて、請求人は、前記イの(ニ)及びロの(ト)のとおり、本件融資金のうち本件貸付金200,000,000円相当額を平成7年5月17日付で肩代わりした上、同年6月12日付で本件債権の放棄を行ったことが認められる。
 なお、上記本件融資金の一部肩代わりは、本件融資がHを経由して行われていることからすれば、同人に対する債権額の減額(一部免除)という方法を採るのが自然と思われるが、本件融資は実質的に旧G社に対するものであること、本件覚書の記載文言、前記ロの(ト)の請求人の会計処理及び前記ハの(ヘ)の代理人らの答述からすると、旧G社に対して新たに本件貸付けを行う方法が採られたものと認められる。
(D)旧G社は、前記イの(ハ)のとおり、本件覚書が交わされた直後の平成7年4月28日に解散し、同年6月29日に清算を結了しているが、清算結了直前における財産状況は、前記ロの(ニ)のとおり、資本金のほか、本件売掛金に対応する買掛金128,644,994円、本件貸付金に対応する仮受金200,000,000円及び本件融資金のうち請求人が肩代わりした分を控除した残額に相当するHからの仮受金209,146,932円合計537,791,926円の負債のみで、これらはいずれも債権者から支払を免除されている。
B 上記Aの状況からすると、請求人が旧G社から本件売掛金及び本件貸付金を回収することができないことは明らかであるが、この事態を招いた本件営業譲渡、当該譲渡を前提とした新G社の設立、本件融資等は、通常の経済人の行為としては、一見してその合理性に疑義がある。
 請求人は、これら一連の行為について、旧G社が債務超過の状態が続くなど経営が不健全な場合、大口取引先であるJ社から取引を停止されるおそれがあり、仮にそうなると請求人自体も倒産の危機に陥るから、これを回避するために行った旨主張するので、まずこの点について検討する。
C J社との関係について検討すると以下のとおりである。
(A)旧G社は、請求人の生産する鶏肉の販売(以下「鶏肉の取引」という。)を担当する子会社であり、鶏肉の取引のほか当該鶏肉の大口販売先であるJ社のフランチャイズ店としてフライドチキン等の食品販売を行っているところ、請求人が上記主張の根拠に挙げる本件契約書は、前記ロの(ヘ)のとおり、当該フランチャイズ店に関するものであって、鶏肉の取引に関するものではない。
 したがって、本件契約書に定める契約解除条項等に該当する事実があったからといって、必ずしも鶏肉の取引を停止されるとは認められない。
(B)つぎに、フランチャイズ契約を結んだのは旧G社であることから、仮に本件契約書に定める効果が間接的に鶏肉の取引にも及ぶとしても、次の理由から当該取引を停止される可能性はそれほど高いとは認められない。
 すなわち、J社は、フランチャイズ契約においては商品を供給する側であり、売掛金やライセンス料等の回収を確保する必要があるのに対して、鶏肉の取引においては商品の供給を受ける側であり、買掛金等の債務を負うにすぎず、必要な場合は、買掛金と相殺することによって売掛金等を回収することもできるから、旧G社の方で鶏肉の品質及び供給態勢が維持されている限り、J社の方から取引を停止する必要はなく、むしろ、鶏肉の安定確保の面からは取引を継続する必要があると認められるからである。
(C)また、本件契約書では、決算書の提出や会計監査の実施等が定められているが、前記ハの(リ)の代理人らの答述によれば、決算資料の提出を要求されるなどの差し迫った事実はなく、他にJ社において鶏肉の取引の停止に関連する具体的な行動を取った事実も認められない。
 さらに、前記ハの(ル)で代理人らも認めているとおり、本件営業譲渡が行われる前の旧G社においては経営上特に問題があったわけではなく、ましてフランチャイズ契約書第12条に定める破産申立て等の事実があったわけではないことからしても鶏肉の取引はもちろん、フランチャイズ契約についてもJ社から一方的に取引を停止されるおそれがあったとは認められない。
 なお、フランチャイズ契約書第12条には、契約解除事由の一つとして、「本契約上の権利・利益の無断譲渡」が定められているところ、請求人及び旧G社は、J社から取引を停止されるおそれがあると言いながら、他方で、前記ハの(ロ)の新G社はJ社との間で本件契約書と同様な契約を改めて締結していない旨の代理人らの答述のとおり、明らかに当該無断譲渡に当たると認められる本件営業譲渡を行っていることからすると、請求人らは、J社から取引を停止されるとは元々考えていなかったものと認めざるを得ない。
(D)以上のとおり、いずれの点からしても、J社から鶏肉の取引を停止されるおそれがあったとは認められないから、同社との関係についての前記Bの請求人の主張には理由がない。
D つぎに、新G社についてみると、次のとおりである。
 新G社と旧G社とは、商業登記簿上別会社であるが、両社は、商号、会社形態は全く同一で、前記イの(イ)、ロの(ホ)及びハの(イ)のとおり、株主構成、役員構成、内部組織、事業内容もほとんど差異がなく、いずれも請求人が株式の100パーセントを保有し、請求人が経営を支配する子会社である。
 また、新G社の設立や本件営業譲渡の事実について、前記ロの(チ)及びハの(イ)のとおり、金融機関を除く取引先に対しては通知しておらず、単に振込口座の変更について通知したのみで、かえって、売掛金の回収等においては依然として旧G社が営業を継続しているかのような方法が採られている。
 さらに、新G社の設立に際しては、請求人や代理人らも認めているとおり、旧G社の再建について何ら検討もされていない。
 このような実態からすると、実質的に旧G社から新G社に対して本件営業譲渡ないし経営権の委譲が行われたとは認め難い。
 請求人は、この点について、取引先に知られないようにするため外形的に変わらない会社とした旨主張する。
 しかしながら、上記のとおり、両会社の実態が変わらない限り、新会社を設立して営業譲渡をしたからといって一般の取引先が直ちに取引を止めるとは考えられず、また、J社との関係についても、上記Cのとおり取引を停止されるとは考えられないことから、請求人が主張するような紛らわしい方法で新G社を設立する合理的な理由は認められない。
E 以上に述べたとおり、(a)本件営業譲渡は旧G社に実質的に負債のみを残す内容のものであること、(b)新G社は、本件営業譲渡を前提に設立されたものであること、(c)本件融資は、本件営業譲渡が行われた後になされており、上記(a)のことから、その回収ができなくなることは当該融資を行った時点で明らかであることから、これら一連の行為は経済人の行為としては極めて不自然、不合理であり、両会社がいずれも請求人の支配する子会社であるためになし得たものと認められるところ、請求人が主張するJ社との関係から見ても、これらの行為をなす必要性は認められず、他に合理的な理由を見い出し得ない。
 そして、最終的に本件債権の放棄がなされ、それによる損失の額を関係会社整理損として請求人の本件事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入していることからすれば、上記一連の行為は、本来損金の額に算入できない旧G社の法人税等の大部分を、請求人の損金の額に算入したことと同じ結果となり、このことは、親子会社間を通じて請求人の法人税の負担の軽減を図る意図の下になされたものと認めるのが相当である。
 また、上記Dで述べた新G社の実態からすれば、新G社と旧G社の両会社は実質的に一体のものと見るのが相当である。
(ロ)本件売掛金
 前記(イ)のAの(A)及び(B)で述べたとおり、本件営業譲渡により本件売掛金を旧G社から回収することは困難になったと認められるところ、前述のとおり本件営業譲渡は税負担の軽減を図る意図の下になされたものと認められ、当該譲渡が行われなければ回収も不可能ではなかったと認められること、また、旧G社と一体のものと認められる新G社に対して売掛金の支払を請求することも可能であったこと等から本件売掛金の放棄による損失は、本件事業年度の貸倒損失ないし関係会社整理損として認めることはできないと解するのが相当である。
(ハ)本件貸付金
 本件貸付けは、前記(イ)のAの(C)のとおり、実質的に本件融資金の一部の肩代わりないし返済免除というべきであるが、本件融資が行われた時点で既に旧G社から本件融資金を回収することは困難であったと認められること、また、前記イの(ハ)及びロの(ト)のとおり、本件貸付けは旧G社の解散後に行われており、請求人には当初から本件貸付金を回収する意思がなかったと推認されること、さらに、上記(ロ)と同じ理由から、新G社に対して返済を請求することも可能であったこと等から本件貸付金の放棄による損失は、本件事業年度の貸倒損失ないし関係会社整理損として認めることはできないと解するのが相当である。
 この点について、請求人は、本件融資金の一部200,000,000円は、本件覚書に基づいて請求人が負担したもので、帳簿上は貸付金として処理されているが新たな貸付けには当たらない旨主張する。
 しかしながら、(a)本件覚書は、Hから個人財産では本件融資金の返済ができない旨の申入れを受けたことを契機に取り交わされたものであること、(b)請求人の主張及び前記ハの(ハ)の代理人らの答述によれば、本件融資金に係る資金は、Hの資産を担保にして調達したものであること、(c)前記ハの(チ)の代理人らの答述によれば、請求人が200,000,000円を負担したのは単に請求人以外に負担できるものがいなかったためであること等からすると、請求人の上記主張は、結局本件貸付け及びこれに続く本件貸付金の放棄は実質的にみて、新たな貸付けをしたのではなく、Hに対する本件融資金の一部の返済を免除したものであるということに帰すると思われる。
 仮に、そうだとすると、前記ロの(リ)のとおりHには相当の資産があったにもかかわらず、前記ハの(ホ)の代理人らの答述によれば、同人の返済能力を十分調査することなく上記返済免除が行われていることから、たとえ本件覚書に基づいて免除したものであっても、これは、法人税法第35条《役員賞与等の損金不算入》第4項に規定する役員賞与の支給に当たると認められ、同条第1項の規定により損金の額に算入することはできない。
 したがって、請求人の主張するとおりであったとしても、上記判断に影響しないこととなる。
(ニ)本件通達との関係(適用の可否)
A ところで、法人税法第37条第6項では、寄付金の額について、「寄付金、きょ出金、見舞金その他いずれの名義をもってするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額によるものとする。」旨規定している。
 また、この規定に関して本件通達において、「法人がその子会社等の解散、経営権の譲渡等に伴い当該子会社等のために債務の引受けその他の損失の負担をし、又は当該子会社等に対する債権の放棄をした場合においても、その負担又は放棄をしなければ今後より大きな損失を蒙ることになることが社会通念上明らかであると認められるためやむを得ずその負担又は放棄するに至った等そのことについて相当な理由があると認められるときは、その負担又は放棄をしたことにより生ずる損失の額は、寄付金の額に該当しないものとする。」と定めており、これは、親会社が経営危機を招くことを回避するために赤字の子会社を解散し、あるいは、その経営権を移譲するような場合には、その負担の必要最少限の資金援助、債権の切捨て、債務の引受け等を行った場合に、これを一概に経済性を無視した不自然、不合理な行為ということはできないとし、寄付金課税を行わないという取扱いをすることとしたものと解され、当審判所においてもこの取扱いは相当と認められる。
B そこで、これを本件についてみると、前記(イ)ないし(ハ)で述べたとおり、本件営業譲渡及びこれを前提とした新G社の設立は、請求人の税負担の軽減を図ることを意図してなされたものと認められ、本件営業譲渡がなされなければ、本件売掛金及び本件貸付金を旧G社から回収することは可能であったと認められ、また、両会社は一体のものと認められる点からすれば、新G社に対して支払を求めることも可能であったと認められる。
 さらに、本件貸付金の放棄による損失の額については、前記(ハ)のとおり、本件貸付けが当初から回収の意思もなく行われたとも推認される。
 したがって、本件債権の放棄は、税負担の軽減を図ることを意図した旧G社又は新G社に対する利益の供与にほかならないと認められるから、当該放棄による損失の額は法人税法第37条に規定する寄付金の額に当たると解するのが相当である。
C 請求人は、本件債権の放棄は、J社との取引を維持するためにやむを得ず行ったものであるから、本件通達に該当し、それによる損失の額は寄付金の額に当たらない旨主張する。
 しかしながら、前記(イ)のD及びEで述べたとおり、新G社と旧G社は一体のものというべきで、実質的に本件通達でいう経営権の譲渡等が行われたものとは認められず、また、前記(イ)のCで述べたとおり、J社から取引を停止されるおそれがあったとは認められず、本件通達に定める子会社に対する債権を放棄しなければ今後より大きな損失を蒙ることになることが社会通念上明らかであると認められる場合に該当するとは認められないから、本件通達の適用はできないと解するのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張にも理由がない。
ホ 以上のとおり、請求人の主張はいずれも理由がなく、本件債権の放棄による損失の額328,644,994円を、法人税法第37条第2項に規定する寄付金の額とし、そのうち、損金算入限度額を超える部分324,298,263円を所得金額に加算して行った本件更正処分は適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件更正処分は適法であり、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行われた本件賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る