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(平9.2.6裁決、裁決事例集No.53 400頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人M、N及びT(以下、これら3名を併せて「請求人ら」という。)は、平成5年4月12日に死亡したW(以下「被相続人」という。)の共同相続人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税の申告書に次のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。

 次いで、請求人らは、次表のとおり記載した修正申告書を平成6年2月14日に提出した。

 原処分庁は、これに対し平成7年6月30日付で次表のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件過少申告加算税の賦課決定処分」という。)並びにMに対する重加算税の賦課決定処分をした。

 請求人らは、本件更正処分及び本件過少申告加算税の賦課決定処分を不服として、平成7年8月25日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成7年11月22日付で棄却の異議決定をした。
 請求人らは、異議決定を経た後の本件更正処分及び本件過少申告加算税の賦課決定処分並びに異議決定を経ていない重加算税の賦課決定処分に不服があるとして、平成7年12月22日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、それぞれMを総代として選任し、その旨を平成8年10月9日に届け出た。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により不当又は違法であるから、その一部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)本件更正処分の手続について
 請求人らは、P市A町7丁目1258番所在の土地ほか4筆合計710.23平方メートル(以下「A土地」という。)及びP市B町4丁目892番所在の土地674平方メートル(以下「B土地」という。)の本件相続に係る相続税の課税時期における評価に当たって、財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達、平成6年6月27日付課評2―8ほかによる改正前のもの。以下「評価基本通達」という。)の定めによる評価額が客観的な交換価値といわれる時価であるか否かについて疑わしい状況であったため、A土地及びB土地を不動産鑑定評価額により本件相続に係る相続税の課税価格を計算し、その評価額の根拠を明確にするため、不動産鑑定評価書(以下「本件鑑定評価書」という。)を本件相続に係る相続税の申告書に添付した。
 原処分庁は、請求人らに対し、本件相続に係る相続税の調査の段階において本件鑑定評価書の問題点を指摘することなく、独自にA土地及びB土地の不動産鑑定を行い、その不動産鑑定評価書を明示することなく、かつ、A土地及びB土地の価額の算定根拠の説明もすることなく本件更正処分を行った。
 申告納税制度の下においては、納税者の行った申告は一次的には尊重されるべきであるから、原処分庁が請求人らの申告に関して請求人らに対し何ら聴聞、理由の開示及び説明をせずに画一的に本件更正処分を行ったことは、租税手続等を無視した不当なものである。
(ロ)土地の評価について
 本件相続に係る相続財産のうちのA土地及びB土地については、地価の異常下落の状況下にあって、本件鑑定評価書による価額が評価基本通達に基づく評価額を下回ることから、同通達の定めによらず、適正、適法に算定された本件鑑定評価書の価額であるA土地226,800,000円、B土地354,400,000円をもって本件相続に係る相続税の課税価格とすべきである。
(ハ)有限会社Xへの出資の評価について
 本件相続に係る相続財産のうちの有限会社X(以下「X社」という。)への出資に係る評価額は、次のことから、評価基本通達185《純資産価額》の定めに従い、評価差額に対する法人税額等に相当する金額(以下「法人税等相当額」という。)を控除して求めた価額とすべきである。
A 平成2年8月3日付直評12ほかによる評価基本通達の改正で、評価基本通達186―3《評価会社が有する株式等の純資産価額の計算》が新設され、評価会社が株式等を有する場合の評価差額に対する法人税等相当額の控除についての取扱いを適用開始時期と併せて明示している。
 その後、平成6年6月27日付課評2―8ほか国税庁長官通達「財産評価基本通達の一部改正について」(以下「改正評価基本通達」という。)により、現物出資受入差額については、法人税等相当額を控除しないで評価することとなった。
 以上の通達の改正の経緯からすると、本件更正処分の場合は、法人税等相当額の控除を認めないとの取扱いを通達の改正を待たずに行ったこととなる。
 通達は租税法を補充するものであることから、原処分庁は、これを遵守する職制上の立場にあるのにもかかわらず、一方的にその適用を変更しそ及課税を行ったが、このことは、公開通達の持つ公共性を無視した独善的な解釈で、法的安定性及び課税標準額算定の予測可能性を否定するものであり、公平課税に反する。
B 財産の大半を貸付不動産として所有していた被相続人は、換金の容易な財産を所有することと、その不動産を法人が所有及び管理することにより安定した経営を継続したいと思った。そこで不動産を担保に借入れを行い、換金の容易な有価証券を運用する有限会社Y(以下「Y社」という。)を設立し、一方で所有不動産の受皿会社としてX社を設立することにした。
 Y社への出資をX社に現物出資したのは、被相続人の財産を一元的に管理するということにとどまらず、被相続人の不動産をX社に受け入れるためにY社の収益を配当として受け入れることが財産管理上最適であると判断したためである。
 また、被相続人が借り入れたY社の設立資金をY社からの借入れにより返済を行ったのは、Y社が運用していた「金銭信託以外の金銭の信託」(以下「特定金外信託」という。)の運用利回りが低く、投資物件を変更する必要が生じ特定金外信託を解約したが、その特定金外信託を被相続人の借入れの担保としていたため、担保を解除する必要から一時的に設立資金の払戻しのような形をとらざるを得なかったためである。
 Y社は、被相続人からすぐに貸付けの返済を受けて、投資の再開を期していたところ、被相続人が死亡したことや不動産及び株式市場の低迷から、財産運用を断念し、Y社をX社に吸収合併させるとともに、X社の減資を行ったものである。
 Y社は、本件相続の相続開始時点の直前の事業年度において特定金外信託の運用益を中心に46,000,000円余りの課税所得を申告し、また、X社は、被相続人からの不動産の買取りは実行できなかったものの、本件相続の相続開始時点を含む事業年度において、自社の所有する不動産の家賃等の収入を得ている。
 したがって、両社が経済的実態を伴わないものということはできず、原処分庁は、X社の企業活動を誤認している。
C 本件更正処分は、土地の評価においては評価基本通達を適用していながら、X社への出資の評価においては評価基本通達の適用を認めないといった矛盾があり、到底納得できない処分である。
ロ 本件過少申告加算税の賦課決定処分について
 仮に、請求人らの主張する評価方法が認められないとしても、X社への出資の評価は、請求人らが本件相続の課税時期における評価基本通達を信頼して申告を行ったものであり、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるから、本件過少申告加算税の賦課決定処分は取り消されるべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由から適法であり、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)本件更正処分の手続について
 原処分庁所属の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)は、本件相続に係る相続税の調査の過程において請求人らに対し本件更正処分の内容及び考え方を繰り返し説明しており、かつ、相続税法においては、更正処分の理由を文書で開示しなければならない法令上の規定がなく、請求人らが主張するような違法は存在しないことから、請求人らの主張は原処分を違法ならしめる理由とならない。
(ロ)土地の評価について
A 相続税法第22条《評価の原則》は、「相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。」と規定しており、ここでいう時価とは、相続開始時における客観的な交換価値をいうものと解されている。
 しかし、客観的な交換価値というものが必ずしも一義的に確定されるものではないことから、課税実務上は、相続財産評価の一般的基準が評価基本通達によって定められ、そこに定められた画一的な評価方式によって相続財産の価額を評価することとされている。
 これは、相続財産等の客観的な交換価値を個別に評価する方法を採ると、その評価方式、基礎資料の選択の仕方等によって、評価する者が異なるごとに異なった価額として評価されるおそれがあること、また、課税実務の迅速な処理が困難となるおそれがあること等からして、あらかじめ定められた評価方式により画一的に評価する方が納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて合理的であるという理由に基づくものと解されている。
 したがって、評価基本通達に定められた評価方式によって相続財産の価額を評価すべきであるとする趣旨が上記のようなものであることからすれば、評価基本通達に定められた評価方式を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって、かえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかな場合には、別の評価方式によることが許されると解されている。
 ところで、評価基本通達において、市街地的形態を形成する地域にある宅地の価額は、売買実例価額、公示価格(地価公示法第6条《標準地の価格等の公示》の規定による公示された標準地の価格をいう。以下同じ。)及び精通者意見価格等を基として国税局長が路線ごとに評定した価額(以下「路線価」という。)にその宅地の形状及び路線に接している状況を考慮して計算した金額によって評価することとされている。
 したがって、評価基本通達に基づき路線価が合理的に算定されている限り、これが形式的にすべての納税者に適用されることによって租税負担の実質的な公平が実現されるものと解されていることから、評価基本通達に基づき算定した評価額(以下「相続税評価額」という。)が相続開始時におけるその土地の価額を明らかに上回っているような特別な事情が存在する場合を除き、すべての納税者に適用されることになる。
B 原処分庁の調査担当職員が調査したところ、次のような事実が認められる。
(A)請求人らは、請求人らが本件相続に係る相続税の申告に際して提出した本件鑑定評価書に記載された鑑定評価額に基づき、A土地の価額を226,800,000円(1平方メートル当たり394,000円)、B土地の価額を354,000,000円(1平方メートル当たり525,000円)として本件相続に係る相続税の課税価格に算入していること。
(B)平成5年分路線価図によれば、A土地は500,000円及び470,000円の路線価の付された路線に面し、B土地は850,000円及び510,000円の路線価の付された路線に面していること。
(C)原処分庁が不動産鑑定士に平成5年4月12日におけるA土地及びB土地の更地としての正常価格を鑑定依頼したところ、A土地の正常価格は370,700,000円(1平方メートル当たり522,000円)、B土地の正常価格は536,500,000円(1平方メートル当たり796,000円)である旨鑑定されていること。
(D)原処分庁は、A土地の価額を評価基本通達に基づき算定した292,262,698円、B土地の価額を原処分庁の依頼した不動産鑑定士の求めた正常価格を基にしてその価額に評価基本通達の定める貸家建付地の減額を行った423,838,160円と算定し、本件更正処分をしていること。
(E)A土地の近隣には、次のとおり、A土地と同一用途地域に所在する売買実例が存在すること。
a 平成5年6月上旬に売買契約の締結されているP市A町7丁目に所在する宅地の譲渡価額は、1平方メートル当たり569,123円である。
 また、上記売買実例に適用される平成5年分の路線価は、1平方メートル当たり510,000円である。
b 平成5年4月中旬に売買契約の締結されているP市A町5丁目に所在する宅地の譲渡価額は、1平方メートル当たり504,812円である。
 また、上記売買実例に適用される平成5年分の路線価は、1平方メートル当たり400,000円である。
c 平成5年10月下旬に売買契約の締結されているP市A町5丁目に所在する宅地の譲渡価額は、1平方メートル当たり520,352円である。
 また、上記売買実例(以下、上記a、bの売買実例と併せ「A売買実例等」という。)に適用される平成5年分の路線価は、1平方メートル当たり460,000円であること。
(F)B土地の近隣には、次のとおり、B土地と同一用途地域に所在する売買実例が存在すること。
a 平成5年5月上旬に売買契約の締結されているP市D町5丁目に所在する宅地の譲渡価額は、1平方メートル当たり700,000円である。
 また、上記売買実例に適用される平成5年分の路線価は、1平方メートル当たり460,000円である。
b 平成5年6月下旬に売買契約の締結されているP市D町5丁目に所在する宅地の譲渡価額は、1平方メートル当たり652,277円である。
 また、上記売買実例(以下、上記aの売買実例と併せ「B売買実例等」という。)に適用される平成5年分の路線価は、1平方メートル当たり560,000円である。
(G)A土地と同一用途地域に所在し、地価公示法第6条の規定に基づき公示された標準地(以下「公示地」という。)は、P市A町7丁目1935番5(以下「A公示地」という。)にあること。
 そして、A公示地について公示された1平方メートル当たりの価格は、平成5年1月1日現在623,000円、平成6年1月1日現在530,000円で、A公示地の平成5年1月1日から平成6年1月1日までの間における地価下落率は14.9パーセントであること。
(H)B土地の近隣に所在する公示地は、P市B町4丁目899番2(以下「B公示地」という。)にあること。
 そして、B公示地について公示された1平方メートル当たりの価格は、平成5年1月1日現在612,000円、平成6年1月1日現在520,000円で、B公示地の平成5年1月1日から平成6年1月1日までの間の地価下落率は15.0パーセントであること。
(I)また、B土地と利用状況の類似している公示地は、P市C町1丁目593番6(以下「C公示地」という。)にあること。
 そして、C公示地について公示された1平方メートル当たりの価格は、平成5年1月1日現在1,100,000円、平成6年1月1日現在840,000円で、C公示地の平成5年1月1日から平成6年1月1日までの間の地価下落率は23.6パーセントであること。
C 以上の事実を総合勘案した場合、次のとおり判断される。
(A)A土地の評価について
 上記Bの(C)のとおり、原処分庁の依頼した不動産鑑定士の評価によれば、A土地の価額は、平成5年分の路線価に基づいて評価基本通達の定めに従い計算された本件更正処分の価額(以下「A評価額」という。)を上回っており、また、A土地の近隣に所在し、かつ、状況の類似しているA売買実例等の1平方メートル当たりの価格に、A公示地の公示価格から求めた時点修正率並びにA売買実例等で取引された宅地の相続税評価額との比率及びA土地の面積を乗じて算出したA土地の価額も、次表のとおり、A評価額を上回っている。
 したがって、A評価額292,262,698円が、相続税法第22条に規定する「時価」として適正なものであることは明らかである。

(B)B土地の評価について
 上記(A)と同様の方法によりB土地の近隣に所在し、かつ、状況の類似しているB売買実例等の価額からB土地の価額を算出すると、次表のとおりの金額となる。

 また、B公示地及びC公示地の価格からB土地の価額を算出すると、次表のとおりの金額となる。

 そして、このようにして求められたB土地の価額は、いずれもB土地に適用される平成5年分の路線価を上回っていることからB土地に適用される路線価も相続税法第22条に規定する時価として一定の合理性を有するものである。
 しかしながら、原処分庁が依頼し鑑定評価したB土地の評価額が、平成5年分の路線価をやや下回る価額となったことから、原処分庁は、B土地の価額の算定に当たり評価の安全性を考慮し、評価基本通達の定めにより難い特別な事情があると認められる場合に準じて、上記鑑定評価額を基に評価基本通達26《貸家建付地の評価》の定めを適用して算定した価額をB土地の本件更正処分の価額としたものである。
 したがって、このような過程を経て原処分庁が算定したB土地の価額が、相続税法第22条に規定する「時価」として適正なものであることも明らかである。
(ハ)出資の評価について
A 評価基本通達189―3《土地保有特定会社又は開業後3年未満の会社等の株式の評価》では、課税時期において開業後3年未満である非上場株式の価額を、評価基本通達185の本文の定めにより計算した1株当たりの純資産価額により評価することとしている。
 純資産価額方式とは、一般的に、会社が保有する資産の純資産価額(時価)から債務額を控除して株式の価額を算定する方式をいうが、評価基本通達に定める純資産価額方式とは、会社が保有する総資産を相続税評価額で洗替えした価額から債務額を控除し、更に法人税等相当額を控除して株式の価額を算定する評価方式である。
 そして、このように法人税等相当額として評価差額の51パーセント相当額を控除することとしている趣旨は、(a)相続税課税のための評価であること、(b)個人事業者が直接、事業用資産を所有する場合と非上場株式として間接的に事業用資産を保有する場合とではおのずと差があることなどを考慮した評価上のしんしゃくであると解されている。
B 原処分庁の調査によれば、次の事実が認められる。
(A)被相続人は、平成5年4月12日(以下「本件相続開始日」という。)に、81歳で死亡したこと。
(B)平成4年3月5日に被相続人は、会社設立資金としてZ株式会社(以下「Z社」という。)から700,000,000円を年利8パーセントで借り入れていること。
(C)Y社の商業登記簿謄本の記載によれば、同社は、有価証券の保有、運用、投資、不動産の売買、賃貸並びにその仲介及び管理を目的として、Eを代表取締役、被相続人及びMを取締役として資本金3,000,000円で、平成4年3月12日付で設立されたこと。
(D)被相続人は、Y社の設立に際し、同社の出資の全部(出資口数60口、1口当たりの払込金額10,000,000円、総額600,000,000円)を引き受け、平成4年3月11日にF銀行○○支店(以下「F銀行」という。)へ払い込んでいること。
(E)被相続人は、平成4年4月3日にG銀行から会社設立払込資金として2,000,000,000円の借入れを目的とする金銭消費貸借契約を締結し、G銀行は、被相続人に対し、(a)平成4年4月7日、(b)同月21日、(c)同年5月6日及び(d)同月20日に、それぞれ500,000,000円ずつ4回に分けて貸し付けていること。
(F)Y社は、平成4年4月10日から同年5月21日までの間に、各々5口(1口当たりの払込金額100,000,000円)ずつ4回にわたり増資を行い、そのすべてを被相続人が引き受け、同人は、(a)平成4年4月9日、(b)同月21日、(c)同年5月6日及び(d)同月20日に、それぞれ500,000,000円ずつをF銀行に払い込んでいること。
(G)X社の商業登記簿謄本の記載によれば、同社は、有価証券の保有、運用、投資、不動産の売買、賃貸並びにその仲介及び管理を目的として、Eを代表取締役、被相続人及びMを取締役、資本金20,000,000円をもって平成4年6月4日付で設立されたこと。
(H)X社の設立に際し、被相続人は、同社の出資(総出資口数400口)の全部を引き受け、Y社への全出資を現物出資することにより80口を取得し、残りの320口の対価として16,000,000円(1口当たりの払込金額50,000円)を平成4年6月2日にF銀行へ払い込んでいること。
(I)被相続人は、平成5年3月29日にY社から2,000,000,000円を借り入れ、G銀行の借入金2,000,000,000円を返済していること。
(J)被相続人は、平成5年3月30日にY社から679,000,000円を借り入れ、Z社からの借入金700,000,000円を返済していること。
(K)Y社とX社は、平成6年3月1日にY社を消滅会社、X社を存続会社として合併していること。
(L)X社の社員総会議事録によれば、X社は、平成6年4月1日に資本金を20,000,000円から4,000,000円(総出資口数400口から80口)に減資するとともに、被相続人からX社への出資及び債務を承継したMに対して2,092,800,000円(1口当たり6,540,000円)を払い戻していること。
 そのうえで、平成6年4月1日、X社のMに対する貸付金2,092,800,000円が返済されていること。
C X社への出資の評価について
 上記Bの事実に照らせば、被相続人は、独立した経済主体として企業活動を行うべきX社への出資に際して、同社の企業活動について基本財産とはなり難い取引相場のないY社の出資を著しく低い価額で現物出資したこととなり、この被相続人の行った一連の行為が、通常の経済取引と比較すると何ら経済的実態を伴わない不自然、不合理な行為であったことは明らかである。
 そのうえ、被相続人がY社の設立に際してZ社及びG銀行から借り入れた2,700,000,000円のほとんどがY社からの借入れによって返済されていること、そして、被相続人の相続開始後にX社がY社を吸収合併し、その後、X社が減資を行うことによって、被相続人からMが承継した借入金のうちの約2,100,000,000円が事実上相殺されていることからすれば、被相続人及びMの行ったこれらの一連の行為が極めて計画的なものであり、かつ、評価基本通達の定める純資産価額方式が法人税等相当額を控除することにしていることを利用して、現物出資により、恣意的に評価差額を生じさせることによって相続税の負担を軽減しようとする目的のためだけに行われた行為であったことは明らかである。
 そして、このように何ら経済的実態を伴わないものについてまで実態を伴うものと同様に取り扱うことは、かえって公平課税、公平負担を指向する租税法において不公平を生じさせることになり、このことはもとより租税法の予定せざるところというべきであるから、本件のような恣意的に創り出された評価差額に対応する部分については、法人税等相当額を控除しないこととすることが、むしろ租税法の趣旨に沿うこととなり相当である。
 したがって、X社への1口当たりの出資の価額は、次表に記載したとおり、評価基本通達186―2《評価差額に対する法人税額等に相当する金額》に定める法人税等相当額を控除せずに評価した6,562,677円となる。

(ニ)納付すべき税額について
 原処分庁の調査によれば、請求人らの課税価格及び納付すべき税額は、それぞれ次表のとおりであるから、この金額と同額でなされた本件更正処分は適法である。

(単位 円)
区分課税価格納付すべき税額
氏名
M1,452,188,000755,329,700
N43,311,00022,287,400
T126,558,00065,406,800
合計1,622,057,000843,023,900

ロ 本件過少申告加算税の賦課決定処分について
 請求人らは、上記(1)のロにおいて、仮に、X社への出資の評価に関して請求人らの主張が認められなかったとしても、評価基本通達の定めに従い申告したのであるから、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められる。」ものとして本件過少申告加算税の賦課決定処分は取り消されるべきである旨主張する。
 しかしながら、被相続人及び請求人らは、相続税の負担を軽減させるために、評価基本通達の予定しない状況を恣意的、意図的に創り出した上で同通達の定めを形式的、画一的に適用することによって、X社への出資の評価を圧縮しようとしたものであり、請求人らの主張する理由が通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められる。」場合に該当しないことは明らかである。
 したがって、上記イのとおり本件更正処分は適法であり、通則法第65条第1項及び第2項の規定に基づき行った、本件過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件更正処分の手続の不当性の存否、A土地及びB土地の価額の多寡、X社に係る出資の評価額の多寡並びに過少申告加算税を課さない正当な理由の有無であるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 本件更正処分の手続について
 請求人らは、申告納税制度の下において納税者の行った申告は一次的には尊重されるべきであるから、原処分庁は、請求人らの申告に関して何ら聴聞、理由の開示及び説明をせずに画一的に本件更正処分を行ったことは租税手続等を無視した不当なものである旨主張するので、以下審理する。
 当審判所の調査によっても、調査担当職員が本件更正処分を行う前に請求人らに対して聴聞の機会を設けたこと、本件鑑定評価書を採用できない理由の開示をしたこと及び原処分の価額の算定根拠を説明した事実の有無は確認できないが、更正処分を行うに当たってこれらのことをなすべき旨を定めた法令の規定はないから、これらのことがないことを理由として本件更正処分を不当であるということはできない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張は採用することができない。
ロ 土地の評価額について
(イ)請求人らの提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 請求人らは、A土地及びB土地の価額を本件鑑定評価書において算定された価額を基に、A土地の価額を226,800,000円(被相続人の持分100分の81)、また、B土地の価額を354,400,000円として本件相続に係る相続税の申告をしていること。
B 原処分庁は、A土地の価額を路線価に基づき算定した292,262,698円、また、B土地の価額にあっては、独自に依頼した不動産鑑定士が算定した536,500,000円を基に貸家建付地として評価した423,838,160円を本件相続に係る相続税の課税価格に算入すべき金額であるとしていること。
C A土地は、南西側が幅員6メートルの舗装市道、北西側が幅員5メートルの舗装市道に面し、間口(南西側)約26メートル、奥行約29メートルの角地で、都市計画法に規定する住居地域にあり、建ぺい率(建築基準法第53条《建築面積の敷地面積に対する割合》第1項第1号に規定する建築面積の敷地面積に対する割合をいう。以下同じ。)は60パーセント、容積率(建築基準法第52条《延べ面積の敷地面積に対する割合》第1項第1号に規定する延べ面積の敷地面積に対する割合をいう。以下同じ。)は、300パーセントであること。
 また、A土地上には、木造鋼板葺2階建の建物が存し、請求人らの居住の用に供されていること。
D B土地は、西側が幅員10メートルの舗装市道、南側が幅員10メートルの舗装市道に面し、間口(西側)約22メートル、奥行約31メートルの角地で、都市計画法に規定する近隣商業地域にあり、建ぺい率は80パーセント、容積率は300パーセントであること。
 なお、西側道路の境界線から20メートルを超える部分については、住居地域に指定され、その建ぺい率は60パーセントであること。
 また、B土地上には、鉄筋コンクリート造陸屋根5階建が存し、共同住宅として賃貸されていること。
E 本件鑑定評価書においては、次のとおり査定していること。
(A)A土地については、地積大であることから最有効使用地とするには細分化を要し、まず、転換後・造成後の想定更地価格を取引事例比較法の適用により求め、当該価格から造成費等の通常要する費用を控除して求めた価格を標準に決定していること。
a 取引事例比較法に当たり採用した取引事例地は、(a)P市A町6―24―8の土地(以下「イ事例地」という。)、(b)P市A町7―9―3の土地(以下「ロ事例地」という。)及び(c)P市A町8―8―24の土地(以下「ハ事例地」という。)であり、これら取引事例地の取引価額に、必要に応じ時点修正・標準化補正・地域格差補正等を行い求めた比準価格とA公示地から求めた規準価格とを比較し、A土地の1平方メートル当たりの価格を520,000円と査定していること。
b 次に、上記aの価格から、有効宅地化率を90パーセントと見込み、更には細分化に要する費用として、1平方メートル当たりの造成工事費3,000円、開発負担金1,000円、対投下資本収益160円、販売費及び一般管理費37,440円を控除し、その残額に係る投下資本収益率を8パーセントと見込んで、1平方メートル当たりの価格を394,000円とした上で、A土地の鑑定評価額を280,000,000円と査定していること。
(B)B土地については、まず、取引事例比較法の適用により地域内標準画地としての価格を求め、当該価格に個別要因に基づく個別格差修正及び建付減価を行った価格を算定し、当該算定価格から借家権割合を控除し、貸家及びその敷地の価格を査定していること。
a 取引事例比較法に当たり採用した取引事例地は、(a)P市C町2―33―8の土地(以下「ニ事例地」という。)、(b)P市D町6―34の土地(以下「ホ事例地」という。)及び(c)P市H町24―2の土地(以下「ヘ事例地」という。)であり、これら取引事例地の取引価額に、必要に応じ時点修正・標準化補正・地域格差補正等を行い求めた比準価格とB公示地及びC公示地から求めた規準価格とを比較し、B土地の1平方メートル当たりの価格を740,000円と査定していること。
b 次に、上記aで求められた地域内標準画地の更地価格から、個別格差修正をマイナス5ポイント(角地プラス5ポイント、地積過大マイナス10ポイント)、建付減価をマイナス6.5ポイントとして減価し、1平方メートル当たりの価格を657,000円とし、更には借家権割合を敷地価格(建付地)の20パーセントとみた上で、B土地の鑑定評価額を354,000,000円と査定していること。
F 当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(A)イ事例地は、北側が幅員3メートルの市道に面し、間口約5メートル、奥行約11メートルの中間画地であること。
(B)ロ事例地は、北側が幅員3メートルの私道に面し、間口約7.5メートル、奥行約23.5メートルの中間画地であること。
(C)A公示地は、南側が幅員3.5メートルの市道に面し、間口約10メートル、奥行約16メートルの中間画地であること。
(D)C公示地は、北東側で幅員25メートルの県道に面し、間口約10メートル、奥行約12メートルの中間画地であること。
(ロ)請求人らは、A土地及びB土地の価額は、本件鑑定評価書において算定した価額によるべきである旨主張するので検討したところ、次のとおりである。
A 相続税法第22条は、相続により取得した財産の価額は、特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨を規定しており、この時価とは、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、客観的な交換価値を示す価額をいうものと解される。
 しかし、相続税の課税対象となる財産は多種多様であり、(a)各種財産の時価を客観的、かつ、適正に把握することは必ずしも容易でないこと及び(b)納税者間で評価が区々になることは課税の公平の観点からみて好ましいことではないことから、課税庁における事務の統一性を図ることなどのため、課税庁は、評価基本通達を定め、各種財産の時価の評価に関する原則及びその具体的評価方法を明らかにし、さらに、土地の価額については具体的に路線価等を定めて、部内職員に示達するとともに、これを公開することによって納税者の申告及び納税の便に供していることが認められる。
 しかしながら、通達は、上級行政庁の下級行政庁に対する命令であって、法規たる性質を有さず、それ自体は納税者を拘束するものではなく、納税者は通達に示されている行政庁の解釈に当然に従わなければならないものではないことから、相続財産である土地の価額が路線価を下回ることが証明されれば、路線価を適用しなくてもよいことはいうまでもない。
B そこで、本件鑑定評価書の内容について検討すると、次のとおりである。
(A)A土地については、上記(イ)のEの(A)のとおり、地積が大であるとして、同(A)のbのとおり、有効宅地化率を90パーセントとし、さらに、土地の細分化費用として14パーセント強の減価をしているが、造成計画書や収支内訳書等もないことから、その細分化費用の妥当性を判断することができない。
 また、取引事例比較法の適用に当たって採用した各事例地の比準価格の算定及び公示地の規準価格の算定において、次のとおり、その標準化補正等に問題が認められる。
a イ事例地は、上記(イ)のFの(A)のとおり、北側が幅員3メートルの市道に面し、間口約5メートル、奥行約11メートルであり、その近隣地域における標準画地(間口8メートル、奥行12.5メートル)に比較して地積がやや小さく、間口が狭小であること及び建築基準法第42条《道路の定義》第2項の規定により道路とみなされ再建築の際には後退を要する部分(以下「セットバック」という。)があるにもかかわらず、その補正がされていない。
b ロ事例地は、上記(イ)のFの(B)のとおり、北側が幅員3メートルの私道に面し、セットバック部分についての補正を要すると認められるが、その補正がされていない。
c ハ事例地は、建物付宅地の売買であり、土地に係る価額が不明であることから、A土地の比準価格算定のための比準対象地としては不適切なものと認められる。
d A公示地は、上記(イ)のFの(C)のとおり、南側が幅員3.5メートルの市道に面し、セットバック部分についての補正を要すると認められるが、その補正がされていない。
(B)B土地については、上記(イ)のEの(B)のとおり、取引事例比較法の適用により算定した地域内標準画地としての価格から建付減価を行い、更に借家権割合を控除しているが、本件鑑定評価書における減価割合は、その根拠が不明であり、また、西側接面道路から20メートルを超える部分の容積率が300パーセント(20メートル以内は400パーセント)とされていることの補正を要すると認められるが、その補正がされていないといった問題点が認められること。
 また、取引事例比較法の適用に当たって採用した各事例地の比準価格の算定及び各公示地の規準価格の算定において、次のとおり、問題点が認められる。
a ニ事例地は、都市計画法第8条《地域地区》に規定する住居地域であり、B土地の近隣商業地域とは異なっていることから、B土地の比準価格算定のための比準対象地としては不適切なものと認められる。
b ホ事例地は、その護受人が従前から当該土地を使用していた借地権者であることから、いわゆる底地部分の売買であり、B土地の比準価格算定のための比準対象地としては不適切なものと認められる。
c ヘ事例地については、B土地との地域的な隔たりが大きく経済圏も異なることから、比準の対象地としての適性を欠くものと認められる。
d B公示地は、都市計画法第8条に規定する住居地域であり、近隣商業地域に所在するB土地とではその用途地域を異にすることから、B土地の比準価格算定のための規準対象地としては不適切なものと認められる。
e C公示地は、上記(イ)のFの(D)のとおり、北東側で幅員25メートルの県道に面し、間口約10メートル、奥行約12メートルであり、C公示地の近隣地域における標準的画地(間口10メートル、奥行20メートル)に比して奥行がやや短く、地積がやや小さいと認められるから、画地条件についての標準化補正を要する。
(ハ)原処分庁は、A土地及びB土地に係る価額は、上記2の(2)のイの(ロ)のCの(A)及び(B)によるべき旨主張するので検討したところ、次のとおりである。
A 原処分庁は、上記2の(2)のイの(ロ)のCの(A)及び(B)のとおり、近隣の売買実例地に係る価額に時点修正をした価額と、当該各売買実例地に付された平成5年分の路線価をもって算定した価額とを対比した割合を求め、A土地及びB土地の平成5年分の路線価を基として算定したそれぞれの価額に当該割合を乗じた価額をもって、A土地及びB土地の相続税評価額が時価を下回っていることの検証をしている。
 この方法では、時価を算定したということはできないから、A土地及びB土地の時価が相続税評価額を下回らないことを証明したということにはならない。
B また、原処分庁は、独自に依頼した不動産鑑定士の評価額をもって時価として適正なものであるとしているが、原処分庁から提出された不動産鑑定評価書の写しは、その鑑定を行った不動産鑑定士の氏名が明らかにされていないことから、これを証拠資料として採用することはできない。
(ニ)そこで、当審判所においてA土地及びB土地の本件相続開始日における価額について、A土地及びB土地の近隣の売買実例及び公示価格を基に土地価格比準表(昭和50年1月20日付国土地第4号国土庁土地局地価調査課長通達「国土利用計画法の施行に伴う土地価格の評定等について」)の地域格差及び個別格差の補正率を適用してその補正を行い、A土地及びB土地の価額を算定すると、以下のとおりである。
A A土地について
(A)A土地の標準的画地価格を次の取引事例比較法に基づく比準価格とA公示地を規準とした規準価格との平均値をもって、1平方メートル当たり、649,406円と算定した。
a 取引事例比較法に基づく比準価格
 A土地の近隣地域及び同一需給圏内の類似地域内の取引事例の中から適切と認められる2件の事例を抽出し、これらの取引価額を基に、必要に応じて土地価格比準表に照らしてその事情補正、時点修正及び標準化補正を施して比準した価格は、別表1のとおりであり、これらの平均値は、1平方メートル当たり702,390円となる。
b 公示地を規準とした価格
 A土地の同一需給圏内の類似地域内に所在するA公示地の価格を対象として、土地価格比準表に照らして規準した価格は、別表1のとおり1平方メートル当たり596,423円となる。
(B)A土地に係る標準的画地とA土地とを比較した個別的要因の格差率等は、別表4のとおりであり、当該格差率を上記(A)のA土地に係る標準的画地価格に乗じて算定した価格に、A土地の地積を乗じた価額は、約448,950,000円となる。
 なお、A土地のうち被相続人の持分100分の81を乗じて算定した価額は、約363,649,500円となる。
B B土地について
(A)B土地の標準的画地価格は、次の取引事例比較法に基づく比準価格とC公示地を規準とした規準価格との平均値をもって、1平方メートル当たり844,464円と算定した。
a 取引事例比較法に基づく比準価格
 当審判所においてB土地と同一用途地域内に所在する取引事例の中から適切な事例としてP市D町5―5―9の土地(平成5年8月25日売買、1平方メートル当たりの取引価額941,000円、△△駅東方500メートル、北側9メートル市道に接面、建ぺい率80パーセント、容積率400パーセント、ただし、一部住居地域に属し当該住居地域部分の容積率は300パーセントのもの。以下「甲事例地」という。)及びP市C町3―21―13の土地(平成5年8月26日売買、1平方メートル当たりの取引価額726,000円、△△駅北東方1,400メートル、南西側25メートル県道、東側7メートル市道に接面、建ぺい率80パーセント、容積率400パーセント、ただし、一部住居地域に属し当該住居地域部分の建ぺい率は60パーセント、容積率は200パーセントのもの。以下「乙事例地」という。)を選定し、これら2件の取引価額を基に、必要に応じて土地価格比準表に照らしその事情補正、時点修正及び標準化補正を施して比準した結果は、別表2のとおりであり、その平均値をとって1平方メートル当たりの価額を807,169円と算定した。
b 公示地を規準とした価格
 B土地と同一需給圏内の類似地域内に所在するC公示地の価格を対象として、土地価格比準表に照らして規準した価格は、別表2のとおり1平方メートル当たり881,759円と算定した。
(B)B土地に係る標準的画地とB土地とを比較した個別的要因の格差率等は、別表4のとおりであり、当該格差率を上記(A)のB土地に係る標準的画地価格に乗じて算定した価格にB土地の地積を乗じた価額は、約545,260,000円となる。
 なお、B土地は貸家建付地であることから、その自用地であるものとした場合における価額から借家人の有する権利に相当する割合(0.7×0.3)を控除して評価するとB土地に係る価額は、約430,750,000円となる。
(ホ)以上のとおり、本件相続開始日におけるA土地及びB土地の価額は、A土地が約363,649,500円、B土地が約430,750,000円と認められるところ、本件更正処分における価額は、A土地が292,262,698円、B土地が423,838,160円で、いずれも当審判所が算定した価額を下回ることから、本件更正処分に違法は認められない。
ハ 出資の評価について
(イ)原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 被相続人は、Z社から、平成4年3月5日に(a)当初利率を8パーセント、(b)返済期限を平成6年3月31日、(c)使途を会社設立資金及び(d)連帯保証人をM及びEとする条件で、700,000,000円を借り入れていること。
なお、当該借入金については、平成5年3月31日に繰上返済していること。
B Z社の貸付りん議書によれば、融資申込理由は、相続対策による会社設立資金のためであり、貸付条件として、(a)債務者が死亡して期限前弁済発生の場合はペナルティを免除する、(b)期間途中に債務者名義変更を予定及び(c)融資実行に当たり公正証書を作成するとなっていること。
C 被相続人は、Y社への出資(出資口数60口、1口当たりの払込金額10,000,000円、総額600,000,000円)の全部を引き受け、平成4年3月11日にF銀行へ600,000,000円を払い込んでいること。
D Y社の商業登記簿謄本によれば、同社は、平成4年3月12日に、(a)有価証券の保有、運用、投資、(b)不動産の売買、賃貸及びその仲介並びに管理並びに(c)上記(a)及び(b)に付帯する一切の事業を目的として設立され、資本金を3,000,000円、本店所在地をP市A町7丁目40番2号、代表取締役をE、取締役を被相続人及びMとしていること。
E G銀行は、平成4年4月3日付で、被相続人を債務者、M、E及びY社を連帯保証人とした金銭消費貸借契約を締結し、被相続人に総額2,000,000,000円を貸し付けるとしていること。
 また、その貸付けは、(a)平成4年4月7日、(b)同月21日、(c)同年5月6日及び(d)同月20日の4回にわたり、いずれも500,000,000円ずつを支払う方法で実行されていること。
F Y社は、「資本増加の件」に係る社員総会を開催して増資を行い、その出資のすべてを被相続人が引き受け、同人は、次表に掲げる引受金額をF銀行に払い込んでいること。
払込期日      増加口数 増加資本金額 左の引受金額
平成4年4月9日  5口   25万円   5億円
平成4年4月21日 5口   25万円   5億円
平成4年5月6日  5口   25万円   5億円
平成4年5月20日 5口   25万円   5億円
G 被相続人は、X社への出資(出資口数400口、1口当たり50,000円、総額20,000,000円)の全部を引き受け、そのうち80口分はY社への出資証券80口で、残りの320口分については、平成4年6月2日にF銀行に払い込む方法で出資をしていること。
H X社の商業登記簿謄本によれば、同社は、平成4年6月4日に、(a)有価証券の保有、運用、投資、(b)不動産の売買、賃貸及びその仲介並びに管理並びに(c)上記(a)及び(b)に付帯する一切の事業を目的として設立され、資本金を20,000,000円、本店所在地をP市A町7丁目40番2号、代表取締役をE、取締役を被相続人及びMとしていること。
I X社の定款によれば、同社は、設立時のY社への出資証券80口の受入価格を4,000,000円としていること。
(ロ)ところで、相続税法第22条は、相続により取得した財産の価額は、特別に定める場合を除き、その財産の取得の時における時価によるべき旨を規定しており、その時価とは、課税時期におけるその財産の現況に応じ不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち客観的な交換価値を示す価額であると解されている。
 しかしながら、客観的な交換価値を示す価額というものが、必ずしも一義的に確定されるものではないことから、課税実務上は、財産評価の一般的基準としての評価基本通達により画一的な評価方法によって相続により取得した財産を評価していることが認められる。
 これは、財産の客観的な交換価値を示す価額を個別に評価する方法を採ると、その評価方式、基礎資料の選択の仕方等により異なった評価額が生じることが避け難く、また、課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあることなどから、あらかじめ定められた評価方法によりこれを画一的に評価する方が、納税者間の公平、納税者の便宜という見地からみて合理的であるという理由に基づくものと解される。
 そうすると、租税平等主義という観点からは、評価基本通達に定められた評価方法を画一的にすべての納税者に適用することが望ましいとしても、他方、同通達に定められた評価方法によるべきであるとする趣旨が上記の理由によるものであることからすると、その評価方法を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって、かえって実質的な租税負担の公平を著しく損なうことが明らかであるなどの特別の事情がある場合には、他の合理的な評価方法によることができるものと解すべきであり、このことは、評価基本通達6《この通達の定めにより難い場合の評価》において「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」と定められていることからも明らかなものというべきである。
(ハ)上記(イ)の事実を上記(ロ)に照らして判断すると、次のとおりである。
A 請求人らは、X社への出資の評価額は法人税等相当額を控除して求めた金額で評価すべきである旨主張するので、以下審理する。
(A)被相続人は、上記(イ)のCのとおり本件相続開始日の約1年1か月前に600,000,000円を出資して、上記(イ)のDのとおりY社を設立し、その後、上記(イ)のFのとおり2,000,000,000円を追加出資して取得した同社への出資80口のすべてを、上記(イ)のHのとおり、その後間もなく設立したX社に上記(イ)のGのとおり現物出資しているが、その出資当時、Y社は設立後間もないことから、設立後その保有資産の大きな変動も認められず、同社への出資80口の価額は、設立時と同様2,600,000,000円相当と認められるところ、上記(イ)のIのとおり、X社は、Y社への出資を4,000,000円という時価より著しく低い価額で受け入れている。
(B)上記(A)の現物出資によって被相続人が取得したX社への出資400口を、同社の設立直後の時点において、評価基本通達に定められた純資産価額方式により評価すると、現物出資されたY社への出資の価額は時価と帳簿価額との間に大きな開差(評価差額)が生じる。
 この開差は、被相続人がX社を設立した際、現物出資したY社への出資の価額が上記(A)のとおり2,600,000,000円相当であると認められるにもかかわらず、X社がその価額の650分の1相当の価額でこの現物出資を受け入れたために生じるものである。
(C)上記(A)のことから、被相続人が行ったY社への出資によるX社への現物出資は、これを資産として運用し、収益を得る目的で保有するために行われたとは認め難く、上記(B)及び(イ)のBのことから、X社への出資についての評価を評価基本通達に定められた法人税等相当額の控除を行う純資産価額方式で行うことにより、借入金とY社への出資の評価額との差額に相当する課税価格が圧縮されることに着目し、本件相続に係る相続税の負担の軽減を図るという目的で行われたものであることが容易に推認される。
 具体的には、X社に対する出資を評価基本通達に基づき法人税等相当額を控除して評価した1,300,718,000円(1口当たり3,251,795円)として相続財産に計上し、その取得資金である借入金2,600,000,000円を債務として計上すると、当該債務のうちX社に対する出資の評価額から控除しきれない債務の約1,300,000,000円が他の相続財産の価額から控除されることとなり、その結果として、この借入金やX社に対する出資をしなかった場合に比べて課税価格が約1,300,000,000円圧縮されることとなり、被相続人の所有財産の価値にほとんど変動がないと認められるにもかかわらず、X社への出資に係る一連の行為により、多額の相続税の負担が軽減させる結果となる。
(D)このように恣意的に作り出されたと認められる評価差額について法人税等相当額を控除することを容認することは、富の再分配機能を通じて経済的平等を実現するという相続税の目的に反し、実質的な租税負担の公平を著しく損なうこととなり、このような揚合は、評価基本通達によらないことが相当と認められる特別な事情がある場合に該当すると解すべきである。
 したがって、X社への出資に係る評価額を法人税等相当額を控除して算定すべきであるとする請求人らの主張は、採用することができない。
B 請求人らは、原処分庁がそ及課税を行っており、これは、法的安定性及び予測可能性を否定し、また、公平課税に反する旨主張するので、以下審理する。
 評価基本通達は、主として国税債権確定の便宜から、通達に服する主務官庁のみならず、納税者の申告に当たっても広く課税価格の計算方法として認識されているところから、その適用に当たっては、法的安定性や予測可能性に考慮を払わねばならない面があるとしても、上記(ロ)のとおり、評価基本通達の評価方法を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことで、かえって実質的な租税負担の公平を著しく損なうことが明らかであるなどのような特別な事情が認められる場合には、他の合理的な評価方法によることができるものと解すべきである。
 上記(ロ)のとおり、改正評価基本通達が定められる以前においても、相続財産の評価について、評価基本通達によらないことが相当であると認められるような特別の事情がある場合には、他の合理的な評価方法によることが相続税法第22条の規定の下で許されていたものと解すべきであり、改正評価基本通達は、従前からの取扱いを確認し明らかにしたものと解するのが相当である。
 したがって、原処分庁がその課税を行ったとは認められず、請求人らの場合、上記Aのとおり、評価基本通達の評価方法によらないことが相当と認められる特別な事情があると解されるので、原処分庁がX社への出資の評価において法人税等相当額を控除しなかったとしても、これを公平課税に反するものということはできないから、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
C 請求人らは、被相続人が所有する不動産の受皿会社としてのX社を、また、換金の容易な有価証券を運用する会社としてY社を設立して、被相続人の財産を一元的に管理することで収益の確保を図り、その結果として、Y社は、特定金外信託の運用益を中心に46,000,000円余りの課税所得を申告し、また、X社は、所有不動産の家賃等の収入を得ているから、両社は経済的実態を備えており、原処分庁は、これらの企業活動を誤認している旨主張するので、以下審理する。
 上記Aの(C)のとおり、被相続人及び請求人らがY社とX社の2社の法人を設立する形態を選択したのは、本件相続に係る相続税の負担の軽減を図る目的にあったと推認され、たとえ両社が経済的実態を備えていたとしても、このような恣意的に租税負担の軽減を図るような租税負担の公平を欠く行為に該当するものまでも評価基本通達による法人税等相当額の控除を機械的に適用してX社への出資の価額を評価するのは適切でないというべきであり、この点に関する請求人らの主張は採用することができない。
ニ 評価基本通達の適用について
 請求人らは、原処分庁は土地の評価においては評価基本通達を適用していながら、X社への出資の評価においては評価基本通達の適用を認めないといった矛盾があり、到底納得できない旨主張するので、以下審理する。
 上記ハの(ロ)のとおり、評価基本通達に定められた評価方法を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって、かえって実質的な租税負担の公平を著しく損なうことが明らかであるなどの特別の事情がある場合には、他の合理的な評価方法によることができるものと解すべきであるから、原処分庁が行った本件更正処分のうちに、評価基本通達を適用したものと適用していないものとがあったとしても、その評価基本通達を適用しないことについては、特別な事情があるためにほかならないと認められ、そのような事情を考慮すれば、これはやむを得ないものと考えられるから、この点に関する請求人らの主張は採用することができない。
ホ 以上のとおり、原処分庁が算定した本件相続に係る相続税の課税価格に算入するA土地及びB土地の評価額並びにX社に対する出資の評価額については、いずれも違法な点は認められないことから、本件更正処分は適法である。

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(2)本件過少申告加算税の賦課決定処分について

イ 通則法第65条第4項にいう「正当な理由」に当たる事由としては、申告した税額に不足が生じたことについて、納税者が通常な状態においてその事実を知ることができなかった場合や納税者の責めに帰せられない外的事情による場合等が考えられるところ、具体的には、(a)税法の解釈に関して、申告当時に公表されていた公的見解がその後改変されたため、修正申告をし又は更正処分を受けるに至った場合、(b)災害又は盗難等に関し、申告当時に損失とすることを相当としたものが、その後予期しなかった保険金、損害賠償金等の支払を受け又は盗難品の返還を受けた等のため、修正申告をし又は更正処分を受けるに至った場合、(c)その他真にやむを得ない事由が認められる場合等が該当するものと解されている。
ロ 本件更正処分は、上記(1)のとおり、申告の誤りを是正したものであって、当初適正であった申告につきその後の事情の変化により税額等が過少になったことによりされたものでないことは明らかである。
 また、申告は請求人らの責任においてされたものであり、かつ、請求人らには過少申告となったことについて上記イに述べたような正当な理由があるとは認められない。
 したがって、原処分庁が通則法第65条第1項及び第2項の規定に基づいて行った本件過少申告加算税の賦課決定処分は、適法である。

(3)重加算税の賦課決定処分について

 Mに対して原処分庁が平成7年6月30日付でした重加算税の賦課決定処分については、通則法第77条《不服申立期間》第1項に規定する不服申立期間内に異議申立てがされていないことから、重加算税の賦課決定処分に係る審査請求については、異議申立てについての決定を経た後のものではなく、また、通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立》第4項に規定する異議申立てをしないで審査請求をすることができる場合にも該当しない。
 さらに、N及びTについては、審査請求の対象となる重加算税の賦課決定処分は存在しない。
 したがって、請求人らの重加算税の賦課決定処分に係る審査請求は、不適法なものである。

(4)その他

 原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこをを不相当とする理由は認められない。

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