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(平9.7.2裁決、裁決事例集No.54 231頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、フィリピン及び大韓民国(以下「韓国」という。)から歌手、ダンサー等の芸能人を招へいし、国内のクラブ等の当該芸能人の役務を提供することを業とする法人であり、クラブ等から芸能人の役務提供に係る対価を受領し、その対価の中から芸能人に報酬を支払っている。フィリピンから招へいした芸能人については、その報酬の支払の際に20パーセントの所得税を源泉徴収していたが、歌舞団員として韓国から来日している芸能人(以下「本件芸能人」という。)がクラブ等において舞踊等の芸能活動をしたことにより受ける報酬(以下「本件報酬」という。)については、「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国と大韓民国との間の条約」(以下「日韓租税条約」という。)により我が国においては免税とされるという理由で、請求人に源泉徴収義務はないとの認識により、その報酬の支払の際に所得税を源泉徴収していなかった。
 これに対し、原処分庁は、別表の「本件納税告知処分による本税額」欄及び「不納付加算税額」欄のとおり、平成7年12月26日付で平成4年1月から平成6年8月までの各月分の本件報酬についての源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の各納税告知処分(以下「本件納税告知処分」という。)及び不納付加算税の各賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
 請求人は、原処分を不服として平成8年1月31日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は同年4月26日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして平成8年5月28日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件納税告知処分について
(イ)日韓租税条約の解釈等について
 原処分庁は日韓租税条約の条文を文法どおり忠実に読んでおらず、あらかじめ予定された前提や、あらかじめ植え付けられた先入観にとらわれ、条文を無視した既成概念に基づき、本件報酬は、我が国において免税とならないと解釈し、請求人に源泉徴収義務があると認定している。
 しかしながら、本件報酬は、次に述べるとおり、日韓租税条約の解釈上我が国においては免税とされるから、本件報酬について請求人に源泉徴収義務はない。
A 日韓租税条約第12条(4)によると、「(1)及び(3)の規定にかかわらず、演劇、・・・運動家その他の芸能人がこれらの者としての人的役務によって取得する所得については、その人的役務が行われる締約国において租税を免除する。ただし、その所得が一定額を超える場合は、この限りでない。」と規定している。
B しかし、日韓租税条約第6条(1)において、「一方の締約国の居住者又は法人は、他方の締約国内に恒久的施設を有しない限り、その産業上又は商業上の利得につき当該他方の締約国において租税を免除される。」と規定している。
C そこで、日韓租税条約第4条(4)(b)をみると、「第12条(4)に規定する芸能人の役務」については物理的恒久的施設を有しない場合でも、恒久的施設を有するものとされるいわゆる「みなし恒久的施設」の規定をおいている。
 しかし、日韓租税条約第4条(5)において、「(4)の規定にかかわらず、一方の締約国の居住者又は法人は、真正な仲立人、問屋、運送取扱人、保管人その他独立の地位を有する代理人でこれらの者としての業務を通常の方法で行うものの役務を他方の締約国内で利用しているという理由のみでは、当該他方の締約国内に恒久的施設を有するものとされることはない。」と規定している。
 上記の日韓租税条約第4条(5)において、「(4)の規定にかかわらず」とは、言い換えれば「(4)(a)、(b)にかかわらず」と同義であるから、当然に同条(4)(b)(2)で規定している「第12条(4)に規定する芸能人の役務」のみなし恒久的施設の規定も適用しないということである。
 したがって、日韓租税条約第4条(5)に規定する代理人は、原処分庁のいう代理人のみに特定されていないから、請求人は同条(5)に規定する「独立の地位を有する代理人」の立場としては、同条(5)の規定により「第6条(1)の規定が適用され、恒久的施設を有しないこととされるため、我が国における租税を免除される。」と解釈するのである。
D この日韓租税条約第4条及び第6条の条文は、個人・法人を問わず適用される規定であり、本件芸能人は、請求人という独立の地位を有する代理人を通じて国内で事業活動を行っているので、その所得は同条約第6条(1)にいう産業上又は商業上の利得に該当する。
 したがって、本件芸能人は、国内に恒久的施設を有しないことになるから、日本国内において租税を免除されることになる。
E 「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とグレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国との間の条約」(以下「日英租税条約」という。)第6条(4)及び(6)と、日韓租税条約第4条(4)及び(5)を比較しても、その条文の書き方が明らかに違っている。
 日英租税条約の条文の書き方であれば、原処分庁の解釈も正しいと思われるが、この書き方が明らかに違う日韓租税条約を同じく解釈することは正しくない。
 憲法に租税法律主義がうたわれているように、課税要件は法律の条文上明確に表現されていなければならない。すなわち、租税条文は、そこに書かれている文言どおりに忠実に解釈すべきである。
 日韓租税条約第4条(5)の規定を原処分庁の主張のように解釈したいのであれば、まず、上述した日英租税条約第6条(4)及び(6)のように、誰にでもそのように解釈できるよう条文を改正することが先決である。
 条文は文言どおり解釈(文理解釈)すべきであるということについては、過去の判例において、不合理や不備と思われる条文がある場合には、まず、その条文を合理的な文言に改正することが先決であることを判示している。
 したがって、条文の趣旨や常識から考えて不合理であるからといって、強引に、書かれている条文を文言どおり解釈せず、あらかじめ予定された条文の趣旨や常識に沿って、文言として書かれていない除外規定を作文して解釈するのは租税法律主義に反する。
F 以上のことから、本件芸能人は、日韓租税条約第4条(5)の規定により、日本国内に恒久的施設を有しないことから、同条約第6条(1)の規定により日本国内において租税は免除される。
 なお、原処分庁は、答弁書において、本件芸能人の報酬に対する「所得税の免除に係る租税条約に関する届出書」(以下「租税条約に関する届出書」という。)が提出されていない旨述べているが、請求人は、当初から租税条約に関する届出書に「租税条約第6条」と記載して原処分庁に提出しており、数年間、原処分庁は黙って当該届出書を受理していた。
 しかし、平成4年ころになって、この届出書は適用がない旨を言い出したため、その後は租税条約に関する届出書に「第4条(5)」と記載して提出している。
 税務署は納税者を指導する立場にもあるわけであるから、租税条約に関する届出書を提出しているにもかかわらず、提出していないと述べるなど、納税者を惑わすようなことをせず、趣旨を理解し指導していくという立場をもっと重視すべきである。
(ロ)請求人と本件芸能人との関係及び経理処理等について
 請求人は、次に述べる理由により、本件報酬を本件芸能人に代わり預かっているにすぎないから、請求人は本件芸能人の独立の地位を有する代理人に該当する。
A 請求人は、本件芸能人から連絡を受けると韓国へ行き、歌舞団の代表者から日本の公演先との契約交渉を依頼され、当該依頼を受けて公演先との契約の段取りをし、互いの条件(1名当たりの報酬額及び滞在費の額等)が合意すると、本件芸能人の委任状をもって本件芸能人の立場に立って公演先との契約をする。
 つまり、一言で言えば、本件芸能人の手となり、足となって契約を引き受けるのである。
B 実質は上記Aのとおりであるが、本件芸能人が日本において公演するには、入国管理局の指導により、本件芸能人と請求人との契約書(契約内容は別紙1の契約書(様式)のとおり。以下「出演契約書」という。)及び公演先と請求人との契約書(契約内容は別紙2の請負契約書(様式)のとおり。以下「請負契約書」という。)を作成し、入国管理局に提出しなければ本件芸能人の入国の許可が下りないことから、当該許可を受けるための対策として、上記により作成した出演契約書及び請負契約書を入国管理局に提出している。
 当該契約書は原処分庁の調査の際にも提示したが、上述のとおり実態のない形式的なものである。
C また、請求人には当初、経理専門の事務員がおらず、週に一回程度の割合で記帳屋に事務所に来てもらい、帳簿を記帳してもらっていたため、きめ細かな経理処理は困難な状況にあった。
 このため、便宜的に現金等の入出金に基づいて収益又は費用に計上している。
 つまり、請求人には簿記会計の知識もなければ、勘定科目の性格を熟知して科目別に処理していたわけでもなく、零細企業は会計監査も行われないため、帳簿を記帳するのはすべて税務申告のためである。
 したがって、上述の会計処理をしても、あるいは勘定科目別の性格のとおりの会計処理をしても結果的には法人税等の額は変わらず、むしろ預り金等の勘定科目を用いて煩雑にすることは、かえって損益計算に漏れが生じ、正しく計算が行われない可能性が強かったため、公演先から預かった金額を売上げとし、本件芸能人に支払うべき金額を仕入れとして処理すると、自動的にその差額として請求人の計上すべき収益が算出されるので損益の計上漏れが生じないのである。
D 本件における契約の実態及び経理処理の経緯は上記AないしCのとおりであるから、請求人は本件芸能人の代理人として公演先と契約し、本件芸能人に代わって本件報酬を公演先から受領し(預かり)、当該代理行為に係る一定の手数料を控除した残額を本件芸能人に手渡ししているのみであるから、請求人が本件芸能人にとって独立の地位を有する代理人であることは明らかであるにもかかわらず、原処分庁は、出演契約書及び請負契約書の存在、公演先からの入金を請求人の売上げに計上し、本件芸能人に支払うべき金額を仕入れに計上しているという実態のみを形式的にとらえ、請求人は本件芸能人の役務提供に係る独立の地位を有する代理人であると認めないのは不当である。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イに述べたように本件納税告知処分は違法であるから、本件賦課決定処分は取り消されるべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次に述べる理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件納税告知処分について
(イ)本件取引について
 原処分庁の調査によれば、次の事実が認められる。
A 請求人は、韓国から本件芸能人を国内に招へいし、国内のクラブ等に出演させることを業としており、各クラブ等から受け取る出演料を収益としていること。
B 本件芸能人は、クラブ等に出演し、芸能人としての人的役務を提供していること。
C 請求人は、上記Aの出演料を請求人の平成3年9月1日から平成4年8月31日までの事業年度、平成4年9月1日から平成5年8月31日までの事業年度及び平成5年9月1日から平成6年8月31日までの事業年度(以下、平成3年9月1日から平成4年8月31日までの事業年度及び平成4年9月1日から平成5年8月31日までの事業年度と併せて「本件各事業年度」という。)の売上げに計上し、本件報酬を本件各事業年度の仕入れに計上していること。
D 請求人は、本件芸能人に対し、出演料、作品代、衣装代、交通費及び活動費の名目で本件報酬を支払っているが、これに関する源泉所得税の徴収及びその納付を行っていないこと。
E 請求人は、原処分に係る調査の際、調査担当者に対し、本件芸能人との間の出演契約書を提示していること。
F 請求人は、○○入国管理局に、クラブ等が請求人に本件芸能人の舞踊、歌唱を内容とする興行を依頼し、それに基づき作成された請負契約書を提出していること。
G 請求人は、原処分に係る調査の際、調査担当者に対し、本件報酬の支払明細を記載したノート(以下「本件支払報酬表」という。)を提示し、これ以外に本件報酬に係る領収証等の帳票類はない旨申し述べていること。
H 請求人の本件各事業年度の各法人税確定申告書に添付された損益計算書記載の仕入金額と本件支払報酬表に記載された本件各事業年度の本件報酬の合計額は一致すること。
I 本件芸能人個々に係る租税条約に関する届出書は提出されていないこと。
(ロ)日韓租税条約の解釈等について
 請求人は、日韓租税条約上、本件芸能人が受領する本件報酬については我が国において免税とされるから、請求人に源泉徴収義務はない旨主張するが、次に述べる理由により、本件報酬は免税とはならない。
A 所得税法第212条《源泉徴収義務》第1項は、非居住者に対し国内において同法第161条《国内源泉所得》第1号の2から第12号に掲げる国内源泉所得を支払う者又は外国法人に対し国内において同条第1号の2から7号若しくは第9号から第12号に掲げる国内源泉所得の支払をする者は、その支払の際、これらの国内源泉所得について所得税を徴収しなければならない旨規定している。
 そして、非居住者である芸能人が国内において活動した対価を支払う場合には、所得税法第161条第8号イに規定する人的役務の提供に対する報酬に該当することになり、同法第213条《徴収税額》第1項第1号の規定により、その対価に20パーセントの税率を乗じた金額を所得税として徴収すべきこととなる。
B 上記Aの場合において、所得税法に優先して適用される各国との租税条約のうち、日韓租税条約を本件に当てはめると、次のように規定している。
(A)韓国の法人が、日本国内において芸能人の役務を提供して所得を得た場合、日韓租税条約第4条(4)(b)(2)の規定により、他方の締約国内に恒久的施設を有するものとされ、同条約第6条の規定により日本国の租税が課される。
(B)韓国の居住者が、日本国内で芸能人としての人的役務の提供によって報酬を得た場合、日韓租税条約第12条(1)及び(2)(a)の規定により、原則として法人同様日本国の租税が課されることとなるが、一定額以下の所得の場合には、同条(4)の規定により日本国の租税が免除される。
 なお、この租税の免除規定の適用を受けるためには、報酬の支払を受ける日までにその報酬に係る源泉徴収義務者を経由して、租税条約に関する届出書をその源泉徴収義務者の納税地の所轄税務署長に提出することが要件とされている。
C ところで、請求人は、日韓租税条約第4条(5)の規定からすれば、同条約第12条(4)に規定する芸能人の役務についても、独立の地位を有する代理人を通じて行う役務提供にあっては租税の免除がされるものと解すべきである旨主張する。
 請求人が主張するように、日韓租税条約第4条(5)は、同条(4)で恒久的施設を有するものとされる場合であっても、特定の場合には恒久的施設を有するものとはしないと規定し、同条(5)の「(4)の規定にかかわらず・・・」の文言からすれば、形式的には同条(4)の規定の特定の部分を限定していない。
 しかしながら、その規定内容から、日韓租税条約第4条(5)はあくまでも代理人に関する特則である。
 一方、日韓租税条約第4条(4)で規定するみなし恒久的施設は、a 代理人の存在を前提とした同条(4)(a)のものとb 代理人の存在を成立要件としていない同条(4)(b)のものに区分することができる。
 そうすると、必然的に代理人に関する特則である日韓租税条約第4条(5)でいう「(4)の規定」は代理人の存在を前提とした同条(4)(a)の部分に限定され、代理人の存在をみなし恒久的施設の成立要件としていない同条(4)(b)は同条(5)によって翻されるものではない。
D 上記Cで述べたことは以下のことからも明らかである。
 つまり、日韓租税条約第4条(4)(b)(2)において、芸能人の役務提供事業につき恒久的施設を有するものとみなした趣旨は、芸能人がその個人活動により所得を受領する(この場合、同条約第12条により一定額以上は課税される。)ことに代えて企業の形態で芸能活動を行う場合には、実質的には同様な活動を行うにもかかわらず、恒久的施設がないとしてその事業所得が課税対象とされなくなるという不都合を回避しようしとしたことによるものであり、また、芸能人の役務提供事業は、恒久的施設がなくとも活動を行い得るし、恒久的施設を必要としないのが通常であるため、恒久的施設を有するものとみなしてその事業からの所得に課税することとし、個人芸能人との権衡を保とうとするものである。
 すなわち、日韓租税条約第4条(4)(b)(2)の趣旨・目的は、芸能人の役務提供事業に係る所得について、企業形態を利用した租税回避行為を防止し、個人芸能人との権衡を保つことにある。
 したがって、芸能人の役務を提供する者が日本国内の芸能プロダクション等を「独立の地位を有する代理人」とみて課税対象にしないこととする解釈は、上記の趣旨・目的に明らかに反するものといわなければならない。
E また、請求人は、本件芸能人にとって請求人は独立の地位を有する代理人であるから、本件芸能人は日韓租税条約により、日本の租税が免除される旨主張するが、上記(イ)のAないしIの各事実から判断すると、請求人は、本件芸能人を韓国から招へいし、国内のクラブ等に出演させ、その対価として芸能人の役務提供に係る報酬を支払っていることは明らかであり、請求人が本件芸能人の役務提供に係る代理人であるとは到底認められない。
 そうすると、本件報酬について日韓租税条約第4条(5)が適用される余地はなく、請求人の主張はいずれも理由がなく、本件納税告知処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イに述べたとおり、本件納税告知処分は適法であり、本件納税告知処分により納付すべきこととなった源泉所得税を法定納期限までに納付しなかったことについて、請求人の場合、国税通則法第67条《不納付加算税》第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当しないから、本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、日韓租税条約の解釈上、本件芸能人は我が国における課税が免除されるか否かであるので、以下審理する。

(1)本件納税告知処分について

イ 次のことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ)本件芸能人は、国内のクラブ等において、芸能人としての人的役務を提供していること。
(ロ)請求人は、本件芸能人との間で出演契約書を作成していること。
(ハ)請求人は、本件芸能人の出演先であるクラブ等との間で請負契約書を作成していること。そして、当該契約書及び上記(ロ)で述べた出演契約書を○○入国管理局に提出していること。
(ニ)請求人は、上記(イ)の人的役務に係る報酬をクラブ等から受領し、請求人の本件各事業年度の売上げに計上していること。
(ホ)本件支払報酬表には、報酬、作品代、衣装代、交通費及び活動費の名目で支払金額が記載され、これらの合計額が請求人の仕入金額に計上されていること。
 なお、本件芸能人一人当たりの報酬は、150,000円、作品代は50,000円、衣装代は50,000円(それぞれ月額)となっており、これらは本件納税告知処分の期間中いずれも同額であり、一方、交通費は本件芸能人の個人の別又は支払月により各月10,000円、70,000円及び110,000円の三段階に、活動費は本件芸能人の個人の別又は支払月により各月10,000円又は50,000円の二段階に区分されているものの、請求人がこれらについて所得税を源泉徴収して納付している事実はないこと。
(へ)原処分庁は、本件支払報酬表に記載されている本件報酬の支払額を基にして本件納税告知処分を行っていること。
(ト)請求人の本件各事業年度の法人税確定申告書に添付された損益計算書に記載された仕入金額と、本件支払報酬表に記載された本件各事業年度における本件報酬の合計額とは一致すること。
ロ 原処分関係資料、請求人の答述及び当審判所の調査によれば次のことが認められる。
(イ)本件芸能人は、上記イの(イ)に述べた芸能人としての人的役務の提供のために来日し、出入国管理及び難民認定法に定める「興行」の在留資格を○○入国管理局から与えられて滞在しているが、1回の来日における国内の滞在期間は3か月ないし6か月であるため、日韓租税条約第2条(2)及び第3条(1)並びに所得税法第2条《定義》第1項第5号の規定により、我が国においては非居住者であり、韓国の居住者として取り扱われること。
(ロ)本件芸能人から請求人に交付された委任状には、「私達日本公演で渡日するにあたり、旅費、報酬、その他の交渉の権限を(株)Fを代理人と定め委任いたします。」と記されており、請求人は、日韓租税条約第4条(5)に規定する独立の地位を有する代理人に該当すると主張していること。
(ハ)本件芸能人は、国内に日韓租税条約第4条(2)に掲げる恒久的施設を有しないこと。
(ニ)本件芸能人が取得する本件報酬の額は、一部の者を除き、いずれも日韓租税条約第12条(4)に規定する免税とされる金額を超えること。
(ホ)請求人は、本件納税告知処分等の対象とされた期間中に取得した本件報酬は日韓租税条約の適用上免税とされるとの認識に基づき、自身を本件報酬の支払者とし、韓国の財団法人G協会(以下「協会」という。)を受領者とする租税条約に関する届出書を原処分庁に提出していたこと。なお、当該届出書の記載に当たり、本件報酬の受領者として本件芸能人の個人名を記載せず、協会と記載した理由は、本件芸能人は数名で歌舞団を構成していることから、各人ごとに租税条約に関する届出書を作成する手数を省き、これらをまとめて歌舞団員全員の租税条約に関する届出書を一枚で済ませるため、便宜上そのように記載した旨を当審判所に答述していること。
(ヘ)請求人の代表者であるHは、原処分庁に対し、上記イの(ホ)に述べた本件支払報酬表に記載されている金額について、次のとおり陳述している。
A 本件芸能人一人当たりの報酬の月額として記載された金額150,000円は、同人が日本国内でショーを行ったことに対して実際に支払った額であること。
 また、当該報酬は、本件芸能人に直接手渡ししたり、協会に送金し、同協会を通じて同人に支払っているが、このような協会に対する送金の方法をとっているのは、送金手数料が1回で済むからであり、あくまでもこの送金も本件芸能人各人に対する支払であること。
B 本件芸能人一人当たりの作品代の月額50,000円は、同人が韓国内で舞踊を教えてもらうのに月額50,000円が必要であるとの前提で決めており、同金額を韓国にいる舞踊の先生に対して支払っていること。
C 本件芸能人一人当たりの衣装代の月額50,000円は、一人につき、月額で50,000円かかるだろうということで決めており、同金額を韓国の衣装を作っている人に支払っていること。
D 本件芸能人一人当たりの交通費の月額は、航空運賃及び国内運賃(タクシー代等)などの6か月間の合計額を、月額に平均して計上しており、同金額を航空会社や交通機関に対して支払っていること。
E 本件芸能人一人当たりの活動費の月額は、月額10,000円かかるだろうということで決めており、請求人の社員が韓国内で芸能人を集めるときにかかる費用で、協会を通じて各社員に支払われることが多いこと。
(ト)本件芸能人の役務提供先である次の者は、原処分庁に対し次のとおり陳述している。
A 「クラブJ」の経営者である、P市R町2丁目12番10号居住のKは、平成3年1月頃から平成5年7月までの間、請求人を招へい業者として本件芸能人の役務提供を受けていたこと。
 なお、当該役務提供に係る同人と請求人との間の契約は請負契約となっており、同人は、上記の期間中、請求人に対し本件芸能人一人当たり税込み月額400,000円の報酬を支払っており、当該報酬に対する源泉所得税は請求人が納付することとなっていたこと。
B 「クラブL」の経営者である、Q市S町6丁目4番16号居住のMは、平成3年中頃から同7年3月までの間、請求人を招へい業者として本件芸能人の役務提供を受けていたこと。
 なお、同人は、上記の期間中、請求人に対し本件芸能人一人当たり税込み月額400,000円ないし430,000円の報酬を支払っており、当該報酬に対する源泉所得税は請求人が納付することとなっていたこと。
C 「クラブN」の経営者である、T市W町3丁目1番11号居住のXは、本件納税告知処分の対象となった期間中、請求人を招へい業者として本件芸能人の役務提供を受けていたこと。
 なお、同人は、上記の期間中、請求人に対し本件芸能人一人当たり税込み月額430,000円の報酬を支払っていたこと。
ハ 請求人は、日韓租税条約を文法どおり解釈すると、韓国の芸能人が我が国において芸能人としての役務を提供することにより受領する報酬については、同条約第12条(4)、第6条(1)並びに第4条(4)(b)(2)及び(5)により、我が国の独立の地位を有する代理人が通常の方法で行う役務を利用している場合には免税となると解釈できるところ、本件芸能人は請求人という独立の地位を有する代理人を通じて国内において芸能人としての役務を提供しているのであるから、これにより受領する報酬は上述の解釈により免税となる旨主張するので検討したところ、次のとおりである。
(イ)所得税法第2条第1項第5号に規定する非居住者並びに同条項第7号及び法人税法第2条《定義》第4号に規定する外国法人(以下、非居住者と併せて「非居住者等」という。)に対する国内法における課税所得の範囲については、次のとおりとされている。
A 非居住者については、所得税法第7条《課税所得の範囲》第1項第3号の規定に基づき、同法第164条《非居住者に対する課税の方法》第1項各号に掲げる非居住者の区分に応じそれぞれ同項各号及び同条第2項各号に掲げる同法第161条各号に規定する国内源泉所得とされている。
B 外国法人については、所得税法第7条第1項第5号及び法人税法第9条《外国法人の課税所得の範囲》の規定に基づき、所得税法上は同法第161条第1号の2から第7号まで及び第9号から第12号までに規定する国内源泉所得とし、法人税法上は同法第141条《外国法人に係る各事業年度の所得に対する法人税の課税標準》に掲げる外国法人の区分に応じ同条各号に掲げる同法第138条《国内源泉所得》に規定する国内源泉所得とされている。
(ロ)上記(イ)に従い、国内に恒久的施設を有しない非居住者等が我が国において取得する所得のうち、芸能人が芸能人としての自らの人的役務を提供することにより取得する報酬又は人的役務提供事業者が芸能人の人的役務を提供することにより取得する対価に係る課税関係の詳細をみると、次のとおりとされている。
A 非居住者である芸能人が芸能人としての自らの人的役務の提供により取得する報酬については、所得税法第161条第8号イにおいて国内源泉所得と規定し、同法第212条第1項及び第213条第1項の規定により20パーセントの税率で源泉徴収することとされ、同法第7条第1項第3号及び第164条第2項第2号の規定により分離課税とされているため、上記源泉徴収で我が国における課税は終了する。
B 非居住者等である人的役務提供事業者が国内において芸能人(この場合の芸能人は居住者であるか非居住者であるかを問わず、また、人的役務提供事業者との契約内容が専属契約、雇用契約又はそれ以外の契約であるかを問わない。)の役務を提供することにより取得する対価については、次のとおり区分される。
(A)当該人的役務提供事業者が非居住者の場合には、所得税法第161条第2号において国内源泉所得と規定され、同法第7条第3号、第212条第1項及び第213条第1項の規定により20パーセントの税率で源泉徴収の対象とされ、同法第164条第1項第4号ロの規定により総合課税とされていることから、最終的には確定申告において税額を精算することとされている。
(B)当該人的役務提供事業者が外国法人の場合には、所得税法第161条第2号及び法人税法第138条第2号において国内源泉所得と規定され、所得税法第212条第1項及び第213条第1項の規定により20パーセントの税率で源泉徴収の対象とされ、法人税法第9条及び第141条第4号ロの規定により法人税の確定申告により税額を精算することとされている。
(ハ)一方、日本国憲法第98条第2項により、非居住者等の居住地国と我が国との間に租税条約が締結されている場合において、国内法における課税の可否判断、課税要件及び適用税率について、租税条約に国内法と異なる定めがある場合には、租税条約の規定を国内法に優先して適用することとされている。
 また、租税条約の適用により、税率の軽減又は免税の適用を受けようとする場合には、その税率が軽減され又は免税とされるべき所得を受領する非居住者等は、「租税条約の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律」及び「租税条約の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律の施行に関する省令」(以下「実施特例法省令」という。)の各規定に基づき、その所得の支払を受ける日の前日までに、租税条約に関する届出書を源泉徴収義務者を通じ、当該源泉徴収義務者の所轄税務署長に提出することを要求されている。
 なお、租税条約の規定によって一方の締約国に課税権を認めている場合の課税方法については、租税条約においては特に規定せず、課税権を有する当該一方の締約国の法令によるとするのが国際的な課税のルールとされている。
(ニ)さらに、所得税法第162条及び法人税法第139条《租税条約に異なる定めがある場合の国内源泉所得》によると、租税条約において国内源泉所得につき国内法と異なる定めがある場合には、国内法の規定にかかわらず、国内源泉所得は、その異なる定めがある限りにおいて、その条約に定めるところによる旨規定している。
 つまり、当該規定は、所得税法第161条各号及び法人税法第138条各号において国内源泉所得の種類及びその源泉地を規定しているが、租税条約において国内源泉所得の定義や源泉地の判断基準を異にしている場合には、当該定義や源泉地の判断基準は国内法を租税条約に読み替えて適用することとするものである。
(ホ)そこで、上記(イ)ないし(ニ)に述べた国内法及び租税条約による課税のルールに従い、本件芸能人が国内において取得する本件報酬の課税関係について検討すると、次のとおりとなる。
A 本件芸能人は、上記ロの(イ)に述べたとおり、韓国の居住者であり、我が国においては非居住者に該当し、国内において芸能人として自らの人的役務を提供しているのであるから、国内法上は上記(ロ)のAに該当することとなり、本件芸能人が取得する本件報酬は、我が国において課税対象とされ、20パーセントの税率で所得税が源泉徴収されることとなる。
B 次に、日韓租税条約における課税関係をみると、相手国の居住者である芸能人が国内において芸能人として自らの人的役務を提供することにより取得する所得については、同条約第12条(4)において、「(1)及び(3)の規定にかかわらず、演劇、映画、ラジオ又はテレビジョンの俳優、音楽家、運動家その他の芸能人が、これらの者としての人的役務によって取得する所得については、その人的役務が行われる締約国において租税を免除する。ただし、その所得が当該締約国におけるその滞在中1日につき100合衆国ドル若しくは日本円若しくは韓国ウォンによるその相当額を超える場合又はその所得が合計して3,000合衆国ドル若しくは日本円若しくは韓国ウォンによるその相当額を超える場合は、この限りでない。」と規定し、原則として役務提供地国において免税としながらも、一定額を超える所得を取得する場合には役務提供地国に課税権を認めている。
C 上記A及びBを併せ適用すると、上記ロの(イ)及び(ニ)により、本件芸能人が我が国における滞在期間中に取得する本件報酬の合計額は一部の者を除き、3,000合衆国ドル若しくは日本円若しくは韓国ウォンによるその相当額を超えることは明らかであるから、日韓租税条約第12条(4)の規定により、我が国において課税できることとなる。
D 以上のとおり、本件報酬については、本件芸能人の役務提供地である我が国が課税権を有することになるから、本件報酬の支払をする者は、20パーセントの税率により所得税を源泉徴収しなければならないこととなる。
(ヘ)ところで、請求人は、上記(ホ)に述べた課税関係については原則論として認識しながらも、本件報酬は、さらに、a 日韓租税条約第6条(1)にいう「産業上又は商業上の利得」に該当するから、必然的にb 同条約第4条(4)(b)(2)及び同(5)により、本件芸能人が国内に恒久的施設を有しないことになり、結果的には免税となる旨主張するので、この点について検討すると、次のとおりとなる。
A ここで、まず問題となるのは、請求人が主張するように、本件報酬は、日韓租税条約第6条(1)に規定する「産業上又は商業上の利得」に該当する所得か否かという点である。
 そこで、日韓租税条約全般をみると、第6条、第7条及び第9条ないし第16条にわたり、一方の締約国の居住者が他方の締約国から取得する各種所得について、その所得の種類ごとに、課税の取扱いを規定する条項が存在し、いずれもそれぞれの条項に掲げる所得について、他方の締約国における課税権の有無及び他方の締約国に課税権を有するものとされる場合の課税要件をそれぞれ規定している。
 その中で、日韓租税条約第6条は、一方の締約国の居住者又は法人が他方の締約国から取得する「産業上又は商業上の利得」に該当する所得について、同条(1)及び(2)において他方の締約国内に恒久的施設を有することを要件に他方の締約国にも課税権を認める旨を規定している。
 一方、日韓租税条約第12条(4)は、一方の締約国の居住者である芸能人が他方の締約国内において自らの人的役務の提供に対して取得する報酬に関し、他方の締約国における課税権を規定する条項であり、当該人的役務の提供により取得する報酬については他方の締約国においては原則として免税としながらも、その取得する所得が一定額を超えることを要件に、他方の締約国内に恒久的施設を有するか否かにかかわらず他方の締約国においても課税権を認める旨を規定するものである。
 つまり、日韓租税条約第6条及び第12条は、いずれも一方の締約国の居住者又は法人が他方の締約国から取得するそれぞれの条に掲げる所得に関し、それぞれの条において他方の締約国にも課税権を認める場合の要件を規定しているもので、また、その課税要件は全く異なるものであり、かつ、同条約第12条(4)では同条約第6条との関連性について一切述べていない。
B 一方、日韓租税条約においては、第9条ないし第11条にわたり、一方の締約国の居住者又は法人が他方の締約国から取得する配当、利子及び使用料について、他方の締約国における課税要件等を規定している。
 すなわち、日韓租税条約においては、事業所得については同条約第6条で、配当所得については同条約第9条でというように、所得の種類ごとに各条項において別個に規定をおいていることから、それぞれ別個に規定をおいている所得に関する課税要件等の判断は、それぞれ該当する条項に基づいて行うべきであると解される。
 例えば、配当所得については、別個の条項である日韓租税条約第9条(1)においては恒久的施設の有無を問題とせず、「一方の締約国の居住者又は法人が他方の締約国内の源泉から取得する配当に対し当該他方の締約国において課される租税の額は、その配当の総額の12パーセントをこえないものとする。」と規定し、単に軽減税率について規定したものであるところ、同条(2)においては、配当の受領者が他方の締約国内に、その配当と実質的に関連する恒久的施設を有する場合には同条(1)の規定は適用せず、その配当を「産業上又は商業上の利得」として同条約第6条の規定を適用する旨規定している。
 この日韓租税条約第9条(2)の規定の趣旨は、同条(1)の軽減税率の適用による他方の締約国における課税は、他方の締約国内に恒久的施設を有しない場合に限るものである。他方の締約国内に恒久的施設を有する場合には当該軽減税率を適用せず、同条約第6条の「産業上又は商業上の利得」として他方の締約国において課税することができるとするものであり、当該所得の受領者である一方の締約国の居住者又は法人が他方の締約国内に恒久的施設を有する場合における関連性について明言している。
 このように日韓租税条約第6条との関連性を同条約第9条(2)において明言している理由は、上述のように、同条約第9条は同条約第6条に対して別個の条項として位置付けられていることから、他方の締約国内に恒久的施設を有することにより、同条約第9条(1)の軽減税率を適用されないこととなった場合、他方の締約国においては課税できることとなるのか、あるいは他方の締約国において課税できる場合の課税方法はどうなるのかという事項について明確に述べておく必要があるからであると解される。
C 以上から、本件報酬について考えてみると、日韓租税条約第12条に規定する、一方の締約国の居住者が自らの人的役務を他方の締約国内において提供することにより取得する報酬について、役務提供地国である他方の締約国における課税権の有無の判断は、同条各項に規定する要件により判断するのであり、同条約第12条と関連性を有しない同条約第6条によって判断するのではないと解すべきである。
 したがって、本件報酬は、日韓租税条約第12条(4)に規定する芸能人が芸能人としての自らの人的役務を他方の締約国内において提供することにより取得する報酬に該当するから、同条項に規定する要件のみにより、我が国における課税権の有無を判断すべきである。
D さらに、本件報酬について、日韓租税条約第12条(4)の規定を適用し、我が国における恒久的施設の有無にかかわらず我が国に課税権があるといったん判断しておきながら、本件報酬は「産業上又は商業上の利得」に該当するものとして更に同条約第6条(1)を適用し、我が国における最終的な課税権は我が国における恒久的施設の有無により判断するという請求人の解釈を採用すると、一の租税条約において、一の所得について二つの条項において相反する課税要件を規定しているという矛盾が生じることとなり、同条約第12条(4)の規定の存在の意味がなくなってしまうという不都合が生じる。
 しかしながら、一の租税条約において、一の所得について二つの異なる条項に相反する課税要件を規定するはずはなく、上記AないしCに述べたとおり、本件報酬については、日韓租税条約第12条(4)に規定する課税要件のみにより我が国における課税権の有無を判断することにより、規定上の矛盾も解消され、かつ、同条約第12条(4)の規定の存在の意味が明確となる。
E 以上述べたとおり、日韓租税条約第12条(4)は、同条約第6条(1)とは別個の規定であるから、本件報酬は同条約第6条(1)に規定する「産業上又は商業上の利得」には該当せず、同条約第12条(4)に規定する所得であるから、同条項に規定する課税要件のみにより我が国における課税権の有無を判断するのであり、本件報酬が同条約第12条(4)に規定する我が国において課税権を有するものとされるための要件を満たしていることは、上記(ホ)のCに述べたとおりであるから、本件報酬は同条約第12条(4)に課税権に関する事項が規定されていながらも同条約第6条(1)が適用されることにより、結果的に我が国において免税となるとする請求人の主張は採用できない。
(ト)次に、請求人は、本件報酬が日韓租税条約第6条(1)により、本件芸能人が国内に恒久的施設を有しない限り、本件報酬は我が国において免税とされると解釈した上で、更に同条約第4条(4)(b)(2)及び(5)が適用されると主張しているので、これらについて以下検討する。
A 日韓租税条約第4条(4)(b)は、同条(2)に掲げる恒久的施設を有しなくても、恒久的施設を有するものとみなすという同条約第6条(1)の例外規定という関係にあり、同条約第4条(5)は、更に同条約第4条(4)の例外規定という関係にあるが、本件芸能人が芸能人として自らの人的役務を提供することにより取得する本件報酬について、我が国における課税の可否を判断するに当たり、同条約第4条(4)のみなし恒久的施設の条項は関連性があるのか否かについて検討する必要がある。
B そこで、日韓租税条約第4条をみると、次のとおり規定されている。
第4条(恒久的施設)
(1)から(3)は省略。
(4)一方の締約国の居住者又は法人が(1)、(2)及び(3)の規定により他方の締約国内に恒久的施設を有しないものとされる場合においても、その居住者又は法人は、次の場合には、当該他方の締約国内に恒久的施設を有するものとされる。
(a)は省略。
(b)その居住者又は法人が当該他方の締約国内で次の役務を提供する場合
1)は省略。
2)第12条(4)に規定する芸能人の役務
(5)(4)の規定にかかわらず、一方の締約国の居住者又は法人は、真正な仲立人、問屋、運送取扱人、保管人その他独立の地位を有する代理人でこれらの者としての業務を通常の方法で行うものの役務を他方の締約国内で利用しているという理由のみでは、当該他方の締約国内に恒久的施設を有するものとされることはない。
(6)は省略。
 ここで、まず問題となるのは、日韓租税条約第4条(4)(b)(2)に規定する「芸能人の役務」とはどのようなものを指しているのかという点である。
 つまり、上記(ロ)で述べたように、芸能人の人的役務の提供に基因する所得には、a 芸能人が芸能人としての自らの役務を提供することにより取得する所得と、b いわゆる芸能プロダクションと称される立場の個人事業者又は法人が、芸能人の人的役務を他者に提供することにより取得する所得に分けられるが、同条項はa又はbのいずれの場合を指すのか、あるいは両者を指すのかという点が問題となる。
 日韓租税条約において、aの所得については、同条約第12条(4)に別個の条項として規定されており、同条項では、役務提供地が国内であり、かつ、取得する所得の額が一定額を超えることを課税要件としており、国内における恒久的施設の有無を課税要件とはしていないところ、本件においては、本件芸能人が芸能人としての自らの役務を提供することにより取得する本件報酬についての我が国における課税の可否が問題とされており、本件報酬はaに該当するものである。
 したがって、日韓租税条約第4条(4)(b)の「その居住者又は法人が当該他方の締約国内で次の役務を提供する場合」の規定の一つである(2)の「第12条(4)に規定する芸能人の役務」という用語にaの芸能人自らの人的役務も含まれるとすれば、同条約第12条(4)においては恒久的施設の有無を課税要件としていないにもかかわらず、同条約第4条(4)(b)(2)のみなし恒久的施設の条項により判断するという条約規定上の矛盾が生じることになる。
C そこで、日韓租税条約第12条(4)に用いられている表現と同条約第4条(4)に用いられている表現を比較すると、同条約第12条(4)においては「・・・その他の芸能人がこれらの者としての人的役務によって・・・。」としており、当該同条約第12条(4)は、明らかに上記Bのaの場合を指すと理解できる。
 一方、日韓租税条約第4条(4)の恒久的施設を有するものとされる場合の規定の一つである同条項(b)の本書と(2)の文言を併せ読むと、「その居住者又は法人が当該他方の締約国内で第12条(4)に規定する芸能人の役務を提供する場合」と規定していることになる。そして当該規定の表現を文法的に解釈する限り、「その居住者又は法人が」の部分は、「芸能プロダクションに相当する立場の個人又は法人が」と置き換えることができ、「第12条(4)に規定する芸能人の役務を提供する場合」の部分は、「自らの役務ではなく、第12条(4)に規定する芸能人である他人の役務を他者に提供する場合」と置き換えることができる。
 つまり、当該日韓租税条約第4条(4)(2)は、明らかに上記Bのbの場合を指しており、上記Bのaの芸能人自らの芸能人としての役務の提供は含まれないと解する。
 このことは、日韓租税条約第12条(4)においては、芸能人自らの芸能人としての役務の提供を「・・・その他の芸能人がこれらの者としての人的役務によって・・・。」と表現しているのに対し、同条約第4条(4)(b)(2)においては「その居住者又は法人が当該他方の締約国内で第12条(4)に規定する芸能人の役務を提供する場合」と明らかに異なる表現をしていることからすると、上記Bのbの芸能プロダクションと称されるような個人又は法人が芸能人である他人の役務を提供することにより取得する所得については、同条約において別個の条項に規定されていないことから、同条約第6条(1)により課税の可否を判断すると、我が国に恒久的施設を有しない限り我が国においては免税とされるところ、この例外として同条約第4条(4)(b)(2)の規定を置き、当該所得については役務提供地に恒久的施設を有するものとみなすことにより、役務提供地である我が国においても課税できる旨を規定しているものと解することができる。
 このように解釈すれば、条約規定上の矛盾も生じないことになる。
D なお、OECDモデル条約をはじめ、我が国が締結した各国との租税条約においても、芸能人が芸能人としての自らの役務を提供することにより取得する所得については、役務提供地国に恒久的施設を有するか否かにかかわらず、役務提供地国において課税できる旨を規定し、一方、芸能プロダクションと称される個人又は法人が芸能人の人的役務を他者に提供することにより取得する所得については、a 恒久的施設の有無にかかわらず役務提供地国において課税できるとするもの、b 役務提供地国に恒久的施設を有するものとみなした上で役務提供地国においても課税できるとするもの、c 役務提供地国に恒久的施設を有しなければ役務提供地国においては課税できないとするもの及びd 役務提供地国に恒久的施設を有しない場合であっても、当該個人又は法人が芸能人のワンマンカンパニー(役務提供の対象とされる芸能人が直接又は間接的に支配する法人等)であれば役務提供地国においても課税できるとするものに分類され、日韓租税条約においては上記分類のbに該当する。
 したがって、本件報酬は、韓国の居住者である芸能人が芸能人としての自らの役務を提供することにより取得する所得であるから、当該所得については、OECDモデル条約はじめ、日韓租税条約上もその他の国と我が国との租税条約のいずれにおいても、役務提供地における恒久的施設の有無にかかわらず、役務提供地である我が国に課税権が認められているのである。
E 以上述べたとおり、本件報酬は、芸能人が芸能人としての自らの人的役務を提供することにより取得する所得であるから、日韓租税条約第6条(1)にいう「産業上又は商業上の利得」には該当せず、当該所得に関する別個の条項である同条約第12条(4)により、当該所得に係る我が国における課税の可否を判断すべきところ、同条項によると、その所得が一定額以下である場合を除き、我が国における恒久的施設の有無にかかわらず我が国に課税権を認めており、当該判断が同条約第6条(1)により覆されることはない。
 また、日韓租税条約第4条(4)(b)(2)は本件報酬の課税の可否判断とは無関係であり、同条項は、同条約上別個の条項に課税の可否判断が規定されていない「産業上又は商業上の利得」に該当する所得については、同条約第6条(1)の規定により、我が国に恒久的施設を有しない限り原則として我が国においては課税権を有しないこととされるが、そのような所得のうち、芸能プロダクション等が芸能人の役務を提供することにより取得する所得等、一定の所得については役務提供地国に恒久的施設を有しなくともこれを有するものとみなして役務提供地国での課税を認めるために設けられた同条約第6条(1)の例外規定であり、上述したとおり、本件報酬が我が国において課税されるか否かを判断するに当たって適用すべき条項ではなく、関係がないというべきである。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(チ)本件報酬に係る我が国における課税関係については上記(ホ)及び(ヘ)のとおりであるが、請求人は、請求人自身が本件芸能人の代理人であり、しかも、日韓租税条約第4条(5)にいう「独立の地位を有する代理人」に該当するところ、同条(5)においては、請求人のような「独立の地位を有する代理人」でこれらの者としての業務を通常の方法で行うものの役務を利用しているという理由のみでは、当該代理人を恒久的施設とはみなさない旨規定しており、かつ、同条(5)はその規定ぶりが「(4)の規定にかかわらず」としていることから、同条(4)全体を否定していると解釈できるから、本件においても同条(5)の規定により本件芸能人は我が国に恒久的施設を有しないものと判断できるため、本件報酬は我が国においては免税とされる旨主張する。
 しかしながら、上記(ヘ)及び(ト)に述べたとおり、本件報酬については、本件芸能人が我が国に恒久的施設を有しなくても、役務提供地が我が国であり、かつ、その所得が一定額を超えることを要件に、我が国で課税できると判断できるのであり、本件芸能人が「独立の地位を有する代理人」を有するか否かは、本件報酬の我が国における課税の可否判断に影響を及ぼすものではないから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
 ただし、本件報酬の課税関係の判断に無関係であるが、日韓租税条約において、芸能プロダクションと称される個人又は法人が、芸能人の人的役務を提供することにより取得する所得に係る課税の可否を判断する場合には、同条約において別個の条項に規定されていないから、同条約第6条(1)に規定する恒久的施設の有無が課税の可否判断の要件とされているため、請求人が、仮に韓国の芸能プロダクションに対して芸能人の人的役務の提供の対価を支払っている場合における課税の可否を問題とする場合には、請求人の主張は主張として成立するから、この場合を前提とし、以下、請求人の主張をどのように解すべきかについて、あえて付言するならば、同条約第4条(4)と(5)は次に述べる関係にある。
A 日韓租税条約第4条(4)(a)は、その居住者又は法人が、源泉地に恒久的施設を有しない場合であっても、当該居住者又は法人のために、同人の名においてその権限を常習的に行使するような代理人を源泉地に有する場合には、当該代理人を恒久的施設と同等とみなし、当該源泉地に恒久的施設を有するものとみなすという規定である。
B 一方、日韓租税条約第4条(4)(b)は、その居住者又は法人が、源泉地(本項においては役務提供地を指す。)に同条(2)に掲げる恒久的施設を有しない場合であっても、同条項(b)(1)及び(2)に規定する内容の人的役務を提供する場合には、役務提供地に恒久的施設を有するものとみなすという規定であり、(1)として「建築、建設、据付け又は組立ての工事に関する契約に関連して6か月を超える期間提供される監督、技術的役務その他の職業的役務又はこれらに類する人的役務」の提供の場合を規定し、(2)として「第12条(4)に規定する芸能人の役務」の提供の場合を規定しているものである。
C また、日韓租税条約第4条(5)は、その書き出しの「(4)の規定にかかわらず、」の部分は、「(4)において恒久的施設を有するものとみなされる場合であっても」という意味で用いられ、その規定の趣旨は、同条(4)の恒久的施設を有するものとされる同条項(a)及び(b)の規定のうち、(a)に規定する恒久的施設と同等に扱うべき代理人とは、上記Aに述べたとおり、専らその所得者である居住者又は法人のために、同人の名においてその権限を常習的に行使するような代理人の場合を指すのであり、同条(5)にいう真正な仲立人、問屋、運送取扱人、保管人その他独立の地位を有する代理人のように、特定の者のための代理行為ではなく、不特定多数の者のための代理行為をする程度の代理人は、日韓租税条約上において、恒久的施設を有するものとみなすまでには至らない旨を述べているにすぎない。
D つまり、日韓租税条約第4条(4)は、恒久的施設を有するものとみなされる場合として、同条項(a)と(b)の二つの異なる事項を規定しているのであり、同条(5)は同条(4)にいう恒久的施設を有するものとされる場合の例外を規定しているという関係にあるから、同条(5)において同条(4)に規定した二つの事項のいずれをも否定しようとするのであれば、同条(5)の「(4)の規定にかかわらず」以下に続く文言は、a (4)(a)に規定する代理人に関する例外を述べる部分と、b (4)(b)に規定する人的役務の提供に関する例外を述べる部分によって構成されていなければならないと考えられる。
 しかしながら、日韓租税条約第4条(5)の規定の仕方、その規定中に述べられている事項及びその趣旨から判断すると、同条(5)の規定によって否定される部分は、上記Cのとおり、必然的に同条(4)のうち(a)のみと解釈すべきであり、同条(5)の書き出しが「(4)の規定にかかわらず」として同条(4)全体を否定するかのような規定ぶりとなっているという形式的な理由のみをもって、同条(5)は同条(4)全体、つまり同条(4)(b)をも否定している規定であるとの解釈は妥当ではないと解される。
 請求人が主張するように、条文は万人に適用される法律であるから、誰に対しても明確な文言規定でなければならず、その点において、日韓租税条約第4条(5)は、その規定の趣旨からいえば、正確には「(4)(a)の規定にかかわらず・・・」とすべきであったことは否めないが、その後に続く文言が、同条(4)(a)に関する例外事項しか述べられていないことを勘案すれば、この条文を読んだ者は、「(4)の規定にかかわらず」とは「(4)(a)の規定にかかわらず」ということなのだと、その文理に沿って解釈すべきであり、形式的な部分のみを重視して解釈すべきではないから、同条約第4条(4)と(5)の関係に関する請求人の解釈は採用できない。
(リ)請求人は、日英租税条約第6条(4)及び(6)の規定ぶりと、日韓租税条約第4条(4)及び(5)を比較しても、その条文の書き方が明らかに異なっているから、日韓租税条約における「独立の地位を有する代理人」は、日英租税条約とは異なる旨主張する。
 しかしながら、上記(ヘ)及び(ト)に述べたとおり、本件報酬の我が国における課税の可否判断は日韓租税条約第12条(4)の規定のみによるのであり、同条項によれば、本件報酬が我が国において課税できることは明らかであるから、同条約第4条(4)にいうみなし恒久的施設の条項は無関係であり、必然的に同条(5)も無関係になる。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
 また、付言すれば、「独立の地位を有する代理人」に関する条項は、OECDモデル条約をはじめ、我が国が締結した各国との租税条約全般において規定しており、その規定の趣旨は上記(チ)のCのとおりであり、日韓租税条約の場合のみ他の条約とは異なるものではなく、また、異なる規定を置かなければならない理由も存しないから、日英租税条約との比較に基づく請求人の解釈は妥当ではないと解される。
(ヌ)さらに、請求人は、原処分庁が日韓租税条約第4条(5)を文言どおり忠実に解釈せず、あらかじめ予定された条文の趣旨や常識に沿って、文言として書かれていない除外規定を作文して解釈するのは租税法律主義に反する旨主張する。
 しかしながら、上記(チ)及び(リ)と同様に、この点についても、上記(ヘ)及び(ト)に述べたとおり、本件報酬の我が国における課税の可否判断は同条約第12条(4)の規定のみによるのであり、同条項によれば、本件報酬が我が国において課税できることは明らかであるから、同条約第4条(4)にいうみなし恒久的施設の条項は無関係であり、必然的に同条(5)も無関係となる。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
 なお、当該条項の正しい解釈は上記(チ)のAないしDに述べたとおりであり、原処分庁においても、上記2の(2)の(ロ)のBないしDをみる限り、上記(チ)のAないしDと同様に解釈しており、請求人が主張するように租税法律主義に反するような解釈をしている事実は認められない。
(ル)請求人は、以前から、本件芸能人の報酬が日韓租税条約の適用上免税とされる旨の租税条約に関する届出書を原処分庁に提出してきたにもかかわらず、原処分庁は、答弁書において、租税条約に関する届出書が提出されていない旨主張しているが、このような納税者を惑わすような主張はせず、趣旨を理解し指導していくという立場をもっと重視すべきである旨主張する。
 この点については、請求人が租税条約に関する届出書を提出していたのは事実であるが、提出された租税条約に関する届出書の記載内容をみると、本件報酬の受領者を記載すべき欄には、本件芸能人の個人名が記載されるべきところ、本件報酬の受領者ではない団体名が記載されているため、この点をとらえ、原処分庁は、本件芸能人個々の名が記載された正当な租税条約に関する届出書は提出されていない旨を主張しているものである。
 つまり、必要事項が正確に記載されていない租税条約に関する届出書は、提出されていないことに等しいと主張しているものと受け止められ、この点については請求人の主張と原処分庁の主張がかみ合っていないだけにすぎないと認められる。
 なお、租税条約に関する届出書は、租税条約の適用上、税率が軽減又は免税とされる場合に限り、当該条約の適用がある旨を我が国の課税庁に申し出るという手続要件として、実施特例法省令において提出を義務付けられているものであるところ、本件報酬は上記(ホ)及び(ヘ)に述べたとおり、我が国においては一部の者を除き免税とならないから、本件芸能人には租税条約に関する届出書を提出すべき理由は存しない。
 また、中途で帰国するような状況が生じたことから、免税対象となる一部の者につき租税条約に関する届出書を所轄税務署長に提出する場合は、当該届出書の報酬の受領者を記載すべき欄には、本件芸能人の個人名を記載した上で届出書を提出すべきであったところ、提出されていなかったのであるから、必要な手続を欠いていたことになる。
 したがって、請求人の主張は理由がない。
(ヲ)上記(イ)ないし(ル)に述べたとおり、本件報酬は日韓租税条約の解釈上我が国においては免税とはされず、我が国に課税権があることは明らかであるから、日韓租税条約の解釈等に関する請求人の主張はいずれも採用できない。
二 請求人は、自身が本件芸能人にとって独立の地位を有する代理人の立場にあると主張するのに対し、原処分庁は本件芸能人の代理人とは認められない旨主張するので、この点について検討すると次のとおりである。
(イ)請求人自身が本件芸能人にとって独立の地位を有する代理人である旨の請求人の主張は、本件報酬が日韓租税条約上免税であるとの主張に基因しているものと思われるが、仮に、請求人が本件芸能人にとって独立の地位を有する代理人に該当するとしても、上記ハの(ヘ)で述べたとおり、本件報酬は我が国において課税できることとなるから、本件報酬が免税とされる旨の主張に基因する請求人の主張は、本件報酬の我が国における課税権の判断に影響を及ぼすものではない。
(ロ)また、a 上記イの(ロ)及び(ハ)に述べた出演契約書及び請負契約書の存在並びに両契約書の○○入国管理局への提出の事実、b 上記ロの(ト)のAないしCに述べたとおり、クラブ等の経営者は、本件芸能人の招へい業者は請求人である旨を原処分庁に対し陳述していること及びc 本件芸能人の役務提供に係る対価はクラブ等から請求人に支払われ、請求人は当該受領した対価の中から本件芸能人に対し本件報酬を支払っていること等の事実を勘案すると、請求人は本件芸能人を招へいし、本件芸能人に対し出演契約書に基づいた本件報酬を支払っているものとみるのが相当であり、本件芸能人からの代理人としての委任状が存在することのみをもって、請求人は本件芸能人の代理人であり、本件芸能人の招聘業者には該当しないと認定することはできない。
(ハ)そうすると、請求人が本件芸能人にとって独立の地位を有する代理人に該当するとの請求人の主張は、本件報酬が日韓租税条約上我が国において課税されるとの判断に影響を及ぼすものではなく、また、請求人自身が本件芸能人の招へい業者として本件芸能人を招へいし、クラブ等に本件芸能人の役務を提供し、クラブ等から役務提供の対価を受領し、当該受領した対価の中から本件報酬を本件芸能人に対して支払っているものと認められるから、請求人が本件芸能人にとって独立の地位を有する代理人であるとする請求人の主張は採用できない。
ホ 上記ハ及びニに述べたとおり、本件報酬は、国内法及び日韓租税条約のいずれを適用しても我が国において課税できることとなり、また、請求人は本件芸能人を韓国から招へいし、国内のクラブ等に本件芸能人の役務を提供し、クラブ等から受領した対価の中から本件芸能人に対し本件報酬を支払っているものと認められることから、請求人は、本件報酬を本件芸能人に支払う際には20パーセントの税率を適用して所得税を源泉徴収し、当該所得税を本件報酬を支払った日の翌月10日までに納付しなければならなかったこととなるが、上記イの(ホ)に述べた事実によると、請求人が本件報酬について所得税を源泉徴収していなかったことは明らかであるから、請求人は納税告知処分を免れない。
 次に、本件納税告知処分における本税額を検討すると、本件支払報酬表には、本件芸能人に対する本件報酬の支払明細として、各月ごとに報酬、作品代、衣装代、交通費及び活動費に区分されており、これらの内訳について、請求人の代表者であるHは、上記ロの(ヘ)のAないしEのとおり、報酬月額の150,000円以外は本件芸能人に対して支払ったものではないと陳述しているが、a 本件支払報酬表は本件芸能人に対する本件報酬の内訳として本件芸能人に対して支払っていることを前提に記載されていること、b 上記作品代、衣装代及び活動費は、本件芸能人が我が国において所得を得るための経費と認められることから、仮に、請求人が舞踊の先生や衣装の製作者等に直接支払っているとしても、これらの金員は本件芸能人に帰属するものとみるのが相当であること、c我が国において分離課税とされている本件報酬の場合、bの経費について我が国における課税の対象から除く取扱いはなく、本件芸能人が居住地国である韓国における納税の際に経費として申告すべきものであること、d 交通費については所得税基本通達161―8《非居住者等のために負担する旅費等》の定めにより、請求人が航空会社やタクシー会社等の交通機関に直接支払っていることが明らかでない限り、課税の対象から除くことはできないとされていること等を勘案すると、これらの名目を問わず、いずれも本件芸能人に対し請求人が支払った報酬として源泉徴収の対象とするのが相当と認められる。
 そうすると、本件支払報酬表に記載されている本件報酬の支払額に基づき本税額を計算すると、別表の「正当本税額」欄のとおりとなるところ、本件納税告知処分は、上記ロの(ニ)に述べた一部の者について、我が国における滞在期間が短期であったため、その取得した報酬の額が少額であり、日韓租税条約第12条(4)に規定する免税とされるべき要件を満たしていたことを理由に、本件納税告知処分の対象から除いた上で各月の納付すべき本税額が計算されていることが認められる。
 しかしながら、これら一部の者が取得した報酬が免税とされるためには、これらの者から、自身を報酬の受領者とする租税条約に関する届出書が所轄税務署長に提出されていなければならなかったところ、これらの者を報酬の受領者とする租税条約に関する届出書は提出されていなかったのであるから、必要な手続を欠いていたこととなり、免税の適用はされるべきではなかったというべきである。
 したがって、本件において納税告知処分されるべき本税額は、別表の「正当本税額」欄のとおりであるが、原処分庁が行った本件納税告知処分は別表の「本件納税告知処分による本税額」欄のとおりとなっており、当該本税額はいずれも正当本税額を下回ることから、本件納税告知処分は適法であると認められる。

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(2)本件賦課決定処分について

 上記(1)に述べたとおり、本件納税告知処分は適法であり、また、当該納税告知処分に基づく本税額を請求人が法定納期限までに納付しなかったことについて、国税通則法第67条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

別紙1 契約書(株式)

日本國((株)Fを甲と稱す)と、韓國、藝能人 ○○○外 8名を乙と稱すとの間に、下記の通り契約する。
甲は、本契約に述べる條件に依り、乙の公演に關して雙方の意見が一致し又本契約の諸條件が日本國政府より與えられる支拂滯在期間等に關する許可が先決要件であることを雙方確認したので、上記に基づいて契約條件を定める。
第1條 公演期間は1995年3月22日より102日間とする。藝能人査證の取得又は他の理由に依り契約開始日までに來日不能の場合本契約の發効は實際日本に於て公演を開始した日よりとする。
第2條 藝能人の公演は1日、3回とし、1回の上演時分を60分以内とする。
第3條 本契約の期間中甲は乙に本契約に記された事項の忠實な履行を條件として、出演者全員9名に對し、出演料毎月¥180万円也を支拂う。
第4條 本契約に基づく滞在費(宿泊代、米は支給、おかず代1日9,000円)は甲の負擔とする。
第5條 甲は査證取得に要する經費は一切負擔することに同意する。
第6條 本契約の期間中、乙は甲の専屬となり、甲の許可なくして如何なる娯樂施設又は藝能社の出演をしてはならない。
第7條 乙は第2條の公演遂行上に必要な樂譜、樂器と觀賞に値する衣裳、小道具を用意することに同意する。
第8條 甲は乙に韓國、日本國間の往復旅費を負擔することに同意する。
第9條 甲は公演に必要な超過荷物、運賃を負擔する。(ただし、歸國の土産品等の超過荷物運賃は乙の負擔とする。)
第10條 乙は、原則として甲が指定した交通機關を利用するものとする。
第11條 若し本公演が藝能者の個人的理由のため發生した事故、傷害、病氣等により休演した場合は甲はこれに生じた被害金額を出演料より差引くものとする。
第12條 契約終了、或は滿了後は直に最も早い便を以て日本を立ち去ることを約束する。
第13條 本契約が日本國政府の命令に依り困難になった場合、本契約を取消し、又は無効とすることができる。藝能者の日本滯在期間が短縮され契約全期間の遂行が困難となった場合も又同じ。
上記條項以外の事項が發生したる場合、甲及び乙、互にこれを協議し決定する。
1995年3月21日

住所Y市Z町32―3(△△ビル815)
 會社株式会社A(請求人)
 代表者代表取締役 H
住所
 會社B歌舞団
 代表者団長○○○
 団員1)○○○5)○○○
 2)○○○6)○○○
 3)○○○7)○○○
 4)○○○8)○○○

別紙2  請負契約書(様式)

 (注文者、出演先)甲と、(請負人)乙は、甲の注文に係る芸能人の興行の請負処理について、次のとおり請負契約を締結する。
1 甲は、乙に対し、 国人  他 名「グループ名」の(例 舞踊、歌唱)を内容とする興行を依頼し、乙はこれを請負う。
2 乙は、甲に対し前項の業務の遂行義務を負い、甲は乙の業務遂行に必要な協力義務を負う。
3 本契約に基づき甲が乙に支払う請負代金金額は(例 月額)  円とする。
4 甲は、乙に対し前項の金額を(例 毎月月末までに持参して)支払う。
5 本契約の期間は、平成 年月日より平成 年月日までとする。
6 乙は、乙の雇用する  国人  他 名「グループ名」を前項に定める期間(出演先において一日 回 時間)出演させる。
7 乙は、その雇用する芸能人の興行の方法等に関する指示その他の管理を自ら行い、直接芸能人に対する指揮、命令を行う。
8 乙は、芸能人の出演時間、休日、休暇等に関する指示その他の管理を自ら行う。
9 乙は、本契約の履行にあたり、乙が立案した業務処理計画に基づき、芸能人を適正に配置し、かつ、芸能人の指揮監督及び教育指導を行い、その秩序の維持、確保等のための指示その他の管理を自ら行う。
10 乙は、雇用者及び使用者として乙の雇用する芸能人に対する労働関係法等の法令に関する責任を負い、責任を持って労働管理を行う。
11 甲は、本契約履行に関する注文、指示等については、乙に対して行い、芸能人に対する指示等は行わない。
12 甲は、本契約履行に従事する乙の雇用する芸能人のために控室を乙に提供するものとする。
13 本契約業務の処理中、乙(乙の雇用する芸能人を含む)の責に帰すべき事由により、甲若しくは、第三者に与えた損害に対し乙は損害賠償の責任を負う。その賠償額については、甲乙協議の上これを定める。
平成 年月日
Y市Z町32―3(△△ビル815)
乙 株式会社 F
  代表取締役 H

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