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(平9.7.2裁決、裁決事例集No.54 344頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、不動産業を営む同族会社であるが、昭和64年1月1日から平成元年5月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載し、法定申告期限までに原処分庁に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成6年12月26日付で別表1の「更正処分等」欄記載のとおり、法人税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分をした。
 請求人は、上記各処分を不服として、平成7年2月20日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
(イ)請求人は、合資会社F(以下「F社」という。)との間で、P市R町329番の土地(以下「本件土地」という。)及び本件土地に建築する建物(以下「本件倉庫」といい、「本件土地」と併せて「本件不動産」という。)の売買を取り決め、本件土地の売買価額を296,750,000円とする土地売買契約書(以下「本件土地売買契約書」という。)を平成元年2月28日付で、また、本件倉庫の売買価額を170,290,000円とする建物売買契約書(以下「本件建物売買契約書」という。)を昭和63年12月28日付で取り交わした。
 なお、本件倉庫については、平成2年6月11日付で原因を平成元年11月30日新築及び所有者をG株式会社(以下「G社」という。)とする所有権保存登記がされている。
(ロ)請求人は、本件事業年度に引渡しが完了した本件土地については、本件土地売買契約書に基づき296,750,000円を譲渡収入として計上し、引渡し未了の本件倉庫に係る売買代金66,550,000円(以下「本件金額」という。)については、前受金と経理して確定申告をした。
 ところで、原処分庁は、本件不動産の取引に関し、本件倉庫の売買は存在せず、本件土地の譲渡価額は本件土地売買契約書の売買代金と本件金額の合計額363,300,000円であると認定し、本件金額を本件事業年度の益金に加算して更正処分をした。
(ハ)しかしながら、次に述べるとおり、本件土地の譲渡代金は296,750,000円であり、本件金額は本件倉庫の売買代金の一部であるから、請求人が本件金額を本件土地の譲渡代金の一部として受領したとの認定には誤りがあるから、更正処分はその全部を取り消すべきである。
A 本件不動産の譲渡に至る経緯は次のとおりである。
(A)請求人は、昭和63年5月ころ、H及びJ(以下「Hら」という。)から本件土地を取得し、建売住宅用地とする分譲事業を計画していた。
 なお、この計画は、本件土地を8区画に分別して建売住宅とし、1棟当たり800万円(全体で6,400万円程度)の利益を得ようというものであった。
 ところが、その後、P市内の不動産業者である株式会社K(以下「K社」という。)の取引主任L(以下「L」という。)から、F社が倉庫用地として本件土地の購入を希望しているとの情報を入手したため、同人を仲介として、F社の代表社員M(以下「M」という。)、N株式会社(以下「N社」という。)並びにG社の代表取締役社長T(以下「T」という。)及び専務取締役W(以下「W」という。)と売買交渉を重ねた。
(B)しかし、保有期間が短い本件土地に6,400万円もの利益を上乗せして譲渡することは、国土利用計画法(以下「国土法」という。)の規制があって困難であることから、請求人は、F社に対し、請求人自らが本件倉庫を建設し、これを譲渡することによってその利益を確保させてもらう旨を納得させた上、本件不動産を譲渡することで合意した。
(C)そこで、請求人は、以上の合意事項に基づき、F社との間で本件土地売買契約書及び本件建物売買契約書を取り交わし、さらに、有限会社X(以下「X社」という。)との間で同地に本件倉庫を103,740,000円(以下「本件請負金額」という。)で建設することを旨とした昭和63年12月28日付民間建設工事請負契約書(以下「本件請負契約書」という。)を取り交わした。
 なお、本件土地は、平成元年2月22日にHらから295,907,000円で取得したものである。
(D)本件土地の譲渡価額296,750,000円は、国土法第23条第1項の規定に基づく平成元年2月23日付不勧告通知書(以下「本件不勧告通知書」という。)に記載された1平方メートル当たり296,500円(以下「本件不勧告価額」という。)を実測面積1,000.85平方メートルに乗じた金額である。
B 本件土地売買契約書、本件請負契約書及び本件建物売買契約書は、それぞれ真正唯一のものであって、実際の契約に基づき作成されており、その記載内容に事実と異なるものはない。
C 請求人は、従来からの土地のみの販売は行っておらず、すべて建物付で販売しており、本件土地についても、F社に対して、土地のみの売買は行わないのが請求人の営業方針である旨説明している。
 一般に、土地の譲渡者が建物の建築を条件とするいわゆる建築条件付の宅地譲渡においては、土地の譲渡で利益を得るのではなく、建物の譲渡による利益が総利益となるような取引が行われている。
 請求人は、このような方法により利益を確保したものであるから、本件土地の売買利益が皆無で、本件倉庫の譲渡部分によって本件不動産取引全体の利益を得ることに何ら不自然な点はない。
D 原処分庁は、F社が平成元年4月20日にK社に支払った仲介手数料10,899,000円(以下「本件仲介手数料」という。)を、本件土地のみの仲介に対する報酬と認定しているが、この手数料は、本件倉庫と本件土地の両物件の仲介に対する報酬であるから、この認定は誤りである。
 請求人は、K社に対し本件倉庫の仲介料として2,000,000円を支払っており、これは、本件倉庫の譲渡があったことを裏付ける事実である。
 なお、請求人がF社あてに発行した平成元年2月28日付の領収証(本件土地売買契約書に基づく譲渡手付金10,000,000円)の裏面に「手ス10,899,000円」と記載されたメモが添付されていたことは認めるが、このメモの記載金額は、本件不動産の売買に係る同年4月20日までの受取金額の合計額に3パーセントを乗じた金額である。
E 原処分庁は、下記(A)掲記の各事実に基づき本件倉庫はF社がX社に請負わせたものであると認定しているところ、これらの各事実については争わないが、請求人には下記(B)記載のとおりの合理的な理由があるから、原処分庁の認定は誤りである。
(A)争わない事実
a 本件倉庫建築の際の地鎮祭がF社によって執り行われており、かつ、その費用30,000円をF社が負担していること。
b 本件倉庫の建築確認費用52,000円が平成元年4月27日にF社から支出されており、かつ、同年6月21日付の建築確認検査済証の建築主の欄にF社と記載されていること。
 また、平成元年5月16日にP市役所に受理された「倉庫確約書」は、F社によって提出されていること。
c F社は、本件倉庫の請負契約手付金として昭和63年12月28日に1,000,000円(以下「本件工事手付金」という。)をX社に支払い、X社は同日付でこの金員の領収証をF社に発行したが、その後、この領収証を回収し、あて名を請求人名に書き改めた領収証を新たに作成して、平成元年4月20日に請求人に交付していること。
d 請求人は、本件土地の所有者であるF社との間で、本件土地に倉庫を建てるための借地権契約及び地上権設定契約を締結していないこと。
e 請求人は、X社に対する本件請負金額の支払に当たり、いずれもF社からの本件建物売買契約による受取金を直接充てており、請求人が借入金その他の自己資金を充てた事実はないこと。
(B)合理的理由
a 買主が地鎮祭を執り行うことは、一般の取引でもよくあることである。
b 本件倉庫に係る建築確認等の諸手続をF社にしてもらったのは、不動産業者に対する規制が厳しいことから、請求人の名義では土地の利用に制限が付いて敷地が広く使えなくなる等により建築費が割高になるためである。
c X社があて名を請求人名に書き改めた領収証を請求人に再交付したのは、本件倉庫が請求人の建売物件であることから、F社が立替払いをしたものを後に精算したものであり、仮払い的な領収証を後日補正して正規の領収証とすることはけだし当然のことであって、この事実をもって仮装行為と認定するのは早計である。
d 請求人とF社は、請求人の顧問弁護士の管理の下に信頼関係に基づき誠実に、効率的、効果的に取引を実行したものであるから、借地権契約及び地上権設定契約などの契約完了までの途中の法律行為が省略されても不合理はない。
e 本件請負金額の支払方法については、請求人の借入れを発生させずに回収資金で支払ったものであるから、経営上は合理的なことである。
F 原処分庁は、G社が、X社に対して、平成元年12月20日の本件倉庫の工事代金44,250,000円(以下「本件差額」という。)を支払っていることをもって、本件倉庫の発注者は請求人ではないと認定しているが、その支払の事実の有無を含めて請求人は関知しないことであり、理由のないことである。
G 原処分庁は、本件不動産取引におけるF社側の実質的な責任者であるT及びWが、原処分庁に対し、「請求人から、本件金額については本件土地の裏取引にすることを要望されたが、本件倉庫の売買価額に含めて取引することになった。」と陳述していることをもって、請求人が仮装行為を行ったと認定しているが、上記陳述の事実及びその内容はあり得ないことである。
ロ 過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、更正処分はその全部を取り消すべきであるから、これに伴い、過少申告加算税及び重加算税もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
(イ)本件土地の譲渡価額
 次に述べるとおり、本件土地の譲渡価額は363,300,000円である。
A K社とF社は、平成元年2月28日に仲介手数料契約書を作成し、F社と請求人が行う本件不動産の売買をK社が仲介することを約しているが、次の理由により、本件仲介手数料は本件土地のみの仲介に係る手数料と認められる。
(A)本件倉庫は、本件仲介手数料に関する契約の日の平成元年2月28日の時点においては工事に着手しておらず、本件仲介手数料が全額支払われた平成元年4月20日においても完成していないこと。
(B)請求人がF社に対し発行した本件土地の手付金10,000,000円の領収証の裏面には、「総額363,300,000円、手ス10,899,000円、1,000.85(302.75坪)」と記載されたメモ(以下「本件メモ」という。)が添付されており、ここに記載された「総額363,300.000円」の金額は、本件土地売買契約書の売買代金に本件金額を加算した金額と一致し、また、「手ス10,899,000円」の金額は、本件仲介手数料の金額と同額で、本件土地売買契約書の金額に本件金額を加算した金額363,300,000円に建設省告示で規定する報酬割合3パーセントを乗じた金額と一致すること。
B 請求人及びF社の各関係者は、原処分調査担当職員に対し、本件不動産の取引について次のとおり申述している。
(A)請求人の代表取締役Y(以下「Y」という。)
 本件土地について、当初分譲建売住宅8棟の建築を計画し、6,400万円程度(1棟当たり800万円程度)の売上総利益を見込んでいたが、F社に本件建物の用地として譲渡することになったので、取引全体の売上総利益が6,400万円程度となるようF社と交渉した。
(B)T及びW
 本件土地の取引に当たって、請求人から本件金額の裏取引を要望されたが、本件金額を本件倉庫の売買代金に含めて取引をすることになった。
C 請求人は、F社に対して本件土地と本件倉庫を一体とする取引を条件としたことにより、F社はこれを了解し、本件建物の価額を170,290,000円とする本件建物売買契約書及び本件土地の価額を296,750,000円とする本件土地売買契約書を作成した旨主張する。
 しかし、本件建物売買契約書の価額は本件建物の売上原価である103,740,000円を上回っており、逆に、本件土地売買契約書の価額は本件土地の売上原価である303,557,000円を下回っていることから、いずれも価額の設定に妥当性があるとは認められない。
D 請求人は、G社がX社に対して本件差額を支払ったとする事実は請求人とF社との契約外の事項であり、関知しない旨主張する。
 しかし、本件差額は、X社が昭和63年12月にF社にあて発行した日付の記載のない、見積金額148,200,000円の見積書(以下「本件甲見積書」という。)に基づき、X社はG社に対して平成元年11月30日付請求書(以下「本件請求書」という。)により工事代金を請求し、G社はこれに基づいて平成元年12月20日にX社に支払ったものである。そして、当該工事は、X社が請求人にあてた昭和63年12月25日付の本件倉庫に係る見積金額170,290,000円の見積書(以下「本件乙見積書」という。)に含まれていたものと認められることから、請求人が関知しないものであるとはいえない。
 なお、G社は、F社との間の本件土地及び建設中の本件倉庫に係る権利義務を引き継ぐ旨の平成元年10月2日付の同意書(以下「本件同意書」という。)により、本件倉庫を取得している。
E 本件工事手付金について、請求人の主張するようにF社が立て替えたものであれば、X社はF社から領収証を回収する必要はない。
F 以上のとおり、請求人は、本件土地の譲渡価額の圧縮を目的として、F社及びX社と共謀し、本件土地の実際の譲渡価額363,300,000円から本件金額を差し引いた金額をもって本件土地売買契約書を作成し、さらに、本件工事請負契約書及び本件建物売買契約書を作成して、本件金額があたかも本件建物の譲渡価額の一部であるかのように仮装したものであって、本件金額は本件土地の譲渡価額の一部と認められるから、本件土地の譲渡価額は、本件土地売買契約書の売買代金296,750,000円に本件金額を加算した363,300,000円である。
(ロ)課税土地譲渡利益金額
 上記(イ)のとおり、本件土地の譲渡価額は363,300,000円となるから、租税特別措置法第63条の2《超短期所有に係る土地の譲渡等があった場合の特別税率》の規定に基づき本件土地の課税土地譲渡利益金額を計算すると、別表2の「更正処分」欄のとおり49,810,744円となる。
ロ 加算税の賦課決定処分について
(イ)重加算税の賦課決定処分
 上記イのとおり、本件更正処分は適法であり、また、請求人は、上記イの(イ)のとおり、本件土地の譲渡価額の圧縮を目的として、F社及びX社と共謀し、本件土地契約書、本件建物売買契約書及び本件請負契約書を作成して、本件土地の譲渡価額の一部である本件金額を本件建物の譲渡価額の一部であるかのように仮装し、これに基づいて当期の法人税額を過少に申告していたものである。請求人が行ったこの行為は、国税通則法第68条《重加算税》第1項に規定する「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当するから、同項の規定に基づき重加算税の賦課決定処分をしたものである。
(ロ)過少申告加算税の賦課決定処分
 上記イのとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の基礎となった事実のうち上記(イ)の重加算税の賦課決定処分の基礎となった事実以外の事実が、更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づき過少申告加算税の賦課決定処分をしたものである。

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3 判断

(1)更正処分について

 本件土地の譲渡価額について争いがあるので、以下審理する。
イ 次のことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ)本件倉庫建築の際の地鎮祭はF社によって執り行われており、かつ、その費用30,000円もF社が負担していること。
(ロ)本件倉庫の建築確認費用52,000円は平成元年4月27日にF社が支出しており、かつ、同年6月21日付の建築確認検査済証の「建築主」欄にはF社と記載されていること。また、平成元年5月16日にP市役所に受理されている倉庫確約書の提出者はF社となっており、そこには「今般、私がP市R町329番地に建設する建物は、倉庫として使用するものであり」と記載されていること。
(ハ)X社は、F社から受領した本件工事手付金に係る領収証をF社に交付したが、後日、この領収証を回収し、新たに名あて人を請求人とする領収証を作成した上、平成元年4月20日に請求人に交付していること。
(ニ)請求人は、本件倉庫の建築に当たり、既に土地の所有者となっていたF社との間で借地権契約及び地上権設定契約は締結しなかったこと。
(ホ)請求人は、X社に対する本件請負金額の支払に当たり、F社からの受領金員を原資としており、借入金その他の自己資金を充てた事実はないこと。
(ヘ)請求人がF社にあて発行した本件土地の譲渡手付金10,000,000円の領収証には、本件メモが添付されていたこと。
(ト)請求人は、当初、本件土地に8棟の分譲建売住宅を建設し、全体で6,400万円(1棟当たり800万円)の利益を得ることを計画していたこと。
ロ 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、本件土地について、国土法第23条第1項の規定に基づく土地に関する所有権の移転をする契約についての届出書を、譲渡人を請求人、譲受人をF社、譲渡金額を296,750,000円(1平方メートル当たり296,500円)として、平成元年2月21日、P市役所開発指導課を通じて○△県知事あてに提出し、平成元年2月23日付で同法第24条第1項の規定に基づく勧告をしないこととする本件不勧告通知を受けたこと。
(ロ)本件土地売買契約書には、次のことが記載されていること。
A 売主は請求人、買主はF社、仲介業者はK社、取引主任者はL
B 売買物件はP市R町329、地目は田、地積は998平方メートル(公募)、1,000.85平方メートル(実測)
C 売買代金は296,750,000円とし、平成元年2月28日に手付金10,000,000円、同年4月20日に所有権移転登記並びに引渡しと引換えに残金286,750,000円を支払う
D 契約年月日は平成元年2月28日
(ハ)本件土地は、土地登記簿によれば平成元年3月22日付で田から雑種地に地目変更された上、平成元年4月10日付で平成元年3月22日の売買を原因としてHらから請求人に、次いで、同年4月21日付で同年4月20日の売買を原因としてF社に、さらに、同年10月27日付で同年10月2日の売買を原因としてG社に、それぞれ所有権移転登記がされていること。
(ニ)LがTにあて提出した昭和63年12月12日付の土地売買交渉の経過報告書には、地主と請求人の交渉が長引き、6週間後に結論が出て、それから、国土法の届出をする旨の記載があること。
(ホ)請求人は、本件土地を平成元年2月22日にHらから295,907,000円で取得し、これにカルバートボックス工事費6,000,000円、登記料他1,650,000円を加算して、本件土地の原価を303,557,000円と経理していたこと。
(ヘ)本件建物売買契約書には、要旨次のことが記載されていること。
A 売主は請求人、買主はF社、仲介業者はK社、取引主任者はL
B 第1条、「売主は、P市R町329番所在土地上の建築する予定の物件目録記載の建物を、売買代金1億7,029万円で売渡し、買主はこれを買い受けた。」
C 第2条、「買主は売主に対し、昭和63年12月28日手付金100万円、昭和64年4月20日中間金6,655万円、昭和64年5月20日中間金3,425万円、(着工時)、昭和64年7月31日中間金3,425万円、昭昭64年9月30日残余金3,424万円、但し、本件物件の完全なる表示登記所有権保存又は移転登記手続並びに引渡しと引換えに支払う。」
D 第3条、「売主は末尾に添付した設計図及び仕様書に基づき、X社に本件建物建築工事を依頼し、建物完成後、買主に引渡す。」
E 第4条、「売主は第2条記載の売買残余代金3,424万円の支払と引換えに本件建物を買主に引渡し、本件建物の所有権は引渡時に売主から買主に移転する。」
F 契約年月日は昭和63年12月28日
(ト)本件倉庫は、建物登記簿によれば、平成2年6月11日付で原因を平成元年11月30日新築として、G社を所有権者とする保存登記がされていること。
(チ)F社が平成元年11月2日にZ事務所に提出した建築基準法第12条第3項の規定に基づく報告書及びその添付書類には、本件倉庫の建築工事の着工日は同年6月22日、完成日は同年10月31日と記載されていること。
(リ)F社は、本件同意書に基づき、建築中の本件倉庫及び権利義務のすべてをG社に譲渡したこと。
(ヌ)本件請負契約書には、「この契約書・民間建設工事標準請負契約約款(Z)と添付の図面、仕様書によって工事契約を結ぶ。」、注文者「請求人」、請負者「X社」、工事名「F社P倉庫新築工事」、請負代金の額「103,740,000円」、支払方法「この契約成立のとき、1,000,000円、部分払として、第1回34,250,000円、第2回34,250,000円、完成引渡のとき、34,240,000円」及び契約日「昭和63年12月28日」と記載されているが、工期については記載がなく、また、検査及び引渡しの時期は「完成の日から10日以内」と記載されているが、完成の日は記載されていないこと。なお、図面及び仕様書は添付された形跡がない。
(ル)G社保管の本件倉庫に係る設計図は、作成年月日が平成元年中のものが複数あることから、本件倉庫は、その売買契約日である昭和63年12月28日現在には完成していなかったものと認められ、また、仕様書と称するものもなかったこと。
(ヲ)平成元年5月30日付でZ事務所に受理された本件倉庫の建築に係る「し尿浄化槽に関する調書」の「建築主住所氏名」欄には、F社と記載されていること。
(ワ)K社が請求人にあて発行した平成元年4月24日付の領収証には、「P市R町329の倉庫1,155平方メートル売買仲介手数料1,941,748円、同上消費税58,252円」と記載されていること。
(カ)本件甲見積書には、その表紙に「見積金額148,200,000円」等の記載とともに「この分の差額、あらためて請求来ます。」等のTの筆跡のメモがあり、工事内訳書(総括書1枚、工事別内訳書54枚)が添付されていること。
 一方、本件乙見積書には、その表紙に「見積金額170,290,000円」等の記載があり、5枚の工事別内訳書が添付されている。
 なお、本件甲見積書及び本件乙見積書の工事別の見積金額並びに本件請求書の工事別の請求金額は別表3のとおりである。
(ヨ)請求人は、本件金額を平成元年4月20日にF社から受領し、これを本件倉庫の売買代金として前受金と経理処理し、本件事業年度の法人税の確定申告において、本件土地の売買代金を296,750,000円として申告したこと。
ハ Tは、当審判所に対し、次のとおり答述している。
(イ)請求人は、本件土地の取引に当たり、当初から坪単価120万円で譲渡する旨を主張していた。しかし、本件不勧告通知書では坪単価が100万円相当となったことから、国土法の規制を守るためには120万円では契約できないこととなったため、その差額20万円をどのようにするかを協議した。
(ロ)その結果、F社が建築する予定であった本件倉庫を請求人が建築し、F社が買い取ることとし、坪当たり20万円に相当する金額を本件倉庫の売買価額に付加することで請求人と合意した。
(ハ)この合意に基づき、私は、L、M、X社の専務取締役a(以下「a」という。)及びb銀行c支店の行員を伴って、dにある請求人の顧問弁護士の事務所に赴き、同事務所で請求人と本件土地売買契約書及び本件建物売買契約書に調印をした。
(ニ)本件建物売買契約書の日付は昭和63年12月28日と記載されているが、これは、昭和63年中に契約が済んでいるものは消費税が課税されないという税務上の取扱いであったので、遡った日付を記載したものである。請求人から本件倉庫を建築するという話が出てきたのは不勧告通知書が届いた平成元年2月23日以後であり、それ以前には、このような話はなかった。
(ホ)F社は、昭和63年12月28日にX社に1,000,000円を支払ったが、これは、消費税対策として、昭和63年中にX社とF社の請負契約を成立させる必要があったため、手付金として支払ったものである。F社は、仮に請負契約が後日正式に成立せず1,000,000円を失ったとしても、翌年に契約して消費税を賦課されることに比べれば経済的に有利と判断したものである。このため、当初の領収証はF社あてになっており、その時点では、請求人が倉庫を建築するという話はまだなかった。その後、請求人が本件倉庫を建築する契約をX社と締結したために、X社が上記1,000,000円を請求人から受け取ったものとして処理してくれたものである。
(ヘ)本件請負契約書の作成には関与していないので、本件請負金額の根拠はわからない。当社の税務調査の際にX社から取り寄せた本件請負契約書によると、本件請負金額は本件甲見積書の金額から設備工事の金額を除いたものではないかと思われる。私が何らかのアドバイスはしたかも知れないが、いつ、どのようなアドバイスをしたかは具体的に覚えていない。
(ト)本件メモは、当社の関係者の筆跡ではない。メモの用紙等から判断してK社の関係者が記載したメモではないかと思われる。また、私は、仲介手数料として本件土地売買契約書の売買価額296,750,000円の3パーセントを支払えばよいと思っていたが、K社は納得せず、実質的な土地の価額を363,300,000円であるとして当該金額の3パーセントに当たる10,899,000円を請求してきたので、交渉の経緯からやむを得ないと判断して、平成元年4月20日に10,899,000円を支払った。
ニ Wは、当審判所に対し、次のとおり答述している。
(イ)本件倉庫は、私とTでラフな図面を作り、それを基にX社に頼んで設計させた。私とaは古くから親密な間柄でお互いに信頼していたので、私は彼に相談しながら工事を仕切って進行させた。
(ロ)本件土地の売買交渉に当たっては、請求人が坪当たり120万円とすることで譲らず、国土法の不勧告価額は坪当たり100万円であることから、この20万円をどうするかで相当協議した。
 この20万円については、Yから冗談ごとのように、裏取引できないかという話があったのは事実であるが、私の方では、Tに相談して、裏で使えるような金もないので断った。その結果、建物の価額に付加することとなり、請求人が本件倉庫を建築してF社が買い取る形にしたものである。
 本件倉庫の工事の際に、本件土地に私道らしき痕跡があったので、請求人が8棟の建売分譲を計画していたのは事実のようである。
(ハ)請求人は、本件倉庫の建築に際し、工事前、工事中、完成後、上棟式、落成式などのいずれにも関知しなかった。私が、aと連絡を取りながら工事全体の指揮を執った。工事の進行状況はすべて私が写真に記録してある。請求人の関係者は契約後一度も顔も見せていない。上棟式も落成式も行ったが、請求人は呼んでいない。落成式では、X社から時計をお祝いにもらったが、請求人からは何も来ていない。
(ニ)本件倉庫の請負代金の支払について、請求人からX社への支払を確実にするため、Tは、F社が発行した手形や小切手を請求人の事務所に持参し、請求人に裏書させて、その場でaに渡したこともあった。
(ホ)本件請求書は、本件倉庫の空調設備のダクトの工事代の請求である。
ホ Lは、当審判所に対し、次のとおり答述している。
(イ)K社の社員として、請求人に本件土地の仲介の交渉に行ったところ、Yが「土地だけでは利益が出ないので、建物付でないと売れない。建物を建築させてくれ。」と要求したため、私はWと交渉し、本件倉庫の建築を請求人が発注することでF社の了解を得た。
(ロ)本件倉庫の建築を請負ったのはG社指定の建設業者である。K社は、本件倉庫についても仲介したことにしているが、請求人からその仲介料をいくらもらったか記憶にない。
(ハ)本件土地売買契約書は、dにある請求人の顧問弁護士の事務所で調印したが、本件建物売買契約書も一緒に調印したかどうか記憶にない。その際、私は、本件土地売買契約書の本件土地の売買代金は、国土法の届出の価額にするよう指導した。
(ニ)本件建物売買契約書の本件倉庫の売買代金は、請求人とWが決めたもので私は関知しなかった。署名押印しただけである。
ヘ Mは、当審判所に対し、次のとおり答述している。
(イ)本件土地売買契約書は、dにある請求人の顧問弁護士の事務所で作成した記憶があるが、T以外は誰が契約に立ち会ったか覚えていない。本件土地売買契約書にはTの指示により押印しただけで、その内容については関知していない。
(ロ)本件倉庫の仕様については、すべてWとaに任せた。X社とは古いつき合いで、メンテナンスなどの支払は継続的にあり、どの支払が本件倉庫のものか等は、私にははっきり分からなかった。G社の経理担当者の作成する支払伝票に従って、小切手や手形を振り出しているだけである。
ト aは、当審判所に対し、次のとおり答述している。
(イ)本件甲見積書には作成日の記載がないが、G社の要請で当初に作成交付したものであり、その後に作成した本件乙見積書が昭和63年12月25日付であることから、同日以前に作成されたものと思われる。
(ロ)本件乙見積書は、G社から請求人あてに作成するよう依頼され、N社を通じて請求人に渡したと思う。本件乙見積書が本件甲見積書と金額が異なるのは、増加工事分があるからだと思う。本件乙見積書に記載された昭和63年12月25日が作成日であるかどうかは分からない。
(ハ)本件請負契約書は、N社から請求人と契約するように依頼されて作成したものである。請求人とは初対面であり不安であったが、私の方は、請負代金の支払が確実に実行されれば誰と契約しても問題はなく、N社との長年の信頼関係から、請負代金はN社が保証してくれるものと信じていた。請負代金は、本件甲見積書の金額から倉庫の設備工事代を除いた金額だと思う。支払方法については、N社の関係者と相談して決めた。契約書類はcのN社のビルで作成したと思うが、そこに請求人の関係者がいたかどうかは覚えていない。
(ニ)本件工事手付金の領収証は、昭和63年12月28日にcの○×ビルでF社から代金を受領した時に交付したものである。
(ホ)平成元年4月20日付の請求人あて名の領収証控えは、上記(ニ)の領収証のあて名を請求人の名義にして欲しいというF社の依頼で請求人に対し発行したものである。
(ヘ)F社が保管する仮領収証のうち、あて名がN社の平成元年6月30日付の額面金額34,250,000円及びあて名のF社の同年11月11日付の額面金額34,250,000円の2枚の仮領収証は、本件倉庫の請負代金を私がF社から直接受領したという証しとして発行し、F社に交付したものである。
(ト)本件倉庫の設計をe事務所に依頼したのは私であるが、その時期ははっきり分からない。
(チ)Yと最初に会ったのは、dの請求人の顧問弁護士の事務所だと思う。そこでどのような契約があったのかは記憶にない。その後、F社からX社に本件倉庫の請負代金の支払があった都度、Tと請求人の事務所に行ったが、それは、F社から請負代金が支払われたことを請求人に確認させるためであった。
(リ)本件倉庫の工事に関しては、請求人は何も言ってこなかった。すべてWと相談して工事を進行し完成させた。
チ Yは、平成8年2月6日から同年8月7日までの間に4回にわたり当審判所に対し、次のとおり答述している。
(イ)平成8年2月6日の答述
A 本件土地の売買の話はK社のLからあったが、K社はF社が依頼した不動産業者であるので、土地の仲介料は支払っていない。しかし、本件倉庫の譲渡については、K社の協力を得たので、この仲介料として2,000,000円を支払っている。
B F社は、土地を捜している段階で既に本件倉庫の青写真を作成していたと思われる。私は、本件倉庫の建築を請求人の取引先であるfに発注するつもりでいたが、F社のたっての要望でX社に発注したものである。本件倉庫の設計・施工はすべてX社が行った。
C 本件建物売買契約書において契約日付を昭和63年12月28日、譲渡目的物を建築予定建物としたのは、F社から依頼されたからである。F社は土地の取得を確実なものにするために建物の契約を急いだものと思われる。この契約内容については、平成元年2月15日にLとF社に出向いてT及びMと合意している。
 本件倉庫の譲渡価額が総体の利益を6,400万円程見込んだ金額であることは問違いない。
D 建築確認申請は、申請者が不動産業者の場合とそうでない場合とでは市当局の監理の仕方の厳しさが違うので、買主に申請させた。業者名義で申請したことにより、側溝の付帯設備まで義務づけられる等コストが高くなった例は数多い。
E 一般に、土地の譲渡を不勧告価額を超えた金額で取引した場合は、その契約自体の効力がなくなるわけではないが、その取引業者は免許が取り消され、罰金が課せられる。
(ロ)平成8年4月10日の答述
A 本件建物売買契約書の売買代金170,290,000円は、当初、本件土地に8棟の建売住宅を建築して販売し、1棟あたり800万円から900万円の利益を見込んでいたことを基礎に計算した本件金額66,550,000円を本件請負契約書の請負代金103,740,000円に加算した金額である。
B 請求人は、本件倉庫の地鎮祭、建築確認並びに落成式及び上棟式は行っていない。しかし、これらを買受人が行う例はよくあることであり、かつ、建売住宅の丸投げ工事のように工務店に金額だけを指示して後は任せる方法も一般にあり得ることである。
 ただし、私は、本件倉庫の工事に関して、私自身が設計図に従ってaに指示し、工事の指揮監督をした。
C 本件建物売買契約書の第3条には、「建物完成後、買主に引き渡す」と記載されているが、その引受けの時期や行為をはっきりと特定できない。しかし、X社に最後の支払を実行した時に引渡しを受け、同時にF社に引き渡したと認識している。
D 本件請負契約書は、昭和63年12月28日のaと請求人の事務所で作成した、その際の立会人は誰もいなかった。
 請負代金は建坪単価で計算した金額である。
(ハ)平成8年6月11日の答述
A 本件請負契約書は、昭和63年12月28日のP市の請求人の事務所でaと作成したが、請負代金はどのように取り決めたか記憶にない。
B 本件土地売買契約書及び本件建物売買契約書は、請求人の顧問弁護士であるdのg法律事務所で調印したものである。調印の日は平成元年2月28日である。本件建物売買契約書については日付をさかのぼって記入した。
 しかし、請求人が本件倉庫を建売りとしてF社に譲渡する話は、本件不勧告通知があった平成元年2月23日以前からあった。
(ニ)平成8年8月7日の答述
A 本件請負契約の請負代金は、本件倉庫の建設予定価額170,290,000円から請求人が本件不動産の取引で見込んでいた利益金額を差し引いた金額とすることでX社が了解してくれたものである。この金額にすることについては、F社からもX社に何らかの働き掛けがあったと思うが、どのようなものかは分からない。
B 本件請負契約書の添付されるべき設計図は確認したが、仕様書と称するものは確認していない。
リ 以上の各事実及び関係人の答述に基づいて判断すると、次のとおりである。
(イ)本件不動産の取引について
 請求人は、本件土地の取引について、国土法の規制により本件不勧告価額を超えて譲渡することができないため、本件倉庫を請求人自らが建築し、その譲渡益で当初予定した利益相当額を得るようF社と本件不動産の取引をしたものであり、このような取引方法は他の不動産業者でも通常行われていることで、不自然さはなく、また、本件請負契約書、本件建物売買契約書及び本件土地売買契約書は、この取引を明らかにする証拠として真正唯一のものである旨主張する。
 そこで、本件請負契約書、本件建物売買契約書及び本件土地売買契約書等について検討したところ、次のとおりである。
A 本件請負契約書
(A)本件請負契約書の内容は、上記ロの(ヌ)のとおりであるところ、(1)本件請負契約書の作成日、場所及び同席した者について、契約当事者であるaとYの答述が一致していないこと、(2)本件請負金額について、Yは、当審判所に対し、平成8年4月10日の答述では本件倉庫の建坪単価で積算したとし、同年6月11日の答述ではどのように決めたか記憶がないとし、さらに同年8月7日の答述では本件不動産の取引で請求人が見込んだ利益相当額を差し引くことをX社に了解してもらった金額であると答述を変えているが、その主張を裏付ける証拠資料は当審判所に提出されておらず、一方、aは、当審判所に対し、本件甲見積書の金額から本件請求書の金額を除いた金額であると答述しているところ、当審判所が調査した証拠資料によっても、同人のこの答述には信ぴょう性が認められること、(3)本件請負契約書に添付されたとする設計図及び仕様書のうち、当該仕様書は存在しておらず、また、当審判所の調査によっても、請求人は、請負工事の内容について、本件倉庫の仕様についてF社及びX社と協議した形跡が認められないこと、(4)検査引渡しの時期は完成から10日以内と記載されているが、請求人が完成時に検査してX社から引渡しを受けた事実は認められないこと等、本件請負契約書の記載事項のすべてが履行されたとする事実がなく、その記載事項についても不明確な点が多いことから、請求人とX社との間で本件請負契約書の記載事項どおりの契約が実行されたとは、にわかには信用し難い。
(B)本件請負契約書の請負代金の決済について、請求人は、回収した売掛金で請負代金を支払うのは経営的に合理的な資金繰りをしたものであると主張する。
 しかし、a、T及びWの各答述を総合すると、aは代金を直接受領したF社に対しては仮領収証と題する書面を作成交付し、請求人に対しても別途請求人あての領収証を作成交付したものと認められ、また、X社は、請求人から当該請負代金の集金を委任されていたとする事実も認められないことからすれば、このような決済方法は、たとえ請負人が主張するような不動産業者が一般的に行う丸投げ工事にあっても、通常あり得ない不自然な決済方法であり、本件倉庫の建設工事は、実質的にはF社を発注者として、X社が請負ったとみるのが相当である。
(C)また、本件倉庫の建設工事に関して、上記イの(イ)及び(ロ)の各事実並びにニの(ハ)及びトの(リ)の関係人の答述から、請求人は、工事の進行管理や関係諸官庁への事務手続などの事実行為を一切行っていないことが認められ、発注者としての危険と責任を負っていた客観的事実も認められない。請求人は、この点について諸官庁への手続をF社の名義にしたのは、不動産業者である請求人の場合より建築費が節約できることなどを考慮したためで、他の建築条件付の宅地譲渡でも行われていることである旨主張するが、そのような説明をF社に対してなされた事実はなく、また、諸官庁へ手続及び設計から完成までの一切の進行管理もF社の独自の判断で行っていたことが認められる。
(D)X社は、F社に対しては本件甲見積書を、請求人に対しては本件乙見積書を作成しているが、上記ロの(カ)のとおり、本件甲見積書はその積算根拠が細部にわたって記載されているのに対し、本件乙見積書にはほとんどその記載がないことが認められる。
 また、本件甲見積書の表紙に記載されている上記ロの(カ)のTのメモによれば、F社は、X社に対して同見積書の見積金額148,200,000円と本件請負契約書に記載された請負金額103,740,000円との差額に相当する本件差額44,250,000円を支払っていることから、F社とX社は本件倉庫の建設代金を本件甲見積書により合意していたことが推認される。
 そうすると、本件乙積書は、その見積金額が本件売買契約書の契約金額と同額であることから、本件売買契約書の契約金額に合わせて便宜上作成されたものにすぎないことが認められ、また、同見積書からはX社がF社から本件差額の金額を受領した理由も説明できないことから、本件請負金額が本件乙見積書を基に決定されたとする請求人の主張には理由がない。
(E)以上のことから、F社がX社に対し、本件甲見積書の見積金額148,200,000円により発注し、X社は、本件甲見積書に基づき工事を行い、F社から請負代金の支払を受けたものと認められるから、本件請負契約書は形式的に作成された実体のないものであると認められる。
B 本件建物売買契約書
 上記Aのとおり、本件請負契約書は形式的に作成されたもので実体がなく、実質的には、本件倉庫の請負契約がF社とX社の間で行われたと認められ、したがって、本件請負契約書の有効な存在を前提とする本件建物売買契約書の実体もあり得ない。
 そうすると、本件建物売買契約書の記載事項にあっても、請求人が主張する事実と異ならない真正唯一のものであるということにはならないから、本件建物売買契約書は、本件土地の売買金額の一部を本件倉庫の工事代金に仮託するために形式的に作成されたとみるのが相当である。
 また、本件建物売買契約書は、(1)具体的に作成及び調印がいつどこでどのように行われたか等についてF社の関係者に記憶がないほど契約締結の事実自体が不確実であること、(2)売買代金の根拠が明らかにされていないこと、(3)本件倉庫の仕様が物件目録に記載された程度では特定できないこと、(4)本件倉庫を請求人がF社に引き渡したとする証拠もないこと等から、その記載事項についても実体が認められない。
C 本件土地売買契約書
 本件土地売買契約書は、請求人とF社及びその関係者の間で協議され、その記載事項について合意がなされ作成されたことが認められる。
 しかし、本件土地売買契約書の作成に立ち会ったT、W及びLの各関係者は、当審判所に対し、「請求人は、本件土地の譲渡金額を本件不勧告価額を超えない金額とすると請求人は利益がでないから、F社に対し本件倉庫の建設の請負を要求した。」と答述しており、請求人は、本件土地の売買代金の金額を本件土地売買契約書の記載金額とするとともに、本件倉庫の売買で当初見込んでいた利益を確保することで合意したことがうかがわれる。
 そうすると、上記Bのとおり、本件建物売買契約書は、本件土地の売買金額の一部を仮託するために形式的に作成されたものと認められるところ、請求人は、本件建物売買契約書の作成を条件として、本件土地売買契約書の作成に応じたものと推認される。
 したがって、本件土地売買契約書は真正唯一のものであり、売買金額は同契約書に記載されたものであるから、真正であることが証明される旨の請求人の主張は、にわかに信用し難い。
(ロ)本件仲介手数料について
 請求人は、K社に支払った本件仲介手数料は、本件倉庫と本件土地の両売買物件に係る仲介報酬であり、本件メモに記載された「手ス10,899,000円」は、平成元年までに請求人がF社から集金した合計額363,300,000円に3パーセントを乗じた金額である旨主張する。
 しかしながら、(1)請求人は、当審判所に対して、本件不動産の売買代金のうちの平成元年4月20日までの集金額に基づいて本件仲介手数料の金額が算定されたとする理由及び根拠を明確に説明しないこと、(2)Tは、上記ハの(ト)のとおり、本件土地の仲介料として本件土地売買契約書の売買金額の3パーセントを支払えばよいと思っていたが、K社の請求により、363,300,000円の3パーセントである10,899,000円を支払った旨答述していること、(3)この金額は本件メモに記載された「手ス10,899,000円」と同額であり、本件メモは、本件土地の手付金に係る領収証とともにF社に対し渡されたものであることから、本件仲介手数料は本件土地の仲介手数料と認められるので、この点に関する請求人の主張は採用できない。
 なお、請求人は、本件倉庫の仲介料として2,000,000円をK社に支払ったと主張するが、上記ホの(ニ)のとおり、Lは当審判所に対し、K社は本件建物売買契約書には署名押印したが、契約内容には関知しなかった旨答述しており、K社が実際に仲介行為を行ったことを認めるに足りる証拠にはなり得ないから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(ハ)本件土地の譲渡価額について
 一般に、土地の売買価額は、実測地積(実測のない場合は公簿地積)の平方メートルを坪数に換算し、その坪数に1坪当たりの単価を乗じて決定されるのが通例である。
 本件土地の売買価額の決定においても、Tが、「請求人は、当初から坪単価120万円で譲渡することを条件としたことから、国土法の規制を守るための方策を協議した。」と答述し、Wも同様の答述をしていることから、本件土地を1坪当たり120万円の単価で売買することで合意されていたことがうかがわれる。
 また、地積は、本件土地売買契約書の物件目録に「地積998平方メートル(公簿)1,000.85平方メートル(実測)」と記載され、本件メモに「1,000.85(302.75坪)」と記載されていることから、実測地積により売買がなされたと認められるところ、実測の1,000.85平方メートルを一般に認められている坪数換算係数3.30578で除して坪数に換算すると302.755942坪となるから、この坪数から小数点以下三位の数を切り捨てた302.75坪の地積により取引がなされたと認められる。
 以上の事実及び答述を考え併せると、上記1坪当たりの単価120万円に本件土地の地積302.75坪を乗じて売買価額を算出すると363,300,000円となり、この金額は本件メモに記載された金額と同額となることから、請求人は本件土地を当該金額でF社に譲渡したものと認められる。
(ニ)営業方針について
 請求人は、土地のみの販売は行わないことを営業方針としているから、本件土地のみの販売はあり得ないと主張するが、取引が土地の譲渡であるか建物付の譲渡であるかは、個々の取引の実態に基づいて判断すべきものであり、単に請求人の営業方針をもって本件倉庫の譲渡があったと認めることはできないから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
ヌ 以上審理したところによれば、本件金額は本件土地の譲渡価額の一部と認められるから、原処分庁が本件金額を本件土地売買契約書の売買代金に加算して土地の譲渡益を算定したことは相当であり、また、租税特別措置法第63条の2に定める課税土地譲渡利益金額の算定も適正になされていると認められ、その他原処分における所得金額及び税額の計算にも誤りはない。
 したがって、本件更正処分は適法であり、請求人の主張はいずれも採用することはできない。

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(2)加算税の賦課決定処分について

イ 重加算税の賦課決定処分
 上記(1)のリのとおり、請求人はF社に対し本件土地を363,300,000円で譲渡したにもかかわらず、国土法の規制を免れるために、真実の価額を隠ぺいし、本件土地の譲渡価額を296,750,000円に圧縮して本件土地売買契約書を作成し、これを仮託するために実体のない本件建物売買契約書及び本件請負契約書を作成したものと認められるところ、請求人はこれを奇貨として、本件土地売買契約書に基づき、真実の取引を反映させずに、請求人の納付すべき税額を過少に記載した法人税の確定申告書を提出したものである。このことは、国税通則法第68条第1項に規定する「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当するから、原処分庁が同項の規定を適用して重加算税の賦課決定処分をしたことは適法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分
 上記(1)のとおり更正処分は適法であり、また、更正処分により納付すべき税額の基礎となった事実のうち上記イの重加算税の賦課決定処分の基礎となった事実以外の事実が、更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてされた過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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