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(平9.11.26裁決、裁決事例集No.54 83頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、梱包業を営む者であるが、平成4年分、平成5年分、平成6年分及び平成7年分(以下、これらを併せて「各年分」という。)の所得税について、それぞれ青色の確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載した上、いずれも法定申告期限までに原処分庁に提出した。
 次いで、請求人は、原処分庁所属の職員の調査を受け、各年分の所得税について、別表の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書を平成8年9月10日に原処分庁に提出したところ、原処分庁は、同年9月19日付で別表の「原処分」欄記載のとおり、重加算税の賦課決定処分をした。
 請求人は、平成8年9月19日付でされた上記各処分を不服として、平成8年10月11日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は同年12月25日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成9年1月25日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次のとおり違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 原処分庁は、請求人が各年分の収入金額の一部を隠ぺいしたとして国税通則法第68条《重加算税》第1項により各年分の所得税の重加算税の賦課決定処分をしたが、次のとおり、請求人が、各年分の所得税の申告に当たり、隠ぺい又は仮装した事実はない。
(イ)請求人は、原処分の調査を担当した職員(以下「調査担当職員」という。)から、指摘されて初めて、収入金額の計上方法に誤りがあったことを認識したのであり、故意に収入金額を過少計上したのではない。
(ロ)請求人は、青色申告を始めた時に十分な指導を受けなかったため、人から聞いた話を信じ、収入金額の3割程度の給与所得控除に相当する金額を収入金額から差し引けるものと誤って理解していた。
(ハ)請求人は、ごまかす意思がないから、調査の初めの段階で、過少計上する前の真実の収入金額が記載されている請求書控え及び収入が振り込まれた預金通帳を提示している。
(ニ)請求人は、二重帳簿を作成していないから、隠ぺい又は仮装の事実はない。
(ホ)調査担当職員は、請求人が故意に収入金額を落としたわけではないことは分かっていると話していた。
(ヘ)故意に所得を隠す意図があれば、毎年同じ収入金額では申告しない。
(ト)隠ぺい又は仮装の事実があれば、原処分庁が青色申告の承認の取消処分をするところ、請求人は、同処分を受けていない。
ロ 原処分の調査(以下「本件調査」という。)は、次のとおり違法であり、また、行政手続法の規定及び精神にも反する。
(イ)調査担当職員は、延滞税の説明をしたが過少申告加算税及び重加算税の説明を全くしなかった。
(ロ)調査担当職員は、隠ぺい又は仮装の事実について説明しなかった。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査請求のいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 請求人は、下記ロの事実を総合すれば、所得税の収入金額の一部を故意に除外し、その除外したところにより、各年分の所得税の確定申告において、事業所得の金額を過少にして申告したものと認められ、このことは、国税通則法第68条第1項に規定する「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当する。
ロ 原処分庁が調査したところ、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、取引先であるF株式会社(以下「F社」という。)に対し毎月20日締めで請求書を発行していること。
(ロ)F社は、請求書発行月の翌月15日に請求金額から振込手数料を控除した金額をG銀行H支店(以下「G銀行」という。)の請求人名義の普通預金口座に振り込んでいること。
(ハ)請求人は、各年分の現金出納帳及び所得税青色申告決算書に毎月の収入金額をすべて600,000円と記載していること。
(ニ)各年分の所得税青色申告決算書に記載された総収入金額と請求書控えの合計額は、次表のとおりであり、両者には各年分とも相当額の開差があること。

ハ なお、請求人は、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められず、かつ、修正申告は、所得税の調査に基づいて提出されたものであるから、同条第5項に規定する更正があるべきことを予知してされたものでないときには該当しない。
ニ 以上のとおり、請求人は、毎月の収入金額を請求人が作成した請求書控え及び請求人の預金通帳の入金額によって十分に認識していたにもかかわらず、現金出納帳及び所得税青色申告決算書に毎月の収入金額を600,000円と記載し、それを基に各年分の事業所得の金額を算定することによって毎月の収入金額のうち600,000円を超える金額を故意に除外していたものと認められ、隠ぺい又は仮装の事実があったことは明らかであるから、国税通則法の規定に基づいて、重加算税を賦課決定したものである。
ホ また、重加算税を賦課決定する場合に、調査担当職員が隠ぺい又は仮装の事実を指摘しなければならない旨を定めた法令の規定はない。なお、調査担当職員は、調査結果を説明する際に、隠ぺい又は仮装の事実があったことを説明している。
ヘ なお、隠ぺい又は仮装の事実があった場合に必ず青色申告の承認を取り消さなければならない旨を定めた法令の規定はないので、青色申告の承認を取り消していないとしても、隠ぺい又は仮装の事実がなかったとすることはできない。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、各年分の重加算税の賦課決定処分の適否にあるので、以下審理する。
(1)原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人は、所得税について、昭和58年3月12日に所得税法第144条《青色申告の承認の申請》に定める青色申告承認申請書を提出し、以後現在までいわゆる青色申告者として所得税の確定申告書を提出していること。
ロ また、請求人は昭和59年分に係る所得税の確定申告から、租税特別措置法(平成4年法律第14号改正前のもの)第25条の2《みなし法人課税を選択した場合の課税の特例》に定めるみなし法人課税を選択し、平成4年分の確定申告まで、その適用を受けていたこと。
ハ 請求人は、各年分とも現金出納帳と称する大学ノートを保存し、当該ノートには残高は計上されていなかったが、毎月の収入金額が600,000円と記載されていたこと。
ニ 請求人が原処分庁に提出した各年分の所得税の確定申告書に添付された所得税青色申告決算書の年間の売上(収入)金額の欄には、各年分とも7,200,000円と記載され、12か月分の内訳を示す月別売上(収入)金額の欄には、各月600,000円と記載されていること。
ホ F社は、請求人からの毎月の請求に基づき、翌月の15日に請求金額から振込手数料を控除した残額をG銀行の請求人名義の普通預金口座に振り込んでおり、各年分の所得税青色申告決算書に記載された総収入金額と請求書控えの合計額との差額は次表のとおりであること。

ヘ 請求人は、本件調査において、収入金額を請求書控え及び普通預金通帳で把握できたが、平成3年1月から毎月600,000円と申告していた旨の申述書を原処分庁に提出していること。
(2)ところで、国税通則法第68条第1項の規定によれば、同法第65条第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したときは、当該納税者に対して、過少申告加算税に代えて重加算税を課すこととされている。
 そして、事実を隠ぺいするとは、課税標準等の計算の基礎となる事実を隠匿し、あるいは故意に脱漏することをいい、事実を仮装するとは、所得・財産あるいは取引上の名義等に関し、それが事実であるかのように装う等、故意に事実をわい曲することをいい、具体的には、いわゆる二重帳簿の作成、他人名義による取引又は預金通帳等の設定、売上除外、架空仕入れもしくは架空経費の計上、虚偽答弁、取引先との通謀による隠ぺい等明らかに故意に所得の相当部分を除外することをいうとされている。
(3)これを本件についてみると、次のとおりである。
イ 請求人は上記(1)のイのとおり、昭和58年から青色申告者としての届出を行い、現在まで青色申告書を提出していたことが認められる。さらに、請求人は平成4年分についてみなし法人課税の特例の適用を選択し、その適用を受けているが、みなし法人課税とは、その年分の総収入金額から必要経費を差し引いて算出された所得金額から、あらかじめ税務署長に届け出た事業主報酬を控除して得た所得金額に法人税率に相当する28又は37.5パーセントを乗じて、税額を算出するとともに、事業主報酬には源泉所得税の納付義務を負わせる、という高度な計算手続を要求している。そして、この制度は、所得が連年一定であれば、事業主報酬の金額を調整することにより節税が可能であるものの、所得の変動が多い場合には、税額の負担割合は通常より高くなる可能性を含んでいる。そこで、この制度を選択するに当たっては、自己の事業を的確に予測する能力と通常の青色申告者以上の適正な記帳が必要となり、そうでなければ、この制度が担保できなかったものである。
ロ ところが、請求人は、上記(1)のハのとおり収入金額を定額の月600,000円としか記帳しないのみならず、(1)のニのとおり4年間にわたって、総収入金額を7,200,000円と記載した確定申告書及び所得税青色申告決算書を提出していたことが認められる。このことは、確かに請求人が主張するように二重帳簿ではないけれども、みなし法人課税の実態が上記のとおりであるとすれば、実際の総収入金額を計上した場合には、請求人の負担が高くなることを認識していたと認められる。しかも計上した収入金額と実際の収入金額との差額は、上記(1)のホの表のとおりであり、平成3年分の差額は2,049,522円で、総収入金額に占める割合は22.2パーセントで、最も金額の多い平成7年分のそれは総収入金額の3分の1に近い34.2パーセントに達する。以上のことから、7,200,000円を超えた金額は、請求人の主張するような単なる計上ミスというより、売上除外とみるのが相当である。
 そうすると、重加算税の目的が、課税要件事実を隠ぺいし、又は仮装するという申告納税制度を没却するような不正の手段を用いて行われた場合には、違反者に対して、過少申告加算税に代えて重い比率を乗じて得られる金額の制裁を課する趣旨でもあることから、請求人が4年間の長きにわたって行った経理処理は、過少の申告が発生することを認識して行っていたものと認め、事実の隠ぺいに該当するとするのが相当である。
ハ なお、請求人は青色申告者として十分な指導が受けられなかったこと、給与所得控除相当額の3割を控除して記帳するものと理解していたこと、さらに、本件調査の際に請求書控え及び普通預金通帳を提示したからごまかす意思がなかった旨主張するが、請求人は上記のとおり昭和58年からの青色申告者であり、個人事業者でありながら、昭和59年分から平成4年分にかけて、みなし法人課税を選択し、法人税に定める法人税率に類する税率と役員報酬に相当する事業主報酬に対する源泉所得税を納付しているのであるから、指導を受けなかったとは認められない。
 また、各年分の総収入金額が上記(1)のホのとおり異動しているのであるから、その7割は各年分違ってくるにもかかわらず、4年分とも7,200,000円と一定であることは不自然であり、さらに、税務調査の際に、税務職員の質問調査を受任して、帳簿書類等を提示するのは、法に定められたことであるから、請求書控えや普通預金通帳を提示したことをもって、仮装、隠ぺいがないとはいえない。
ニ また、隠ぺい又は仮装の事実があった場合に必ず青色申告の承認を取り消さなければならない旨を定めた法令の規定はなく、青色申告の承認を取り消していないとしても、隠ぺい又は仮装の事実がなかったとすることはできない。
 したがって、原処分庁が、各年分の所得税について課される過少申告加算税に代えて重加算税を課したことは相当であり、請求人の主張は採用できない。
(4)請求人は、本件調査において、調査担当職員が〔1〕延滞税の説明はしたが過少申告加算税及び重加算税の説明を全くしなかったこと、〔2〕隠ぺい又は仮装の事実について説明しなかったことは違法であり、行政手続法の規定及び精神にも反する旨主張する。
 しかしながら、重加算税の賦課決定処分をするに当たり、納税者に説明しなければならない旨を定めた法令の規定はなく、これを説明するか否かは調査権限を有する税務職員の合理的な判断にゆだねられていると解するのが相当であるから、調査担当職員がそれを説明しなかったとしても違法はない。
 なお、行政手続法第3条《適用除外》第1項は、同法の適用除外を規定しているところ、同条第1項第14号によれば、各税法の規定に基づく質問検査権の行使がこれに該当することは明らかであり、本件調査は、所得税法第234条《当該職員の質問検査権》の規定に基づく質問検査権の行使であるから、行政手続法の適用除外に該当する。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(5)その他
 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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