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(平9.11.28裁決、裁決事例集No.54 180頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、不動産所得を有する会社役員であるが、平成2年分の所得税について、青色の確定申告書(分離課税用)に総所得金額を3,308,172円(内訳、不動産所得の金額864,572円、配当所得の金額を1,035,000円、給与所得の金額1,408,600円)、分離短期譲渡所得の金額を8,416,384円及び納付すべき税額を3,156,500円と記載して、法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成8年2月21日付で総所得金額を3,308,172円、分離短期譲渡所得の金額を28,483,384円及び納付すべき税額を11,539,100円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)並びに重加算税の額を2,933,000円とする賦課決定処分をした。
 請求人はこれらの処分を不服として、平成8年4月19日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月19日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成8年7月19日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)請求人は、平成2年4月5日にP市R町2378番1ほか4筆の宅地(以下「本件土地」という。)830.20平方メートル(換算率0.3025を乗じて算出した面積(以下「坪」という。)251.13坪。)をF(P市S町306番地の7在住。本件土地の譲渡時、Q市T町1丁目11番13号在住。以下「F」という。)に25,113,000円(1坪当たり(以下「坪当たり」という。)100,000円)で譲渡し、当該金額を平成2年分の所得税の確定申告書において分離短期譲渡所得の総収入金額として申告した。
 本件土地の譲渡価額については、平成2年4月5日に、Fから土地の購入の委任を受け本件土地の売買契約の交渉に当たったG(P市W町558番地の1在住。以下「G」という。)と本件土地の売買価額を25,113,000円とする不動産売買契約書(以下「甲契約書」という。)を取り交わし、その代金を受け取り、領収証を発行していることからも明らかである。
(ロ)これに対して、原処分庁は、本件土地の譲渡価額を45,180,000円(坪当たり約18万円)と認定して、本件更正処分を行った。
 しかしながら、以下のとおり、本件更正処分は事実を誤認しており、取り消されるべきである。
A 原処分庁は、本件土地の売買価額を45,180,000円とする不動産売買契約書(以下「乙契約書」という。)が真正なものであると判断している。
 しかし、乙契約書は、Gが原処分庁に提出したものであるが、乙契約書が真正なものでないことは、FとGとの間のP地方裁判所平成5年(ワ)第○○○号横領金返還本訴請求事件ほか2件に係る民事訴訟(以下「P地裁平成5年(ワ)第○○○号ほか2件に係る民事訴訟」という。)の平成7年12月27日判決から明らかにされているところである。
 また、本件土地の売買に伴う仲介手数料は、上記裁判所に提出された不動産の仲介業を営むH(以下「H」といい、業者名を「H不動産」という。)の記名、押印がある領収証のとおり813,390円であり、この額は、甲契約書記載の売買代金25,113,000円に仲介手数料規定を適用して計算される額と同額である。このことからも、売買価額を45,180,000円とする乙契約書は真正なものではないことが明らかである。
 なお、原処分庁は、本件土地の売買に関する契約書として、甲契約書、乙契約書及び売買価額を60,240,000円(坪当たり約24万円)とする不動産売買契約書(以下「丙契約書」という。)の3通りのものが存在し、それら契約書の売主欄に記載されている請求人の住所、氏名の筆跡並びに押印されている印影が請求人のものとすべて同一であると認められるのに、請求人が乙契約書の存在のみを否定するのは不自然であると指摘している。
 しかし、請求人は確かに乙契約書及び丙契約書に署名、押印したが、これは、Gから銀行提出用として必要であり作成に協力してほしい旨の要請に応じたもので、それから数年も経過した時点で、原処分庁の調査担当者からこの点の質問を受けた請求人としては、その時の記憶によって率直に述べたものであり、乙契約書の存在を断定的に否定したものではない。
B 原処分庁は、Gが作成し提出した手帳、大学ノート等に乙契約書に基づく売買代金の支払状況が詳細に記録されているとしてその信用性を認め、これら手帳等が45,180,000円を支払を裏付ける資料であると判断している。
 しかし、上記Aのとおり、本件土地の売買価額を45,180,000円とする契約はなかったのであるから、Gが平成2年5月15日に現金で支払ったとする21,067,000円のうちの20,067,000円は虚偽であって、P地方裁判所もそれらの資料の信用性を認めず、同裁判所でGが主張した平成2年5月15日に本件土地の売買代金としてほかに2,036万円余を出損したことについて否定していることなどから、Gが作成した資料等は到底信頼できない。
C 原処分庁は、請求人の預金入金の中に資金出所が明らかでないものがあると指摘し、それが原処分庁主張の本件土地の売買代金45,180,000円の一部ではないかと疑っている。
 しかし、次のとおり原処分庁の疑いは当たらない。
 すなわち、(1)「平成2年4月5日のJ銀行K支店に設定した請求人名義の定期預金13,000,000円」及び(2)「同日、同支店の請求人名義の普通預金口座へ入金した2,000,000円」は、同日に本件土地の売買代金の一部としてGから受領した20,000,000円とL銀行M支店から借り入れた10,000,000円(現金受取額9,870,102円)の合計約3,000万円によって「(1)」の定期預金を設定するとともに請求人のJ銀行K支店からの借入金14,530,637円の返済にも充て、残金を「(2)」の普通預金口座に入金したものである。
D 原処分庁は、平成3年11月に本件土地の近隣で坪当たり240,000円を超える売買実例があることを根拠にして、請求人主張の売買価額25,113,000円が坪当たり、100,000円と安過ぎることから不合理であると判断している。
 しかし、次のとおり、本件土地の売買価額が坪当たり100,000円でも不合理ではない。
 すなわち、本件土地は、昭和63年3月18日、請求人が代表取締役であった株式会社N(以下「N社」という。)から代物弁済によってほかの土地とともに取得したもので、その代物弁済の基となる債権額は45,175,000円、取得した土地の地積は2,293.95平方メートル(695.13坪)であり、坪当たり約6万5千円であった。このようなことから、本件土地を坪当たり100,000円でも売却する気持ちになったのであり、請求人として合理性を有するのである。
 このことについて、原処分庁は、請求人の本件土地等の取得が特殊関係者との間の取引であるから、坪当たり100,000円で譲渡することの合理的な根拠にはならないとしている。しかし、上記のことが事実である以上、特殊関係者との間の取引だからといって合理的な根拠がないとはいえない。
 また、N社の業務は請求人の親族を代表者にした有限会社Y(以下「Y社」という。)が引き継ぎ、Y社は、請求人から賃借した請求人所有の土地をFの医院の駐車場用に賃貸していたが、請求人は、Gから、Fは資金不足で医院の開設やその後の運営が順調に軌道に乗るか懸念される旨聞かされていたので、もし本件土地の売買代金の支払が医院の資金繰りを圧迫して経営が軌道に乗らないことにでもなれば、Y社にとってFからの賃料収入が期待できなくなることを危ぐした。そこで、請求人は、売買代金が少々安価でもY社の方で安定した賃料収入が得られればそれで良いと考えたのである。
 ところが、原処分庁は、請求人のこの考えについて、Y社がFに賃貸していた土地の地積が、本件土地の譲渡によって減少したにもかかわらず、請求人らが敷金の追加要求をしたことと矛盾すると主張している。
 しかし、この追加要求は、駐車場用として賃貸した土地の一部が医院の建物の敷地用に使われることになったことから、地主である請求人やY社にとって負担が大きくなったために行ったのであって、敷金の増額を求めても何ら不合理ではない。
 ところで、社団法人日本不動産鑑定協会Z会A県部会編著による平成5年版の「A県地価公示・地価調査価格要覧」でみると、本件土地の近傍の土地の地価調査、A(県)10―6(P市a町741番3外。以下「県10―6」という。)の価格は、平成2年度で1平方メートル当たり25,700円(坪当たり84,810円)となっている。この土地に比べれば幹線道路に面している本件土地の方がより高いと思われるが、それにしても坪当たり100,000円という売買価額が不相当に安いわけでは決してない。
ロ 重加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い、重加算税の賦課決定処分はその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
 本件更正処分は、請求人の分離短期譲渡所得の総収入金額について以下のとおり45,180,000円が相当と認められるから更正したものであり適法である。
 すなわち、本件土地の譲渡価額については、請求人は甲契約書で裏付けられていると主張するが、次のとおり、乙契約書による45,180,000円が相当と認められる。
(イ)本件土地の売買に関する契約書は、甲契約書のほかにGによって原処分庁に提出された乙契約書と丙契約書があり、これらすべての契約書の売主欄には請求人自らが住所、氏名を記入して押印していると認められることから、請求人はこれらすべての契約書の存在を承知していたはずである。ところが、請求人は、原処分及び異議申立てに係る調査を通じて乙契約書の存在のみを否定するという不自然な対応をしており、原処分庁がこの点を指摘したところ、請求人は、審査請求において今までの申述を一転させて乙契約書の存在を認めたことからも明らかなように、請求人の主張はその時々により変化しており信ぴょう性がない。
 また、請求人は、審査請求において、乙契約書は丙契約書と同様にGから銀行提出用に使うと言われてその作成に協力したものである旨主張するが、Gは丙契約書を基にJ銀行b支店へF名義で借入れを申し込み、そのとおりに融資が実行されていることから、Gが丙契約書のほかに銀行提出用としての契約書を作成する必要はない。
 したがって、本件土地の売買に関して作成された契約書のうち、真正なものは売買価額を45,180,000円とする乙契約書と認めるのが相当である。
(ロ)乙契約書による売買代金45,180,000円については、Gは原処分庁に対し、平成2年4月5日に20,000,000円、平成2年5月15日に25,180,000円を請求人に支払ったと申述し、この裏付け資料として、Gが作成した大学ノート1冊(表紙に「整形外科用」と記載されたもの。以下「大学ノート」という。)、平成2年の手帳2冊(表紙が無地のもの1冊及びAppoint DIARY’90と表示されたもの1冊。以下順次「手帳1」、「手帳2」という。)、「c整形外科開院計画資金運用明細」(以下「資金運用明細」という。)及び「G商事及びc整形外科に関する月別入金出金一覧表」(以下「月別入出金一覧表」といい、これらを併せて「G作成資料」という。)を提出したが、これらには本件土地の売買代金の支払等が詳細に記録されており、また、月別入出金一覧表に記載されている本件土地売買以外の支払については、同人が保存する領収証により確認できるものであることからして、これらG作成資料は信頼できるものである。
 なお、これらの支払事実については、Gが原処分庁に提出したJ銀行b支店及びJ銀行K支店の同人名義の普通預金通帳等によって、平成2年4月5日に各普通預金口座からそれぞれ10,000,000円の出金が認められ、また、同人が同様に原処分庁に提出したK農業協同組合△◎出張所(以下「K農協△◎出張所」という。)のG名義の総合口座通帳によって、平成2年5月15日に普通貯金口座から1,000,000円、4,113,000円及び1,000,000円の各出金が認められる。
 これに対して請求人は、受領事実については、平成2年4月5日の現金20,000,000円並びに平成2年5月15日の現金1,000,000円及び小切手4,113,000円であって、これらは発行した領収証から明らかであると主張する。
 しかし、平成2年4月5日から同年5月15日までのJ銀行K支店の請求人及びY社名義の預金口座に入金されたもののうち、本件土地の売買代金のほかにその資金出所が明らかでないものが次のとおり認められる。
 以上のように、本件土地の売買代金は45,180,000円と認めるのが相当である。

(単位 円)
取引年月日口座名義預金の種類口座番号金額
平成2年4月5日請求人普通預金○×○2,000,000
平成2年4月5日請求人定期預金○△○13,000,000

(ハ)本件土地の売買価額について、坪当たりでみると、請求人の申告額は100,000円、原処分庁主張額は180,000円であるが、平成3年11月に本件土地の近隣の宅地で坪当たり240,000円を超える売買実例があること、また、J銀行b支店がFに対して融資を実行した際、同銀行は本件土地を坪当たり240,000円と判断していたことが認められる。
 ところで、請求人は、本件土地は坪当たり約65,000円で取得したから、坪当たり100,000円でも売却する気持ちになった旨主張する。
 しかし、本件土地の取得は、代物弁済という特殊な形態を採っていること及びN社という特殊関係者との取引であることから、本件土地の坪当たり100,000円という売買価額に合理性があるという根拠にはならない。
 また、請求人は、本件土地の売買価額を坪当たり100,000円で決定したことに合理性があった理由として、本件土地の売買代金の支払のために、医院の資金繰りが圧迫されて経営が軌道に乗らないことにでもなれば、Fからの賃料収入が期待できなくなることを懸念した旨主張する。
 しかし、この主張は、平成元年12月に医院の敷地として貸し付けた土地が、その後、本件土地の譲渡によってその貸付面積が減少したにもかかわらず、敷金の追加要求がなされ、その要求分が受領されていることからみても矛盾したものである。
 なお、請求人は、本件土地の坪当たり100,000円という売買価額が不相当に低額なものではない根拠として、県10―6の価格を掲げているが、この価格は、県地価調査価格であり、一般の土地取引の指標として提供されてはいるものの、県10―6と本件土地とでは土地の価格形成要因が著しく異なっていることから、本件土地の売買価額の水準が妥当であるか否かについて、それを直接対比しても判断はできない。
 したがって、本件土地の譲渡価額は、売買実例等による坪当たりの価額からみても乙契約書による45,180,000円と認めるのが相当である。
ロ 重加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、請求人は、本件土地の譲渡価額が45,180,000円であるにもかかわらず、25,113,000円であるとの内容の不動産売買契約書を作成して真実の取引を仮装し、その仮装したところに基づき所得金額を過少に申告したものであり、このことは、国税通則法第68条《重加算税》第1項に規定する国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出した行為に該当するので、重加算税を賦課決定したものであり適法である。

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3 判断

(1)本件更正処分について

 本件審査請求の争点は、本件土地の譲渡価額が幾らかであるので、以下審理する。
イ 次のことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ)請求人は、Gとの交渉の下、売主を請求人、買主をFとする本件土地の譲渡に係る不動産売買契約を締結し、Gからその譲渡代金を受け取ったこと。
(ロ)本件土地の売買をめぐっては、請求人とGとの間で、甲契約書、乙契約書及び丙契約書の3通りの不動産売買契約書が作成されており、そのいずれにおいても請求人が売主欄に署名、押印していること。
 また、丙契約書については、銀行提出用に作成されたものであること。
(ハ)請求人は、平成2年4月5日にGから本件土地の売買代金のうち20,000,000円を現金で受け取ったこと。
(ニ)請求人は、平成2年5月15日にGから本件土地の売買代金のうち5,113,000円を現金1,000,000円と小切手4,113,000円で受け取ったこと。
ロ 請求人及びGが提出した資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件土地に係る不動産売買契約書について
A 甲契約書
 売買代金は「金弐千五百壱拾壱万参千円也、¥25,113,000.00」、取引業者に支払う仲介手数料は「813,390」円とそれぞれ印字され、取引業者欄には、株式会社d(以下「d社」という。)とH不動産の記名、押印がなされていること。
 契約日は、平成2年4月5日と記載されていること。
B 乙契約書
 売買代金は「金四阡五百壱拾八萬円也、¥45,180,000.00」、取引業者に支払う仲介手数料は「813,390」円とそれぞれ手書きされ、2箇所の取引業者欄にはいずれも、H不動産の記名、押印がなされていること。
 また、仲介手数料が「813,390」円と記載された箇所の下部には、「1,416,000」円と手書きされていること。
 なお、手書きされている売買代金及び表示物件の数字で「8」の筆跡は、関係資料等からみて、請求人及びGの筆跡とは明らかに異なり、請求人の知人で、当時、d社に勤務していたe(平成6年11月11日死亡。以下「e」という。)の筆跡と酷似していること。
 契約日は、平成2年とだけ記載されていること。
C 丙契約書
 売買代金は「金六阡弐拾四萬円也」と手書きされ、仲介手数料欄及び取引業者欄はいずれも記載されていないこと。
 また、手書きされている表示物件の数字で「8」の筆跡は、乙契約書の場合と同様、eのそれと酷似していること。
 契約日は、平成2年3月7日と記載されていること。
D 上記A、B及びCの各契約書のいずれにおいても、本件土地の地積は830.20平方メートルとなっており、本件土地が平成2年5月14日に請求人によって、合筆及び分筆登記された後の登記簿上の地積831.93平方メートルより1.73平方メートル(約0.5坪)少ないこと。
(ロ)K農協△◎出張所のG名義の総合口座通帳の普通貯金口座からの平成2年5月15日の出金状況について
 小切手で、7,533,900円、5,113,000円及び現金で1,000,000円がそれぞれ出金表示されているが、そのうちの7,533,900円及び5,113,000円については、その後それぞれが取り消され、再度、小切手で7,600,000円、4,113,000円及び現金で1,000,000円が出金されたと表示されていること。
 なお、上記の7,600,000円については、本件土地にあったY社の建物の売買代金ないしは移転費用として、本件土地の地積に3万円を乗じて評価して支払われた旨、P地裁平成5年(ワ)第○○○号ほか2件に係る民事訴訟において、P地方裁判所に証拠として提出された「平成6年1月10日付のf(請求人の氏名)の報告書」及び「平成7年3月31日付のGによるfの報告書に対する反論書」のいずれにおいても記載されている。また、平成2年5月15日付でY社からFあてに記載金額7,600,000円の領収証が発行されている。
(ハ)J銀行K支店の請求人及びその親族名義の預金取引明細における入金状況について
 請求人名義の普通預金口座へ、平成2年5月15日に1,000,000円及び4,113,000円が入金されている以外、平成2年5月15日以降平成7年6月30日までの間で本件土地の譲渡代金の一部と推認されるような額の入金事実は認められないこと。
(ニ)本件土地の売買代金受領に係る領収証について
A 平成2年4月15日の日付のもの
 金額が5,000,000円のもの1通と15,000,000円のもの1通があり、そのいずれも金額は印字され、発行人欄には請求人が自ら請求人の住所、氏名を手書きしていると認められること。
 なお、あて名欄の記載はないこと。
B 平成2年5月15日の日付のもの
 金額が5,113,000円と印字され、発行人欄には請求人が自ら請求人の住所、氏名を手書きしていると認められること。
 なお、あて名欄には「F」と記載されていること。
(ホ)Gが作成した手帳1及び手帳2の内容について
A 平成2年4月5日の欄
 手帳1及び手帳2ともに、甲契約書をGの自宅で作成し、その後、電話により甲契約書とは別の不動産売買契約書の作成を依頼した旨黒のボールペンで記載されていること。
 そして、この依頼した別の不動産売買契約書については、手帳1においては「本物」用と、手帳2においては「実質」用とそれぞれ何かの記録を修正液で消し、その上に記載された形跡があり、しかもこの修正液を使った訂正方法は、当該手帳におけるほかの訂正箇所では認められないこと。
 なお、手帳1における「本物」用と記載された後段には、「Bank」用と記載されていたものを複数の太線で抹消して、その下部に「自筆本物」用と記載されていること。
B 平成2年4月6日の欄
 手帳1及び手帳2ともに、上記Aで依頼した不動産売買契約書を作成した旨、また、手帳1には、その作成された契約書を2部ともeが持ち帰った旨それぞれ黒のボールペンで記載されていること。
C 平成2年5月15日の欄
(A)手帳1には、「現タンス(20,000,000)、小切手4,51,1,3,00円、小切手760万((内現67000))」と記載されていること。そして、(1)「(20,000,000)」については、一度書かれた数字を消す形で赤のボールペンで重ね書きされており、(2)「小切手4,51,1,3,00円」については、元々「5113,000」と記載されていたものに、数字の頭部に「4,」を、また、途中に「,」を加え、さらに最後尾の「0」の数字の上に「円」を黒のボールペンで重ね書きした形跡が認められ、さらに(3)「((内現67000))」については、元々「(内現65000)」と記載されていたものを「5」の数字の上に「7」を重ね書きし括弧書きを加えた形跡が認められること。
 なお、この「67000」と記載された欄の右側には、「(0.5坪の件)」と黒のボールペンで記載されていること。
 さらに、上記の内容が記載されているページの上部余白には、鉛筆書きで「45,113,000」に「67,000」を加算して「45,180,000」を算出し、本件土地の各売買契約書上の地積(坪数)と同じ251.13ないしは251で除し、「179,906」及び「18万」と算出した計算式が記載されていること。
(B)手帳2には、上記(A)の「小切手760万」の内訳とみられる内容が、「農協K△◎7,533,900」、「測量増地分66,000」及び「△△(請求人の名字)より受取100」とそれぞれ黒のボールペンで記載されているが、「測量増地分66,000」については、元々「測量増地分65,000」と記載されていたものを「5」の数字を「6」に変えた形跡が、また、「△△より受取100」については、元々「△△より受取、◇◇(fの名字)1,100」と記載されていたものを「◇◇」と数字の頭部の「1,」を太線で抹消した事実がそれぞれ認められること。
 また、当該ページの上段には、鉛筆書きで、「25,113,000」に「67,000」を加算して「25,180,000」を算出するとともに、「15日決済の際2518万の領収を持ってくるところ、4月5日の2000万分の領収を持って来て、差額だけの領収書を5月15日に持って来た。」と記載されていること。
 さらに、当該ページの中段には、鉛筆書きで、25,180,000あるいは45,180,000を上記(A)と同様に251.13ないしは251で除すなどして、それぞれ「100,266」、「180,000」及び「129,376.8」を算出しているほか、上述の7,533,900を本件土地の各売買契約書上の地積(坪数)と同じ251.13で除して「30,000」を算出していること。
(ヘ)P地裁平成5年(ワ)第○○○号ほか2件に係る民事訴訟において、P地方裁判所に証拠として提出された「平成6年10月13日付のGの陳述書」(以下「陳述書」という。)の内容について
A 甲契約書に関する部分
 平成2年4月5日に、その作成を依頼され、平成2年5月15日にGの自宅でeの同席の下、Gが実際に署名、押印して作成し、請求人と取り交わした旨記載されていること。
B 乙契約書に関する部分
 平成2年4月5日に、Gの自宅でeの同席の下2部作成し、その場で請求人と各1部を取り交わした旨記載されていること。
(ト)Gが平成7年8月29日に原処分庁に提出した申立書(以下「申立書」という。)の内容について
A 甲契約書に関する部分
 平成2年4月5日に、Gの自宅でeの同席の下に作成したもののその取り交わしはなく、原本はeが持ち帰り、その後同年5月15日を経過した後に、新たにタイプ打ちされたもののみが届けられた旨記載されていること。
B 乙契約書に関する部分
 平成2年4月5日に、Gの自宅でeの同席の下2部作成し、2部ともGが保管していたが、同年5月15日にその1部をeに渡した旨記載されていること。
(チ)Gが作成した資金運用明細及び月別入出金一覧表並びに「G商事及びc整形外科に関する口座別入金出金一覧表」(以下「口座別入出金一覧表」という。)の内容について
A 資金運用明細
 平成2年5月15日の欄には、5,000,000円、15,000,000円、1,000,000円及び67,000円の現金による支払と4,113,000円の小切手による支払が記載されていること。
B 月別入出金一覧表
 平成2年5月15日の欄には、Gの保有現金から20,067,000円とK農協△◎出張所のG名義の総合口座通帳の普通貯金口座から4,113,000円と1,000,000円とがそれぞれ払い出されて、請求人に本件土地の売買代金の一部として支払われた旨記載されていること。
C 口座別入出金一覧表
 口座別入出金一覧表の中で、Gが保有していた現金についてその出入を記載したXと称する口座の平成2年5月15日の欄には、請求人に本件土地の売買代金として20,067,000円を支払った旨記載されていること。
(リ)Gが作成した大学ノートの内容について
 平成2年5月15日の本件土地等に係る売買代金の決済を表す記事として、「平成2年5月15日、土地現金20,000,000」、「平成2年5月15日、土地残決済、△△小切手¥5,113,000、◎◎(Y社の名称の一部)¥7,600,000」との記載があること。さらに、5,113,000円については、4,113,000円と1,000,000円とに分割した旨の、また、7,600,000円についてはその内訳として「小切手7,533,900、0.5坪65,000及び△△現1,100」の記載がそれぞれあること。
ハ 請求人は、当審判所に対し、次のとおり答述している。
(イ)請求人は、Y社が業績不振に陥り本業である製材業から撤退することとなったため、請求人所有の土地を賃貸して安定した収入を得ようと考え、平成元年の暮れごろ、eにその土地の賃借人探しを全面的に依頼した。
 依頼して間もなく、Fが当該土地を医院開業のための用地として賃借したい意向であるとの情報があり、同人から委任を受けたGとの間で、賃貸人をY社、賃借人をFとする不動産賃貸借契約を結んだ。
 その後、Gから、賃貸した土地約1,200坪のうちの約250坪に相当する本件土地の売却を懇願され、これに応じた。
(ロ)本件土地の売買価額を坪当たり100,000円で決定したのは、本件土地の近隣地域における売買実例を基に双方で協議した結果であるが、請求人にとっては、本件土地をN社から坪当たり約65,000円で取得していたことから、坪当たり100,000円で譲渡すれば、利益を得ることができるし、Fにも大きな負担にはならないと判断したことによるものである。
(ハ)本件土地の真の売買価額を表す不動産売買契約書は甲契約書であり、その契約時の状況等については次のとおりであった。
 平成2年4月5日に、司法書士のg(以下「g」という。)の事務所(以下「g事務所」という。)において、甲契約書を2部作成しGと取り交わした。
 その際同席していたのは、e、g及びその父のHであったと記憶しており、甲契約書の売主欄には請求人が署名、押印し、買主欄にはFの署名、押印をGが行い、取引業者欄の一箇所にgかHのどちらかが記名、押印したと思う。
 なお、甲契約書は、eが用意してきたもので、売買代金等は既にタイプ打ちされており、また、取引業者欄のもう一つの箇所のd社の記名及び代表者印は、その時は既に押されていたと記憶している。
(ニ)本件土地の売買代金の決済は、平成2年4月5日と同年5月15日の2回に分けて行われたが、その際の状況等については次のとおりであった。
A 平成2年4月5日に甲契約書を取り交わした際、Gから現金で20,000,000円を受け取るとともに記載金額5,000,000円及び15,000,000円の領収証を交付した。
 受領した20,000,000円は、約1,500万円をJ銀行K支店における請求人名義の借入金返済に充て、2,000,000円を同支店の請求人名義の普通預金口座に入金した。
B 平成2年5月15日に、g事務所で、e及びgの同席の下、Gから現金で1,000,000円と小切手で4,113,000円の計5,113,000円を受け取り、記載金額5,113,000円の領収証を交付した。
 なお、この5,113,000円を現金と小切手に分けて決済したのは、Gの都合によるものであり、Gが自ら用意してきたものであった。
 受領した5,113,000円は、全額をJ銀行K支店の請求人名義の普通預金口座に入金した。
(ホ)乙契約書及び丙契約書の作成理由並びに作成時の状況等については、次のとおりであった。
A Gから、乙契約書及び丙契約書のいずれについても、銀行提出用として作成するものと聞いていたので、その作成に協力した。
 最初、乙契約書を作成したが、その後、Gから乙契約書記載の売買代金では銀行借入れに差し入れる担保としては評価が足りないと言われ、更に丙契約書を作成することになった。
B 乙契約書及び丙契約書のいずれについても、本件土地の売買代金の最終決済を行った平成2年5月15日以降に、請求人の自宅で請求人とGだけで作成したと記憶している。
 Gが金額及び契約条項等について既に記載された不動産売買契約書を用意してきていたので、その契約書の売主欄に請求人が署名、押印し、買主欄のFの署名、押印は、Gが行った。
ニ Fは、当審判所に対し、次のとおり答述している。
 医院開業のための用地をGを代理人として、平成元年の秋から暮れにかけて探し始めたが、最終的には請求人が所有する土地を使用することを決断し、Gに請求人との交渉を全面的に任せた。
 Gを信頼し、請求人との土地取引についてもそのすべてを任せていたので、その交渉経緯や売買代金等について、Gに聞くことも、また、Gから相談を受けることもなかったが、ただ、本件土地の売買に関する契約書は、真正なもののほか銀行借入用のものも作成したとの話は聞いたことがあった。
ホ Gは、当審判所に対し、次のとおり答述している。
(イ)G経営による医院を開設するため、それに供すべき土地を必要としていたところ、平成元年6月ごろ、gから請求人の紹介を受け、請求人及び請求人の土地取引に係る代理人であったeと交渉を持つことになった。交渉の結果、平成元年12月に、賃借人をFとする請求人所有の土地約1,200坪の賃貸借契約を結んだ。
 その後、医療金融公庫からの融資引合いのため、F名義での土地の取得が必要となり、請求人等と交渉を行った結果、賃借している土地の一部であった本件土地を取得した。
 なお、gは、請求人の紹介を行った日以降、請求人との土地取引の交渉の場には参加しなかった。
(ロ)本件土地の売買価額を坪当たり180,000円とすることについては、請求人側からの提案によるものであり、平成2年3月22日に双方が同意して決定した。
 なお、本件土地の売買価額は、本件土地の地積251.13坪の小数点以下を切り捨てた251坪に坪当たりの180,000円を乗じた45,180,000円で決定した。
(ハ)本件土地の真の売買価額を表す不動産売買契約書は乙契約書であり、その契約時の状況等については、次のとおりであった。
 平成2年4月5日に、Gの自宅において、乙契約書を2部作成し請求人と各1部を取り交わした。また、その際同席していたのはeだけであった。
 なお、乙契約書には、売買代金が請求人の手書きによるものと認められる書き方で既に記載されており、また、2箇所の取引業者欄には、いずれにもH不動産の記名、押印が既になされていた。
(ニ)本件土地の売買代金の決済は、平成2年4月5日と同年5月15日の2回に分けて行われ、その際の状況等については、次のとおりであった。
A 平成2年4月5日に、現金で20,000,000円を請求人に支払った。
 この20,000,000円は、J銀行b支店及びJ銀行K支店のG名義の普通預金口座からそれぞれ10,000,000円を払い出したものである。
B 平成2年5月15日に、25,180,000円を支払った。
 Gの自宅で、eの同席の下、現金で20,067,000円を支払った。この20,067,000円については、ゴルフバッグに入れて保管していた10,000,000円を単位とする銀行の十字の帯封が掛かった束2つと残りの現金67,000円でもって支払った。
 差額の5,113,000円については、既にK農協△◎出張所振出しの保証小切手を用意していたので、それを請求人に渡そうとしたが、請求人は、「小切手は、足がつくからいやだ。」と言ってその受取りを拒んだ。仕方なく請求人と一緒に同出張所に行き、小切手の現金化を依頼したが、同出張所では現金が約100万円しかないということで、請求人にも納得を得た上で、1,000,000円を現金で、残りの4,113,000円については、再度、保証小切手を組み直して請求人に支払った。
 また、請求人からは、記載金額5,000,000円、15,000,000円及び5,113,000円の3枚の領収証を受け取った。
C 平成2年5月15日に現金で支払った21,067,000円のうちの20,067,000円については、保有していた現金から支払ったものであるが、これは、資金運用明細のほか、月別入出金一覧表及び口座別入出金一覧表によってその事実を証明することができる。
 月別入出金一覧表及び口座別入出金一覧表は、医院開業に要した費用等を領収証や銀行口座の異動明細等を基に時系列に記載したもので、記載事実を証する領収証は、本件土地の売買代金のうち領収証を受け取れなかった20,067,000円に係るものを除き、すべてが保管されていることからも、その記載内容の信ぴょう性が裏付けられる。
 なお、上記の20,067,000円については、それを支払う直前まで6,000万円余りの現金があり、それから支払ったものであり間違いはない。
(ホ)甲契約書、丙契約書の作成理由及び作成時の状況等については、次のとおりであった。
A 甲契約書については、請求人から税務対策用として本件土地の真の売買価額とは異なる不動産売買契約書を作成したいので協力してほしい旨要望され、平成2年4月5日に、Gの自宅でeの同席の下、売主欄に請求人が署名、押印し、買主欄のFの署名、押印は、Gが行って2部作成した。
 しかし、作成した甲契約書は売買代金等が手書きであったため、eがタイプ打ちしたきれいなものに仕上げて来ると言って2部とも持ち帰り、その後、売買代金の最終決済を行った平成2年5月15日に、タイプ打ちされた甲契約書のみがGに届けられた。
B 丙契約書については、Gが銀行提出用として必要であったため、請求人にその作成を要請していたところ、平成2年3月29日に、請求人からGの自宅へ届けられたので、Gは、それに売買代金等を記載してJ銀行b支店に提出した。
(ヘ)手帳1及び手帳2の記載状況は、日々の出来事を毎日あるいは2、3日分をまとめて、それぞれ並行して記録していたものであり、資金運用明細の作成に当たっても、これら手帳の記録を基に作成したと記憶している。
 平成2年5月15日の手帳1及び手帳2の記録における上記ロの(ホ)のCの各種試算した内容については、そこに記載された金額及び計算式が具体的に何を意味するものであったか思い出せないが、平成2年5月15日に保有現金から支払った20,067,000円のうちの67,000円が請求人にとってどのような意味があるのかを種々検証するために記載したと記憶している。
ヘ gは、当審判所に対し、次のとおり答述している。
(イ)eから、請求人の土地を賃借したい者がいれば情報を提供してほしい旨の依頼を受けていたところ、Gから医院建設等に供するための土地を探しているとの話があったので、その旨をeに連絡した。
 本件土地の取引等については、eにH不動産の名義を貸すことによる形式的関与をしたにすぎず、その具体的内容は分からない。
(ロ)本件土地の売買価額については、請求人が予期していた価額よりも高く、Gが予期していた価額よりも低い価額に落ち着くことになったようであり、その決定までにはさほど時間がかからなかったと記憶している。
(ハ)当時、本件土地に係る不動産売買契約書は、そこに表示された売買代金が幾らであったかは分からないが、売買代金を異にする3通りのものが作成されたと認識していた。
 また、そのうちの1通については、g事務所でgの立会いの下に、請求人、e及びGが同席して作成されたが、売買代金等については、既に請求人とGとの間で取り決められており、その場での新たな交渉はなかった。なお、本件土地の売買代金やその決済状況については憶えていない。
(ニ)上記(ハ)の不動産売買契約書作成後、eから、もう一度本件土地の売買に関する契約書を作成しなければならないので取引業者としての名義を貸してほしいと契約書持参の上で依頼され、これに応じたが、その時、契約書の取引業者欄にH不動産等の記名、押印をしたか、記名判等をeに貸したかについては記憶していない。
ト 以上の各事実及び関係人の答述を総合して判断すると、次のとおりである。
(イ)本件土地の売買契約書について、原処分庁は、請求人の乙契約書に関する主張には信ぴょう性がなく、Gから提出された乙契約書こそ真正な売買契約書であると主張する。
 しかし、次の事実等を照らし合わせると、乙契約書が真に本件土地の売買を表すものと認定することはできない。
A 乙契約書については、上記ロの(イ)のBのとおり、作成時期が明らかでない上、仲介手数料は異なった金額が二段書きされ、取引業者欄には2箇所ともH不動産の記名、押印がなされているように、不自然な箇所があり、これが真正なものとするには疑わしいものである。
B 乙契約書の作成時期及びその取り交わし状況については、Gの答述等や同人の手帳1及び手帳2に記録されているが、上記ロの(ホ)のA及びB、ロの(ヘ)のB及び(ト)のB並びにホの(ハ)のとおり、これらはその時々により内容が異なっている等信用できないものである。
(A)作成時期について
 Gの陳述書、申立書及び答述では、平成2年4月5日に作成したとしているのに対し、手帳1及び手帳2では、そこに「本物」用あるいは「実質」用と記載された不動産売買契約書が乙契約書を示唆していると推認されるところ、それが平成2年4月5日にその作成を依頼し、実際に作成されたのは翌日の4月6日であった旨記載されていること。
(B)取り交わし状況について
 作成された乙契約書については、申立書では、2部ともGが保管していたが、平成2年5月15日にその1部をeに渡したとしているのに対し、陳述書及び答述では、各1部を請求人と取り交わしたとし、手帳1では、2部ともeが持ち帰ったとしていること。
 また、手帳1及び手帳2とも、平成2年4月5日の欄に甲契約書及び乙契約書の作成に関する内容が記載されているが、上記ロの(ホ)のAのとおり、両手帳とも、書かれていた記録を修正液を使ったり、複数の太線で消して別の内容に書き替えているように、それら記載内容が真実のものかどうか疑わしいといわざるを得ない。
C さらに、乙契約書の作成等に関するGの答述等は、甲契約書、乙契約書及び丙契約書の記載内容並びにgの答述からみても、次のとおり不自然であり、信用できないものである。
(A)gは、上記ヘから、本件土地の売買に関して、eにH不動産の名義を貸すことによって形式的に関与していたにすぎないことが推認されることから、gは、本件土地の売買においては中立的な立場にあるところ、上記ヘの(ハ)のとおり、gは、本件土地の不動産売買契約書の作成をめぐって、売買代金を異にする3通りの不動産売買契約書のうちの1通について、g事務所において作成されたとしている。
 ところが、このことに関して、Gは、上記ロの(ヘ)及び(ト)並びにホの(ハ)及び(ホ)のとおり、本件土地の売買に関する契約書は、いずれもGの自宅において作成したとしている。
 なお、請求人は、上記ハの(ハ)のとおり、gと同旨の答述をしている。
(B)gは、上記ヘの(ハ)及び(ニ)のとおり、1通の不動産売買契約書の作成に立ち会った日以降において、eから、再度、本件土地の売買に関する契約書作成のためH不動産の名義を貸してほしい旨依頼され、それに協力したとしている。
 ところで、甲契約書、乙契約書及び丙契約書の特徴をみると、上記ロの(イ)のAないしCのとおり、甲契約書の売買代金等は印字されているのに対し、乙契約書及び丙契約書の売買代金等は、手書きであり、その手書きによる部分の売買代金及び表示物件の文字は、乙契約書については両方とも、また、丙契約書については表示物件の記載がeの筆跡と同一であると認められる。
 また、乙契約書の取引業者欄にはH不動産の記名、押印があり、丙契約書の取引業者欄には全く記載がない。
 そうすると、gが立ち会った際に作成された不動産売買契約書は甲契約書で、甲契約書が作成された日以降に作成された不動産売買契約書は乙契約書であったことがそれぞれ推認される。
 ところが、この乙契約書の作成日について、Gは、上記Bの(A)で述べたとおり、ある時は、甲契約書の作成日と同じ平成2年4月5日としたり、その翌日の4月6日としているが、上記ロの(ヘ)のとおり、陳述書では、甲契約書より早い時期に作成したとしている。
 なお、請求人は、上記ハの(ハ)及び(ホ)のBのとおり、gと同旨の答述をしている。
(ロ)本件土地の売買価額について、原処分庁は、45,180,000円と認定した根拠として、本件土地の売買に関する契約書以外にG作成資料の記載内容により裏付けられると主張する。
 しかし、次のとおり、45,180,000円が本件土地の売買価額であるとは認定できない。
A G作成資料において「45,180,000」は、上記ロの(ホ)のCの(A)のとおり、その内訳が「45,113,000」と「67,000」とであるとして記載されており、これらの数字は金額を表していると認められる。
 ところで、「45,113,000」円については、上記ロの(ホ)のCの(A)のとおり、本件土地の売買代金として、平成2年5月15日に決済された「5113,000」円の数字のその頭部と途中にそれぞれ「4」あるいは「,」を加筆し、さらに最後尾の「0」の数字に「円」を重ね書きして「4,51,1,300円」にし、また、「67,000」円については、次のBの(B)に詳述するとおり、実際には別の事情から支払うこととなった「65,000」円を訂正していると認められることを併せ考えると、真実をそのまま記録したものとは到底信ずることができない。
B 上記Aの67,000円は、G作成資料においては、上記Aのとおり、45,180,000円の一部として記載されており、また、上記ロの(チ)のAのとおり、45,180,000円と請求人が発行した領収証記載金額の合計25,113,000円との差額に相当する20,067,000円の内訳として記載されている。
 しかし、この67,000円、更には20,067,000円については、次のとおり、これらが本件土地の売買代金の一部とは到底信ずることができない。
(A)手帳1において67,000円は、上記Aのとおり、45,180,000円の内訳として記載されているが、当該67,000円について、Gは、上記ホの(ヘ)のとおり、請求人にとって本件土地の売買価額においてどのような意味を有するか種々検証した旨答述している。そうすると、本件土地の売買価額は、当該67,000円の支払がなかったとすれば45,113,000円であったことになる。
 ところが、Gは、上記ホの(ロ)のとおり、本件土地の売買価額45,180,000円は、本件土地の地積251.13坪の小数点以下を切り捨てた251坪に坪当たりの180,000円を乗じて決定し、また、これについては、請求人と双方で同意したものである旨答述している。
 このように、Gの答述等は矛盾したものである。
(B)67,000円の訂正前の金額「65,000」円については、次のとおり、本件土地の売買契約後に本件土地を合筆及び分筆登記した結果、本件土地の地積が当初の地積より約0.5坪増加、それに見合う分をY社の建物代金等の追加として支払われたことが、上記ロの(イ)のD、(ロ)、(ホ)のC及び(リ)によって読み取ることができる。
 すなわち、本件土地の売買においては、本件土地の上にY社の建物が現存していたため、その建物についてもG側が買い取っており、その建物の売買価額等は、本件土地の地積(坪数)に30,000円を乗じて決められ、当初の売買契約時点においては7,533,900円(30,000円×251.13)であったのが、本件土地が約0.5坪増加したことによって、その増加分に見合う建物の売買代金等としてY社に支払われることとなり、結局、Y社の建物の売買価額等は7,600,000円となったものと認められる。
 このことは、上記ロの(ロ)のとおり、K農協△◎出張所のG名義の総合口座通帳の普通貯金口座の平成2年5月15日の出金状況が、いったん7,533,900円として出金表示され、それが取り消されて新たに7,600,000円を出金していることからも裏付けられているといえる。
 以上のように、67,000円について当事者間に収受の理由がなく、したがって、当該金額を含む20,067,000円が本件土地の売買代金の一部であるとは信用できないといわざるを得ない。
(C)67,000円は、上記ロの(ホ)のCの(A)及び(リ)のとおり、手帳1及び大学ノートにはその支払について記載されておらず、また、20,067,000円については、上記ロの(ホ)のCの(B)及び(リ)のとおり、「…差額だけの領収書を5月15日に持って来た。」あるいは「平成2年5月15日、土地残決済、△△小切手¥5,113,000」の5,113,000円を本件土地の売買代金の最終代金とみる内容の記載から判断すれば、この67,000円を含め20,067,000円が本件土地の売買価額の一部であるとするGの答述等に信ぴょう性を認めることはできない。
(ハ)本件土地の売買代金の決済状況について、原処分庁は、45,180,000円の支払状況がGの申述及びG作成資料の内容によって裏付けられる旨主張する。
 しかし、Gの申述及びG作成資料については、上記(ロ)のとおりのほか、次の事実等からしても信用できないものであり、また、ほかに原処分庁の主張を認めるに足りる証拠もないことから、請求人が本件土地の売買代金として45,180,000円を受け取ったと認定することはできない。
A Gの本件土地の売買代金に係る資金出所は、上記ロの(ロ)及び(チ)並びにホの(ニ)のとおり、G作成資料等の記載内容及び同人の答述の中で明示されているが、そのうち検証できる部分は、G名義の預貯金口座から出金された平成2年4月5日の20,000,000円と同年5月15日の5,113,000円だけであり、平成2年5月15日に現金で支払ったとする20,067,000円については証拠がない。
B 請求人は、平成2年5月15日にGから本件土地の売買代金として受け取った金額は5,113,000円のみであると主張し、使途については上記ロの(ハ)及びハの(ニ)のBのとおりの事実が認められるところ、さらに20,067,000円がGによって支払われたとされることに対しては、その受取を証する領収証が上記ロの(ニ)のとおり現に存在せず、また、ほかに請求人が受け取ったことを証明する証拠も認められない。
(ニ)本件土地の売買価額の坪当たりの金額について、原処分庁は、その近隣地域において、平成3年11月に坪当たり240,000円を超える売買実例があること並びにJ銀行b支店がFに対する融資実行に際し、本件土地を坪当たり240,000円と評価していることからしても、乙契約書による坪当たり180,000円は相当である旨主張する。
 しかし、不動産の現実の取引価格等は、取引等の必要に応じて個別的に形成されるのが通常であり、しかもそれは個別的な事情に左右されがちなものであることから、取引当事者における具体的な個別事情については無視できない要因であるところ、上記ハの(ロ)及びヘの(ロ)の各答述に照らして、本件土地の売買価額の決定においても、当事者間において無視できない個別事情が存在していなかったと認めることは相当でない。
 したがって、本件土地の売買価額の坪当たりの金額について、近隣地域の売買実例や金融機関の融資実行額との単純な比較によってその当否を判断することはできない。
 また、上記(ロ)のBの(B)のとおり、67,000円に訂正される前の65,000円は、坪当たりの金額にすると130,000円(65,000円÷0.5坪)となることから、Y社の当初の建物の売買代金等30,000円(坪当たり)と甲契約書に基づく本件土地の売買代金100,000円(坪当たり)との合計金額130,000円に相当する。
 そうすると、Gがその答述等において、本件土地の売買価額を坪当たり180,000円であったとする点も信ぴょう性がないといわざるを得ない。
チ 以上の結果、請求人がGから本件土地の売買に際し、甲契約書記載の売買代金以外の金銭を受領した事実は認められず、また、ほかにもその受領の事実を認めるに足りる証拠はないので、本件土地の譲渡価額は、請求人が確定申告した25,113,000円であると認められる。
 よって、請求人の平成2年分の分離短期譲渡所得の金額は、申告に係る分離短期譲渡所得の金額と同額であるから、本件更正処分はその全部を取り消すべきである。

(2)重加算税の賦課決定処分について

 重加算税の賦課決定処分については、本件更正処分の全部の取消しに伴い、その全部を取り消すべきである。

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