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(平9.11.14裁決、裁決事例集No.54 274頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)審査請求人(以下「請求人」という。)は、遊技場(パチンコ)を営む同族会社であるが、平成6年1月1日から平成6年12月31日までの事業年度及び平成7年1月1日から平成7年12月31日までの事業年度(以下、順次「平成6年12月期」及び「平成7年12月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、それぞれ法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し、本件各事業年度の法人税について、次表の「更正処分等」欄のとおりの更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成6年12月期については平成8年2月20日に、平成7年12月期については平成8年10月23日にそれぞれ審査請求をした。
 なお、原処分庁は、平成7年12月期について次表の「再更正処分等」欄のとおり減額の再更正処分及び過少申告加算税の変更決定処分をした。

(2)そこで、これらの審査請求について併合審理する。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
(イ)更正の理由附記
A 平成6年12月期の更正通知書には、更正の理由として、代表者の資産負債の状況からみて、法人税基本通達2―1―25(以下「本件通達」という。)に定める債務超過に陥っていることその他相当の理由があるとは認められない旨記載してあるが、どのような根拠及び計算を基に債務超過に陥っていないと判断したのか不明であるから、当該更正の理由附記には不備がある。
B また、平成7年12月期の更正通知書には、更正の理由として、代表者の資産負債の状況については、貴社から平成7年6月28日付で提出された「認定利息の計上基準について(照会)」(以下「本件照会文書」という。)の中の「1代表取締役の資産・負債の状況」等に基づき、その後の変動について確認をしたが、大幅な状況の変動は見受けられず、当該通達に定める債務超過に陥っていること、その他相当の理由等があるとは認められない旨記載してあるが、債務超過に陥っていないことの具体的な理由の附記がなく不明であること及び本件照会文書のいずれによりいかなる判断をしたのか、また、その後の変動をいかに調査し確認したのか計数的な記載がないから、当該更正の理由附記には不備がある。
(ロ)本件利息の益金算入の要否
 請求人の代表取締役であるH(以下「H」という。)に対する貸付金(以下「本件貸付金」といい、当該金員の貸付けを「本件貸付け」という。)に係る利息(以下「本件利息」という。)は、次の理由による本件通達に該当するから、請求人がこれを本件各事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入しなかったことは適法である。
A 本件通達適用の可否
(A)Hの資産負債の状況は、請求人の株式の評価方法の相違等により別表1―1ないし1―3のとおりのケースが考えられるが、当該株式の評価方法は後記Bのとおり、類似業種比準方式によるべきであり、それによると同人は別表1―1のとおり1,274,522,926円の債務超過の状況にある。
 また、Hには、別表1―1ないし1―3に記載のもの以外に、(い)J農業協同組合(所在地 P市、以下「J農協」という。)及びK信用金庫L支店(所在地 P市、以下「K信金」という。)からの借入金が、平成6年12月末現在で27百万円、平成7年12月末現在で76百万円あること、(ろ)請求人の実際の現金有高は本件各事業年度末とも300万円前後であり、この額と現金出納簿上の残高との差額は、平成6年12月期末で180百万円程度、平成7年12月期末で354百万円程度であり、いずれも実際の現金有高が不足し、当該差額は請求人のHに対する帳簿外の貸付金で、同人にとっては借入金となるものであること及び(は)Hが有する債権として、M(住所 P市、以下「M」という。)に対する貸付金が平成6年12月末日現在で3億円、平成7年12月末日現在で3億円あるものの、Mは平成8年7月13日死亡し無資産であることから、これらを考慮するとHの債務超過額は、上記金額よりも更に大きくなる。
 更に、原処分庁は、平成9年7月24日付の意見書において、債務の超過額を認めたとしてもHの負債の増加は債務額全体の金額からすれば少額であり、平成6年12月末日、平成7年12月末日のいずれの時期においても同人は債務超過の状態でないとの判断をしているが、請求人及びHにとってはきん少な額ではない。
 したがって、原処分庁の意見は横暴な見解というべきである。
(B)平成7年12月期の更正の理由をみると、原処分庁は、地価の下落を考慮していないが、地価の下落していることは公示価格で明らかであるのみならず一般常識であり、Hの所有する土地の価格は路線価によっても、平成7年は平成6年の91.4パーセントと明らかに下落している。
(C)Hは、請求人からの借入金を株式投資に充てていたが、バブルの崩壊に伴い保有株式の価格が急落し、損失が損失を生む悪循環に陥っている。
(D)Hは、請求人からの借入金済返のため同人所有の有価証券を売却し、その売却代金から330百万円は返済できたが、同人が出資金の35パーセントを保有する有限会社N(所在地P市、以下「N社」という。)の持分及び同人の所有する不動産の売却については、地価の下落及び景気の悪化並びに不動産には請求人の借入金の担保として抵当権等が設定されていること等から、あらゆる努力をしたにもかかわらずいずれもスムーズにいかず、資産処分による元金返済も困難である。
(E)Hの収入は、請求人からの報酬・地代家賃及びN社からの報酬のみであり、地代家賃はすべて本件貸付金及び利息の未収入金の回収に充てているが、その返済額は元本に比し少額である。
(F)平成6年12月期におけるHからの未収利息の回収額はわずか120万円で、当該事業年度期首の未収利息残高974,540,000円の0.12パーセントにすぎず、また、未収利息残高に対する同人の可処分所得の割合は平成6年が1.11パーセント、平成7年が1.05バーセントであり、同人の可処分所得からは元本、利息の支払はきん少な額しかできないと認められ、しかも、この可処分所得の50パーセントの600万円で代表者が生計を維持しようとすれば、その残額600万円では請求人が貸し付けした25億円の返済はもとより、請求人が受け取るべき利息の支払にその全額を充てたとしても年間発生利息の4パーセント程度の入金に過ぎないこととなる。
 そうすると、本件通達の(1)の後段の「直近1年以内に支払を受けた金額が極めて少額であること」に該当し、貸付金利子の帰属時期の特例に該当することとなる。
B 請求人の株式の評価
 請求人の株式の評価に当たっては、請求人の株式は非上場株式であり、売買実例、比準会社及び気配相場もないから、法人税基本通達9―1―15の気配相場のない株式の価額の特例を適用すべきである。
 そうすると、請求人の規模区分は、従業員数・直前期末の総資産・直前期1年間の取引金額のすべてにおいて大会社に該当するから、たとえ中心的同族株主の有する株式であっても、大会社に当たるときは当然に類似業種比準価額によって評価すべきである。
 また、この場合の比準法人の業種については、請求人の業種は遊技場業であるから、国税庁長官通達により隔月に公表されている「類似業種比準価額計算上の業種目別株価等について」の平均株価表の番号123「遊園地・遊技場・競技場・その他の娯楽施設経営」によるべきである。
 なお、仮に、純資産価額方式により請求人の株式を評価する場合は、回収不能とみなされる不良資産については、実態に合った評価をすべきである。
 しかしながら、原処分庁は、類似業種比準方式による評価額を採用することなく、本件照会文書の中の純資産価額方式による請求人の1株当たりの株価をそのまま採用し、Hの所有する請求人の株式総額を算出し、これを他の資産に合算の上同人の資産総額として、同人が本件各事業年度末において債務超過の状態にない旨判断したと考えられる。
 また、請求人が本件貸付金及び未収利息を回収することについて、前記イの(ロ)のAの(F)のとおり、Hには支払能力がないことを原処分庁は十分承知しているはずであるにもかかわらず、当該貸付金及び未収利息に資産価値があるとして請求人の株価を純資産価額方式で算出した結果、請求人の1株当たりの株価が異常に高額のまま、当該自社株式価額をHの資産に加えたところで同人は債務超過でないとの判断を行っていると推察される。
 そうすると、請求人の自社株式の評価に当たっては、相続税財産評価に関する基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達(平成3年12月18日付課評2―4ほかにより「財産評価基本通達」に改められている。)及び法人税基本通達9―1―14の(4)の「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額によるものとする」等の定めからすれば、原処分庁の債務超過でないとする解釈は通達に反する不当なもので、違法であるから更正処分は取り消すべきである。
ロ 賦課決定処分について
(イ)上記イのとおり、本件各更正処分は違法でありその全部を取り消すべきであるから、本件過少申告加算税の各賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。
(ロ)なお、平成6年12月期の更正処分が、仮に適法であったとしても、本件利息の益金算入の要否に関する確定申告前の請求人の照会に対し、原処分庁から明確な回答をされないままに更正処分が行われており、正当な理由があるから、これに伴う過少申告加算税の賦課決定処分は、その全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
(イ)更正の理由附記
 更正の理由については、本件各事業年度ともそれぞれ、〔1〕貸付金から生じる利息については、その期間の経過に応じ当該事業年度に対応する金額を益金の額に算入しなければならないこと及び〔2〕Hの資産負債の状況からみて本件通達に定める債務超過の状況に陥っているとは認められないことを述べており、違法ではない。
(ロ)本件利息の益金算入の要否
 本件利息は、次の理由により、本件各事業年度の所得金額の計算上益金の額に算入すべきである。
A 本件通達適用の可否
(A)本件照会文書の「1代表取締役の資産・負債の状況」によると、請求人の株式の評価に当たり、税金分の51パーセントを控除しているが、本件における請求人の株式の評価は会社の清算を目的としたものでないことから、当該税金分は控除すべきでない。
 そうすると、Hは債務超過の状況にないと認められるから、本件貸付金及び未収利息は、回収不能な不良資産ではない。
(B)平成7年12月末日のHの資産負債の状況について、本件照会文書の「1代表取締役の資産・負債の状況」等に基づきその後の変動について確認したが、同人が債務超過の状態に陥るような大幅な状況の変化は見受けられず、債務超過に陥っていることその他相当の理由があるとは認められない。
 また、請求人は、前記本件照会文書の「1代表取締役の資産・負債の状況」に記載のもの以外にHが有する負債として、請求人の現金出納簿の残高と実際の現金有高との差額相当額の借入金があること及びこの借入金のほかに平成6年12月末日で27百万円、平成7年12月末日で76百万円の借入金がある旨主張するが、一般的には、現金出納簿の残高と実際の現金有高が符合せず、その差額を代表者が個人的に流用していたとすれば、それは請求人から代表者への経済的利益の供与で、役員賞与として処理すべきものであり、代表者が請求人の資産を私物化したようなものまで貸付金と見ることはできない。
 更に、これらの借入金が仮に事実としてもHの資産全体からすれば少額であり、これらを加えても同人は債務超過の状態とはならず、また、この借入金の使途は明らかでなく、負債の増加のみを主張するのは失当である。
 なお、土地の評価は個別の土地の時価の総額によるべきものであり、地価公示価格をもって土地の評価を論ずるのは適当ではないが、Hの所有する土地と同種の「普通商業・併用住宅地区」の平成7年分の路線価は、P市内の平均で前年に比べて7パーセント程度下落しているものの、同人の総資産価額に占める土地の価額の割合は20パーセント弱であり、土地の下落を考慮しても同人が債務超過の状態にあるとは認められない。
(C)本件貸付金が増加したのは、Hが個人的な株式投資に充てるための資金を請求人が十分な担保も徴せずに貸付けを続け、しかも請求人はHに支払う報酬及びHの所有する不動産等の処分による貸付金の積極的な回収の努力を十分に行わなかったことに起因するものである。
B 請求人の株式の評価
 本件における請求人の株式の評価は、会社の清算を目的としたものでなく、Hが債務超過の状況にあるか否かを判断するためのものであること及び当該株式は非上場株式であり基準とすべき売買事例がなく、更に類似する比準法人もないことから、純資産価額方式により評価すべきである。
 したがって、請求人が主張する、別表1―1の資産負債の状況は、請求人の株式の評価を類似業種比準方式により評価しており適当でなく、また、別表1―2及び1―3の各資産負債の状況では、請求人の株式をいずれも純資産価額方式により評価しているものの、その評価に当たって債権償却特別勘定の設定又は評価差額に対する法人税等相当額の控除がなされているので適当ではない。
ロ 賦課決定処分について
 上記イのとおり本件各更正処分は適法であり、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づき行った本件過少申告加算税の各賦課決定処分は適法である。
 なお、請求人の照会に対しては、「Hは債務超過ではない」旨関与税理士を通じ回答しており、請求人の主張には理由がない。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、更正の理由附記の適否及び本件利息の益金算入の要否並びに過少申告加算税の賦課決定について正当な理由があるか否かにあるので、以下審理する。

(1)更正処分について

イ 更正の理由附記
 請求人は、本件各事年度の更正の理由には、どのような根拠及び計算を基にHが債務超過に陥っていないと判断したのか、計数及び具体的理由が記載されておらず、更正の理由附記に不備があり違法である旨主張するので、以下審理する。
 ところで、法人税法第130条《青色申告書に係る更正》第2項では、青色申告書に係る法人税を更正する場合には、更正通知書に更正の理由を附記すべき旨規定し、青色申告に係る所得金額等の計算については、それが法定の帳簿組織による正当な記載に基づいて行われるものであるところから、その帳簿の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保証しているところであるが、当該規定の趣旨は、このような青色申告制度の趣旨にかんがみ、原処分庁の判断の慎重、合理性を担保して、その恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えることにあるものと解される。
 したがって、青色申告書に係る更正処分が、(い)帳簿書類の記載自体を認めないでなされる場合において更正通知書に附記すべき理由としては、単に更正に係る勘定科目とその金額を示すだけでなく、そのような更正をした根拠を帳簿記載以上に信ぴょう力のある資料を摘示することによって具体的に明示することを要するが、(ろ)帳簿書類に記載された事実を前提に新たな評価を加えたり、帳簿書類に記載されている法的評価の部分につき納税者と見解を異にしてなされる場合においては、納税者による帳簿の記載を覆すものではないから、更正通知書記載の更正の理由がそのような更正をした根拠について帳簿記載以上に信ぴょう力のある資料を摘示するものでないとしても、更正の根拠を原処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という更正の理由附記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り、法の要求する更正の理由附記として欠けるところはないと解するのが相当である。
 これを本件各更正処分についてみると、本件各更正処分が上記(ろ)の場合に該当することは明らかであるところ、本件各更正通知書には、更正処分の対象となった事実及びそれに対する法的評価に関し、本件利息について、(い)本件各事業年度の益金の額に算入されていない事実、(ろ)益金の額に算入しなければならない根拠法令、理由及び(は)計算過程、金額並びに(に)本件通達に該当しない理由が記載されている。
 したがって、本件各更正通知書には、原処分庁の恣意の抑制及び不服申立ての便宜という理由附記制度の趣旨目的を充足する程度にその理由が明示されているから更正の理由附記として何ら欠けるところはなく、この点に関する請求人の主張は採用できない。
ロ 本件利息の益金算入の要否
(イ)本件通達適用の可否
 請求人は、本件利息は本件通達の(1)及び(3)に該当し、本件各事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入しなかったことは正当である旨主張するので、以下検討する。
A 次のことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(A)Hは、本件各事業年度末日現在において、請求人の発行済株式32,000株のうち24,240株(75.75パーセント)を保有していること。
 なお、これにHの妻ら同族関係者の保有分を加えると100パーセントとなること。
(B)平成6年12月期の請求人の総勘定元帳(以下「元帳」という。)によれば、平成6年1月から同年11月までの各月の本件利息の金額は、本件貸付金の前月末の残高に請求人が役員等に対して資金貸付けを行う場合の貸付利率として市中金利を勘案して定めた年利率(以下「平均利率」という。)6.6パーセントを乗じて計算し、受取利息として未収入金勘定に経理していたが、平成6年12月31日にその合計額161,892,258円を振替伝票により減額処理していること。
 また、平成6年12月分については、上記と同様に計算し、同年12月31日に14,140,930円の振替伝票を起票しているが、当該振替伝票を横線で抹消し、元帳には記載していないこと。
 なお、平成7年12月期については、請求人は当初から本件利息の計算は行わず所得金額の計算上益金の額に算入してないこと。
(C)請求人は、平成7年2月に平均利率の改定を行い、平成7年3月から年6パーセントとしていること。
(D)Hが原処分庁に提出した平成6年分及び平成7年分の所得税の確定申告書によれば、同人の各年分の収入金額は次表のとおりであること。

B 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査したところによれば、次の事実が認められる。
(A)請求人は、Hの資産負債の状況について試算した別表1―1ないし1―3の3種類の表を審査請求書に添付して当審判所に提出していること。
 なお、当該別表の資産負債の各金額は、基本的に平成6年12月31日現在における価額として作成されているが、有価証券は同年11月30日現在の評価額であり、請求人からの借入金は同年9月30日現在の金額である等資産・負債の種類により評価日が異なっているものがあること。
(B)請求人の元帳によれば、本件貸付金の本件各事業年度における異動状況は別表3「貸付金勘定(H分)」のとおりであり、請求人は、Hから貸付金の返済として平成6年12月期に336,890,162円、平成7年12月期に7,070,600円の合計343,960,762円を本件各事業年度中に受け入れるとともに、Hに対して平成6年12月期に23,034,000円、平成7年12月期に3,735,800円の合計26,769,800円を本件各事業年度中に新たに貸し付けていること。
(C)請求人の元帳によれば、本件各事業年度における本件利息の未収入金の状況及び本件利息の受入れ等の状況は、別表4「未収入金勘定(H分)」及び別表5「受取利息勘定(H分)」のとおりであること。
C 請求人の代表取締役Hは、当審判所に対し、次のとおり答述している。
(A)請求人は、本件貸付けを行うに当たって「金銭消費貸借契約書」等は作成しておらず、また、取締役会等の決議も得ず、担保も徴さず、更に、本件利息の棚上げについても取締役会等の決議を得ていないこと。
 なお、返済時の元本、利息、費用への充当の順序に関する特約もないこと。
(B)本件貸付金に係る貸付利率は、平均利率によっていること。
(C)請求人は、Hに対し、本件貸付金の返済及び本件利息の支払についての督促をしたことはないこと。
(D)Hは、平成6年中に保有株式の一部を売却し、そのうちから330,630,161円を本件貸付金の返済に充てていること。
(E)本件貸付金の借入目的は、Hの個人的な株式投資のためであり、借入金返済及び利息の支払が滞った理由は、主として株価が下がったためであること。
(F)H個人は、破産・和議開始・手形取引停止等、法的な整理手続を受けていないこと。
(G)Hは、別表1―1の各資産のほか預貯金を平成6年12月末で2,426,978円、平成7年12末で2,492,858円それぞれ保有していること。
D H及び請求人の関与税理士であるTは、原処分庁の調査担当職員に対し、「Hの平成7年の資産負債の明細は作成していないが、平成6年のものと大きな変動はない」旨申述していること。
E ところで、法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第2項には、「当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。」と規定され、更に、収益の額については、同条第4項に「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする。」旨規定されており、貸付金から生ずる利息の収益の帰属時期については、その利息の計算期間の経過に応じ、当該事業年度に係るものは当該事業年度の益金の額に算入しなければならないものと解される。
 しかしながら、本件通達では、現実に元本及び利息の回収が客観的にみて極めて困難な状況にあり相当期間未収が継続している等の場合で、次のいずれかに該当する場合は、当該貸付金から生ずる利息の益金算入の時期は、実際に支払を受けた日の属する事業年度として取り扱う旨定めており、これは、利息はもとよりのこと元本たる貸付金の回収自体について危機的状況が生じていると判断され、その利息は課税適状にないと考えられることによるものと認められ、当審判所においてもこの取扱いは相当と認められる。
(A)本件通達の(1)
 債務者が債務超過に陥っていることその他相当の理由により、その支払を督促したにもかかわらず、当該貸付金から生ずる利息のうち当該事業年度終了の日以前1年以内にその支払期日が到来したものの全額が当該事業年度終了の時において未収となっており、かつ、当該事業年度終了の日以前1年以内にその支払期日が到来したもの以外の利息について支払を受けた金額が全くないか又は極めて少額であること。
(B)本件通達の(3)
 債務者につき債務超過の状態が相当期間継続し、事業好転の見通しがないこと、当該債務者が天災事故、経済事情の急変等により多大の損失を蒙ったことその他これに類する事由が生じたため、当該貸付金の額の全部又は相当部分について回収が危ぶまれるに至ったこと。
 すなわち、本件通達の(1)は、いわゆる焦付き利息の場合に債務者の債務超過その他相当の理由により、支払を督促したにもかかわらず、最近1年以内に利息の支払を受けることができなかったというケースであり、この場合の「相当の理由」というのは、債務者が利息を支払えないことにつき客観的にやむを得ないと認められる事情があることをいい、また、本件通達の(3)は、債務者について債務超過の状態が相当期間継続して事業好転の見通しがないとか、債務者が天災事故、経済事情の急変等によって多大の損失を蒙ったなどの事由により、貸付金の元本自体の回収が危ぶまれるに至っているという場合である。
 いずれの場合も、要するに、元本そのものが不良債権化したという場合であって、そのような危機的状況が生じているかどうかの一つのメルクマールを「債務超過」に求めているものである。
 したがって、債務超過の状態は実質的に判断すべきであり、債務者の個々の資産及び負債を時価評価して債務超過の状態にあるか否か、また、債務者の支払能力の有無等を総合して客観的に判断すべきと解される。
 なお、本件通達の(2)及び(4)は、債務者について会社更生法等の法律の規定による整理手続が開始された場合等について定めたもので、本件においては、前記Cの(F)のとおり、明らかに該当しないから取り上げない。
F そこで、前記A及びBの事実及び前記Cの答述並びに前記Dの申述に基づき、上記Eに照らし判断すると次のとおりである。
(A)まず、本件通達の(1)に該当するか否かについて、以下検討する。
a 債務超過に陥っているか否か、貸付金の元本そのものが不良債権化しているか否かについてみると、別表1―1ないし1―3は、請求人において、平成6年12月31日現在におけるHの資産負債の状況を試算したものと認められるところ(前記Bの(A)のとおり、資産の評価日が異なるものが一部ある。)、この3種の計算表の違いは請求人の株式の価額にあるので、これらの表をベースにして、当該株式の価額についてのみ後記(ロ)で述べるところにより適正に評価してみると、別表2のとおり、Hは資産超過額が1,085,522,834円となり、到底債務超過の状況にあるとは認められない。
 また、前記DのH及び関与税理士のTの申述からすると、平成7年12月31日現在の状況も上記と大差ないものと認められ、また、請求人の主張する土地の下落を考慮しても、Hが債務超過の状態にあるとは認められない。
 なお、仮に請求人の株式を評価額が最も低くなる類似業種比準方式で評価した場合でも、別表1―1のとおり、その資産の総額は22億円となり、しかも債務の大部分は請求人からの本件貸付金及びその未収利息であることから、貸付金の元本自体の回収が危機的な状況にあるとは到底認められない。
b つぎに、「相当の理由」があるか否かについてみると、(い)Hが保有する有価証券は、請求人の株式及び請求人の関連会社の持分を除けば、市場で換金(売却)することが容易なものと認められ、また、Hは土地等の不動産も相当所有していることから、同人に本件貸付金の返済及び本件利息の支払能力がないとは認められず、前記Bの(B)、Cの(D)及び別表3のとおり、Hは現に平成6年に保有株式の一部を売却し、その代金から330,000,000円余りを本件貸付けの返済に充てていること、(ろ)Hは、前記Aの(D)のとおり、請求人からの給与等相当多額な収入を得ており、別表3及び別表4のとおり、本件各事業年度において本件貸付金の一部返済及び本件利息(未払分)の一部支払を行っており、同人の収入から見ても支払能力がないとは認められず、しかも、(は)Hの債務の大部分は請求人からの本件貸付金及びその未収利息であること等の事実を併せ考えると、債務者が利息を支払えないことにつき客観的にやむを得ないと認められる事情、すなわち「相当の理由」があるとは到底認められない。
c 更に、Hの有する資産及び収入は、別表1―1ないし1―3及び前記Aの(D)のとおり相当多額であり、一般の経済人としてなすべき措置を講じれば、回収することが可能と思われるにもかかわらず、前記Cの(C)で請求人も認めているとおり、請求人は、Hに対して、本件貸付金の返済及び本件利息の支払について督促もしていないことが認められる。
 以上のとおり、Hに対する本件利息は、本件通達(1)には該当しないと認められる。
 なお、請求人はこの点に関して、Hの可処分所得から返済できる金額は、本件貸付け及び本件利息の未払額の各残高に比してきん少であることから本件通達に該当する旨主張するが、本件通達の適用に当たっては、前記Eのとおり、債務者の個々の資産及び負債の内容等を総合して支払能力の有無等についても判断すべきであり、貸付金及び未収利息に対する可処分所得の多寡で判断すべきではないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(B)つぎに、本件通達の(3)に該当するか否かについて、検討する。
a 債務超過の状態が相当期間継続しているか否かについては、上記(A)のaで認定したとおり、Hは債務超過の状態にあるとは認められず、まして、相当期間継続しているとは到底認めることはできない。
b 貸付金の額の全部又は相当部分について回収が危ぶまれるに至ったか否かについては、上記(A)のbの(い)ないし(は)で認定したとおり、Hは相当の資産を保有し、かつ、Hの負債の大部分は請求人からのものであり、更に、請求人から給与等相当多額な収入を得ていることから、貸付金の額の全部又は相当部分について回収が危ぶまれるに至ったとは到底認められない。
したがって、本件通達の(3)にも該当しないと認められる。
(C)更に、請求人は、Hには別表1―1ないし1―3に記載の債権以外にMに対する貸付金3億円があり、請求人からの債務以外にJ農協及びK信金から平成6年12月末現在で27百万円、平成7年12月末現在で76百万円の各借入金があるほか、請求人の現金出納簿の残高と実際の現金有高の差額(180百万円ないし354百万円)に相当する負債がある旨主張する。
 しかしながら、Mに対する貸付金については貸付証書、貸付時期、貸付目的、担保物、貸付金回収実績が明らかでなく、J農協及びK信金からの借入金については、仮にそれが事実としても、借入時期、借入目的(資金の使途)が明らかでなく、Hについて単にその額だけ負債が増えるのか又は見合いの資産はないのかどうがが判然としない上、その額が同人の総資産に占める割合は低く、また、このことが、換金性の高い有価証券、土地等の時価評価に影響を及ぼすものではないので、上記(A)及び(B)の判断を左右するものとは認められない。
 また、請求人の現金の帳簿残高と実際有高との差額に係る部分については、Hが借り入れたとしているが、上記J農協及びK信金からの借入金と同様にHの資金の使途が明らかでなく、単にその額だけHの負債が増えるのか又は見合いの資産はないのか判然としないところ、前記Cの(G)のHの別表1―1に記載した資産以外の資産は、預貯金2,400,000円余りである旨の答述からすると、当該差額に相当する請求人の現金は、結局簿外でHが費消してしまったということに帰すから、当該部分について請求人は何ら具体的に把握していないことと併せ考えると、これは貸付金というよりも、むしろ役員賞与に該当すると認められるから、上記(A)及び(B)の判断には影響しないといえる。
 なお、(い)本来請求人は、Hから貸付金の回収を図るべく努めるところ、現金の帳簿残高と実際有高との差額の現金(平成6年12月期末で180百万円及び平成7年12月期末で354百万円)をHに対する貸付金と主張するなど、H個人の資金と請求人の資金とを混同しているような経理の実態があること、(ろ)前記Cの(A)のとおり担保を徴する等の保全措置が全くなされないまま長期にわたり多額な本件貸付けが行われていること、(は)本件貸付金等の返済が滞った後も積極的な回収措置が十分講じられたとは認め難いこと及び(に)前記Aの(A)のとおり、請求人を実質的に支配しているのはHと認められること等から判断すると、本件のような保全措置を講じていない貸付金に対して本件通達を適用し未収利息の計上をしないとすることは課税の公平を保たれないものと認められる。
(D)以上のとおり、Hに対する本件利息は、本件通達の(1)及び(3)のいずれにも該当しないものと認められるから、本件利息は本件各事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入すべきであり、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ)請求人の株式の評価A 請求人は、請求人の株式の評価について、類似業種比準方式により評価すべきである旨主張するので、以下検討する。
 まず、評価方法をいかにすべきかは、Hが本件通達に定める「債務超過の状況」にあるか否かを判断するに際して同人が所有する資産の一つである請求人の株式の価額は幾らかということで問題となるものであるところ、債務超過の状況にあるかどうかは、前記(イ)のEのとおり、貸付金等の回収について危機的状況に陥っているか否かによって判断すべきものと解されるから、Hの資産及び負債の評価に当たっては、資産は実勢価額により、負債はその内容を個別に検討して評価するのが相当と認められる。
 そして、資産の実勢価額については、本件の場合、債務超過についての上記判断基準からすれば、純資産価額方式により評価する方がより適切と認められるから、類似業種比準方式によるべきである旨の請求人の主張は採用できない。
 そこで、請求人がHの資産負債について試算した別表1―1ないし1―3のうち、請求人の株式を純資産価額方式により評価した別表1―2及び1―3を基に検討すると、次のとおりである。
 請求人は、別表1―2では、請求人の株式の評価に当たって、Hに対する本件貸付金の平成6年9月30日現在残高2,500,763,848円と本件利息の平成5年12月31日現在未収残高974,548,523円の合計額3,475,312,371円の50パーセント相当額1,737,656,185円について回収見込みがないとして債権償却特別勘定を設定しているが、Hは別表1―2のとおり、相当多額の資産を有しているのみならず、本件の場合、請求人が同人に対して有する本件貸付金及び本件利息の未収分の回収が可能か否かを判断するために請求人の株式を評価するものであるから、あらかじめ債権償却特別勘定を設定したのでは評価の意味をなさないことになり適切でない。
 また、請求人は、請求人の株式の評価に当たって、評価差額に対する法人税額等相当額を控除しているが、本件においては請求人の会社整理を前提に評価しようとするものではなく、請求人は継続企業であることから、当該金額は控除すべきではない。
 そうすると、請求人が提出した別表1―2及び1―3を基に、上記2点のことを調整した上で、Hの所有する請求人の株式を評価すると、その価額は別表2のとおり3,509,952,000円であり、同人の資産合計額は4,561,135,205円となる。
 したがって、Hの資産超過額は、1,085,822,834円となるから、同人は、債務超過の状態ではない。
B 更に、請求人は法人税基本通達9―1―14の(4)の「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額によるものとする」等の定めからすれば原処分庁の債務超過でないとする解釈は通達に反する不当なものであり違法であると主張するが、当該通達は、企業が所有している非上場有価証券について評価損を計上する場合の期末の時価について基本的ルールを定めたものであり、請求人の主張は採用できない。
ハ 以上の結果、本件各事業年度の益金の額に算入すべき本件利息の額は、前記ロの(イ)のAの(B)、(C)及びBの(B)により算定すると、別表6の「受取利息額の計算(その1)」の「4受取利息額」欄及び別表7の「受取利息額の計算(その2)」の「審判所認定額」欄のとおり、平成6年12月期は176,032,103円となり、原処分庁認定額176,032,646円を543円下回るが納付すべき税額は変わらず、また、平成7年12月期は原処分庁認定額と同額となることから、各更正処分は適法であり請求人の主張には理由がない。

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(2)賦課決定処分について

イ 平成6年12月期
 上記(1)のとおり、平成6年12月期の更正処分は適法であるところ、請求人は、更正処分は本件利息の益金算入の要否に関する確定申告前の請求人の照会に対し、原処分庁から明確な回答がなされないまま行われており、正当な理由があるから、過少申告加算税の賦課決定処分は取り消すべきである旨主張するので、以下審理する。
(イ)当審判所が原処分関係資料に基づいて調査したところ次の事実が認められる。
 原処分庁の平成7年1月20日付税務相談等処理事績書によれば、同日請求人の関与税理士Tから平成7年1月14日付文書に基づいて本件貸付金に対する認定利息を益金の額に算入しないことを認めてほしい旨の相談があったのに対し、原処分庁は、提出された資料から自社株等の評価に関すること等を説明し、Hは債務超過とは認められず同人に対する認定利息は益金の額に算入しなければならない旨、平成7年1月27日に回答していること。
(ロ)ところで、申告納税方式による国税の確定手続に関して通則法第16条《国税についての納付すべき税額の確定の方式》第1項第1号には、国税は納税者のする申告により確定することを原則とする旨規定されており、申告は一般に納税者自身の判断と責任においてすべきものと解されている。
 したがって、通則法第65条に規定する過少申告加算税は、申告納税方式による国税の徴収に関し、申告納税の秩序を維持し、納税の実を上げることを目的とするものであって、当初から正当に申告納税した者とこれを怠った者との間に生ずる不公平を是正するために適法な申告をしなかった納税者に対し一定率の税を課する趣旨に出たものであるから、同条第4項に規定する正当な理由がある場合を除き、単に過少申告であるという客観的事実のみによって課されるべき性質のものと解されている。
(ハ)そこで、これを本件について見ると、前記(イ)のとおり原処分庁は請求人の照会に対し明確に回答しており、仮に回答していなかったとしても、上記(ロ)の趣旨からすれば、請求人には、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてされた過少申告加算税の賦課決定処分は適法であり、請求人の主張には理由がない。
ロ 平成7年12月期
 上記(1)のとおり平成7年12月期の更正処分は適法であり、かつ、請求人には、確定申告における納付すべき税額を計算するに当たり、本件利息の額を所得金額の計算上益金の額に算入しなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてなされた過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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