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(平9.3.28裁決、裁決事例集No.53 317頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、農業を営む者であるが、平成6年3月6日に死亡した請求人の母J(以下「被相続人J」という。)の相続人であり、この相続開始(以下「本件相続」という。)に係る相続税について、次表の「申告」欄のとおり記載した申告書を、法定申告期限までに原処分庁に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成8年2月15日付で次表の「更正処分等」欄のとおり、相続税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分をした。

(単位 円)
項目課税価格納付すべき税額重加算税の額
区分
申告15,977,0000
更正処分等54,233,0003,619,7001,263,500

 請求人は、これらの処分を不服として、平成8年4月15日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年7月8日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成8年8月7日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
 請求人は、昭和58年4月1日に死亡した請求人の父K(以下「亡K」という。)から、P市R町一丁目928番1の田892平方メートル、同所一丁目928番2の田93平方メートル、同所二丁目944番2の田1,252平方メートル、同所四丁目1039番2の宅地59.5平方メートル及びP市S町五丁目856番1の田2,201平方メートル(以下、これらを併せて「本件土地」という。)を、同日、相続により取得した。
 しかしながら、亡Kの遺産分割の際に、被相続人Jが本件土地を相続する旨記載された昭和58年8月8日付の遺産分割協議書(以下「本件遺産分割協議書」という。)が作成され、当該遺産分割協議書に基づき、本件土地について原因を相続、所有者を被相続人Jとする所有権移転登記(以下「本件相続登記」という。)がされたため、請求人は、その内容に錯誤があったとして、L地方法務局P支局において、平成6年3月11日付で錯誤を原因とした所有権更正の登記(更正後の所有権の持分を請求人が300分の299、被相続人Jが300分の1とするものであり、以下、「本件更正登記」という。)をした。
 これに対し、原処分庁は、本件土地の持分全部を被相続人Jの相続財産であると認定して原処分を行ったが、本件更正登記を無視して行われた更正処分は違法であり、このことは、昭和62年1月22日の昭和59年(行ツ)第299号の最高裁判所第一小法廷の判決からも明らかである。
ロ 重加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、更正処分は違法で取り消すべきであるから、これに基づく重加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
(イ)異議審理庁が調査したところ、次の事実が認められる。
A 戸籍の謄本によれば、被相続人Jは、平成6年3月6日午後9時50分にP市で死亡し、その旨を請求人がP市長へ届け出ていること。
B 本件土地の登記簿の謄本によれば、次のとおり登記されていること。
(A)本件土地は、昭和58年10月3日付で、同年4月1日の相続を原因として亡Kから被相続人Jに所有権移転されている。
(B)本件土地は、平成6年3月11日に錯誤を原因として本件更正登記が行われている。
C 本件更正登記の手続の際にL地方法務局P支局に提出された登記申請書等によれば、次のとおりであること。
(A)登記申請書の当初の受付年月日及び受付番号は、平成6年3月7日・第○○号であり、朱抹されている。
(B)本件更正登記は、保証書を添付して登記の申請がされており、その保証書の作成日付は、平成6年3月4日である。
(C)保証書を添付して登記の申請がなされた場合に登記官から発送される通知書(不動産登記法第44条の2に基づく通知書をいい、以下「本件通知書」という。)は、平成6年3月11日に上記法務局に到達して(返送されて)おり、これに伴う登記申請の再受付の受付年月日及び受付番号は、平成6年3月11日・第△△号である。
(D)登記申請書には、被相続人Jを委任者、請求人を代理人とする平成6年3月4日付の委任状(以下「本件委任状」という。)が添付されており、その委任状には、被相続人Jの住所、氏名が記載され、同人の実印が押印されている。
(E)本件通知書には、被相続人Jの署名、押印がされているが、その署名の筆跡及び印は、本件委任状のそれと同一と認められる。
D 亡Kからの昭和58年4月1日相続開始に係る相続税の申告書は、同年9月28日に原処分庁に提出されているが、その申告書及び添付書類によれば、次の事実が確認できること。
(A)亡Kの相続人は、亡Kの妻である被相続人J、同人の長男である請求人、同人の次男であるM(以下「M」という。)及び同人の養女であるN(以下、「N」といい、これらの者を併せて「亡Kの相続人ら」という。)である。
(B)相続税の申告書の提出時点において、亡Kの遺産は、すべて分割され、亡Kの相続人ら全員が遺産を取得している。
(C)被相続人Jは、本件土地のほかに土地及び建物(P市T町912番地に所在)を相続しており、遺産分割されていることが前提である相続税法(昭和63年法律第109号による改正前のもの。以下同じ。)第19条の2《配偶者に対する相続税の軽減》の規定を適用して申告している。
(D)請求人は、農地(本件土地以外のもの)を相続しており、遺産分割されていることが適用の前提である租税特別措置法(平成3年法律第16号による改正前のもの。以下同じ。)第70条の6《農地等についての相続税の納税猶予等》の規定を適用して申告している。
(E)相続税の申告書の添付書類として、(a)申告書の記載内容と遺産分割の内容が同一であることを証する本件遺産分割協議書の写し及び(b)その遺産分割協議書に押印された印が実印であることを証する印鑑証明証が提出されている。
(F)相続税の申告書には、亡Kの相続人らの実印が押印されている。
E 亡Kの遺産分割協議の状況等について、関係者は、原処分の調査担当者(以下「原処分担当者」という。)に対し、次の内容を申述していること。
(A)請求人の申述
a 亡Kの財産を相続するに当たり、被相続人Jの相続分はなく、私が被相続人Jの相続分も相続するとして、亡Kの相続人らの間で話ができていたが、被相続人Jが何もないのはさみしいと言ったことと、一部には節税の気持ちもあり、被相続人Jも相続する旨の本件遺産分割協議書を作った。
b 亡Kの相続税の申告の際に作成した本件遺産分割協議書のほかには、遺産分割協議書は作成していない。
(B)Mの申述
a 亡Kの相続の話をしたときには、請求人、N及び私の3人で相続する話がついていたが、被相続人Jも当時80歳近くで、50年も亡Kに寄り添っていたこともあり、請求人の取り分を一部被相続人Jの名義にするといって分けた。
b 当時、被相続人Jも「高齢なので、請求人の名義にしたらどうか。」と言っていたが、被相続人Jの名義になった経緯については、請求人がしたことなので詳しくは知らない。
c 本件遺産分割協議書については、亡Kの相続人ら全員が内容を承諾した上で、印をついた。
(C)Nの申述
a 亡Kの相続人らの4人で相続の話をして本件遺産分割協議書を作った。
b 分割協議は、何のもめ事もなくすんなりと決まって、書類を作った。弟のMも何も言っていなかったし、間違いのない遺産分割協議書です。
F 被相続人Jの相続について、関係者は、原処分担当者に対し、次の内容を申述していること。
(A)請求人の申述
a 亡Kの相続の時に、私の取り分を被相続人Jに回したので、被相続人Jの遺産は、すべて私が相続する。
b 被相続人Jの遺産の分割については、まだ、遺産分割協議書は作成していない。
(B)Mの申述
a 亡Kの遺産分割協議では、請求人の取り分の一部を被相続人Jの名義にしていたので、被相続人Jの相続財産は、すべて請求人のもので、私の取り分はないと思っている。
b 被相続人Jの財産の分割についての話は何もしていない。
(C)Nの申述
a 相続財産の分割については、まだ、何も話もしていないし、書類も作っていない。
b 被相続人Jの遺産を請求人が相続することについては、まだ、正式に話をしていないが、請求人が後を継いでいるので、それでもいいと思っている。
G 本件土地の本件更正登記に至る経緯について、請求人は、原処分担当者及び異議審理の担当者(以下「異議審理担当者」という。)に対し、次の内容を申述していること。
(A)被相続人Jが相続した亡Kの遺産は、もともと私が相続する話ができていたこともあり、平成5年10月ころ、私と被相続人Jとで話をして、もう私の名義に直そうということで登記した。
(B)以前、本件遺産分割協議書に基づいて登記していたから、100パーセントの持分を私の名義にできず、299対1という割合にした。
 299対1という割合には、特に根拠はない。
(C)W(本件更正登記に係る保証人であり、以下「W」という。)に事情を説明し、意味合いを伝えて登記を任せたので、登記原因が「錯誤」となった理由は分からなかったが、初めの登記に誤りがあったという意味に思っている。
(D)平成5年10月ころに、名義を変える話はできていたが、私も忙しく、なかなか申請ができなかった。
 被相続人Jが弱ってきて様子が変わってきたので、早く登記しなければと思い、手続をした。
(E)平成6年3月4日(金曜日)に登記関係書類をWの所へ持って行った。
 Wは、「すぐやるから。」と言っていたが、土曜日、日曜日は受付ができず、翌週の月曜日の登記申請になった。
(F)実際の登記受付が、被相続人Jの死亡(平成6年3月6日)後となったので、びっくりした。
(G)Wには、登記が錯誤であったことの証人となってもらった。
(H)登記申請に添付した本件委任状は、私が被相続人Jから依頼を受けて署名、押印したもので、住所、氏名とも私の字に間違いない。
(I)登記申請の際の本件通知書の送付先の住所、氏名の記載についても、本件委任状を作成した時に、併せて委任されていると思い、代わって記入したと思うが、だれの字か分からない。
H 被相続人Jに相続登記されていた不動産のうち錯誤登記を行わなかった不動産について、請求人は、原処分担当者に対し、「被相続人Jから名義変更の話があったが、家屋敷については、私も被相続人Jの名義でよいと考え、私の考えで名義を残した。」と申述していること。
I 被相続人Jの死亡前の状況について、請求人は、異議審理担当者に対し、次の内容を申述していること。
(A)被相続人Jは、老衰により死亡した。
(B)平成6年の正月に一時帰宅したが、死亡するまで3か月以上入院していた。
(C)土地の名義を変えようという話をしたのは、死亡する半年以上前だが、実際に登記するからという話をしたのは、1週間前ぐらいである。
 その当時には、目が見えなくなっていて、少し(60センチメートル程度)離れると、輪郭だけで、だれかは分からないような状況であった。
(D)亡くなった日の昼には、孫が面会に行って、食事もしたということだったが、結局、午後11時ごろに亡くなった。
(ロ)ところで、請求人は、本件遺産分割協議書の内容に錯誤があった旨主張するが、上記(イ)の事実関係によれば、(a)亡Kに係る相続税の申告書及び本件遺産分割協議書には、亡Kの相続人らの実印が押印されていること、(b)亡Kの相続税の申告に当たり、被相続人Jは、遺産分割が前提となる「配偶者に対する相続税の軽減」の規定の適用を受けていること、(c)亡Kの相続税の申告に当たり、請求人自身も、遺産分割が前提となる「農地等についての相続税の納税猶予等」の規定の適用を受けていること、(d)請求人は、節税の意味もあって被相続人Jも相続した旨申述していること、(e)亡Kの遺産の分割及び本件遺産分割協議書の作成に際し、亡Kの相続人らから異議が唱えられた事実が認められないことなどの事実が認められ、これらを基に判断すると、亡Kの遺産は、亡Kの相続人らによる分割協議の過程で、M及びNが相続した遺産以外の遺産については、基本的には長男である請求人が相続するという話がされたものの、主として節税(被相続人Jが「配偶者に対する相続税の軽減」の規定の適用を受けること。)を目的として、最終的には被相続人Jも遺産を相続する旨の合意がなされたと認めるのが極めて自然である。
 したがって、本件遺産分割協議書の作成時点においては、被相続人Jも遺産を相続することが亡Kの相続人らの真意であったと認められ、その真意に基づき作成された本件遺産分割協議書の内容に錯誤はなかったというべきであるから、請求人の主張を採用することはできない。
(ハ)つぎに、請求人は、本件更正登記は本件遺産分割協議書の内容に錯誤があったため、それを更正するため行った旨主張する。
 しかしながら、上記(ロ)のとおり、本件遺産分割協議書の内容に錯誤はないというべきであるから、請求人の主張を採用することはできない。
 むしろ、本件の場合、(a)本件遺産分割協議書の内容には錯誤は認められないにもかかわらず、「錯誤」を原因として、当初の相続登記を更正していること、(b)本件土地に係る本件更正登記前の被相続人Jの持分(全部)を前提に本件相続に係る相続税を算出すれば、請求人に相続税が課税されるが、本件更正登記後の持分によれば、相続税が課税されないこと、(c)請求人は、亡Kの相続税の申告手続等に関与しており、相続税の課税の仕組み等をよく知っていたと認められること、(d)本件更正登記の手続が被相続人Jの死亡日の翌日に行われていること、(e)本件更正登記に係る本件委任状の被相続人Jの署名・押印は、請求人が行っており、被相続人Jの真意により本件更正登記がなされた旨を確認できる書類がないこと、(f)被相続人Jの相続人間では、本件土地を請求人が相続する旨内諾されていたと認められるにもかかわらず、本件相続開始の直後に、本件土地の所有権の大部分を被相続人Jから請求人へ錯誤を原因として移転させる合理的な理由がないことなどからすれば、本件更正登記は、専ら相続税の課税を免れることを目的として形式上の体裁を整えるために行われたものと認めざるを得ない。
 なお、請求人は、本件更正登記の手続に係る書類をWに交付して、その手続を依頼したのは、平成6年3月4日であり、被相続人Jの生前に本件更正登記の手続ができる状況にあった旨申述しているが、手続に必要な印鑑登録証明書(本件更正登記に係る保証人のW及びXに係るもの)が発行されたのが、被相続人Jの死亡後の同年3月7日であることからすると、請求人の申述は、にわかに信用できない。
(ニ)また、請求人は、地方税に関する裁判例(不動産取得税賦課決定処分取消請求事件、最高裁昭59年(行ツ)第299号、昭和62年1月22日第一小法廷判決と認められる。以下、「本件不動産取得税判決」という。)を引用し、本件の更正処分が違法である旨主張する。
 しかしながら、本件不動産取得税判決は、本件の更正処分とは事実関係を異にするものであるから、請求人の主張には理由がない。
(ホ)以上により、本件土地はその全部が被相続人Jの遺産となるから、本件の更正処分は適法である。
ロ 重加算税の賦課決定処分について
 国税通則法第68条《重加算税》第1項は、同法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、・・・過少申告加算税に代えて重加算税を課する」旨を規定している。
 これを本件についてみると、請求人が過少申告となった原因は、本件土地の全部が被相続人Jの遺産であるにもかかわらず、その持分の一部(300分の299)を遺産でないとして相続税の申告をした結果、過少申告という事実が発生したものであるから、重加算税の課税要件は、この本件土地の持分の一部が遺産(課税価格に算入される財産)でないとした課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関して「隠ぺい又は仮装」が存するか否かである。
 本件の場合、請求人は、本件遺産分割協議書が各相続人の真意に基づいて作成されているにもかかわらず、その内容には錯誤があったとして本件更正登記手続を行い、その事実と異なる登記に基づいて相続税の課税価格を算出し、相続税の申告書を提出しているから、課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関して「隠ぺい又は仮装」が存することは明らかである。
 したがって、上記事実は、重加算税の課税要件を満たしているから、重加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 双方の主張に基づいて調査、審理したところ、次のとおり判断される。

(1)更正処分について

 本件更正登記は、本件相続登記に錯誤があったことから、それを更正するために行ったものであるから、本件更正登記を無視して行われた原処分は違法である旨請求人が主張するので、以下検討する。
イ 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ)請求人は、被相続人Jが平成6年3月6日午後9時50分にP市で死亡した旨をP市長へ届け出ていること。
(ロ)本件土地は、昭和58年10月3日付で、同年4月1日の相続を原因として亡Kから被相続人Jに所有権移転され、また、平成6年3月11日に錯誤を原因として本件更正登記が行われていること。
(ハ)亡Kの遺産分割に当たり、亡Kの相続人らの間において、本件遺産分割協議書が作成され、本件遺産分割協議書以外の分割協議書は作成されていないこと。
(ニ)亡Kからの昭和58年4月1日相続開始に係る相続税の申告書は、同年9月28日に原処分庁に提出されており、また、その申告書及び添付書類によれば、上記2の(2)のイの(イ)のDのとおりであること。
ロ 当審判所が原処分関係資料を調査したところ、次の事実が認められる。
(イ)本件更正登記の手続の際にL地方法務局P支局に提出された登記申請書等によれば、次のとおりであること。
A 登記申請書には、本件委任状及びW及びXが保証人となっている平成6年3月4日付の保証書(以下「本件保証書」という。)が添付されており、また、当該登記申請書の当初の受付年月日は、平成6年3月7日である。
B 本件通知書は、平成6年3月11日にL地方法務局P支局に到達して(返送されて)おり、これに伴う登記申請書の再受付の年月日は、平成6年3月11日である。
C 本件委任状は、被相続人Jの住所、氏名が記載され、同人の実印が押印されている。
 なお、請求人は、上記の署名・押印を、被相続人Jから依頼されて自らが行ったことを認めている。
(ロ)亡Kの遺産分割協議の状況等について、関係者は、原処分担当者に対し、次の内容を申述していること。
A 請求人の申述
 亡Kの財産を相続するに当たり、私が被相続人Jの相続分も相続するとして、亡Kの相続人らの間で話ができていたため、被相続人Jの相続分はなかったが、被相続人Jが何もないのはさみしいと言ったことと、一部には節税の気持ちもあり、被相続人Jも相続する旨の本件遺産分割協議書を作った。
B Mの申述
 亡Kの相続の話をしたときには、請求人、N及び私の3人で相続する話がついていたが、被相続人Jも当時80歳近くで、50年も亡Kに寄り添っていたこともあり、請求人の取り分を一部被相続人Jの名義にするといって分けたものであるが、本件遺産分割協議書については、亡Kの相続人ら全員が内容を承諾した上で、印をついた。
C Nの申述
 亡Kの相続人らの4人で相続の話をして本件遺産分割協議書を作った。分割協議は、何のもめ事もなくすんなりと決まった。
(ハ)被相続人Jの相続について、関係者は、原処分担当者に対し、次の内容を申述していること。
A 請求人の申述
 亡Kの相続の時に、私の取り分を被相続人Jに回したので、被相続人Jの遺産はすべて私が相続するが、まだ、遺産分割協議書は作成していない。
B Mの申述
 亡Kの遺産分割協議では、請求人の取り分の一部を被相続人Jの名義にしていたので、被相続人Jの相続財産は、すべて請求人のもので、私の取り分はないと思っているが、財産の分割についての話は何もしていない。
C Nの申述
 被相続人Jの遺産を請求人が相続することについては、話をしていないが、請求人が後を継いでいるので、それでもいいと思っている。
 ただ、本件更正登記の件については、請求人から相談されなかった。
(ニ)本件土地の本件更正登記に至る経緯について、請求人は、原処分担当者及び異議審理担当者に対し、次の内容を申述していること。
A 平成5年10月ころに、本件土地の名義を変える話はできていたが、私も忙しく、なかなか申請ができなかった。
 被相続人Jが弱ってきて様子が変わってきたので、早く登記しなければと思い、手続をした。
B 以前、本件遺産分割協議書に基づいて登記していたから、100パーセントの持分を私の名義にできず、299対1という割合にしたが、当該割合の根拠はない。
C Wに事情を説明し、意向を伝えて登記を任せたので、登記原因が錯誤となった理由は分からなかったが、初めの登記に誤りがあったという意味に思っている。
D 平成6年3月4日(金曜日)に登記関係書類をWの所へ持って行った。
 Wは、「すぐやるから。」と言っていたが、土曜日、日曜日は受付ができず、翌週の月曜日の登記申請になった。
(ホ)被相続人Jに相続登記されていた不動産のうち錯誤登記を行わなかった不動産について、請求人は、原処分担当者及び異議審理担当者に対し、被相続人Jから名義変更の話があったが、家屋敷については、私も母の名義でよいと考え、私の考えで名義を残した旨申述していること。
(ヘ)被相続人Jの死亡前の状況について、請求人は、異議審理担当者に対し、次の内容を申述していること。
A 被相続人Jは老衰により死亡した。平成6年の正月に一時帰宅したが、死亡するまで3か月以上入院していた。
B 本件土地の名義を変えようという話をしたのは、死亡する半年以上前だが、実際に登記するからという話をしたのは、死亡する1週間前ぐらいである。
 その当時、被相続人Jは、目が見えなくなっていて、60センチメートル程度離れると、輪郭だけで、だれかは分からないような状況であった。
(ト)Nは、本件相続に係る相続税の期限後申告書(被相続人Jが本件遺産分割協議書により相続した本件土地を含む相続財産に係るもの。)を、平成8年2月14日に原処分庁に提出していること。
(チ)原処分庁は、Mに対し、本件相続に係る相続税の決定処分(被相続人Jが本件遺産分割協議書により相続した本件土地を含む相続財産に係るもの。)を行っているが、同人は、当該決定処分に関して不服申立てを行っていないこと。
ハ 上記事実に照らして判断すると、次の理由により、亡Kの遺産分割に関する本件遺産分割協議書を作成する時点においては、被相続人Jが本件土地を含む亡Kの遺産を相続するとの分割協議が、亡Kの相続人ら全員の合意でなされ、かつ、この合意に基づき本件遺産分割協議書が作成されていることから、本件相続登記に錯誤はないものと認めるのが相当であり、請求人が本件土地を亡Kから相続により取得し、本件相続登記に錯誤があった旨の請求人の主張を採用することはできない。
(イ)本件遺産分割協議書は、亡Kの相続人ら全員がそれぞれ遺産を相続することとして、亡Kの相続人ら全員の実印が押印され、また、M及びNは、亡Kの相続人ら全員が本件遺産協議書の内容を承諾し、本件遺産協議書を作成した旨申述していること。
(ロ)亡Kの相続人らは、亡Kに係る相続税の申告に当たって、本件遺産分割協議書に記載された相続財産を相続したとして申告していること。
 なお、被相続人Jは、上記申告に際し、本件遺産分割協議書に基づき、遺産分割されることが適用の前提となる相続税法第19条の2に規定する配偶者に対する相続税の軽減の規定の適用をし、また、同様に、請求人も、遺産分割されていることが適用の前提である租税特別措置法第70条の6に規定する農地等についての相続税の納税猶予等の規定を適用している。
(ハ)請求人は、被相続人Jが、本件遺産分割協議書のとおり、亡Kの遺産を相続することになった経緯について、被相続人Jが何も相続しないのはさみしいと言ったことと、一部には節税の気持ちもあったことから相続することとなった旨申述していること。
ニ さらに、請求人は、本件不動産取得税判決を引用し、本件の更正処分が違法である旨主張する。
 そこで、本件不動産取得税判決を検討したところ、当該判決は、不動産取得税の課税に当たって、相続財産(不動産)が遺産分割協議により分割され、登記された後、当該遺産分割協議を相続人全員の合意によって解除し改めて遺産分割協議(以下「改定遺産分割協議」という。)が行われ、これに基づいて相続財産(不動産)の所有権移転登記が行われた場合においても、改定遺産分割協議による相続財産(不動産)の取得は相続による取得に該当し、不動産取得税が非課税となる旨の内容と認められる。
 これを本件についてみると、亡Kの遺産分割協議は、本件遺産分割協議書が作成される際に行われた以外にこれを解除するなどの遺産分割協議が行われた事実が認められないなど、本件の事実関係は本件不動産取得税判決の事実関係とは異なり、当該判決の内容は本件の判断に影響を与えるものではなく、さらに、上記ハの判断を覆すに足りる証拠は認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ホ 以上により、本件土地はその全部が被相続人Jの遺産となるから、相続税の更正処分は適法である。

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(2)重加算税の賦課決定処分について

イ 国税通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課決定処分は、課税標準又は税額の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい又は仮装し、その隠ぺい又は仮装したところに基づき納税申告書を提出した場合に適用されるところ、「事実を仮装する」行為とは、所得、財産あるいは取引上の名義等に関して、あたかも、それが真実であるかのように装う等、故意に事実をわい曲する行為と解されている。
ロ これを本件について検討したところ、上記(1)のとおり、本件遺産分割協議書は、亡Kの相続人ら全員の合意に基づき作成されたものであり、亡Kに係る相続税の申告が本件遺産分割協議書に記載された内容に基づいて行われ、被相続人Jは当該申告に当たって、相続税法第19条の2に規定する配偶者に対する相続税の軽減の規定を適用していることからすると、被相続人Jは、本件土地を亡Kの相続により取得していたものと認められ、かつ、昭和58年に行われた亡Kの遺産分割協議から約11年も経過した平成6年3月まで所有権移転登記が行われなかったにもかかわらず、あえてこの時期に本件更正登記が行われたことに合理的な理由は認められないから、請求人が本件更正登記を行ったのは、本件相続開始に係る相続税を免れるためであったと認めざるを得ない。
 そうすると、請求人が本件相続登記に錯誤があったとして本件更正登記を行ったことは、請求人が真実と異なる法形式を選択することにより、あたかも請求人の主張が真実であるかのごとく装うための手段と認められる。
 したがって、請求人は、その事実と異なる偽りの行為による登記に基づいて、故意に本件相続開始に係る相続税の課税価格を過少に算出し、申告したものと認められるから、原処分庁が国税通則法第68条第1項の規定に基づいて行った重加算税の賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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