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(平9.4.25裁決、裁決事例集No.53 525頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成8年3月27日、売買により取得したP市R町5番359に所在する24,100平方メートルの山林(以下「本件土地」という。)の所有権移転登記申請(以下「本件登記申請」という。)に当たり、登記申請書(以下「本件登記申請書」という。)に登録免許税の課税標準の額を942,859,000円、登録免許税の額を47,142,900円と記載して、その税額に相当する金額の印紙を貼付の上、これを○○地方法務局△△出張所へ提出することにより、登録免許税を納付した。
 その後、請求人は、平成8年4月24日に原処分庁に対して、登録免許税の還付通知請求書に本件土地に係る課税標準の額を570,948,000円、登録免許税の額を28,547,400円と記載し、先に納付した税額との差額18,595,500円につき所轄税務署長に対し還付通知をすべき旨の請求(以下「本件還付通知請求」という。)をしたところ、原処分庁は、同年5月10日付で、本件還付通知請求に対して、還付の通知をすべき理由がない旨の通知処分をした。
 請求人は、この処分を不服として、平成8年7月4日に審査請求をした。

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2 主張

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(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 登録免許税法第10条《不動産等の価額》第1項では、課税標準たる不動産の価額は、登記の時における不動産の価額による旨規定されており、本件の場合、課税標準たる不動産の価額は、本件土地及び本件土地に隣接するQ市S町に所在する公簿面積731.43平方メートルの土地(以下「Q市の土地」といい、これらを併せて「本件土地等」という。)の売買価額の総額1,470,000,000円に本件土地等に占める本件土地の公簿面積割合97.1パーセントを乗じた額(以下「本件売買価額」という。)1,427,370,000円とすべきである。
 原処分庁が認定した課税標準たる不動産の価額は、平成7年度における本件土地の合筆前の各土地に係る地方税法第341条《固定資産税に関する用語の意義》第9号に規定する固定資産課税台帳(以下「課税台帳」という。)に登録された価格(以下「台帳価格」という。)を基礎として算定した1平方メートル当たりの価格97,807円に本件土地の公簿面積24,100平方メートルを乗じた額(以下「台帳価格相当額」という。)、2,357,148,700円であるが、本件売買価額とかけ離れ不相当に高額であるから、これを基礎として登録免許税の額を算出し納付したことは、登録免許税法第10条の趣旨に反することになる。
 その理由としては、(a)近年の地価動向が一般的に下落方向にあることは周知の事実であり、上記のように、台帳価格相当額の方が本件売買価額よりも高いという逆転現象が生じていること及び(b)登録免許税法は、自ら課税標準たる不動産の価額を持たず、当分の間、台帳価格を基礎として算定した価額によることができるとしているが、例えば、本件土地の台帳価格と本件土地に隣接するQ市の土地の台帳価格との間に相当な格差が生じている状況にあることからも、台帳価格ではなく、本件売買価額を基礎として算定すべきである。
ロ 本件土地等の売買価額は、売主と買主との自由な意思に基づき成立した金額であって正に時価というべきものであるから、本件売買価額(実勢額)という適正な価額を基礎として算定した額570,948,000円を本件土地の課税標準たる不動産の価額とすべきである。
ハ 租税特別措置法(以下「措置法」という。)第84条の3(平成8年法律第17号による改正前のもの。以下同じ。)《不動産登記に係る不動産価額の特例》及び措置法附則(平成6年法律第22号附則で平成7年法律第55号による改正後のものをいう。以下同じ。)第24条《登録免許税の特例に関する経過措置》第9項には、不動産登記に係る不動産価額の特例規定及び登録免許税の特例に関する経過措置が設けられており、これらの規定によれば、登録免許税の課税標準の額は、本件の場合、台帳価格相当額に100分の40を乗じて計算することになるが、税負担の公平という観点に立てば、実際の不動産の価額である本件売買価額に100分の40を乗じて課税標準の額を計算することに何ら不合理な点はなく、むしろそのようにすべきである。
ニ そうすると、本件登記申請に係る登録免許税の課税標準の額は、本件売買価額1,427,370,000円に100分の40を乗じた額570,948,000円、税額は、当該課税標準の額に1,000分の50の税率を乗じた額28,547,400円とすべきである。
 したがって、先に納付した税額47,142,900円と上記税額28,547,400円との差額18,595,500円は、過大に納付したことになるから、還付されるべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 登録免許税は、登記等を受けるためにその申請時に納付されるものであって、登録免許税法により、登記の事項ごとにそれぞれ課税標準及び税率が定められている。
 登録免許税法別表第1の第1号に掲げる不動産の登記における課税標準は、同法第10条第1項において当該登記の時における不動産の価額による旨規定されており、この不動産の価額は、当該不動産の客観的な交換価値を表す価額すなわち時価と解されているが、登記事務処理の過程でこの時価を認定することは納税者の便宜及び登記所における登記事務の円滑な執行といった点で相当問題がある。
 そこで、登録免許税法附則第7条《不動産登記に係る不動産価額の特例》において、当分の間、台帳価格を基礎として政令で定める価額によることができる旨規定され、さらに、措置法第84条の3において、平成6年4月1日から平成9年3月31日までの間に受ける登録免許税法別表第1の第1号に掲げる不動産の登記(土地に関する登記に限る。)に係る同法第10条第1項の課税標準たる不動産の価額は、当該登記の申請の日の属する年の前年12月31日現在又は当該申請の日の属する年の1月1日現在における台帳価格を基礎として、政令で定める価格に100分の50を乗じて計算した金額とする旨規定されており、加えて、措置法附則第24条第9項により、平成6年4月1日から平成8年3月31日までの間に登記を受ける場合については乗じる割合を100分の40にする旨規定されている。
 また、台帳価格のない不動産については、措置法施行令第44条の6《不動産登記に係る不動産価額の特例》第1項の規定により、当該不動産の登記の申請の日において当該不動産に類似する不動産でその年の前年12月31日現在又はその年の1月1日現在において台帳価格のあるものを基礎として登記官が認定した価格によるものとされている。
ロ ところで、本件登記申請は、請求人が平成8年3月27日の売買により本件土地の所有権を取得したとして、同日その登記を完了したものであるが、本件土地は、売主であるT株式会社(以下「T社」という。)が平成8年3月22日にP市R町6番の24、同番の25及び同番の79を同所5番の7に合筆し、さらに、この5番の7の土地を5番の359、同番の360及び同番の361に分筆登記をすることによって新しく地番が付された土地である。したがって、本件登記申請の時点において、本件土地に係る台帳価格が存しないことから、請求人は、自ら分筆登記前の同所5番の7、同所6番の24、同所6番の25及び同所6番の79の各土地の固定資産課税評価証明書(以下「評価証明書」という。)に記載されている平成7年度の台帳価格を基礎として当該土地の1平方メートル当たりの価格を97,807円と算出し、この価格に本件土地の公簿面積を乗じて算出した額を基礎として課税標準の額を算定し登録免許税法所定の税額を印紙で納付し、評価証明書を添付して申請したものである。
ハ そこで、登記官は、本件登記申請書に記載された課税標準の額及び登録免許税の額を登録免許税法等の国税に関する法律の規定に照らして調査したところ、本件土地は台帳価格のない不動産であったため、登記官において課税標準たる不動産の価額を認定することとした。その際、請求人から登記官に対し本件土地について特別の事情がある旨の申出もなく、かつ、登記官においても他の認定方法によるべき特段の事情も存しないことから、分筆登記前の各土地の台帳価格を基礎とするのが相当であると判断し、本件登記申請書に添付されていた評価証明書に記載されている平成7年度の台帳価格から、本件土地の1平方メートル当たりの価格を97,807円と算出して、この価格に本件土地の公簿面積24,100平方メートルを乗じ、さらに、100分の40を乗じて算定した額942,859,000円を課税標準たる不動産の価額と認定した上、登記を完了したものである。
ニ 請求人は、本件売買価額(実勢額)を基礎として課税標準の額を算定すべきであると主張するが、課税標準の額は、前記イで述べたとおり、台帳価格を基礎として政令で定める価額によることができるから上記ハのとおり認定したものである。仮に、請求人が主張する本件売買価額を基礎として課税標準の額を算定した場合には、措置法等に定めるいわゆる負担調整措置は加味されないため、本件登記申請における課税標準の額は原処分庁が認定した額を上回ることになるから、当該金額を考慮にいれる余地は存しない。
 したがって、本件審査請求は、登録免許税法第31条《過誤納金の還付等》第1項第3号にいう「過大に登録免許税を納付して登記等を受けたとき」に該当しないので、登記機関から過誤納金としての還付について、所轄税務署長へ通知すべき理由はない。

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3 判断

 本件審査請求においては、本件登記申請に係る登録免許税の課税標準の額及び登録免許税の額に争いがあるので、審理したところ、次のとおりである。
(1)次のことについては、請求人及び原処分庁の間に争いはなく、当審判所が調査したところによってもその事実が認められる。
イ 請求人は、本件土地について、平成8年3月27日に不動産価格2,357,148,700円(1平方メートル当たりの単価97,807円、面積24,100平方メートル)、課税価格942,859,000円及び登録免許税47,142,900円と記載した本件登記申請書を原処分庁に提出し、本件登記申請に係る登録免許税47,142,900円を納付していること。
ロ 本件登記申請書が提出された平成8年3月27日現在において、P市が備え付けている課税台帳には、本件土地の価格は登録されていないこと。
ハ 原処分庁が認定した不動産の価額及び課税標準の額は、本件登記申請書に記載されている不動産価格及び課税価格といずれも同額であること。
ニ 請求人は、原処分庁に対して、本件土地について特別の事情がある旨の申出をしていないこと。
(2)請求人提出資料及び原処分関係資料を基に当審判所で調査したところ、次の事実が認められる。
イ 平成8年2月23日付で請求人とT社との間で締結された本件土地等に係る不動産売買契約書には、本件土地等の売買金額の総額は1,470,000,000円と記載されていること。
ロ 本件土地は、売主であるT社が、平成8年3月22日にP市R町6番の24,同番の25及び同番の79を同所5番の7に合筆し、さらに、この5番の7の土地を5番の359、同番の360及び同番の361に分筆登記をすることによって、新しく地番が付された土地であること。
ハ 請求人は、本件土地は台帳価格のない不動産であることから、本件登記申請に当たり、分筆登記前のP市R町5番の7、同所6番の24、同番の25及び同番の79の各土地の評価証明書に記載されている平成7年度の台帳価格を基礎として本件土地の1平方メートル当たりの価格を97,807円と算出し、この価格に本件土地の公簿面積24,100平方メートルを乗じた額に更に100分の40を乗じて本件土地の課税標準の額を942,859,000円と算出したこと。
 なお、原処分庁においても、請求人と同様の方法により請求人が算出した額と同額を本件土地の課税標準の額と認定したこと。
(3)不動産の登記の場合における登録免許税の課税標準としての不動産の価額は、登録免許税法第10条第1項により、当該登記の時における不動産の価額による旨規定されている。そして、この不動産の価額については、納税者の便宜及び登記所における登記事務の円滑な執行といった点を考慮し、登録免許税法附則第7条において、同法第10条第1項の課税標準たる不動産の価額は、当分の間、当該登記の申請の日の属する年の前年12月31日現在又は当該申請の日の属する年の1月1日現在における台帳価格を基礎として政令で定める価額によることができる旨規定されている。
 ただし、登記の対象となる不動産が土地の場合、措置法第84条の3の規定により、平成6年4月1日から平成9年3月31日までの間に受ける登録免許税法別表第1の第1号に掲げる不動産の登記に係る同法第10条第1項の課税標準たる不動産の価額は、同法附則第7条の規定にかかわらず、当該登記の申請の日の属する年の前年12月31日現在又は当該申請の日の属する年の1月1日現在における台帳価格を基礎として政令で定める価額に100分の50を乗じて計算した金額とする旨規定されており、その政令で定める価額については、措置法施行令第44条の6第1項の規定により、台帳価格のある不動産については、当該不動産の登記の申請の日の属する日の区分に応じた台帳価格に相当する価額とし、台帳価格のない不動産については、当該不動産の登記の申請の日において当該不動産に類似する不動産の台帳価格を基礎として当該登記に係る登記官が認定した価額とする旨規定されている。
 なお、措置法第84条の3の規定の適用がある場合において、登記官が当該登記の目的となる不動産について損壊、地目の交換その他これらに類する特別の事情があるため前項に規定する価額によることを適当でないと認めるときは、同法施行令第44条の6第2項の規定により、当該不動産の価額は、台帳価格を基礎として当該事情を考慮して当該登記官が認定した価額とする旨規定されている。さらに、同法第84条の3に規定する不動産の登記が平成6年4月1日から平成8年3月31日までの間に受けるものである場合については、同法附則第24条第9項の規定により、同条中「100分の50」とあるのは「100分の40」として、同条の規定を適用する旨規定されている。
(4)上記(1)及び(2)の事実並びに上記(3)の規定等を基に、本件登記申請に係る登録免許税の課税標準の額及び登録免許税の額について判断すると、次のとおりである。
イ 請求人は、実際の不動産の価額とかけ離れた不相当な高額な台帳価格相当額を基礎として登録免許税の額を算出し納付したことは登録免許税法第10条の趣旨に反する旨主張する。
 しかしながら、登録免許税法第10条第1項に規定する課税標準たる不動産の価額は、台帳価格若しくは台帳価格相当額を基礎として算定する場合には、上記(3)で述べたとおり、措置法第84条の3及び同法附則第24条第9項の規定により、当該金額に100分の40を乗じて求めた額になる旨規定されていることから、仮に、本件売買価額を課税標準たる不動産の価額として本件登記申請に係る登録免許税の額を算定すると、その額は本件売買価額1,427,370,000円に1,000分の50を乗じた額71,368,500円となり、原処分庁が認定した登録免許税の額を上回ることになる。
 したがって、この点に関する請求人の主張を採用することはできない。
ロ また、措置法第84条の3及び同法附則第24条第9項の規定は、登録免許税法附則第7条の規定により、台帳価格を基礎として登録免許税の課税標準の額を算定する場合に適用されるものであって、請求人が主張するように本件売買価額を課税標準たる不動産の価額であるとした場合についてもこれらの規定を適用する旨の法令上の規定はないから、この点においても請求人の主張には理由がない。
ハ なお、請求人は、本件売買価額を基礎として登録免許税の課税標準の額を算定する場合において、措置法第84条の3及び同法附則第24条第9項の規定が適用されないのは税負担の公平に反する旨主張するが、当審判所は、原処分庁が行った処分が法令等に照らして違法又は不当なものであるか否かを判断する機関であって、その処分の基となった法令自体の適否又は合理性を判断することはその権限に属さないことであるので、当該規定が適用されないことが税負担の公平に反するか否かについては、当審判所の審理の限りではない。
(5)原処分庁は、(a)本件登記申請の時において本件土地が台帳価格のない土地であること及び(b)請求人から原処分庁に対し本件土地について特別の事情がある旨の申出がなく、原処分庁においても他の認定方法によるべき特段の事情もなかったことから、前記(2)のハの方法により本件土地の課税標準たる不動産の価額を認定しており、この認定方法を前記(3)に照らして判断すると、これを違法・不当とする理由はなく、原処分は適法と認められる。
(6)原処分のその他の部分については請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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