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(平9.7.31裁決、裁決事例集No.54 162頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、かき養殖業を営む者であるが、次表の「確定申告」欄のとおり記載した平成5年分の所得税の確定申告書を、法定申告期限までに原処分庁に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成7年1月10日付で次表の「更正処分等」欄のとおり、更正処分及び重加算税の賦課決定処分をした。

(単位 円)
項目       区分確定申告更正処分等
総所得金額5,115,4605,115,460
(内訳)
 事業所得の金額4,297,2944,297,294
 不動産所得の金額818,166818,166
分離長期譲渡所得の金額21,454,63426,454,634
納付すべき税額6,907,8008,407,800
重加算税の額525,000

(注)1 分離長期譲渡所得は、租税特別措置法第31条《長期譲渡所得の課税の特例》第1項に規定する譲渡所得をいう。以下同じ。
   2 分離長期譲渡所得の金額は、長期譲渡所得の特別控除額を控除した後の金額をいう。以下同じ。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成7年1月30日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年4月28日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成7年5月29日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法・不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
(イ)請求人は、平成5年7月16日に、P市R町一丁目1035番48の宅地120.89平方メートル(以下「本件土地」という。)及び同所同番所在の軽量鉄骨造スレート葺二階建作業場延床面積226.16平方メートル(以下「本件作業場」といい、本件土地と併せて「本件物件」という。)を、P市S町一丁目2番37―203号のJ(以下「J」という。)に40,000,000円で譲渡する旨の売買契約を締結し、同日付の土地建物売買契約証書(以下「本件売買契約書」という。)を取り交わした。
 請求人は、平成5年分の所得税の確定申告に当たり、本件物件の譲渡価額は、本件売買契約書に記載された売買価額40,000,000円であるとして申告した。
(ロ)原処分庁は、これに対し、請求人が平成5年7月16日にJから振込みにより40,000,000円を、また、同日現金により5,000,000円を受領していることなどを理由に、本件物件の譲渡価額が45,000,000円であるとして更正処分をした。
(ハ)しかしながら、請求人が平成5年7月16日にJから受領した現金5,000,000円(以下「本件金員」という。)は、次表の昭和56年から昭和57年ころの請求人のJ及びJの父K(以下「K」といい、Jと併せて「Jら」という。)に対する貸付金、立替金及び売掛金の合計額9,100,000円から、昭和58年6月10日にJから受領した返済金2,000,000円を差し引いた残額7,100,000円(以下「本件貸付金等」という。)の一部の返済金であり、本件物件の譲渡に係る対価ではないから、本件物件の譲渡価額は、本件売買契約書に記載された40,000,000円である。

(単位 円)
内訳金額
Kに対する貸付金(1)1,000,000
L(かき養殖資材等の販売業者)へのKの債務の立替金(2)600,000
M漁港漁場管理組合へのKの債務の立替金(3)2,000,000
Jに対するかき筏10台分の代金に係る売掛金(4)5,500,000
合計(1)〜(4)(5)9,100,000

(注)Jは、昭和57年ころにKから事業を引き継ぐとともにKの上記(1)ないし(3)の合計額3,600,000円の債務を引き継いだ。
 なお、請求人は、本件貸付金等のうち、本件金員を受け取った際、残金の2,100,000円については債務を免除した。
(ニ)Jは、平成5年の夏ころ、Nマリーナ整備事業に係る補償金を受け取ることになり、当該補償金をもって、本件貸付金等の一部を請求人に返済するとともに、請求人が競売により取得した元K所有の本件物件を買い戻すこととなったものである。
 そこで、請求人は、平成5年7月16日にJから本件貸付金等に係る一部の返済金として本件金員を、また、同日、本件物件に係る譲渡代金として40,000,000円を受領した。
(ホ)原処分庁は、請求人が本件貸付金等に係る書類を作成していないことから本件貸付金等の存在を疑うが、請求人が営むかき養殖業界においては、「海の事は約束だけで書類を作成しない」という慣習があるから、書類が作成されていないことをもって本件貸付金等の存在を否定することはできない。
ロ 重加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、更正処分は違法・不当で取り消すべきであるから、これに基づく重加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
(イ)異議審理の担当者が調査したところ、次の事実が認められる。
A 本件物件は、昭和57年3月29日付で、同月26日の競売による売却を原因として、請求人に所有権移転登記がされていること。
B 平成5年7月16日付で、売主を請求人、買主をJ、本件物件の売買価額を40,000,000円とする本件売買契約書が作成されていること。
C Jは、平成5年7月16日にP市農業協同組合T支店(以下「P市農協」という。)の請求人名義の普通貯金口座(口座番号×××)へ40,000,000円を振り込み、また、同日、請求人に本件金員を現金で支払い、本件金員は、同日、P市農協の請求人名義の普通貯金口座(口座番号○○○)に入金されていること。
D 請求人は、原処分の調査担当者に対し、本件金員は本件貸付金等の返済金であるとして、次のとおり申述していること。
(A)平成6年10月19日の申述
a Kが事業に失敗する直前に、Kから2,500,000円ほどの借入れの申込みがあり、同人に、2,500,000円を貸し付けた。
b その後、Jからも借入れの申込みがあり、Jに2,500,000円を貸し付けた。
(B)平成6年11月15日の申述
a 今から13年前にKに2,600,000円ほど貸し付け、その1年後にJに5,500,000円相当の実付きのかき筏10台を提供した。
 それから3年後に現金により、2,400,000円の返済を受けており、本件金員はその残金の返済分である。
b 上記aの金銭消費貸借については、口頭による契約のため、契約書は作成していない。
c Jらに対しては信用で貸しているので、自主的に返済されるまで督促はしておらず、また、利息をもらうと人助けにならないので利息等も一切受け取っていない。
E 請求人は、原処分の調査担当者及び異議審理の担当者に対し、本件貸付金等に係る契約書、領収書控え等の具体的な証拠書類を提示していないこと。
F Jは、原処分の調査担当者に対し、次のとおり申述していること。
(A)本件物件の売買価額45,000,000円については、請求人から本件売買契約書の作成に当たり40,000,000円は表の契約代金とし、5,000,000円は別口とすることにしたから、40,000,000円と5,000,000円とに区分して支払うよう要求された。私としては、本件物件をどうしても欲しかったので請求人の要求に従った。
(B)Kが事業に行き詰まった昭和57年ころ、同人が請求人から借金をしたことはあると思うが、私は、Kから事業を引き継いだ後の2、3年の間に私の預貯金や事業から得た所得によりすべて返済した。
G Jは、異議審理の担当者に対し、次のとおり申述していること。
(A)本件物件の売買価額は、45,000,000円に相違ない。
(B)請求人への債務は、昭和58年に返済した2,400,000円を最後に、それ以後はなく、また、請求人から請求されたこともない。
H 請求人から本件物件の売買についての相談を受けたW(以下「W」という。)は、原処分の調査担当者に対し、次のとおり申述していること。
(A)平成5年の夏ころ、請求人から、Kが所有していた本件物件を競売で取得しているが、Jにこの度補償金が入るから、本件土地を1坪当たりの価格(以下「坪単価」という。)1,400,000円で売り戻したいとの相談を受けた際、私は、世間並の相場で売らないと問題が起きるので、不動産業者で売買価格を確認するよう助言したことがある。
(B)その後、請求人が、Jから坪単価1,400,000円という金額はあまりにも高額であるということで売買を断られているという話を聞いたので、P市農協で評価額を調べ、請求人に坪単価は1,200,000円程度であると教えたことがある。
(C)請求人は、昭和57年にJに実付きのかき筏10台を売却しているが、実際は、Jが10台のうち7台を、請求人が残り3台をかき打ちし、使用している。
 なお、当時は、実付きのかき筏1台の値段は良くて500,000円程度だったと記憶している。
I Wは、異議審理の担当者に対し、次のとおり申述していること。
(A)請求人は、売買契約の2、3日前に私の自宅に借用書を持参したが、当該借用書は、昭和58年か昭和59年ころのもので、借主はJで金額は300,000円であった。
(B)私は、Jから現金300,000円を預かり、借用書と引換えに当該現金を請求人に渡し、請求人から受領した借用書をJの自宅に持参し、Jの目の前でこれを破り捨てた。
(C)上記(A)のJの請求人に対する債務300,000円は、本件物件の売買代金とは別のものであり、請求人のJに対する貸付けがこの300,000円以外にあるとすれば、請求人は、現金300,000円を受領した際に請求しているはずであるが、何ら請求していない。
(ロ)上記(イ)の事実から本件金員について検討すると、次のとおりである。
A 請求人は、本件金員は本件貸付金等の一部の返済金であり、本件物件の譲渡に係る対価ではなく、また、本件貸付金等に係る書類が作成されていないことをもって本件貸付金等の存在を否定することはできない旨主張する。
 しかしながら、(1)Jは、請求人からの借金は昭和58年ころにすべて返済し、本件物件の売買当時に請求人に対する債務はなかった旨明確に申述していること、(2)請求人は、原処分の調査担当者及び異議審理の担当者に対し、本件貸付金等の存在を明らかにする具体的な書類等を提示していないこと、(3)本件貸付金等に係る請求人の申述、また、異議申立ての際の債権に係る請求人の主張は、それぞれ異なっており、その内容もあいまいであり、異議申立てに係る調査によっても本件貸付金等の存在を確認することができないこと、(4)本件貸付金等が本件物件の売買契約当時に存在していたとすれば、一般に、請求人は、Wに対し、300,000円の債権と併せて本件貸付金等の回収を依頼すると思われるが、請求人が何ら依頼していないことは、本件貸付金等が本件物件の売買契約当時に存在していないことを裏付けるものであることなどから、請求人の主張を信用することはできず、これを認めることはできない。
B Wの申述からすると、請求人は、本件物件の売却に当たり、当初、本件土地を坪単価1,400,000円(本件土地の価額に換算すると1,400,000円×約36.56坪=約51,184,000円)で売買することを希望したが、その後、Wが本件土地の時価が坪単価1,200,000円(本件土地の価額に換算すると1,200,000円×約36.56坪=約43,872,000円)程度が相当である旨請求人に助言した経緯等からすれば、本件物件の売買価額が最終的に45,000,000円になったとしても不自然とは言い難く、他方、Jは、本件物件の売買価額が45,000,000円であり、また、本件金員がその一部として別口で請求人に渡されたものである旨明確に請求人の主張を否定していることからすると、請求人は、本件物件の対価として本件金員を受領したものと認めるのが相当である。
 したがって、本件物件に係る譲渡価額は、本件売買契約書に記載された40,000,000円に本件金員を加算した45,000,000円であるから、更正処分は適法である。
ロ 重加算税の賦課決定処分について
 上記イの(ロ)のとおり、更正処分は適法であり、本件物件に係る売買価額が40,000,000円と記載された本件売買契約書は事実に反するものであると認められるところ、請求人がこれらの内容虚偽の書類を確定申告書に添付したことは、事実の隠ぺい又は仮装に該当し、さらに、原処分の調査の際にも、本件金員が貸付金の返済を受けたものであるなどの虚偽の答弁を行うことにより、真実の解明を困難にさせて真実の税額を隠ぺいしようという確定的な意図の基に事実の隠ぺい又は仮装の補完工作を行っており、これらの請求人の行為は、国税通則法第68条《重加算税》第1項に規定する重加算税の課税要件を満たすことは明らかであるから、同項の規定に基づいて行った重加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件物件の譲渡価額について争いがあるので、以下審理する。

(1)更正処分について

イ 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所が調査したところによってもその事実が認められる。
(イ)請求人は、昭和57年3月26日、Kが所有していた本件物件を競売により取得したこと。
(ロ)請求人は、平成5年7月16日、Jとの間で本件物件に係る売買契約を締結し、同日付で本件物件の売買価額を40,000,000円とする本件売買契約書を取り交わしたこと。
(ハ)請求人は、平成5年7月16日、Jから40,000,000円を振込みにより、また、本件金員を現金により受領しており、同日付の40,000,000円及び5,000,000円の領収証2枚が存在すること。
(ニ)請求人は、昭和58年から本件物件をJに譲渡するまで、Jに本件物件を賃貸していたこと。
ロ 当審判所が原処分関係資料を調査したところ、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、原処分の調査担当者に対し、次のとおり申述していること。
A 平成6年10月19日の申述
 本件金員は、Kが事業に失敗する直前に同人から2,500,000円ほど貸して欲しいとの申出があり、その後、Jからも2,500,000円借りたいとの申出があったことによる貸付金の返済分である。
B 平成6年11月15日の申述
 今から13年前にKに2,600,000円ほど貸し付け、その1年後にJに5,500,000円相当の実付きのかき筏を提供し、その3年後にJから貸付金の一部の2,400,000円を現金で返済してもらったが、本件金員は、当該貸付金の残額のうちの返済分である。
(ロ)Jは、原処分の調査担当者に対し、次のとおり申述していること。
A 平成6年10月14日の申述
(A)本件物件の売買価額は40,000,000円であり、本件金員は仕事の運転資金に使用した。
(B)本件物件の売買価額は請求人の希望価格であり、本件土地は当時の路線価等を参考にしたもので、坪単価は1,000,000円から1,200,000円程度だったと思う。
(C)売買契約は、P市信用組合T支店(以下「P市信組」という。)で取り交わし、本件物件の売買代金40,000,000円はP市農協の請求人の口座に振り込んだ。
B 平成6年10月27日の申述
(A)本件物件の売買価額は45,000,000円である。請求人は、本件物件の売買価額を当初から45,000,000円と申し立てており、売買契約の前に40,000,000円は表の契約代金とし、5,000,000円については別口にするよう請求人から要求された。
(B)売買代金については、40,000,000円は振込みにより、5,000,000円はP市信組で請求人に現金で支払った。
(C)真実の契約金額が45,000,000円であるにもかかわらず、40,000,000円と申し立てたのは、請求人から40,000,000円で申告すると頼まれたからである。また、私は本件物件をどうしても手に入れたかったし、請求人と早く手を切りたかったからである。
(D)Kが事業に行き詰まった昭和57年ころに、請求人からの借入れが5,000,000円くらいあったと思うが、Kから事業を引き継いだ2、3年後に私の預貯金や事業の所得により返済した。
(E)借用書は既に焼却しており手元には残っていない。
(ハ)Jは、平成7年4月26日、異議審理の担当者に対し、次のとおり申述していること。
A 本件物件の売買価額は、45,000,000円に間違いはなく、本件金員は本件物件の購入以外の名目で支払ったものではない。
B 請求人から、税金を支払うのは馬鹿らしいから絶対に表に出さないでほしいと依頼されたことは事実である。
C 請求人に対する債務については、昭和58年に実付きのかき筏代金の2,400,000円を返済したことにより残っていない。
(ニ)Wは、平成6年11月16日、原処分の調査担当者に対し、次のとおり申述していること。
A 請求人から本件物件の売買についての相続を受けたが、その時の請求人が希望する本件土地の坪単価は1,400,000円で世間の相場と比較してあまりにも高額であり、しかも、Jから売買を断られたと聞いたので、請求人に対し、世間の相場で売らないと問題が起きるから、売買価格については不動産業者で確認するよう請求人に伝え、P市農協で調査した評価額は坪単価1,000,000円から1,200,000円程度であると教えた。
B 本件物件の売買価額は、最終的には請求人とJの二人の間で決定されたものであるが、取引金額は40,000,000円であり、本件金員は、請求人のJらに対する昔の貸付金の返済分ということであった。
C 請求人は、本件金員の内訳について、昭和57年ころのKに対する貸付金とJに提供した実付きのかき筏の代金であると申し立てていた。
(ホ)Wは、平成7年4月27日、異議審理の担当者に対し、次のとおり申述していること。
A 請求人から本件物件の売買についての相談を受けたが、その際、請求人の希望価格である本件土地の坪単価1,400,000円はあまりにも高額であり、Jから売買を断られたと聞いたので、P市農協で評価額を調査し、坪単価は1,200,000円程度であると請求人に教えた。
B 請求人は、売買契約の2、3日前に、私の自宅に、昭和58年か昭和59年ころの借主がJで金額が300,000円の借用書を持参したが、Jの請求人に対する債務300,000円は、本件物件の売買代金とは別のものであり、請求人のJに対する貸付けがこの300,000円以外にあるとすれば、請求人は、現金300,000円を受領した際に請求しているはずであるが、何ら請求していない。
ハ 当審判所が請求人、関係人等を調査したところによれば、次のとおりである。
(イ)Jは、平成5年7月16日、P市信組から45,000,000円を借り入れており、当該借入れに係るりん議書には、その使途として「事業用資産の購入及び運転資金」と記載されていること。
(ロ)Jの平成5年分所得税青色申告決算書(以下「決算書」という。)には、本件土地については、貸借対照表の資産の部に期末評価額として37,000,000円、本件作業場については、固定資産減価償却内訳表に取得価額が3,000,000円と記載されていること。
(ハ)請求人は、当審判所に対し、次のとおり答述していること。
A 本件物件が売買されるに至った経緯については、売買契約が締結された平成5年7月16日の一か月ほど前に、Wから、本件物件をJに売ってほしいと持ち掛けられ、これを承諾したものであるが、その際、Wに対し、私にはJに対する貸付けがあるから、これを返済してもらわなければ困る旨申し立てた。
B 本件貸付金等の具体的な内容については、Wに言わなかったが、本件貸付金等は5,000,000円ほどあり、既に10年は経過しているから、郵便局に預けていたとしても10,000,000円にはなると伝えたところ、Wは、10,000,000円ではJがかわいそうだから5,000,000円だけにして助けてやってほしいと申し立てたので、私は了承した。
 また、私は、Wから本件貸付金等について、あとくされがないように5,000,000円でけりをつけ、今までのもろもろを含めてチャラにしてやってほしいと言われたので仏心で承諾した。
C 上記BのWが申し立てた「今までのもろもろを含めて」とは、本件貸付金等のほかに、Kの漁場のかき筏4台分を10年間使用させてもらうことになっていたが、Kから、漁場を人に貸していたのでは補償金が入らないので戻してほしいとの申立てがあり、10年間のところ8年間しか使用できず、Kの漁場を2年間使用できなかったことも含まれている。
D Kの対する1,000,000円の貸付けについては、Kが借入金を何に使ったかは知らない。また、当該貸付けに係る借用書は作成しておらず、返済期日や利息の約定もないが、Jは、Kの借入れに関しては自分が全部引き受けると言った。
E LへのKの債務の立替金については、当時、Lが、Kが所有する冷蔵庫、水槽といった動産を譲渡担保として差し押さえており、私が本件作業場を競売により取得した際、これらの動産も購入したものであるが、当該動産については、本件物件とともにJに貸していた。
 本件物件の賃貸料については、当初は月額75,000円でその後100,000円であったが、Jは当時家賃を支払えなかったので、Jとの話合いにより、かき筏1台分の漁場を1年間使用させてもらうことで賃貸料1か月分と相殺することとし、かき筏6台から7台分のJの漁場を使用していた。
F M漁港漁場管理組合へのKの債務の立替金2,000,000円については、私がかき組合の副組合長をしていたころ、Kに対し、漁場の使用料を1年近くも支払わないと漁場を使用できなくなると伝えたところ、同人は、Jが事業を引き継ぐ予定であるから支払っておいてほしい旨申し立てたので、私が2年間ほど立て替えて支払ったものであり、領収証は保管していたが、今はどこにいったかわからない。
G Jに対する実付きのかき筏10台分の代金5,500,000円については、かき筏10台をJに売却したもので、昭和57年ころ、Jに対し、かき筏1台分が550,000円であると口頭で告げ、その後、Jから当該かき筏代金5,500,000円のうちの2,000,000円の返済を受けた。
(ニ)Jは、当審判所に対し、次のとおり答述していること。
A 本件物件の売買交渉は、請求人が、Wを通じて「これで一切貸し借りなしで、今までのどうだこうだを白紙にするから売買価額を45,000,000円にしてもらいたい」と言ってきたが、当該金額45,000,000円については、本件土地の坪単価が1,200,000円ほどで、しかも、仮に、10数年も賃借している本件物件を立ち退くとなれば、立退料や移転費用を請求人から受け取ることもできるから高額であると思った。
 しかしながら、Wから「Kが以前所有していたものであるから、ここで買えば親孝行になるし、世間も親孝行息子とみるから」と言われたので、当該金額45,000,000円を今までの私と請求人との一切の「しがらみ」をひっくるめたものと思って買い戻すことにした。
 なお、「しがらみ」とは、Kが請求人からの借金があったことと、私が請求人から実付きのかき筏の提供を受けて助けてもらったことである。
B 45,000,000円の算定方法は、請求人から申し出された額であり、坪単価がいくらと言った計算で決定されたものではない。
C 売買価額については、売買契約が取り交わされた半月前の平成5年7月上旬に決定し、その際、Wは、請求人が税金を払うのは馬鹿らしいから5,000,000円を現金にしてほしい旨申し立てており、同人から売買代金を40,000,000円の小切手と5,000,000円の現金にするよう依頼された。私は、請求人には売買価額を40,000,000円ということにして5,000,000円を圧縮する意図があると思った。
 したがって、本件売買契約書には売買価額が40,000,000円と記載されているが、真実の売買価額は45,000,000円である。
 なお、売買価額を45,000,000円と記載した売買契約書は作成していない。
D 本件売買契約書には、売買物件が本件物件と定められているが、本件物件には本件作業場内の冷蔵庫、水槽といった動産も含まれており、請求人から本件作業場と併せてこれらの動産を賃借していたから、今回の売買で本件物件に含めて購入したことになる。
E Kのかき養殖業を引き継いだ昭和57年当時、Kはいろいろなところから借金をしており、請求人からも3,000,000円から4,000,000円の借金があったので、私は、当該借金についても引き継いだ。当時、請求人から借用書を見せてもらったが、借用書の枚数は1枚くらいだったと思う。
F 上記Eの債務の返済については、当時、私は、P市漁業協同組合にかき筏29台ほどの漁場を使用する権利を持っていたので、その内のかき筏4台分くらいのかき養殖の漁場を請求人に貸すことでその賃貸料と相殺しており、現金では支払っていない。
 また、かき筏1台当たりの賃貸料は、当時年間100,000円だったので、4台で年間400,000円を返済したことになり、平成2年か平成3年ころにすべて債務を返済したと思うが、借用書については、Kから返してもらったと聞いただけであり、借入金の利子についての詳しいこともよく分からない。
G 昭和57年ころに、請求人から実付きのかき筏を仕入れたのは事実である。当時、私は、Kの事業を引き継いだことに伴う借入れもあったので、請求人に依頼し、かきの実の付いた筏10台を仕入れた。1台当たり500,000円であるから10台で5,000,000円の仕入れとなる。
 ただ、私が筏のかきを引き上げて実を開けたのは7台で、残りの3台のかき筏については、請求人自身で筏のかきを引き上げて実を開けたり、筏ごと他の業者に売却しているので、実際の仕入金額はかき筏7台分の3,500,000円である。
H 昭和58年ころ、上記のGの仕入金額3,500,000円の一部の2,000,000円を現金で直接請求人に支払った。残金1,500,000円については、請求人が私の漁場を無償で使用していたので、私としては、漁場使用料と相殺することにより、請求人に対して1,500,000円以上を支払っている計算となり、売買契約の締結時には債務は残っていないことになる。
(ホ)Wは、当審判所に対し、本件物件に係る売買交渉の際、P市農協の支店長に土地の評価額を聞いたことはあるが、今回の取引とは関係がない旨答述していること。
(ヘ)Lは、当審判所に対し、昭和57年当時、Kが所有していた動産をすべて譲渡担保に取っていたので、競売により本件物件を取得した請求人に対し、本件作業場内にあった冷蔵庫、水槽及び水槽のふたを合計300,000円くらいで売却したと思う旨答述していること。
ニ 本件物件の譲渡価額について、上記イないしハの各事実を総合して判断すると、次のとおりである。
(イ)原処分庁は、Wの申述からすると、本件物件の売買価額が最終的に45,000,000円になったとしても不自然とは言い難く、また、Jが本件物件の売買代金は45,000,000円であり、本件金員がその一部として別口で請求人に渡されたものである旨明確に請求人の主張を否定していることからすると、本件金員は、本件物件の対価として請求人が受領したものと認めるのが相当である旨主張する。
 しかしながら、Wは、本件物件の売買価額について、上記ロの(ニ)のBのとおり、取引金額は40,000,000円であり、本件金員は、請求人のJらに対する昔の貸付金の返済分ということであった旨申述している上、上記ハの(ホ)のとおり、当審判所に対し、P市農協で評価額を聞いたこともあるが、今回の取引とは関係ない旨答述していることからすると、Wの申述を基に本件物件の譲渡価額を45,000,000円であると認定することはできない。
 また、Jは、本件金員が本件物件の売買代金の一部である旨申述、答述するものの、(1)上記ロの(ロ)のAの(A)のとおり、当初、原処分の調査担当者に対し、本件物件の売買価額は40,000,000円で、本件金員を仕事の運転資金として使った旨申述していたほか、上記ハの(イ)のとおり、Jの借入先であるP市信組が作成したりん議書にも、その使途として一部が運転資金である旨記載されていること、(2)上記ハの(ロ)のとおり、Jの決算書には、本件土地の評価額が37,000,000円、本件作業場の取得価額が3,000,000円と記載されていること、(3)上記ハの(ニ)のAのとおり、Jは、45,000,000円という金額は今までの私と請求人との一切の「しがらみ」をひっくるめたものと思った旨答述していることからすると、本件金員が本件物件の売買代金の一部である旨のJの申述及び答述をにわかに信用することはできない。
 さらに、原処分庁は、本件貸付金等が本件物件の売買契約当時に存在していたとすれば、請求人はWを介してJに300,000円の債権と併せて請求すると思われる旨主張するが、当該債権300,000円については債権の存在を証する借用書があるのに対し、本件貸付金等のように債権の存在を証する書類がない場合は、Wを介してJに請求することは通常困難であるとも考えられるから、請求人が同人を介してJに請求していないことをもって、当時本件貸付金等が存在していなかったと断定することはできない。
(ロ)請求人は、本件物件の売買契約当時、Jに対して本件貸付金等を有していた旨主張するが、請求人のJらに対する貸付金、立替金及び売掛金並びにそれらの返済状況を裏付ける書類がない上、それらの金額についての請求人の申述及び答述には一貫性がないことから、請求人の主張を直ちに採用することはできない。
 しかしながら、Jも、請求人に対し、Jらが多額の買掛金及び借入金の債務を負っていたことは認めており、Jはそれらの債務についてすべて返済した旨申述及び答述しているものの、領収証等が提出されていないことから、返済状況について客観的に確認することができない。
 ところで、Jは、上記のとおり、請求人に対する債務はすべて返済した旨の申述及び答述をしているが、一方、上記ハの(ニ)のAのとおり、45,000,000円という金額について、今までの請求人との一切の「しがらみ」をひっくるめたものと思って買い戻すことにしたことに基づくものであり、「しがらみ」とは、Kに請求人からの借入れがあったことと、請求人から実付きのかき筏の提供を受けて助けてもらったことである旨答述しており、本件物件を競売により手放さなければならなかったKの事情及びそれを請求人から買い戻すこととなった経緯に照らせば、45,000,000円のすべてが本件物件の売買の対価ではなく、その一部について、過去の貸借等の精算部分が含まれていると解釈せざるを得ない。
 また、仮に、本件物件の売買価額が45,000,000円であったとした場合に、Jが、売買価額を40,000,000円とする本件売買契約書の作成に安易に応じたとは到底認め難い。
 そうすると、本件物件の売買契約当時、請求人がJに対して本件貸付金等を有していた可能性があり、本件金員が本件貸付金等の一部の返済金であるとの請求人の主張を否定することはできない。
(ハ)以上のとおり、本件金員が本件物件に係る売買代金の一部であると断定できる証拠はないから、原処分庁が、分離長期譲渡所得の金額の計算上、本件金員を本件物件に係る売買代金の一部であるとして、本件物件の譲渡価額を40,000,000円ではなく45,000,000円であるとした更正処分は、その全部を取り消すのが相当である。

(2)重加算税の賦課決定処分について

 重加算税の賦課決定処分については、上記(1)の更正処分の全部の取消しに伴い、その全部を取り消すのが相当である。

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